第2章 新長期計画策定の背景としての内外の原子力開発利用の現状
1.核兵器の不拡散をめぐる内外情勢

(1)NPT体制の維持・強化に向けた動向

①NPT体制の概要
 「核兵器の不拡散に関する条約(NPT)」は,核兵器国を米国,ロシア,英国,フランス及び中国に限定し,これ以上の核兵器国の出現を防止することを目的としており,非核兵器国に対しては核兵器の取得を禁じるとともにIAEAのフルスコープ保障措置の受入れを義務付ける一方,すべての締約国に対して,原子力の平和利用の権利を保障し,かつ核兵器国に対して核軍縮交渉を義務付けている。1994年9月末現在,米国,ロシア,英国,フランス及び中国の核兵器国5か国を含む165か国が締約国となっている。我が国は1976年に加入している。NPTは,その発効以後,締約国の中で新たな核兵器国はなく,また,近年,未加入の核兵器国であったフランス,中国が加入するなど核不拡散を図る上で極めて普遍性の高い国際的枠組みとなっている。
 しかしながらその一方,締約国である北朝鮮,イラクの核兵器開発疑惑,南アフリカ共和国のNPT加入前における核兵器保有や旧ソ連の核兵器等の管理の不安定化などの問題が生ずるとともに,インド,パキスタン,イスラエルなどのNPTの未締約の国が依然として存在している。NPT体制の維持・強化を図り,原子力平和利用と核兵器不拡散の両立を図っていくために我が国としてもNPT体制の維持・強化に向けた一層の努力が必要である。
 北朝鮮,イラク等の問題は例外的な特定国が引き起こした問題ではあるが,IAEAにおいては,こうした状況に対処していくため,未申告の原子力活動の検知能力の向上等を目的とした保障措置の強化に関する検討が行われている。
 我が国としては,今後ともNPT体制上の義務を厳格に履行するとともに,原子力平和利用の意図を改めて明確にし,我が国は核兵器に関する技術を有しておらず,また将来にわたっても制度的に核兵器への転用の可能性は排されていることを国内外に示していくことが必要である。

②NPT延長会議に向けた動き
 NPTは,その第10条に基づいて,1995年4月に開催が予定されているNPT再検討・延長会議において,無期限に効力を有するか追加の一定期間延長されるかが決定されることとなっている。
 我が国は,既に政府が,大量破壊兵器の不拡散は我が国を含む国際的な安全保障を確保する上で緊急の課題との認識の下,NPTの無期限延長の支持を表明しており,原子力委員会としてもまた,1993年8月の委員長談話において無期限延長の支持は妥当との考え方を表明し,新長期計画においても「原子力平和利用の円滑な推進のためには核不拡散体制の維持・強化が不可欠であることにかんがみれば,この条約の無期限延長支持は妥当」としている。
 国際的にも,1991年のロンドンサミット以来各年のサミットにおいてこのNPT延長問題を含む不拡散問題への取組及び軍縮管理・軍縮努力促進の必要性が確認されており,例えば,1994年7月のナポリサミットの議長声明において,「すべての非締約国に対し,非核兵器国としてNPTに加入するよう呼びかける。1995年における条約の無期限延長に対する明確な支持を宣言する。」としている。また,1993年の第48回国連総会NPT再検討・準備会議準備委において欧米諸国,大洋州諸国などを中心に約60か国が無期限延長支持を表明している。
 一方で,核兵器国の特権的地位の固定化というNPTの不平等性を訴えるインドネシア,ベトナム,ガーナ等の国もある。
 もちろん,NPTの無期限延長が核兵器国による核兵器の保有の恒久化を意味するものではなく,すべての核兵器国に対してより一層の核軍縮を働きかけ,核兵器の究極的な廃絶に向けて努めていくことが重要であり,この旨,新長期計画でも示したところである。


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