第1章 新しい長期計画の策定
3.新長期計画に基づく当面の原子力政策の展開

(国際協力への取組)

 近隣アジア地域は,今後,経済発展とともに原子力開発利用が,大きく進展することが予想される地域である。原子力委員会は毎年,アジア地域原子力協力国際会議を開催し,近隣アジア地域各国における原子力分野の要人を招き,情報の交換や具体的協力の進め方についての意見交換を行ってきており,既に5回を数えている。
 今後はこれら諸国において原子力発電の拡大や計画の具体化が進展することが予想され,上記のような国際会議の機会にもこのような状況を反映した議論が高まるとともに我が国に対する期待感も表明されている。我が国としてはこのような進展を踏まえ,安全確保・安全規制面での協力等に着手しつつあるが,今後は,さらに我が国からの原子力資機材等の供給の活発化等が予想され,我が国としてはこれに的確に対応できるよう国内関係機関の間の連携強化を図らなければならない。
 旧ソ連,中・東欧諸国の原子力安全の支援に関しては二国間,多国間の枠組みにより,諸外国の実施する支援と調整を図りつつ,短期的な技術改善に係わる措置,長期的視点からの安全確保体制の充実等への支援を進めていくが,特に1994年のナポリサミットにおいて,合意されたチェルノブイル原子力発電所の早期閉鎖とその代替措置に関する支援についてはその具体化を注視していく必要がある。
 また,旧ソ連・ロシアによる日本海での放射性廃棄物の海洋投棄についてはこれが再び行われることがないよう廃棄物処理施設の建設等の支援を進めるが,その際にも原子力基本法にのつとり我が国の原子力開発利用を厳に平和目的に限り推進していく精神を貫く必要がある。
 ITER計画については今後,日本,米国,EU及びロシアの四極による工学設計活動の進捗を踏まえて,実際の炉の建設計画を検討していくこととなるが,我が国としては核融合の研究開発規模の拡大に応じて研究開発の効率化と主体的な国際貢献の観点から,この問題への取組について検討を深める必要がある。
 新長期計画においては,21世紀に向けて人類が地球を慈しみ,地球と人類がともに末永く生きていくという新しい価値観に基づいた文明-リサイクル文明-を創り上げていくとの理念に立って原子力開発利用を位置付けている。原子力委員会としては,この位置付けにのつとり,新長期計画の中の言葉の「国民とともにある原子力」を常に念頭に,国民の理解の下に,さらには国際社会の理解の下に原子力政策の展開に努める考えである。


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