第1章 新しい長期計画の策定
1.新長期計画の基本的考え方

(2)人口,エネルギー,資源,環境と原子力

(世界人口の増加とエネルギーの消費)
 世界の人口は西暦元年から2億人から4億人程度の水準で推移し,19世紀初頭に初めて10億人を超えたが,その後は1950年には25億人であったものが,1990年には53億人となり,約40年で倍増した。21世紀に入るころには60億人を超えると言われており,200年程度の期間のうちに約6倍ほどに増えることになる。

 一方,エネルギー消費は19世紀半ばには石油換算で約1億トンだったものが,1990年には石油換算で約80億トンとなっている。
 今後の世界人口は2010年に71億人,2025年には85億人,21世紀半ばには地球人口100億人の時代が到来すると予想されている。地域別に見ると,先進地域の人口の伸びが鈍化する一方で,1990年に既に世界人口の77%となっている開発途上地域の人口は,2025年には世界人口の83%に達する見込みである。
 これらの人口の活動基盤としてのエネルギー需要の予測については,国際エネルギー機関(IEA)によると,1991年を基準とした場合,世界のエネルギー需要は2010年まで平均年率2.1%で増加し,2010年には,1991年の約1.5倍の需要が見込まれている。
 特に開発途上国においては,上記のような急激な人口増加等により,2010年まで平均年率4.2%でエネルギー需要が増加し,2010年には,1991年の約2.2倍もの需要が見込まれる。これに対し先進国では約1.3倍となっている。
 エネルギー需要のうち,電力については,世界の電力需要は1971年から1991年までの約20年間で平均年率4.2%の高い伸びで増加している。IEAによると,世界の電力需要は1991年から2010年までに12兆300億キロワット時から20兆4,500億キロワット時にまで1.7倍に増加すると見込まれている。
 このうち開発途上国では2.6倍,これに対し先進国では1.5倍となっている。

 このように,今世紀の半ばから21世紀前半にかけては,人類がこれまでに経験したことのない急激な人口の増加とそれに伴うエネルギー需要の増加が予測される時代となる。

(化石エネルギー資源への依存とエネルギー資源の制約)
 このようなエネルギー需要を賄うに当たり,2010年ごろまでの予測では,天然ガスへの移行が進むものの,化石燃料への依存度はほとんど変わらず,電力供給についても,石油火力発電は減少するものの,天然ガス火力,石炭火力が増加する。特に発電電力量に占める石炭火力の割合については,開発途上国において1991年の39%に対し,2010年には44%になると予測されている。
 一方,エネルギー資源の確認可採埋蔵量の地域分布状況を比較すると,石油は中東に約7割が集中しており,天然ガスは旧ソ連,中・東欧と中東で約7割,石炭はアジア・太平洋と旧ソ連,中・東欧で約6割,またウランは北米に3割以上埋蔵されている。さらに,確認可採埋蔵量を年生産量で割った可採年数は,石油,天然ガス,ウラン(核燃料リサイクルをしない場合)で数十年,石炭は200年程度とされている。
 このことは単純に言えば,現在の水準で消費を続けていくと21世紀にはエネルギー資源の状況は危機的なものになる可能性があることを意味し,さらにエネルギー消費が今後とも拡大するならば資源制約の顕在化は更に早まることを意味する。また,上述のようなエネルギー資源の地域的な分布の偏りは,資源制約の顕在化に伴い,資源の確保をめぐって国際社会の安定が妨げられる大きな要因ともなるものである。
 資源制約の問題は,地球が何億年もの歳月をかけて生んだ石油等の貴重な資源を200年程度の間に使い切ってしまうことにならないよう,後の世代にもその資源の恩恵が及ぶようにできるだけ温存していくという観点が重要である。

(地球環境への調和)
 地球温暖化問題の主要原因物質とされている二酸化炭素は人類の活動から不可避的に発生するものであり,その影響は国連環境計画と世界気象機関が共同で設置した「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の試算(1990年)によると,二酸化炭素等の排出などについて特段の方策を採らなければ21世紀末までには約3°C平均気温が上昇すると予測され,人類の生存基盤に影響を与えかねない問題となっている。ちなみに現在の二酸化炭素の排出量は年間約60億トン(炭素換算)に達しており,これが大気中の二酸化炭素濃度の増加を促進し,産業革命前には約280ppmであったものが,1990年には約353ppmになっており,近年は,毎年1.8ppmずつ増え続けている。
 現在の世界のエネルギーの約9割は化石燃料から得ているが,今後のエネルギー需要の増大に対応していく上においては,二酸化炭素の排出抑制と人類社会の持続的な発展のためのエネルギー源の確保という課題を併せて解決していく取組が必要になっている。

(資源,環境制約と原子力の役割)
 このような長期的な人口増加に伴うエネルギー需要の増大に対して,地球環境との調和を保つとともに貴重な資源を温存しつつ,人類が地球と共生し持続的な発展を遂げていくためには,現在エネルギー消費の約9割を依存している化石エネルギー資源から,非化石エネルギーに大きな役割を持たせていくことが必要である。
 非化石エネルギーの中で太陽光,風力などの新エネルギーは分散型エネルギーとして将来のエネルギー供給に一定の役割を果たせるよう長期的観点からの研究開発やその利用普及のために様々な努力が払われているが,エネルギー密度が低い,あるいは自然条件に左右されてしまう性質を含んでおり,近い将来において現実的な大規模エネルギー源としての役割をこれに期待することは困難である。他方原子力は,経済面,技術面での課題が克服され,既に現実の安定したエネルギー源となっており,将来的にも大規模なエネルギー源として一層大きな役割を果たしていくことが期待できる。

 地球環境への影響の観点からも,原子力は,その発電過程においては二酸化炭素,窒素酸化物等を排出せず,施設の建設等の過程を含めても,他の化石燃料による発電方式に比べて二酸化炭素の排出量が少なく,さらに単位エネルギー発生当たりに発生する廃棄物の量も少ない。
(財)日本エネルギー経済研究所が行った世界の超長期エネルギー需給の試算結果によると,現在公にされている前述のような世界人口の予測に比べ,相当程度控えめな人口予測に立っても,二酸化炭素排出抑制に対策が採られず,かつ核燃料リサイクルによるウラン資源の温存が図られない場合(ベースケース)には,21世紀半ばにおいて,石油,天然ガス,ウランとも累積消費量が確認可採埋蔵量を超えることとなる一方,二酸化炭素の排出量は,1990年の水準の2倍になることが示されている。
 また,二酸化炭素の排出制御を図ろうとする場合,ウラン資源について,確認可採埋蔵量を使い尽くした後に,本格的な核燃料リサイクルを実施するというケースでは,21世紀半ば以降,大幅なエネルギーの供給不足に立ち至るという試算結果が示されている。従って,資源問題を考慮すると,早期に核燃料リサイクルを確立していくことが不可欠であることが示されている。


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