第2章 我が国における原子力開発利用の現状
2.放射線利用の現状と今後の展望

(1)私たちを取り巻く放射線

 自然界には放射線が存在し,私たち人類を含め生物は古来からその中で暮らしてきた。また,現在,人類は人工的に放射線を作り出して有効に利用している。

①放射線の種類と性質
 放射線には,図11に示すとおり,さまざまな種類がある。放射線は,宇宙線やウラン238等の天然に存在する放射性同位元素の原子核から放出されるもの,原子炉や加速器を用いて人工的に作られた原子核から放出されるもの,陽子,電子,各種のイオンを電気的に加速して作られるものなど多様である。放射線は,それが人工的に作られたものか天然に存在するものかによらず,種類とエネルギーが同じであれば,本質的に同一のものである。
 放射線を物質に照射すると,放射線は物質を構成する原子,分子等に何らかの変化を与え,逆に物質は放射線のエネルギーや進行方向などを変える。この現象を放射線と物質の相互作用という。
 例えば,放射線は,物質中の原子,分子が持つ電子を励起,電離し,さまざまな現象を引き起こす。これを利用して,材料改質等に役立てられている。一方,放射線が物質を透過する性質を利用して,物質の厚みの計測や,非破壊検査等に広く用いられている。その他,放射線が,照射された物質の内部で散乱される性質を利用して,物質の結晶構造などの決定にも利用されている。

②身の回りの放射線
 自然界には,炭素14,カリウム401ウラン238,ラドン222,ラジウム226等多数の放射性同位元素が存在している。例えば,カリウム40はβ線,γ線を放出する核種であり,海中,土中の他,植物の生体内,食品,人体にも存在する。また,ラドン222はα線,γ線を放出する核種であり,土中,空気中等に存在する。さらに,太陽等を起源として宇宙空間から高速の陽子等の放射線が飛来しており,これは宇宙線と呼ばれている。
 自然放射線を受ける量は,1988年,国連科学委員会報告によれば,空気中のラドン等による被ばくを考慮すると,一般人の世界平均で一出典:放射線医学総合研究所調べ 1988年年間に2.4ミリシーベルト(mSv)である。この他にも,医療放射線量,大気核実験等による放射性降下物等を合計すると,一般人の世界平均で一年間に受ける放射線の量は約2.8~3.4ミリシーベルトと試算されている。なお,自然放射線を受ける量は地域によって異なっており,日本国内では,花崗岩地帯の多い関西地方が高く,関東地方は低いという傾向がある。

 1895年にレントゲンがX線を発見して以来,X線は,医療分野でレントゲン検査等の診断で広く用いられるようになっている。この他にも,γ線,電子線等の放射線は工業分野,農業分野等の多彩な分野で有効に利用されている。
 このように,私たちは自然の放射線に囲まれて生活しており,また,放射線を積極的に利用することは,国民生活の向上,経済の発展に役立てられている。


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