第1章 原子力に期待される役割と国民の理解と協力の増進
1.原子力をめぐる内外の情勢変化

(2)我が国の原子力発電をめぐる状況

(エネルギー情勢)
 我が国のエネルギー需要(最終エネルギー消費)は,第2次石油危機以降数年間は,省エネルギーの進展,産業構造の変化等を反映して,穏やかな伸びで増加したが,1987年度以降,年率5%前後の伸びで推移し,1990年度は3.8%の伸びで増加した。これは,内需主導型の景気は全体としては拡大基調であることによるもので,エネルギー需要は依然高い水準で増加していると言える。これに対し,供給面では,1990年度の一次エネルギー供給は,原油換算5.26億キロリットルと初めて5億キロリットル台となり,前年度比5.3%の伸びとなった。一次エネルギー供給に占める石油の割合は,58.3%となり,1986年度以来5年連続の上昇となった。

 このように高い伸びで推移するエネルギー需要の中で発生した湾岸危機において,我が国は,イラクに対する制裁措置として,イラク・クウェートからの原油の全面禁輸等を行った。我が国は両国から日量380万バーレルの原油を輸入しており,その減少量は全輸入量の12%に及んだものの,我が国の石油備蓄量が十分であったこと,原子力を始めとする石油代替エネルギーの開発・導入により石油依存度が低下していたこと,さらにはサウジアラビア等の産油国の増産により,むしろ,原油市場が供給過剰であったことなどの背景に加え,政府の省エネルギーの呼びかけ,石油調達努力の要請等の対応の結果,今回の湾岸危機は,我が国において大きな経済的混乱を起こすものではなかった。しかし,今回の湾岸危機は,我が国のエネルギー供給構造の脆弱性を改めて認識させる結果となった。

(電力需給状況)
 1990年度の総需要電力量の伸び率は7.2%と,4年連続で年率5%以上の高い伸び率となった。これは,堅調な個人消費等に支えられて,内需主導型の景気拡大が進行したことに加え,猛暑により夏季需要が伸びた結果である。部門別の需要電力量を見ると,産業用需要は景気拡大を反映し6.2%の伸びで増加し,民生用需要は,オフィス,家庭における冷房需要の大幅な増加などにより,8.6%の高い伸びで増加し,全体の伸び率を引き上げた。また,最大電力の伸び率は,冷房機器の普及拡大による夏季需要の伸び等により12.1%となっており,需要電力量の伸びを上回っている。
 一方,発電電力量(電気事業用)は,1990年度には7,576億キロワット時,伸び率7.7%となった。この中で,原子力発電は着実に増加しており,1990年度末には,商業用発電設備容量が3,148万キロワットと3,000万キロワットを超え,加えて,設備利用率が72.7%と順調な稼動であったこともあり,発電電力量が2,014億キロワット時に達し,原子力発電の総発電電力量に占める割合は26.6%と6年間連続で25%以上を占めた。また,湾岸危機による石油市場の不安定化にもかかわらず,安価な石油価格を反映して,石油火力発電への依存も再び増加しており,石油火力発電による発電電力量は,7年ぶりに2,000億キロワット時を超え,石油火力発電の総発電電力量に占める割合も5年連続の増加となった。
 以上のように,増加し続ける電力量に加え,1990年夏季には,好景気による生産活動の堅調さ,並びに,異例の猛暑による冷房需要の増大が要因となり,最大電力が大幅に増加した。このため,東京電力(株)及び中部電力(株)においては,それぞれ5回,6回にわたり需給調整契約を発動するとともに,電力会社間の応援融通を行った。これにより,電圧低下,停電などの供給支障は生じなかったものの,近年約10%を確保していた供給予備率が3%以下にまで低下する電力会社も出るなど,電力需給は逼迫した。
 しかし,現代の高度情報化社会において,電気は常時不可欠なエネルギーであり,しかも,停電はおろか,瞬時の電圧低下も,コンピュータ等に大きな影響を与えることを考慮すると,従来以上の高い品質の電力供給が求められている。このため,1991年夏季には,昨年の状況を踏まえ,休止火力発電所の復活,定検時期の調整,試運転電力の活用,電力会社間融通,需給調整契約の活用等の対策を図り,関西電力(株)美浜発電所2号炉等の停止による計画供給力の減少分を補い,供給予備率約9%(9電力)を確保していた。特に,原子力発電所は,前述の美浜2号炉,同高浜2号炉及び北海道電力(株)泊2号炉の3基を除いて,39基(動力炉・核燃料開発事業団のふげん及び試運転中の関西電力(株)大飯3号炉を含む)が発電した。本年においては,8月が猛暑とならず,7月24日に最大電力需要が記録された。この日においても,予備率が計画より低下したものの,供給力が充分に確保されていたこともあり,昨年のような需給調整契約の発動もなく,安定供給が確保された。

(石油代替エネルギーの供給目標)
 我が国のエネルギー需給の長期見通しについては,1990年6月に総合エネルギー調査会が中間報告を取りまとめた。通商産業省はこれに更に検討を加え,「石油代替エネルギーの供給目標」について,1990年10月30日の閣議決定を経て改定を行った。これらによると,21世紀初頭までの我が国のエネルギー需要は,国民生活の充実等,民生部門を始めとして大幅な増大が見込まれ,また,世界のエネルギー需要も開発途上国を中心に増大傾向が続き,エネルギー制約の顕在化が懸念されるため,脆弱なエネルギー供給構造を有する我が国にとって,エネルギーの安定供給の確保は重要な課題であり,さらに,地球環境問題に関して,持続的な経済発展を確保しつつ,人間活動と環境保全の両立を図るため,エネルギー政策においても最大限の対応が必要であるとしている。このような基本的考え方に基づき,エネルギー需要の増大を最大限抑制し,石油依存度の低減及び新・再生可能エネルギーの導入を最大限図る等の総合的エネルギー政策を推進する必要があり,2010年度の一次エネルギー総供給は,6.57億キロリットルと見通し,原子力については,2010年度において,出力7,250万キロワット,年間発電電力量4,740億キロワット時(石油換算11,100万キロリットル)を目標としている。本目標は,民間の最大限の理解と努力,政府の重点的かつ計画的な政策の遂行及び官民の協力の一層の強化を前提とし,環境の保全に留意しつつ達成すべき目標と位置付けられている。


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