特殊核物質の賃貸借に関する日本国政府と
アメリカ合衆国政府を代表して行動する合衆国
原子力委員会との間の第二次協定について


 本誌前号において、簡単な紹介を付してこの濃縮ウランの第二次細目取極の日英両国語による全文を掲載した。この細目取極は、第一次細目取極に似てはいるが、濃縮ウランがCP−5炉用であるため、同炉の特性に由来する第一次取極との差異が相当大きい。そこで、ここではこの協定の内容を詳述することはとりやめ、第一次取極との差異を指摘しつつ、その要点を記することとする。

1.CP−5炉用燃料の特殊性

 第一次細目取極は、Water Boiler 型炉用の濃縮ウラン2kg の賃借のためであった。この濃縮ウランは結晶体で、すでに東海村に到着しているが、この結晶を蒸溜水に溶解して軽水でかこまれた炉心に置くのである。そして一度炉の中へ入れると10年くらいは取り替える必要がないといわれている。これにひきかえ、CP−5型炉は非常に高性能の原子炉である関係もあり、これに使用する今次第二次細目取極の対象である濃縮ウラン4kg(取替のため必要となった超過量を認めることは第一次取極と同様)は、波型の金属板であり、かつ頻繁に取り替えることが必要である。第1条B項、第2条A項、交換公文1.において引渡および返還の「日程」という字句を用い、第1条B項では「引渡の日、引き渡される量および濃縮ウランの賃貸者への返還の日程について、・・・・・・合意する。」と定めているのはこの間の事情を十分に反映しているものと考えられる。

2.免責条項と濃縮ウランの分析検査

 免責条項は、今日では関係者の間ではさほど奇異には響かなくなったが、第一次取極に「・・・・・・・濃縮ウランの生産もしくは製造、所有、賃借または占有および使用から生ずる原因のいかんを問わない、すべての責任 (第三者に対する責任を含む。)について、・・・・・・」賃貸者の責任を免除するという主旨(第4条)が謳われたときは、ずいぶんどぎつい表現の規定だと感じたものである。、第二次取極では、燃料要素が再処理のため米側へ返還されてから後は、AECの責任だと規定したが、これは、「日本政府に引き渡された後」という表現ではAECへ返還された後の責任をも負うかのような意味に取られることに対し付した制限である。W.B.の場合は長期にわたって日本側で使用するが、CP−5の場合は燃料要素を頻繁にAECに返還するのでこの制限が必要となったものである。いずれにしてもこれほど完全な免責条項を置く以上、日本側としても濃縮ウランを受け取るまえに完全に検査できるような規定を設けるのが当然であるとの主張にもとづいて第一次取極に第2条B項および第3条(b)それから第一交換公文の3.が規定されたわけである。第二次取極の米側提案にはこの第三者による検査の条項が落してあり、「アメリカ政府としては第2条B項の規定で十分であり、第三者による分析の必要を認めていない。第三者といっても、現在の段階ではAECの施設(運営しているのは民間会社)しかないので、米政府がAECの施設による検査を第三者による検査とみなすことは不自然ですらある。日本側で希望されるならば、自己の負担で依頼されたらよろしかろう。」と説明した。しかし、日本側としてはAECから日本政府のcontractor(燃料メーカー)が受け取ったウランの濃縮度を変えないというだけでは満足でなく、結局できあがった濃縮ウランをも第三者の検査に付することを主張し、先方も同意したが、分析費用の日米折半には先方が応ぜず、これはわが方のみで負担することとなった。また第一次取極ではこの第三者による検査がウランを受け取るまえの当然の措置として規定されているけれども、第二次取極では前記の米側態度が反映して「賃借者が・・・・要請するときは、」とか「別段の合意をしない限り、次の機関(注 検査機関)のいずれかが決定することができる。(第2条C項)とか、調子の弱い表現で規定されている。

3. プルトニウムの再処理

 第一次取極においては、一年間に10グラム程度のプルトニウムができるに過ぎないので、交換公文において、これに対するクレジットは、日本側に支払わないことに了解した。しかしCP−5型ではW.B.型とことなり年間300グラムていどのプルトニウムができるので、その所有権の帰属については米側の主張を容れたけれども(第1条C項)これに対するクレジットを日本側として単純に放棄するわけにはいかない。そこで、CP−5炉の操作記録によって照射済燃料から回収可能のプルトニウムの量を決定するのであるが、ただここで複雑な操作を要する再処理の費用が問題である。プルトニウムの価格(米側がきめている燃料としての価額−第4条B項)ははっきりしているが、再処理してプルトニウムを抽出する価額が米国でもはっきりしていないから、後者が、前者よりも高くなるという数字的結果が出され(AECから日本側に対し再処理費用の総額見積りおよびその主要事項別細目を提示する−変換公文)日米双方協議して、再処理しないことに決めた場合はできたプルトニウムにクレジットは認められないこととした。(第4条A項(2)b)そしてその場合は貯蔵のため、または他の適当な処分のたにめAECに送るのである。(第3条)
 反対に回収されるプルトニウムの価格が再処理費よりも高く、再処理することに日米双方合意した時は、AECへ再処理のため送り、「適当な金銭的決済を行う」のである。(第3条)しかし再処理の時に、米民間で再処理を行うことができる施設がある場合には、AECが再処理を行わず、この民間の施設に再処理を依頼することとなっており、この場合は日本側で「自己の負担で」これ等の民間施設と契約を結ぶのである。
 なお、この協定は前号記載のように去る5月17日国会の承認を得たが、同月20日承認の通告が行われ、条約第6号として公布された。