第2章 我が国における原子力開発利用の現状
1.我が国における原子力発電の現状

(1)軽水炉等による原子力発電の動向

①原子力発電の現状
 我が国の原子力発電は,1991年に入って1基が運転を開始したことにより,1991年5月末現在,運転中の商業用発電炉は40基,設備容量は3,205万9千キロワット,新型転換炉原型炉「ふげん」を含めると,41基,3,222万4千キロワットとなっている。これに建設中及び建設準備中のものを含めた合計は,商業用発電炉で53基,4,590万8千キロワット,研究開発段階発電炉を含めると,55基,4,635万3千キロワットである。
 原子力発電は,1990年度末現在,総発電設備容量(電気事業用)の18.O%,1990年度実績で,総発電電力量(電気事業用)の26.6%を占め,主力電源として着実に定着してきている。また,1990年度の設備利用率は,72.7%で,1983年度実績で70%を超えて以来,8年間続いて70%台の高い水準で推移してきている。設備利用率が1989年度に比べ増加した主な原因は,定期検査による停止期間の割合が減少したことによると考えられる。

②原子力発電の経済性
 通商産業省の試算結果では,原子力発電が9円/キロワット時程度,石炭火力及びLNG火力発電が10円/キロワット時程度,石油火力発電が11円/キロワット時程度となっている。
 以前に比べて他の電源との発電原価は接近してきているものの,この試算には,20銭/キロワット時程度の原子力発電所の廃止措置費用が含まれており,また,上記試算に含まれていない放射性廃棄物の最終処分に係る経費を含めても,原子力発電は同等以上の経済性を有する電源となっている。

③立地の促進等
 政府及び事業者は,原子力施設の立地を促進するため,各種メディア,原子力モニター制度等を活用して,地元住民を始めとする国民の理解と協力を得るための努力を重ねている。
 また,立地地域の振興対策の拡充を図るため,電源三法の活用等が逐次図られている。
 1986年に発生したチェルノブイル原子力発電所事故以降,国民全体に,原子力発電の安全性,放射能汚染等に対する不安,懸念が広がったため,これに対し,原子力発電の安全性,必要性等に係る説明会,パンフレットの配布等を適宜実施している。

④軽水炉技術の研究開発
 我が国では,政府,電気事業者,原子力機器メーカー等が協力して,自主技術による軽水炉の信頼性,稼動率の向上及び従業員の被ばく低減を目指し,軽水炉の改良標準化計画を第1次から第3次まで実施してきた。
 これらの成果は,現在運転中又は建設中の在来型軽水炉の一層の改良に反映されるとともに,特に,第3次計画においては改良型軽水炉(ALWR)の開発が進められた。東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所6号炉(1996年運転開始予定)及び7号炉(1997年運転開始予定)は,このALWRの初号炉であり,原子炉圧力容器内蔵型冷却材再循環ポンプ,改良型制御棒駆動機構等の新技術が採用されている。
 また,軽水炉は今後長期にわたって原子力発電の中核を担うこととなると考えられるが,軽水炉技術高度化のあり方を検討するため,1984年2月に総合エネルギー調査会原子力部会の下に,軽水炉技術高度化小委員会が設置され,同小委員会は1986年3月に「21世紀への軽水炉技術高度化戦略」をとりまとめた。さらに,その後の国内外の原子力発電を巡る情勢等の変化を踏まえ,1991年6月に報告書をとりまとめた。それによると,今後の軽水炉技術の開発に当たっては,経験の蓄積を積極的に活用し,安全性の原則を再認識し,新しい知見・技術を取り入れていくことが重要とし,安全性確保の更なる取組として,故障・トラブル対策の高度化,ヒューマンファクターに係る対策の高度化,安全設計の高度化,静的安全性の可能性の追求及び廃炉対応の高度化を挙げている。

⑤原子炉の廃止措置
 原子炉の廃止措置に関する技術開発については,実際の商業用発電炉の廃止措置が必要となる時期を考慮し,1990年代後半に向けて技術の向上を図ることとしており,1981年度から,日本原子力研究所が動力試験炉(JPDR)をモデルとしてその研究開発に取り組んでいる。
 同研究所では,1986年度からJPDRの解体実地試験を行っており,圧力容器の解体を終えて,1991年2月から放射線遮蔽体の解体作業に着手している。
 (財)原子力工学試験センターにおいては,廃止措置に係る技術のうち,安全性,信頼性の観点から特に重要な炉内構造物切断技術,解体廃棄物処理技術等について確証試験を進めている。
 電気事業者においては,原子炉の廃止措置費用について,世代間負担の公平を図るため,発電を行っている時点で,引当金を積み立てる方式によって料金原価に算入することとし,1989年3月期決算から原子炉廃止措置費用引当金の計上を開始した。
 また,1988年度に,官民の参加により(財)原子力施設デコミッショニング協会が設立され,研究開発用の原子力施設の廃止措置に関する研究成果の蓄積・普及等を行っている。


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