第5章 核融合,原子力船及び高温工学試験研究
1.核融合

(2)研究開発の現状

①トカマク方式の研究
 トカマク方式については,日本原子力研究所において,臨界プラズマ条件の達成を主目的とするJT-60の本体装置が1985年4月に完成し,1987年9月に,プラズマ電流320万アンペアにおいて,平均プラズマ密度130兆個/cm,中心プラズマ温度4,300万度,閉じ込め時間0.14秒を達成した。これらの水素放電のデータは重水素換算において,原子力委員会の定めた臨界プラズマ条件目標領域に到達したものである。この後,次期大型装置の炉心プラズマに関する研究開発に資するために臨界プラズマ試験装置JT-60の高性能化計画に着手し,1988年6月からは下側ダイバータ実験,ペレット入ズマ電流280万アンペアにおいて,平均プラズマ密度170兆個/cm,中心プラズマ温度5,000万度,閉じ込め時間0.14秒を達成した。また,1989年11月からは大電流実験,重水素実験を行う高性能化実験(II)に向けた装置の改造を行い,1991年3月に運転を再開した。同4月末には従来のプラズマ電流の最高値(320万アンペア)を超える400万アンペアに達した。
 一方,中型装置によるトカマクの高性能化の研究も精力的に推進されている。日米協力により,米国のダブレット―III(非円形トカマク試験装置)を用いて約11%の高ベータ値の達成(1991年3月)等,好結果が得られている。また,ダイバータ効果,高周波によるプラズマ電流の励起維持等の研究を更に進めるため,中間ベータ値トーラス装置(JFT-2)を高性能トカマク開発試験装置(JFT-2M)に改造して,非円形プラズマによる高効率閉じ込めに関する実験を実施している。
 さらに,核融合科学研究所のJIPPT-IIU装置では,閉じ込め改善の方策の研究や,加熱方式の開発研究等の先駆的研究が行われているほか,九州大学の超伝導強磁場トカマクTRIAM-1Mにおいては,トカマク方式による核融合炉の定常運転に関する研究を継続して行っており,1989年12月に1時間を超える連続運転に成功した。

②トカマク方式以外の研究
 トカマク方式以外の磁場閉込め方式についても,新しい展開が見られている。ヘリカル方式については,京都大学のヘリオトロンE装置及び核融合科学研究所のコンパクトヘリカルシステムにおいて無電流高温プラズマの安定な閉じ込め・加熱に関する研究を行っている。
 ピンチ方式については,電子技術総合研究所の逆磁場ピンチ装置(TPE-IRM15及びTPE-2M)により高ベータプラズマに関する研究等が行われている。
 ミラー方式については,筑波大学のタンデムミラー装置「ガンマ10」において,サーマルバリア付電位閉じ込めの研究を行っている。
 さらに,慣性核融合については,大阪大学の20キロジュールガラスレーザー「激光12号」において,慣性核融合の科学的実証を目指した実験研究が実施されている。また,慣性核融合に適した紫外ガスレーザの研究開発も,国立試験研究機関等において実施されている。
 荷電粒子ビームを用いた慣性核融合についても,基礎的研究が進められている。

③炉工学技術
(イ)超電導
 超電導磁石に関しては,国際協力による大型コイル試験において他国に先がけて完成したコイル(LCTコイル)を用いた試験を1987年8月に成功のうちに完了した。また,ニオブ・スズ化合物(Nb3Sn)を用いた高磁界コイルにより12.2テスラを達成した。さらに,高磁界パルス・コイルとして,20メガジュールのパルス・ポロイダルコイルの開発を続け,日米協力の一つとして原研で試験を行っている。
 金材技研では,更に高い18テスラの臨界磁界をもつニオブ・アルミ化合物(Nb3Al)超電導線材を開発し,応力下での特性評価を行った結果,導体が大きな荷重を受ける核融合炉用大型超電導マグネットへの実用化に十分な見通しが得られた。

(ロ)プラズマ加熱・電流駆動
 プラズマ加熱・電流駆動技術においては,JT-60用に正イオンを用いた数10メガワット級中性粒子入射加熱(NBI)技術の確立がはかられるとともに,出力効率及びビーム発散角の観点から実験炉に適した負イオン・ビームNBI技術に関しても,50キロエレクトロンボルトで10アンペアを達成するなど,世界に先駆けた開発が進展している。高周波加熱(RF)については,電子サイクロトロン波共鳴加熱(ECRH),イオン・サイクロトロン波共鳴加熱(ICRH)及び低域混成波共鳴加熱(LHRH)の開発技術が進展し,0.5~20メガワット規模の加熱を実証するとともに,LHRHについては低密度領域での非誘導電流駆動技術が確立している。一方,九州大学のTRIAM-1Mでは,低域混成波による実験で1989年12月に1時間を超えるトカマクの連続運転に成功した。

(ハ)構造材料
 炉構造材料については,中性子照射下における研究が,これまでの10年間に著しく進展した。特に日米協力のもとでのHFIR(High  Flux Isotope Reactor)及びORR(Oak Ridge Research Reactor)を使用した重照射実験が行われている。また,1987年度からは,米国のFFTF(Fast Flux Test Facility)を利用した照射実験を実施している。一方,原研で高熱負荷受熱機器の研究を進めるために1988年度に建設した最大出力400キロワットの電子ビーム高熱負荷試験装置(JEBIS)を用いて,プラズマ対向機器の高熱負荷試験を行っている。
 また,金材技研では合金に加えてセラミックス複合材料タイプの低放射化材料の開発も進めている。
 さらに,照射下での材料挙動をサイクロトロン加速器を用いた実験と計算機シミュレーションによって実施し,最近数十度Cでの照射誘起変形を理論的に予測して注目を集めている。

(二)トリチウム
 トリチウムの取扱い技術については,我が国には技術蓄積が少なかったため,原研にトリチウムプロセス研究棟(TPL)を完成させ,16gのドリチウムを貯蔵して燃料ガス精製実験,水素同位体分離実験などを実施している。また,1987年度から米国ロスアラモス研究所のトリチウム技術試験施設(TSTA)における日米研究協力により,大型トリチウム・ループ試験及び原研開発の燃料精製システムの持込み試験,長時間連続ホット試験(1kg/日)を実施している。

(ホ)炉設計

 炉設計技術については,我が国の水準は高く,国際原子力機関(IAEA)で1978年から約10年間にわたって行われた国際トカマク炉(INTOR)の共同設計に当たってワークショップの主導的役割を果たした。また,1988年度から開始した国際熱核融合実験炉(ITER)共同概念設計活動においても,実質的な中心である運営委員会の議長を我が国代表がつとめるなど,積極的に貢献してきた。
1991年からは工学設計活動が開始される予定である。さらに,3大トカマクなどを中心とした最新のデータベースを基に核融合実験炉の概念検討が原研で進められている。

(ヘ)その他の炉工学研究
 その他,炉構造,遠隔操作技術に関する研究開発も遅れて開始されたが,炉内モジュール固定法やマニピュレータガイド用レールなどが開発されてきている。また,耐放射線材料や計測センサーなどの開発も行われている。


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