2.原子力委員会の決定等

(4)専門部会等報告書

放射性廃棄物対策専門部会報告書
「TRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分について」

1991年7月30日
原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会

1.はじめに
 使用済燃料の再処理とウラン,プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)の加工の過程で発生する放射性廃棄物は,ベータ・ガンマ核種のほかにアルファ核種である半減期の長いTRU核種も含んでおり,この放射性廃棄物から高レベル放射性廃棄物を除いたものを「TRU核種を含む放射性廃棄物」という。
 TRU核種を含む放射性廃棄物については,昭和62年の原子力委員会の「原子力開発利用長期計画」において,適切な区分とその区分に応じた合理的な処分方策を確立することなどが示されている。
 TRU核種を含む放射性廃棄物は,再処理事業やMOX燃料加工事業の進展に伴い,その発生量の増大が見込まれ,今後,処理処分を計画的かつ効率的に推進していくことが必要である。このため,TRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分の推進のための具体的取組のあり方についてとりまとめたので報告する。

2.TRU核種を含む放射性廃棄物の種類とその処理の現状

(1)TRU核種を含む放射性廃棄物の種類
 我が国において,現在,TRU核種を含む放射性廃棄物の大部分は,動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃事業団」という。)の東海再処理工場とMOX燃料製造施設において発生している。これに加え,動燃事業団や日本原子力研究所の核燃料サイクル関連の研究施設においても若干の量が発生している。これらのTRU核種を含む放射性廃棄物は,東海再処理工場およびMOX燃料製造施設の貯蔵施設等で安全に保管されている。また,今後は,海外再処理委託に伴う廃棄物の返還や国内の民間再処理施設の稼働が始まれば,一層の量のTRU核種を含む放射性廃棄物の発生が見込まれることになる。
 再処理施設から発生するTRU核種を含む放射性廃棄物は,プラントの構成,放射性廃棄物の管理形態等により,分類と名称が異なるが,動燃事業団の東海再処理工場の場合は,TRU核種を含む放射性廃棄物の主要なものとしては,①ハル・エンドピース,②プロセス濃縮廃液(濃度に応じて低レベルと極低レベルの2群に分けられている。),③廃溶媒,④スラッジ,⑤再処理雑固体廃棄物(濃度に応じて低レベルと極低レベルの2群に分けられ,さらに焼却処理の観点から可燃性と不燃性に分けられている。)がある。また,動燃事業団のMOX燃料製造施設からは,⑥MOX雑固体廃棄物(焼却処理の観点から可燃性と不燃性に分けられている。)が発生している。

(2)処理の現状
 動燃事業団の東海再処理工場及びMOX燃料製造施設において発生するTRU核種を含む放射性廃棄物の現在の処理方法と発生量は,表1のとおりである。現在行われている処理は,東海再処理工場におけるプロセス廃液の蒸発濃縮による減容処理とその濃縮廃液のアスファルト固化,廃溶媒のプラスチック固化等及びMOX燃料製造施設における雑固体可燃物の焼却処理とその焼却灰のマイクロ波溶融固化,雑固体不燃物の溶融固化である。

(3)TRU核種を含む放射性廃棄物の特徴
 TRU核種を含む放射性廃棄物の特徴は,その発生量が比較的多いこと及び含まれるアルファ核種の放射能濃度,ベータ・ガンマ核種の放射能濃度がそれぞれ低いものから高いものまで大きな幅があることである。
 現在の動燃事業団にある放射性廃棄物の場合は,プロセス濃縮廃液のうちの極低レベル濃縮廃液のようにアルファ核種の放射能濃度が数百ベクレル/グラム未満で,ベータ・ガンマ核種の放射能濃度もかなり低いもの,プロセス濃縮廃液のうちの低レベル濃縮廃液のようにアルファ核種の放射能濃度が数百ベクレル/グラムから数キロベクレル/グラムで,ベータ・ガンマ核種の放射能濃度は低いもの,さらに,ハル・エンドピースのようにアルファ核種の放射能濃度が数百ベクレル/グラムと高く,かつベータ・ガンマ核種の放射能濃度も高いものなどがある。また,雑固体廃棄物についても,再処理雑固体廃棄物のように,アルファ核種の放射能濃度が数百ベクレル/グラム未満で,ベータ・ガンマ核種の放射能濃度もがなり低いものや,MOX雑固体廃棄物のようにアルファ核種の放射能濃度が数キロベクレル/グラムから数百キロベクレル/グラムで,ベータ・ガンマ核種の放射能濃度が低いものがある。
 また,TRU核種を含む放射性廃棄物の大部分は,非発熱性であるが,ハル・エンドピース等のように放射化生成物による若干の発熱性を有するものもある。
 施設の各々の工程から発生するこれらの放射性廃棄物は,その工程に特有の物理・化学的な性状を有しており,その性状に適した処理がなされつつある。固化処理についても,アスファルト,プラスチック,セメント,金属塊,人工鉱物等の様々な形態がある。

3.現在の発生量と今後の見通し
 TRU核種を含む放射性廃棄物の現在までの累積量は,処理済の固化体と,まだ減容・固化処理を行わずに保管している放射性廃棄物を現在および現在検討中の処理方法で処理し,固化したと想定したものを合わせて,200リットルグラム缶の固化体換算で約4万本である。
 今後の発生量の見通しについては,現在までの動燃事業団の東海再処理工場及びMOX燃料製造施設の操業実績,国内の民間再処理施設の設計等を基に,各施設の工程毎の発生量と放射能濃度を算出して,これに昭和62年の「原子力開発利用長期計画」に奉づく国内,海外の再処理及びMOX燃料加工の操業計画を勘案すると,その発生量は,1990年代後半からその増加が顕著となり,200リットルドラム缶換算で,2010年時点で,約30万本になると予測される。これに加え,将来的には,関連する核燃料施設の解体に伴うTRU核種を含む放射性廃棄物の発生も予想される。

4.処理処分の研究開発の状況
 TRU核種を含む放射性廃棄物の処理については,基本的には現在までに開発された技術により処理可能であり,一部は既に動燃事業団において実証規模の処理がなされるまでに至っている。また,より安定的でがつ経済性に優れた固化処理の技術や高減容化による発生量低減化等の技術に関する高度化研究が動燃事業団及び日本原子力研究所において実施されている。特に,東海再処理工場のプロセス濃縮廃液等に対する高減容化やMOX雑固体に対する除染による大幅な発生量低減化については,具体的な研究成果が得られつつあり,今後の実用化の可能性が期待されている。さらに,放射性廃棄物中の核種や放射能濃度の測定に関しても,サンプリング等により直接測定が行われつつあるとともに,パッシブ中性子法,アクティブ中性子法等の非破壊測定技術の開発も行われている。
 処分の研究開発については,動燃事業団および日本原子力研究所において,廃棄物固化体の長期健全性に関する研究,コンクリート等の人工バリア材料の長期特性に関する研究,人工バリア中の核種の移行挙動に関する研究,核種と土壌又は岩石との地下氷を介した相互作用の研究等の基礎的研究が,浅地中処分,地層処分等の処分方法を勘案して実施されている。また,種々の性能評価モデルを用いて,安全確保上重要な核種やパラメータの検討等が実施されている。なお,高レベル放射性廃棄物や原子炉施設からの低レベル放射性廃棄物の処分の研究により得られた成果は,TRU核種を含む放射性廃棄物の処分研究に反映されるとともに,それらの研究の一部は共通的に進められている。

5.海外の処理処分方策の動向

(1)処理の動向
 現在,フランス,イギリスなどの再処理施設を有する国々においては,TRU核種を含む放射性廃棄物の処理は,我が国と同様に,セメント固化等の既存の技術を用いて実施されている。これらの国々の新たな処理技術の研究開発は,放射性廃棄物中の放射性核種を更に除去するなどによる発生量の低減化,高減容化等の高度化技術に重点が置かれている。

(2)処分の動向
 TRU核種を含む放射性廃棄物の処分については,米国やフランスのように,アルファ核種の放射能濃度に区分値を設けて浅地中処分と地層処分とに分ける考え方と,スイスやドイツのように,放射性廃棄物の分類を行うものの浅地中処分は行わずに,地層処分を中心に処分する考え方などがあり,それぞれの考え方に基づき各国において具体的な処分の計画が推進されている。
 各国の放射性廃棄物の処分計画をみると,再処理施設等から発生するTRU核種を含む放射性廃棄物の処分は,原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物の処分の実績を踏まえつつ,また,高レベル放射性廃棄物の処分の実施に先んじて,2000年前後の処分開始を目標としている国が多い。

6.処理処分の基本的な考え方

(1)処理の基本的な考え方
 既に述べたように,TRU核種を含む放射性廃棄物は,発生量が多く,また,その発生源も多様であることから,除染,減容等によって放射性廃棄物の発生量を低減させ,処分の負担軽減を図るとともに,それぞれの廃棄物の物理・化学的性状に合わせた適切な処理を行うことが重要である。現在までの研究開発の成果により,処理技術は実用化の段階に達してきているものと考えられるが,今後も更に改良技術及び高度化技術の研究開発に取り組み,より優れた処理技術の確立を目指すことが重要である。
 特に,プロセス濃縮廃液,金属の不燃性雑固体廃棄物等のTRU核種を含む放射性廃棄物については,現在研究が進められている廃液中の放射性核種の除去技術,除染技術等の処理技術の研究開発を更に積極的に進めていくことが発生量低減化の観点から重要である。

(2)処分の基本的な考え方
 TRU核種を含む放射性廃棄物のうちでも,含まれるアルファ核種の放射能濃度が低く,かつ含まれるベータ・ガンマ核種の放射能濃度の比較的低いものは,原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物と同様に,浅地中処分が考えられる。一方,それ以外の,含まれるアルファ核種の放射能濃度が比較的高い放射性廃棄物の処分に当たっては,人工バリア等が高度化された処分や地層処分等の浅地中処分以外の処分方法(以下「浅地中以外の地下埋設処分」という。)が適切と考えられる(以下このような処分の対象となる放射性廃棄物を「TRU廃棄物」という。)。

①浅地中処分の可能性がある低レベル放射性廃棄物
 我が国において,今後,TRU核種を含む放射性廃棄物の処分の具体的方策を検討し,推進していくに当たって,現段階で浅地中処分の可能性があるものについて,その放射能濃度の上限に関する一応の目安値を設定しておくことが望ましい。
 原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物の浅地中処分については,昭和61年から関連法令が整備され,浅地中処分が可能な放射性廃棄物についての濃度上限値が定められた。この濃度上限値のうち全アルファ核種の濃度上限値は,1.11ギガベクレル/トン(0.03キューリー/トン)である。この際の濃度上限値は,その算出において,核種毎の被ばく線量評価を基礎にしており,廃棄物の発生源となる原子力施設の種類には基本的には関係していない。
 再処理施設等から発生するTRU核種を含む放射性廃棄物の処分方策を考えていくに当たっても,原子炉施設から発生する放射性廃棄物の場合と同様に,核種毎の被ばく線量評価を基礎として考えると,この全アルファ核種の濃度上限値を一応の目安値とすることが適当であり,約1ギガベクレル/トンの値を全アルファ核種の「区分目安値」として設定する。今後,TRU核種を含む放射性廃棄物のうち,放射能濃度の低いものを対象として浅地中処分を実施する場合には,具体的な濃度上限値が定められる必要があり,原子力安全委員会において,この「区分目安値」,含まれる核種の組成,安全評価シナリオ等を勘案して,審議が行われることが期待される。
 具体的には,再処理施設から発生する極低レベルのプロセス濃縮廃液や極低レベルの雑固体廃棄物などの固化体等は,含まれるアルファ核種の放射能濃度が「区分目安値」よりも低く,かつベータ・ガンマ核種の放射能濃度もかなり低いと考えられるので浅地中処分の可能性のある低レベル放射性廃棄物であると考えられる。

②TRU廃棄物
 MOX雑固体廃棄物やハル・エンドピース等のように,TRU廃棄物として「浅地中以外の地下埋設処分」が適切と考えられるものについては,今後具体的な処分方策を検討していく必要がある。その場合,長寿命のTRU核種が長期間にわたり人間の生活圏に影響を与えないようにするため,TRU廃棄物の処分方策の具体的検討に当たっては,放射能濃度,発熱性の有無,固化体の物理・化学的性状等のTRU廃棄物の特徴を勘案して,必要な処分深度,人工バリアの性能等を考慮した安全確保方策を検討することが肝要である。

7.今後の処分方策の具体化の進め方
 浅地中処分の可能性がある低レベル放射性廃棄物の処分については,原子炉施設からの低レベル放射性廃棄物の処分を踏まえ,その具体化を推進していくことが重要である。その際,放射能濃度の特に低い廃棄物については,トレンチ処分等の合理的な処分の可能性についても検討していくことが望ましい。
 浅地中処分の可能性がある低レベル放射性廃棄物の量については,将来の処理技術の動向によって変わり得るものであるが,動燃事業団東海再処理工場及びMOX燃料製造施設においてこれまで発生しているTRU核種を含む放射性廃棄物について,現在の処理技術を基礎として見れば,その約4割程度と見込まれる。
 TRU廃棄物の浅地中以外の地下埋設処分については,減容化処理などによる発生量の一層の低減化を進めていくとともに,今後,処分方法を明確にしていくことが必要であり,再処理事業等の本格化する時期を考慮し,1990年代後半までにその見通しが得られるように検討を進めていくことが適当である。また,あわせて,処分の実施スケジュール,実施体制,費用確保等についても検討を進めていく必要がある。
 TRU廃棄物は,含まれる放射能濃度の範囲が広く,固化体の形態も多種多様であることから,まず,それぞれの放射性廃棄物毎に,その放射能濃度や物理・化学的性状等の諸特性を踏まえた処分方法の検討を行う必要がある。しかし,それぞれの放射性廃棄物の処分方法を別個に定めていくことは,TRU廃棄物処分の全体的合理性の観点からは,必ずしも実際的でないことも考えられる。このため,安全確保を図りつつ,個別の処分方法を統合化し,最適化していくことが適当である。

8.処理処分研究開発の課題

(1)研究開発を進める上での留意点
 処理技術の研究開発において,現在進められている不燃性の雑固体廃棄物の除染技術開発,低レベルのプロセス濃縮廃液を対象とした放射性核種の除去技術開発等の高度化処理技術開発は,TRU廃棄物の発生量の大幅な低減と経済性の向上に寄与することが期待できる。なお,放射性核種の除去技術開発については,昭和63年10月の原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会の「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」に基づき進められている研究開発も勘案して進めることが適当である。また,再処理雑固体廃棄物の溶融固化等のより安定化を目指した研究開発の成果は,貯蔵及び処分における安全性と経済性の向上に寄与することが期待できる。
 また,TRU核種の測定・品質保証技術は,固化体中の放射能濃度の測定のために重要であるが,また,固化処理前における廃棄物の濃度別の分別管理を行うためにも必要となる。
 TRU核種を含む放射性廃棄物の処分システムを明確にするための基本的な研究課題としては,①放射性廃棄物の諸物性の評価に関する課題,②具体的処分方法に関する課題及び③性能評価手法の開発に関する課題が考えられる。また,これらの研究開発は,高レベル放射性廃棄物や原子炉施設等から発生する低レベル放射性廃棄物に係る研究開発と共通性を有する面も多いと考えられ,これらの放射性廃棄物に係る研究開発状況も踏まえて進めていくことが効果的かつ効率的である。
 なお,これらの処分技術の研究開発は,原子力開発利用長期計画にあるとおり,動燃事業団が日本原子力研究所の協力を得て進めるものとする。

(2)具体的な研究開発課題

①処理に係る検討開発課題((表2参照))
(i)発生量低減化・高減容化技術および安定化技術廃棄物の発生量を低減するため,不燃性雑固体廃棄物の表面汚染の除去技術,プロセス濃縮廃液からの放射性核種の除去技術,廃溶媒等の分解処理技術等の開発を行う。
 また,ハル・エンドピース等を対象とした,高圧縮,熱間静水圧加圧等による高減容化処理技術開発,不燃性雑固体廃棄物,プロセス濃縮廃液除染残渣等の安定固化処理技術等の開発を行い,貯蔵及び処分における安全性や経済性の向上を目指す。
(ii)測定・品質保証技術固化体中の放射能濃度等の測定や廃棄物の濃度別分別管理を行うに当たり,その測定時間の短縮,精度向上等を目指した測定技術開発を行う。また,固化体の物理・化学的性状を管理するために重要な固化体の品質保証技術を開発する。

②処分に係る研究開発課題
(i)個別のTRU廃棄物の発生量,放射能濃度,物理・化学的性状等の把握再処理施設等の操業計画,返還廃棄物の動向,処理技術の開発状況・将来見通し等を踏まえて,今後の個別のTRU廃棄物の発生量,放射能濃度,固化体および放射性核種の物理・化学的性状等をより正確に把握するとともに,それらのデータを管理し,活用するためのシステムを確立する。
(ii)個別のTRU廃棄物毎の特性を考慮した処分方法の検討上記(i)の各TRU廃棄物毎の各種データを考慮して,安全確保の観点から個別のTRU廃棄物の処分方法を検討する。また,評価手法の開発等を行いつつその処分システムに要求される性能について検討する。
 なお,濃度上限値を上回る原子炉施設からの低レベル放射性廃棄物,解体廃棄物,放射性同位元素廃棄物等の処分方法の検討状況等との関連にも配慮することが必要である。
(iii)  個別の処分方法の統合による最適化高レベル放射性廃棄物や浅地中処分が可能と考えられる低レベル放射性廃棄物の処分との関連を含めて,安全確保を前提に,全体的な整合性等の観点から,上記(ii)のTRU廃棄物毎の個別の処分方法を,できるだけ少数の合理的な処分方法に統合化することの可能性を検討し,処分の全体的な最適化を図る。また,最適化した処分システムについて,システム全体としての安全性の評価を行う。

(参考1)

関連用語の説明

○TRU核種
 原子番号92のウランよりも大きな原子番号をもつネプツニウム,プルトニウム,アメリシウム等の元素の核種の総称で,いずれも人工の放射性核種である。
○ハル・エンドピース
 使用済燃料の再処理工程から発生する放射性廃棄物で,燃料集合体の剪断によって切り落とした燃料の端末部分をエンドピースといい,溶解槽で燃料を溶かした後に残る被覆管のことをハルという。
○プロセス濃縮廃液
 プロセス濃縮廃液は,再処理施設の各工程から発生する酸回収凝縮水,分析廃液,廃ガス洗浄液,各機器の除染廃液等の廃液をまとめて蒸発濃縮したものである。
〇廃溶媒
 再処理施設においてプルトニウムとウランを分離するために用いる溶媒が劣化して廃棄物となったもの。
○スラッジ
 再処理施設の極低レベル廃液を凝集沈澱することによって発生する沈澱物のこと。
○ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)加工施設
 使用済燃料の再処理で回収されたプルトニウムとウランの混合酸化物粉末をセラミックに焼き固め,燃料集合体に加工するための施設である。
○パッシブ中性子法
 廃棄物中に含まれるTRU核種から放出される中性子線,又はTRU核種から放出されるアルファ線による反応で放出される中性子線を中性子検出器で測定することにより,廃棄物中のTRU核種を定量化する方法である。
○アクティブ中性子法
 廃棄物中に含まれる核分裂性核種に外部より中性子を照射して反応を起こさせ,その反応から,放出される中性子線を中性子検出器で測定することにより,廃棄物中の核分裂性核種を定量化する方法である。

(参考2)

核燃料リサイクル専門部会報告書
「我が国における核燃料リサイクルについて」

1991年8月2日
原子力委員会核燃料リサイクル専門部会

はじめに
 我が国においては,1950年代半ばから原子力の平和利用に関する研究開発及びその事業化を進め,現在,原子力は,基軸エネルギーの一つとして,我が国のエネルギー供給上重要な役割を果たすに至っている。近年になって,地球環境保護への関心が世界的に高まるとともに,中東湾岸を巡る情勢が緊迫化し世界の石油供給に大きな不安感を与えたこともあり,石油をはじめとする化石燃料への依存をできるだけ抑制すべきとの考え方が再び国際的に広く叫ばれてきている。この点から,今後のエネルギー源としての原子力の重要性はこれまで以上に増してきており,今後の我が国の原子力政策を推進するに当たっては,いわゆるエネルギー・セキュリティ等の国内的視点ばかりでなく,エネルギーを取り巻くこれらの世界の動向を踏まえた国際的視野が重要であり,核燃料リサイクルの将来計画についても,そういった観点をこれまで以上に重視して進めていくことが求められている。
 現在,我が国では,青森県六ヶ所村において再処理施設をはじめとする核燃料サイクル施設の建設計画が進められているところであり,また,本年5月,FBR原型炉「もんじゅ」の建設が完了し,総合機能試験に入り,更に,英仏に委託している再処理によって回収されるプルトニウムの我が国への輸送が近い将来に本格化する計画もある。これらの最近の国内外の動向を踏まえ,長期的展望に立って核燃料リサイクル計画の位置づけを改めて明確にし,その具体化を図ることが必要になってきている。本報告書は,このような認識からその検討結果をとりまとめたものであり,主として,2010年頃までを見通した長期的視野から特に重要と考えられる核燃料リサイクルの具体的方策を提示したものである。

1.我が国における核燃料リサイクルの必要性及び意義
 我が国の原子力開発利用は,その初期の段階から,使用済燃料を再処理し,回収されたプルトニウム及びウランをリサイクルし,核燃料として再利用することを目指すという,核燃料リサイクル政策を一貫して継続してきたところである。それは資源小国である我が国として,ウラン資源の有効利用を図り,原子力のエネルギー源としての安定性をより高めることが必要不可欠であるとの理由に基づくものであり,かかる核燃料リサイクルの必要性は,今田こおいてもいささかも変わるものではない。我が国における核燃料リサイクルについて,最近の国内外の動向を踏まえ,その必要性及び意義を改めてまとめれば,次の3点に要約できる。
 第1に,核燃料リサイクルは,リサイクルしなければ,そのすべてが廃棄物となってしまうものの中から,有用なものを資源として再利用するということであり,資源の保護に貢献するとともに,環境への影響を低減することができる。
 第2に,核燃料リサイクルによって,原子力を長期的に経済的かつ安定なエネルギー源とし,エネルギー ・セキュリティーを高めることができる。この点は,資源小国である我が国が従来から特に重視してきているところである。
 第3に,核燃料リサイクルによって,有用な資源と放射性廃棄物を分別,回収し,しかも放射性廃棄物の中で放射能レベルの高いものは量が少なく,安定な形態に固化しやすくなり,放射性廃棄物の管理をより適切なものとできる。このような放射性廃棄物の管理のあり方は,我が国において,環境保護の観点からも適切なものである。
 上記3点の必要性及び意義の内容を補足すれば,次のとおりである。

(1)資源と環境を大切にし,リサイクル社会の形成に貢献する。
 近年,資源の大量の消費が地球環境の破壊及び生活環境の悪化をもたらしつつあるとして,強く警鐘が鳴らされている。これに対し,資源のリサイクル,省資源,省エネルギー等の推進の強化が唱えられているが,これは,資源のより一層の有効利用を図りつつ,地球環境及び生活環境の保全に努力することを第一義とした考え方であり,原子力,特に,核燃料リサイクルの必要性及び意義についても,そのような考え方からの位置づけが重要になってきている。
 この点から原子力の特徴を考えると,原子力は,もともと,少量の資源から大量のエネルギーを産み,消費する資源量及び発生する廃棄物量が少ない上に,地球温暖化現象の原因の一つとされている二酸化炭素を化石燃料のように発生しないという優れた特徴を有している点が指摘できる。安全確保を徹底しつつ原子力の利用を進めていくことは,エネルギー供給源としての重要な役割に加えて,地球環境保護にも貢献し得ることが先進国サミット等の国際的な場においても確認されている。
 核燃料リサイクルとは,その実現によって,上記の原子力の特徴をより一層活かしていくことを意図しており,いわゆるリサイクル社会の形成に貢献しようとするものである。実際,核燃料リサイクルは,リサイクルしなければ,すべてが廃棄物となってしまう使用済燃料の中から,有用なものを資源として再利用するということであり,また,リサイクルによりウラン資源の節約を図れば,結果的に環境への影響を低減することができ,資源及び環境の保護にとって大きな意義を有する。更に,このような資源の節約と再利用の努力は,我が国のような資源大量消費国が率先して取り組むべき重要な課題でもある。

(2)原子力を長期的に経済的かつ安定なエネルギー源とする。
 核燃料リサイクルの経済性は,他の資源のリサイクルと同様に,資源の市場価格に依存する。ウラン価格が近年比較的低位で安定していることから,ウラン資源を長期的に経済的かつ安定的に確保していく上での核燃料リサイクルの必要性と意義に対する関心が薄れがちであるが,石油市場と同様にウラン市場も又,将来的に不安材料がないわけではなく,我が国のような資源小国にとっては,ウラン資源の有効利用及びエネルギーの安定的確保の見地から核燃料リサイクルは必要である。さらに,核燃料リサイクルを行うことによってウラン市場の需給を安定化させ,結果的にウラン価格を長期的に安定化させ得る効果も無視できない。
 核燃料リサイクルの経済的意義として重要なもう一つの点は,リサイクルすることによって,核燃料サイクル全体の経済性が,ウラン価格のような外的要因にあまり左右されないようにすることができる点にある。リサイクルをすれば,核燃料サイクルコストに占める天然ウランの費用の割合が低くなるなど,その経済性がウラン価格に依存する程度を軽減できるからである。
 原子力は,少量の資源から技術によって大量のエネルギーを産み出すことから技術エネルギーとよばれており,その経済性が資源よりむしろ技術によって決められる点に特徴がある。経済性が技術によって主として決められるということは,技術の成熟度が進めばそれだけ経済性が向上し,原子力のエネルギー源としての基盤をより一層強固なものとすることができることを意味している。実際,核燃料リサイクルの経済性は,研究開発の一層の推進,経験の蓄積,規模の段階的拡大等を通じ,将来的に向上していくことが期待されており,我が国がそのような技術開発に率先して取り組んでいくことは,長期的に見て原子力を世界的により経済的かつ安定なエネルギー源としていく上においても有意義なことと考えられる。

(3)我が国における放射性廃棄物の管理をより適切なものとする。
 原子力発電に伴って発生する廃棄物は,火力発電等に比べてその量はわずかであるが,放射性であることから特に留意してその管理を行う必要がある。
 特に,使用済燃料中には放射能レベルの高い放射性物質が多く含まれており,半減期に従ってその放射能レベルは急速に低減するものの,放射性廃棄物としてその管理には特段の留意が必要である。
 現在のところ,核燃料のリサイクルを行わずに,使用済燃料を廃棄物としてそのまま処分することとしている国もあるが,核燃料のリサイクルを行う場合には,使用済燃料中に多量に含まれる有用な資源を回収できると同時に,それによって,放射能レベルの高い放射性物質を含む廃棄物を別に分離して管理することが可能となる。
 実際,使用済燃料を再処理した後に残る高レベルの放射性廃棄物は,使用済燃料をそのまま廃棄物とする場合に比べて,量が少なく,安定な形態に固化しやすくなり,放射能の継続時間も相対的に短くなる。このような放射性廃棄物の管理のあり方は,我が国においては,環境保護の観点からも適切なものである。他方,リサイクルを行うことによって二次的に放射性廃棄物が発生するが,これについては,その発生量をできるだけ低く抑えることが重要である。
 核燃料サイクル全体から発生する放射性廃棄物管理の最適化は,核燃料のリサイクル方法にも関連する。リサイクルによる資源の利用効率が高ければ,それに応じて結果的に放射性廃棄物となる量を減少させることが可能となるなど,放射性廃棄物管理が一層適切なものとなり,環境保護の観点からも益々望ましいものとなるからである。この点では,放射能の継続性と密接に関連する超ウラン元素をいかに効率よくリサイクルするかが重要になる。この超ウラン元素の資源としての価値を高めるリサイクル方法に関し,今後,その研究開発を進めていくことによって,放射性廃棄物の管理は一層適切なものとなる可能性があり,この点から核燃料リサイクルを行うことの意義は更に大きくなっていくことが期待できる。

2.核不拡散への取り組み
 我が国においては,原子力開発利用は国是として平和目的に限ることを原子力基本法に定めており,また,国際的には,核不拡散条約(NPT)及び核物質防護条約に加盟し,我が国の原子力活動に係る全ての核物質に対して国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受け入れるなど,これらの国際条約上の義務を誠実に履行してきており,我が国の原子力平和利用の政策を内外に明らかにしてきているところである。
 我が国の原子力利用に係る核不拡散への取り組みはこれらの政策で明らかであるが,核燃料のリサイクル利用は,回収されたプルトニウムの利用を前提としており,このプルトニウムは軍事的に機微な物質とされているので,その点に更に十分留意しつつ利用を進めることが肝要である。即ち,我が国の核燃料リサイクル計画の推進に当たっては,いかなる場合であっても,核不拡散問題について国際的に懸念を生じないよう,その計画の透明性に配慮するとともに,今後とも核不拡散に対する厳格な対応をとることが肝要である。
 従って,プルトニウムの核物質管理に厳重を期することはもとより,今後の核燃料リサイクル計画の推進に当たって必要な量以上のプルトニウムを持たないようにすることを原則とする。そのためには,核燃料リサイクルによって核燃料として積極的に利用していくことが核不拡散上も意義があることを考慮しつつ,我が国としては,適切な計画に基づいたプルトニウム利用を着実に進めることとする。
 昨年のNPT再検討会議において,NPTが核不拡散に関する基本的枠組みであり,IAEA保障措置がそれを担保する上で中心的役割を果たしており,また,プルトニウムの平和利用の拡大に対応して,再処理,プルトニウム利用等へのIAEA保障措置の効果を引き続き確保すべきである旨が改めて確認されたところある。我が国は,かねて,IAEA保障措置の効果的かつ効率的適用を図ることが重要との見地に立って,その体制の維持強化に積極的に努力してきたところである。1981年度に発足させた「対IAEA保障措置支援計画(JASPAS)」及び1987年度からIAEAに特別拠出することによって検討を進めている大型再処理施設の保障措置のための国際共同プロジェクト(LASCAR)はその重要な事例である。また,MOX燃料加工施設の保障措置要素技術に関し,日米間において実施された共同研究の成果を活用し,動力炉・核燃料開発事業団のプルトニウム燃料第3開発室にIAEAの保障措置が既に実施されている。今後,核燃料リサイクル利用の本格化を迎えるに当たり,このような従来からの姿勢を堅持していくことがまず重要である。また,プルトニウム利用を実用規模で進めていくに当たり,これまでに我が国に蓄積されてきた技術及び経験を基に適切な保障措置の適用を図るだけでなく,その高度化にも積極的に取り組み,核不拡散の面で国際的に更に理解を得て,計画が進められるよう,引き続き,努力していくことが肝要である。
 更に,これらの努力を通じて,今後ともIAEA保障措置の健全な発展と世界の核不拡散体制の強化に貢献していくことが重要である。これは,プルトニウムの平和利用を進めようとする我が国の責務でもあると考える。
 なお,プルトニウムの長距離にわたる国際輸送については,その核物質防護措置に特に万全を期すべきことが国際的に求められている点を十分に認識し,輸送の実施に当たって,二国間原子力協定,核物質防護条約等の義務を誠実に履行するとともに,関係国との必要な協議を行い,国際的な理解と協力を十分に得ていくこととする。

3.我が国における今後の核燃料リサイクル計画

(1)基本的な考え方
 我が国における今後の核燃料リサイクル計画を推進していくに当たって重要な点は,基軸エネルギーたる原子力が社会的により広く理解されるような体系の構築を目指すことであり,また,そのような計画が国際的にも理解されるよう努力していくことである。この観点から,今後の核燃料リサイクル計画は,社会的に関心の高い放射性廃棄物の管理を一層適切なものにするなどの点にも配慮しつつ,計画的,かつ確実に進めていくことが必要である。
 また,その計画を実施する際,リサイクルの規模及び方法については,将来の変動要因等を考慮しつつ弾力的対応が可能となるよう対処していくことが肝要である。
 核燃料リサイクル計画の利用面についてみると,まず,高速炉(FBR)については,ウラン資源の利用効率が特に高いという特徴があり,更に,超ウラン元素をリサイクルできれば,それによって放射性廃棄物問題を軽減できるということも期待できる。従って,我が国においては,FBRを将来の原子力発電の主流にすべきものとして開発を進めてきており,核燃料リサイクル利用の基本と位置付けている。このため,今後とも引き続き,FBRの実用化を目指すこととする。
 また,我が国の原子力発電計画においては,当面,軽水炉が主流であり,軽水炉自体によるリサイクル利用を図ることとし,それによってエネルギー供給面での一定の役割を果たすとともに,併せて,FBRの実用化に向けて,実用規模の核燃料リサイクルに必要な技術,体制等を整備していくことが必要である。この軽水炉へのリサイクル利用は,ドイツやフランスを中心にヨーロッパにおいて既に相当の実績があることにも着目しつつ,我が国のリサイクル計画を着実に遂行していく上から,まず,軽水炉へのリサイクル利用を進めていくこととする。
 さらに,このリサイクルの体系の柔軟性を高める観点から,核燃料利用方法の面で融通性に富む新型転換炉(ATR)において,その特徴を活かしつつ,リサイクル利用を進めることが適当である。
 これらの核燃料リサイクル計画を遂行していくに当たって必要となる今後のプルトニウムの供給源としては,六ヶ所再処理工場がその中心的役割を担うことになる。同工場は,長期的観点からみて,我が国のリサイクル計画の基本であるFBR計画を遂行する上で必要不可欠なものであると同時に,軽水炉リサイクル計画及びATRの研究開発の遂行に必要なプルトニウムを継続的に供給するものである。同工場の本格操業は2000年過ぎに予定されており,その回収プルトニウムの用途としては,当面のFBR及びATRの研究開発への利用及びその後のFBRの実用化への利用とともに,実用規模での軽水炉へのリサイクル利用に充当することとする。
 海外に委託されている再処理は,当面の経過的措置であり,それによって回収されるプルトニウムは,FBR及びATRの研究開発及び軽水炉へのリサイクル利用に充当することが適当である。
 東海再処理工場からの回収プルトニウムは,引き続き,FBR及びATRの研究開発に利用していくことを基本とするが,六ヶ所再処理工場の操業が開始されれば,東海再処理工場の主要な役割は,将来に向けての再処理に係る技術開発に重点を移していくことが望ましい。
 なお,これらの計画を実現していくためには,特に,六ヶ所再処理工場の建設計画を地元の理解と協力を得つつ進めるとともに,海外再処理によるプルトニウムが我が国に円滑に輸送されるよう,政府としても適切な協力を行うことが必要である。また,それらの計画と関連して,リサイクル燃料(回収プルトニウムをウランと混合した燃料でMOX燃料とよばれる。以下,MOX燃料という。)の国内における供給体制の確立を図ることが必要である。

(2)2010年頃までを想定した核燃料リサイクル計画
 上記の基本的考え方に基づき,2010年頃までを見通した核燃料リサイクル計画については,次のとおりとすることが適当である。核燃料リサイクル計画はプルトニウムの利用を前提としており,その計画に関し国内的にも国際的にも広く理解を得ていくためには計画の透明性が重要であるので,現時点で最も妥当と考えられる計画を示すものである。将来の計画であるので,今後の情勢変化等により影響を受けることは当然であるが,そのような場合であっても,「2.核不拡散への取り組み」で示した姿勢を堅持しつつ,上記の基本的考え方に基づき,計画を着実に遂行していくことが肝要である。
 〔以下の記述においてプルトニウム量(試算値)は核分裂性プルトニウムの量で表示。〕

①プルトニウムの利用

(イ)FBR及びATRによる利用計画
 FBRについては,今後とも,実験炉「常陽」における研究開発を続けるとともに,原型炉「もんじゅ」によるリサイクル利用を推進していくことが,FBR開発において果たしているこれらの炉の役割の重要性から見て適当である。これらの2つの炉に必要なプルトニウム量は,毎年約0.6トン,2010年頃までに今後必要となる累積量は12~13トン程度である。
 FBR実証炉については,1990年代後半に着工し,2000年過ぎに運転開始することを目途に計画が進められており,これを積極的に推進するとともに,実証炉以降についても,FBRの実用化に向けて,計画的かつ着実に推進していくことが重要である。実証炉及び実証炉以降のFBRに必要なプルトニウム量については,それらの計画が今後より具体化して行く過程において正確に評価する必要があるが,現時点で,2010年頃までの累積所要量を推算すると,10~20トン程度になるものとみられ,この変動幅は主として実証炉以降のFBRの導入時期と規模如何によって生ずる。このように,2010年頃までの需要量については,実証炉ばかりでなく実証炉以降の計画如何が大きな影響を与えるので,今後とも長期的観点にたってそれらの計画を継続的に検討していくことが望まれる。
 ATRについては,原型炉「ふげん」において,現在,信頼性の一層の向上等を目的とする運転が続けられているとともに,2000年頃の運転開始を目途に青森県大間町に実証炉の建設計画が進められており,核燃料リサイクル体系の柔軟性を高める観点から,今後とも着実に推進していくことが重要である。「ふげん」及び現在計画中の実証炉の運転に必要なプルトニウム量は,年間0.5~0.6トン,今年度から2010年頃までの累積では10トン弱である。

(ロ)軽水炉による利用計画
 軽水炉による今後の核燃料リサイクル計画については,現在の少数体規模での実証計画の成果を踏まえつつ,最初の利用計画として,1990年代央に,80万キロワット級以上のBWR及びPWRそれぞれ1基において,その1/4炉心相当分をMOX燃料とするリサイクル方法を採用することが適当である。電気事業者においては,今後,この計画の円滑な実施のために必要な諸準備を進めていくことが適当である。
 軽水炉による核燃料リサイクル利用の目的は,エネルギー供給面で一定の役割を果たすとともに,FBRの実用化に向けて,実用規模の核燃料リサイクルに必要な技術,体制等をそれによって整備することにある。そのためには,実用再処理施設及び実用MOX燃料加工施設の規模等を勘案し,適切な規模の軽水炉リサイクル利用を継続的に行っていくことが不可欠であり,我が国の場合は,1/3炉心相当分のMOX燃料を装荷する100万キロワット級軽水炉に換算して,1990年代末には4基程度,2000年過ぎには12基程度の規模にまで段階的かつ計画的に拡大しリサイクル利用を行えるよう,準備を進めていくことが適当である。
 以上の軽水炉による利用計画を実施するに当たって必要なプルトニウム量を見積もると,2010年頃までの累積量として50トン程度になる。この軽水炉によるリサイクル規模の具体的な拡大のテンポに関しては,FBR及びATRによるリサイクル利用の今後の展開等を踏まえて,弾力的かつ着実に運用していくことが重要である。
 また,これらの計画には官民が一致して取り組んでいく必要があり,関係省庁において必要な支援を行うことが適当である。

②プルトニウムの確保
 FBR及びATAによる利用計画と軽水炉による利用計画とを合わせると,2010年頃までを想定したリサイクル利用計画に必要なプルトニウム量は,80~90トン程度になるものとみられる。
 一方,プルトニウムの供給源である,東海再処理工場,六ヶ所再処理工場及び英仏に委託している海外再処理から,将来それぞれ供給されるプルトニウム量は,実際に再処理される使用済燃料の種類及び量に依存し,推算によらざるを得ないが,現時点で最も妥当と考えられる供給量を見積もると,次のとおりである。
 まず,東海再処理工場については,当面の年間の再処理量は70~90トン程度(使用済燃料の量・ウラン換算)と考えられ,年間約0.4トンのプルトニウムが回収される。しかし,六ヶ所再処理工場の運転が始まれば,東海再処理工場の役割はMOX燃料の再処理等に関する技術開発が中心になるものと見られるので,回収されるプルトニウム量は,毎年0.1~0.2トン程度に下がることが予想される。
 六ヶ所再処理工場については,1990年代末の運転開始が予定されており,再処理量を段階的に上げていき,2000年過ぎには所定の再処理能力である年間800トン(使用済燃料の量・ウラン換算)の操業に入る計画となっている。六ヶ所再処理工場の規模は,現在実用化されているフランスのUP3工場と同じであり,実用再処理施設の規模として適切なものである。六ヶ所再処理工場が本格操業に入った場合,毎年4.5~5トン程度のプルトニウムが回収される見通しである。
 海外再処理によって回収されるプルトニウムの累積量は,我が国の電気事業者と英仏の再処理事業者との契約量から推算して約30トンと見積もられ,これらのプルトニウムは,2010年頃までには全て我が国に持ち帰られているものと考えられる。
 以上から2010年頃までの総供給量を推算すると,東海再処理工場から約5トン,六ヶ所再処理工場から約50トン,海外再処理から約30トンの計約85トンとなる。実際のプルトニウムの需給計画においては適正なランニングストックが必要であること等も勘案すると,総需要量が80~90トン程度とみられることから,この約85トンという総供給量は,今後のリサイクル計画を遂行していく上で必要な量であると判断される。

4.国内におけるMOX燃料加工体制

(1)FBR及びATR用MOX燃料の加工体制
 FBRの実験炉「常陽」と原型炉「もんじゅ」及びATRの原型炉「ふげん」に用いるMOX燃料については,今後とも,動力炉・核燃料開発事業団が,燃料の製造を行うとともに,ATRの実証炉用MOX燃料についても,これまでの方針に従い,動力炉・核燃料開発事業団が,プルトニウム燃料第3開発室において燃料加工施設の整備を進めることとする。
 FBRの実証炉用MOX燃料に関しては,1987年の原子力開発利用長期計画において,「動力炉・核燃料開発事業団の施設を拡張することにより供給が可能であるが,MOX燃料の製造経験,実証炉の建設計画の進展状況,民間におけるMOX燃料の供給体制の整備の進展状況,製造施設整備のためのリードタイム等を勘案し,1990年代の早い時期に,具体的な燃料加工体制に関する考え方を定めることとする。」とされており,実証炉計画が具体的に進みつつあることから,動力炉・核燃料開発事業団のFBR用MOX燃料製造技術を活用するための具体的検討を早期に進めることが必要である。

(2)軽水炉用MOX燃料の加工体制
 六ヶ所再処理工場における再処理の事業化に対応して,軽水炉用MOX燃料加工の国内事業化の推進を図る必要がある。原子力開発利用長期計画においては,「軽水炉によるプルトニウムの本格的利用におけるMOX燃料については,原則として,民間事業として実施することとし,遅くとも1990年代の早い時期に,具体的な燃料加工体制を確立することとする。」との方針が示されている。軽水炉による核燃料リサイクル利用計画及び1990年代末にも予定されている六ヶ所再処理工場の操業開始を踏まえると,2000年頃には年間約100トン程度の国内MOX燃料加工の事業化を図る必要があり,民間関係者を中心として,事業内容に関し具体的に検討を進めることが適当である。
 ただし,この国内MOX燃料加工事業については,軽水炉リサイクル規模の拡大テンポに応じ弾力的に対応できることが重要である。事業主体の決定,工場の立地地点選定,その設計・安全審査,建設・試運転等のリードタイムを勘案すれば,この事業化方策はできるだけ早期に策定すべき段階にきている。
 なお,上記の国内MOX燃料加工事業化の推進のためには,国内における軽水炉用MOX燃料加工技術の実証を図るとともに,動力炉・核燃料開発事業団の有するMOX燃料加工技術の民間事業者への円滑な移転を行う必要がある。そのため,動力炉・核燃料開発事業団のプルトニウム燃料第3開発室の活用等について,動力炉・核燃料開発事業団と民間関係者の間で早急に検討を進める必要がある。

5.海外におけるMOX燃料加工
 海外再処理により回収されるプルトニウムについては,少なくとも一定期間の間,適切な量について海外においてMOX燃料加工を行うことが適当である。このため,電気事業者においては,海外MOX燃料加工の開始時期や委託加工の規模等について,早急に検討を進めるべき時期にきている。
 海外で加工されたMOX燃料の我が国への輸送は海上輸送により行われることとなるが,同輸送に関しては,国内の諸法令はもとより,日米原子力協定上の関連する規定や核物質防護条約,IAEA輸送規則等の国際的取り極めに合致した方法で円滑に実施できるよう,電気事業者においてその具体的輸送方法について検討を進める必要がある。なお,その際の輸送計画については,1990年代央からの軽水炉リサイクル計画が遅滞なく進められるように実施する必要があり,政府としても,関係省庁の密接な協力の下に必要な施策と支援を講じることが求められている。
 なお,我が国と原子力協定を締結していない国においてMOX燃料加工が行われる場合には,我が国のプルトニウムが第三国に移転されることになることから平和利用担保のために必要な措置を新たに講じる必要がある。

6.回収ウランの利用方策
 再処理により回収されるウランについては,資源リサイクルの考え方を一層進める観点から,その利用を積極的に図ることが重要である。経済性及び利用可能量の点で最も適切であると考えられるのは再濃縮によるリサイクル利用方法であり,国内においては,これまでの成果を基礎に,実用規模における転換,再濃縮,加工及び原子炉での利用に関し,民間関係者と動力炉・核燃料開発事業団が協力して開発を行い,将来の本格的利用に備えることが適当である。
 また,海外に委託している再処理からの回収ウランについては,輸送の効率性等から考えて,海外において転換し再濃縮することが適当であり,電気事業者は必要に応じ,そのための準備を進めていくことが望ましい。なお,この転換又は再濃縮が我が国と原子力協定を締結していない国において行われる場合は,平和利用担保のための必要な措置を新たに講じる必要がある。

7.使用済MOX燃料の再処理
 核燃料リサイクルに伴い発生する使用済のMOX燃料についても,資源のリサイクル利用を図る観点から,これを再処理しプルトニウムとウランを回収することが重要である。このため,今後,FBR及びATRの使用済燃料を含め,動力炉・核燃料開発事業団において,MOX燃料の再処理回収効率の向上等を目指した技術開発を進めることが適当である。


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