平成3年版

原 子 力 白 書
     
平成3年10月

原子力委員会
 

平成3年 原子力年報の公表に当たって

 エネルギー資源に乏しく,今後ともエネルギー需要の着実な増大が見込まれる我が国においては,将来にわたってエネルギーの安定供給を確保することは重要な課題です。このため,供給安定性等に優れる原子力を主要なエネルギー源の一つと位置付け,その開発利用を積極的に推進してきました。この間,公衆の健康に影響を与えるような事故を起こしたことは一度もなく,現在では総発電電力量の約27%を賄うまでに至っております。
 最近のエネルギーをめぐる情勢は激変していますが,先の湾岸危機に関しては,過去の石油危機の教訓等から大きな経済的混乱はなかったものの,現在でも我が国は一次エネルギーの約6割を石油に依存しており,石油代替エネルギーの重要性が改めて認識される結果となりました。湾岸危機はまた,核兵器の拡散の懸念を世界に呼び起こし,核不拡散体制のより一層の強化の重要性を認識させております。さらに,世界的に大きくクローズアップされている地球温暖化,酸性雨等の地球環境問題に関しても,エネルギー政策の面からその解決に貢献すべく,原子力を始めとする非化石エネルギーへの依存度の一層の向上が重要となってきております。
 このような情勢変化をも踏まえ,我が国としては,引き続き原子力を主要なエネルギー源の一つとして,その開発利用を着実に推進していくこととしております。
 他方,原子力については,1986年のチェルノブイル原子力発電所事故等を契機として,国民各層が原子力に対する不安を感じるようになっており,その開発利用を進めるに当たっては,安全の確保に引き続き万全を期すとともに,国民の理解と協力の増進に一層努力することが必要です。
 このため,本年報においては,内外のエネルギー,原子力をめぐる情勢変化を概観した上で,我が国における原子力開発利用の位置付けについて整理するとともに,国民の理解と協力の増進など今後の課題について取りまとめています。また,医療・農業・工業等の分野で着実に進展している放射線利用について詳しく紹介するとともに,この一年間における我が国の原子力開発利用の進展状況について記述しました。
 本年報が広く国民各位の原子力開発利用に関する理解を深めるために役立てば幸いです。


平成3年10月25日

国 務 大 臣
科学技術庁長官 山東 昭子
原子力委員会委員長
 

 
目   次

第I部 総  論
 
 はじめに
 
第1章 原子力に期待される役割と国民の理解と協力の増進
 
1.原子力をめぐる内外の情勢変化
   (1)最近の原子力を取り巻く世界の情勢
   (2)我が国の原子力発電をめぐる状況
   (3)原子力発電の各国(地域)の状況
   (4)核兵器の不拡散をめぐる最近の動向
2.原子力開発利用の位置付けと国民の理解と協力
   (1)我が国における原子力開発利用の位置付け
   (2)安全の確保と国民の理解と協力の増進
 
第2章 我が国における原子力開発利用の現状
 
1.我が国における原子力発電の現状
   (1)軽水炉等による原子力発電の動向
   (2)核燃料サイクルの確立
   (3)プルトニウム利用への展開
2.放射線利用の現状と今後の展望
   (1)私たちを取り巻く放射線
   (2)放射線利用の現状
   (3)放射線利用の安全確保
   (4)放射線利用分野における国際協力
   (5)これからの放射線利用
3.原子力研究開発の推進
   (1)核融合開発の推進
   (2)高温工学試験研究
   (3)原子力船
   (4)基礎研究及び基盤技術開発
   (5)新しい型の原子炉の研究
4.国際社会への主体的貢献
   (1)国際協力の推進
   (2)核兵器の不拡散の強化と我が国の役割
 
第II部 各  論
 
第1章 原子力発電
 
1.原子力発電開発の状況
2.原子力発電所の運転状況
   (1)設備利用率
   (2)故障・トラブル等
3.原子力発電所の立地関連状況
   (1)原子力発電所の立地をとりまく状況
   (2)原子力発電所等の立地促進
   (3)公開ヒアリング
4.軽水炉技術の向上
   (1)軽水炉の改良標準化
   (2)軽水炉の高度化
5.原子炉の廃止措置
(参考)諸外国(地域)の動向
 
第2章 核燃料サイクル
 
1.ウラン資源
   (1)世界のウラン資源量と日本の必要量
   (2)ウラン資源の調査探鉱
   (3)製錬・転換技術の開発
2.ウラン濃縮
   (1)ウラン濃縮需給バランス
   (2)ウラン濃縮の技術開発
   (3)商業プラントの建設
3.核燃料再転換・成型加工
   (1)軽水炉用核燃料再転換・成型加工
   (2)研究炉用核燃料成型加工
4.使用済燃料の再処理
   (1)東海再処理工場
   (2)民間再処理工場
   (3)海外再処理委託
   (4)技術開発
5.プルトニウム利用
   (1)軽水炉によるプルトニウム利用
   (2)プルトニウム燃料の加工
   (3)高速増殖炉燃料再処理技術開発
6.核燃料物質の輸送
7.放射性廃棄物の処理処分対策
   (1)放射性廃棄物処理処分の現状
   (2)放射性廃棄物処理処分の研究開発
8.核燃料サイクル関連施設の立地
(参考)諸外国の動向
   (1)ウラン濃縮
   (2)再処理
   (3)高速炉燃料再処理
   (4)放射性廃棄物処理処分
 
第3章 安全の確保及び環境保全
 
1.原子炉施設等の安全確保
   (1)原子炉施設の安全確保
   (2)核燃料施設等の安全確保
   (3)放射性同位元素等の取扱いに係る安全確保
2.原子力の安全研究
   (1)原子力施設等の安全研究
   (2)環境放射能の安全研究
   (3)放射性廃棄物処分の安全研究
3.原子力施設等の安全性実証試験等
   (1)配管信頼性実証試験
   (2)大型再冠水効果実証試験
   (3)再処理施設耐食安全性実証試験
   (4)再処理施設換気設備安全性実証試験
   (5)再処理施設臨界安全性実証試験
   (6)ガラス固化体閉じ込め安全性実証試験
   (7)再処理施設耐震安全性実証試験
   (8)再処理施設抽出工程安全性実証試験
   (9)再処理施設プロセス機器安全性実証試験
   (10)再処理施設安全性実証解析等
   (11)新型動力炉原型炉機器等寿命信頼性等実証試験
   (12)研究開発段階原子炉施設安全性実証解析等
   (13)放射性廃棄物輸送容器等安全性実証試験
   (14)燃料集合体信頼性実証試験
   (15)溶接部等熱影響部信頼性実証試験
   (16)原子力発電施設耐震信頼性実証試験
   (17)電気計装品信頼性実証試験
   (18)実用原子力発電施設安全性実証解析等
4.環境放射能調査
   (1)自然放射線の調査
   (2)原子力施設周辺の放射能調査
   (3)核爆発実験等に伴う放射性降下物の放射能調査
   (4)米国原子力軍艦の寄港に伴う放射能調査
   (5)放射能測定マニュアルの整備
5.温排水に関する調査研究
 
第4章 新型動力炉の開発
 
1.高速増殖炉
   (1)実験炉の運転
   (2)原型炉の建設
   (3)実証炉の開発
2.新型転換炉
   (1)原型炉の運転状況
   (2)実証炉の開発
(参考)諸外国の動向
   高速増殖炉
 
第5章 核融合,原子力船及び高温工学試験研究
 
1.核融合
   (1)総論
   (2)研究開発の現状
   (3)国際協力
2.原子力船
   (1)原子力船「むつ」による研究開発
   (2)その他の研究開発
3.高温工学試験研究
   (1)研究開発
   (2)国際協力
(参考)諸外国の動向
   (1)核融合
   (2)原子力船
   (3)高温ガス炉
 
第6章 放射線利用
 
1.放射線利用の動向
2.農林水産業への利用
   (1)食品照射
   (2)害虫防除
   (3)品種改良
3.工業への利用
   (1)測定・分析
   (2)高分子材料の合成・改質
   (3)医療用具の滅菌
4.医療への利用
   (1)診断
   (2)治療
5.放射線利用に係る研究開発
 
第7章 基礎・基盤研究等
 
1.基礎研究の動向
   (1)日本原子力研究所における基礎研究
   (2)放射線医学総合研究所における基礎研究
   (3)理化学研究所における基礎研究
2.基盤技術開発
   (1)原子力用材料技術
   (2)原子力用人工知能技術
   (3)原子力用レーザー技術
   (4)放射線リスク評価・低減化技術
3.国立試験研究機関における原子力試験研究
 
第8章 国際協力活動
 
1.先進国との国際協力
   (1)二国間協力
   (2)多国間協力
   (3)国際機関との協力
2.開発途上国等との国際協力
   (1)IAEA/RCA
   (2)日韓原子力協力取極の締結
   (3)日ソ原子力協力協定の締結
   (4)開発途上国協力の展開
   (参考)第2回アジア地域原子力協力国際会議の結果について
3.国際交流
   (1)原子力委員会招へい
   (2)開発途上国原子力関係者招へい
   (3)海外原子力関係者の来訪
 
第9章 核不拡散
 
1.核不拡散に関する我が国をめぐる二国間の動向
   (1)日仏原子力協力協定改正について
   (2)新日米原子力協定
(参考)原子力の平和利用に関する協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定等の骨子
2.核不拡散に関する国際的協議
   (1)NPT再検討会議と原子力平和利用国連会議
   (2)原子力資材の輸出に関するガイドライン(ロンドンガイドライン)
   (3)国際核燃料サイクル評価(INFCE)後の諸問題
3.保障措置
   (1)我が国における効率的な保障措置体制
   (2)保障措置の実施状況
   (3)保障措置技術に関する研究開発と国際協力
4.核物質防護
   (1)核物質防護をめぐる国際的動向
   (2)我が国における核物質防護
 
第10章 原子力産業
 
1.原子力発電関連機器産業
2.核燃料サイクル関連事業
   (1)核燃料再転換・成型加工事業
   (2)ウラン濃縮・再処理等の核燃料サイクル関連事業
3.RI・放射線機器産業
 
第III部 資  料
 
1.原子力委員会,原子力安全委員会及び原子力関係行政組織
   (1)原子力委員会
   (2)原子力安全委員会
   (3)原子力関係行政組織
2.原子力委員会の決定等
   (1)原子力委員会決定一覧(原子炉等規制法に係る諮問・答申を除く)
   (2)平成3年度原子力開発利用基本計画
   (3)原子炉等規制法に係る諮問・答申について
   (4)専門部会等報告書
3.原子力関係予算
   (1)1991年度原子力関係予算総表
   (2)1991年度原子力関係予算(一般会計)〔科学技術庁〕
   (3)1991年度各省庁(科学技術庁を除く)一般会計原子力関係予算総表
   (4)1991年度電源開発促進対策特別会計
   (5)1991年度原子力関係予算重要事項別総表
4.その他
   (1)国際原子力機関主催主要国際会議,シンポジウム一覧
   (2)我が国の原子力発電所の現状
   (3)我が国の原子力発電所の時間稼働率及び設備利用率
   (4)各国のエネルギー計画
   (5)各国の原子力発電所の設備利用率(過去10年)
   (6)我が国における核燃料物資保有量一覧表
   (7)原子力研究開発利用年表
   (8)国際チェルノブイル計画概要(抜粋)