第2章 我が国における原子力開発利用の現状
1.我が国における原子力発電の現状

(2)核燃料サイクルの確立

①核燃料サイクル事業化の進展
 我が国の核燃料サイクルの研究開発については,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所を中心として進められてきたが,このうち,核燃料の再転換・成型加工については,既に民間における事業化が行われており,多くの実績を積み重ねている。また,ウラン濃縮,軽水炉使用済燃料再処理,低レベル放射性廃棄物埋設等についても事業化の段階を迎え,日本原燃産業(株)及び日本原燃サービス(株)が,青森県六ヶ所村において核燃料サイクル施設計画を進めている。
 ウラン濃縮施設については,日本原燃産業(株)が,1988年8月の事業許可を受けて,1991年度の操業開始に向けて建設を進めている。低レベル放射性廃棄物埋設施設については,日本原燃産業(株)が1988年4月,廃棄物埋設事業許可申請を提出し,1990年2月科学技術庁における安全審査が終了し,引き続き原子力委員会及び原子力安全委員会によるダブルチェックを経て,同年11月,日本原燃産業(株)に対し廃棄物埋設事業が許可され,着工した。使用済燃料の再処理施設については,日本原燃サービス(株)が1989年3月に再処理事業指定申請を提出し,1991年8月には,科学技術庁における安全審査が終了し,引き続き原子力委員会及び原子力安全委員会によるダブルチェックが開始された。また,海外から返還される高レベル放射性廃棄物の貯蔵については,六ヶ所村の再処理工場の敷地内での貯蔵を計画している日本原燃サービス(株)が,1989年3月,廃棄物管理事業許可申請を提出し,1991年5月には,科学技術庁における安全審査が終了し,引き続き原子力委員会及び原子力安全委員会によるダブルチェックが開始された。

②ウラン濃縮
 我が国におけるウラン濃縮の国産化については,動力炉・核燃料開発事業団が中心となってその研究開発を進めてきた。同事業団は,岡山県人形峠において1979年9月以来,パイロットプラントの運転を続けてきたが,1990年3月に当初の目的を達成したため運転を終了した。パイロットプラントに続いて,同事業団は原型プラントの建設を進め,1988年4月には第一期分が,1989年5月には第二期分が操業を開始し,合計200トンSWU*/年の能力を有するプラントが完成した。日本原燃産業(株)は,この成果に基づき,1988年8月の事業許可を受け,同年10月,青森県六ヶ所村に商業プラントの建設を開始し,1991年度に操業開始を予定しており,その後,逐次増設し,最終的には濃縮能力1,500トンSWU/年の規模とする計画となっている。
 動力炉・核燃料開発事業団は新素材高性能遠心機の研究開発に関して,1989年5月の原子力委員会ウラン濃縮懇談会の報告書を受けて,民間との協力により実用規模カスケード試験装置を建設・運転することとしている。
 一方,ウラン濃縮に関する新技術としては,レーザー法の研究開発が進められている。その他,化学法についても,開発が進められてきた。
 このうち,レーザー法については,日本原子力研究所及びレーザー濃縮技術研究組合が原子レーザー法の研究開発を進めており,同研究組合は,日本原子力研究所東海研究所構内において,1989年6月から実験機の建設を進めていたが,1990年5月完成し,各種の試験を行っている。
 また,動力炉・核燃料開発事業団及び理化学研究所は,分子レーザー法の研究開発を進めており,同事業団は,1990年11月に東海事業所構内において分子レーザー法ウラン濃縮工学実証試験装置を完成させた。
 このような新技術の研究開発の進展を踏まえ,原子力委員会はウラン濃縮懇談会において,新技術に係る評価検討及びその関連における遠心分離法に関する調査審議を行い,ウラン濃縮の長期的進め方等について総合的な調査審議を行うことを,1991年7月に決定した。


*SWUは,分離作業単位(Separative Work Unit)SWUは,天然ウランを濃縮する際に,必要とする濃縮度の濃縮ウランを得るための仕事量を表す基本単位である。ウラン濃縮度を高めるほど,また,廃棄濃度を低くするほど,SWUは大きくなる。例えば,約0.7%の天然ウランから3%の濃縮ウランを1トン生産するためには,4.306トンSWUの分離作業量が必要である。

③軽氷炉使用済燃料再処理
 軽水炉使用済燃料の再処理技術の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心として行われてきた。同事業団の東海再処理工場は,1977年9月にホット試験を開始し,初期のトラブルを克服して,最近では順調に操業を継続しており,1990年度末までの累積再処理量は約527トンUに達している。
 我が国で発生する使用済燃料の再処理については,東海再処理工場のほか,英国及びフランスに委託しており,1990年度末までには,軽水炉使用済燃料約3,900トンUが両国に,ガス炉使用済燃料約1,100トンUが英国に運ばれている。フランスでは,ラ・アーグに海外顧客用の再処理工場が建設され,1990年8月からは全面操業を行っている。
 また,英国では,セラフィールドに新たな再処理工場の建設が進められている。
 将来的には,国内の再処理需要については,現在操業中の動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場と,日本原燃サービス(株)が計画を進めている青森県六ヶ所村の再処理工場により対応することとしている。また,国内における再処理能力を上回る使用済燃料については,再処理するまでの間適切に貯蔵・管理することとしている。
 日本原燃サービス(株)の再処理工場(処理能力は年間800トンU)については,1999年頃の操業開始を目指して建設する計画であり,動力炉核燃料開発事業団が東海再処理工場の操業によりこれまで培ってきた技術蓄積をも生かして所要の検討を進めていたが,1989年3月,再処理事業指定申請を内閣総理大臣に提出した。1991年8月には,科学技術庁における安全審査が終了し,引き続き原子力委員会及び原子力安全委員会によるダブルチェックが開始された。

④放射性廃棄物処理処分
 〔低レベル放射性廃棄物〕
 原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物のうち,気体及び一部の液体廃棄物については,フィルターを通したり,蒸発処理を講じたりして,所定の濃度以下であることを確認し,大気中または海水中に放出している。その他の液体及び固体廃棄物については,発生量を極力低減した後,固化,焼却等により適切な処理を行って,各発電所等の敷地内に安全な状態で貯蔵されている。1991年3月末現在,その累積量は,200リットルドラム缶に換算して約78万本分,うち原子力発電所において貯蔵されているものは約47万本分となっている。
 低レベル放射性廃棄物の最終的な処分については,陸地処分及び海洋処分を基本的な方針としている。
 このうち,陸地処分については,日本原燃産業(株)が1992年の操業開始を目指して,青森県六ヶ所村に低レベル放射性廃棄物を比較的浅い地中に処分する低レベル放射性廃棄物埋設施設を建設している。また,海洋処分については,関係国の懸念を無視して行わないとの考えの下,慎重に対処することとしている。
 〔高レベル放射性廃棄物〕
 再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物については,これまでの動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場で発生したものが,厳重な管理の下に同工場のタンク内に貯蔵されている。1991年3月末現在,その累積量は溶液の状態で,428m3となっている。
 これらの高レベル放射性廃棄物については,ステンレス製の容器に安定な状態にガラス固化し,30~50年間程度冷却のための貯蔵を行った後,地下数百メートルより深い地層中に処分することを基本的な方針としている。
 ガラス固化技術については,フランス,ベルギー (旧西独と共同)等において実用規模のプラントが稼動しており,我が国においても,動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発が進められてきている。
 同事業団は,この成果を踏まえ,1988年6月から東海再処理工場に付設してガラス固化プラントの建設を進めている。
 高レベル放射性廃棄物の地層処分については,動力炉・核燃料開発事業団を中核推進機関として,研究開発及び調査を行い,その後,処分事業の実施主体が選定する処分予定地における処分技術の実証を経て,処分場の建設・操業・閉鎖へと進んで行く計画である。
 動力炉・核燃料開発事業団の北海道幌延町における貯蔵工学センター計画は,高レベル放射性廃棄物等の貯蔵と併せて,地層処分のための研究開発等を行う総合研究センターを目指したものであり,円滑な実施に配慮しつつ,その着実な推進を図っていくこととしている。
 原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,1989年12月に高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発の重点項目と,その進め方に関する報告書をまとめた。同報告書においては,高レベル放射性廃棄物の地層処分における安全確保の基本的考え方及び今後重点的に推進すべき研究開発項目とその進め方を示している。
 また,高レベル放射性廃棄物の処分の効率化,含まれる有用元素の資源化という新たな可能性を目指して,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,1988年10月「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」を取りまとめた。高レベル放射性廃棄物に含まれる核種の半減期,利用目的等に応じた分離を行い,有用核種の利用を図るとともに,長寿命核種の短寿命核種又は非放射性核種への変換を行うための研究開発を,長期的視野に立って,官民の力を結集して計画的かつ効率的に推進することとしている。また,1989年6月から,核種分離・消滅処理技術の情報交換計画(通称:オメガ計画)が経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)において開始され,1990年11月には,第1回情報交換会議が我が国において開催された。
 このような,高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究開発等の進展や,その処分方策に対する国民の関心の高まりに鑑み,原子力委員会は1991年6月,今後の高レベル放射性廃棄物対策の進め方全般について検討を行い,より具体的にその考え方を示していくことを目指し,放射性廃棄物対策専門部会において調査審議を開始することを決定した。これを受けて,現在,同専門部会が調査審議を進めている。
 〔その他〕
 使用済燃料の再処理,ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の加工の過程で発生する,TRU核種*を含む放射性廃棄物については,適切な区分と,その区分に応じた合理的な処分方策を確立することとしている。これを受け原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,1991年7月,TRU核種を含む放射牲廃棄物の処理処分に関する報告書を取りまとめた。同報告書においては,TRU核種を含む放射性廃棄物の区分の考え方,区分の目安値,処分方策の具体化の手順等,今後の処理処分の推進のための具体的あり方を示している。


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