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1-4 原子力分野の構造的特性を踏まえた安全性向上への対応

 東電福島第一原発事故後、原子力行政体制や規制基準の見直し、原子力関係事業者等の自主的な安全性向上に関する取組等が進められています。しかし、規制基準を満たせば事故が起きないという誤解を再び生まないためにも、国や原子力関係事業者等の原子力関連機関の関係者は常に緊張感を持って不断の安全性向上に取り組むとともに、従来の日本的組織や国民性の弱点を克服した安全文化を確立していくことが不可欠です。現在、原子力規制委員会における安全文化醸成の取組や、原子力事業者等における安全文化醸成の取組が進められています。


(1)安全神話からの脱却と安全文化の醸成

 IAEAでは、安全文化を「全てに優先して原子力施設等の安全と防護の問題が取り扱われ、その重要性に相応しい注意が確実に払われるようになっている組織、個人の備えるべき特性、及び態度が組み合わさったもの」としています [79]
 2015年のIAEAの東電福島第一原発事故に関する報告書「TheFukushimaDaiichiAccident」では、「原子力発電所の設計と実施されている安全対策は十分に頑強であるとの基本的な想定があった」、「この想定のために、組織とその人員が安全のレベルに疑問を提起しない傾向があり、安全上の改善が迅速に導入されない状況を生んだ」といった指摘が成されています [6]
 また、2016年にOECD/NEAが取りまとめた規制機関の安全文化に関する報告書において、安全文化に国民性が影響を及ぼすという指摘がある [45] ように、国民性は価値観や社会構造に組み込まれており、個人の仕事の仕方や組織の活動にも影響を及ぼすと考えられます。
 我が国においては、特有の思い込み(マインドセット)やグループシンク(集団思考や集団浅慮)、多数意見に合わせるよう暗黙のうちに強制される同調圧力、現状維持志向が強いことが課題の一つとして考えられます [1]
 国や原子力関係事業者等の原子力関連機関の関係者は常に緊張感を持ち、国民の方々や地方公共団体等のステークホルダーの声に耳を傾け、不断の安全性向上に取り組み、事故に至った構造的要因や組織の閉鎖性に起因する課題の分析を踏まえて、引き続き対応を徹底する必要があるとともに、従来の日本的組織や国民性の弱点を克服した安全文化の確立が不可欠です。      

@ 原子力規制委員会における取組
 原子力安全文化の醸成は、原子力関連機関の務めとしてIAEA安全基準文書において重要事項とされていることを踏まえ、原子力規制委員会は2015年5月に「原子力安全文化に関する宣言」を制定しました。同宣言では、1.安全の最優先、2.リスクの程度を考慮した意思決定、3.安全文化の浸透と維持向上、4.高度な専門性の保持と組織的な学習、5.コミュニケーションの充実、6.常に問いかける姿勢、7.厳格かつ慎重な判断と迅速な行動、8.核セキュリティとの調和の8つの行動指針が示されています [80]
 また、2016年に実施されたIAEAのIRRSレビューでは、規制行政のマネジメントシステムについて、安全文化に関する宣言に基づく、高いレベルの安全文化を維持・向上させるための具体的な取組の実施の必要性が指摘されたことから、「原子力規制委員会マネジメントシステムに関する改善ロードマップ」(2016年11月原子力規制委員会決定)に基づいた取組を進めています [81]
 また、IAEAのIRRSレビューにおいて「人的及び組織的要因を設計段階で体系的に考慮することの要求」を課題として提示されたこと等を踏まえ、安全文化及び原因分析に係るそれぞれのガイドの策定に向けて検討を進めています。この策定に当たって、IAEAが2016年に策定した、安全のためのリーダーシップとマネジメントに関する安全要件であるGSRPart2 [82] を踏まえて検討されています [83] 。      

@ 原子力事業者等における取組
 原子力発電所においては、原子炉等規制法と、民間規格である原子力安全のためのマネジメントシステム規定JEAC41112013に基づいて安全文化醸成の活動が行われています。また、原子力事業者等が自主的・継続的に安全性向上に取り組み、その時点での世界最高水準の安全性(エクセレンス)を追求していくために2012年に設立された自主規制組織である一般社団法人原子力安全推進協会(JANSI 43 )は、表1-7に示す安全文化の7原則を掲げ、原子力事業者等の間の安全文化の再構築を目指し、安全文化推進セミナー等の活動を行っています [84]
 また、中部電力(株)では、図1-18のような安全文化醸成活動を実施しています [85]
 また、関西電力(株)は、2004年の美浜発電所3号機の事故を契機として、トップのコミットメント、コミュニケーション、学習する組織を安全文化の3本柱に掲げ、それぞれについて以下のような活動を行っています [86] 。      

・トップのコミットメント
 社長による全事業所訪問と対話、役員層と発電所職員との対話により、現場の声の経営への吸い上げ
・コミュニケーション
 原子力事業本部長をはじめとする社員による、立地地域での各戸訪問や協力会社とのコミュニケーション
・学習する組織
 東電福島第一原発事故を踏まえ、世界原子力発電事業者協会(WANO 44 )や原子力発電運転協会(INPO 45 )への参画や諸外国の原子力事業者との情報交換協定の締結等による、世界の安全性向上活動に学び、改善する取組の推進


表 1-7 原子力安全推進協会の安全文化の7原則

@安全最優先の価値観

安全最優先の価値観が組織及び個人に認識されていること

Aトップのリーダーシップ

トップは安全のコミットメントを強いリーダーシップで明確にすること

B安全確保の仕組み

業務や活動に安全確保の仕組みが取り込まれていること

C円滑なコミュニケーション

組織内部・関係機関及び一般社会と円滑なコミュニケーションを保つこと

D問いかけ・学ぶ姿勢

組織及びそれを構成する個人は、問いかけ・学び・責任を持って是正する姿勢があること

Eリスクの認識

組織及びそれを構成する個人は、業務や設備の潜在的なリスクを認識すること

F活気のある職場環境

自由に発言できる、活気と創造力のある職場環境であること

(出典)原子力安全推進協会「JANSIの活動と安全文化」(2014年)


     

図 1-18 中部電力(株)における安全文化醸成活動の例

(出典)第1回規制に係る人的組織的要因に関する検討チーム会合 資料第1-6号 電気事業連合会「安全文化に係るガイドの基本的な考え方に対する事業者意見について」(2017年)



  1. Japan Nuclear Safety Institute
  2. World Association of Nuclear Operators
  3. Institute of Nuclear Power Operations

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