第2章 新長期計画策定の背景としての内外の原子力開発利用の現状
6.核燃料リサイクルの技術開発

(2)軽水炉によるMOX燃料利用と新型転換炉の開発

 我が国は,核燃料リサイクルを推進するため,使用済燃料の再処理を行い回収されるプルトニウムを利用することとして,段階的に開発努力を積み重ねている。
 プルトニウムの利用形態に関しては,ウラン資源の利用効率が特に高い高速増殖炉での利用を基本とし,高速増殖炉の実用化を目指すこととしているが,また,将来の高速増殖炉の実用化に向けて,実用規模の核燃料リサイクルに必要な技術の確立,体制の整備等を行うため,軽水炉及び新型転換炉におけるプルトニウム利用を進めることとしている。


*実際に放射性物質を用いて行う試験。

①軽水炉によるMOX燃料利用
 軽水炉におけるMOX燃料の利用は,将来の高速増殖炉の実用化に向けた実用規模の核燃料リサイクルに必要な技術の確立,体制の整備等の観点から重要であり,また,プルトニウムをMOX燃料としてリサイクルしていくことが,核不拡散上にも意義があることを考慮しつつ,軽水炉でのMOX燃料利用を弾力的に運用していくことが重要である。
 軽水炉でのMOX燃料利用は,海外において既に1,000体を超える実績があり,我が国において実施した少数体規模での実証計画において炉心特性,燃料のふるまい等について良好な成果が得られていることから,現在の軽水炉において,MOX燃料を利用することについては特段の技術的問題はなく,着実に計画を進めていく段階にある。
 具体的には,1990年代後半からPWR及びBWRそれぞれ少数基において利用を開始し,2000年頃に10基程度,その後は,再処理の状況等を勘案し,2010年までには十数基程度の規模にまで計画的かつ弾力的に拡大することとしている。これらの計画の円滑な実施に向けて各電気事業者が主体的に取り組むとともに,また,関係省庁において的確な支援を行うことが重要である。

②新型転換炉の開発
 新型転換炉(ATR)は,プルトニウム,回収ウラン等を柔軟かつ効率的に利用できるという特長を持つ原子炉として自主開発を進めてきている。
 これまで,原型炉「ふげん」(16万5千キロワット)の設計・建設・運転の成果に基づき実用化に向けての技術的見通しが得られている。
 新長期計画では電源開発(株)が実証炉(電気出力約60万キロワット)を青森県大間町に2000年代初頭の運転開始を目標に建設計画を進めることとしており,その後の計画については,実証炉の建設の状況,実用化に向けての経済性の見通し,核燃料リサイクル体系全体の開発状況等を踏まえつつ対処していくとしている。

(i)原型炉の運転
 原型炉「ふげん」は,1979年3月に本格運転を開始し,1994年7月末までに累積で579体のMOX燃料を装荷するなど,プルトニウムを柔軟かつ効率的に利用する炉として順調に運転されている。これまでの運転を通じ,プラントシステム,機器及びMOX燃料等の性能と信頼性の実証及び運転経験の評価を行い,さらにこれらの成果を実証炉開発に反映してきている。
 今後,核燃料リサイクル上の柔軟性をいかした技術の実証や新型転換炉の基盤技術の高度化を目指し,実証炉開発にも有効に活用するために運転を継続していくことが計画されている。

(ii)実証炉の開発
 実証炉については,電源開発(株)が青森県下北郡大間町を建設予定地として,基本設計等を実施した。この基本設計及び立地交渉の進展等を踏まえ,1985年5月の第4回ATR実証炉建設推進委員会(電源開発(株),電気事業連合会,動力炉・核燃料開発事業団,科学技術庁,通商産業省で構成)において同実証炉の建設計画が決定された。電源開発(株)は,これを受けて大間町等地元に対し建設計画への協力要請を行い,実証炉の建設に向けて本格的に動き出すことになった。同実証炉の建設計画はその後の地元の状況等を踏まえ修正されたが,本年5月の漁業補償問題の解決等を経て現在2000年代初頭の運転開始を目途に,着工に向けての諸準備が鋭意進められている。実証炉の設計は,大型化に伴う改良,「ふげん」の実績と軽水炉の経験の反映,設計の合理化の成果を織り込んだものである。

 また,実証炉のための研究開発は,動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センターの重水臨界実験装置,新型転換炉安全工学実験施設等の試験施設を中心として,燃料の改良に必要な研究,安全審査に必要な確証試験等が進められている。

③MOX燃料加工
 MOX燃料の原料となる酸化プルトニウムは,海外再処理で回収されたもの及び東海再処理工場から回収された硝酸プルトニウムを動力炉・核燃料開発事業団が独自に開発した「マイクロ波加熱直接脱硝法」によって混合転換したものを使用している。
 本技術の実用化を図るためのプルトニウム転換技術開発施設は,1983年4月からの試験運転以後,1994年3月末までに約9,050キログラムの混合転換粉を製造している。
 我が国のMOX燃料加工の研究開発は,動力炉・核燃料開発事業団を中心として実施されてきており,その加工実績も1994年3月末までの累積で約130トンMOXに達しており,我が国は世界的にみてトップレベルにある。
 現在の製造設備能力は,新型転換炉原型炉「ふげん」用燃料製造施設の10トンMOX/年(プルトニウム燃料第二開発室)及び高速増殖炉燃料製造施設の5トンMOX/年(プルトニウム燃料第三開発室FBRライン)である。
 また,軽水炉によるMOX燃料利用計画及び2000年過ぎに六ケ所村の再処理工場が操業開始予定であることを踏まえ,年間100トン弱程度の国内MOX燃料加工の事業化を図る必要があり,現在,電気事業者を中心とした民間関係者により,加工事業主体の設立に向け,検討が進められている。
 また,海外再処理により回収されるプルトニウムについては,基本的には海外においてMOX燃料加工し,海上輸送を行い,軽水炉で利用する予定である。


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