第2章 我が国における原子力開発利用の現状
1.我が国における原子力発電の現状

(3)プルトニウム利用への展開

 我が国においては,ウラン資源の有効利用を図り,エネルギーの安定供給を確保するなどのため,使用済燃料の再処理により得られるプルトニウムの利用体系の確立が重要である。その際,ウラン資源の利用効率が圧倒的に優れている高速増殖炉の利用を基本とするが,当面は,軽水炉及び新型転換炉において一定規模でのプルトニウム利用を進めることとしている。
 原子力委員会は,我が国におけるプルトニウム利用が本格化しつつあることを踏まえ,1989年5月「核燃料リサイクル専門部会」を設置して,軽水炉でのプルトニウム利用の進め方,ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の加工体制の整備,海外からのプルトニウム返還輸送の進め方等について検討を開始した。同専門部会は,1989年12月に「プルトニウム返還輸送の当面の進め方について」を取りまとめ,1991年8月には,2010年頃までを見通した長期的視野から核燃料リサイクルの具体的方策を提示した「我が国における核燃料リサイクルについて」を取りまとめた。
 「我が国における核燃料リサイクルについて」においては,まず,プルトニウムの利用面について,ウラン資源の利用効率が高いなどの特徴を有する高速炉(FBR)を,我が国のプルトニウム利用の基本と位置付けており,今後とも,その実用化を目指すとしている。また,我が国の原子力発電計画において,当面主流である軽水炉においてプルトニウム利用を進めることとし,それによって,エネルギー供給面* 超ウラン元素,ウランより原子番号の大きい元素の総称で一定の役割を果たすとともに,あわせて,FBRの実用化に向けて,実用規模の核燃料リサイクルに必要な技術,体制等を整備していくことが必要であるとしている。さらに,リサイクル体系の柔軟性を高める観点から,核燃料利用の面で融通性に富む新型転換炉(ATR)において,その特徴を活かしつつ,プルトニウムの利用を進めることが適当であるとしている。

①軽水炉におけるプルトニウム利用及び新型転換炉
 我が国における軽水炉によるプルトニウム利用(プルサーマル)は,電気事業者を中心に進められており,現在,MOX燃料少数体規模実証計画が進められている。これに続いて,最初の利用計画として,1990年代央に,80万キロワット級以上のBWR,PWRそれぞれ1基において,その4分の1炉心相当分をMOX燃料を装荷する方法を採用することとされている。これに続いて,3分の1炉心相当分のMOX燃料とする100万キロワット級軽水炉に換算して,1990年代末には4基程度,2000年過ぎには12基程度の規模にまで段階的かつ計画的に拡大し,リサイクル利用を行えるよう準備を進めることとしている。
 新型転換炉(ATR)の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団において進められてきており,現在,原型炉「ふげん」(電気出力16万5千キロワット)が順調に運転されている。
 また,これに続く実証炉については,電源開発(株)が2000年の運転開始を目指して,青森県大間町において,電気出力60万6千キロワットのATR建設のための準備を進めている。

②高速増殖炉
 高速増殖炉(FBR)は,発電しながら消費した以上の核燃料を生成する画期的な原子炉であり,将来の原子力発電の主流にすべきものとして開発が進められている。高速増殖炉の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められてきており,既に実験炉「常陽」(熱出力10万キロワット)が,現在まで順調に運転され,原型炉等の開発に必要な技術データや運転経験を着実に蓄積してきた。また,同事業団では民間の協力を得て,福井県敦賀市に原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)の建設を進めており,1991年4月に機器の据え付けを完了し,1992年の臨界を目途に,総合機能試験を行っている。
 実証炉については,1990年代後半に着工することを目標に,日本原子力発電(株)を中心に,実証炉関係の研究開発,基本仕様の選定等を行うこととしている。1990年6月,電気事業者は,当面トップエントリー方式ループ型炉の技術的成立性の確認を主たる目的とした,実証炉の予備的概念設計研究を進めていくことを決定した。現在,日本原子力発電(株)において,1992年3月の完了を目指して進められている。なお,動力炉・核燃料開発事業団と日本原子力発電(株)の間で,実証炉の開発をより円滑,効率的に進めることを目的に,1989年3月,「高速増殖実証炉の研究開発に関する技術協力基本協定」が締結され,具体的協力を進めている。

③高速増殖炉使用済燃料の再処理
 高速増殖炉に不可欠な再処理技術については,動力炉・核燃料開発事業団において,実規模モックアップ試験,高レベル放射性物質研究施設における基礎的データの蓄積等が図られている。今後の研究開発は,高速増殖炉の開発と整合性を図りつつ行うこととしており,ホット工学試験施設における試験を経て,2000年過ぎの運転開始を目途にパイロットプラントを建設することとしている。

④MOX燃料加工
 プルトニウム利用体系を確立するためには,多量のプルトニウムの安全な取扱技術を含めて所要の研究開発を進め,MOX燃料加工の実用化を図る必要がある。
 MOX燃料加工については,原子燃料公社(現動力炉・核燃料開発事業団)が1966年にMOX燃料製造の技術開発に着手して以来,動力炉・核燃料開発事業団が行ってきている。1991年3月末現在,累積製造実績は107トンMOXを達成している。現在,新型転換炉実証炉用燃料製造施設(40トンMOX/年)の建設計画が進められている。
 また,軽水炉用MOX燃料加工の国内事業化の推進のためには,国内における技術の実証を図るとともに,動力炉・核燃料開発事業団の有するMOX燃料加工技術の民間事業者への円滑な移転を行う必要がある。そのため,動力炉・核燃料開発事業団の施設活用等について,早急に検討を進める必要がある。
 なお,海外再処理により回収されるプルトニウムについては,一定期間の間,適切な量について,海外でMOX燃料加工を行うことが適当であり,そのための検討を進めることが必要である。

⑤プルトニウムの輸送
 海外再処理によって回収したプルトニウムの国際輸送については,関係機関の緊密な連携の下に輸送体制の整備を図ることとしている。
 1988年7月に発効した新日米原子力協定では,一定のガイドラインに従う航空輸送に対し,包括同意が得られ,その後の日米両国の交渉を経て,同年10月には,一定のガイドラインに従う海上輸送についても包括同意の対象となることとなった。
 その後,1989年12月の原子力委員会核燃料リサイクル専門部会で,当面の国際輸送は海上輸送で行うこと,1992年秋頃までには輸送を実施すること等を内容とした報告書を取りまとめた。
 現在,海上輸送の円滑な実施に向け,実施主体である動力炉・核燃料開発事業団が中心となって具体的な輸送計画の作成を進めるとともに,護衛のための巡視船の建造を海上保安庁において進めるなど,関係機関が協力して準備を行っている。


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