平成6年版

原 子 力 白 書
     
平成6年11月

原子力委員会
 

平成6年版 原子力白書の公表に当たって

 人類は豊かで潤いのある生活を営んでいくためにエネルギーなど生活の基盤を確保していかなければなりませんが,21世紀にかけて予測される世界人口の大幅な増加などの事態に直面して,石油などの貴重な資源を大切にし,また地球環境との調和を図りながら,地球と人類がともに生きていくという考え方が大変重要になってきています。
 原子力は今日,世界全体の総発電電力量の17%を賄っています。人類が21世紀に向けて,人口増加や環境,資源の制約などの諸課題に対処しながら,生活基盤の維持・形成を図っていく上で,原子力は不可欠なエネルギーの供給源として,その役割は決して小さくありません。
 我が国では原子力発電が始まってから,30年あまりが過ぎましたが,既に平成5年度には我が国の総発電量の31.2%を担うに至っています。
 また,原子力はエネルギーとしての利用だけでなく,放射線の利用による病気の診断や治療,農作物の品種改良や害虫の防除,環境保全のための排煙の処理など幅広い分野での応用,普及が図られています。
 このように原子力は既に私たちの生活に深く係わった不可欠なものとなりつつあります。
 原子力委員会は,このような原子力の役割についての認識の下に,本年6月24日,21世紀に向けて,我が国の原子力開発利用を,エネルギー供給の安定確保と国民生活の質の向上のみならず人類社会の福祉の向上を目標として,平和利用の堅持と安全の確保の大前提の下に進めていく基本方策について示した新しい長期計画を決定しました。
 この長期計画は,広く国民の皆様からも直接に意見を求めるなど様々な視点を加味し,「国民とともにある原子力」であるべきとの認識の下に,原子力開発利用についての明確な理念や哲学を示すとともに,世界に対しても我が国の立場を伝えたいとの意図をもって定められたものです。
 本年の原子力白書は,この長期計画を中心に据え,その基本的考え方や具体的計画の内容をできるだけ分かりやすい形でお示しするとともに,長期計画に基づいた当面の重要課題への取り組みについての考え方についても言及しました。さらにこの1年間における内外の原子力開発利用の進捗状況についてもお示ししています。これらの中で,透明性,情報の公開という観点から,我が国の原子力政策の基本である核燃料リサイクルについて,プルトニウムの管理の状況を本書において初めて具体的に示しました。
 本書が広く国民の皆様にとって,原子力と生活との係わり,さらには地球の将来に果たす役割をお考え頂く一助となれば幸いに存じます。

平成6年11月25日

国 務 大 臣
科学技術庁長官 田中 眞紀子
原子力委員会委員長
 

本書の構成と内容

 本書は,この1年の原子力全般に関する動向を取りまとめたものである。
 本書の構成としては,「本編」と「資料編」とした。
 まず,本編として第1章においては,本年6月に策定された「原子力の研究,開発及び利用に関する長期計画」の基本的考え方や政策の展開等について図,表等を用いて分かりやすく取りまとめた。
 第2章においては,「核兵器の不拡散をめぐる内外情勢」,「原子力安全確保」,「情勢の公開と国民の理解の増進」,「原子力発電の現状と見通し」,「軽水炉体系による原子力発電」,「核燃料リサイクルの技術開発」,「バックエンド対策」,「原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究」,「原子力分野の国際協力」,「原子力開発利用の推進基盤」及び「我が国の原子力産業」について,それぞれの最近の動向を中心に具体的に説明している。
 また,資料編では,原子力委員会の決定,原子力委員会委員長談話,原子力関係予算及び年表等をまとめた。
 なお,原子力開発利用については,安全の確保が大前提であり,原子力安全委員会,安全規制当局,研究開発機関,電気事業,メーカー等は国民の期待に応えてそれぞれの立場で安全の確保に努めている。
 それについては,別に「原子力安全白書」において取り扱われているので,本書においてはその詳細に立ち入ることは避け,原子力委員会に関する基本的事項にとどめることにした。

 

 
目   次

第I部 本  編
 
第1章 新しい長期計画の策定
 
1.新長期計画の基本的考え方
   (1)新長期計画の時代的,国際的環境
   (2)人口,エネルギー,資源,環境と原子力
   (3)新長期計画に示した我が国の原子力開発利用の在り方
2.新長期計画策定の経緯
   (長期計画懇談会の設置)
   (国民からの意見募集の実施と「ご意見をきく会」の開催)
   (意見募集と「ご意見をきく会」で頂いた御意見への対応)
   (長期計画策定過程の透明性向上)
3.新長期計画に基づく当面の原子力政策の展開
   (我が国の原子力開発利用の大前提に対する認識)
   (核不拡散への取組)
   (国民の理解の増進と情報の公開,提供)
   (核燃料リサイクルの展開)
   (高レベル放射性廃棄物対策)
   (放射線利用等に関する研究開発の取組)
   (国際協力への取組)
 
第2章 新長期計画策定の背景としての内外の原子力開発利用の現状
 
1.核兵器の不拡散をめぐる内外情勢
   (1)NPT体制の維持・強化に向けた動向
   (2)新たな核不拡散努力
   (3)北朝鮮の核兵器開発疑惑
   (4)我が国の核不拡散への取組
2.原子力安全確保
   (1)原子炉施設等の安全確保
   (2)原子力の安全研究等
   (3)環境放射能調査
   (4)原子力安全確保に係る国際協力
3.情報公開と国民の理解の増進
   (1)原子力開発利用に対する最近の世論の状況
   (2)国民の理解の増進と情報の公開の基本的考え方
   (3)原子力に対する国民の理解の増進のための活動の状況
4.原子力発電の現状と見通し
   (1)我が国の原子力発電の状況
   (2)原子力発電の将来見通しと原子力施設の立地の促進
   (3)世界の原子力発電の状況
5.軽水炉体系による原子力発電
   (1)軽水炉技術の向上
   (2)ウラン資源の確保と利用
   (3)ウラン濃縮と核燃料成形加工・再転換
   (参考)世界のウラン濃縮の状況
6.核燃料リサイクルの技術開発
   (1)使用済燃料の再処理
   (2)軽水炉によるMOX燃料利用と新型転換炉の開発
   (3)高速増殖炉の開発
   (4)核燃料物質等の輸送
   (5)核燃料リサイクルをめぐる国際動向
   (参考)諸外国の動向
7.バックエンド対策
   (1)放射性廃棄物の処理処分対策
   (2)原子力施設廃止措置対策
   (参考)諸外国における原子力バックエンド対策動向
8.原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
   (1)基礎研究・基盤技術開発
   (2)原子力利用分野の拡大に関する研究開発等の状況
   (3)放射線利用の現状と研究開発
   (4)核融合研究開発
9.原子力分野の国際協力
   (1)国際協力による研究開発の推進
   (2)近隣アジア諸国及び開発途上国との協力
10.原子力開発利用の推進基盤
   (1)人材の養成と確保
   (2)資金
   (3)研究開発推進体制と研究基盤の高度化
11.我が国の原子力産業
   (1)原子力機器供給産業
   (2)核燃料サイクル事業
   (3)RI・放射線機器産業
   (4)今後の展開
 
第II部 資  料
 
1.原子力委員会,原子力安全委員会及び原子力関係行政組織
   (1)原子力委員会
   (2)原子力安全委員会
   (3)原子力関係行政組織(1994年9月現在)
2.原子力委員会の決定等
   (1)原子力委員会決定等一覧(原子炉等規則法に係る諮問・答申を除く)
   (2)原子力委員会決定
   (3)原子力委員会委員長談話
   (4)原子炉等規制法に係る諮問・答申について
   (5)専門部会報告書等
3.原子力関係予算
   (1)1994年度原子力関係予算総表
   (2)1994年度原子力関係予算重要事項別総表
4.その他
   (1)国際原子力機関主催の主要な国際会議,シンポジウム一覧
   (2)我が国の原子力発電所の現状
   (3)我が国の原子力発電所の時間稼動率及び設備利用率(過去10年間)
   (4)各国のエネルギー計画
   (5)各国の原子力発電所の設備利用率(過去10年間)
   (6)我が国における核燃料物質保有量一覧表
   (7)原子力開発利用年表