第1章 東京電力福島第一原子力発電所事故の反省・教訓と福島の復興・再生の取組1-1 福島の復興・再生
東京電力株式会社(東京電力)福島第一原子力発電所事故は、福島県民を始め多くの国民に多大な被害を及ぼし、我が国のみならず国際的にも原子力への不信や不安を著しく高めることになりました。また、事故から14年が経過した現在も多数の住民の方々が避難を余儀なくされており、風評被害等も残るなど事故の影響が続いています。
事故の反省・教訓と福島の復興・再生は、我が国の原子力政策の原点です。原子力利用を続けていく上では、事故を防止できなかったことを反省し得られた教訓を生かしていくとともに、こうした不信や不安に対して真摯に向き合い、その軽減に向けた取組を進めていくことが重要です。引き続き、福島の復興・再生に向けた取組を全力で進めていく必要があります。
1-1-1 東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・検証
1-1-1-1 事故に関する調査報告書
事故後、国内外の諸機関が事故の調査・検証を行い、多くの提言等を取りまとめ、事故調査報告書として公表してきました(表 1-1)。
国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(国会事故調)の報告書では、規制当局に対する国会の監視、政府の危機管理体制の見直し、被災住民に対する政府の対応、電気事業者の監視、新しい規制組織の要件、原子力法規制の見直し、独立調査委員会の活用、の七つの提言が出されました。提言を受けて政府が講じた措置については、政府は年度ごとに報告書を取りまとめ国会に提出1しています。2023年度に政府が講じた主な措置は、「令和5年度東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書を受けて講じた措置」(2024年6月閣議決定)に取りまとめられています。
政府に設置された「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(政府事故調)の報告書においても、安全対策・防災対策の基本的視点、原子力発電の安全対策、原子力災害に対応する態勢、被害の防止・軽減策、国際的調和、関係機関の在り方、継続的な原因解明・被害調査、の七つの提言が出されました。政府はこの提言事項についても、取組に進展があったかどうか毎年度確認し、進展があった場合に当該取組を報告することとしており、2024年度は「令和5年度東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会の報告書を受けて講じた新たな措置(政府事故調独自の提言事項関連)」(2024年8月)として報告書を公表しています。
表 1-1 東京電力福島第一原子力発電所事故に関する主な事故調査報告書 報告書名 発行元 発行年月 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会報告書 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調) 2012年7月 東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会最終報告 東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調) 2012年7月 福島原子力事故調査報告書 東京電力株式会社 2012年6月 福島原発事故独立検証委員会
調査・検証報告書福島原発事故独立検証委員会
(民間事故調)2012年2月 The Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident: OECD/NEA Nuclear Safety Response and Lessons Learnt 経済協力開発機構/原子力機関
(OECD/NEA)2013年9月 福島第一原子力発電所事故その全貌と明日に向けた提言 -学会事故調 最終報告書- 一般社団法人日本原子力学会
東京電力福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会(学会事故調)2014年3月 The Fukushima Daiichi Accident Report by the Director General 国際原子力機関(IAEA) 2015年8月 Five Years after the Fukushima Daiichi Accident: Nuclear Safety Improvement and Lessons Learnt 経済協力開発機構/原子力機関
(OECD/NEA)2016年2月 学会事故調最終報告書における提言への取り組み状況(第1回調査報告書) 一般社団法人日本原子力学会
福島第一原子力発電所廃炉検討委員会2016年3月 福島原発事故10年検証委員会
民間事故調最終報告書一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ 2021年2月 Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident, Ten Years On Progress, Lessons and Challenges 経済協力開発機構/原子力機関
(OECD/NEA)2021年3月 福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会報告における提言の実行度調査-10年目のフォローアップ- 一般社団法人日本原子力学会
学会事故調提言フォローワーキンググループ2021年5月 (出典)内閣府作成
1-1-1-2 事故原因の解明に向けた取組
国会事故調や政府事故調、国際原子力機関(IAEA2)事務局長報告書等において、事故の大きな要因は、津波を起因として電源を喪失し原子炉を冷却する機能が失われたことにあるとされています。
原子力規制委員会では、国会事故調の報告書において未解明問題として指摘されている事項について継続的に調査・分析を行っており、2024年6月には「東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間取りまとめ(2024年版)」を公開しています。また、廃炉作業によって、事故分析に必要な情報が失われてしまうおそれもあることも考慮し、原子力規制委員会は、事故分析と廃炉作業を両立するために必要な事項について関係機関と公開で議論・調整する場として「福島第一原子力発電所廃炉・事故調査に係る連絡・調整会議」を2019年に設置しています。
経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA3)では、我が国及び加盟各国の関係機関が参加し、過酷事故に関する現象の解明や事故の防止・緩和に関する国際共同研究プロジェクトを実施しています(図 1-1)。現在実施中のプロジェクトの一つである「福島第一原子力発電所事故情報の収集及び評価」(FACE4)は、過去に実施した共同研究プロジェクトを引き継ぎ、2026年7月までの予定で行われます。FACEでは事故シナリオの精緻化や燃料デブリ分析技術の確立に関する検討が実施されています。また、もう一つのプロジェクトである「福島第一原子力発電所の事故進展シナリオ評価に基づく燃料デブリと核分裂生成物の熱力学特性評価」の第2フェーズ(TCOFF5-2)が2025年8月までの予定で実施中です。TCOFF-2では、第1フェーズで得られた成果をベースに、過酷事故条件下での事故耐性燃料の材料挙動に関する研究や、福島第一原子力発電所以外の原子炉設計も含めた検討など範囲を拡大した取組が実施されています。
図 1-1 OECD/NEAによる東京電力福島第一原子力発電所事故に関する分析プロジェクトの変遷
(出典)内閣府作成
コラム ~東京電力福島第一原子力発電所の事故進展の解明に関する状況~
福島第一原子力発電所事故は、これまで経験したことのない複雑かつ大規模なものであり、その進展過程やメカニズムを解明することは、今後の原子力利用の安全性向上とともに、廃炉作業のマネジメント向上にも資する重要な取組です。
その取組の一つとして、原子力規制委員会では、2013年に設置した「東京電力福島第一原子力発電所における事故の分析に係る検討会」で継続的に調査・分析を進めており、2024年度は九つの分析や検討等を行っています。例えば、「1号機原子炉格納容器ペデスタルのコンクリート損傷に関する分析」では、1号機で確認された多孔質状の棚状堆積物の生成メカニズムについて、実験を通じた分析が実施されました。実験では、水蒸気圧4気圧の条件下でコンクリートの骨材に相当する石(福島県で採取した安山岩)を1分間レーザーで1600℃に加熱後、減圧して1200℃で再加熱すると発泡状態となる結果が得られました。このことから、事故当時の1号機格納容器内の圧力条件(約1~8気圧の状態から格納容器ベントにより減圧)でも石材の発泡は発生し得るのではないかという考察がなされました。
2024年度の調査項目 項目名 目的 非常用復水器に関する分析 非常用復水器に関する事実関係を明らかにし当該設備に対する疑問を解消するとともに、当該分析を通して事故時対応の教訓を見いだす 3号機を例にしたSA注対応に係る教訓を得るための検討 全交流電源喪失後も1~4号機のなかで唯一直流電源が使用できたにも関わらず、炉心溶融に至った3号機の事故対応について分析し、新たな事故が発生した場合の対応に係る教訓を得る 1号機原子炉建屋シールドプラグの変位等の解明 1号機原子炉建屋シールドプラグが変位・損傷するに至ったメカニズムの解明を行う 2号機X-6ペネの堆積物に関する分析 2号機X-6ペネ内部で見つかった堆積物の生成過程及び格納容器内での移動プロセスを解明する 3号機原子炉建屋の水素爆発に関する分析 3号機原子炉建屋にて、1号機とは異なり、原子炉建屋4階で2段階の水素爆発に至ったメカニズムの解明を行う 1号機ペデスタルのコンクリート損傷に関する分析 1号機ペデスタルにおいてコンクリートが損傷した事象の解明を行う モニタリングポストの測定データに関する分析 事故時に大気中に拡散する放射性物質の挙動とモニタリングポストデータの関係性を詳細に把握する シールドプラグの汚染メカニズムの解明 1~3号機のシールドプラグにはPBqオーダーのセシウムが付着しており、この大量のセシウムがシールドプラグに付着したメカニズムを解明する その他 以下の分析等を実施・・・・・注:Severe Accident(過酷事故)
(出典)原子力規制委員会,令和6年度の調査項目について,第47回東京電力福島第一原子力発電所における事故の分析に係る検討会[資料1](2024年)
1-1-2 福島の復興・再生に向けた基本方針と現状
1-1-2-1 復興・再生に係る基本方針
福島第一原子力発電所周辺地域では事故により放出された放射性物質による環境汚染が引き起こされ、現在も多数の住民の方々が避難を余儀なくされているなど、その影響が続いています。このような状況に対処するため、政府は原子力災害対策本部及び復興推進会議を設置し、それらの連携の下、一丸となって福島の復興・再生の取組を進めています(図 1-2)。
図 1-2 福島の復興に係る政府の体制(2024年11月時点)
(出典)復興庁,福島の復興・再生に向けた取組(2024年)
廃炉・汚染水・処理水対策チームは「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」及び「ALPS 6 処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」の下、福島第一原子力発電所の廃炉や汚染水・処理水対策への対応を行っています。原子力被災者生活支援チームは、避難指示区域の見直しや原子力被災者の生活支援等の役割を担っています。
復興庁は、復旧・復興の取組として、長期避難者への対策や早期帰還の支援、避難指示区域等における公共インフラの復旧等の対応を行っています。環境省は、放射性物質で汚染された土壌等の除染や廃棄物処理、除染に伴い発生した土壌や廃棄物を管理・保管する中間貯蔵施設の整備、ALPS処理水に係る海域モニタリング等に取り組んでいます。
政府は、2021年度から2025年度までの5年間を「第2期復興・創生期間」と位置付け、「『第2期復興・創生期間』以降における東日本大震災からの復興の基本方針」(2021年閣議決定)に基づき引き続き前面に立って復興に取り組んでいます。2024年3月には復興施策の進捗状況等を踏まえ当該基本方針の変更について閣議決定 7 しました。主な見直し事項として、ALPS処理水の海洋放出開始など進捗が見られた廃炉・ALPS処理水の放出関係、特定帰還居住区域の避難指示解除に向けた取組などが示されています。第2期復興・創生期間の5年目に当たる2025年度に復興事業全体の在り方について見直しを行うとしています。1-1-2-2 避難指示区域の状況
住民等の避難については、年間の放射線被ばく線量を基準に、避難指示区域として、避難指示解除準備区域、居住制限区域及び帰還困難区域が設定されました(表 1-2、図 1-3)。
表 1-2 避難指示区域と避難指示解除の要件 避難指示区域 避難指示解除の要件 [避難指示解除準備区域]
年間積算線量が20mSv以下となることが確実であると確認された区域[居住制限区域]
年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあると確認された区域[帰還困難区域]
2012年3月時点での年間積算線量が50mSvを超え、事故後5年間を経過してもなお、年間積算線量が20mSvを下回らないおそれがあるとされた区域 ①②③(出典)内閣府作成
2020年3月までに全ての避難指示解除準備区域及び居住制限区域が解除されました。
帰還困難区域では、区域内に、避難指示を解除して居住を可能とすることを目指す特定復興再生拠点区域8が設定され、2023年11月までに全ての特定復興再生拠点区域の避難指示が解除されました9(図 1-4)。
特定復興再生拠点区域外については、「特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた避難指示解除に関する考え方」(2021年原子力災害対策本部・復興推進会議決定)において、2020年代をかけて帰還に関する意向を個別に丁寧に把握した上で帰還に必要な箇所を除染し、避難指示解除の取組を進めていくこととされました。この方針に基づき、特定復興再生拠点区域外に帰還する住民の生活の再建を目指すための「特定帰還居住区域」を創設する規定を含む「福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律」が2023年6月に公布・施行されました。この新たな制度では、帰還困難区域が所在する市町村長は、特定帰還居住区域の設定範囲、公共施設の整備等の事項を含む「特定帰還居住区域復興再生計画」を作成し、内閣総理大臣の認定を受けることができることとされており、2025年3月までに、大熊町・双葉町・浪江町・富岡町・南相馬市における特定帰還居住区域復興再生計画が認定されました。現在は、認定された計画に基づき、除染やインフラ整備等の避難指示解除に向けた取組が進められています。
また、「特定復興再生拠点区域外の土地活用に向けた避難指示解除について」(2020年原子力災害対策本部決定)を踏まえ、各地方公共団体の意向を十分に尊重し、土地活用に向けた避難指示解除の仕組みを運用しています10。
2011年11月時点の線量分布 2024年12月時点の線量分布 ![]()
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注: 黒枠囲いのエリアは避難指示区域の見直しが完了した2013年8月時点で帰還困難区域とされた範囲
図 1-3 空間線量から推計した年間積算線量の推移
(出典)文部科学省,文部科学省による第4次航空機モニタリングの測定結果について(2011年)、原子力規制委員会,福島県及びその近隣県における航空機モニタリングの結果について(2025年)を基に内閣府作成
2011年4月時点
(事故直後の区域設定が完了)2013年8月時点
(避難指示区域の見直しが完了)2025年3月時点
(葛尾村、大熊町、双葉町、浪江町、富岡町、
飯舘村の特定復興再生拠点区域の避難指示解除)![]()
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※ 南相馬市の特定帰還居住区域については、個人宅の特定につながるため非公表 図 1-4 避難指示区域の変遷
(出典)内閣府原子力被災者生活支援チーム,避難指示区域の見直しについて(2013年)、内閣府原子力被災者生活支援チーム,福島における避難指示解除と本格復興に向けて,第11回原子力委員会[資料第2号](2022年)を基に内閣府作成
1-1-2-3 食品中の放射性物質への対応
厚生労働省は、より一層の食品の安全と安心の確保をするため、事故後の緊急的な対応としてではなく長期的な観点から、2012年に新たな基準値を設定しました11。この基準値は、コーデックス委員会12が定めた国際的な指標を踏まえ、食品の摂取により受ける放射線量が年間1mSvを超えないようにとの考え方で設定されています(図 1-5)。
食品中の放射性物質については、原子力災害対策本部の定める「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」(2011年策定13)を踏まえ、17都県14を中心とした地方公共団体が検査を実施しています。農林水産物に含まれる放射性物質の濃度水準は低下しており、2025年3月末時点で、基準値超過の農畜産物はごく僅かです(表 1-3)。
図 1-5 食品中の放射性物質の新たな基準値の概要
(出典)厚生労働省,食品中の放射性物質の新たな基準値(2012年)
表 1-3 農林水産物の放射性物質の検査結果(17都県) 品目 基準値超過割合 2022年度注1 2023年度注1 2025年3月31日まで注1 農畜産物 米 0% 0% 0% 麦 0% 0% 0% 豆類 0% 0% 0% 野菜類 0% 0% 0% 果実類 0% 0% 0% 茶注2 0% 0% 0% その他地域特産物 0% 0.8%注4 0% 原乳 0% 0% 0% 肉・卵(野生鳥獣肉除く) 0% 0% 0.01%注5 きのこ・山菜類 0.8% 0.8% 0.6% 水産物注3 0.01% 0% 0% 注1:注2:注3:注4:注5:(出典)農林水産省,令和6年度の農産物に含まれる放射性セシウム濃度の検査結果(令和6年4月~), 農林水産省ウェブサイト(2025年)
福島県産米については、2012年から全量全袋検査により安全性の確認が行われてきましたが、カリウム肥料の追加施用による放射性物質の吸収抑制等の徹底した生産対策も奏功し、2015年以降は基準値を超えるものは検出されなかったため、2020年産米からは、被災12市町村15を除く福島県内全域において、全量全袋検査から旧市町村16ごとに3点の検査頻度で実施するモニタリングへと移行しています。また、被災12市町村においても、2022年産米からは広野町と川内村、2023年産米からは田村市、2024年産米からは楢葉町についてもこのモニタリングへと移行しています。
また、消費者庁は、全国15地域で実際に流通する食品を対象に、食品中の放射性セシウムから受ける年間放射線量の推定を行っています。2024年2、3月の調査では、年間上限線量(年間1mSv)の約0.1%と推定されています17。
海外では事故後に55の国・地域が輸入規制措置を設けましたが、規制措置の撤廃が進み、2025年3月末時点で輸入規制を継続している国・地域は6になっています(表 1-4)。引き続き事故後の輸入規制の撤廃を求めるほか、風評被害を防ぐため、我が国における食品中の放射性物質への対応等についてより分かりやすい形で国内外に発信していくなどの取組が継続されています18。こうした取組もあり、例えば台湾では、5県(福島県、茨城県、栃木県、群馬県及び千葉県)の野生鳥獣肉、きのこ類、コシアブラについて、放射性物質検査報告書及び産地証明書の添付を条件に輸入停止が解除されました。また、5県以外の放射性物質検査報告書の添付義務が撤廃されました。
表 1-4 諸外国・地域の食品等の輸入規制の状況(2025年3月末時点) 規制措置の内容/国・地域数 国・地域名 事故後
輸入規制
を措置
55規制措置を撤廃した国・地域 49 カナダ、ミャンマー、セルビア、チリ、メキシコ、ペルー、ギニア、ニュージーランド、コロンビア、マレーシア、エクアドル、ベトナム、イラク、オーストラリア、タイ、ボリビア、インド、クウェート、ネパール、イラン、モーリシャス、カタール、ウクライナ、パキスタン、サウジアラビア、アルゼンチン、トルコ、ニューカレドニア、ブラジル、オマーン、バーレーン、コンゴ民主共和国、ブルネイ、フィリピン、モロッコ、エジプト、レバノン、アラブ首長国連邦(UAE)、イスラエル、シンガポール、米国、英国、インドネシア、欧州連合(EU)、アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン、フランス領ポリネシア 輸入規制を継続して措置
6一部又は全ての都道府県を対象に検査証明書等を要求 2 ロシア、台湾 一部の都県等を対象に輸入停止 4 中国、香港、マカオ、韓国 注1:注2:(出典)農林水産省,原発事故に伴う諸外国・地域の食品等の輸入規制の概要(2024年9月25日現在)(2024年)
一方、2023年8月24日から開始したALPS処理水の海洋放出に伴い、中国、香港、マカオが8月24日以降、ロシアが同年10月16日以降、水産物等の輸入を停止しました。政府は、このような科学的根拠に基づかない措置に対し即時撤廃を求めていくとともに、こうした輸入規制を踏まえ、「水産業を守る」政策パッケージ等により支援策を措置したところです。さらに、令和6年度補正予算の措置として、ホタテ等の一時買取・保管や国内外の新規需要開拓支援、国内加工体制の強化に向けた機器導入等の支援を実施しており、引き続き、全国の水産業支援に万全を期していきます。これらの支援策を講じてもなお損害が生じた場合には、東京電力が適切に賠償を行うように指導しています。
2024年9月、我が国とIAEAとの間で、国際社会に対して更に透明性の高い情報提供を行っていく観点から、関係国の関心を踏まえ、IAEAの枠組みの下で現行のモニタリングを拡充することで一致しました。これに関連して、輸入規制措置を導入した中国との間では、建設的な態度をもって、協議と対話を通じて問題を解決する方法を見いだしていくという首脳間の共通認識に基づき、累次にわたって意思疎通を継続し、当該輸入規制に関する日中間の共有された認識を2024年9月に発表しました(図 1-6)。図 1-6 ALPS処理水の海洋放出に伴う輸入規制に関する日中間の共有された認識
(出典)日中間の共有された認識,外務省ウェブサイト(2024年)
1-1-2-4 放射線影響の把握
福島県は、県民の放射線被ばく線量の評価を行うとともに、将来にわたる健康の維持、増進を図ることを目的に県民健康調査(基本調査、詳細調査)を実施しています。この中では健康調査や検査の結果を個々人が記録・保管できるようにしています。環境省は、その取組に対し、財政的・技術的な支援を実施するとともに、放射線の基礎知識や健康影響に関する情報発信、普及啓発、住民相談等を実施し、放射線による健康影響に対する不安払拭に努めています。
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR19)は、事故による放射線被ばくとその影響に関して科学的知見を取りまとめた報告書を2021年に公表しました。同報告書では、被ばく線量の推計、健康リスクの評価を行い、放射線被ばくによる住民への健康影響が観察される可能性は低い旨が報告されています20。
事故に係る放射線モニタリングについては、政府は「総合モニタリング計画」を策定21し、関係府省、地方公共団体、原子力事業者等が連携して実施しており、その結果は原子力規制委員会「東日本大震災以降の環境放射線モニタリング情報22」として公表されています。また、原子力規制委員会では、帰還困難区域等のうち要望のあった区域23を対象として測定車及び歩行によるサーベイも実施しています。
我が国の海域モニタリングデータの信頼性及び透明性の維持・向上のため、福島第一原子力発電所近傍の海洋試料をIAEAと共同で採取し、IAEA及び我が国の各分析機関が個別に分析を行い、IAEAが分析結果の比較評価(ILC24)を行っています。また、2022年からALPS処理水に係る海域モニタリングの結果の裏付けを目的としたILCも行っています。本実施結果をまとめた報告書において、IAEAは日本の分析機関の試料採取方法は代表的な試料を採取するために適切な方法論的基準に従っており、かつ、日本政府の総合モニタリング計画の一環として、ALPS処理水の放出に関連するILCで得られた正確な分析結果から、海洋試料に含まれる放射性核種の分析に参加した日本の分析機関が、高い熟練度を有している旨報告しています。加えて、2024年9月に、我が国とIAEAとの間で、IAEAの枠組みの下で追加的モニタリングを実施することで一致しました。これを踏まえ、2024年10月及び2025年2月に、IAEA及び第三国分析機関の専門家による試料採取を実施しました25。また、IAEAが2023年7月に公表したALPS処理水海洋放出の安全性に関する包括報告書26では、東京電力はALPS処理水の放出に当たり、適切で精密な分析を実施する能力と持続可能で堅固な分析体制を有すると評価されています。さらに、IAEAはALPS処理水の海洋放出後も追加のレビューやモニタリングを継続し、国際社会に透明性と安心を提供するとしています。海洋放出後、IAEAタスクフォースによるALPS処理水の海洋放出に関するレビューが2023年10月(2024年1月報告書公表)と2024年4月(2024年7月報告書公表)、同年12月(2025年3月報告書公表)に実施されました。レビューミッションでは、IAEAタスクフォースが、ALPS処理水の海洋放出の安全性について、IAEA国際安全基準に基づいて、技術的事項を議論するとともに、福島第一原子力発電所を訪れ、現地調査を行いました。なお、これら我が国とIAEAとの取組については、第1章1-5-3-3「国際社会との協力」にも記載しています。
1-1-3 福島の復興・再生に向けた取組
1-1-3-1 除染と除去土壌等の処理
「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(放射性物質汚染対処特措法)に基づき、福島県内の11市町村の除染特別地域については国が除染を担当し、そのうち帰還困難区域を除く地域については2017年3月に面的除染が完了しました。除染特別地域以外については、国が汚染状況重点調査地域を指定して市町村が除染を実施し、2018年3月に面的除染が完了しました。帰還困難区域内においても、特定復興再生拠点区域の除染や家屋等の解体が集中的に実施され、2023年11月までに同区域の避難指示が解除されました。また、特定帰還居住区域の除染や家屋等の解体も進められており、同年12月には大熊町、双葉町、2024年6月には浪江町、同年9月には富岡町で除染や家屋等の解体が開始されました。
福島県内の除染に伴い発生した除去土壌等については、2025年3月末時点で累積約1,409万m3の除去土壌等(帰還困難区域を含む)が中間貯蔵施設に搬入されました。2025年3月に環境省が公表した「令和7年度(2025年度)の中間貯蔵施設事業の方針」では、特定帰還居住区域等で発生した除去土壌等の搬入を進めること等が示されています。「中間貯蔵・環境安全事業株式会社法」においては、中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずることが規定されています。
政府は、県外最終処分の実現に向けては最終処分量を減らすことが鍵であるため、再生利用の実証事業や減容等の技術開発を実施してきました。福島県飯舘村長泥地区における農地造成実証事業では、水田試験等が実施されました(図 1-7)。この結果、栽培した作物の放射能濃度は一般食品の基準値を大きく下回ることなどが確認されています。また、施工前後の空間線量率に変化がないこと、農地造成エリアからの浸透水の放射性セシウム濃度は概ね検出下限値(1Bq/L)未満であることなどが確認されています。中間貯蔵施設内における道路盛土の実証事業については、2023年10月に工事を完了し、道路盛土の放射線等に関するモニタリング等を継続しています。モニタリング結果からは、施工前後の空間線量率に変化がないこと、作業者の追加被ばく線量が1mSv/年以下であることなどが確認されています。こうした知見から、再生利用を安全に実施できることが確認されています。
図 1-7 飯舘村長泥地区での農地造成実証事業
(出典)環境省,福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等の取組状況について,福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等推進会議(第1回)[資料1](2024年)
減容等技術の開発に関しては、福島県双葉町の中間貯蔵施設内において、2023年度に引き続き、仮設灰処理施設で生じる飛灰の洗浄技術・安定化技術に係る基盤技術の実証試験が行われました。
また、政府の要請により除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合が開催され、2024年9月には最終報告書がIAEAから公表されました。最終報告書では、「再生利用及び最終処分について、これまで政府が実施してきた取組や活動はIAEAの安全基準に合致している」「今後、専門家チームの助言を十分に満たすための取組を継続して行うことで、政府の展開する取組がIAEA安全基準に合致したものになる。これは今後のフォローアップ評価によって確認することができる」との結論が示されています。
こうした再生利用の実証事業等の取組の成果、国内外の有識者からの助言等を踏まえ、2025年3月に、放射性物質汚染対処特措法施行規則の一部を改正し、除去土壌の復興再生利用基準や埋立処分基準を策定するとともに、同月に復興再生利用に係るガイドライン及び福島県外において発生した除去土壌の埋立処分に係るガイドラインを公表しました。
また、政府は、福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現、復興再生利用の推進に向けて、その必要性・安全性等に関する全国での理解・信頼の醸成活動に取り組んでいます。このため、SNSの活用や、飯舘村長泥地区や中間貯蔵施設に関する一般向けの現地見学会の開催、さらに、大学生等への環境再生事業に関する講義や現地見学会等を実施するなどの若い世代に対する理解醸成活動も実施しています。2020年以降には、中間貯蔵施設に搬入し分別した土壌の表面を土で覆い観葉植物を植えた鉢植えを、環境大臣室、新宿御苑等の環境省関連施設や首相官邸、関係省庁等に設置しています。鉢植え設置以降定期的に実施しているモニタリングでも空間線量率に変化は見られていません。
こうしたこれまでの取組の成果を踏まえ、環境省は2025年3月に、最終処分場の構造・必要面積等に係る複数選択肢も含めた「復興再生利用の推進」「最終処分の方向性の検討」「全国民的な理解醸成等」を3本柱とする「県外最終処分に向けたこれまでの取組の成果と2025年度以降の進め方」を示しました(図 1-8)。
さらに、除去土壌の再生利用等による最終処分量の低減方策、風評影響対策等の施策について政府一体となって推進するため、原子力災害対策本部の下に、閣僚級で構成される「福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等推進会議」が設置され、2024年12月に第1回が開催されました。議長である官房長官の指示に基づき、2025年春頃までに「再生利用の推進」「再生利用等の実施に向けた理解醸成・リスクコミュニケーション」「県外最終処分に向けた取組の推進」に係る基本方針を、2025年夏頃までにロードマップを取りまとめ、各府省庁が一丸となって復興再生利用の案件を創出するべく取組を進めていくとしています。
図 1-8 県外最終処分において想定される処分場のタイプ
(出典)環境省,県外最終処分に向けたこれまでの取組の成果と2025年度以降の進め方(中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略成果取りまとめ)(2025年)
1-1-3-2 廃棄物等の処理
除染特別地域において発生した除去土壌等及び汚染廃棄物対策地域27(対策地域)の廃棄物については、放射性物質汚染対処特措法に基づき、国が収集・運搬・保管及び処分を担当しています。その他の地域については、放射能濃度288,000Bq/kgを超える環境大臣の指定を受けた指定廃棄物は国が、それ以外の除去土壌及び廃棄物は市区町村又は排出事業者がそれぞれ処理責任を負います。国が処理責任を負っている「特定廃棄物」は、「指定廃棄物」と対策地域にある廃棄物のうち一定要件に該当する「対策地域内廃棄物」の二つです。なお、指定廃棄物は指定廃棄物の処理の基準に従い処理されます(図 1-9)。8,000Bq/kg以下に減衰した指定廃棄物については、指定解除を行うことで通常の廃棄物と同様に管理型処分場等で処分することができます。指定解除後の廃棄物の処理については、国が技術的支援及び財政的支援を行うこととしています。
図 1-9 指定廃棄物の処理の基準
(出典)指定廃棄物について,環境省放射性物質汚染廃棄物処理情報サイト(2025年)
福島県内においては、2025年3月末時点で約46.5万tが指定廃棄物として指定を受けています。ほぼ全ての廃棄物が国の管理の下、仮設焼却施設での焼却や特定廃棄物埋立処分施設29等での処分、中間貯蔵施設での保管等をされています。また、対策地域内廃棄物として、主に津波がれき、家屋等の解体によるもの及び片付けごみがあり、2025年3月末時点で帰還困難区域を含め約350万tの対策地域内廃棄物等の仮置場への搬入を完了しています。帰還困難区域を除く対策地域内廃棄物については仮置場への搬入、中間処理30又は最終処分は概ね完了しています。
特定廃棄物のうち、放射能濃度が10万Bq/kgを超えるものは中間貯蔵施設に、10万Bq/kg以下のものは既存の管理型処分場である、特定廃棄物埋立処分施設とクリーンセンターふたば31に搬入することとされています。このうち、特定廃棄物埋立処分施設の活用については、2023年10月末で特定廃棄物の埋立処分を完了しました。なお、双葉群8町村の生活ごみの埋立処分は継続して実施しており、2025年3月末時点で合計296,780袋の廃棄物を埋立処分済みです。また、クリーンセンターふたばの活用については、2023年6月に特定廃棄物の搬入を開始し、2025年3月末時点で21,701袋の廃棄物を埋立処分済みです。また、当該処分場に搬入する廃棄物のうち放射性セシウムの溶出量が多いと想定される焼却飛灰等については、安全に埋立処分できるよう、セメント固型化処理が行われています(図 1-10)。
図 1-10 福島県内における土壌などの処理フロー
(出典)環境省
1-1-3-3 福島県以外の都県における除去土壌等及び指定廃棄物の処理
放射性物質汚染対処特措法に基づき汚染状況重点調査地域が指定されて市町村が除染を実施し、福島県外においては7県54市町村において除去土壌等が保管されています。環境省は福島県外の除去土壌の処分方法を定めるため、有識者による「除去土壌の処分に関する検討チーム会合」を開催し、専門的見地から議論を進めるとともに、除去土壌の埋立処分に伴う作業員や周辺環境への影響等を確認することを目的とした実証事業を実施しました。こうした実証事業の結果や有識者からの助言等を踏まえ2025年3月に放射性物質汚染対処特措法施行規則の一部を改正し、除去土壌の埋立処分基準を策定するとともに、福島県外において発生した除去土壌の埋立処分に係るガイドラインを公表しました。
福島県以外の指定廃棄物については、排出された都道府県内で国が処理を行うこととなっています。2025年3月末時点で8都県32において約2.2万tが指定廃棄物となっています。指定廃棄物の保管がひっ迫している宮城県、栃木県及び千葉県では、国が当該県内に長期管理施設を設置する方針です。また、茨城県及び群馬県では、8,000Bq/kg以下になったものを、指定解除の仕組み等を活用しながら段階的に既存の処分場等で処理する方針が決定されるなど、各県の実情に応じた取組が進められています(図 1-11)。
図 1-11 福島県以外の都県における除去土壌等及び指定廃棄物の処理フロー
(出典)環境省
1-1-3-4 早期帰還、生活の再建や自立に向けた支援の取組
避難指示区域からの避難対象者数は、2025年4月時点で約8,000人33(避難区域設定時の2013年8月時点では約8.1万人)となっています。事故から14年が経過し、帰還困難区域を除く地域では避難指示が解除され、また、帰還した住民への支援も実施され、福島の復興及び再生に向けた取組には着実な進展が見られる一方で、避難生活の長期化に伴って、健康、仕事、暮らし等の様々な面で引き続き課題に直面している住民の方々もいます。復興の動きを加速するため、早期帰還支援、新生活支援の対策、安全・安心対策の充実、帰還住民のコミュニティ形成の支援等の取組に、国と地元が一体となって注力しています。
帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域については、全ての避難指示が解除され、生活環境の整備等が進められているところであり、特定帰還居住区域については、避難指示解除に向けた取組が進められています34。
2015年に国、福島県、民間の構成により創設された「福島相双復興官民合同チーム」では、2025年3月までに約5,900事業者への個別訪問を行い、専門家によるコンサルティング、人材確保や販路開拓等の支援を実施しているほか、2017年4月から2025年3月までに約2,800の農業者へ個別訪問し、営農再開に向けた支援を実施しています。また、分野横断・広域的な観点から、まちづくり計画の策定・実行や生活関連サービス等に係る行政・民間による取組等への支援を進めているほか、交流人口・関係人口づくりに向けた情報発信支援や、外部からの人材の呼び込み・創業支援の取組を進めています。1-1-3-5 新たな産業の創出・生活の開始に向けた広域的な復興の取組
2015年7月、復興大臣決定により開催される「福島12市町村の将来像に関する有識者検討会」において、30年から40年後の姿を見据えた2020年の課題と解決の方向が提言として取りまとめられました。2021年3月には同有識者検討会の提言が見直され、持続可能な地域・生活の実現、広域的な視点に立った協力・連携、新しい福島型の地域再生という基本的方向の下、目指すべき30年から40年後の地域の姿が示されました。
「福島イノベーション・コースト構想」は、東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトです。廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙の六つの重点分野において取組を推進しています(図 1-12)。
図 1-12 福島イノベーション・コースト構想における主要プロジェクト
(出典)経済産業省
2025年6月には、「福島イノベーション・コースト構想を基軸とした産業発展の青写真」の改定版を策定・公表しました。さらに、この構想を発展させ、福島を始め東北の復興を実現するための夢や希望となるとともに、我が国の科学技術力・産業競争力の強化を牽引し、経済成長や国民生活の向上に貢献する、世界に冠たる「創造的復興の中核拠点」を目指し、「福島国際研究教育機構」(F-REI35)が2023年に設立されました。F-REIの当初の施設整備は国が行うこととされており、国において用地取得を進めるとともに、2024年1月に策定された「福島国際研究教育機構の施設基本計画」を踏まえた敷地造成や建物の設計に着手しました。F-REIでは五つの分野の研究開発を推進しています(図 1-13)。また、約50の研究グループの研究体制に向け、他の研究機関等に所属する研究者への外部委託等による研究を中心とした体制から、段階的にF-REIの直接雇用やクロスアポイントメント36による研究体制に移行することを目指して、優秀な研究者の確保に取り組んでいます。
注: 新産業創出等研究開発基本計画(2022年8月内閣総理大臣決定)に基づく研究開発分野図 1-13 F-REIが取り組む研究開発分野
(出典)復興庁
1-1-3-6 風評払拭・リスクコミュニケーションの強化
科学的根拠に基づかない風評や偏見・差別は、放射線に関する正しい知識や、福島県における食品中の放射性物質に関する検査結果等が十分に周知されていないことなどに主たる原因があると、2017年に復興庁を中心とした関係府省庁において取りまとめられた「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」では述べられています。同戦略に基づき、「知ってもらう」、「食べてもらう」、「来てもらう」の観点から、政府一体となって国内外に向けた情報発信等に取り組んでいます。例えば、「知ってもらう」取組として、復興庁作成の動画「原子力災害からの復興と風評の払拭について考えよう37」(2023年公開)などの情報発信や、学校における放射線副読本38の活用の促進等を実施しています。
取組状況については、「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」において継続的なフォローアップが行われています。2021年8月に開催された同タスクフォースでは、同年4月に「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(ALPS処理水の処分に関する基本方針)が公表されたことを受け、安全性のみならず、消費者等の「安心」につなげることを意識しつつ、届けて理解してもらう情報発信を関係府省庁が連携して展開するとの考え方に立った「ALPS処理水に係る理解醸成に向けた情報発信等施策パッケージ」を取りまとめ、2023年にはALPS処理水に係る理解醸成に向けて情報発信等の取組を強化するため改定しました39。
また、復興庁は、「持続可能な復興広報を考える検討会議」を開催し、風評被害の払拭と風化対策を図るための情報発信の手法を議論し、その議論結果を取りまとめて2023年に報告書を公表しました。関係者の主体性と認識共有の重要性や魅力的なコンテンツ作りの必要性等についての指摘がなされています。1-1-4 原子力損害賠償の取組
我が国においては、原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度である「原子力損害の賠償に関する法律」が制定されています。同法に基づき、福島第一原子力発電所事故の対応として文部科学省に設置された「原子力損害賠償紛争審査会」において、被害者の迅速、公平かつ適正な救済のために、賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示した指針(中間指針)を策定しています。2022年に見直された中間指針第五次追補では、損害額の目安が賠償の上限ではないことはもとより、中間指針で示されなかったものや対象区域として明示されなかった地域が直ちに賠償の対象とならないというものではなく、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められるものは全て賠償の対象となるとしています。さらに、東京電力に対し、合理的かつ柔軟な対応と同時に被害者の心情にも配慮した誠実な対応を求めています。また、原子力損害の賠償に関する法律に基づき、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会の下に設置された原子力損害賠償紛争解決センターにおいては、事故の被害を受けた方からの申立てにより、仲介委員が当事者双方から事情を聴き取り、損害の調査・検討を行い、和解の仲介業務を実施しています(図 1-14)。
原子力損害賠償費用については、「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」に基づき、国が交付国債を発行し、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF40)を通じて東京電力に資金援助した上で、後年に電力会社による負担金等により回収する仕組みとなっています。原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給等の確保を図るため、NDFは、原子力事業者からの負担金の収納、原子力事業者が損害賠償を実施する上での資金援助、損害賠償の円滑な実施を支援するための情報提供、助言等を実施しています。
東京電力は中間指針等を踏まえた損害賠償を実施しており、2025年3月末時点で、総額約11兆5,453億円の支払いを行っています。なお、この費用の総額には、被害者への賠償費用のほか除染等の費用が含まれています。2024年度政府予算では、賠償に係る中間指針の見直しに伴う追加賠償や、帰還困難区域の一部の除染開始に伴う中間貯蔵施設費及びALPS処理水の海洋放出に伴う費用の増加に伴い、追加支出が発生することから、NDFへの交付国債の発行限度額が13.5兆円から15.4兆円に引き上げられました。NDFは、東京電力を始めとする原子力事業者からの負担金等を原資として、国債の償還金額に達するまで国庫納付を行うこととしており、2025年3月末時点での国庫納付の累積額は約3.2兆円となっています。
図 1-14 原子力損害賠償・廃炉等支援機構による賠償支援
(出典)経済産業省,平成26年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2015)(2015年)を基に内閣府作成
1-2 ゼロリスクはないとの認識の下での安全性向上
東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、国内外において原子力安全対策の強化が図られています。我が国では、原子力行政体制の見直しが行われ、新規制基準や新たな検査制度の導入が進められてきています。また、日本の組織文化や国民性を踏まえた安全文化の醸成や、事業者等による自主的な安全性向上の取組も行われています。
一方、あらゆる科学技術はリスクとベネフィットの両面を有し、ゼロリスクはあり得ません。原子力についても、どこまで安全対策を講じても常に事故は起きる可能性があるとの認識の下、リスクを可能な限り低減する取組を継続していくことが重要です。
1-2-1 原子力安全に関する基本的枠組み
1-2-1-1 国際的な動向
福島第一原子力発電所事故は国際社会にも大きな影響を与えました。事故を受けて、国際機関や諸外国においては、原子力安全を強化するための取組が進められています。
IAEAでは2011年に「原子力安全に関するIAEA行動計画」が策定され、IAEA加盟国はこの行動計画に従って自国の原子力安全の枠組みを強化するための様々な取組を実施しています。また、IAEAにおいて策定される原子力利用に係る安全基準(安全原則、安全要件、安全指針)は定期的に見直されることになっており、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、改訂や新規策定がなされています。
OECD/NEAは、各国の規制機関が今後取り組むべき優先度の高い事項を示しています。特に、原子力の安全確保においては、人的・組織的要素や安全文化の醸成が重要であるとし、OECD/NEA加盟国による継続的な安全性向上の取組を支援しています。
米国や欧州諸国においても、事故の教訓を踏まえ、より一層の安全性向上に向けた追加の安全対策の検討や導入を進めています。例えば米国では、事故直後に米国原子力規制委員会(NRC41)に設置されたタスクフォースの勧告42に基づき、規制の改善や安全性強化の要請が行われました。EUでは事故直後に域内の原子力発電所に対してストレステスト(耐性検査)が行われるとともに、原子力安全に関するEU指令が2014年に改定され、EU全体での原子力安全規制が強化されました。
1-2-1-2 国や事業者等の役割
IAEAの基本安全原則43では、政府の役割について「独立した規制機関を含む安全のための効果的な法令上及び行政上の枠組みが定められ、維持されなければならない」としています。また、「安全のための一義的な責任は、放射線リスクを生じる施設と活動に責任を負う個人又は組織が負わなければならない」と規定し、安全確保の一義的な責任は原子力・放射線を取り扱う事業者等にあるとしています。
我が国では、福島第一原子力発電所事故の反省を踏まえて原子力行政体制が見直され、2012年に原子力規制委員会が発足し、その事務局である原子力規制庁が設置されました。原子力規制委員会は、組織理念としてその使命と活動原則を掲げています(図 1-15)。情報公開を徹底し、意思決定プロセスの透明性や中立性の確保を図るほか、外部とのコミュニケーションに取り組んでおり、規制活動の状況や改善等に関して原子力事業者や地元関係者等との意見交換44を行っています。
また我が国では、IAEAやOECD/NEA等の国際機関及び諸外国の原子力規制機関との連携・協力を通じ、我が国の知見、経験を国際社会と共有することに努めています。事業者等は、自主的かつ継続的な安全性向上に努めており、詳細は第1章1-2-3-4「原子力事業者等による自主的安全性向上」に記載しています。図 1-15 原子力規制委員会の組織理念
(出典)原子力規制委員会,原子力規制委員会の組織理念(2013年)
1-2-2 原子力安全規制とその実施
1-2-2-1 新規制基準の導入
「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)は、2012年の改正によりその目的に国民の健康の保護や環境の保全等が追加されました。また、継続的な安全性向上のため、既に許可を得た原子力施設に対しても最新の規制基準への適合を義務付ける「バックフィット制度」等が導入されました。同法の改正を受け、2013年7月に「実用発電用原子炉に係る新規制基準」が、同年12月に「核燃料施設等に係る新規制基準」が施行されました。IAEAの基本安全原則では、事故を防止し、その影響を緩和するための主要な手段は「深層防護」であるとしています。新規制基準においても事故の反省を踏まえ、事故前と同様に深層防護を基本としつつその強化を図り、常に事故が起こる可能性があるとしてその事故シナリオや対策等に関してより徹底したものとしています。
新規制基準では、地震や津波等の自然災害や火災等への対策を強化又は新設するとともに、重大事故やテロリズムを想定した対策が新設されました(図 1-16)。なお、特定重大事故等対処施設45については、テロリズム以外による重大事故等発生時にも対処できるように体制を整備することが求められるようになりました46。
新規制基準は原子力施設の設置や運転等の可否を判断するためのものですが、これを満たせば絶対的な安全性が確保できるわけではなく、常により高いレベルを目指し続けていく必要があります。原子力事業者等は、新規制基準に基づいて安全確保のために様々な措置(図 1-17)を講じるだけでなく、最新の知見を踏まえつつ、安全性向上に資する措置を自ら講じる責務を有しています47。
図 1-16 従来の規制基準と新規制基準との比較
(出典)原子力規制委員会,実用発電用原子炉に係る新規制基準について-概要-(2016年)
図 1-17 新規制基準で求められる主な安全対策
(出典)電気事業連合会,原子力コンセンサス2025(2025年)
1-2-2-2 原子力規制検査の導入
原子力規制委員会は、「原子力規制検査」の運用を2020年から開始しました。これは「いつでも」「どこでも」「何にでも」チェックが行き届く検査と、事業者の取組状況の評定を通じて事業者が自ら安全確保の水準を向上する取組を促進するという特徴を有しており、安全上の重要度から検査の重点を設定するなどリスクの観点を取り入れた検査体系となっています。
原子力規制検査では、原子力規制庁による検査及び事業者からの安全実績指標の報告に基づき、安全重要度の評価、規制対応措置及び総合的な評定が行われます(図 1-18)。総合的な評定では、原則として年に1回、検査対象の安全活動の状態に対して、対応区分の設定などプラントごとの総合的な評定を行うとともに、事業者への通知・公表を行います。
図 1-18 原子力規制検査の監視業務の概略フロー
(出典)原子力規制委員会,原子力規制検査における監視業務の概要フロー,原子力規制委員会ウェブサイト(2025年)
1-2-2-3 運転期間の制限
2012年の原子炉等規制法の改正では、発電用原子炉の運転可能期間を40年とし、原子力規制委員会の認可を受け20年を超えない期間で1回に限り延長ができる運転延長期間認可制度が新たに規定されました。この制度の下、2024年末時点で、高浜発電所1~4号機、美浜発電所3号機、東海第二発電所、九州電力株式会社川内原子力発電所1、2号機がそれぞれ60年までの運転期間延長の認可を受けています。
その後、2023年に「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(GX48脱炭素電源法)が成立し、電気事業法及び原子炉等規制法が改正されました49(図 1-19)。この改正により電気事業法において、運転する期間を40年、最長で60年に制限するという現行の枠組みは維持しつつ、電気の安定供給の選択肢確保への貢献、脱炭素化によるGX推進への貢献、安全マネジメントや防災対策の不断の改善に向けた組織運営体制の構築等の観点から、経済産業大臣の認可を受けた場合に限り、運転期間の延長を認めることとするとともに、東日本大震災以降の法制度の変更など、事業者から見て他律的な要素によって停止していた期間に限り、運転期間のカウントから除外することを認める仕組みが措置されました。2025年6月の施行に向け、電気事業法における原子力発電の運転期間延長の認可要件に係る審査基準が検討されています。
図 1-19 運転期間と高経年化炉に係る規制のイメージ(電気事業法・原子炉等規制法)
(出典)資源エネルギー庁,原子力政策に関する直近の動向と今後の取組,第36回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会[資料1](2023年)
他方、原子炉等規制法において、従来の運転延長期間認可制度及び運転開始後30年目以降10年ごとに行う高経年化技術評価制度から新制度の「長期施設管理計画」に移行し、新たに高経年化した発電用原子炉に関する必要な安全性を引き続き厳格に確認する制度が設けられました。同制度では、30年を超えて運転しようとするとき、その延長期間を10年以内として劣化を管理するための長期施設管理計画を定め、原子力規制委員会の認可を受けなければならないとしています。また、従来の高経年化技術評価制度よりも認可対象が拡充されており、劣化の状況の把握と将来の劣化の予測・評価方法のほか、技術の旧式化・品質マネジメントシステムを含むものとされています。この制度の下、2025年3月末時点で11基50が長期施設管理計画の認可を受けています。
1-2-2-4 安全規制の実施
実用発電用原子炉施設については、原子炉等規制法に基づき原子力規制委員会が設計・建設及び運転の各段階の規制を行っています。設計・建設段階では、原子炉設置(変更)許可、設計及び工事の計画の認可、保安規定(変更)認可の審査等を行います。
新規制基準への適合性審査の結果、2025年3月末時点で17基が設置変更許可を受けています51。なお、原子力規制委員会は、日本原子力発電株式会社から申請されていた敦賀発電所2号機の設置変更許可申請について、新規制基準52に適合していると認められないことから、2024年11月に許可をしないこととする処分を行うことを決定しました。この決定を受け、同社は設置変更許可の再申請に向けて追加調査等に取り組んでいく意向です。
設置工事の着手後は、事業者のあらゆる安全活動について原子力規制検査を通じて監視します。2023年度第4四半期から2024年度第3四半期までの24件の検査指摘事項等の評価は、いずれも重要度は「緑」53以下でした。
また、製錬施設、加工施設、試験研究用等原子炉施設、使用済燃料貯蔵施設、再処理施設、廃棄物埋設施設、廃棄物管理施設、核燃料物質の使用施設等の規制についても原子炉等規制法に定められています。1-2-3 原子力安全の向上に関する継続的な取組
1-2-3-1 原子力安全規制の継続的な改善
原子力規制委員会は、国内外における最新の技術的知見や動向を考慮し、規制の継続的な改善に取り組んでいます。実用発電用原子炉については、原子力事業者経営層との意見交換の結果を踏まえて、2022年に審査の進め方等の対応方針を原子力規制委員会が了承しました(図 1-20)。具体的には、できる限り手戻りがなくなるよう申請者の対応方針を確認するための審査会合を頻度高く開催すること、原子力規制庁からの指摘が申請者に正確に理解されていることを確認する場を設け必要に応じ文書化を行うこと等の取組を行うこととしており、原子力規制庁はこの方針に従って審査を進めています。
図 1-20 電力会社経営層との意見交換の結果を踏まえた、審査の進め方等の対応方針
(出典)原子力規制庁,電力会社経営層との意見交換を踏まえた新規制基準適合性に係る審査の進め方,第37回原子力規制委員会[資料2](2022年)
原子力規制検査の運用については、確認された課題や検査の実施状況等を踏まえた改善策等を検討するため「検査制度に関する意見交換会合」が実施されています。2024年度は1回開催され、原子力規制検査の実施状況や運用の改善等について外部有識者や事業者等を交えた幅広い意見交換が行われ、現場とのコミュニケーションの重要性等について指摘がなされました。
1-2-3-2 原子力安全研究
原子力規制委員会では、「原子力規制委員会における安全研究の基本方針」(2016年原子力規制委員会決定、2019年改正)に基づき、今後推進すべき安全研究の分野及びその実施方針を原則として毎年度策定し、安全研究を実施しています(表 1-5)。また、IAEAやOECD/NEA等の国際機関、米国NRCやフランスの原子力安全・放射線防護機関(ASNR54)等の諸外国の規制機関との連携を積極的に推進し、安全研究の国際動向や我が国の課題との共通性等を踏まえた上で、共同研究に積極的に参加しています。
経済産業省では、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、更なる安全性向上に向けた取組を加速させていくことを目的に、2015年に自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ55が取りまとめた「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」において、優先度が高いとされた課題の解決等に向けて「原子力の安全性向上に資する技術開発事業」を推進しています。同事業では、既存軽水炉に係る技術開発に加え、将来の革新的軽水炉56に資する技術開発にも取り組んでいます。
文部科学省では、「原子力システム研究開発事業」において、原子力分野の基盤技術開発の一つとしてプラント安全分野(核特性解析、核データ評価、熱水力解析、構造・機械解析、プラント安全性解析等)を挙げ、照射試験による評価など従来の専門的なアプローチに加えて、計算科学技術を活用した知識統合・技術統合を進めています。
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(原子力機構)や国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST57)では、原子力規制委員会等と連携し、それぞれの専門領域に応じた安全研究を実施しています。特に、リスク評価、緊急時対応、経年劣化、環境安全等に係る分野横断的研究を推進しています。
一般財団法人電力中央研究所の原子力リスク研究センター(NRRC58)は、確率論的リスク評価(PRA59)手法やリスクマネジメント手法に関する研究開発の中核を担っています。原子力事業者等はNRRCとの連携を通じてPRAの高度化に取り組んでいます。また、地震、津波、竜巻、火山噴火等の外部事象に対する原子力施設のフラジリティ60評価手法の開発も進めています。
表 1-5 今後推進すべき安全研究の分野及び安全研究プロジェクト(2025年度以降) カテゴリー 分野 安全研究プロジェクト 横断的原子力安全 外部事象
(地震、津波、火山等) ・・・・・・火災防護 ・原子炉施設 レベル1 PRA ・シビアアクシデント
(レベル2 PRAを含む) ・・熱流動・炉物理 ・・新型炉 ・核燃料 ・材料・構造 ・施設 ・核燃料サイクル・廃棄物 核燃料サイクル施設 ・放射性廃棄物
埋設施設 ・廃止措置・クリアランス ・原子力災害対策
・放射線防護等原子力災害対策
(レベル3 PRAを含む) ・放射線防護 ・保障措置・核物質防護 - 技術基盤の構築・維持 - - (出典)原子力規制委員会,今後推進すべき安全研究の分野及びその実施方針(令和7年度以降の安全研究に向けて)(2024年)を基に内閣府作成
1-2-3-3 リスク情報の活用
原子力事業者等は、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、リスクを見逃さず安全性を更に向上させるため、PRAを活用した安全対策に取り組んでいます。PRAは、原子力発電所等の施設で起こり得る事故のシナリオを網羅的に抽出し、その発生頻度と影響の大きさを定量的に評価する手法です(図 1-21)。また、原子力事業者は、発電所の取組を適切に評価し、より効果的にリスクを低減し安全性を向上させる仕組みとして、リスク情報を活用した意思決定(RIDM61)を発電所のリスクマネジメントに導入することとしています。その戦略などを「リスク情報活用の実現に向けた戦略プラン及びアクションプラン」として取りまとめ、取組の進捗に応じて逐次改訂を行っています(図 1-22)。これを着実に遂行することで、規制の枠に留まらない自律的な安全性向上の実現を目指すこととしています。
図 1-21 確率論的リスク評価(PRA)の評価手法と評価の範囲
(出典)資源エネルギー庁,原子力の自主的な安全性の向上について,第14回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会[資料3](2018年)
図 1-22 RIDMプロセスの導入に向けた戦略プランの基本方針
(出典)電気事業連合会,リスク情報活用の実現に向けた戦略プラン及びアクションプラン(2023年度改訂版)(2023年)
1-2-3-4 原子力事業者等による自主的安全性向上
(1)原子力安全推進協会(JANSI)における取組
JANSI62は、原子力事業者の自主規制組織として2012年に設立されました。事業者の安全性向上の活動を評価するとともに、提言や支援を行うことにより事業者の安全性及び信頼性を高める活動を牽引する役割を担っています。評価や支援の過程における提言や勧告の策定に当たっては、国内外の専門家によるレビューを受けることによりその客観性を担保しています。また、JANSIとその会員(事業者)は、原子力産業界における自主規制の目指す姿の実現に向けて、共同体として取り組むとしています(図 1-23)。
2021年には、福島第一原子力発電所事故の教訓の一層の活用を促進するために、関連する教訓や事例を整理した「福島第一事故の教訓集」を策定しました。また、JANSIは活動成果を報告するとともに活動をより実効性のあるものとするため、国内外の有識者等と意見交換を行う年次会合を開催しています。2025年3月に開催された「JANSI Annual Conference 2025」のパネル討論では「原子力発電所要員の技量の維持・向上について」をテーマに、討論を実施しました。
図 1-23 原子力産業界における自主規制の目指す姿 ~役割と責任~
(出典)JANSI,協会案内パンフレット(2024年)
(2)原子力エネルギー協議会(ATENA)における取組
ATENA63は、原子力産業界による自律的かつ継続的な安全性向上の取組を定着させていくために、原子力事業者に効果的な安全対策の導入を促す組織として2018年に設立されました(図 1-24)。ATENAは、原子力発電所の安全性を更に高い水準へ引き上げることをミッションとして、国内外の最新の知見や規制当局による検討会等の状況等を踏まえた上で、原子力の安全に関する共通的な技術課題に対して優先的に取り組むテーマを特定して検討を進めています。
2024年度は、緊急時対応に係る全ての組織やその活動について、あるべき姿と照らし、中期的に原子力事業者が目指す姿(中期目標)等を定め、継続的な緊急時対応能力の向上に資するために、中期計画の作成方法及び運用についてまとめた「緊急時対応に係る中期計画作成・運用要領」のほか、「地すべりの識別方法及び安定性評価方法」、「原子力発電所におけるデジタル安全保護回路のソフトウェア共通要因故障緩和対策に関する技術要件書(Rev.2)」、「電磁両立性(EMC64)に係る原子力発電所における今後の対応方針(Rev.1)」、「安全な長期運転に向けた経年劣化に関する知見拡充レポート(Rev.1)」を公開しました。
また、原子力規制委員会が開催する「主要原子力施設設置者の原子力部門の責任者との意見交換会」(CNO65意見交換会)にATENAも参加し、原子力発電の課題や事業者等の取組等について議論が行われています。2024年度は9、12、3月にCNO意見交換会が開催され、ATENAや事業者の取組、規制当局の関心事項、革新軽水炉に関する取組、令和6年能登半島地震を踏まえた原子力発電所の安全性向上の取組、安全性向上のためのリスク情報活用等について意見交換が行われました。さらに、原子力産業界の関係者が取り組むべき今後の課題を共有する機会として、毎年ATENAフォーラムを開催しています。2025年2月のフォーラムでは、「原子力における新技術導入の促進のために」をテーマとしたパネル討論等が実施されました。
図 1-24 原子力エネルギー協議会(ATENA)の役割
(出典)ATENAについて,ATENAウェブサイト(2025年)
1-2-4 安全神話からの脱却と安全文化の醸成
1-2-4-1 国民性を踏まえた安全文化の醸成
IAEAでは、安全文化を「全てに優先して原子力施設等の安全と防護の問題が取り扱われ、その重要性にふさわしい注意が確実に払われるようになっている組織、個人の備えるべき特性及び態度が組み合わさったもの」としています66。2016年にOECD/NEAが取りまとめた規制機関の安全文化に関する報告書67においても、安全文化に国民性が影響を及ぼすという指摘があるように、国民性は価値観や社会構造に組み込まれており個人の仕事の仕方や組織の活動にも影響を及ぼすと考えられます。我が国においては、特有の思い込み(マインドセット)やグループシンク(集団思考又は集団浅慮)、同調圧力、現状維持志向が強いことが課題の一つとして考えられています。国や原子力事業者等の原子力関係者は、国民や地方公共団体等のステークホルダーの声に耳を傾け、従来の日本的組織や国民性の良いところは生かしつつ、弱点を克服した安全文化を醸成していくことが不可欠です。
1-2-4-2 原子力規制委員会における取組
原子力規制委員会は、2015年に決定した「原子力安全文化に関する宣言」(図 1-25)に基づき、IAEA総合規制評価サービス(IRRS68)による指摘等を踏まえながら、マネジメントシステムの継続的改善と原子力安全文化の育成・維持に取り組んでいます。「マネジメントシステム及び原子力安全文化に関する行動計画」(2020年)では、マネジメントシステムの継続的改善について、全ての業務のプロセスとしての整理や全ての主要プロセスのマニュアル作成等を段階的に進める計画が示されています。また、原子力安全文化の育成・維持に関し、PDCAサイクルの実践や、原子力安全文化の理解及び自己の役割の認識の深化等に段階的に取り組むとしています。「令和7年度原子力規制委員会年度業務計画」においても、原子力安全文化の育成・維持について取り組むこと等が示されています。
原子力規制委員会はその透明性を確保するため、「原子力規制委員会の業務運営の透明性の確保のための方針」を2023年に改正しました。この改正により被規制者等との面談と同様に、原子力規制委員又は原子力規制庁職員がノーリターンルール対象組織等69と面談する際は不開示情報を除き日程・参加者、議事要旨、資料を公開することが決定されました。図 1-25 原子力規制委員会の「原子力安全文化に関する宣言」に示された行動指針
(出典)原子力規制委員会,原子力安全文化に関する宣言(2015年)
1-2-4-3 原子力事業者等における取組
原子力発電所においては、一般社団法人日本電気協会「原子力安全のためのマネジメントシステム規程70」に基づき、安全文化醸成の活動が行われています。同規程は、事業者の自主的な改善努力によるパフォーマンスの向上に重点を置いたものとして、2021年に改定版が発刊されました。
また、JANSIは2021年度から、IAEAが作業文書として発行した「A Harmonized Safety Culture Model」に示されている10の安全文化の特性(Traits)を準拠モデルとして使用しています(図 1-26)。さらに、JANSIでは、原子力安全の向上を図るため、会員組織の経営者、管理者等の各層を対象に、安全文化に関するセミナー等の活動を行っています。図 1-26 10の安全文化の特性(Traits)
(出典)IAEA, A Harmonized Safety Culture Model(2020年)
コラム ~国特有の安全フォーラム~
OECD/NEA及び世界原子力発電事業者協会(WANO注)は国特有の安全文化フォーラムを実施しています。フォーラムは、国の文化的背景が安全文化にどのように関係するのか、また、事業者や規制当局が日々の活動の中でこれらの影響に関していかに考えるべきかについて理解を深めるために創設されました。
日本では2023年にOECD/NEA、WANO、原子力規制委員会、電気事業連合会が共催する形で実施されました。本フォーラムを通じて、日本の原子力セクターには「まじめ」「保守的」「和」「素直に発言しない」「集団主義」「曖昧さ」「失敗への恐怖」「思いやり」「年功序列」「お上意識」「同調圧力」の11個の特徴的な国民性があると指摘されました。これらの国民性のプラス面とマイナス面を考慮しながら原子力安全文化への影響が分析され、これら日本の文化的特質が、前提認識、価値観、組織構造、プロセスに影響を及ぼし、結果的に原子力安全のパフォーマンスに影響し得ることが浮き彫りにされたと報告されています。
また、「失敗を恐れること、発言しないこと、そして保守的傾向といった国民性は、安全に関する問題であれ、それ以外の問題であれ、従事者が自信を持って報告することを妨げる可能性がある」「意思決定に関しては、その効率を向上させ、誰もが恐れることなく意見を表明できるようにすれば、日本の国民性の影響に気づくことができる」「組織内の会議であれ、事業者と原子力規制委員会の双方が関与する会議であれ、完全に中立な立場の人物または組織が会議を円滑に進行することを検討するのが有用と考えられる」等の提言がまとめられました。注: World Association of Nuclear Operators
国民性のプラス面とマイナス面の例 日本の国民性 プラス面の影響 要注意の課題 まじめ ・・ ・・・保守的 ・ ・・・・・・(出典)OECD/NEA,WANO,国特有の安全文化フォーラム:日本報告書(2024年)
1-3 過酷事故の発生防止とその影響緩和に関する取組
国民の安全を確保する上で、多量の放射性物質が環境中に放出される事態を招くおそれのある事故(過酷事故)の発生を防止すること及び万一発生した場合の影響を緩和することは非常に重要です。現在、原子力事業者等は、新規制基準を踏まえた過酷事故対策を講じるとともに、国や研究開発機関を含む原子力関係機関は、過酷事故に対する理解を深め、更なる安全対策に生かすための研究開発を進めています。今後も、深層防護の考えを徹底し、継続的に過酷事故の発生防止及び万一発生した場合の対策の実効性を向上していくことが必要です。
1-3-1 過酷事故対策
福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、原子力事業者等は、新規制基準への適合を含め、過酷事故の発生を防止するための対策や、事故が発生した場合の影響を緩和するための対策を講じています(図 1-27)。
図 1-27 福島第一原子力発電所事故の進展を踏まえた新規制基準の対策
(出典)電気事業連合会,原子力コンセンサス2025(2025年)
津波への対策では、重要な安全機能を有する施設に大きな影響を与えるおそれがある津波(基準津波)の浸入を防ぐための防波壁や防潮堤を設置するとともに、それら防波堤等を超える高さの津波による敷地内の浸水も想定し建物内の重要な機器やエリアの浸水を防止するための防水壁や水密扉を設置しています(図 1-28上・中央)。また、地震による送電鉄塔の倒壊や津波による発電所内非常用電源の浸水を想定し、敷地内の高台に発電機や電源車を配備する等、電源設備の多様化や分散配置も行っています(図 1-28下)。さらに、地震や津波などで複数の冷却設備が失われた場合でも原子炉や使用済燃料プールを冷却し続けるための多様な注水設備や手段を確保しています。具体的には、予備タンクや貯水池、海水等を水源とし、ポンプ車や可搬型ポンプにより原子炉や使用済燃料プールの冷却・注水を行うことができるようにしています。
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図 1-28 津波や地震への対策
(出典)原子力発電所の安全対策,電気事業連合会ウェブサイト(2025年)
このように、あらゆる事象を想定して燃料損傷防止対策が講じられていますが、それでも炉心を冷却し続けることができず過酷事故が発生した場合の対策も講じられています(図 1-29)。格納容器や原子炉建屋内での水素爆発を防止するため、発生した水素と酸素を結合させて水にする静的触媒式水素再結合装置、多量の水素を短時間に処理できる電気式水素燃焼装置、原子炉建屋上部から水素を排出する設備を設置しています。また、格納容器の過圧による破損を防止するため、放射性物質はフィルタで除去しつつ格納容器内の気体を排出し圧力を下げるフィルタ・ベント設備を設置しています。さらに、万一、原子炉建屋や格納容器が破損した場合でも、屋外に配備した放水設備から破損箇所に向けて大量の水を放出することで放射性物質の大気への拡散を抑制します。
図 1-29 過酷事故への対策例(BWRの事例)
(出典)電気事業連合会,原子力コンセンサス2025(2025年)
また、意図的な航空機の衝突等のテロリズムによって原子炉を冷却する機能が喪失し、炉心が著しく損傷するおそれがある場合又は損傷した場合に備えて、格納容器の破損を防止し放射性物質の異常な水準の放出を抑制するための機能を有する特定重大事故等対処施設が設置されています71(図 1-30)。同施設は、原子炉建屋とは離れた場所に設置され、炉心や格納容器内への注水設備、電源設備、通信連絡設備を格納するものです。また、これらの設備を制御するための緊急時制御室も備えています。
図 1-30 過酷事故への対策例(BWRの事例)
(出典)電気事業連合会,原子力コンセンサス2025(2025年)
1-3-2 過酷事故に関する原子力安全研究
原子力規制委員会は、過酷事故研究を通じて、新規制基準に基づき原子力事業者等が策定した過酷事故対策の妥当性を審査する際に必要となる技術的知見や評価手法を整備し、関連する規格基準類に反映しています。過酷事故時に発生する物理化学現象の中には、予測や評価に大きな不確実性を伴う現象が存在しており、これらの重要な現象を解明し、最新の知見を拡充するための研究に取り組んでいます。特に、過酷事故時の格納容器内における水素等の気体の挙動、格納容器内に落下した溶融炉心がコンクリートを侵食する反応等について、関係機関と協力して実験を行い、過酷事故時の安全性を評価する解析コード開発や精度向上、PRA手法の高度化に活用しています。また、OECD/NEAが行う国際共同プロジェクト72に参加し、国内外の専門家から最新の情報を収集しています。
経済産業省は、過酷事故が発生した場合でも事故対応のための猶予を確保でき、過酷事故条件下でも損傷しにくい事故耐性燃料(ATF73)の部材開発と照射試験等に取り組んでいます。
文部科学省は、原子力機構が所有する研究施設を活用し、過酷事故を回避するために必要となる安全評価用データの取得等に取り組んでいます。
原子力機構では、安全研究センターや廃炉環境国際共同研究センター(CLADS74)等が過酷事故研究に取り組んでいます。安全研究センターは、原子炉安全性研究炉(NSRR75)等の施設を活用した実験を通じて、原子力規制委員会への技術的支援や長期的視点から先導的・先進的な安全研究を実施しており、過酷事故の防止や影響緩和に関する評価、放射性物質の環境放出とその影響に関する研究について重点的に取り組んでいます。CLADSは、福島第一原子力発電所廃炉に向けた研究の一環として、事故進展解析による炉内状況の把握、燃料の破損・溶融挙動の解明、溶融炉心とコンクリートの反応による生成物の特性把握、セシウム等の放射性物質の化学的挙動に関する知見の取得に取り組んでいます。これらの成果の一部は、現行の過酷事故用解析コードの高度化や事故対策の高度化等に活用されます。
NRRCでは、過酷事故状況下における運転員による機器操作等の信頼性評価や過酷事故時に放出される放射性物質による公衆や環境への影響の評価に関する技術開発に取り組んでいます。1-4 防災・減災の推進
万一、原子力災害が発生した場合には、原子力施設周辺住民や環境等に対する放射線影響を最小限に留めるため、その対策を的確かつ迅速に実施することが不可欠です。東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえて、原子力災害対策に関する枠組み及び原子力防災体制が見直され、緊急時の体制や機能の強化とともに、平時においては、防災計画の策定や訓練を始めとした緊急時対応能力の維持・向上が図られています。
防災・減災の推進に当たっては、放射線被ばくリスクと避難等に伴うその他の健康上のリスクを比較した上で必要な対策を行うなどの柔軟な視点も重要となります。
1-4-1 原子力災害対策及び原子力防災の枠組み
福島第一原子力発電所事故後、各事故調査報告書の提言等を基に、我が国の原子力災害対策に関する枠組みが2012年に抜本的に見直されました。緊急時の対応は「原子力災害対策特別措置法」(原災法)に基づく原子力災害対策本部が、平時の対応は「原子力基本法」に基づく原子力防災会議が、それぞれ総合調整を担う体制となっています(図 1-31)。また、地方公共団体、関係行政機関、原子力事業者等において緊急時の対応が取れるよう、国が策定する防災基本計画、原子力災害対策指針に基づき、防災業務計画、地域防災計画、避難計画、原子力事業者防災業務計画等が策定されています(図 1-32)。
図 1-31 平時及び緊急時における原子力防災体制
(出典)原子力規制庁パンフレット(2024年)を基に内閣府作成
図 1-32 原子力防災に関する法律及び諸計画等の関係
(出典)内閣府作成
1-4-2 原子力災害対策の充実に向けた取組
1-4-2-1 原子力災害対策指針
原子力規制委員会は原子力災害対策を円滑に実施するため、原災法に基づき「原子力災害対策指針」(2012年)を制定しています。同指針は、原子力事業者、国、地方公共団体等が原子力災害対策に係る計画を策定する際や当該対策を実施する際等において、科学的、客観的判断を支援するために専門的・技術的事項等について定めたものです。新たに得られた知見等を踏まえ継続的な改正が行われています。2024年度の改正では、被ばく傷病者等に対する初期診療及び救急診療の提供や、住民等の被ばくや汚染に対する検査への協力等を行う原子力災害医療協力機関を国が指定する枠組みが新設されました。
原子力施設周辺の地域では、事故時における初期段階から、情報が限られた中でも避難や屋内退避等の迅速な防護措置を講じることが必要です。原子力災害対策指針では、防護措置の実施を判断する基準(緊急時活動レベル(EAL76)、運用上の介入レベル(OIL77))を定めています78。緊急時には、国の指揮の下、地方公共団体、原子力事業者及び関係機関が連携して緊急時モニタリングを実施し、放射性物質放出後はモニタリングの実測値をOILに照らして必要な措置を行うこととしています(図 1-33)。
図 1-33 防護措置実行の意思決定の枠組み
(出典)原子力規制庁,原子力災害対策指針の概要,第1回安定ヨウ素剤の服用等に関する検討チーム[資料1-1](2018年)
また、同指針では、原子力災害が発生した場合に住民等に対する被ばくの防護措置を短期間で効率的に行うため、施設の特性等を踏まえて、あらかじめその影響の及ぶ可能性がある区域(原子力災害対策重点区域)を定めた上で対策を講じるとしています。原子力災害対策重点区域には、予防的防護措置を準備する区域(PAZ79)及び緊急防護措置を準備する区域(UPZ80)があります。PAZは、発電用原子力施設の場合、施設から概ね半径5㎞を目安に設定され、EALに応じて即時避難を実施するなど、事故時に放射性物質が放出される前の段階から予防的に防護措置を準備する区域です。同様にUPZは、施設から概ね半径30㎞を目安として設定され、EAL、OILに基づき、緊急防護措置を準備する区域です。これらの区域内においては、平時から、住民等への対策の周知、迅速な情報連絡手段の確保、屋内退避・避難等の方法や医療機関の場所等の周知、避難経路及び場所の明示、緊急時モニタリングの体制整備、原子力防災に特有の資機材等の整備、緊急用移動手段の確保等の対策が講じられます。
原子力規制庁は、「緊急時モニタリングについて(原子力災害対策指針補足参考資料)」を公表するなど、緊急時モニタリングの体制の整備及び充実・強化を図っています。また、原子力事業者は、原子力発電所における事故を収束させるために必要な設備等を発電所敷地内に配備するとともに、地方公共団体との協働等を通じて敷地外からの支援を行うための組織・体制も構築しています。1-4-2-2 原子力災害時の屋内避難の運用に関する検討
原子力規制委員会は、2024年1月に開催された地方公共団体との意見交換を踏まえ、屋内退避の効果的な運用に関する検討を行うための「原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム」を設置し、第1回の会合が同年4月に開催されました。同検討チームは、屋内退避の対象範囲及び実施期間の検討に当たって想定する事態進展の形、屋内退避の対象範囲及び実施期間並びに屋内退避の解除又は避難・一時移転への切替えを判断するに当たって考慮する事項について議論を行い、2025年3月に屋内退避の運用に関する考え方を示した報告書を取りまとめました。同報告書では、屋内退避は一定期間継続できるとし、3日後以降更に継続できるかを判断することや、屋内退避中も生活の維持に必要な一時的な外出は可能であること等が示されています。
1-4-3 原子力防災の充実に向けた取組
1-4-3-1 地域防災計画・避難計画に関する取組
原子力災害対策重点区域81を設定する道府県及び市町村は、防災基本計画及び原子力災害対策指針に基づき、情報提供や防護措置の準備を含めた必要な対応策を地域防災計画(原子力災害対策編)にあらかじめ定めておく必要があります。本計画の策定に当たっては、内閣府が設置する、関係地方公共団体や関係省庁が参加する地域原子力防災協議会が、関係地方公共団体の地域防災計画・避難計画の具体化・充実化を支援するとともに、地域の避難計画を含む緊急時対応が原子力災害対策指針等に照らし具体的かつ合理的なものであることを確認しています(図 1-34)。また、内閣府は、協議会における確認結果について、原子力防災会議に報告しています。緊急時対応の確認を行った地域については、原子力防災対策の更なる充実、強化を図っています。
避難経路となる道路の整備等の原子力災害時における避難の円滑化は、地域住民の安全・安心の観点からも重要です。地域原子力防災協議会等も活用し、地域の声を聞きながら、避難経路となる道路の整備が促進されるよう、関係省庁の連携により継続的な取組が行われています。
図 1-34 地域防災計画・避難計画の策定と支援体制
(出典)地域防災計画・避難計画の策定と支援体制,内閣府ウェブサイト(2025年)
1-4-3-2 原子力総合防災訓練の実施
原子力災害発生時の対応体制を検証すること等を目的として、原災法に基づき、国、地方公共団体、原子力事業者等が合同して原子力緊急事態を想定した原子力総合防災訓練を実施しています。
2024年度は、川内原子力発電所を対象として実施されました。同訓練は、国、地方公共団体及び原子力事業者における防災体制や関係機関における協力体制の実効性の確認、原子力緊急事態における中央と現地の体制やマニュアルに定められた手順の確認、「川内地域の緊急時対応」や地域防災計画等の検証、緊急時対応等の検討、訓練結果を踏まえた教訓事項の抽出、原子力災害対策に係る要員の技能の習熟及び原子力防災に関する住民理解の促進を目的として実施されました(図 1-35)。
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PAZ・・UPZ・・図 1-35 川内地域の原子力災害対策重点区域
(出典)内閣府,令和6年度原子力総合防災訓練の概要(2025年)
1-4-3-3 地方公共団体における原子力防災に係る取組
地方公共団体は、「災害対策基本法」等に基づき定期的に原子力防災訓練を実施しています。
茨城県では、1999年の株式会社ジェー・シー・オー臨界事故を踏まえ、2000年度から原子力施設において事故・故障等が発生した場合における迅速かつ的確な初期対応及び通報連絡の確保を図ることを目的として、原子力安全協定を締結している全原子力事業所を対象に、通報連絡訓練を実施しています。これは、訓練日時及び発災想定施設について原子力事業所に対して事前に通知せず、訓練当日、県の通告により抜き打ちで実施する実践的な訓練です。
鳥取県、鹿児島県、宮城県等では、原子力災害時の住民避難をより円滑なものとするために、避難所情報の提供等の機能をもつ原子力防災アプリを構築、運用しています(図 1-36)。また、福井県では民間企業が提供するサービス・アプリを活用した住民への情報提供や避難所受付を行うなど、各地方公共団体でデジタル技術を活用した原子力防災の取組が進められています。
図 1-36 鳥取県原子力防災アプリ
(出典)鳥取県,鳥取県原子力防災アプリ(2025年)
令和6年能登半島地震を踏まえた検討も実施されています。新潟県では、学識経験者や防災関係団体等で構成される「令和6年能登半島地震を踏まえた防災対策検討会」を設置し、津波や地震などの自然災害における防災対策を中心に検討する中で、原子力災害との複合災害時の対応についても併せて検討が行われ、報告書が取りまとめられました。同報告書では、災害情報を正しく伝える人材育成や教育等について重点的に取り組むことを、県に対し要望しています。
1-4-3-4 原子力事業者による防災の取組
原災法第3条には、原子力災害の拡大の防止及び復旧に対する原子力事業者の責務が規定されています。原子力事業者は、原災法に基づき、原子力事業者防災業務計画を原子力規制委員会に提出82するとともに防災訓練を実施し、その結果を原子力規制委員会へ報告しています。
原子力規制委員会は、「原子力事業者防災訓練報告会」を開催し、各事業者が実施した訓練の評価結果の説明や良好事例の紹介を行い、2024年度には訓練評価指標の見直しを検討するなど、防災訓練の改善を図っています。また、同報告会の下で開催してきた「訓練シナリオ開発ワーキンググループ」の運営主体を2023年度から事業者に移行しました。事業者において、訓練で得られた良好事例や気付き事項について、事業者間での展開を効果的に継続する方法を検討し、改善を図っていくとしています。1-4-4 平時からの環境放射線モニタリングに関する取組
「大気汚染防止法」及び「水質汚濁防止法」に基づき、環境省は、放射性物質による大気汚染・水質汚濁の状況を常時監視し公開しています83。また、環境放射能水準調査等の各種調査が、関係省庁、地方公共団体等の関係機関によって実施されており、その結果が公開されています84。
環境省は、2001年から、離島等(全国10か所)において、空間線量率及び大気浮遊じんの全α、全β放射能濃度の連続自動モニタリング並びに測定所周辺で採取した環境試料(大気浮遊じん、土壌、陸水等)の放射性核種分析を実施し、環境省のウェブサイト「環境放射線等モニタリングデータ公開システム85」で公開されています。
また、原子力規制委員会は、空間線量率、大気浮遊じん、土壌、降下物、海水、海底土などの環境放射線モニタリング結果及びその活用に必要となる各種の付帯情報の集約・蓄積を図り、そのデータベースを構築し、ウェブサイト「東日本大震災以降の環境放射線モニタリング情報86」において公表しています。加えて、空間放射線量率については、全国のモニタリングポストによるリアルタイムの測定結果をウェブサイト「放射線モニタリング情報共有・公表システム87」にて公表しています。
「国外における原子力関係事象発生時の対応要領」(2005年放射能対策連絡会議88決定)では、国外で発生する原子力関係事象についてモニタリングの強化等の必要な対応を図ることとしており、原子力規制庁は国外において原子力関係事象が発生した場合に空間放射線量率の状況をきめ細かく把握しています。
米国原子力艦の寄港に伴う放射能調査は、海上保安庁、水産庁、関係地方公共団体等の協力を得て、原子力規制庁が実施し、横須賀港(神奈川県)、佐世保港(長崎県)、金武(きん)中城(なかぐすく)港(沖縄県)の結果を公表しています。
また、緊急時及び平常時のモニタリングを適切に実施するためには、継続的にモニタリングの技術基盤の整備、実施方法の見直し、技能の維持を図ることが重要です。そのため、原子力規制委員会は、環境放射線モニタリング技術検討チーム会合を開催して、モニタリングに係る技術検討を進めています。コラム ~過酷事故の進展シナリオと避難~
原子力施設においては、事故の防止とその影響緩和のための主要な手段として「深層防護」という考え方(下表参照)が取り入れられており、多層的な事故防止と影響緩和策が講じられています。また、これら多層的な対策は、福島第一原子力発電所事故の教訓に基づき、更に改善・強化されています。
原子力発電所における代表的な過酷事故の進展シナリオでは、①電源喪失等に起因して全ての炉心冷却機能が喪失し炉心が溶融、②高温の溶融炉心によって原子炉圧力容器が破損し炉外に流出、③溶融炉心の高温熱や発生蒸気等による格納容器の圧力上昇や水素爆発等により格納容器の閉じ込め機能が喪失し放射性物質の環境への放出に至ります。
このような過酷事故の発生防止と影響緩和対策として、例えば、設計上想定する事故(設計基準事故)が起きた場合は非常用炉心冷却設備(ECCS注1)等が作動し炉心を冷却しますが、万一、使用できない場合はポンプ車等の代替手段により冷却し、状態①に至ることを防止します。また、炉心が溶融しても同様の手段により状態②に至ることを防止します。状態②に対しては、同様に、ポンプ車等の代替手段も含めた格納容器スプレイ注2、水素再結合装置等による水素爆発防止や、格納容器内圧力を低減させるため放射性物質を除去した上で水蒸気を含む内部気体を放出するフィルタベント等により、状態③に至ることを防止・抑制します。
このように、多層的に事故の防止と影響緩和の対策を行うことにより、避難が必要になるような放射性物質の環境への大規模な放出を防止・抑制します。また、事故の発生や放射性物質の環境への放出の可能性を否定することはできないとの考えの下、原子力発電所から概ね30㎞圏内においては、地域防災計画が策定されており、これは深層防護の第5層に対応するものです。また、事故時には、情報が限られた中で必要に応じて避難や屋内退避等の防護措置を行う必要があります。具体的には、全面緊急事態に至った時点で、原子力発電所から概ね半径5㎞圏内のPAZでは避難、概ね半径5~30㎞圏内のUPZでは屋内退避を実施することとなります。注1:Emergency Core Cooling System
注2:水をスプレイすることにより格納容器内の冷却等を行う設備
IAEAの深層防護と主な設計及び運転対応 深層防護 主な設計及び運転対応 第1層 保守的設計及び監視・制御系を含む通常運転設備の高品質な建設、運転規則及び通常運転手順 第2層 制御保護系及びその他の監視設備、異常な運転状態の運転手順及び/又は緊急時運転手順 第3層 安全施設、緊急時運転手順 第4層 設計拡張状態に対応する安全対策施設(炉心溶融前/炉心溶融後)、緊急時運転手順、過酷事故マネジメントガイドライン等 第5層 オンサイト及びオフサイト緊急時対策施設、オンサイト及びオフサイト緊急時対策計画及び手順 (出典)IAEA, Design Extension Conditions and the Concept of Practical Elimination in the Design of Nuclear Power Plants, SSG-88(2024年)を基に内閣府作成
1-5 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉
福島第一原子力発電所の廃炉では、中長期ロードマップに基づき、汚染水・処理水対策、使用済燃料プールからの燃料取出し、燃料デブリ取出し等の作業が進められています。
また、中長期にわたる廃炉には、廃炉を支える技術の向上や、それらを担う人材の確保・育成を行うことも重要です。国や原子力関係機関は、国際社会に開かれた形で情報発信や協力を行いながら、研究開発や人材育成、研究施設の整備等を進めています。
1-5-1 福島第一原子力発電所の廃炉に向けた基本方針等
福島第一原子力発電所の廃炉に直接的に関係する機関である、国、NDF、東京電力、研究開発機関との役割分担を図 1 37に示します。廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議で決定される「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(中長期ロードマップ)は、福島第一原子力発電所の具体的な廃止措置の工程・作業内容、作業の着実な実施に向けた研究開発から実際の廃炉作業までの実施体制の強化や人材育成・国際協力の方針等を示すものです。2024年9月には、2号機での燃料デブリの試験的取出しの着手をもって、中長期ロードマップにおける第3期に移行しました。引き続き、国も前面に立って、福島第一原子力発電所の現場状況や廃炉に関する研究開発成果等を踏まえ、中長期ロードマップに継続的な検証を加えつつ、必要な対応を安全かつ着実に進めていくこととしています(図 1-38)。
図 1-37 福島第一原子力発電所の廃炉に係る関係機関等の役割分担
(出典)NDF,東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2024(2024年)
図 1-38 中長期ロードマップの目標工程及び進捗
(出典)経済産業省
NDFは「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン」(技術戦略プラン)を毎年度策定し、中長期ロードマップの円滑・着実な実行や改訂の検討に必要な技術的根拠を取りまとめています。2024年9月公表の技術戦略プラン2024では、燃料デブリの取出し規模の更なる拡大に向けてリスク対応を実効的なものとしていくために、リスク変動が最も生じやすい格納容器内の状態把握能力を向上させることが課題であると指摘し、格納容器内の監視パラメータの監視目的や設置数、現場施工の困難さを踏まえつつ、監視対象の種類や数の拡充に向けた検討を進めていくべきであるとしています。
原子力規制委員会は、原子炉等規制法に基づき2012年に福島第一原子力発電所の発電用原子炉施設を「特定原子力施設」に指定しました。また、廃炉に向けて中長期的に実現すべき姿とそれに向けた目標を明確にするため、「東京電力福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ89」(リスク低減目標マップ)を策定し、特定原子力施設監視・評価検討会90を開催して東京電力の取組の進捗を監視・指導しています。
2025年1月に改定されたリスク低減目標マップでは、事故後10年以上が経過し短期的に対応すべきリスクが低減する中、中長期的に取り組むべき課題が顕在化してきた現状を踏まえ、今後10年の間に実現すべき姿を分野別に示し、それに向けて達成すべき目標を示すという2024年3月版の方針を維持しつつ、「固形状の放射性物質」「汚染水対策」「原子炉建屋内のリスクの低減」「設備・施設の維持・撤去」といった分野ごとの目標に対する進捗が反映されました。
東京電力は中長期ロードマップやリスク低減目標マップの目標を達成するため、廃炉全体の主要な作業プロセスを示す「廃炉中長期実行プラン」を作成しています。2025年3月には、2号機燃料デブリの試験的取出し成功の反映、原子炉格納容器(PCV91)内部調査作業の具体化などの改訂がなされました(図 1-39)。
図 1-39 廃炉中長期実行プラン2025の改訂ポイント
(出典)東京電力,これからの廃炉の取り組み2025,第136回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議[資料4](2025年)
1-5-2 福島第一原子力発電所の廃炉の状況と取組
1-5-2-1 汚染水対策
福島第一原子力発電所では、燃料デブリが冷却用の水と触れることや、原子炉建屋内に流入した地下水や雨水が汚染水と混ざること等により新たな汚染水が発生しています。そのため、「東京電力(株)福島第一原子力発電所における汚染水問題に関する基本方針」(2013年9月原子力災害対策本部決定)に基づき、「汚染源に水を近づけない」「汚染水を漏らさない」「汚染源を取り除く」という三つの基本方針に沿って、様々な汚染水対策が複合的に進められています(図 1-40)。
図 1-40 汚染水対策の3つの基本方針
(出典)廃炉・汚染水・処理水対策ポータルサイト/汚染水対策,経済産業省ウェブサイト(2025年)
汚染源を取り除く対策として、日々発生する汚染水はALPS等の複数の浄化設備により浄化を行っています。2023年3月時点で浄化処理を経たALPS処理水等の貯蔵用タンク数は計1,000基、貯蔵水量は130万m3を超えましたが、同年8月に海洋放出を開始し、2025年3月までにALPS処理水を約86,000m3放出しました92。
汚染源に水を近づけない対策は、汚染水発生量の低減を目的として建屋への地下水等の流入を抑制するものです。建屋山側の高台で地下水をくみ上げ海洋に排水する地下水バイパス、建屋周辺で地下水をくみ上げ浄化処理後に海洋へ排水するサブドレン93、周辺の地盤を凍結させて壁を作る陸側遮水壁(凍土壁)等の取組が行われています。こうした対策により、汚染水の発生量は、対策前の約540m3/日(2014年5月)に対し、2024年度の実績では約70m3/日まで低減されました。
また、更なる地下水流入抑制として、1~4号機エリアにおいて、建屋間ギャップ94にモルタルを打設して局所止水する工法や、敷地のフェーシング等を展開しています。これにより、汚染水発生量について2028年度末までに約50~70m3/日への低減を目指します。
汚染水を漏らさない対策としては、海洋への流出をせき止める海側遮水壁、護岸エリアで地下水をくみ上げる地下水ドレン、信頼性の高い溶接型の貯水タンクへの置き換え等の取組が実施されています。
また、建屋滞留水の漏洩リスクを低減するため、これまでに1~4号機建屋内滞留水の水位を順次引き下げてきました。1~3号機原子炉建屋について、2022年度から2024年度内までに建屋滞留水を2020年末の約半分(約3,000m3)に低減する計画については、2023年に目標を達成しました。プロセス主建屋及び高温焼却炉建屋については、建屋滞留水の中に残置されている高線量の土嚢の回収を進めており、その後、滞留水を処理する方針です。なお、1~3号機原子炉建屋、プロセス主建屋、高温焼却炉建屋を除く建屋の滞留水については、2020年以降、床ドレンサンプ95等に設置された滞留水移送装置により最下階床面には滞留水がない状態が継続されています。1-5-2-2 使用済燃料プールからの燃料取出し
中長期ロードマップでは、リスク低減のため1~4号機の使用済燃料プール内に保管されていた燃料の取出しを進め、当面、共用プール等において適切に保管するとしています。この共用プールの保管容量確保のため、既に保管されている燃料は乾式キャスク仮保管設備へ移送・保管するとともに、2031年内の1~6号機全ての燃料取出し完了に向けて、今後、乾式キャスク仮保管に必要な敷地を確保していくこととしています。2025年3月時点の1~6号機の使用済燃料等の取出し保管状況を表 1-6に示します。
表1-6 使用済燃料等の保管状況(2025年3月24日時点) 保管本数(体) 目標取出し時期 取出し率 使用済燃料プール 新燃料
貯蔵庫合計 新燃料 使用済燃料 新燃料 1号機 100 292 0 392 2027~2028年度取出し開始 0% 2号機 28 587 0 615 2024~2026年度取出し開始 0% 3号機 0 0 0 0 2021年2月取出し完了 100% 4号機 0 0 0 0 2014年12月取出し完了 100% 5号機 168 1,374 0 1,542 0% 6号機 198 211 230 639 2022年8月取出し開始 66.1% 全体 494 2,464 230 3,188 2031年内に全ての取出し完了 49.8% (出典)東京電力,使用済燃料等の保管状況,廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議(第136回)[資料3-2](2025年)を基に内閣府作成
1号機と2号機は燃料取出し開始に向けて順次作業を進めています。3、4号機の使用済燃料プールの燃料取出しは、それぞれ2021年及び2014年に完了しています。
1号機では、オペレーティングフロア作業中のダスト対策の更なる信頼性向上や雨水の建屋流入抑制の観点から、原子炉建屋上部を覆う大型カバーを設置しその内でガレキ撤去を行う計画です。大型カバー設置に向けた工事は2021年6月から開始され、現在、仮設構台下部・上部架構及びボックスリングの地組が完了し、可動屋根の地組を実施中です(図 1-41 左及び中央)。
2号機では、空間線量が一定程度低減していることや燃料取扱設備の小型化検討を踏まえ、更にダスト飛散を抑制するため建屋を解体せず建屋南側に構台を設置してアクセスする工法が採用されています(図 1-41右)。2025年3月には、原子炉建屋開口作業、ランウェイガーダ96の設置作業が完成し、現在は燃料取扱設備設置に向けた作業を実施しています。
5、6号機については、1~3号機の廃炉作業に影響を与えない範囲で作業を実施するとしており、まず6号機の使用済燃料の共用プールへの移送を2022年に開始しました。
図 1-41 1号機及び2号機の燃料取出し工法概要
(出典)東京電力,1号機燃料取り出しに向けた工事の進捗について,第136回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合事務局会議[資料3-2](2025年)、東京電力,2号機燃料取り出しに向けた工事の進捗について,第98回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合事務局会議[資料3-3](2022年)を基に内閣府作成
1-5-2-3 燃料デブリ取出し
1号機では、2022年度に実施したPCV内部調査の結果、ペデスタル97内の壁面下部のコンクリートがほぼ全周にわたって損傷している様子が確認されました(図 1-42)。強度評価の結果、ペデスタルの大規模な損壊等に至る可能性は低いと評価されました。仮にペデスタルの原子炉圧力容器の支持機能低下に起因しPCVに大開口が生じても、発電所敷地境界において、ダスト飛散により著しい放射線被ばくリスクを与えることはないとの評価が得られましたが、万一の事態に備え、ダスト飛散抑制対策が検討されています。また、燃料デブリ取出しに向けて、地下階の情報だけでなくPCV全体の状況も把握する必要があるため、1階エリアを中心に2024年2月に気中部調査を開始、3月に小型ドローンによるPCV内部の気中部調査を実施しました。これにより、ペデスタル内の壁や構造物、制御棒駆動機構(CRD98)ハウジングの落下状況等を確認し、CRD交換用の開口部付近につらら状や塊状の物体があること、内壁コンクリートに大きな損傷がなかったことを確認しました。引き続き調査が進められ、得られた結果は燃料デブリ取出しに向け活用されます。
図 1-42 原子炉格納容器内部調査装置(水中ロボット)及び調査画像
(出典)東京電力,1号機PCV内部調査の状況について,第99回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議[資料3-3](2022年)、東京電力,1号機PCV内部調査(後半)について,第113回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議[資料3-3](2023年)を基に内閣府作成
2号機は、燃料デブリの取出し作業における安全性、確実性、迅速性、使用済燃料の取出し作業との干渉回避を含めた廃炉作業全体の最適化の観点から、試験的取出しの初号機に設定されました。当初、ロボットアームの使用を念頭に検討が進められてきました。しかし、PCV内堆積物の除去等、アクセスルート構築に時間を要すること等を踏まえ、燃料デブリ性状把握のための採取を早期・確実に行うべく、まず、使用実績があり堆積物が除去しきれていなくても投入可能なテレスコ式装置(図 1-43)を活用し、その後、ロボットアームによる内部調査や試験的取出しを進める計画に変更されました。テレスコ式装置は2024年7月に現地搬入され、装置押込みパイプの接続順ミスやカメラの一部が映らない事案が生じましたが、同年11月には試験的取出し作業に成功しました。採取された燃料デブリは、原子力機構等で分析が実施されており、2025年夏頃をめどに分析結果を取りまとめていく予定です。得られた分析結果は、今後の燃料デブリ取出し工法及び安全対策や保管方法の検討等に活用される予定です。また、2回目の試験的取出しについて1回目と同じ装置を用いて2025年4月中99の着手を目指して準備が進められています。なお、ロボットアームについては原子力機構の楢葉遠隔技術開発センターにてモックアップ試験により性能確認を実施し、試験中に確認された経年劣化箇所を踏まえロボットアームの全体点検を実施しています。
3号機については、燃料デブリの大規模取出しに向けて、技術成立性等を総合的に検討・評価し、現時点で設計検討を進めるべき工法について提言するため、NDFは「燃料デブリ取り出し工法評価小委員会100」を設置し2023年から検討を開始し、2024年3月に報告書を公表しました。この報告書では、気中工法と気中工法オプションの組合せによる設計検討・研究開発を開始することなどが提言されました(表 1-7)。東京電力において設計検討が開始されており、2025年度半ば頃をめどに、一定の技術的見通しが示される予定です。また、本報告書に基づき、原子力規制委員会は、「福島第一原子力発電所における燃料デブリ取り出しの安全確保策のあり方」について、公開の場でのNDF及び東京電力との意見交換を開始しました。
図 1-43 テレスコ式装置イメージ
(出典)技術研究組合 国際廃炉研究開発機構/東京電力,2号機 PCV内部調査・試験的取り出し作業の状況,第134回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議[資料3-3-3](2025年)
表1-7 燃料デブリ取出し工法の概要 気中工法 冠水工法 気中工法オプション
(充填固化工法)燃料デブリが気中に露出した状態若しくは低水位で浸漬した状態で取り出す 閉じ込め障壁として船殻構造体と呼ばれる新規構造物で原子炉建屋全体を囲い、原子炉建屋を冠水させ燃料デブリを取り出す 充填材により燃料デブリを安定化させつつ現場線量を低減し、オペフロに設ける比較的小さな開口部から掘削等により燃料デブリや炉内構造物等を取り出す (出典)NDF,燃料デブリ取り出し工法評価小委員会 報告書(2024年)を基に内閣府作成
1-5-2-4 廃棄物対策
福島第一原子力発電所では、事故により発生したガレキや水処理二次廃棄物等の固体廃棄物のほか、今後の燃料デブリ取出しに伴い、燃料デブリ周辺の撤去物、機器等が廃棄物として発生します。これらは、破損燃料に由来する放射性物質を含むこと、海水成分を含む場合があること、対象となる物量が多く汚染レベルや性状の情報が十分でないこと等、通常の原子力発電所の廃止措置で発生する放射性廃棄物と異なる特徴があります。
技術戦略プラン2021において、廃棄物量の低減に向けた進め方、性状把握を効率的に実施するための分析・評価手法の開発、処理・処分方法を合理的に選定するための手法の構築について技術的な見通しが示されました。また、2028年度内までに、水処理二次廃棄物及び再利用・再使用対象を除く全ての固体廃棄物の屋外での保管を解消するとしています。東京電力は2024年12月に「固体廃棄物の保管管理計画」の改訂を行い、当面約10年に発生すると想定される固体廃棄物の量を念頭に、遮へい・飛散抑制機能を備えた保管施設や減容施設を導入して屋外での一時保管を解消する計画や、継続的なモニタリングにより適正に固体廃棄物を保管していく計画を示しました。
また、廃棄物の処理・処分の検討を進めていくためには、事故炉であることによる多種多様な廃棄物の核種組成、放射能濃度等を分析することが必要です。中長期ロードマップにおける燃料デブリの試験的取出し開始以降である第3期では、廃棄物の分析体制の強化は重要な課題の一つです。東京電力は、今後の廃炉を効率的に進めるために年度ごとの分析対象物と分析数を見積もった「東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた固体廃棄物の分析計画」を2025年3月に公表しました。この計画を着実に実行していくため、関係機関の連携の下、分析体制の強化のための取組を進めています。コラム ~2号機燃料デブリ試験的取出しについて~
東京電力は、2024年11月、2号機燃料デブリの試験的取出し作業に成功しました。取り出された燃料デブリは原子力機構大洗原子力工学研究所に輸送され、非破壊分析が実施されました。その結果、大きさ約9mm×約7mm、重量0.693g、燃料成分のウラン等が含まれていることが確認されました。その後、SPring-8や茨城県内の分析機関に輸送され、固体分析や化学分析を実施しており、2025年夏頃をめどに分析結果が取りまとめられる予定です。こうした分析により、今後の大規模取出し作業における安全対策や取出し後の保管方法の検討、取出し工法の検討や使用する工具の選定など、燃料デブリの大規模な取出しに向けた検討に資する知見が得られることが期待されています。
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テレスコ式装置先端治具にて把持した
燃料デブリを運搬用ボックスに回収する様子 試料容器内の燃料デブリサンプル (出典)技術研究組合国際廃炉研究開発機構/東京電力,2号機PCV内部調査・試験的取り出し作業の状況,第132回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議[資料3-3-3](2024年) (出典)原子力機構,2号機燃料デブリの試験的取り出しによる燃料デブリサンプルの受入れについて,第132回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議[資料3-3-4](2024年)1-5-2-5 作業等環境改善
長期に及ぶ廃炉作業には、高度な技術、豊富な経験を持つ人材を中長期的に確保し、モチベーションを維持しながら安心して働ける作業環境を整備することが重要です。作業環境の改善に向けて、法定被ばく線量限度の遵守に加え、可能な限りの被ばく線量の低減、労働安全衛生水準の不断の向上等の取組が行われています。
事故当時は、敷地全体のエリアで防護服と全面マスクの着用が必要でしたが、線量の低下や除染の進展等により作業環境が改善し、現在は発電所構内の96%のエリアで、一般服と防塵マスクでの作業が可能となっています(図 1-44)。さらに、定期的に、福島第一原子力発電所の全作業員(東京電力の社員を除く)を対象とした労働環境の改善に向けたアンケート101が実施され、その結果を受けて休憩所の増設等、様々な改善が行われています。
図 1-44 1~4号機周辺の平均線量率の推移及び線量分布
(出典)東京電力,福島第一原子力発電所構内の線量状況について,第137回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議[資料3-6](2025年)
1-5-2-6 処理水対策
ALPS処理水とは、ALPS等の浄化装置により処理した「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」を指します。ALPS等の浄化装置により取り除くことの難しいトリチウム102は、処理水を放出前に海水で大幅(100倍以上)に希釈します。放出する際のトリチウムの濃度は、サブドレン等の排水濃度の運用目標(1,500Bq/L103未満)と同じ水準としています。この希釈に伴い、既に環境放出の際の規制基準を満たしているトリチウム以外の放射性物質についても同様に大幅に希釈104されます。さらに、放出するトリチウムの年間の総量は、事故前の福島第一原子力発電所の放出管理値(年間22兆Bq)105を下回る水準としています。この量は、海外の原子力発電所から放出されている量と比較しても低い水準となっています。なお、東京電力は、2022年に原子力規制委員会から、ALPS処理水希釈放出設備及び関連設備の設備等について実施計画変更の認可を受けました。
2021年4月の廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議において決定された「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(ALPS処理水の処分に関する基本方針)等106を踏まえ、東京電力は、実施主体として着実に履行するための対応を2021年4月に取りまとめるとともに、同年8月には、安全確保のための設備の具体的な設計及び運用等の検討状況、風評影響及び風評被害への対策を取りまとめました。
準備できる万全の安全確保、風評対策・なりわい継続支援策を講じた上で、2023年にALPS処理水の海洋放出が開始されました。2023年度は4回、2024年度は7回、合計11回の海洋放出がこれまで行われ、総計86,144m3の海洋放出が完了しました(表 1-8)。いずれの放出においても、放出に係る運転パラメータに異常はなく、これまでのモニタリング結果やIAEAによる評価から安全であることが確認されています。また、2024年8月30日の第7回廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議、及び第7回ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議(合同開催)において、政府としてALPS処理水の処分が完了するまで全責任を持って取り組むという方針に変わりはないことを確認しました。
ALPS処理水の海洋放出に伴い、2025年2月より、ALPS処理水等を貯蔵していたタンクの解体に着手しています。今後ALPS処理水等の貯蔵に使用しないタンクについては、計画的に解体を行うこととしています。
表1-8 ALPS処理水の海洋放出実績(2025年3月時点) 年度 放出回数 放出水量(m3) 放出トリチウム量(兆Bq) 2023 4 31,145 約4.5 2024 7 54,999 約12.7 合計 11 86,144 約17.2 (出典)処理水ポータルサイト,東京電力ウェブサイト(2025年)を基に内閣府作成
1-5-3 廃炉に向けた研究開発、人材育成及び国際協力
1-5-3-1 廃炉に向けた研究開発
NDFの下に設置されている廃炉研究開発連携会議の下で、産学官の連携強化を図りつつ、基礎・基盤から実用化に至る様々な研究開発が行われています(図 1-45)。
経済産業省は、原子炉格納容器の内部調査技術や、燃料デブリ取出しに関する基盤技術、取り出した燃料デブリの収納・移送・保管に関する技術等の開発を支援しています。
文部科学省は、原子力機構のCLADSを中核とし、国内外の多様な分野の知見を融合・連携させることにより、中長期的な廃炉現場のニーズに対応する基礎的・基盤的研究を推進しています。
図 1-45 福島第一原子力発電所の廃炉に係る研究開発実施体制
(出典)NDF,東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2024(2024年)を基に内閣府作成
NDFは、研究開発中長期計画や翌年度廃炉研究開発計画の企画検討及び英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業(英知事業)の支援を行うとともに「廃炉研究開発連携会議」を設置し、研究開発のニーズとシーズの情報共有、廃炉作業のニーズを踏まえた研究開発の調整、研究開発・人材育成に係る協力促進等の諸課題について検討しています。また、廃炉・汚染水・処理水対策事業と英知事業の連携強化が廃炉研究開発連携会議等を通じて進められています。NDF及び東京電力は、今後約10年の廃炉の研究開発の全体を俯瞰した中長期計画を2020年度から毎年度作成しています(図 1-46)。
原子力機構は、基礎・基盤研究、人材育成を推進するとともに、燃料デブリの性状把握のための分析・推定、廃棄物対策等の研究開発において主要な役割を果たしています。原子力機構では、CLADSを中心として、国内外の研究機関等との共同による基礎・基盤研究を進めています。また、廃炉に関する技術基盤を確立するための拠点整備も進めており、遠隔操作機器・装置の開発実証施設(モックアップ施設)として楢葉遠隔技術開発センターを運用しています。また、燃料デブリや放射性廃棄物等の分析手法、性状把握、処理・処分技術の開発等を行う大熊分析・研究センターの一部施設が運用を開始しました。2022年6月には、放射性廃棄物等の分析を行う第1棟が竣工し、2023年3月からALPS処理水の第三者分析が開始されました。現在は、燃料デブリ等の分析を行う第2棟の建設工事を進めています。
F-REIでは廃炉に関連して、ロボット分野において廃炉に資する高度な遠隔技術に関する研究開発等に取り組むこととされています。
図 1-46 2025年度における研究開発の全体像
(出典)廃炉・汚染水・処理水対策チーム事務局,2025年度廃炉研究開発計画の各プロジェクト概要,第135回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議[資料4](2025年)を基に内閣府作成
1-5-3-2 廃炉に向けた人材育成
長期に及ぶ福島第一原子力発電所の廃炉作業を達成するためには、廃炉を担う人材を中長期的かつ計画的に育成していく必要があります。
文部科学省は、原子力機構のCLADSを中核として大学や民間企業と緊密に連携し、将来の廃炉を支える研究人材育成の取組を推進しています。
原子力機構は、学生の受入制度の活用等を通じた人材育成を実施しています。また、CLADSの中核となる国際的な研究開発拠点「国際共同研究棟」を整備し、国内外の大学、研究機関、産業界等の人材交流ネットワークを形成しつつ、研究開発と人材育成を一体的に進める体制を構築しています。さらに、燃料デブリや廃棄物試料等の分析技術の向上、人材確保・育成に向け、大学等と連携した分析技術ネットワークを形成し、中長期にわたる持続的な分析体制の確保を目指す取組を強化しています。
東京電力は、廃炉事業に必要な技術者養成の拠点として「福島廃炉技術者研修センター」を設置し、人材の育成に取り組んでいます。1-5-3-3 国際社会との協力
福島第一原子力発電所事故を起こした我が国としては、国際社会に対して透明性をもって情報発信を行い、事故の経験と教訓を共有するとともに、国際機関や海外研究機関等と連携して知見・経験を結集し、国際社会に開かれた形で廃炉等を進め、国際社会に対する責任を果たしていかなければなりません。また、廃炉作業の進捗や得られたデータ等を積極的に発信することは、福島県の状況に関する国際社会の正確な理解の形成に不可欠です。
我が国は、IAEAに対して定期的に福島第一原子力発電所に関する包括的な情報を提供し、協力関係を構築しています。2021年4月、ALPS処理水の処分に関する基本方針の公表を受けてグロッシーIAEA事務局長は、改めて、我が国が選択した方法は技術的に実現可能であり国際慣行にも沿っているとの認識を述べました。またIAEAは、廃炉に向けた取組の進捗について、同年6月から8月にかけて5回目となる廃炉レビューを実施しました(図 1-47)。
さらに、我が国は2021年7月にIAEAとの間における「ALPS処理水の取扱いに係る包括的な協力の枠組みに関する付託事項」に署名しました。これに基づき、2022年2月と11月にはALPS処理水の安全性について、同年3月と2023年1月にはALPS処理水の海洋放出に係る規制について、IAEAによるレビューが実施されました。2023年7月には、IAEAが行ったレビューを総括する包括報告書107 が公表されました(図 1-48)。
IAEAはALPS処理水放出後も追加のレビューやモニタリングを継続し、国際社会に透明性と安心を提供するとしており、海洋放出後、IAEAタスクフォースによるALPS処理水の海洋放出に関するレビューが2023年10月、2024年4月及び12月に実施され、それぞれ2024年1月、7月及び2025年3月に報告書が公表されています(図 1-49)。図 1-47 IAEA廃炉レビューによる評価報告書の主なポイント(出典)IAEA, IAEA INTERNATIONAL PEER REVIEW OF MID-AND-LONG-TERM ROADMAP TOWARDS THE DECOMMISSIONING OF TEPCO’S FUKUSHIMA DAIICHI NUCLEAR POWER STATION (Fifth Review)(2021年)
図 1-48 IAEAによる包括報告書の主なポイント(出典)IAEA, IAEA COMPREHENSIVE REPORT ON THE SAFETY REVIEW OF THE ALPS-TREATED WATER AT THE FUKUSHIMA DAIICHI NUCLEAR POWER STATION(2023年)
図 1-49 ALPS処理水の海洋放出に関するレビューミッション
(海洋放出開始後第3回)報告書の主なポイント(出典)IAEA, IAEA Review of Safety Related Aspects of Handling ALPS Treated Water at TEPCO’s Fukushima Daiichi Nuclear Power Station, Report 3: Third Review Mission to Japan after the Start of ALPS Treated Water Discharge (December 2024)(2025年)
また、2024年9月に我が国とIAEAとの間で実施することで一致したIAEAの枠組みの下での追加的モニタリングが実施されています。2024年度は、2024年10月及び2025年2月に行われました。なお、2025年4月の追加的モニタリングでは、福島第一原子力発電所構内において、IAEA関係者及び韓国、スイス、中国、ロシアの分析機関の専門家により、海洋放出前の海水希釈後のALPS処理水が採水されました。採取試料は、今後、IAEAの研究所のほか、日本、中国、韓国、ロシア、スイスの研究所で分析されます。我が国は、今後ともIAEAと連携し、国際社会に対して透明性高く情報提供を行っていくとともに、ALPS処理水の海洋放出の安全性について、国内外の一層の理解を醸成していくことに努めるとしています。
IAEAを通じた取組に加え、外務省や経済産業省等の関係省庁により、原子力発電施設を有する国の政府や産業界等の各層との協力関係が構築されており、廃炉・汚染水・処理水対策の現状について継続的に情報交換が行われています。ALPS処理水の安全性については、各国の在京大使館や政府等向けの説明会や英語版動画・パンフレット等の説明資料の作成、IAEA総会サイドイベントや要人往訪の機会等、様々なルートで海外に向けて情報が発信されるとともに、経済産業省のウェブサイト108にも掲載されています。
また、廃炉作業に伴い得られたデータも活用し、必要な技術開発等を進めるため、様々な国際共同研究が行われています。経済産業省や文部科学省の事業では、海外の企業や研究機関等との協力による取組が実施されています。また、原子力機構のCLADSでは、海外からの研究者招へい、海外研究機関との共同研究が実施されており、国際的な研究開発拠点の構築を目指した活動が実施されています。
脚注
- 国会法附則第11項において国会への報告書を当分の間毎年提出することが義務付けられている
- International Atomic Energy Agency
- Organisation for Economic Co-operation and Development/ Nuclear Energy Agency
- Fukushima Daiichi Nuclear Power Station Accident Information Collection and Evaluation
- Thermodynamic Characterisation of Fuel Debris and Fission Products Based on Scenario Analysis of Severe Accident Progression at Fukushima Daiichi Nuclear Power Station
- Advanced Liquid Processing System: 多核種除去設備
- 「第2期復興・創生期間」以降における東日本大震災からの復興の基本方針の変更について
- 2017年5月の福島復興再生特別措置法の改正により創設
- 2022年6月に葛尾村と大熊町、同年8月に双葉町、2023年3月に浪江町、同年4月に富岡町の一部、同年5月に飯舘村、同年11月に富岡町の未解除部の避難指示を解除
- 2025年3月に帰還困難区域のうち飯舘村の堆肥製造施設及びその周辺の農地と葛尾村の風力発電事業用地の避難指示を解除
- 2024年4月より、食品衛生基準行政は消費者庁に移管
- 消費者の健康の保護等を目的として1963年に国連食糧農業機関(FAO)及び世界保健機関(WHO)により設置された、食品の国際規格等を作成する国際的な政府間機関
- 2011年4月初版策定後適宜改正され、最新は2025年3月改正
- 青森県、岩手県、秋田県、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県
- 田村市、南相馬市、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村及び川俣町(旧山木屋村)
- 1950年2月1日時点の市町村
- 詳しいデータは消費者庁ウェブサイト「食品中の放射性物質の基準値と摂取量調査」を参照
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_pollution/criterion- 第1章1-1-3-6「風評払拭・リスクコミュニケーションの強化」を参照
- United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation
- 第3章3-1-1-3「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」を参照
- 原子力災害対策本部調整会議にて策定(2011年8月決定、2024年3月改定)
- https://radioactivity.nra.go.jp/ja/
- 浪江町、大熊町、富岡町、葛尾村、双葉町
- Interlaboratory Comparison:分析機関間比較
- 2025年4月にもIAEA及び第三国分析機関の専門家が試料採取を実施
- IAEA Comprehensive Report on the Safety Review of the ALPS-Treated Water at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station
- 楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村及び飯舘村の全域並びに南相馬市、川俣町及び川内村の区域のうち警戒区域及び計画的避難区域であった区域。2022年3月31日に田村市において汚染廃棄物対策地域の指定を解除
- 放射能濃度基準の対象核種は放射性セシウム(Cs-134及びCs-137)
- 2017年に搬入開始、特定廃棄物の搬入は2023年に終了。双葉郡8町村の生活ごみの搬入は今後も継続
- 可燃物を減容化施設で減容化(焼却等)することや、焼却して発生した飛灰をセメント固形化すること、不利用すること等
- 2023年6月に搬入開始
- 宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県
- 市町村から聞き取った情報(2025年4月1日時点の住民登録数)を基に、内閣府原子力被災者生活支援チームが集計
- 特定復興再生拠点区域の避難指示解除の状況と特定帰還居住区域の避難指示解除に向けた取組については、第1章1-1-2-2「避難指示区域の状況」を参照
- Fukushima Institute for Research, Education and Innovation
- 研究者等が、複数の大学や公的研究機関、民間企業との間で、雇用契約関係を結び活動を行うこと
- https://www.youtube.com/watch?v=6HjcnNT3QZo
- 2024年に改訂し2023年8月に福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出が開始されたことを受け、ALPS処理水の処分に係る記述を追加するとともに、被災地の復興・再生に向けた取組に関する内容(F-REI、大熊町の学校における探究学習)を追加
- ALPS処理水の海洋放出に関する理解醸成に向けた取組については第5章5-2-4「東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に関する情報発信やコミュニケーション活動」を、ALPS処理水の海洋放出に関しては第1章1-5-2-6「処理水対策」を参照
- Nuclear Damage Compensation and Decommissioning Facilitation Corporation
- Nuclear Regulatory Commission
- Recommendations for enhancing reactor safety in the 21st century, The near-team task force review of insights from the Fukushima Dai-Ichi accident
- IAEA, et al., Fundamental Safety Principles, IAEA Safety Standards Series No.SF-1(2006)
- 原子力事業者との意見交換は第1章1-2-3-4(2)「原子力エネルギー協議会(ATENA)における取組」、地元関係者との意見交換は第5章5-2-2「国による情報発信やコミュニケーション活動」を参照
- 第1章1-3-1「過酷事故対策」を参照
- 「実用発電用原子炉及びその附属施設における発電用原子炉施設保安規定の審査基準」の2019年改正によるもの
- 第1章1-2-3-4「原子力事業者等による自主的安全性向上」を参照
- Green Transformation
- 2025年6月6日施行
- 大飯発電所3、4号機、川内原子力発電所1、2号機、高浜発電所1~4号機、玄海原子力発電所3号機、美浜発電所3号機、伊方発電所3号機
- 第2章2-1-2「我が国の原子力発電の状況」を参照
- 原子炉等規制法第43条の3の8第2項において準用する第43条の3の6第1項第4号
- 安全確保の機能又は性能への影響があるが限定的かつ極めて小さなものであり、事業者改善措置活動により改善が見込める水準(安全実績指標については、安全確保の機能又は性能に影響のない場合も含む)
- Autorité de sûreté nucléaire et de radioprotection: 2025年1月に原子力安全機関(ASN)と放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)が統合され発足
- 資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会原子力小委員会の下に設置
- 軽水炉に関する研究開発については第8章8-2-2「軽水炉利用に関する研究開発」を参照
- The National Institutes for Quantum Science and Technology
- Nuclear Risk Research Center
- Probabilistic Risk Assessment
- 機器や建物・構築物等の損傷確率
- Risk-Informed Decision-Making
- Japan Nuclear Safety Institute
- Atomic Energy Association
- Electromagnetic Compatibility
- Chief Nuclear Officer
- IAEA, IAEA SAFETY GLOSSARY TERMINOLOGY, 2018 Edition
- OECD/NEA, The Safety Culture of an Effective Nuclear Regulatory Body, NEA No. 7247, 2016
- Integrated Regulatory Review Service
- 原子力利用の推進に係る事務を所掌する行政組織等。具体的には、経済産業省、文部科学省、内閣府のうち、当該事務を実施する組織等
- 一般社団法人日本電気協会原子力規格委員会が制定した民間規格。規格番号はJEAC4111-2021
- 第1章1-2-2-1「新規制基準の導入」を参照
- 第1章1-2-3-2「原子力安全研究」を参照
- Accident Tolerant Fuel
- Collaborative Laboratories for Advanced Decommissioning Science
- Nuclear Safety Research Reactor
- Emergency Action Level
- Operational Intervention Level
- 原子力災害対策指針におけるOIL比較表については資料編7「特集、第1~9章の参考資料」を参照
- Precautionary Action Zone
- Urgent Protective Action Planning Zone
- 住民等に対する被ばくの防護措置を短期間で効率的に行うために、重点的に原子力災害に特有な対策が講じられる区域のこと
- https://www.nra.go.jp/activity/bousai/measure/emergency_action_plan/index.html
- https://www.env.go.jp/air/rmcm/index.html
- https://www.kankyo-hoshano.go.jp/
- https://housyasen.env.go.jp/
- https://radioactivity.nra.go.jp/ja
- https://www.erms.nsr.go.jp/nra-ramis-webg/
- 2003年に内閣官房長官決裁で内閣に設置され、内閣官房副長官を議長とし、関係府省庁等から構成される組織
- 2015年2月策定、2025年1月改定
- 原子力規制委員会に設置
- Primary Containment Vessel
- ALPS処理水の海洋放出については、第1章1-5-2-6「処理水対策」を参照
- 建屋近傍の井戸
- 原子炉建屋周辺の建屋同士を隣接して建設する際に生じる外壁間の50~100㎜の隙間
- 各建屋内の機器、配管等から床に漏れた水(床ドレン)の収集を目的として設置されたタンク
- 燃料取扱設備が原子炉建屋と前室の間を移動するために敷設する移動用レールの基礎
- 原子炉本体を支える基礎
- Control Rod Drive Mechanism
- 2025年4月に2回目の取出しに成功し、取り出した燃料デブリも同様に分析を進めている
- 廃炉等技術の研究開発の企画、調整及び管理を行うNDF廃炉等技術委員会の下に2023年2月設置
- 労働環境・現場作業中の気づき、不安、やりがい、就労希望、廃炉作業の情報入手しやすさ等
- トリチウムは水分子中の水素分子と置き換わることでトリチウム水として存在しており、水と化学的な性質が同じであるため浄化装置で取り除くことが困難
- 告示濃度限度の40分の1であり、WHOの飲料水水質ガイドラインの約7分の1。なお、告示濃度限度とは、原子炉等規制法に基づく告示に定められた、放射性廃棄物を環境中へ放出する際の基準。当該放射性廃棄物が複数の放射性物質を含む場合は、それぞれの放射性物質の核種の告示濃度限度に対する当該核種の放射性廃棄物中の濃度の比について、その総和が1未満(告示濃度比総和1未満)となる必要がある
- ALPS処理水を100倍以上に希釈することで、希釈後のトリチウム以外の告示濃度比総和は、0.01未満となる
- 原子力発電所ごとに設定された通常運転時の目安となる値(規制基準値を大幅に下回る値)
- そのほか、東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の処分に伴う当面の対策の取りまとめ(2021年8月公表)、ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた行動計画(2021年12月策定、2022年8月、2023年1月、同年8月改定)
- https://www.iaea.org/sites/default/files/iaea_comprehensive_alps_report.pdf
- https://www.meti.go.jp/english/earthquake/nuclear/decommissioning/index.html




































