第2章 新長期計画策定の背景としての内外の原子力開発利用の現状
1.核兵器の不拡散をめぐる内外情勢

(3)北朝鮮の核兵器開発疑惑

 北朝鮮は,1985年にNPTに加入後,1992年4月にIAEAとの間の保障措置協定を締結したものの,追加情報の提供と追加施設への査察の実施を求めてIAEAが要求した特別査察を拒否し,1993年3月にはNPTから脱退を決定するに至ったが,米朝会談を通じて,脱退が発効する直前の1993年6月に脱退の一時中断を宣言した。その後,更なる米朝会談及びIAEAによる査察の継続により核兵器開発疑惑の解明の努力が続けられてきたが,1994年には,放射化学研究所に対する査察,5メガワット実験炉の燃料棒交換に対する査察等に関して,IAEAの要求する査察を十分に受け入れない等の問題が発生した。
 これを受けて1994年6月,IAEA理事会はすべての保障措置に関連する情報及び場所へのアクセス要求等を内容とする決議を採択したところ,北朝鮮は,IAEAからの即時脱退,今後のIAEAの査察拒否等を表明した。
 その後,カーター元米国大統領の訪朝等により第3回米朝協議が開始され,10月には,①北朝鮮の黒鉛減速炉の軽水炉への転換(約2,000メガワット規模の軽水炉プロジェクトの提供とそのための国際的コンソーシアムの組織,代替エネルギーの提供,黒鉛炉及び関連施設の凍結・解体等),②両国の政治的・経済的関係の完全な正常化(貿易・投資の障壁緩和,連絡事務所の開設等),③核なき朝鮮半島の平和と安全保障への努力(米国による核兵器の不使用,南北非核化共同宣言の実施のための措置等),④国際的な核不拡散体制の強化への努力(NPTに留まる,IAEA保障措置協定の履行等),の4点を柱とする合意文書に署名がなされた。
 本問題については,IAEA保障措置が適切に適用され,国際社会における北朝鮮への核拡散懸念が払拭されるよう努めることが重要であるが,今回の合意内容は,基本的にこれに沿うものであると認識される。今後は,北朝鮮が今回の合意内容に従って誠実に行動することが重要であり,その際には,北朝鮮における原子力活動が平和利用に限られることと安全の確保が十分に行われることが不可欠であると考えており,引き続き注視していくことが必要である。


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