第2章 我が国における原子力開発利用の現状
4.国際社会への主体的貢献

(1)国際協力の推進

 世界的にエネルギー需要の着実な増加が見込まれる中,原子力発電は主要なエネルギー源の一つとしての役割を担っており,発電以外の分野でも放射線の利用等,原子力の平和利用は人類に利益をもたらすものとして,開発利用の進展が図られている。
 原子力開発利用は,近年の高度化・広範囲化に伴い,各国毎に取り組むだけでなく,相互依存関係の中で国際協力による研究開発や共通の課題への取組が重要と認識されている。原子力先進国である我が国は,こうした認識に応えるため主体的・能動的な取組が求められており,国際社会に貢献していく必要がある。

①先進国との協力
 近年の科学技術力及び経済力の向上を背景として,プロジェクトの大規模化に伴う資金や人材の確保,研究開発の効率化等の原子力の研究開発の特質を踏まえ,従来の「キャッチ・アップ型」の協力から主体的・能動的に国際協力を進めることが必要とされるに至っている。
 先進国との協力については,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団等が中心となり,米国,ドイツ,フランス,イギリスなどの原子力開発利用先進諸国と軽水炉,高温ガス炉,高速増殖炉,再処理などの多岐の分野で情報交換,人材交流,研究協力等の二国間協力を積極的に行ってきている。また,1991年4月には,日ソ原子力協力協定,チェルノブイル原子力発電所事故に係る協力に関する覚書を締結しており,今後,日ソ間において,研究協力等が一層推進されることが期待されている。我が国としては,今後とも,先進諸国との協調の下,研究協力等を積極的に進めることにより原子力開発利用の進展を図ることとしている。
 また,二国間協力以外に,協定等に基づく政府レベルの多国間協力や国際機関を通じた協力については,科学技術分野における世界への貢献,原子力開発利用に当たっての人類共通の課題解決等,その重要性が今後ともますます高まるものと考えられており,原子力発電の安全面の協力,高速増殖炉開発に関する協力等に加え,原子力分野の最先端技術研究開発の協力にも取り組んでいる。
 国際機関を通じた協力として,国際原子力機関(IAEA)の支援の下で1988年4月より開始した日本,米国,EC,ソ連の4極共同による国際熱核融合実験炉(ITER)の概念設計が1990年12月に終了した。次の段階である工学設計活動については,ITERの共同建設を開始するか否かに必要な全ての技術的情報を整える活動であり,設計活動及び支援R&Dに約6年の期間を要すると考えられている。本活動に関する協力方策について,1991年2月より4極協議を進めてきた結果,7月の第3回会合において,共同設計サイトを,日本茨城県那珂町(日本原子力研究所那珂研究所),米国カリフォルニア州サンディエゴ,ECドイツ・ガルヒンクの3カ所に設置し,我が国は真空容器の外側の機器の設計を担当すること,主要人事については,評議会共同議長,管理諮問委員会議長(評議会共同議長兼任)及び主席副所長のポストを我が国が担当することが実質的に合意された。今後,各極は所要の国内手続きを経て,可及的速やかに正式調印を行う予定である。
 この他,東欧及びソ連にある旧型のソ連製加圧水型軽水炉の安全性評価に関し,IAEAでは昨年9月より,特別プロジェクトを実施しているが,我が国では,本プロジェクト安全評価調査団等への日本人専門家の派遣等を通じた協力を実施している。
 また,我が国は,高レベル放射性廃棄物に含まれる核種の半減期,利用目的等に応じた分離を行い,長寿命核種の短寿命核種または非放射性廃棄物への変換を行う技術(核種分離・消滅処理技術)に関して,情報交換による国際協力計画を経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)において提案し,1989年6月にオメガ計画として発足した。そして,1990年11月には,第1回情報交換会議が我が国において開催された。
 民間における国際協力においては,ソ連,東欧諸国を含めた世界規模での原子力発電の安全性向上のための電気事業者間の情報交換を行う世界原子力発電事業者協会(WANO)が設立され,1989年4月より東京にアジア地域のセンター (東京センター)が発足したところであり,現在,各地域センター間で原子力発電所の交換訪問が行われており,今後ともこれらの活動を通じ,世界の原子力発電の安全性向上に貢献することが期待されている。
 また,我が国は現在,IAEA事務次長,OECD/NEA事務局長等の枢要な役職を含めて,事務局職員を派遣し機関の運営や政策の決定に貢献するとともに,WANOにおいても,総裁に選出されるなど人的貢献を着実に進めてきており,今後とも,より一層の人的貢献が期待される。

②開発途上国等との協力
 現在,我が国は,インドネシア,マレイシア,タイ,韓国,中国等と研究利用,放射線利用,安全研究,廃棄物処理処分,ウラン鉱資源調査等の分野で協力を行っているが,韓国・中国等近隣アジア諸国において原子力発電所の運転・建設や導入の検討が進められていることから,安全性の確保の分野での協力も重要となってきている。このため,国際原子力機関(IAEA)の支援の下で実施されている「原子力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」を1978年に締結し,積極的に広くアジア・太平洋地域との協力を行っている。
 また,近隣アジア諸国における地域協力については,原子力委員会の主催で,昨年に引き続き1991年3月に第2回アジア地域原子力協力国際会議が東京で開催され,中国,インドネシア,韓国,マレイシア,フィリピン,タイ,オーストラリア及び我が国の近隣アジア諸国における地域協力の今後の進め方について,意見交換を行った。また,韓国との間では,1990年5月,日韓原子力協力取極が締結され発効した。取極における協力分野は,原子力発電所の安全性,放射線防護及び環境モニタリング,放射性同位元素及び放射線の利用等であり,情報交換,専門家交流,共同研究等の方法で実施していくこととしている。


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