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第5章 原子力利用に関する国民からの信頼回復の取組

5-1 理解の深化と信頼回復

 東京電力株式会社(東京電力)福島第一原子力発電所事故は、福島県民を始め多くの国民に多大な被害を及ぼし、14年が経過した現在でも依然として国民の原子力に対する不信・不安が根強く残っています。原子力委員会の「原子力利用に関する基本的考え方」(2023年2月改定)では、基本目標として、原子力関連機関は、科学の不確実性やリスクにも十分留意しながら、情報を発信する側と情報を受け取る側の双方向の対話等をより一層進めるとともに、科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づく情報を提供する取組を推進するとしています。国や事業者を始めとする原子力関係機関は、国民からの信頼回復が原子力利用の大前提であることを肝に銘じて、国民の理解を深めるために必要なあらゆる取組をより一層充実させていく必要があります。


5-1-1 理解の深化に向けた方向性と信頼回復

 東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて政府に設置された事故調査・検証委員会の報告書では、平時の情報提供の在り方も含め、事故の状況や放射線の人体への影響等に関する政府や東京電力の情報提供の方法や内容に多くの課題があったことが指摘されました。これらは、国民の原子力に対する不信・不安を招く主原因の一つとなったと考えられています。国や事業者を始めとする原子力関連機関は、国民と真摯に向き合い、理解を深めるために必要なあらゆる取組をより一層充実させ、継続して信頼回復に努めていかなければなりません。
 そのためには、科学の不確実性やリスクにも十分留意しながらコミュニケーション活動をより一層進め、国民の関心に応えていく必要があります。また、情報源や情報内容が多様化する中、科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づく情報を体系的に整え、国民が自らの関心に応じて情報を取捨選択できるようにする必要があります。
 福島第一原子力発電所事故以降、我が国における原子力利用については、原子力発電施設の立地地域に限らず、これまで電力供給の恩恵を受けてきた消費地を含む国民全体の問題として捉えられるようになった面があるともいわれています。そのため一人一人が当事者意識を持ちつつ、自らの意見を形成していけるような環境の整備を進めることが求められます。特に、国や事業者が新たな政策や取組を実施する際には、それらのメリットを紹介するだけでなく、新たに生じる可能性のある課題にも目を向けた包括的な情報発信や、国民とのコミュニケーションを図る必要があります。


5-1-2 科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づく情報体系の整備

 「理解の深化~根拠に基づく情報体系の整備について~(見解)」(2016年原子力委員会公表)では、原子力分野に関する情報が個別的・断片的であるとともに検索性にも配慮されていないことから、知りたい情報を探し当てるのは容易ではないと指摘しています。また、自らの関心や疑問に応じて、自ら見つけた情報を取捨選択し、納得することで腑に落ちる状態になると考えられ、このような状態を実現するためには、科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づく情報体系の整備が必要であるとしています(図 5-1)。
 根拠に基づく情報体系とは、一般向け情報(一般向けの分かりやすい解説、教材等)、橋渡し情報(根拠を一般向けに解説したもの、政策情報等)、専門家向け情報(国際機関等によりまとめられた報告書、解説書、研修資料等)、根拠となる情報(研究成果や研究報告等)の各階層をつなぎ、自らの関心に応じて専門家向け情報や根拠までたどれるような体系を指しています。このような情報体系の整備には、まずは、根拠となる出典の明記や一般向け用語集の整備を行い、個別的・断片的な情報をつなぐ必要があります。さらに、根拠を一般向けに解説した橋渡し情報の作成・提供を強化するとともに、情報の検索性にも留意する必要があります。情報体系の整備により、平時におけるコミュニケーション活動の進展が期待されるとともに、緊急時においても国民が的確な情報を検索できる状態が実現できます。

理解の深化~根拠に基づく情報体系の整備について~

図 5-1 理解の深化~根拠に基づく情報体系の整備について~

(出典)原子力委員会,理解の深化~根拠に基づく情報体系の整備について~(見解)(2016年)


 中でも、国民の関心が大きく、原子力政策の観点でも重要であり、エネルギー政策の要諦としても示されている「安全性」(S1)と「エネルギー安定供給・経済効率性・環境適合性」(3E2)などについて情報体系の整備が進められています。具体的には、電気事業連合会(電事連)が中心となり、一般向けから専門家向けまで各原子力関連機関により発信されている情報を階層構造で整理し、それらを関係組織横断的に関連付け、一般向けの解説から根拠となる情報をたどれるようにURL3を掲載するなどの取組が進められています(図 5-2)。

各原子力関連機関のコンテンツ間の接続イメージ
図 5-2 各原子力関連機関のコンテンツ間の接続イメージ

(出典)電気事業連合会,根拠に基づく情報体系整備状況について,第11回原子力委員会[資料1-2号](2018年)を基に内閣府作成


 エネルギーや原子力に関する網羅的な一般向け及び橋渡し情報として、一般財団法人日本原子力文化財団(原子力文化財団)がウェブサイトにて「エネ百科4」や「原子力総合パンフレット5」(図 5-3)を提供しています。同ウェブサイトは、子供向けコラムや原子力防災に関するコンテンツ等も含んでいます。また、原子力に関連した科学的かつ客観的な情報提供を行う「原子力百科事典ATOMICA6」を国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(原子力機構)が運営しています。

原子力総合パンフレット トップページ

図 5-3 原子力総合パンフレット トップページ

(出典)一般社団法人日本原子力文化財団,原子力総合パンフレット2024年度版(2025年)


5-2 コミュニケーション活動の強化とその取組

 国や事業者を始めとする原子力関係機関は、国民の原子力利用に対する関心に応えるため、全国・全世代に向けた情報発信とともに、相互理解のための対話を進めていく必要があります。インターネットやSNS7を始めとしたコミュニケーション手段の急速な変化に柔軟に対応し、常に改善していくことも必要です。


5-2-1 コミュニケーション活動の強化

 コミュニケーション活動は、一定の状況において関心又は利害関係のある当事者(ステークホルダー)を特定し、それぞれの関心やニーズを踏まえた上で適切な方法で実施する必要があると考えられています。原子力委員会は、情報環境の整備及び双方向の対話と共に、政策や事業に係るプロセスにおけるステークホルダーの参画を包含した取組全体を「ステークホルダー・インボルブメント」と定義しました(図 5-4)。このような取組を進めることで、ステークホルダーとの間に信頼関係が構築されていきます。
 信頼を構築していくに当たって、コミュニケーション活動には画一的な方法はありません。常に国民及びステークホルダーの関心や不安に真摯に向き合い、コミュニケーションの在り方を考え、双方向の対話に努めていくことが求められます。第7次「エネルギー基本計画」(2025年2月閣議決定)においても、エネルギー政策について、国民一人一人が当事者意識を持つことが何より重要であり、政府による情報開示を通じた国民各層の理解促進や双方向のコミュニケーションを充実させていく必要があるとしています。

ステークホルダー・インボルブメントの要点

図 5-4 ステークホルダー・インボルブメントの要点

(出典)内閣府作成


 また、科学の不確実性やリスクも明らかにしつつ、科学的に正確な情報及び客観的な事実に基づいた対話やリスクコミュニケーションを進める必要があります。様々な社会情勢を踏まえた上で、国民に原子力関連の知見を分かりやすく翻訳して橋渡しするためには、原子力分野におけるサイエンスコミュニケータ(橋渡し人材)を育成することも重要です。

5-2-2 国による情報発信やコミュニケーション活動

 原子力利用に当たっては、その重要性とともに安全対策、原子力防災対策等について、様々な機会を利用して、丁寧に説明することが重要です。原子力委員会は、これらの情報と活動内容を原子力白書として毎年公開しています。また、情報提供活動の一環として、大学生等に対する講義や講演の中で直接説明を実施してきています。海外については、国際原子力機関(IAEA8)総会での原子力白書英語版(概要)の配布と説明、国際会議での講演等を行っています。このような活動については今後も積極的に行っていくこととしています。
 資源エネルギー庁では、福島第一原子力発電所事故の反省を踏まえ、国民や立地地域との信頼関係を再構築するために、エネルギー及び原子力政策等に関する広報・広聴活動を実施しています。立地地域だけではなく、電力消費地域や次世代層を始めとした国民全体を対象に、シンポジウムや説明会等を2016年から累計1,500回以上実施し、約87,000人が参加しています(2025年3月末時点)。また、ウェブサイトを通じた情報発信活動等の充実にも努めており、エネルギーに関するテーマについて分かりやすく解説する記事を特設ページ「みんなで考えよう、エネルギーのこれから(エネこれ)」9で配信しています(図 5-5)。2017年の配信開始から2025年3月末までに400本以上の記事を配信しており、うち原子力関連の記事は70本以上となっています。2024年度には福島第一原子力発電所における多核種除去設備(ALPS10)処理水の海洋放出の安全性とモニタリング状況に関する記事などが配信されました。また、YouTubeに、エネルギー問題への理解を深める9本の動画を公開しています11

「みんなで考えよう、エネルギーのこれから(エネこれ)」

図 5-5 「みんなで考えよう、エネルギーのこれから(エネこれ)」

(出典)エネこれ,資源エネルギー庁ウェブサイト(2025年)


 経済産業省と文部科学省は立地地域の住民の理解促進を図るため、地方公共団体が行う原子力発電に係る対話や知識の普及等の原子力広報等を支援しています。広報事業等の概要と評価をまとめた報告書は、資源エネルギー庁のウェブサイト12と文部科学省のウェブサイト13で公開されています。
 原子力規制委員会では、立地地域の地方公共団体とのコミュニケーションを向上させるため、委員による現地視察及び地元関係者との意見交換を実施しています。委員が分担して国内の原子力施設を視察するとともに、当該原子力施設に関する規制上の諸問題について、被規制者だけでなく希望する地元関係者を交えた意見交換を継続的に行っています。2024年度には、中国電力株式会社(中国電力)島根原子力発電所と四国電力株式会社伊方発電所の視察及び意見交換が行われました。島根原子力発電所に関する意見交換では、令和6年能登半島地震を踏まえた規制基準に対する最新知見の反映、厳格な検査・確認、中国電力に対する原子力規制委員会の評価、屋内退避の効果的な運用などについて議論されました。原子力規制委員による現地視察及び地元関係者との意見交換に関する資料は、原子力規制委員会のウェブサイトで公開されています14
 原子力発電環境整備機構(NUMO15)は、資源エネルギー庁と共に、高レベル放射性廃棄物の最終処分(地層処分)16に関するコミュニケーション活動を行っています。地層処分への理解を深めてもらうことを目的とした対話型全国説明会では、国やNUMOからの説明だけではなく、参加者からの質問に答えるグループ質疑も行われています。対話型全国説明会は全国各地で行われており、2024年度には15回実施されました17。処分地選定のための文献調査が進められていた北海道寿都町(すっつちょう)及び神恵内村(かもえないむら)では、対話活動の拠点となる「交流センター」が設立され、NUMO職員が住民等からの質問や問合せに対応しています。さらに、住民、経済産業省、NUMO等が参加する「対話の場」が開催され、地層処分事業の仕組みや安全確保の考え方、文献調査の進捗状況、地域の将来ビジョン等に関する意見交換が行われています(図 5-6)。2025年3月末時点で、寿都町では17回、神恵内村では20回開催されています。また、2024年11月から2025年2月にかけて、両町村の文献調査報告書に関する説明会が北海道内の市町村で25回開催されました。2024年6月に文献調査が開始された佐賀県玄海町においても、現地活動拠点や対話を行う場の創設が計画されています18。対話の場の配布資料や対話の記録などは、NUMOのウェブサイトで公開されています19

対話の場の記録

図 5-6 対話の場の記録

(出典)文献調査:北海道神恵内村>対話の場(2024年10月3日 第20回),NUMOウェブサイト(2025年)


 地層処分に関するコミュニケーション活動として、資源エネルギー庁の委託事業である「ミライブプロジェクト」も進められています。同プロジェクトでは、次世代層への広報活動強化の一環として、大学生が主体となり同世代への理解促進を図っています。
 そのほか、福島の復興・再生に向けた風評の払拭のための取組については第1章1-1-3-6「風評払拭・リスクコミュニケーションの強化」に記載しています。

5-2-3 原子力関係事業者による情報発信やコミュニケーション活動

 電力会社等の原子力事業者、電事連、原子力文化財団及び一般社団法人原子力産業協会(原産協会)などの原子力関係機関は、情報共有や連携を図り、業界一体となったコミュニケーション活動の取組を展開しています。原子力事業者は、立地地方公共団体との安全協定等に基づき、発電所の運営状況について情報公開を行っています。情報公開基準は事業者によって異なりますが、例えば、東北電力株式会社では社会的に影響の出るおそれがない機器の不具合等についても定期的に公表することにしています。また、発電所周辺の地方公共団体や住民等を訪問して、原子力に係る情報提供や問合せ対応等、原子力発電所の周辺地域においてコミュニケーション活動を行っています。このような対面でのコミュニケーションにおいても、事業者からの一方的な説明ではなく、地域の人々の考えや意見を聞くとともに、リスクから生じる不安や懸念に関しても双方向のコミュニケーションを重視しています。一般市民への説明においては、原子力発電所やその安全対策の取組についてより理解を深められるよう、投影装置、映像、ジオラマ、VRスコープを活用した説明会や見学会等が実施されています(図 5-7)。

東京電力コミュニケーションブースVRコーナー(原子炉建屋格納容器)

図 5-7 東京電力コミュニケーションブースVRコーナー(原子炉建屋格納容器)

(出典)各地域でのコミュニケーションブース,東京電力ウェブサイト(2024年)


 電事連は、電力会社や関係機関と連携して効果的な発信方法等の検討を行うとともに、取組の好事例を共有し、コミュニケーション活動へ反映しています。さらに、多様なステークホルダーに対応した情報内容やその伝達あるいは対話の方法を検討の上、「伝わる」コミュケーション活動を実践しています。また、電事連のウェブサイトには、原子力発電の現状、原子力発電所の安全確保、原子燃料サイクル、放射性廃棄物の処理・処分等の基本的な情報が網羅的に掲載されています20
 災害時には、SNS上などで不正確な情報が広まることがあり、かつ一度拡散された情報は訂正することが難しくなります。国や原子力関係機関による正確な情報発信が重要です。例えば、2024年1月1日に石川県能登地方で発生した最大震度7を観測した地震では、北陸電力株式会社(北陸電力)は、志賀原子力発電所において火災が発生したとの誤った情報を発信し、その後、訂正しましたが、訂正前の情報が拡散されてしまいました。北陸電力はこうした状況も踏まえ、改めて事実関係を整理して発信するなどの対応に努めています21
 原産協会では、量子放射線利用普及連絡協議会を設置し、放射線利用の情報提供を積極的に展開していくこととしています。全国中学理科教育研究会において、霧箱実験22のデモンストレーションや放射線に関するパンフレットの提供等を行う予定としています。
 原子力に対する信頼回復には、情報提供やコミュニケーションの取組に加え、何より原子力関係事業者がコンプライアンスを遵守し、不都合な情報も隠ぺいしないことが必要です。また、事案に至った原因を根本にまで戻って解明し、実効性のある組織内部の改善に取り組んでいくとともに、地元を中心に社会に対し真摯な取組について常に意を尽くして説明し、意見に応えていくことも、相互理解の大前提として必要です。

5-2-4 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に関する情報発信やコミュニケーション活動

 福島第一原子力発電所の廃炉については、福島県や国民の理解を得ながら進めていく必要があります。そのため、正確な情報の発信やコミュニケーションの充実が図られており、事業者や資源エネルギー庁は様々な取組を進めています。例えば、廃炉・汚染水・処理水対策に関して、進捗状況を分かりやすく伝えるためのパンフレットや解説動画を作成し、情報発信を行っています(図 5-8)。
 原子力損害賠償・廃炉等支援機構は、2016年から「福島第一廃炉国際フォーラム」を実施し、廃炉の最新の進捗、技術的成果を国内外の専門家が広く共有するとともに、地元住民との双方向のコミュニケーションを実施しています。また、2024年度には、廃炉の進捗状況を伝えるとともに、疑問に答える場として「東京電力・福島第一原子力発電所の廃炉に関する対話」を福島県内16市町村で実施しました。
 ALPS処理水の処分については、「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(2021年決定)(ALPS処理水の処分に関する基本方針)に基づき、関係省庁等がそれぞれの役割に応じた情報発信、対応など様々な取組を進めています。関係府省庁からなる「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」は、ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行への貢献を目標とし「ALPS処理水に係る理解醸成に向けた情報発信等施策パッケージ~消費者等の安心と国際社会の理解に向けて~」(2023年4月改訂)を取りまとめました(図 5-9)。同パッケージに基づき各関係府省庁が連携して、ALPS処理水の安全性のみならず、消費者等の「安心」につながるための情報発信を実施するなど、理解醸成に向けた取組が強化されています。2024年8月の「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議及び第7回ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議(合同開催)」においても、引き続き、国内外に向けて科学的根拠に基づき透明性が高く分かりやすい情報発信に努めていく方針が確認されました。
 経済産業省は、2022年12月にはALPS処理水の海洋放出に係る特設ウェブサイト「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」を公開し、科学的根拠に基づいたALPS処理水の情報を分かりやすくまとめて紹介しています23。また、このウェブサイトにおいて、ALPS処理水に係る各機関のモニタリングの結果を一目で分かる形で紹介しています24

東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水・処理水対策に関する広報資料

図 5-8 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水・処理水対策に関する広報資料

(出典)みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと,経済産業省ウェブサイト(2025年)


安全性についての情報発信のみならず、消費者等の「安心」につなげることを意識しつつ、届けて理解してもらう情報発信を関係府省庁が連携して展開する
実行会議ワーキンググループ等における関係者からの意見・要望も含め、地元の声をしっかり聴いて対応する
輸入規制の撤廃も念頭に、海外の国・地域ごとにきめ細かく戦略的に対応する
継続的に風評に関する状況等を把握し、それに応じた必要な情報を効果的に発信する
図 5-9 ALPS処理水に係る理解醸成に向けた情報発信等施策パッケージの前提となる考え方

(出典)原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース,ALPS処理水に係る理解醸成に向けた情報発信等施策パッケージ~消費者等の安心と国際社会の理解に向けて~(2023年改訂)

 外務省は、ウェブサイトでALPS処理水海洋放出の安全性について英語の動画で紹介するとともに10か国語(日本語、英語、中国語、韓国語等)の資料を公表しています。また、ALPS処理水の海洋放出と日本の食品の安全性についての内閣府特命担当大臣の動画メッセージ25も掲載しています。
 環境省では、ウェブサイト「ALPS処理水に係る海域モニタリング情報」26を公開し、環境省に加え原子力規制委員会などの関係省庁等で実施している海水中や水産物・水生生物中のトリチウム等に係るモニタリングの結果をまとめて掲載しています。
 東京電力も独自に「処理水ポータルサイト27」を設けて、最新の情報も含めてよくある疑問に対する回答やALPS処理水の解説動画などを発信しています(図 5-10)。また、「包括的海域モニタリング閲覧システム28」において、東京電力のほか、環境省、水産庁、原子力規制委員会等の機関による海水・魚類・海藻類中のトリチウム等に係るモニタリング結果を一元的に閲覧できるようにしています。

「処理水ポータルサイト」のトップページ

図 5-10 「処理水ポータルサイト」のトップページ

(出典)処理水ポータルサイト,東京電力ウェブサイト(2025年)

 原子力機構では、東京電力とは独立した第三者の立場での分析(第三者分析)を実施し、その結果を公表しています。また、分析をテーマにした情報発信スペースとして、大熊町で「ANALYSiS(アナリシス) LAB(ラボ).」を2025年3月から運営し、分析の魅力を紹介しています。
 水産業に関しては、漁業者を始めとする生産者や取引相手となる流通・小売事業者から消費者に至るまで、水産物のサプライチェーン全体にわたる関係者に対する取組が行われています。具体的には、販売促進・消費拡大に向けた働きかけやイベント実施等を通じた理解醸成に加え、小売業界の取引継続に向けた環境整備等の取組が進められています。経済産業省は、消費の拡大へ向けた「三陸・常磐ものネットワーク29」、「ごひいき!三陸常磐キャンペーン30」等の魅力発信のキャンペーンを国内外で行っています。福島相双復興官民合同チームでは、福島県産品の販路拡大に向けて、企業間取引拡大に向けたマッチング支援や催事・イベント等による販売促進支援を実施しています。各省庁の取組については、首相官邸のウェブサイト31においてまとめられています。また、風評影響への対応として、モニタリング結果と安全基準との比較評価、環境・人体影響に関する科学的情報を丁寧に発信しています。
 東京電力は、実際に処理水を用いて魚を飼育して影響がないことを実証してほしい等の意見が住民等から出たことを踏まえて、2022年から海水と海水で希釈したALPS処理水の双方において海洋生物の飼育試験を実施しました。2024年10月からは実際に海洋放出される放出水を用いた飼育試験を実施しました。その結果、ALPS処理水を添加した海水環境下でも、通常の海水環境下でも、海洋生物の生育状況に差はないことや、過去の知見と同様に、生体内でのトリチウムは濃縮されず、生体内のトリチウム濃度が生育環境以上の濃度にならないこと等を確認しました。なお、計画していた試験が全て完了したことから、2025年3月末をもって、海洋生物の飼育試験は終了しています。

コラム ~福島におけるステークホルダー・インボルブメント~

 信頼構築には相互理解とコミュニケーションが重要であり、そのためには関心又は利害関係がある当事者(ステークホルダー)の関与を得ることが必要です。放射線防護の基本的な枠組みと防護基準を勧告する国際学術組織である国際放射線防護委員会(ICRP)は、原子力発電所事故等によって汚染された地域の住民と専門家が状況の対応に直接関与することが効果的であり、また、国や地方自治体は地域住民が自ら決定し得る状況を作ることに責任があるとしています。この観点に基づき、ICRPは東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、2011年11月から福島県で対話集会(ダイアログ)を実施してきました。ダイアログでは放射線防護だけではなく、子供の教育や伝統・文化なども含む復興の課題をテーマとして取り上げ、専門家と地域住民が意見交換を行いました。2016年から2018年にかけては地元ボランティアがICRPの支援を受けながら実施し、2019年以降は非営利法人福島ダイアログが主催しています。ダイアログには、地元住民だけではなく国内外の専門家や行政関係者も参加し、2025年3月末時点で26回開催されています。
 また、ICRPは福島県いわき市北部の末続すえつぎ地区における放射線測定プロジェクトにも協力していました。同プロジェクトでは、地域住民が中心となって、空間線量率や土壌放射能濃度の測定、外部被ばくや内部被ばくの測定、食品中放射能濃度の測定を行い、測定結果について話し合うことを繰り返していきました。このような取組は共同専門知(co-expertise)アプローチと呼ばれ、ICRPは、専門家と地元のステークホルダーが協力し、科学的専門知識と現地の知識を活用して放射線の状況を理解し、生活環境を改善するための行動を取るプロセスと説明しています。末続地区では、対話、測定、地域プロジェクトの三つを原則として取組が進められ、地域住民の関心も放射線防護から復興へと変化していきました。
 ダイアログと末続地区の取組はいずれも、当事者である地域住民と専門家が協働して進めてきたものであり、双方向なコミュニケーションが実施されているといえます。専門家が一方的に結論を押し付けるのではなく、お互いの意見を聞きながらコミュニケーションを取ることで、専門家は地域の課題を知ることができ、地域住民は専門知識や他の人の考えを知ることができます。放射線防護や復興以外の分野でも、このような取組が信頼構築の参考になると考えられます。

共同専門知アプローチの原則

共同専門知アプローチの原則

(出典)NPO福島ダイアログ,原発事故後の福島でのステークホルダーインボルブメントの取り組み,第34回原子力委員会[資料第1号](2024年)

注: International Commission on Radiological Protection

脚注

  1. Safety(安全性)
  2. Energy Security(安定供給)、Economic Efficiency(経済効率性)、Environment(環境適合)
  3. Uniform Resource Locator: インターネット上の住所に相当するドメインネームとその下にあるファイルの場所
  4. https://www.ene100.jp/
  5. https://www.jaero.or.jp/sogo/
  6. https://atomica.jaea.go.jp/
  7. Social Networking Service
  8. International Atomic Energy Agency
  9. https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/
  10. Advanced Liquid Processing System
  11. https://www.youtube.com/playlist?list=PLcRmz7bR5W3kG_ceq8QXWX4oswBSdbh_r
  12. https://www.enecho.meti.go.jp/committee/disclosure/kohokouhukin/
  13. https://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/gensi/1378562.htm
  14. https://www.nra.go.jp/nra/kaiken/ikenkoukan.html
  15. Nuclear Waste Management Organization
  16. 第6章6-2-2「高レベル放射性廃棄物の処理・処分」を参照
  17. 栃木県、沖縄県、奈良県、群馬県、滋賀県、高知県、長野県、宮崎県、大阪府、愛知県、東京都、広島県、島根県、岐阜県、愛媛県の1都1府13県で実施
  18. 2025年4月8日に、現地活動拠点として「NUMO玄海交流センター」が開設され、4月17日には第1回玄海町対話を行う場が開催された
  19. https://www.numo.or.jp/chisoushobun/survey_status/
  20. https://www.fepc.or.jp/nuclear/index.html
  21. https://www.rikuden.co.jp/outline1/shika_qa.html
  22. 過飽和状態の蒸気が放射線の電離作用により凝結し、放射線の通過が可視化される実験(参考資料5-1参照)
  23. 科学的根拠の担保にむけたIAEAとの協力に関しては、第1章1-5-3-3「国際社会との協力」を参照
  24. https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/shirou_alps/monitoring/
  25. https://www.youtube.com/watch?v=khR1kN4TXS4
  26. https://policies.env.go.jp/water/shorisui-monitoring/
  27. https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/
  28. https://www.monitororbs.jp/ja/
  29. https://sjm-network.jp/
  30. https://gohiiki.go.jp/
  31. https://www.kantei.go.jp/jp/headline/alps/index.html
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