第2章 新長期計画策定の背景としての内外の原子力開発利用の現状
1.核兵器の不拡散をめぐる内外情勢

(2)新たな核不拡散努力

①世界的な核軍縮
 東西冷戦の終焉後,米国及び旧ソ連において大規模な核軍縮の動きが進展しつつある。1991年7月には,米国とソ連の間で第一次戦略兵器削減条約(STARTI)が調印され,さらに1993年1月には米国とロシアの間でSTARTIの批准,実施を前提に第二次戦略兵器削減条約(STARTII)が調印された。
 このような動きとあいまって,米国,ロシア,英国及びフランスは核実験停止を継続しており,また,米国は軍事目的の核物質の生産を中止している。さらに,ジュネーブにおいて,1994年1月には包括的核実験禁止条約(CTBT)に関する交渉が開始された。
 こうした状況下で中国は,1994年には6月,10月と2回にわたり地下核実験を行ったが,これは極めて遺憾であり,CTBTの締約に向けた交渉の妨げとならないことが望まれる。
 一方,旧ソ連の崩壊に伴い,ロシア以外に三つの旧ソ連共和国(ベラルーシ,カザフスタン及びウクライナ)にも戦略核兵器が存在することとなった。この点について,STARTIの批准に向けたリスボン議定書が調印され,これら三国はSTARTIを批准するとともに戦略核兵器をロシアに移転したうえで非核兵器国としてNPTに加入することとなり,ベラルーシ及びカザフスタンはNPTに加入した。ウクライナについては,1994年1月の米国,ロシア及びウクライナの三国首脳の会談により,三国共同宣言が採択され,米国,ロシアがウクライナに対し核兵器の不使用に関する保障を与えるとともに,ウクライナがNPTに非核兵器国として加入することを再確認したが,同国は本年10月現在未だNPTに加入していない。またウクライナ国内の全核兵器を7年以内に廃棄する一方で,ロシアは原子力発電所用燃料をウクライナに提供することなどで合意した。

②旧ソ連諸国における核拡散懸念

(i)非核化支援
 冷戦の終了後,旧ソ連等における核兵器の廃棄等を進めることは,今後の国際社会の平和と安定にとって極めて重要かつ喫緊の課題である。このため,1993年5月の原子力委員会委員長談話にもあるとおり,第一義的には当事国が責任を持って対処すべきではあるものの,我が国が,これまで培ってきた原子力平和利用の技術と経験をいかし,旧ソ連の核兵器の廃棄等平和に向けた国際的努力に積極的に協力することは,核軍縮と核兵器の拡散防止に貢献する上で重要である。
1993年10月には核兵器廃棄の支援に係る我が国とロシアとの二国間取極が署名された。その後核兵器廃棄後発生する核分裂性物質貯蔵や原子力潜水艦の解体に伴い発生する液体放射性廃棄物貯蔵・処理等を優先分野とすることに合意し,現在プロジェクトの具体化,実施に努めている。
 同様の核兵器廃棄の支援に係る協定は,同年11月にベラルーシ,1994年3月にウクライナ及びカザフスタンとの間で署名が行われ,核物質管理制度の確立等について協力していくこととなっている。
 核軍縮を不可逆的なものとするためには,特に核兵器の解体により生じるプルトニウム等の核物質が再び核兵器に利用されないための国際的な計量管理体制を早急に確立する必要があり,我が国としても国際機関や二国間取極等を通じて積極的に協力していく必要がある。

(ii)国際科学技術センター
 旧ソ連の大量破壊兵器関連の科学者,技術者等の能力を平和的活動に向ける機会を提供することを主目的として,日本,米国,EC及びロシアの四者は,1992年11月に「国際科学技術センター(ISTC)を設立する協定」に署名し,1993年12月に本協定を暫定的に適用する議定書への署名を経て1994年3月に本センターが設立された。我が国は,この目的のため,2,000万ドルの支援を行うこととしており,また,本センターに事務局次長等の人材の派遣を行っている。

③核物質の密輸問題
1994年夏以降,ドイツ等において核不拡散上機微な核物質の不法取引が数次にわたり摘発されている。我が国としても重大な懸念を有しており,1994年9月に調査団を独に派遣し,情報収集,意見交換を行った。
 本件については1994年9月に開催されたIAEA総会においても取り上げられ,核物質の不法取引の最近の増加を憂慮するとともに,各国が核物質の密輸防止のため連絡協議の場を設置することが合意され,今後各国が密輸を防止するため連絡を密にし適切に対応していくことを内容とする決議が採択された。又,IAEAにおいて,本件に関する専門家会合が設けられ,IAEAとして何ができるか検討されている。

④プルトニウムの使用等に関する国際枠組みの検討
 冷戦終結後の核軍縮の進展による核兵器解体に伴いプルトニウム及び高濃縮ウランが大量に発生することが予想されており,その動向については,国際的にも関心が高まっている。
 そのため,IAEAでは1992年12月に関係国(核兵器5か国及び日独)によるプルトニウム等の蓄積・利用に関する非公式会合を開催し,国際的な枠組みに関して検討が進められてきたが,1994年2月以降は,関係国イニシアティブ会合の場で国際枠組みの具体化に向けて検討が行われている。

⑤米国による核爆発目的の又は国際的保障措置の枠外の高濃縮ウラン
 及びプルトニウムの生産を禁止する多国間条約の提案1993年9月に米国は不拡散政策及び輸出管理政策を発表した。この中で,「核爆発目的の又は国際的保障措置の枠外の高濃縮ウラン及びプルトニウムの生産を禁止する多国間条約(カットオフ条約)」を提案した。これは,核爆発装置の研究・製造・使用のための高濃縮ウラン生産・プルトニウム分離の禁止,他国による核爆発装置の研究・製造・使用のための高濃縮ウラン生産・プルトニウム分離に対する援助の禁止,さらに条約の遵守を検証する措置の受け入れなどを内容とすることが想定されている。本条約は,核兵器国及びNPT非締約国の核能力を凍結することにより核不拡散,核軍縮に貢献し得るものであり,交渉の早期開始が望まれる。


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