第5章 核融合,原子力船及び高温工学試験研究
2.原子力船

(1)原子力船「むつ」による研究開発

 1974年9月,出力上昇試験中に遮へいの不備によって放射線漏れが発生した原子力船「むつ」は,修理のため長崎県の佐世保港に回航され,1982年7月,すべての修理,点検作業を終了した。その後,1982年8月30日,科学技術庁,日本原子力船研究開発事業団と地元側三者(青森県,むつ市,青森県漁連)の間で「原子力船「むつ」の新定係港建設及び大湊港への入港等に関する協定書」(五者協定)が締結されたのを受け,原子力船「むつ」は1982年9月6日大湊港に入港し,また,新定係港については,1984年2月以降青森県むつ市関根浜に建設を進めた。
 原子力船「むつ」による研究開発の在り方については,1983年以来,各方面においてさまざまな議論があったが,原子力委員会においても,1984年1月24日,今後の原子力船研究開発の在り方について決定を行っている。
 一方,自民党内においては,1984年度予算折衝の過程における党4役折衝の結果を受け,1984年5月に発足した「原子力船「むつ」に関する検討委員会」(当時,三塚博委員長)は,各種検討を実施した上で,同年8月,「将来の舶用炉開発のため,必要にして最小限のデータ,知見を得ることを目的とした新実験計画を確定する」ことを内容とする報告を取りまとめた。
 さらに,国会においても,日本原子力船研究開発事業団を日本原子力研究所に統合(1985年3月31日統合)するための改正法案の審議過程等を通じて,原子力船「むつ」による研究開発の進め方について,さまざまな議論が行われた。
 内閣総理大臣及び運輸大臣は,こうした動きを踏まえ,1985年3月31日に「日本原子力研究所の原子力船の開発のために必要な研究に関する基本計画」を策定し,次により推進することとした。
 ① おおむね1年を目途とする実験航海を行う。
 ② ①の実験航海に必要最小限の規模の関根浜新定係港を建設する。
 ③ 実験航海終了後直ちに解役を行う。
 現在,「むつ」による研究開発は上記基本計画に沿って推進しており,1988年1月,関根浜定係港の港湾施設の完成を受け,「むつ」を大湊港から同港に回航し,原子炉容器蓋開放点検,船体点検,起動前機能試験等所要の点検・整備を実施した上で,1990年3月29日,関根浜定係港岸壁において1974年以来16年ぶりに出力上昇試験を再開した。その後,原子炉熱出力を段階的に上昇させ,10月5日には,出力約100%を達成するなどし,12月13日全ての出力上昇試験及び海上試運転を終了した。
 これらの出力上昇試験及び海上試運転の結果,「むつ」の原子力船としての性能が確認され,1991年2月14日,原子炉等規制法に基づく使用前検査合格証,船舶安全法に基づく船舶検査証書の交付を受け,「むつ」は日本初の原子力船として完成し,2月25日から海洋環境下における振動・動揺・負荷変動等が原子炉に与える影響等に関する知見を得るため,概ね1年間の実験航海を実施している。
 実験航海においては,5回程度の航海において測定実験を行うとともに,最終航海終了後,岸壁にて基礎データ測定を行うこととしている。
 そのうち,第1次から第3次までの実験航海を次のとおり実施した。
①第1次実験航海(1991年2月25日~3月11日)
②第2次実験航海(1991年5月22日~6月20日)
③第3次実験航海(1991年8月22日~9月25日)
 実験航海終了後,「むつ」は関根浜港において解役する予定である。
 なお,1989年2月27日,関根浜附帯陸上施設の設置等に係る原子炉設置変更許可処分について,取消を請求する行政訴訟が青森地裁に提訴され現在係争中である。


目次へ          第5章 第2節(2)へ