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1-3 過酷事故の発生防止とその影響低減に関する取組

 国民の安全を確保する上で、多量の放射性物質が環境中に放出される事態を招くおそれのある過酷事故の発生を防止すること及び、万が一発生してしまった場合の影響を低減することは非常に重要です。現在、原子力事業者等は、新規制基準を踏まえた過酷事故対策を講じるとともに、国や研究開発機関を含む原子力関係機関は、過酷事故に対する理解を深め、更なる安全対策に活かすための研究開発を進めています。


(1)過酷事故対策

 原子力発電所は安全確保の観点から、巨大な地震等の異常を検知した場合には直ちに全ての制御棒を挿入し、原子炉を自動的に「止める」設計になっています。さらに、万が一事故に発展した場合でもその影響を緩和するため、燃料を冷却し(「冷やす」)、格納容器や原子炉建屋の中に放射性物質を「閉じ込める」設計になっています。このような安全対策を深層防護の考え方(深層防護の考え方については、図1-12を参照)に基づき何重にも講じることで原子力発電所の安全を確保しています。
 事故の教訓を踏まえ、原子力事業者等は、過酷事故の発生を防止するための対策や、万が一事故が発生した場合でも事故の影響を低減するための対策を新たに講じています(図1-15、図1-16)。津波への対策としては、発電所敷地内への津波の浸入を防ぐための防潮堤を設置するとともに、防潮堤を超える高さの津波によって敷地内が浸水した場合でも建物内の重要な機器やエリアの浸水を防止するための防潮壁、水密扉を設置しています。      


     

図 1-15 東京電力柏崎刈羽原子力発電所の防潮堤、防潮壁・防潮板

(出典)東京電力「津波による浸水防止」 28


     

図 1-16 過酷事故の影響を低減するための対策例

(出典)東京電力「柏崎刈羽原子力発電所における福島第一原子力発電所事故の教訓をふまえた対策に ついて」(2016年5月) [75]


 また、大規模な地震による送電鉄塔の倒壊や津波による発電所内非常用電源の浸水を想定し、敷地内の高台に配備された発電機車や電源車から発電所に電源を供給する等、電源設備の多重化・多様化も行っています。さらに、全ての電源が失われた場合でも原子炉や使用済燃料プールを冷却し続けるための多様な注水設備や手段を確保しており、非常時には発電所の外から予備タンクや貯水池、海水を水源としたポンプ車による発電所内への注水を行うことができます。
 さらに、炉心を冷却し続けることができず、燃料が損傷に至った場合を想定した対策も講じられています。格納容器や原子炉建屋内での水 素爆発を防止するための対策として、水素と酸 素を結合させて水蒸気にする静的触媒式水素再 結合装置や、短時間のうちに多量に発生した水 素を計画的に燃焼し除去する電気式水素燃焼装 置を設置しています。また、格納容器内の気体 を排出し圧力を下げることで格納容器の過圧に よる破損を防止するフィルタベント設備を設置 しています。気体に含まれる放射性物質はフィ ルタで除去されるため、周辺環境の土壌汚染は 大幅に抑制されます。さらに、原子炉建屋や格 納容器が破損した場合でも、屋外に配備した放 水設備から破損箇所に向けて大量の水を放出す ることで放射性物質の大気への拡散を抑制しま す。発電所敷地内には、このような対策の実行 に必要となる人や車両の通路を確保するため、 地震や津波によって散乱した瓦礫等を撤去する ための重機も配備しています。      


コラム 〜過酷事故に関する欧米における取組について〜

 米国や欧州では、スリー・マイル・アイランド(TMI 29 )事故以降、継続して過酷事故に関する研究に取り組んできました。例えば、NRCが主導する過酷事故研究共同プログラム(CSARP 30 )や欧州委員会の第2、第3世代原子炉に関する研究開発プログラム(NUGENIA 31 )が挙げられます。これらのプログラムでは、研究開発機関や大学、原子力事業者等の原子力関連機関が連携や協働し、科学的知見や知識の収集・体系化・共有により知識基盤を構築する取組を推進しています。

<取組事例>
米国原子力規制委員会(NRC) 欧州

概要

●NRCが主導して、25か国以上が参加する国際プログラム『過酷事故研究共同プログラム(CSARP:Cooperative Severe Accident Research Program)』を1988年より実施。

●欧州委員会のフレームワーク6及び7において、『過酷事故研究ネットワーク(SARNET:Severe Accident Research Network)』を実施し、欧州や米国等の21か国から研究機関・大学・原子力事業者等が参加。
●現在は、NUGENIA(※)に引き継がれている。

具体的な取組

●過酷事故の現象解明研究やコードの開発・改良等を実施。また、開発したコードを用いて、事故等の放射性物質挙動などオフサイトへの影響評価を実施。
●メンバー間でのデータや知見を共有。

●各機関に散在する研究成果や知見を収集して体系化。例えば、研究成果のデータベース化や標準コードの作成。
●「溶融した燃料とコンクリートが反応した時の炉外溶融プールの性状及びコリウムの冷却」など優先度の高い6つの課題について共同研究を実施。

知識の普及

●CSARPをはじめとしたNRCが主導する研究プログラムや国立研究所が蓄積した、過酷事故に関するデータ・研究成果等を基に体系化。技術ガイダンスやマネジメントガイド、研究資料を作成。

●SARNETで得られた知見を普及させるために、学生や若手研究者等を対象にした一流の研究者ぬよる研修。教育プログラム等を実施。また、教科書を出版。

     

※NUGENIA:欧州を中とした政府、企業、研究開発機関、大学の103のメンバーが参加する枠組み

(出典)第25回原子力委員会資料 第1-3号 原子力委員会「原子力利用に関する基本的考え方 参考資料」(2017年) [76] に基づき作成

 東電福島第一原発事故後、IAEAは、事故から得られた知見や経験を集約し、「過酷事故マネジメントガイドライン開発ツール(SAMG-D 32 )」を公開しました [77] 。SAMG-Dは、原子力事業者等の関係者が、事故時における発電所の状況や事故時に取るべき行動を理解し、過酷事故時の影響を緩和するための対応手順を手順書として整備することを支援するための教育訓練ツールです。

 また、OECD/NEAでは、我が国を含めた各国の関係機関が参加し、以下のようなプロジェクトが進行中です。

●東電福島第一原発事故のベンチマーク研究(BSAF 33 )プロジェクト東電福島第一原発事故時の挙動データと各種の過酷事故進展解析コードの比較・検証を行っています。フェーズ1は13種類の過酷事故進展解析コードを用いて、事故後6日間の原子炉容器内の状況の解析を行い、予測精度向上のための課題が抽出されました。フェーズ2が2015年から始まり、フェーズ1の結果を踏まえ事故後3週間までの解析を行い、燃料デブリの位置等の評価を行っています。また、廃炉・汚染水対策の進捗状況の発信や、解析に必要な事故時のプラントデータを共有するための、ウェブサイトも設置されています。

●東電福島第一原発事故後の安全研究の可能性に関する上級タスクグループ(SAREF 34 )東電福島第一原発事故に関連する安全研究の知識ギャップを埋めるための研究課題の抽出・推進と安全な廃止措置作業を支援するために、上級専門家グループでプロジェクトを提案する取組を行いました。2016年には報告書を公表し、長期的検討課題、短期プロジェクトを特定しました。

●福島第一原子力発電所の事故進展シナリオ評価に基づく燃料デブリと核分裂生成物(FP 35 )の熱力学特性の解明に係る協力プロジェクト(TCOFFプロジェクト 36 )2017年6月にプロジェクトを立ち上げ、燃料デブリや核分裂生成物等の化学反応に関する基礎データを収集し、燃料デブリや事故進展挙動の解析に適した熱力学データベースの整備に取り組んでいます。燃料デブリの取り出しだけでなく、既存解析コードの精度向上といった成果も期待されています。

 このほかにOECD/NEAでは、事故の分析・対応に関するワーキンググループ(WGAMA 37 )を中心に、参加各国によってまとめられた過酷事故に関する最新知見を報告書として公開しています。


(2)過酷事故に関する原子力安全研究

@ 原子力規制委員会における安全研究
 原子力規制委員会は、過酷事故研究を通じて、新規制基準に基づき原子力事業者等が策定した過酷事故対策の妥当性を審査する際に必要となる技術的知見や評価手法を整備し、関連する規格基準類に反映しています。  過酷事故時に発生する物理化学現象の中には、予測や評価に大きな不確実性を伴う現象が存在します。原子力規制委員会は、これらの重要な現象を解明し、最新の知見を拡充するための研究に取り組んでいます。特に、気体に含まれる粒子状の放射性物質が水中に捕獲される(プールスクラビング)効果、過酷事故時の格納容器内における水素等の気体の成層化やスプレイによる攪拌挙動(図1-17)、燃料から放出されたヨウ素やセシウム等の化学的な形態や移行挙動、格納容器内に落下した溶融炉心がコンクリートを侵食する溶融炉心・コンクリート反応(MCCI 38 )、溶融炉心の冷却性等について、関係機関と協力し、国内外の施設を用いた実験を行っています。実験で得られた知見は、過酷事故時の安全性を評価するための解析コードの開発や精度向上、確率論的リスク評価(PRA 39 )手法の高度化に活用しています。また、OECD/NEAが行うBSAF等の国際共同プロジェクトに参加し、国内外の専門家から最新の情報を収集しています。なお、原子力機構は、原子力規制委員会によるこれらの実験や研究の一部を実施しており、科学的・合理的な規制の構築に貢献しています。      


     

図 1-17 大型格納容器実験装置による熱流動実験の概要

(出典)原子力規制委員会「平成29年度安全研究計画」(2018年) [78]


A 経済産業省における安全研究
 経済産業省は、「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」の中で優先度が高いとされた課題の解決に向けた技術開発を支援しています。過酷事故が発生した場合でも事故対応のための猶予期間を確保するため、過酷事故条件下でも損傷しにくい新型燃料部材の開発に取り組んでいます。また、原子力発電所の包括的なリスク評価手法の高度化のため、地震や津波を対象とした確率論的リスク評価(PRA)手法の高度化にも取り組んでいます。      

B 文部科学省における安全研究
 文部科学省は、原子力機構が所有する研究施設を活用し、過酷事故を回避するために必要となる安全評価用データの取得や安全評価手法の整備に取り組んでいます。原子炉安全性研究炉(NSRR)では、試験燃料棒が破損する様子を観察することで、燃料破損メカニズムを解明し、過酷事故への進展防止等の検討に必要な知見を取得しています。      

C 原子力機構における安全研究
 原子力機構では、安全研究センター、原子力基礎工学研究センター、廃炉国際共同研究センター(CLADS 40 )が過酷事故研究に取り組んでいます。安全研究センターは、主には、原子力規制委員会への技術的支援や解析・実験・計測技術に係る研究を行っており、過酷事故の防止や影響緩和に関する評価、放射性物質の環境への放出とその影響に関する研究について重点的に取り組んでいます。原子力基礎工学研究センターは、原子力利用を支える様々な要素技術の基礎・基盤的な研究の一環として、原子炉内の3次元熱流動評価手法や放射性物質の化学挙動評価手法の開発に取り組んでいます。また、廃炉国際共同研究センターは、東電福島第一原発の廃炉に向けた研究の一環として、事故進展解析による炉内状況の把握、燃料の破損・溶融挙動の解明、溶融炉心・コンクリート反応による生成物の特性把握、セシウム等の放射性物質の化学挙動に関する知見の取得に取り組んでいます。これらの成果の一部は、現行の過酷事故用解析コードの高度化や事故対策の高度化等、将来の安全研究に役立てることとなっています。      

D 電力中央研究所における安全研究
 一般財団法人電力中央研究所の原子力リスク研究センター(NRRC 41 )は、原子力事業者等の安全性向上に向けた取組を支援するため、PRA手法に関する研究を実施しています。過酷事故状況下における運転員による機器操作等の信頼性評価や過酷事故時に放出される放射性物質による公衆や環境への影響の評価に関する技術開発に取り組んでいます。また、地震、津波、竜巻、火山噴火等の外部事象に対する原子力施設のフラジリティ(地震動強さに対する機器、建物・構築物等の損傷確率)評価手法の開発も進めています。      

コラム 〜過酷事故・防災プラットフォーム〜

 国会事故調で指摘されているとおり、東電福島第一原発事故前は、過酷事故対策について十分な検討が行われないまま、事業者の自主的な取組に位置付けられてきました。海外では、TMI、チェルノブイリ事故以降、原子力の安全向上への取組がなされ、過酷事故の理解を進める基盤が形成され、人材育成も進められていました。米国ではNRCが体系的な安全研究を推進し、欧州でも過酷事故研究が精力的に進められ、過酷事故研究ネットワーク(SARNET)ではセミナーの開催、研究成果の体系化等が進められてきました。一方、日本では過酷事故が発生する可能性は低いとして、2000年代に研究活動も下火となり、過酷事故に関する知見や知識を収集・体系化・共有(知識基盤)し、利用できる状況ではありませんでした。
 原子力委員会は、「国、日本原子力研究開発機構を中心とした研究開発機関及び原子力関係事業者は、明確な役割分担と連携の下、東電福島原発事故の知見等を活かしつつ、過酷事故の現象とその影響、低減策の俯瞰的・体系的な検討と理解を進め、将来起こり得ると考えられる様々な事態に対する理解力と対応力を涵養していくべきである」と原子力関連機関が連携や協働することの必要性を指摘しました。
 これを踏まえ、原子力機構を幹事機関として、「過酷事故・防災プラットフォーム」が発足しました。プラットフォームでは、国内外の最新知見を収集・共有し、報告書・解説・研修資料等として公開する等の活動が予定されています。このような関係者による共同作業や情報交換を通じて、人材育成の促進、ニーズ対応型の研究開発の創出・促進、情報公開を通じた国民理解の促進、知識基盤の構築・強化、根拠情報の明示・俯瞰(詳細は第5章5-2「科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づく情報体系の整備」に記載しています)といった成果が期待されています。

                                 
[参加機関]

電力事業者メーカー

電気事業連合会 原子力部

一般社団法人日本電機工業会 原子力部

東芝エネルギーシステムズ(株)

日立GEニュークリア・エナジー(株)

三菱工業(株)

研究機関

一般財団法人日本エネルギー総合工学研究所

一般財団法人電力中央研究所
・原子力リスク研究センター
・原子力技術研究所

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
・原子力基礎工学研究センター
・廃炉国際共同研究センター
・福島環境安全センター

・安全研究センター(規制支援TSO 42 として)




  1. https://www4.tepco.co.jp/kk-np/safety/tsunami/index-j.html
  2. Three Mile Island
  3. Cooperative Severe Accident Research Program
  4. Nuclear GENeration U & V Association
  5. Severe Accident Management Guideline Development tool
  6. Benchmark Study of the Accident at the Fukushima daiichi nuclear power station
  7. Safety Research Opportunities post-Fukushima
  8. Fission Product
  9. Thermodynamic Characterisation of Fuel Debris and Fission Products Based on Scenario Analysis of Severe Accident Progression at Fukushima-Daiichi Nuclear Power Station
  10. Working Group on the Analysis and Management of Accidents
  11. Molten Core Concrete Interaction
  12. Probabilistic Risk Assessment
  13. Collaborative Laboratories for Advanced Decommissioning Science
  14. Nuclear Risk Research Center
  15. Technical Support (or Safety) Organization
  16. Fission Product
  17. Fission Product

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