はじめに

1.原子力は,我が国の総発電電力量の26.6%(1990年度実績)を賄うなど,主要なエネルギー源の一つとしての役割を果たしているとともに,放射線についても,重粒子線がん治療装置や大型放射光装置の建設など,医療,農業,工業等の分野でその利用が着実に進展しており,原子力開発利用は我が国の国民生活の向上,経済の発展に大きく寄与している。

2.一方,湾岸危機においては,大きな経済的混乱はなかったものの,脆弱なエネルギー供給構造を有する我が国にとって,エネルギー安定供給の確保が重要な課題であることが再認識された。湾岸危機はまた,核兵器の拡散の懸念について世界の世論を喚起し,核不拡散体制のより一層の強化の重要性を認識させた。さらに,地球環境保全の観点からも,原子力を始めとする非化石エネルギーへの依存度の向上が重要になっている。

3.他方,本年2月の美浜発電所2号炉蒸気発生器伝熱管損傷は,国民の原子力発電に対する不安感を増幅させる結果となった。しかし,増大するエネルギー需要に応え,安定供給を図って行くためには,原子力は今後益々重要性を増していくものと見られ,原子力に対する国民の理解と協力の増進を図ることは緊急の課題となっている。
 このため,事故等が起きないように万全の対策を行い,安全確保の実績を着実に積み重ねていくとともに,情報の正確かつ的確な提供等による理解を深めていくことがより重要となっている。

4.本年の夏は比較的涼しく電力需給は平穏に推移したが,我が国のエネルギー供給構造の脆弱性や,電力需給の逼迫化など,我が国のエネルギー情勢に鑑みれば,今や,消費者一人一人にエネルギーについて考えてもらうべき時代にきていると考えられる。

5.以上のような状況を踏まえて,原子力委員会は,本年報において,内外のエネルギー,原子力をめぐる情勢変化を概観した上で,原子力開発利用の状況を整理した。特に,国民の理解と協力について,現状を把握し,今後の課題について述べるとともに,着実に進展している放射線利用についても詳述した。


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