第4章 原子力の平和利用と核不拡散・核セキュリティの確保への取組
4-1 平和利用の担保
我が国は、「原子力基本法」において原子力の研究、開発及び利用を厳に平和の目的に限ることとし、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)に基づき、国際原子力機関(IAEA1)保障措置の厳格な適用等により原子力の平和利用を担保しています。加えて、「利用目的のないプルトニウムを持たない」との原則を堅持し、プルトニウムの管理状況の公表や利用目的の確認等を通じて、プルトニウム利用の透明性を確保し国内外の理解を得る取組を継続しています。これらの取組を通じて、国際社会における原子力の平和利用への信用の堅持に努めています。
1970年には、国際的な核軍縮・不拡散を実現する基礎となる「核兵器不拡散条約」(NPT2)が発効しました。NPTは核兵器国を含む全締約国に対して誠実な核軍縮交渉の義務を課すとともに原子力の平和的利用の権利を認め、我が国を含む非核兵器国に対しては、原子力活動をIAEAの保障措置の下に置く義務を課しています。
4-1-1 我が国における原子力の平和利用
核セキュリティ・核不拡散に向けた我が国の取組は、国際的に確立された枠組みに基づいています(表 4-1)。我が国では、1955年に原子力基本法が制定され、原子力の研究、開発及び利用を厳に平和目的に限ることが定められました。同法の下で、平和利用を担保する体制を整えています(図 4-1)。原子力規制委員会では、IAEA保障措置の厳格な適用等による平和利用を担保しています。
表 4-1 核セキュリティ・核不拡散の担保 国内法 ・原子力基本法
・原子炉等規制法
・外国為替及び外国貿易法
・船舶安全法輸出管理体制 ・原子力供給国グループガイドライン(NSG guidelines) 条約 ・核兵器不拡散条約(NPT)
・二国間原子力協定
・核物質の防護に関する条約
・核物質及び原子力施設の防護に関する条約
・核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約国連安全保障
理事会決議・大量破壊兵器等の不拡散等に関する決議(UNSCR1540)
・テロ行為への資金供与防止等に関する決議(UNSCR1373)(出典)内閣府作成
図 4-1 原子力の平和利用を担保する体制(出典)内閣府作成
我が国はエネルギー資源に乏しいことから、使用済燃料を再処理し回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの推進を基本方針としています。国内外に対する透明性向上の観点から「利用目的のないプルトニウムを持たない」との原則を堅持し、原子力委員会において、プルトニウム管理状況の公表、プルトニウム利用計画の妥当性の確認、プルトニウム需給バランスの確保等の取組を行っています。プルトニウム利用を進めるに当たり、国際社会と連携し、核不拡散に貢献し、平和利用に係る透明性を高めることが重要です。これを踏まえ、原子力委員会は、2018年に「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」を公表しました(図 4-2)。
図 4-2 「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」(出典)原子力委員会,我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方(2018年)
4-1-2 原子炉等規制法に基づく平和利用
4-1-2-1 IAEA保障措置協定
NPT締約国である非核兵器国はIAEAとの間で保障措置協定を締結し、当該国の平和的な原子力活動に係る全ての核物質を対象とする保障措置を受諾することが義務付けられています。この保障措置協定を「包括的保障措置協定」といいます。IAEAは包括的保障措置協定の締結国が申告する核物質の計量情報や原子力関連活動に関する情報について、申告された核物質の平和利用からの転用や未申告の活動がないかを査察等により確認しその評価結果を毎年取りまとめています。我が国では原子炉等規制法によって保障措置に必要な検査等を受けることを事業者に義務付けています。
IAEAは、当該国で申告された核物質の平和的活動からの転用の兆候が認められないこと、及び未申告の核物質及び原子力活動が存在する兆候が認められないことが確認された場合、全ての核物質が平和的活動にとどまっているとの「拡大結論」を下すことができます。この場合、IAEAは、当該国に対して、検認能力を維持したまま査察回数を低減させる取組である「統合保障措置」と呼ばれる制度を適用することができます。4-1-2-2 我が国における保障措置活動
我が国では1976年にNPTを批准、1977年にIAEAと包括的保障措置協定を締結してIAEA保障措置を受け入れ、原子炉等規制法等に基づく国内保障措置制度を整備しています(図 4-3)。さらに、1999年に保障措置を強化するための「追加議定書」をIAEAと締結しました。
我が国はIAEAから2003年以降連続して「拡大結論」を得ており、2004年9月から統合保障措置が適用されました。その後、IAEAとの協議を踏まえ、2023年までに国レベルアプローチが適用されています。我が国はこの適用が今後も継続されるよう努めており、原子力規制委員会は原子力施設等が保有する全ての核物質の在庫量等をIAEAに報告し、その報告内容が正確かつ完全であることをIAEAが現場で確認する査察等への対応を行っています。
図 4-3 我が国における保障措置実施体制(出典)原子力規制委員会,令和6年度年次報告(2025年)
2024年には、原子炉等規制法に基づき2,154事業者から4,884件の計量管理に関する報告が原子力規制委員会に提出され、IAEAに報告されました。IAEAは我が国からの報告を基に原子力規制委員会等の立会いの下、査察等を行いました。また、原子力規制委員会等は2,075人・日の保障措置検査等を実施しました。2024年の我が国における主要な核物質の施設別在庫量は、表 4-2に示すとおりです。
表 4-2 我が国における主要な核物質の施設別在庫量(2024年) 施設 天然ウラン 劣化ウラン 濃縮ウラン トリウム プルトニウム 製錬・転換施設 72t 0t 12t - - 濃縮施設 349t 11,830t 222t - - 再転換・成型加工施設 82t 32t 1,140t - - 実用発電炉 327t 3,378t 17,489t - 161.7t 試験研究炉 31t 157t 37t 0t 5.1t 再処理施設 2t 597t 3,473t - 31.7t MOX注燃料加工施設 19t 38t 27t - 3.9t 注:Mixed Oxide(ウラン・プルトニウム混合酸化物)(出典)原子力規制庁,我が国における令和6年(2024年)の保障措置活動の実施結果, 第7回原子力規制委員会[資料6](2025年)を基に内閣府作成
また、利用実態がなく保管だけされているウランなどの核燃料物質が全国の民間又は公的な事業所に分散して存在しており(図 4-4)、原子炉等規制法施行前に保有していた微量の核燃料物質が事業所の整理の際に発見されるなど、法令上の管理下にない核物質が発見される例もあります。安全上及び核物質防護上のリスクを低減させるため、このような核物質の集約管理を実現するための具体的な方策について、関係行政機関、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(原子力機構)等が連携・協力して検討をする必要があります。
図 4-4 我が国における核物質使用者の状況(出典)原子力規制庁,JAEA次期中長期目標の策定に当たって,文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会原子力研究開発・基盤・人材作業部会(第6回)[資料3](2021年)、原子力規制委員会,原子炉等規制法施行令第41条に掲げる核燃料物質を使用する事業所一覧(2024年)、原子力規制員会,核燃料物質の使用の許可を得ている事業所一覧(2025年)を基に内閣府作成
4-1-2-3 保障措置に関する国際協力
我が国は、IAEAネットワーク分析所として認定されている原子力機構安全研究センターの高度環境分析研究棟において、IAEAが査察等の際に採取した環境試料の分析への協力を行うなど、IAEAの保障措置活動に貢献するとともに、我が国としての核燃料物質の分析技術の維持・高度化を図っています。また、「IAEA保障措置技術支援計画」を通じ、我が国の保障措置技術を活用してIAEA保障措置を強化・効率化するための技術開発や人材育成への支援を行うなど、保障措置に関する国際協力を実施しています。また、原子力機構に、核不拡散・核セキュリティ総合支援センター3を設置し、アジア地域を中心とした核不拡散・核セキュリティ分野のキャパシティ・ビルディング等を実施しています。このほか、2009年に設立されたアジア太平洋保障措置ネットワーク(APSN4)では、現加盟国及び運営委員会の一員として、アジア・太平洋地域内の保障措置実施の強化と効率化に積極的に貢献しています。
4-1-2-4 原子炉等施設の設置許可等の審査における利用目的の確認
原子炉等規制法に基づき、原子力規制委員会は、原子炉施設等の設置(変更)の許可の段階で原子炉施設等が平和の目的以外に利用されるおそれがないことに関し、原子力委員会の意見を聴かなければならないと定められています。諮問を受けた原子力委員会は、このことについて審議し、答申することになっています(図 4-1)。
4-1-2-5 核物質防護
原子炉等規制法に基づく核物質防護の取組については、第4章4-2「核セキュリティの確保」に記載しています。
4-1-3 政策上の平和利用
4-1-3-1 プルトニウム管理状況の公表及びIAEAへのプルトニウム保有量の報告
我が国は、プルトニウム国際管理指針5に基づきプルトニウム管理状況をIAEAに対して報告しています。2024年8月、我が国は、2023年末における我が国のプルトニウム管理状況をIAEAに報告しました。2023年末時点で、国内外において管理されている我が国の分離プルトニウム総量は約44.5tで、その内訳は国内保管分が約8.6t、海外保管分が約35.8t(うち、英国保管分が約21.7t、フランス保管分が約14.1t)となっています(表 4-3)。我が国の分離プルトニウムの保管等の内訳等は資料編に示します。また、IAEAから公表されている各国が2023年末において自国内に保有するプルトニウムの量は、表 4-4のとおりです。
表 4-3 分離プルトニウムの管理状況 2023年末時点 総量(国内+海外) 約44.5t 内訳 国内 約8.6t 海外 (総量) 約35.8t 内訳 英国 約21.7t フランス 約14.1t 注:四捨五入の関係で合計が合わない場合がある(出典)内閣府作成
表 4-4 プルトニウム国際管理指針に基づき公表されている
2023年末における各国の自国内のプルトニウム保有量を合計した値(単位:tPu)未照射プルトニウム注1 使用済燃料中のプルトニウム注2 米国 未報告 未報告 ロシア 64.9 204 英国 140.9 29 フランス 110.7 306.1 中国 未報告 未報告 日本 8.6 185 ドイツ 0.0 130.6 ベルギー (50kg未満注3) 50 スイス 2kg未満 24 注1:100kg単位で四捨五入した値。ただし、50kg未満の報告がなされている項目は合計しない
注2:1,000kg単位で四捨五入した値。ただし、500kg未満の報告がなされている項目は合計しない
注3:燃料加工中、MOX燃料等製品及びその他の場所のプルトニウム保管量(各項目50kg未満)(出典)IAEA,Communication Received from Certain Member States Concerning Their Policies Regarding the Management of Plutonium, INFCIRC/549(2024年)、Office of Nuclear Regulation, 2023 annual figures for holdings of civil unirradiated plutonium United Kingdom(2024年)を基に内閣府作成
4-1-3-2 プルトニウム利用計画の確認
使用済燃料再処理施設及びMOX6燃料加工施設が操業を開始すれば、プルトニウムが分離、回収され、MOX燃料へと加工されることになります。
我が国初の商業用再処理施設である日本原燃株式会社(日本原燃)の六ヶ所再処理施設7は2026年度中に、六ヶ所MOX燃料加工施設8は2027年度中に竣工することを目標としています。日本原燃は2024年12月に暫定的な操業計画を公表しました(表 4-5)。
表 4-5 日本原燃による再処理施設及びMOX燃料加工施設の暫定操業計画 2025年度 2026年度 2027年度 2028年度 2029年度 再処理可能量(tUPr) - 0 70 170 90 プルトニウム回収見込量(tPut) - 0 0.6 1.4 0.7 MOX燃料加工可能量(tPut) - - 0 0 0 (出典)日本原燃,六ヶ所再処理施設およびMOX燃料加工施設 暫定操業計画(処理可能な年間再処理量および加工可能な年間加工プルトニウム量)(2024年12月)を基に内閣府作成
電気事業連合会は2020年12月に新たなプルサーマル計画9を公表し、2030年度までに少なくとも12基の原子炉でプルサーマルの実施を目指すことを公表しました。また、2022年12月には、電気事業者11社がこれまでの各社のプルサーマルの取組に加え、プルサーマルを着実に推進していくための取組を一層強化することを発表しました。この際、策定されたアクションプランに基づき、電気事業者各社は、「プルサーマル推進連絡協議会」(各社の社長により構成)を毎年度開催し、プルサーマルの実施に向けた進捗状況の情報共有や各社間の連携を図るとともに、再稼働加速タスクフォース(2021年設置)により、審査課題の情報共有と業界全体での機動的支援を実施しています。2021年以降、電気事業連合会及び原子力機構は毎年、プルトニウム利用計画を策定し、プルトニウムの所有者、利用目的、利用場所、利用量等を明示しており、原子力委員会は妥当性の確認をしています。2025年2月に電気事業連合会が公表した利用計画では、軽水炉燃料として利用するという目的の下、各電気事業者の今後3年間の利用計画等が示されています(表 4-6)。
表 4-6 電気事業連合会によるプルトニウム利用計画(2025年2月)![]()
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(出典)電気事業連合会,プルトニウム利用計画(2025年)
また、原子力機構は、高速炉を活用した研究開発を目的とし高速実験炉「常陽」における利用計画を示していますが、「常陽」の新規制基準への適合性確認に係る設計及び工事の計画の認可取得までは、年度ごとの利用量は未定としています(表 4-7)。
これらの利用計画の公表を受けて、原子力委員会は2025年3月に見解を公表しました。同見解では、2025年3月末の我が国全体のプルトニウム保有量が約44.5t10となる見込みであること等を踏まえ、2025年度のプルトニウム利用計画について「現時点の諸制約の中で、妥当な見通しが示されたものである」としました。また、今後、様々な取組の進捗に応じて状況が大きく変わり得ることから、2026年度及び2027年度のプルトニウム利用計画については、見解公表時点での情報を基に暫定的なコメントをしました。なお、2024年12月末時点の電力各社のプルトニウム所有量は表 4-8のとおりです。表 4-7 原子力機構による研究開発用プルトニウム利用計画(2025年2月)
(出典)原子力機構,日本原子力研究開発機構における研究開発用プルトニウムの利用計画(2025年)
表 4-8 電力各社のプルトニウム所有量(2024年12月末時点)
(出典)電気事業連合会,各社のプルトニウム所有量(2024年12月末時点)(2025年)
4-1-3-3 プルトニウム・バランスに関する取組
使用済燃料再処理・廃炉推進機構11(NuRO12)が策定する使用済燃料再処理等実施中期計画(実施中期計画)を経済産業大臣が認可する際には、原子力の平和利用やプルトニウムの需給バランス確保の観点から、原子力委員会の意見を聴取することとされています。
また、「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」においても、再処理等の計画の認可に当たっては、六ヶ所再処理施設、MOX燃料加工施設及びプルサーマルの稼働状況に応じて、プルサーマルの着実な実施に必要な量だけ再処理が実施されるよう認可を行い、生産されたMOX燃料が、事業者によって時宜を失わずに確実に消費されるよう指導・確認するとしています。
2025年3月、NuROは日本原燃の六ヶ所再処理施設及びMOX燃料加工施設の暫定操業計画、電気事業者のプルトニウム利用計画を踏まえ、経済産業大臣に対して実施中期計画の変更に係る認可申請を行いました(表 4-9)。当該申請の認可に当たり経済産業大臣から意見を求められた原子力委員会は、「六ヶ所再処理施設及びMOX燃料加工施設の稼働初期において、一時的にプルトニウム保有量が微増する場合が想定されるが、将来的に同保有量が減少する見通しが示されることが重要である」との見解を示しました。その上で、原子力委員会は、国内施設で回収するプルトニウムの確実な利用と、プルトニウムの需給バランスを踏まえた再処理施設等の適切な運転の実現に向けて最大限の努力を行うこと、具体的な取組の進捗に応じて実施中期計画の見直しが必要になった場合には適宜・適切に行うこと、2024年4月からNuROは新たに廃炉推進業務を担っているが、引き続き安全確保を最優先とし、効率的・効果的に再処理等業務を進めること等について、経済産業大臣が関係事業者に対して必要かつ適切な指導を行うよう求めました。この原子力委員会の意見を踏まえ、2025年3月に経済産業大臣は実施中期計画の変更を認可しました。
表 4-9 NuROによる実施中期計画(2025年3月)において示された再処理量等 計画 (参考)見通し 2025年度 2026年度 2027年度 2028年度 2029年度 再処理を行う
使用済燃料の量(tU)0 0 70 170 90 (参考)プルトニウム
回収見込量(tPut)0 0 0.6 1.4 0.7 再処理関連加工注を行う
プルトニウムの量(tPut)0 0 0 0 0 注:ウラン及びプルトニウムの混合酸化物燃料加工(MOX燃料加工)(出典)NuRO,使用済燃料再処理等実施中期計画(2025年)を基に内閣府作成
4-2 核セキュリティの確保
核セキュリティとは、「核物質、その他の放射性物質、その関連施設及びその輸送を含む関連活動を対象にした犯罪行為又は故意の違反行為の防止、探知及び対応」のことをいいます。2001年9月11日の米国同時多発テロ事件以降、国際社会は新たな緊急性を持ってテロ対策を見直し、取組を強化してきました。放射性物質の発散装置(いわゆる「汚い爆弾」)の脅威も懸念されるようになり、核爆発装置に用いられる核燃料物質だけでなく、あらゆる放射性物質へと防護の対象が広がっています。
我が国では、原子炉等規制法により、原子力事業者等に対して核物質防護措置を講じることを義務付け、その措置の実効性を国が確認する体制を整備しています。また、関連諸条約の締結を始めとして、人材育成や技術開発を含む様々な国際協力や情報交換を行いつつ、核セキュリティに関する取組を推進しています。
4-2-1 核セキュリティに関する国際的な枠組み
1987年2月発効の「核物質の防護に関する条約」は、国際輸送中の核物質の不法な取得及び使用の防止を主目的とした条約であり、2024年9月時点で165か国及び1機関(欧州原子力共同体(Euratom13))が締結しています。同条約は、核によるテロ等に対する国際社会の認識の高まりを受け2005年に改正(2016年発効)され、適用の対象が国内で使用、貯蔵、輸送されている核物質又は原子力施設へと拡大されるとともに処罰対象の犯罪が拡大され、名称も「核物質及び原子力施設の防護に関する条約」(改正核物質防護条約)へと改められました。改正核物質防護条約の2025年4月時点の締約国は137か国と1機関(Euratom)です。
米国同時多発テロ事件を契機として、原子力施設自体に対するテロ攻撃や、核物質やその他の放射性物質を用いたテロ活動(いわゆる「核テロ活動」)の脅威等に対処するための対策強化が求められるようになりました。2007年発効の「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約」(核テロリズム防止条約)は、核によるテロ行為の防止並びに、同行為の容疑者の訴追及び処罰のための効果的かつ実行可能な措置を取るための国際協力を強化することを目的としており、2025年3月時点の締約国数は127か国です。
我が国は、テロ対策のための国際的な取組に積極的に参画しており、改正核物質防護条約や核テロリズム防止条約を含め、国連その他の国際機関で採択された13本のテロ防止関連諸条約を締結しています。
IAEAは核物質や放射性物質を悪用する潜在的なリスクを、核兵器の盗取、盗取された核物質を用いた核爆発装置の製造、放射性物質の発散装置の製造、原子力施設や放射性物質の輸送等に対する妨害破壊行為の4種類に分類しています(図 4-5)。
また、IAEAは、各国が原子力施設等の防護措置を定める際の指針となる文書(IAEA核セキュリティ・シリーズ文書)を体系的に整備しています。最上位文書である基本文書14及び三つの勧告文書15に加えて、具体的な指針を示す実施指針、技術指針も刊行され、核セキュリティを取り巻く状況が反映されて順次改訂・新規刊行されています。
図 4-5 IAEAが想定する核テロリズム(出典)核セキュリティ,外務省ウェブサイト(2024年)
IAEAが加盟各国の核セキュリティ体制強化を支援する国際核物質防護諮問サービス(IPPAS16)も、改正核物質防護条約等の枠組みへの準拠と措置の実効性の向上を図る上で重要な取組の一つです。IPPASミッションは、加盟国の要請に応じ、核物質及びその他の放射線物質並びに関連施設の防護に関する国際条約の評価、IAEAの勧告措置の実施に係る勧告及び指針の適用に関する助言を行っています。2024年度は、我が国においても7月から8月にかけて3回目のIPPASミッションが実施され、その一環の施設レビューでは、関西電力株式会社美浜発電所への訪問も行われました。
4-2-2 核セキュリティに関する国際的な取組
IAEAは2002年、核テロ対策を支援するために、核物質及び原子力施設の防護等8つの活動分野で構成される核セキュリティ第1次計画を策定し、核物質等テロ行為防止特別基金を設立しました。2021年には、2022年から2025年までを対象とした第6次計画が承認されました。第6次計画は、優先的かつ横断的事項、情報管理、核物質及び原子力施設の防護、規制上の管理を外れた核物質の防護、並びにプログラム開発及び国際協力の5つの分野で構成されています。
米国が提唱した核セキュリティ・サミットは、2010年から2016年にかけて合計4回開催され、核テロ対策に関する基本姿勢や取組状況及び国際協力の在り方について首脳レベルでの議論が行われました。最終回となった第4回では、サミット終了後に核セキュリティ強化の取組に向けた行動計画等が採択されました。なお、第1回核セキュリティ・サミットを受け、2010年に日米間での協力を推進するための日米核セキュリティ作業グループ(NSWG17)が設立され、2024年度末時点で13回の会合が開催されています。
国連総会と国連安全保障理事会(安保理)は、グローバルな核セキュリティを強化する上で重要な役割を果たしています。2016年の第4回核セキュリティ・サミットで発表された国連の行動計画では、国連総会及び安保理の関連する全ての決議に定められた核セキュリティ関連のコミットメントと義務を完全に履行すること等を目指す方針が示されました。
上記のほか、我が国も参加する、核セキュリティの向上を目的とした代表的な国際取組として、「大量破壊兵器及び物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップ」(GP18)、「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ」(GICNT19)、「放射線・核テロリズムを予防するためのグローバル・フォーラム」(Global FTPRNT20)、「核セキュリティ・コンタクト・グループ」(NSCG21)等が挙げられます。コラム ~IAEAによる国際核物質防護諮問サービス(IPPAS)等~
IPPASでは、国際的な専門家で構成されたチームが、核物質及びその他の放射性物質並びに関連施設の核セキュリティに関する規制体系や防護措置の実施状況をレビューし、改正核物質防護条約の履行及びIAEA核セキュリティ勧告文書に準拠した核セキュリティの強化に資する助言等を行います。①国の核セキュリティ体制、②原子力施設、③輸送、④放射性物質及び関連施設と関連活動のセキュリティ、並びに⑤情報セキュリティ及びコンピュータの五つの領域についてレビューが行われます。
美浜発電所の視察の様子(出典)IAEA,IAEA Completes International Physical Protection Advisory Service Mission in Japan(2024年)
我が国では2015年に①②⑤を対象としたIPPASミッションを受け入れ、2018年にフォローアップミッションを受け入れました。2024年には、3回目となるIPPASミッションが7月から8月にかけて実施されました。この2024年のミッションでは、①②④⑤を対象として、原子力規制委員会、国土交通省、警察庁、海上保安庁、外務省、関西電力、東京電力の関係者が専門家チームと質疑応答を行いました。また、IPPASミッションチームは、関西電力美浜発電所を訪問し、同施設の核セキュリティ対策の実施状況を確認しました。この結果として、専門家チームから、我が国の核セキュリティ体制は強固であるとの見解が示されるとともに、核セキュリティ体制及び実効性を更に強化するための勧告や助言が行われました。また、国際的な核セキュリティの持続的な改善に貢献し、他のIAEA加盟国にとって参考となる良好事例が挙げられました。
また、IAEAが提供しているサービスは政府だけではなく原子力事業者の要請によって実施されることもあります。東京電力の要請により、2024年3月から4月にかけて、柏崎刈羽原子力発電所を対象としたIAEAの核物質防護の専門家チームによるエキスパートミッションが実施されました。専門家チームは、同発電所におけるIDカード不正使用事案等に対する改善措置計画のほとんどが完了したほか、根本原因に対処したと結論付けています。IAEAによる核物質防護エキスパートミッション(出典)東京電力,柏崎刈羽原子力発電所の目指す姿の取り組み状況について(2024年)
2008年のIAEA年次総会の際に設立された「世界核セキュリティ協会」(WINS22)は、核物質及び放射性物質がテロ目的に使用されないように管理を徹底することを目的として活動を行っています。WINSは2022年に、規制外の核物質及びその他放射性物質に対処する人材開発に関する新たな報告書を発表し、核セキュリティの能力開発で最も重要な問題は設備ではなく訓練を受けた人材であるといった指摘をしています。
4-2-3 有事の対応(ロシアによるウクライナ侵略)
ロシアは2022年2月にウクライナに対する侵略を開始し、チョルノービリ原子力発電所やウクライナ最大のザポリッジャ原子力発電所がロシア軍により占拠されました。この事態に対し、IAEAは累次にわたり重大な懸念を表明しています。同年3月に開催されたIAEA特別理事会ではグロッシー事務局長が七つの柱を提示しました。また、翌2023年5月の国連安全保障理事会では、ザポリッジャ原子力発電所の防護を目的とした当該原子力発電所への攻撃の禁止や電力供給の確保等を含む五つの原則を発表し、ロシアとウクライナに対してこれらを遵守することを求めました(図 4-6)。また、IAEAはザポリッジャ原子力発電所等に2022年8月から専門家を常駐させ、原子力発電所の安全と核セキュリティの確保に向けて貢献しています。原子力施設が武力紛争に巻き込まれ破壊されることは何としても避けなければなりません。そのための対応を国際社会はしっかり構築していく必要があります。
図 4-6 グロッシーIAEA事務局長が提示した七つの柱及び五つの原則(出典)Director General Statement to IAEA Board of Governors on Situation in Ukraine, IAEAウェブサイト(2022年)、IAEA Director General Statement to United Nations Security Council, IAEAウェブサイト(2023年)、(仮訳)ウクライナにおける原子力安全と核セキュリティの枠組みに関するG7不拡散局長級会合(NPDG)声明,外務省ウェブサイト(2022年)を基に内閣府作成
4-2-4 我が国における核セキュリティに関する取組
4-2-4-1 原子力施設等の防護
我が国では、原子炉等規制法により、原子力施設に対する妨害破壊行為や、特定核燃料物質23の輸送・貯蔵・使用時等の核物質の盗取等から防護するための対策を講じることを原子力事業者等に義務付けています(図 4-7)。
輸送時の核セキュリティについては、輸送物の種類や輸送手段によって所管する規制行政機関及び治安当局が異なります(表 4-10)。特定核燃料物質の輸送時の要件は、陸上輸送に関しては原子炉等規制法で、海上輸送に関しては「船舶安全法」で定められています。
図 4-7 原子力施設における核物質防護の仕組み(出典)原子力規制委員会
表 4-10 特定核燃料物質の輸送を所管する関係省庁 輸送物 輸送方法 輸送経路・日時 陸上輸送 原子力規制委員会 【所外輸送】国土交通省 都道府県公安委員会 【所内輸送】原子力規制委員会 海上輸送 国土交通省 国土交通省 海上保安庁 注:特定核燃料物質の航空輸送は実施されない(出典)国土交通省,原子力規制庁,輸送における核セキュリティの検討について,第2回核セキュリティに関する検討会[資料4](2013年)
原子力事業者等は、原子炉等規制法等に基づき、原子力施設において防護区域を定め、当該施設を鉄筋コンクリート造りの障壁等によって区画するとともに、出入管理、監視装置の設置、巡視、情報管理等を行っています。また、核物質防護管理者を選任し、核物質防護に関する業務を統一的に管理しています(図 4-8)。
原子力事業者等が講じる防護措置の実施状況及び核物質防護規定に従って講ずるべき措置の実施状況については、原子力規制検査において確認しています。最近の事例では、原子力規制委員会は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所におけるIDカード不正使用事案及び核物質防護設備の機能の一部喪失事案について、2021年3月に同発電所に対して是正措置命令を、同年4月に特定核燃料物質の移動禁止命令(事実上の運転禁止命令)を発出しました。その後、2023年2月に追加検査の結果を踏まえて移動禁止命令を解除しました。
サイバーセキュリティについても、近年サイバー攻撃件数の増加が顕著となっていることから対策の強化が不可欠になっています。原子力規制委員会は、IAEAの勧告文書24を踏まえ、原子力施設における内部脅威対策の強化(個人の信頼性確認の実施及び防護区域内における監視装置の設置)に加え、サイバーセキュリティ対策を強化するなどの制度整備を実施しています。
また、警察や陸上自衛隊等によるテロリスト等への対処を想定した共同訓練が2012年以降、各地の原子力発電所において実施されています。
2022年に発生したロシアによるウクライナの原子力施設等への攻撃・占拠事案では原子力施設防護の問題が顕在化しました。軍事的脅威下では、原子力施設の管理等の観点でIAEA等国際機関の役割が重要となりますが、我が国としても有事の際に指揮命令系統に混乱が生じないよう、国際機関、政府の原子力関連機関、危機管理組織等が連携し、対応を不断に検証する必要があります。図 4-8 原子力施設における核物質防護措置の例(出典)原子力規制委員会,令和6年度年次報告の概要(2025年)
4-2-4-2 核セキュリティ文化の醸成
核セキュリティ文化とは、原子力組織に携わる人々が核セキュリティを確保するための信念、理解、習慣について話し合い、その結果を実施し根付かせていくものであり、安全文化の醸成と同様に重要です。2012年に核燃料物質の使用等に関する規則が改正されたことにより、核物質防護規定において「核セキュリティ文化を醸成するための体制(経営責任者の関与を含む。)に関すること」を定めることが原子力事業者等に義務付けられました。原子力規制委員会は原子力事業者等の経営層との面談等を通じて、核セキュリティに対する関与意識の強化を図っています。
原子力規制委員会は、2015年、自らの核セキュリティ文化の醸成のための活動に関する行動方針として、脅威に対する認識、安全との調和、幹部職員の務め、教育と自己研鑽及び情報の保護と意思疎通の5点について「核セキュリティ文化に関する行動指針」を策定しました。原子力規制委員会は、この指針に基づき、新規採用職員及び検査官への着任が見込まれる職員を対象とした核セキュリティ文化に関する研修など、その文化の醸成活動を継続的に実施しています。4-2-4-3 核セキュリティ対策強化のための国際的な支援活動
我が国は、2010年の核セキュリティ・サミットにおいて、主にアジア諸国の核セキュリティ強化を支援するセンターの設立を表明し、同年12月に原子力機構に「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」(ISCN25)を設置しました。ISCNは人材育成支援、技術開発等の活動を積極的に進めています。
人材育成支援では、VR技術や核物質防護の実習施設を活用したトレーニング、保障措置の体制整備の実務者トレーニング等を実施し、各国から高い評価を受けています(図 4-9)。また、IAEA査察官向けに、原子力機構の施設を活用した我が国でしか実施できないトレーニングを提供し、IAEAからも高く評価されています。こうした実績を踏まえて、原子力機構は、2021年にIAEAから、核セキュリティ及び廃止措置・廃棄物管理の2分野においてIAEA協働センターの指定を受けました。2024年には実習施設の設備を拡充しISCN実習フィールドと改称しました。これにより、サイバーセキュリティなどの新しいトレーニングコースが実施できるようになりました。トレーニングコースは2025年3月までに117か国、6国際機関から累計6,356人が受講しています。
図 4-9 原子力機構ISCNによる様々なトレーニングの実施(出典)ISCNニューズレターNo.0281,原子力機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センターウェブサイト(2020年)、 人材育成,原子力機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センターウェブサイト、M. Sekine et al., Proceedings of 2021 INMM/ESARDA Joint Annual Meeting、Y. Kawakubo et al., Proceedings of 2021 INMM/ESARDA Joint Annual Meetingを基に内閣府作成
技術開発では、欧米と協力して、押収・採取された核物質を分析して出所等を割り出す核鑑識技術、中性子線を照射して対象物を非破壊分析するアクティブ法等の技術開発を進めています。また、大規模イベント等におけるテロ活動を抑止するための核物質・放射性物質を検知する技術開発、核爆発装置や放射性物質を飛散させる装置等に核物質・放射性物質が用いられるリスクを低減するための評価研究も進めています。
そのほか、ISCNでは「原子力平和利用と核不拡散・核セキュリティに係る国際フォーラム」を毎年開催しています。2024年12月に開催された国際フォーラムでは、国内外の有識者による基調講演や、「核不拡散・核セキュリティ分野の人材育成と大学・研究機関の連携」をテーマとしたパネルディスカッションが行われました(図 4-10)。
図 4-10 「原子力平和利用と核不拡散・核セキュリティに係る国際フォーラム2024」におけるパネルディスカッションの様子(出典)原子力機構,ISCN Newsletter No.0337 January,2025(2025年)
4-3 核軍縮・核不拡散体制の維持・強化
我が国は、世界で唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」の実現に向けて、国際社会の核軍縮・核不拡散の取組を主導していく使命を有しています。そのため、国際的な核不拡散体制を維持・強化するための議論に積極的に参加するとともに、人材の育成に努め、「核不拡散と原子力の平和利用の両立を目指す趣旨で制定された国際約束・規範の遵守が、原子力利用による利益を享受するための大前提」とする国際的な共通認識の醸成に国際社会と協力して取り組むことが重要です。NPTを中心とした様々な国際的枠組みの下で、核軍縮・核不拡散に向けた取組を積極的に推進しています。
4-3-1 国際的な核軍縮・核不拡散体制の礎石としての核兵器不拡散条約(NPT)
NPTは、国際的な核軍縮・核不拡散を実現し、国際安全保障を確保するための最も重要な基礎となる普遍性の高い条約として位置付けられています(図 4-11)。NPTは、米国、ロシア、英国、フランス及び中国を核兵器国と定め、これらの核兵器国以外への核兵器の拡散を防止する義務を課すほか、核兵器国を含む全締約国に対して誠実に核軍縮交渉を行う義務を課しています。また、非核兵器国には原子力の平和的利用を奪い得ない権利として認めて、IAEAの保障措置を受託する義務を課しています。我が国は同条約を1976年6月に批准しており、2025年3月末時点の同条約の締約国数は191か国・地域26となっています。
図 4-11 NPTの三つの柱(出典)外務省,不拡散政策及び原子力の平和的利用と国際協力,第9回原子力委員会[資料第1号](2022年)
NPT運用検討会議は、条約の目的の実現及び条約の規定の遵守を確保することを目的として、5年に1度開催される国際会議です。条約が発効した1970年以来、その時々の国際情勢を反映した議論が展開されてきましたが、近年、NPT体制は深刻な課題に直面しています。
我が国もNPT体制を維持・強化する観点から各国に建設的な対応を繰り返し呼び掛けつつ、NPT運用検討会議の意義ある成果に向けた様々な取組を行っています。2024年7月には2026年NPT運用検討会議第2回準備委員会が開催され、我が国は、2022年に岸田内閣総理大臣(当時)が提唱した「ヒロシマ・アクション・プラン」の下で、「核兵器のない世界」に向けた国際社会の取組を主導する旨を述べました。また、NPTの三つの柱について分野別の議論に積極的に関与し、「ヒロシマ・アクション・プラン」の5項目(核兵器の不使用の継続、核戦力の透明性の向上、核兵器数の減少傾向の維持、核兵器の不拡散及び原子力の平和的利用の促進、各国の指導者等による被爆地訪問の促進)の重要性を発信しました。4-3-2 核軍縮に向けた取組
4-3-2-1 包括的核実験禁止条約(CTBT)
CTBT27は、全ての核兵器の実験的爆発又は他の核爆発を禁止するもので、核軍縮・核不拡散を進める上で極めて重要な条約であり、我が国は1997年に批准しました。2025年3月末時点で批准国は178か国ですが、CTBTの発効に必要な特定の44か国のうち批准は35か国28に留まり条約は発効していません。
我が国は、CTBTの発効を重視しており、CTBT発効促進会議、CTBTフレンズ外相会合等を通じて未批准国への働きかけに積極的に取り組んでいます。
条約の遵守状況の検証体制については、我が国は、国内に国際監視制度(IMS29)の10か所の監視施設及び実験施設を維持・運営しているほか(図 4-12)、世界各国の将来のIMSステーションオペレーター(観測点の運営者)の能力開発支援や包括的核実験禁止条約機関への任意拠出の提供を通じて、その強化に貢献しています。
図 4-12 日本国内の国際監視施設設置ポイント(出典)外務省,CTBT国内運用体制の概要 日本国内の国際監視施設設置ポイント(2020年)
4-3-2-2 核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)(通称「カットオフ条約」)
1993年に米国が提案したFMCT30は、核兵器用の核分裂性物質(高濃縮ウラン及びプルトニウム等)の生産を禁止することにより核兵器を保有する国の新たな出現を防ぎ、かつ核兵器国における核兵器の生産を制限するもので、核軍縮・不拡散の双方の観点から大きな意義を有します。一方、これまでジュネーブ軍縮会議において条約交渉を開始するための議論が行われてきているものの、実質的な交渉は開始されていません。我が国としては、FMCTの早期交渉開始を実現すること、また、交渉妥結までの間、核兵器を保有する国が核兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムを宣言することは、核兵器廃絶の実現に向けた次の論理的なステップであり核軍縮分野での最優先事項の一つと考えています。2024年9月には、同年3月に我が国が安保理閣僚級会合において立上げを表明していたFMCTフレンズ31のハイレベル立上げ会合が開催されました。
4-3-2-3 核兵器禁止条約
2021年に発効した「核兵器禁止条約」は、核兵器その他の核爆発装置の開発、実験、生産、製造、その他の方法による取得、占有又は貯蔵等を禁止するとともに、核兵器その他の核爆発装置の所有、占有又は管理の有無等について締約国が申告すること等について規定しています。2022年には、同条約の第1回締約国会合が、2023年には第2回締約国会合が、2025年3月には第3回締約国会合が開催されました。
核兵器禁止条約は、「核兵器のない世界」への出口ともいえる重要な条約です。一方、核兵器の保有・使用等を包括的に禁止しており、現状においては、核抑止と相いれない同条約を核兵器国が締結する見込みはありません。核兵器国を交えずに核軍縮を進めることは難しく、我が国は、国際的な核軍縮の取組は、NPTの下で進めていくことが引き続きより望ましいと考えています。「核兵器のない世界」に向けた道のりが一層厳しさを増す中だからこそ、我が国は、抑止力を維持・強化し、安全保障上の脅威に適切に対処していくとの大前提に立ちつつ、唯一の戦争被爆国として、NPT体制を基盤に、核兵器国と核兵器禁止条約締約国双方の参加を得た現実的で実践的な取組の推進に今後も全力を尽くしていく考えです。4-3-2-4 核軍縮の推進に向けた我が国の取組
我が国は、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界を実現するため、核軍縮・核不拡散外交を積極的に行っています。1994年以降、毎年国連総会に核兵器廃絶決議案を提出し、幅広い国々の支持を得て採択されてきています。また、我が国は、2010年に我が国とオーストラリアが中心となって立ち上げた地域横断的な非核兵器国のグループである「軍縮・不拡散イニシアティブ」(NPDI32)を通じて、NPT運用検討会議における合意事項の着実な実施に貢献するべく活動を行っています。
石破内閣総理大臣は、2024年11月に開催された「『核兵器のない世界』に向けた国際賢人会議」33第5回会合において、NPTを土台とする国際的な核軍縮・不拡散体制を維持・強化していくことの必要性や、核軍縮を巡る情勢が一層厳しいものとなっている中で実践的かつ現実的な取組を着実に進めていく重要性を示すメッセージを寄せました。また、2025年3月に開催された第6回会合において、これまでの会合で積み重ねられた議論を踏まえつつ、「核兵器のない世界」の実現に向けた具体的方策が検討され、2026年NPT運用検討会議に向けた提言が発出されました。4-3-2-5 核軍備管理の課題
ロシアのウクライナ侵略は、ウクライナ国内の原子力発電所の占拠等に伴う原子力安全・核セキュリティ上の懸念に加え、世界の核軍縮・核不拡散体制にも影響を及ぼしています。ロシアはこれまでのウクライナ侵略の過程で、核兵器による威嚇を示唆する言及を度々行っています。さらに、ロシアのプーチン大統領は2023年2月に行われた年次教書演説において、2011年に米国とロシアの間で締結され2021年に延長された、核弾頭及びその運搬手段の削減等を規定した「新戦略兵器削減条約」(新START34)の履行停止を発表しました。一方、米国は2023年6月に、ロシアによる新START違反に対する合法的な対抗措置を講じる旨を発表しました。
核兵器を巡る昨今の情勢を踏まえると、米国とロシアを超えたより広範な国家、より広範な兵器システムを含む新たな軍備管理枠組みを構築していくことも重要であり、その観点から、我が国は様々なレベルでこの問題について関係各国に働きかけを行ってきています。例えば、前述の核兵器廃絶決議においても、核軍備競争を予防するために軍備管理対話を開始し積極的に関与する核兵器国の特別な責任を再確認することが盛り込まれています。
核兵器のない世界への道のりは一層厳しくなっていますが、我が国政府は、このような状況だからこそ核兵器のない世界に向けて現実的かつ実践的な取組を粘り強く進めていく必要があると繰り返し訴えてきています。2024年10月には、核兵器のない世界の実現を目指して草の根運動に取り組んできた日本原水爆被害者団体協議会に対してノーベル平和賞の授与が発表されました。コラム ~ノーベル平和賞受賞の意義~
2024年10月にノルウェー・ノーベル委員会は、2024年ノーベル平和賞を日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に授与することを発表しました。日本被団協は、広島と長崎で原爆の被害を受けた生存者の団体の協議会であり、「核兵器のない世界」の実現を目指した草の根運動に取り組んでいます。ノルウェー・ノーベル委員会は授賞理由として、日本被団協が核兵器のない世界の実現を目指して尽力し、核兵器が二度と使われてはならないことを目撃証言を通じて身をもって示してきたことを挙げています。また、授与に関するプレスリリースにおいて、日本被団協やその他の被爆者の代表らによる並々ならぬ努力が核のタブーの確立に大きく貢献したと評価しています。同時に、核兵器使用に対するタブーが圧力にさらされていることは憂慮すべきであり、今こそ核兵器が最も破壊的な兵器であることを再認識する意義があるとも指摘しています。核保有国が核兵器の近代化と高性能化を進めていること、新たに核兵器を手に入れる準備をしているように見受けられる国があること、現在起きている戦争で核兵器を使用するという脅迫がされていることについても言及されています。
このように、長年にわたり核兵器の廃絶や被爆の実相に対する理解の促進に取り組んできた日本被団協が2024年ノーベル平和賞を受賞したことは大きな意義があるといえます。4-3-3 核不拡散に向けた取組
4-3-3-1 原子力供給国グループ(NSG)
1974年のインドの核実験を契機として、原子力関連の資機材を供給する能力のある国の間でNSG35が設立され、2025年3月末時点で我が国を含む48か国が参加しています。NSG参加国は、核物質や原子力活動に使用するために設計又は製造された品目及び関連技術の輸出条件を定めたNSGガイドライン・パート136、並びに、通常の産業等に用いられる一方で原子力活動にも使用し得る資機材(汎用品)及び関連技術(汎用技術)を対象としたNSGガイドライン・パート237に基づき輸出管理を行っています。我が国は、核不拡散体制の強化の観点から、原子力関連資機材・技術の輸出管理を重視しており、NSGにおける議論に積極的に参画しています。また、我が国の在ウィーン国際機関日本政府代表部がNSGの事務局機能としてのポイント・オブ・コンタクト(POC38)の役割を担っています。
2024年7月にはリオデジャネイロにおいて第33回NSG総会が開催され、我が国は、核兵器不拡散条約(NPT)体制におけるNSGの意義、北朝鮮による核・ミサイル開発及びロシアのウクライナ侵略といった地域情勢、核不拡散の強化を目的としたアジア諸国等の輸出管理能力向上のためのアウトリーチの取組等について発言しました。4-3-3-2 北朝鮮の核開発問題
北朝鮮は、累次の国連安保理決議に従った、全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ不可逆的な廃棄を依然として行っていません。北朝鮮は、「極超音速ミサイル」と称するものや変則軌道で飛翔可能な短距離弾道ミサイルなどを立て続けに発射し、その態様も鉄道発射型や潜水艦発射型などに多様化しています。特に近年は、大陸間弾道ミサイル級を含めたミサイル発射を執拗に繰り返して、国際社会に対する挑発を一方的にエスカレートさせています。2024年には20回以上の弾道ミサイル発射事案(衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射を含む)が確認されています。
また、北朝鮮は核開発を継続する姿勢を示しており、2024年のIAEA事務局長の報告においては、2017年9月に6度目の核実験が行われた豊渓里(プンゲリ)では、核実験を支援する準備ができていると指摘されています。さらに、北朝鮮は、2024年9月と2025年1月にウラン濃縮施設を公表し、核兵器に使用するための核物質の生産を増強していると主張しました。
引き続き、北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ不可逆的な廃棄に向け、国際社会が一致結束して、安保理決議を完全に履行することが重要です。4-3-3-3 イランの核開発問題
イランの核開発問題は、国際的な核不拡散体制への重大な挑戦となっていましたが、2015年に、EU3+3(英国、フランス、ドイツ、米国、中国、ロシア)とイランとの間で「包括的共同作業計画」(JCPOA39)が合意され、JCPOAを承認する安保理決議第2231号が採択されました。JCPOAは、イランの原子力活動に制約をかけつつ、それが平和的であることを確保し、これまでに課された制裁を解除していく手順を詳細に明記したものです。
しかし、2018年には米国がJCPOAから離脱し、イランに対する制裁措置を再適用しました。これに対してイランは2019年にJCPOA上の義務の段階的停止を発表し、低濃縮ウラン貯蔵量の上限超過、濃縮レベルの上限超過、フォルド40にある燃料濃縮施設での濃縮再開等の措置を順次講じ、2021年には60%までの濃縮ウランの製造を開始する旨をIAEAに通報しました。同年以降、米国及びイラン双方によるJCPOAへの復帰に向けた協議がEU等の仲介によりオーストリアのウィーンで断続的に行われたものの、交渉は停滞しています。IAEA事務局長報告書によると、2025年2月8日時点におけるイランの濃縮ウラン保有量は推定で8294.4kg(JCPOAで定めた上限300kgの約27倍)に達しています。IAEA理事会は2024年6月に、イランに対してIAEAとの完全な協力を改めて要請する決議を採択し、これに加えて、同年11月には、IAEA事務局長に対してイランの核問題に係る包括的な評価の作成を要請する決議を採択しました。
我が国は、国際的な核不拡散体制の強化と中東地域の安定に資するJCPOAの目的を支持しており、引き続きイランに対し、JCPOAの完全な遵守とIAEAとの完全な協力を働きかけるとともに、中東における緊張緩和と情勢の安定化に向け、関係国と連携していく方針です。4-3-3-4 核燃料供給保証に関する取組
ウラン濃縮や使用済燃料再処理等の機微な技術の不拡散と原子力の平和利用との両立を目指す上で、政治的な理由による核燃料の供給途絶を回避する供給保証が重視されています。2011年には、ロシアが主導するアンガルスクの国際ウラン濃縮センターを通じて、120tの低濃縮ウラン備蓄の利用が可能となったほか、2019年には、カザフスタンの低濃縮ウラン備蓄バンクに、フランスのオラノ社及びカザフスタン国営原子力企業のカズアトムプロム社から低濃縮ウランが納入され、電気出力100万kWe規模の加圧水型軽水炉1基の炉心を満たすのに十分な量の低濃縮ウランの備蓄が完了しました。
脚注
- International Atomic Energy Agency
- Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons
- 2025年4月に「原子力人材育成・核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」に改組
- Asia Pacific Safeguards Network
- 米国、ロシア、英国、フランス、中国、日本、ドイツ、ベルギー、スイスの9か国が参加し、プルトニウム管理に係る基本的な原則を示すとともに、その透明性の向上のため保有するプルトニウム量を毎年公表することとした指針。1998年3月にIAEAが発表
- Mixed Oxide:ウラン・プルトニウム混合酸化物
- 第2章2-2-3-5「使用済燃料の再処理」を参照
- 第2章2-2-3-6「ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料製造」を参照
- 第2章2-2-3-7「軽水炉によるMOX燃料利用」を参照
- 2025年度には、回収見込み及び消費見込みのプルトニウムはないため、2025年3月末の保有見込量と同じ
- 第2章2-2-3-5「使用済燃料の再処理」を参照。同機構名称は「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施及び廃炉の推進に関する法律」が施行されたことに伴い、2024年4月に「使用済燃料再処理機構」から変更
- Nuclear Reprocessing and Decommissioning facilitation Organization of Japan
- The European Atomic Energy Community
- 2013年2月発刊の「国の核セキュリティ体制の基本:目的及び不可欠な要素」
- 2011年1月に発刊された「核物質及び原子力施設の物理的防護に関する核セキュリティ勧告改訂第5版」、「放射性物質及び関連施設に関する核セキュリティ勧告」及び「規制上の管理を外れた核物質及びその他の放射性物質に関する核セキュリティ勧告」
- International Physical Protection Advisory Service
- Nuclear Security Working Group
- Global Partnership
- Global Initiative to Combat Nuclear Terrorism
- Global Forum to Prevent Radiological and Nuclear Terrorism
- Nuclear Security Contact Group
- World Institute for Nuclear Security
- プルトニウム(Pu-238の同位体濃度が100分の80を超えるものを除く)、U-233、U-235のU-238に対する比率が天然の混合率を超えるウランその他の政令で定める核燃料物質
- 核物質及び原子力施設の物理的防護に関する核セキュリティ勧告(INFCIRC/225/Revision 5)(NSS No.13)
- 2025年度から原子力人材育成センターと統合し、「原子力人材育成・核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」(Integrated Support Center for Nuclear Nonproliferation, Security and Human Resource Development)に改組
- 国連加盟国では、インド、パキスタン、イスラエル及び南スーダンが未加入
- Comprehensive Nuclear Test-Ban-Treaty
- 未批准の発効要件国は、インド、パキスタン、北朝鮮、中国、エジプト、イラン、イスラエル、米国及びロシア
- International Monitoring System
- Fissile Material Cut-off Treaty
- FMCTに対する政治的関心の維持・強化及びFMCT交渉開始に向けた支持拡大への貢献を目的とした地域横断的グループ。参加国は日本、米国、英国、フランス、イタリア、オランダ、カナダ、オーストラリア、ドイツ、ナイジェリア、フィリピン、ブラジルの12か国
- Non-proliferation and Disarmament Initiative
- 核兵器国と非核兵器国の双方からの参加者が、それぞれの国の立場を超えて知恵を出し合い、また、各国の現職・元職の政治リーダーの関与も得て「核兵器のない世界」の実現に向けた具体的な道筋について自由闊達な議論を行う場として、2022年1月に岸田内閣総理大臣(当時)が立上げを表明
- Strategic Arms Reduction Treaty
- Nuclear Suppliers Group
- 主な対象品目は、①核物質、②原子炉とその付属装置、③重水、原子炉級黒鉛等、④ウラン濃縮、再処理、燃料加工、重水製造、転換等に係るプラントとその関連資機材
- 主な対象品目は、①産業用機械(数値制御装置、測定装置等)、②材料(アルミニウム合金、ベリリウム等)、③ウラン同位元素分離装置及び部分品、④重水製造プラント関連装置、⑤核爆発装置開発のための試験及び計測装置、⑥核爆発装置用部分品
- Point of Contact: NSG関連資料の受領、配布及び管理、各会合の開催予定等の通知及び開催、各議長への実務的な支援などを行っている
- Joint Comprehensive Plan of Action
- 首都テヘランの南方の都市












