第2章 新長期計画策定の背景としての内外の原子力開発利用の現状
8.原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化

(4)核融合研究開発

①核融合研究開発の基本方針
 核融合は,重水素やトリチウム(三重水素)などの軽い元素の原子核同士が融合してヘリウムなどのより重い原子核に変換する反応である。必要な燃料資源等が地球上に豊富に存在すること,原理的に高い安全性を有すること,地球環境問題の原因となる物質を排出しないことなどエネルギー源として優れた特徴を有している。これが実用化された場合には,世界のエネルギー問題の解決に大きく貢献するものと期待されていることから,国内外において積極的な取組が行われている。
 我が国の核融合の研究開発は,1992年に原子力委員会が策定した第三段階核融合研究開発基本計画により進められている。同基本計画の主要な目標は,核融合の自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎を形成することである。
 現在,日本,米国,EU及びロシアの4極により工学設計活動が進められている国際熱核融合実験炉(ITER)は,そうした目標を達成するための研究開発の中核を担い得る装置である。新長期計画においては,我が国としてITER計画に主体的に参加することが明記されている。

②ITER計画の推進
 ITER計画は,1985年の米ソ首脳会談における核融合の研究開発の推進に関する共同声明を端緒としている。その全体的な目標は,平和目的の核融合エネルギーの科学的及び技術的な実現可能性を実証することである。既に,概念設計活動(1988年~1990年)を終え,現在,工学設計活動(1992年~1998年)が行われている。
 工学設計活動においては,茨城県那珂町,米国(サンディエゴ),EU(ドイツ・ガルヒンク)に設計を行う共同中央チームのサイトが設置され,この共同中央チームと4極それぞれの国内チームとが連携,協力しながらITERの設計及びそれに必要な工学及び物理の研究開発が進められている。1994年1月には,共同中央チームが,それまでの活動の成果を総合してITERのアウトラインを概要設計書の形にまとめ,自己点火条件及び長時間燃焼を達成する実験炉が工学的に成立することを示した。また,1994年3月には,1998年までの作業計画の実施のために必要な措置等を含めた第二議定書に4極が署名し,本格的な設計活動の段階に入っている。

③多様な基礎研究
 以上のような,ITERに係る研究開発に加え,我が国においては,日本原子力研究所,大学,国立試験研究機関等が連携・協力して核融合の研究開発を行っている。日本原子力研究所では,臨界プラズマ試験装置(JT-60)により,重水素を用いた実験が進められ,1993年に世界最高のプラズマ性能を達成するなど著しい成果を挙げている。そのほか,超伝導コイル,加熱・電流駆動装置等の炉工学技術の研究開発,核融合炉の燃料に用いられるトリチウムの取扱い技術に関する研究開発等が行われている。大学共同利用機関である核融合科学研究所では大型ヘリカル装置の建設を進めており,1997年度には運転開始の予定である。大学,国立試験研究機関等においては,ヘリカル型,逆磁場ピンチ型及びミラー型等の各種磁場閉じ込め方式*,これらとは原理的に異なる慣性閉じ込め方式*による基礎的研究並びに超伝導磁石,構造材料等の炉工学技術などの研究が進められている。
 さらに,核融合分野においては国際協力が積極的に進められており,日米エネルギー研究開発協力協定,日・EU核融合協力協定等に基づく二国間協力並びにIAEA及びOECD/IEAの下での多国間協力が行われている。


*磁場閉じ込め方式:磁場の作用によって,プラズマを容器の壁から離して閉じ込める方式。閉じ込め磁場の形成の方法の違い等によりヘリカル型,逆磁場ピンチ型及びミラー型等に分けられる。
*慣性閉じ込め方式:レーザー等により,燃料粒子に大きなエネルギーを瞬時に注入し,加熱による爆発力の反作用を利用してプラズマを閉じ込める方式。


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