第2章 新長期計画策定の背景としての内外の原子力開発利用の現状
2.原子力安全確保

(4)原子力安全確保に係る国際協力

①旧ソ連,中・東欧諸国の原子力安全対策に対する協力
 旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電所の安全性確保は,世界的な焦眉の課題として,国際的に支援方策が検討されており,ナポリサミットの経済宣言において,旧ソ連,中・東欧諸国に対する原子力安全支援のうち,特にウクライナの原子力安全が重点的に取り上げられた。
 具体的には,チェルノブイル原子力発電所の閉鎖が緊急の優先事項として明記され,先進主要国(G7)として,これを閉鎖するために必要な行動計画をウクライナ政府に提示することを意思表示するとともに,これに関連した更なる措置として,2億ドルを上限とする贈与を行動計画のために提供する用意がある等が表明された。
 また,EUも独自に1994年までに総額約5億ECUの原子力安全支援プログラムを実施している。
 我が国においても,多国間協力としては,IAEAのソ連型原子力発電所の安全性評価プロジェクト等に人的及び資金的な面で積極的に貢献し,二国間協力については,旧ソ連,中・東欧及びアジア諸国より原子力技術者等を受け入れ,原子力安全向上のための研修を実施しており,また,原子力発電技術者の技術レベル・安全意識向上のため,研修生を1992年より10年間に1,000人規模で招へいしている。さらに,旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電の状況等を調査するとともに,旧ソ連,中・東欧諸国に我が国の原子力安全の専門家を派遣し,原子力安全に関する技術の交流を行っていく予定である。
 また,設備の支援としては,原子炉の配管から冷却水漏洩を検知するための運転中異常検知システムをソ連型原子力発電所に設置し,当該技術を適用することにより,安全性の向上を図ることとしている。
 また,運転員の訓練の充実及び資質の向上を図るため,原子炉施設の挙動を模擬する本格的シミュレータをロシアに1基設置することとしている。

②原子力の安全に関する条約
 旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電所の安全問題を契機として,各国の原子力施設の安全性確保を目的とした原子力安全条約の策定が,1991年9月のIAEA主催の原子力安全国際会議で提案された。1992年2月のIAEA理事会で,条約草案策定のためのワーキンググループの設置が了承され,この決定に基づいて設置されたワーキンググループで検討が進められ,1994年6月に開催された外交会議において原子力の安全に関する条約が採択された。9月のIAEA総会の機会に同条約の署名開放がなされ1994年10月中旬までに49か国が署名しており,今後,原子力発電所保有国の17か国を含む22か国が締結した日の後90日後に発効することとなっている。
 本条約は,民生用原子力発電所を対象として,各国が遵守すべき安全上の基本的措置に係る義務的条項や,条約の遵守状況を確認するための締約国会合の開催等について盛り込んである。


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