第2章 新長期計画策定の背景としての内外の原子力開発利用の現状
4.原子力発電の現状と見通し

(3)世界の原子力発電の状況

 世界の原子力発電設備容量は,1994年6月末現在,運転中のものは,423基,3億5,419万キロワットに達している。また原子力発電は現在,30か国(地域)で行われており,原子力発電所を建設若しくは計画している国を合わせると37か国(地域)に上っている。

①米国
 1994年6月末現在,109基,1億475万キロワット(世界第1位)の原子力発電所が運転中である。1993年には6,103億キロワット時を発電し,同国の総発電電力量の約21%を供給している。平均設備利用率は70.5%であった。
 1993年1月に登場したクリントン政権は,エネルギー・環境政策上,原子力に対して高い優先度を与える必要はないとしながらも,将来のオプションとしては維持されるべきとしている。また,1993年10月に発表された「環境改善行動計画」においても,発電による炭酸ガス排出の抑制の面で,原子力が引き続き主要な役割を果たしていくとの認識を示している。
 1994年2月,米国エネルギー省(DOE)は1995会計年度予算原案を発表したが,短期的に商業利用の見込みのない原子力プログラムを削減するというクリントン政権の政策が色濃く反映され,実質的にすべての新型炉関連プログラムの中止が提案されるなどの内容が含まれていた。この政府原案は,その後エネルギー・水開発歳出法案として議会の審議に付されたが,下院と上院の議決内容が一致しながったため,結局,同年8月に開催された両院協議会において,モジュール型高温ガス炉(GTMHR)計画の継続及び一体型高速炉(IFR)/アクチニド・リサイクル計画の終了が決定された。この調整案は下院並びに上院の承認を経て最終予算案となり,同月大統領の署名によって成立した。

 米国ては,1974年以来,新規原子力発電所の発注がない状態が続いているが,2010年までに必要とされる新規電源2億キロワットに対応すべく,1990年代後半の着工を目標に改良型軽水炉(ALWR)の標準化プログラム等を推進している。この標準化プログラムに関し,1994年7月,米国原子力規制委員会(NRC)は,4件の検討対象のうちゼネラル・エレクトリック社のABWR,ABBコンバスチョン・エンジニアリング社のシステム80+に対して最終設計承認(FDA)を発行した。

②カナダ
 従来から自国の豊富なウラン資源と自主技術によるカナダ型重水炉(CANDU炉)を柱とした独自の原子力政策を一貫して採っている。
 1994年6月末現在,22基,1,671万キロワットのCANDU炉が運転中で,1993年には約886億キロワット時を発電し,総発電電力量の約17%を占めた。平均設備利用率は68.1%であった。
 CANDU炉を供給しているカナダ原子力公社(AECL)は,CANDU炉の輸出にも力を入れており,アルゼンチン,韓国,インド及びパキスタンで同炉が運転されているほか,ルーマニア及びトルコでも建設中あるいは計画中である。
 ダーリントン4号機(CANDU炉,94万キロワット)が1993年6月に営業運転を開始したことにより,カナダの既存の原子力発電計画はひとまず完了したことになり,今後の新規原子力発電所の建設計画についてはまだ明確にされていない。

③フランス
 エネルギー資源に乏しく,エネルギー自給率を改善するため原子力発電を積極的に導入している。1994年6月末現在,55基,5,979万キロワットの発電設備を有し,1993年には総発電電力量の約78%,3,502億キロワット時を原子力発電により賄っている。平均設備利用率は71.3%であった。
 フランスは,近隣欧州諸国への電力輸出にも力を入れており,1993年は総発電電力量4,506億キロワット時の約14%に当たる614億キロワット時を英国,イタリア,スイス,ドイツ等の国々へ送電している。
 フランス電力公社(EDF)は,当初,2000年まで18カ月ごとに1基のペースで原子力発電所を発注する予定であったが,経済不況等の影響により電力需要の伸びを下方修正せざるを得なくなり,1994年6月,今世紀中の原子力を含む国内用新規電源の発注を行わないことを決定した。
 フランスは,軽水炉開発に際して国内の原子力発電所の標準化を進めているが,さらに21世紀初頭の運転開始を目指して,ドイツと共同で欧州加圧水型炉(EPR)の開発を進めている。
 フランスは高速増殖炉開発においても先進的な地位にあり,最近の動きとしては,長らく運転停止状態にあったスーパーフェニックスが運転を再開し,1994年8月4日に臨界を達成したことが挙げられる。

④英国
 1994年6月末現在,ガス冷却炉(GCR)及び改良型ガス冷却炉(AGR)を中心に,34基,1,292万キロワットの原子力発電所が運転中であり,1993年には総発電電力量の約26%,798億キロワット時を供給している。平均設備利用率は68.4%であった。
 現在,建設中の原子力発電所は,英国初の軽水炉となるサイズウェルB(PWR,126万キロワット)1基のみであるが,1994年3月には燃料集合体の装荷作業が開始された。同発電所の全出力運転は1995年2月ごろに実施される見込みである。
 英国政府は,1993年3月に発表した石炭レビュー白書の中で原子力についても言及し,当初計画されたGCRの早期閉鎖についてそれを要求すべき経済的な理由・根拠が存在しないこと,地球環境問題への原子力の貢献が大きいことなどを挙げ,原子力の役割を評価している。
 1994年5月,英国政府は原子力政策の見直し(原子力レビュー)に向けての検討項目を発表した。この中で英国政府は,原子力発電の将来展望を経済性の観点から検討していくことを明らかにするとともに,これに並行して放射性廃棄物管理政策レビューも行っていく旨を表明しているが,具体的な作業日程は未定である。

⑤ドイツ
 1994年6月末現在,21基,2,378万キロワットの原子力発電所が運転中であるが,そのすべてが旧西ドイツ側である。1993年には1,450億キロワット時を原子力により発電し,総発電電力量の約30%を供給している。平均設備利用率は73.7%であった。
 1991年2月に表明された,使用済燃料の直接処分も選択肢として認めるなどを内容とする原子力法の改正の動きの中で,将来の原子力政策に関するコンセンサス形成のための協議が各政党間で1993年3月から行われてきたが,同年10月,社会民主党(SPD)は,協議で成立した妥協案は将来の原子力利用オプションを放棄するとした党議に反するとしてこれを拒否したため,政策協議は頓挫した。
 これを受け,政府は原子力法を改正するという当初の目的に戻ることとし,1993年12月,石炭産業への助成金に関する規定と原子力法改正を一括した法案を閣議決定した。そして,連邦参議院及び連邦議会の審議を経て,1994年5月,成立した。

⑥イタリア
 主要先進国(G7)の中では,現在唯一原子力発電所の運転を行っていない。1987年の国民投票の結果を受け,5年間の新規原子力発電所建設禁止(モラトリアム)が決定され,運転中の3基は閉鎖された。
1992年12月にモラトリアムは終了したが,原子力発電計画の再開に向けての見通しは立っていない。

⑦スウェーデン
 1994年6月末現在,12基,1,037万キロワットの原子力発電所が運転中であり,1993年には589億キロワット時を発電し,同国の総発電電力量の約42%を供給している。平均設備利用率は67.4%であった。
 1980年3月の国民投票の結果を受け,同年6月にスウェーデン国会は2010年までに原子力発電所12基を全廃することを決議,また1988年6月には,国会が政府のエネルギー政策を承認し,その第一歩として1995年から1996年にかけて2基の発電所を廃止するという決定がなされた。しかし,1991年6月,2010年までに原子力発電を全廃するという決定は変更しないとしながらも,原子力発電所2基を廃止する計画を放棄することを含む新国家エネルギー政策が国会で正式に承認された。この新しい政策の進捗状況により原子力廃止計画を決めていくことになるが,今のところ原子力に代わる適切な代替手段を見いだせない状況にある。
 1994年8月に実施された世論調査によると,2010年以降も原子力を保持すべきとの意見が49%を占め,2010年までに原子力を廃止すべきという意見(44%)を上回る結果となった。

⑧フィンランド
 1994年6月末現在,4基,240万キロワットの原子力発電所が運転中であり,1993年には188億キロワット時を発電,同国の総発電電力量の約32%を供給している。平均設備利用率は93.3%である。
 同国は,1986年のチェルノブイル原子力発電所事故後,新規原子力発電所の建設計画を凍結している。1993年2月,政府は5号機計画を原則決定し議会に承認を求めたが,結局,同年9月の採決で同計画は否決されるに至った。

⑨スイス
 1994年6月末現在,5基,314万キロワットの原子力発電所が運転中である。1993年には,総発電電力量の約38%に当たる220億キロワット時を原子力発電で賄っている。平均設備利用率は85.9%であった。
 スイスでは,1990年9月の国民投票で,以後10年間に原子力発電所の建設許可を発給しないというモラトリアムが決定されているが,火力,原子力については,環境問題・モラトリアム等の理由から新規発電所建設計画はなく,水力も環境問題から開発は困難な状況である。
 現在は,電力輸出国であるが,2000年ごろには,電力輸入国になると予想されている。

⑩ロシア
 現在,運転されている原子力発電所は,主としてソ連型加圧水型炉(VVER),黒鉛減速軽水冷却沸騰水型炉(RBMK)である。1994年6月末現在,26基(そのうちVVER13基,RBMK11基,沸騰水型炉(BWR)1基及び高速増殖炉(FBR)1基),2,126万キロワットの原子力発電所が運転中である。1993年には,総発電電力量の約13%に当たる1,192億キロワット時を原子力発電で賄っている。平均設備利用率は65.6%であった。1993年12月にバラコボ4号機(VVER-1000,100万キロワット)が運転を開始した。
 ロシア政府は,1994年6月に2010年までの原子力発電所設備容量計画を発表した。この計画では,2007年までに,新規の原子力発電所12基を完成させ,2010年までに約4,300万キロワットの設備容量までに拡大する予定であり,その第1段階として,チェルノブイル原子力発電所事故の影響で建設が凍結状態にあったクルスク5号機(RBMK-1000改良型)を1995年に,カリーニン3号機(VVER-1000)を1996年に完成させる計画である。2000年以降は,安定的発展段階と位置付けており,次世代原子炉の建設,設備容量増大を目指している。

⑪ウクライナ
 1994年6月末現在,14基(VVER12基,RBMK2基),1,288万キロワットの原子力発電所が運転中である。1993年には,総発電電力量の約33%に相当する752億キロワット時を原子力発電で賄っている。
 ウクライナは,深刻な電力不足のため,1992年春がら保守と修理のため停止していたチェルノブイル1,3号機(RBMK,各100万キロワット)の運転を,それぞれ同年10月,12月に再開したが,1994年7月のナポリ・サミットにおいて,チェルノブイル原子力発電所早期閉鎖のための行動計画を提示することを決定し,国際社会による財政的貢献とともにウクライナの措置が必要であること等につき確認した。

⑫ブルガリア
 コズロドイ原子力発電所で1~4号機(VVER-440/230,各44万キロワット),及び5,6号機(VVER-1000,各100万キロワット)の計6基,376万キロワットが運転中で,1993年には140億キロワット時を発電し,総発電電力量の約37%を供給している。
 コズロドイ原子力発電所は,IAEAの運転管理調査チーム(OSART)の調査により,多くの安全上の欠陥と早急な対策の必要性を指摘され,欧州共同体委員会(CEC)の援助により安全性改善作業を行っている。
1991年にこの作業に着手した1,2号機は,それぞれ既に1992年12月及び1993年12月に運転を再開しており,3,4号機もこれらと入れ替えに本格的な改善作業に入る予定である。

⑬韓国
 1994年6月末現在,PWR8基(古里1~4号機,蔚珍1,2号機,霊光1,2号機)及びCANDU炉1基(月城1号機)の計9基,762万キロワットの原子力発電所が運転中であり,1993年には554億キロワット時を発電し,同国の総発電電力量の約40%を供給している。
 1993年の平均設備利用率は87.1%であった。また,蔚珍3,4号機(PWR,各100万キロワット)など7基が建設中である。
 1993年11月に発表された長期電力需給計画によると,エネルギー資源に乏しく国際的なエネルギー情勢の不確実性に対処するためには長期的に原子力主導の電源開発を引き続き推進すべきであるとし,上記の16基に加えて2006年までに現在計画中の霊光5,6号機(PWR,各100万キロワット)を含むPWR6基,CANDU炉1基を建設することにしており,計画が順調に進めば,2006年に原子力発電所の総数は23基,設備容量にして2,042万キロワットとなり,現在の約2.7倍に増大する。

⑭台湾
 1994年6月末現在,原子力発電所6基,514万キロワットの設備容量を有し,1993年には総発電電力量の約34%に当たる330億キロワット時を賄っている。平均設備利用率は76.1%であった。
 韓国と同様にエネルギー資源に恵まれない台湾では,原子力発電に大きな期待を寄せている。特に,近年の電力需要の増大にともない新たな電源確保が急務となっている。7,8号機目に当たる龍門1,2号機の建設計画は,1986年より凍結されていたが,1991年から1992年にかけて台湾原子力委員会,行政院及び立法院が建設計画再開を承認した。それぞれ2000年,2001年の運転開始が予定されている。

⑮インド
 1994年6月末現在,9基,174万キロワットの原子力発電所が運転中である。1993年には総発電電力量の約2%に当たる54億キロワット時を賄い,また平均設備利用率は36.4%であった。1994年中には,加圧重水炉(CANDU型でインド国内メーカーが主契約者)であるカクラパー2号機(22万キロワット)が運転を開始する予定である。

⑯中国
 1994年の前半期に秦山1号機(PWR,30万キロワット)及び広東1,2号機(PWR,各90万キロワット)の計3基が本格的な運転を開始し,1994年6月末現在,設備容量は210万キロワットとなった。1993年はこれらの発電所により25億キロワット時を発電した。原子力による発電電力量のシェアは,現状ではまだ全体の1%未満である。
 現在,秦山2,3号機及び広東3,4号機の計4基の建設が計画されているが,さらに秦山地区の第三期計画及び浙江省三門湾の建設計画等が進展している。また,中国とロシアは中国北東部の遼寧省に100万キロワットのPWR2基を建設する協力契約に調印した。このほか,江西省や福建省等でも原子力発電所を建設するための予備的検討や立地可能性調査が進められている。
 中国は,1994年5月の第9回環太平洋原子力会議(PBNC)において,来世紀に向けての原子力発電計画を発表した。これは,2050年までに3億から3億5,000万キロワットの設備容量を目指すという極めて大規模なものとなっている。

⑰インドネシア
 石油や石炭等のエネルギー資源に恵まれているが,石油については輸出商品として温存する必要性,石炭については地球環境問題からの制約等を考慮し,今後2015年までに720万キロワット程度の原子力発電所の建設を検討している。1991年よりジャワ島中部のムリア半島で日本企業により立地に関する調査が開始され,1993年12月に可能性調査報告書がインドネシア政府に提出された。1996年には,立地及び環境に関する報告等を含めた最終可能性調査報告書が取りまとめられる予定である。現在,2004年に原子力発電所を導入する方向で検討している。

⑱タイ
 現在,原子力発電所を有していないが,2006年ごろの運転開始を目途に,100万キロワット級の原子力発電所1基を建設する計画である。

⑲その他
 中・東欧を除く欧州においては,スペイン(9基,計740万キロワット),ベルギー(7基,計581万キロワット)及びオランダ(2基,計54万キロワット)において,原子力発電所が運転中である。
 旧ソ連においては,リトアニア(RBMK2基,計300万キロワット)及びカザフスタン(FBRl基,15万キロワット)において,原子力発電所が運転中である。ベラルーシは現在原子力発電所を持っていないが,同国の経済的・社会的情勢から考えて原子力がエネルギー不足の打開に最も適しているとの判断から,2005年までに,50万から100万キロワット級の原子力発電所を導入することを表明し,現在候補地を選定している。
 中・東欧諸国では,ハンガリー(4基,計184万キロワット),チェコ(4基,計176万キロワット),スロバキア(4基,計174万キロワット)及びスロベニア(1基,66万キロワット)の各国において原子力発電所が運転中である。
 その他,南アフリカ( 2基,計193万キロワット),アルゼンチン(2基,計101万キロワット),メキシコ(1基,68万キロワット),ブラジル(1基,66万キロワット)及びパキスタン(1基,14万キロワット)の各国において原子力発電所が運転中である。


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