平成10年版

原 子 力 白 書
     
平成10年6月

原子力委員会
 

平成10年版 原子力白書の公表にあたって

 我が国はこれまで、平和利用の堅持と安全の確保を大前提として、エネルギーの安定供給と国民生活の質の向上を目標に原子力の開発利用を進めてきました。そして今日、原子力は既に我が国の電力供給の約3分の1を賄う欠かすことのできないエネルギー源になるとともに、医療等における放射線利用の分野においても著しい成果をあげております。また、昨年12月に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において我が国に課せられた温室効果ガスの削減目標の達成のためにも、発電過程において温室効果ガスを発生しない原子力は必要不可欠であり、今後ますます原子力の果たす役割は重要となっていきます。
 しかしながら、動力炉・核燃料開発事業団(動燃)における平成7年12月の高速増殖原型炉「もんじゅ」の事故や昨年3月の東海事業所におけるアスファルト固化処理施設火災爆発事故などを契機に、原子力に対する国民の不安や不信が高まったことも事実です。
 動燃については、核燃料サイクル開発機構として再出発するため、今通常国会において所要の法律改正を行うなど、本年10月の新法人への改組に向けた準備を進めておりますが、「仏を作って魂入れず」ということにならないよう、原子力開発利用の中心的な推進機関として真に国民の負託に応え、その使命を果たすことができる機関として生まれ変わることが重要と考えます。
 また、原子力に携わる関係者においては、動燃の教訓を活かし、常に国民的視点を見失わないことが大切であり、原子力委員会としても今まで以上に国民の声に耳を傾け、各界各層の方々と議論しながら、透明性あるプロセスの下で政策を展開していくなど、原子力に対する国民の信頼回復に全力を尽くしてまいります。
 さらに、原子力の位置づけについては、単に電源立地地域だけの問題としてではなく、電力の大消費地も含めた国民一人一人が自らの問題として捉え考えていただくことが必要であり、今後とも情報公開や対話の促進を進めるなどの環境整備をさらに進めていくこととします。
 今回の白書においては、動燃に関する一連の問題とそれへの対応を含め、この一年半における国内外の原子力開発利用の現状を記述しております。本書が原子力に対する国民の理解を深める際の一助となれば幸いです。

平成10年6月19日

国 務 大 臣
科学技術庁長官 谷 垣 禎 一
原子力委員会委員長
   

本書の構成と内容

 平成9年の原子力白書は諸般の事情から作成できなかったので、本書については、前回の平成8年版原子力白書(平成8年12月24日)発刊以降の約1年半における原子力全般に関する動向を取りまとめた。
 本書の構成としては、「本編」と「資料編」とした。
まず、本編として第1章においては、核燃料サイクルを中心とする原子力開発利用の動向や動燃改革、また、原子力に対する国民の不安・不信の高まりを受けて国が行った信頼回復に向けた取組みなどについて示した。
 第2章においては、「動燃改革について」、「地球温暖化問題と原子力」、「核不拡散へ向けての国際的信頼の確立」、「原子力安全確保」、「情報公開と国民の理解の促進」、「原子力発電の展開」、「軽水炉体系による原子力発電」、「核燃料サイクルの展開」、「バックエンド対策」、「原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化」、「原子力分野の国際協力」、「原子力開発利用の推進基盤」及び「原子力産業の展開」について、それぞれの最近の動向を中心に具体的に説明している。
 また、資料編では、原子力委員会の決定、原子力委員会委員長談話、原子力関係予算及び年表等をまとめた。
 なお、原子力開発利用については、安全の確保が大前提であり、原子力安全委員会、安全規制当局、研究開発機関、電気事業者、メーカーなどは国民の期待に応えてそれぞれの立場で安全の確保に努めている。それについては、別に「原子力安全白書」において取り扱われているので、本書においてはその詳細に立ち入ることは避け、原子力委員会に関係する基本的事項にとどめることにした。

 

 
目  次

第Ⅰ部 本編
 
第1章 国民の信頼回復に向けて
 
1.原子力開発利用を巡る動向
  (1)核燃料サイクル関連施策の動向
  (2)地球温暖化問題とCOP3
2.動燃問題と動燃改革
  (1)アスファルト固化処理施設火災爆発事故とその後の不適切な対応
  (2)動燃改革への取組
  (3)動燃改革への原子力委員会の対応
3.原子力開発利用に対する国民の不安と不信
  (1)国民の不安と不信の構造
  (2)国民の信頼回復に向けた取組
4.今、原子力政策に求められているもの
 
 
第2章 国内外の原子力開発利用の状況
 
1.動燃改革について
  (1)動燃改革の基本的方向
  (2)動燃改革の具体化に向けて
  (3)原子力基本法及び動燃事業団法の改正
2.地球温暖化問題と原子力
3.核不拡散へ向けての国際的信頼の確立
  (1)核兵器の不拡散に関する条約(NPT)の延長
  (2)保障措置
  (3)核物質防護措置
  (4)核燃料サイクル計画の透明性の向上
  (5)包括的核実験禁止条約(CTBT)
  (6)北朝鮮の核開発問題
  (7)原子力関連資機材の輸出に関するガイドライン
4.原子力安全確保
  (1)原子炉施設等の安全確保
  (2)原子力の安全研究
  (3)原子力施設等の安全性実証試験
  (4)環境放射能調査
5.情報公開と国民の理解の促進
  (1)政策決定過程への国民参加の促進
  (2)情報公開の推進
  (3)国民の理解の促進
6.原子力発電の展開
  (1)我が国の原子力発電の状況
  (2)原子力発電の将来見通しと原子力施設の立地の促進
  (3)世界の原子力発電の状況
7.軽水炉体系による原子力発電
  (1)軽水炉技術の向上
  (2)ウラン資源の確保と利用
  (3)ウラン濃縮と核燃料成型加工・再転換
  (4)諸外国のウラン濃縮の状況
8.核燃料サイクルの展開
  (1)使用済み燃料の再処理
  (2)MOX燃料利用
  (3)新型転換炉の研究開発
  (4)高速増殖炉の研究開発
  (5)先進的核燃料リサイクル
  (6)核燃料物質等の輸送
  (7)核燃料サイクルを巡る諸外国の動向
9.バックエンド対策
  (1)放射性廃棄物の処理処分対策
  (2)原子力施設の廃止措置対象
  (3)バックエンド対策をめぐる国際動向
10.原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
  (1)基礎研究・基礎技術開発
  (2)原子力利用分野の拡大に関する研究開発等の状況
  (3)放射線利用の現状と研究開発
  (4)核融合研究開発
11.原子力分野の国際協力
  (1)二国間原子力協力協定に基づく協力の推進
  (2)国際協力による研究開発の推進
  (3)近隣アジア諸国及び開発途上国との協力
  (4)原子力安全確保等に係る国際協力
  (5)核軍縮の実施等に係る協力
12.原子力開発利用の推進基盤
  (1)人材の養育と確保
  (2)資金
  (3)研究開発推進体制と研究基盤の高度化
13.原子力産業の展開
  (1)原子力機器供給産業
  (2)核燃料サイクル事業
  (3)RI・放射線機器産業
  (4)今後の展開
 
 
第Ⅱ部 資料編
 
1.原子力委員会、原子力安全委員会及び原子力関係行政組織
  (1)原子力委員会
  (2)原子力安全委員会
  (3)原子力関係行政組織
2.原子力委員会の決定等
  (1)原子力委員会決定一覧
  (2)主な原子力委員会決定・委員長談話
  (3)原子炉等規制法に係る諮問・答申について
3.原子力関係予算
  (1)1998年度原子力関係予算総表
  (2)1998年度原子力関係予算重要事項別総表
4.その他
  (1)我が国の原子力発電所の現状
  (2)我が国の原子力発電所の時間稼働率及び設備利用率
  (3)各国のエネルギー計画
  (4)各国の原子力発電所の設備利用率
  (5)我が国における核燃料物質保有量一覧表
  (6)原子力開発利用年表