第2章 新長期計画策定の背景としての内外の原子力開発利用の現状
7.バックエンド対策

(参考)諸外国における原子力バックエンド対策動向

(1)放射性廃棄物処理処分

①米国
 商業用原子力発電所から発生した使用済燃料については,高レベル放射性廃棄物として一定期間貯蔵したのち直接地層処分することが考えられている。米国エネルギー省(DOE)は,ネバダ州ユッカマウンテンを処分サイト候補地としており,現在サイト特性調査を実施している。また,処分までの期間の暫定貯蔵施設として,監視付回収可能貯蔵施設(MRS:MonitoredRetrievableStorage)の建設が計画されている。一方,DOE関係施設の高レベル廃液については,ガラス固化し,貯蔵した後,地層処分する計画である。
 商業用原子力発電所からの低レベル放射性廃棄物は,バーンウェル及びリッチランドの2つの民間の処分施設において陸地処分が行われている。1980年の低レベル放射性廃棄物政策法(1985年に一部修正)において,州政府が低レベル放射性廃棄物の処分責任を負うこととされ,各州が単位ないしは共同体(コンパクト)を形成して,処分場を建設することが計画されている。DOE関係施設から発生する低レベル放射性廃棄物は,主に連邦政府運営の処分施設において陸地処分を行っている。DOE関連施設から発生するTRU廃棄物については,廃棄物隔離パイロットプラント (WIPP)において地層処分される計画となっている。

②フランス
 使用済燃料の再処理により生じる高レベル廃液は,ガラス固化し,一定期間の貯蔵の後,地層処分する計画である。
 地層処分については,1992年1月に放射性廃棄物管理研究法が新たに制定され,この中で,地層処分に関する処分場の設計,立地,建設及びこれらに必要な調査,研究については放射性廃棄物管理機構(ANDRA,旧放射性廃棄物管理局)が実施することとされている。
 また,地下研究所は2か所設置することとされており,1994年1月に4か所の候補地を選定し,今後,1995年中に立地サイトの決定が見込まれている。
 低レベル放射性廃棄物は,1992年操業を開始したローブ(L′Aube)貯蔵センターにおいて陸地処分が実施されている。

③英国
 使用済燃料の再処理により生じる高レベル放射性廃液は,ガラス固化し一定期間の貯蔵の後,地層処分する方針である。
 低レベル放射性廃棄物は,ドリッグ処分場にて陸地処分を行っている。
 また,1982年7月,NIREX*(NuclearIndustryRadioactiveWasteExecutive)と呼ばれる低・中レベル放射性廃棄物の処理処分を実施する新たな機関を設立した。NIREXは低・中レベル放射性廃棄物の処分場候補地としてセラフィールドを検討している。また,NIREXは,セラフィールド地下研究施設を建設する計画であり,1994年7月に地元州に対し申請を行っている。


*NIREX:原子力産業放射性廃棄物執行部英国原子力公社(UKAEA),英国核燃料公社(BNFL)及び電気事業当局(CEGB,SSEB)により,それらの代理機関として設立され,低・中レベル放射性廃棄物処理処分を実施する。法人格を持たない組織であったが,1985年に株式会社として再編成された。

④ドイツ
 使用済燃料について,直接処分,及び再処理の後ガラス固化体を処分する2つのオプションが考えられている。処分サイトとしてゴアレーベン(岩塩ドーム)を候補地と考えている。処分の責任は連邦放射線防護庁(BfS)が負う。
 低レベル放射性廃棄物については,アッセ(岩塩坑)において1967年から1978年まで陸地処分を実施した。
 低・中レベル廃棄物については,コンラッドを新処分場として現在許認可審査中である。また,旧東独のモルスレーベン低レベル放射性廃棄物処分場を,ドイツ統合後も引き継いで操業している。

⑤スイス
 使用済燃料は,すべて外国で再処理し,返還されるガラス固化体を国内で地層処分する計画である。処分の責任は,放射性廃棄物管理協同組合(NAGRA)が負い,NAGRAはスイス北部の花崗岩地帯及び堆積岩地帯を高レベル廃棄物処分のたやの研究サイトとして調査を実施している。一方,処分のための研究は南アルプスのグリムゼル岩盤研究所で進められている。また,低・中レベル放射性廃棄物については,4か所の処分候補地が選定され,調査が進められてきたが,1993年にスイス中央部のウェレンベルグ(Wellenberg)が予定地として決定された。

⑥スウェーデン
 使用済燃料は,地下式集中貯蔵施設において40年間程度貯蔵した後に地層処分する計画である。処分は,スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)が行うことになっている。また,1990年よりオスカーシャム近辺にハードロックラボラトリー地下研究施設計画が進められている。
 低レベル放射性廃棄物はSFRと呼ばれる沖合海底下岩洞内処分場に処分することとし,1988年より操業を開始している。

⑦カナダ
 放射性廃棄物の処理処分についてはカナダ原子力会社(AECL)が中核となり研究開発を行っており,現在地層処分概念についての環境評価レビューの段階を迎えている。
 AECLはマニトバ州ピナワに,地下研究施設を設置して,高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究開発を実施している。

⑧ベルギー
 使用済燃料はフランスに再処理委託し,その返還ガラス固化体を国内で地層処分する計画である。
 放射性廃棄物の処理処分の研究開発については,モル原子力研究センター(SCK/CEN)を中心に行われている。一方,放射性廃棄物の処理処分の実施については放射性廃棄物・核分裂性物質国家機関(NIRAS/ONDRAF)が行っている。

⑨オーストラリア
 高レベル放射性廃液の処理方法として,合成岩石中に放射性核種を閉じ込めるシンロック固化法について研究開発を行っている。

(2)原子力施設廃止措置

①米国
 1992年まで米国で永久停止された原子炉は,研究炉も含めれば既に100基に達している。原子炉の廃止措置の方法について,米国原子力規制委員会(NRC)によって,即時除染解体,密閉管理または安全保管後の解体,遮蔽隔離後の解体の3つの方法が提案されているが,発電炉以外については,長期保管による放射能減衰が少ないこと等から,NRCは即時除染解体を提案している。
 1992年末現在,15基の商用炉が運転停止され,この内一部は密閉管理または安全保管後解体されており,シッピングポート発電所(PWR,5.2万キロワット)は1990年までに完全に解体撤去され,パスフィンダー発電所(BWR,6.2万キロワット)は原子炉部分の解体と火力発電所への改造が行われている。フォート・セント・ブレイン発電所(高温ガス冷却炉,34.2万キロワット)は原子炉部分の解体が1992年に許可され,解体が進められており,最終的には,火力発電所に改造される計画である。このほか,1960年代には,4基の実験用あるいは実証用発電炉が既に廃止されている。
 DOEの管理する施設については,年間予算が約53億ドル(1993年)に達する環境回復・廃棄物管理計画の下,多くの軍事用,非軍事用施設の廃止措置が行われている。非軍事施設としては,アルゴンヌ研究所のEBWR(BWR,熱出力10万キロワット)の原子炉解体,ウェストバレーの旧再処理プラントの除染,廃液処理,ガラス固化処理施設の建設が進められている。さらに,オークリッジガス拡散濃縮工場,ファーナルドサイトのウラン加工施設等の除染解体が進められている。また,軍事用施設としては,ハンフォードにある既に運転停止した8基のプルトニウム生産炉の廃止措置計画が進められている。

②フランス
 CEAは,所有している使命を終えた原子力施設について,原則として早期に施設の廃止措置を行う方針で,実験施設を中心に広範な廃止措置計画が行われている。
 これまでに,旧式化したガス冷却炉を含む10基の発電炉が運転停止し(1基は遮蔽隔離済),安全保管に向けて関連施設の一部撤去等を行っている。また,ベルギーと共有のショーズ-1発電炉(PWR,32万キロワット)も停止され,遮蔽隔離の措置が検討されている。EDFは炉運転停止後数年程度の遮蔽隔離の後,PWRについては約50年間,内蔵放射能の減衰を待って解体撤去することとしている。

③ドイツ
 商用炉の開発段階で建設された種々の炉型の原型炉,実証炉計9基が運転停止され,現在,廃止措置の対象となっている。また,旧東独地域のソ連型PWRは,安全上の理由からすべて停止され,そのうち,グライフスバルト発電所の5基(各44万キロワット)等については,廃止措置が進められている。原子炉以外では,カールスルーエにある再処理施設(WAK)が1990年に閉鎖され,廃止措置が計画されている。

④英国
 英国で現在までに運転された発電炉は,すべてガス炉であり,最初の廃止措置は,1989年に運転を停止したバークレイ発電所(コールダーホール型,16万キロワット×2)で,1992年3月までに燃料取出しを終え,安全保管のための措置が行われている。その後,100年程度の密閉管理または安全保管期間が提案されている。一方,英国原子力公社(UKAEA)はウィンズケールのWAGR炉(改良型ガス冷却炉原型炉,3.6万キロワット)の解体撤去,ウィンフリスのSGHWR炉(重水減速軽水冷却炉,10.2万キロワット)の安全保管,多くの研究施設の廃止措置を行っている。また,BNFLにより,セラフィールドにある初期の再処理設備の解体,カーペンハーストにあるガス拡散濃縮プラントの解体撤去が行われている。

⑤ベルギー
 ベルギーのBR-3炉(PWR,1.1万キロワット)は各種の切断技術の開発と試験を兼ねて,1994年終了を目途に解体撤去が行われている。
 また,旧ユーロケミック再処理プラントの除染・解体が進められている。

⑥ロシア
 ベロヤルスク発電所(RBMK,10.8及び19.4万キロワット)とノボボロネジ発電所(VVER,27.8及び36.5万キロワット)の計4基の発電炉が運転停止され,廃止措置の準備がなされている。

⑦スペイン
 火災事故を起こして停止したバンデロス‐1号炉(GCR,50万キロワット)の遮へい隔離のための廃止措置作業が進められている。

⑧カナダ
 ターニーズパスチャRI取扱い施設は,汚染機器の撤去,建屋除染も終わり,1993年8月に解体プロジェクトは完了した。建屋は再利用される。ジェントリ―1(HWLWR, 26万キロワット)は解体が終了し,密封管理中である。

⑨イタリア
 ガリグリアーノ発電所(BWR,16.4万キロワット)では,放射性廃棄物の処理作業と放射性廃棄物の処理施設の建設が進められている。

⑩スロバキア
 ボフニチェA1(HWGCR,14.4万キロワット)の破損燃料撤去,除染,廃液処理等を行い,70年間密封管理した後,同炉を解体する計画である。


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