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原子力委員会高速増殖炉開発計画専門部会報告書 平成6年6月28日
原子力委員会
高速増殖炉開発計画専門部会
はじめに これまで我が国では、昭和62年6月に決定された「原子力開発利用長期計画」等に基づいて高速増殖炉の開発が着実に進められてきた。昭和60年に本格着工された原型炉「もんじゅ」は平成3年4月に機器据付けを完了、平成5年10月より臨界に向けて炉心燃料を装荷し性能試験を経て、平成6年4月5日初臨界を達成した。この原型炉に続く実証炉1号炉は平成5年9月に概念設計研究が終了し、基本仕様が固まったところである。また、関連する燃料サイクル技術の研究開発についてもリサイクル機器試験施設(RETF)の建設が具体化するなど着実な進展が見られている。昭和62年に長期計画が策定されて以来7年が経過し、この間、我が国の原子力開発利用は核燃料サイクル事業を含めて着実に進展しており、今後の展開についてさらに明確にすべき時期にきている。一方、地球環境問題に対する意識の向上、東西冷戦の終了、核兵器の拡散に対する懸念の高まり等原子力開発利用をめぐる国際情勢は全地球規模で大きく変動している。このような内外の環境変化を踏まえ、原子力委員会は「原子力開発利用長期計画」の改定を行った。 本専門部会は、高速増殖炉開発の長期的な進め方、研究開発の進め方及び実証炉の基本仕様等について審議する目的で昭和61年6月に設置され、昭和63年8月には報告書「高速増殖炉研究開発の進め方」をとりまとめるなど、高速増殖炉関連研究開発や実証炉設計研究の進捗状況等について審議してきたところである。 本専門部会は、実証炉計画の具体化に重点を置きながら、実証炉の基本仕様及び今後の研究開発等関連する事項について政策的、技術的な評価検討を行うとともに、長期的展望に立って高速増殖炉とその燃料サイクルについて着実に研究開発を推進するための方策を示すこととし、より専門的事項については必要に応じ、基礎調査分科会を設置して審議を行ってきたところである。さらには原子力利用を取り巻く最近の状況や実証炉計画の具体化等これまでの研究開発の進展、今般取りまとめられた新しい長期計画のとりまとめが円滑に行われるよう運営に配慮しながら、審議結果をとりまとめたものである。 1.基本的考え方 (1)開発の必要性と意義高速増殖炉は、発電しながら消費した以上の核燃料を生成できる画期的な原子炉であり、ウラン資源の有効利用の観点から将来の原子力発電の主流とすべく欧米各国において1940年代より積極的に開発が進められてきた。 エネルギー資源に乏しい我が国においてもその重要性が強く認識され、1960年代後半より国の重要プロジェクトとしてその研究開発を開始し、以来30年近くにわたり欧米各国と協力しつつ積極的に研究開発を展開し、実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」の建設・運転等着実なステップを踏みながら自主技術を蓄積し、現在は、その成果を踏まえ、実証炉の建設計画を具体化する段階を迎えている。 昨今、欧米各国においては、高速増殖炉が長期的には必要になるとの認識に変化はないものの、石油やウラン資源の需給緩和、それぞれの国の財政事情など種々の事由によりその開発を一時的にスローダウンしたり、計画そのものを中止している状況が見られる一方、ロシアのように高速増殖炉の開発を従来どおり堅持するとしている国もあり、また、仏国のように環境負荷の一層の軽減の観点からプルトニウム以外のアクチニド元素(以下、「マイナーアクチニド」という。)の燃焼の可能性の追求もスコープに入れて高速増殖炉開発の目的の幅を広げようとしている国もあり、その開発の状況は国によって多様化してきている。なお、仏国の実証炉スーパーフェニックスについては1990年以来停止していたが、運転再開に向けての準備が順調に進んでおり、プルトニウム及び長寿命放射性廃棄物の燃焼に関する研究にも活用することを目的として、1994年夏にも運転再開の見通しである。 我が国においても、先般の海外からの返還プルトニウム輸送等を契機に、このような状況を背景にして、我が国の高速増殖炉開発、プルトニウム利用の意義や安全性、経済性、核不拡散等について高い関心を呼んだところである。一方、軽水炉はウラン資源の0.7%しかないウラン235を主な燃料としており、基本的には他の化石燃料と同様その資源制約性を免れることはできないが、当面のウラン需給の緩和やその技術の高度化を背景に高い経済性を有するに至るとともに、電力の安定供給、我が国の脆弱なエネルギーセキュリティの向上に大きな役割を果たしてきており、この役割は来世紀も相当期間続くものと考えられる。 このような状況の下で、高速増殖炉が実用化され、我が国の原子力発電体系のなかで軽水炉と並んで主要な役割を果たしていくためには、軽水炉と競合しうる経済性を有するとともに、より一層核不拡散性の向上に配慮した技術体系としてその確立を目指して行くことが重要である。そのためには、長期的視野にたって、燃料サイクル分野の技術開発との整合性をとりながらその開発を着実に進めることが重要である。さらに、上記のような諸情勢にも十分配慮しつつ、社会の様々な要請に応えうるより高度な技術体系の確立を目指していくことが重要であり、マイナーアクチニドの有効利用の可能性も追求するなど、幅広い技術的可能性にも視野を広げながら、柔軟性を持って開発を進めていくことが必要である。また、これを通じて世界的なエネルギー問題の国際的取り組みに、原子力平和利用理念を有する国として寄与していくことが重要である。 これらの観点を踏まえつつ我が国が高速増殖炉開発を進める必要性及び意義を改めて整理すると以下のようになる。 第一に、(核燃料資源の有効利用とエネルギーセキュリティの確保) 原子力は、核燃料のリサイクルを行わない限り、化石燃料と同様に資源の有限性からくる将来的な供給不安を内在する。高速増殖炉による核燃料リサイクルが実現できれば、核燃料資源の利用効率が飛躍的に向上し、核燃料の資源問題が抜本的に解決されることになり、原子力を準国産エネルギーとして長期的に安定なエネルギー源として、我が国のエネルギーセキュリティの向上に資することができる。いいかえれば、ウラン資源の利用効率の飛躍的な向上が高速増殖炉開発の第一の目的であり、これにより高速増殖炉は相当期間にわたる軽水炉との併用期間を経て将来の原子力利用の中核となるものである。 原子力は、化石エネルギーと異なり、原子炉及びそれに応じた燃料サイクルという高度な技術と設備を、安全かつ経済的に整合性のとれたシステムとして構築しつつ利用すべき技術エネルギーである。このシステムではウランを核燃料とすることにより必然的に炉内でプルトニウムが生成され、そのプルトニウムは、ウランとともに燃焼しエネルギー生産に寄与しているが、なお使用済燃料中に残存している。このことは、現在すでに実用段階にある軽水炉においても例外ではない。したがって、ウランを利用して原子力発電を進めていく場合、核燃料資源の有効利用を図っていくためには、このプルトニウムの効果的な利用方策を確立することは必須の課題である。 プルトニウムの利用については、軽水炉での利用も可能であり、資源として積極的にその利用を進めることは重要である。しかしながら、軽水炉のみのリサイクル体系ではその特性上リサイクルの回数が限られるため、その有効利用には限界がある。これに対して、高速増殖炉は消費した以上の核燃料を生成できるばかりでなく、リサイクルを繰り返すことが可能であるという優れた特性を有するため、核燃料リサイクルによるウランの利用形態として最も適切なものであり、高速増殖炉を中核とする核燃料サイクルの確立によって、プルトニウムの適切な利用技術、ウラン資源の有効利用、廃棄物管理の適正化等、原子力利用体系全体を完結することができる。 第二に、(リサイクルによる資源と環境の保護) 近年、地球環境の保全、生活環境の質の向上、より効率的な経済社会の運営等の必要性が強く求められており、自然から得た資源を効率よく利用し、環境への廃棄物の排出をできる限り少なくすることが持続可能な人間社会の実現を図る観点から重要とされ、資源を可能な限りリサイクル利用することが社会的に強く要請されてきている。 原子力発電を行うことによって発生する使用済燃料には、未利用の大部分のウランや核反応により生成したプルトニウム等のアクチニドと核分裂生成物等が含まれる。この使用済燃料は、そのまま放射性廃棄物として処分できるとしている国もあるが、ここでリサイクルにより資源の利用効率を高めれば、それに応じてウラン採掘量の減少が可能になるばかりでなく、放射性廃棄物に含まれる放射能量の低減により放射性廃棄物管理を適切なものにすることができる。 特に高速増殖炉による核燃料リサイクル体系を確立すれば、ウラン採掘に伴い生じる環境変化を最小限にとどめることができるのみならず、ウラン資源の有限性からくる制約から解放されるため、地球温暖化や酸性雨の原因とされる二酸化炭素やNOx、SOx等の大気汚染物質を排出しないシステムである原子力発電の利点を継続的に長期にわたって活用することが可能となる。さらに、高速増殖炉は、プルトニウムのほかマイナーアクチニドをも燃料として利用し得る可能性を有しており、廃棄物の放射能と発熱量の持続性を支配するこれらの物質をリサイクルすることで、放射性廃棄物管理をより一層適切なものとすることができる。 このように放射性廃棄物の管理をより適切なものとし、資源と環境の保護に大きな意義を有する環境調和性のより高い原子力システムとして高速増殖炉を中核とした核燃料リサイクルヘの期待は大きい。 第三に、(地球的規模でのエネルギー・環境問題等の国際的課題への取り組みへの寄与) 高速増殖炉技術の開発は、相当規模の原子力発電の実績を有する国で、さらに非常に高度な科学技術及びかなりの経済的基盤を必要とし、これを実行できる国は限定される。資源に乏しくエネルギー多消費国でもある我が国が、これまでの蓄積を活かしてこの準国産ともいえる技術エネルギーを開発利用して化石エネルギーへの依存を極力低減していく努力を続けることは、世界全体のエネルギー需給の安定化や地球環境への二酸化炭素の排出を極力増加させないエネルギーシステムを長期的に構築するという国際的課題に先進的に取り組み寄与していくことであり、極めて重要なことである。 さらには、原子力技術は広範な科学領域に立脚し、材料やコンピュータ等各種の先端技術と極限技術を中心に総合化する巨大なシステム技術としての特質を有している。このように高速増殖炉技術は幅広くかつ高度な技術や知識の集大成の上に成立するものであり、高速増殖炉技術体系の確立のための研究開発の推進は、エネルギー技術のみならず広範な科学技術の水準向上に大きく貢献するものと考えられる。 一方、高速増殖炉の燃料であるプルトニウムは核不拡散上機微な物質であることから、人類がこれを利用していくには、核拡散防止上の観点から十分な配慮が必要である。我が国は、資源に乏しく、省エネルギーの推進と新エネルギーの開発等の努力を行っているものの、多量のエネルギーを消費しており、また、唯一の被爆国でもある。その我が国が、世界全体で原子力技術の恩恵を長期にわたって平和的に享受していけるよう、核不拡散と原子力平和利用が制度的にも技術的にも両立しうるプルトニウム平和利用システムの確立を目指して開発努力を傾注することが重要である。 (2)安全性と経済性 原子力開発の目指すところは、安全性、信頼性、経済性に優れた実用的な技術を確立することにある。高速増殖炉においても、この目標に沿って着実な開発努力を続けているところであり、その状況を示せば以下のとおりである。 (技術的基盤と安全性) 我が国においては、高速増殖炉の開発を行うに当たり、ナトリウムを冷却材に選定し、動力炉・核燃料開発事業団が大洗工学センターにナトリウム関連の各種試験装置等を整備し、海外先進国の情報・成果も積極的に取り入れつつ、安全性試験、蒸気発生器等の大型機器の開発等について基礎的研究から実証的規模の試験に至るまで、広範な研究開発を進めてきており、特にナトリウム施設の運転についてはすでに20年以上の実績を有している。 また、高速中性子を用いる高速増殖炉の炉の特性については、日本原子力研究所の高速臨界実験装置(FCA)や海外の実験炉、試験装置を用いた基礎的、実験的研究開発及び実験炉の設計等を通じて、炉心・燃料設計、動特性の評価等の手法の確立と検証を行ってきている。 実験炉「常陽」は、我が国初の高速増殖炉として建設され、1977年4月に臨界を達成し、現在まで15年余にわたり安全に運転されてきており、高速増殖炉開発のための燃料、材料等の照射炉として数々の実験、試験に供されてきている。 さらにこの実験炉の実績や海外の経験を踏まえて、これに続く電気出力28万kWの原型炉「もんじゅ」を建設し、1994年4月に初臨界を達成するなど、これまで順調にその開発を進めてきている。その安全性に関しては、このような技術蓄積に基づくナトリウム冷却高速増殖炉の特徴を踏まえた安全設計を施し、実用炉と同様の国の安全審査を行い、確認している。 このような安全確保等に係る技術的蓄積を踏まえれば、我が国には実証炉を開発する技術的基盤が十分確立されているものといえる。 (経済性) 昨今、内外において指摘されている高速増殖炉の経済性についていえば、原型炉「もんじゅ」が初臨界を達成したばかりの現段階で、導入後20年以上にわたり数十基もの建設機会を通じて、改良を積み重ねてきた軽水炉と単純に比較することは適切でない。本来、高速増殖炉は、軽水炉と比較してウランの利用効率が高く数倍の燃焼度が期待できるため、ウラン価格の変動による影響が少なく、ウラン価格の上昇に伴い燃料サイクルコストの面での優位性が向上するという燃料サイクル面からの特長や、熱効率が高く、低圧構造であることなどの原子炉としての有利性を有している。これらの特長を踏まえて、動力炉・核燃料開発事業団と電気事業者が行った検討などに基づくと、今後、実用化に向けて、さらに技術開発を実施しつつ複数の高速増殖炉の建設機会を通じて革新技術を取り入れることによって、軽水炉と経済的に競合し得る高速増殖炉の技術体系の構築が十分可能であることが確認されており、今後革新技術の開発を着実に進めることによってその取り入れは可能との見通しが得られている。 (3)国際協力と核不拡散への取り組み ①国際協力 これまで我が国は、高速増殖炉及びその燃料サイクルの開発においては、先行して開発が進められてきた欧米先進諸国の優れた試験施設での試験研究に参加する等の形で国際協力を展開してきたところであり、これらの成果は我が国の高速増殖炉技術基盤の確立に寄与し、実験炉、原型炉の開発に役立ってきたところである。世界共通の公共財的性格を有する高速増殖炉及びそれによる核燃料リサイクル技術の実用化を目指す観点からは、多国間協力は引き続き重要な役割を果たすものであり、具体的なプロジェクトを推進する我が国が、今後はより積極的に国際共同研究を働きかけるなど、主導的に国際協力を進めることが重要である。 このような観点から、現在まで進めてきた先進諸国との間の二国間協力及び多国間協力が我が国の高速増殖炉開発に果たしてきた意義も踏まえ、今後とも、高速増殖炉開発に実績を有する各国との協力、交流を積極的に進めていくとともに、原型炉を運転する数少ない国として、世界各国の賛同と理解を得つつ、高速増殖炉開発を主導する重要な中核的拠点の一つとしての国際的な役割を積極的に果たしていくことが重要である。このため、実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」等の国際的活用を図るべく先進諸国の優れた研究者の参画を求めつつ開かれた体制の下で主体的に国際的なプロジェクトを提案し実施していくこととし、これに必要な試験施設の整備を検討する必要がある。このことにより欧米にこれまで蓄積された人材・知見を有効に維持・活用できるのみならず、我が国の高速増殖炉開発への理解増進、透明性の向上にも資するものと考えられる。 ②核不拡散への取り組み プルトニウムは核不拡散の観点から機微な物質とされているため、我が国のような非核兵器国における平和利用を目的としたものであっても、それが国際的な議論を呼ぶことがある。特に、1992年度に行われた海外からの返還プルトニウム輸送は、世界的に大きな反響を呼んだところである。さらに解体核兵器の取扱、第三国の核兵器開発に対する疑念等核拡散に対する関心が高まっている。 もとより、我が国が高速増殖炉を中核とする核燃料リサイクル技術の研究開発を推進するに当たっては、プルトニウムを核燃料として原子炉内で積極的に燃焼し利用していくことが核不拡散上も有効であることも念頭におきつつ、核不拡散の観点から国際的に一層信頼性が高いシステムの確立に向けて最大限の努力を払うことが不可欠である。したがって、今後ともプルトニウムの管理を厳格に行うことはもとより、計画遂行に必要な量以上のプルトニウムを持たない、すなわち余剰のプルトニウムを持たないことを原則とし、適切な利用計画を明確にして、その透明性に十分留意しつつ、着実に推進することとする。 また、核不拡散を担保する上で重要な国際原子力機関(IAEA)が行う保障措置の我が国施設への適用に当たっては、今後とも誠実に対応していくものとする。なお、保障措置の目標達成に有効な技術開発については引き続き積極的に協力していく。 さらに、我が国における高速増殖炉による核燃料リサイクルの国際的な透明性を高める努力をする一方で、経済合理性に配慮しながら、技術的に核不拡散への配慮をより明確にし易い核燃料リサイクル技術の開発を積極的に進めていくことも重要である。 (4)開発を進めるに当たっての基本的考え方 我が国は、高速増殖炉の開発を今後とも国家的プロジェクトとして官民協力の下、研究開発の進展状況やプルトニウム需給事情、国際情勢等に柔軟に対応しつつ、透明性を高め内外の理解を得ながら以下のような基本的考え方の下に着実に進めることとする。 (長期的観点からエネルギー選択肢としての高速増殖炉技術体系の確立のための研究開発の実施) ①ウランの利用効率で圧倒的に優れ、プルトニウムを燃焼したり増殖することが可能である等の特長を有する高速増殖炉は、軽水炉を含めた我が国全体の核燃料リサイクル体系の中で中核として位置付けられるもので、現在実用化している軽水炉との相当期間にわたる併用期間を経て将来の原子力発電の主流とすることを基本に、我が国の将来のエネルギー供給の中核的役割を果たすとの観点から、技術体系の確立を目指して、研究開発を実施する。 ②実証炉や燃料サイクル技術の今後の開発の見通しから、2030年頃までには実用化が可能となるよう技術体系の確立を目指すこととする。このことは、原子力発電プラントのライフサイクルを考慮すると、現在緩和基調にあるウラン需給が逼迫するのは来世紀半ば頃との見込みもあるが、それより相当以前までに高速増殖炉技術体系を確立しておく必要がある観点からも重要である。 (炉と燃料サイクルのトータルシステムとしての開発) ③高速増殖炉技術体系の確立に向けては、炉と燃料サイクルとを整合性のとれたトータルシステムとしてその開発を進める。 (経済性の向上、核不拡散性向上への努力) ④今後の開発に当たっては、革新技術の開発導入を進め、軽水炉と競合し得る経済性を達成するとともに、技術的にも制度的にもより核不拡散性に一層配慮した高速増殖炉技術体系の確立を目指す。 (明確な目標の中で柔軟性ある開発姿勢) ⑤我が国の高速増殖炉開発はなお長期にわたる研究開発が必要であり、明確な長期的開発目標に向かって実証炉開発や再処理技術等の開発を段階的かつ着実に進めていく。 ⑥余剰のプルトニウムは持たないという我が国のプルトニウム利用の原則の下、今後の高速増殖炉の開発計画(実証炉等)は柔軟性を持たせつつも可能な限り明確にしておくこととし、それを通じて開発段階におけるプルトニウムの利用計画の透明性を高める。 (実証炉と研究開発は両輪) ⑦電気事業者が主体となって進める実証炉開発と動力炉・核燃料開発事業団の進める高速増殖炉固有技術の研究開発とを両輪として開発を進める。 (アクチニドリサイクルも含めた幅を広げた高速増殖炉開発) ⑧高速増殖炉は、核燃料の増殖のみならず、長寿命のアクチニド元素を効率よく燃焼し得る炉でもあり、リサイクルによる核燃料の有効利用とともに、高レベル放射性廃棄物の処理処分をより適正化し得る可能性を有していることから、核不拡散性の向上にも資する可能性を有する新型燃料サイクル技術やアクチニドリサイクル技術の追求も含め、高速増殖炉技術開発の幅を広げながら、経済性向上に配慮しつつ着実に進める。 (核燃料の増殖性についての考え方) ⑨今後の実証炉等の開発については、発電プラントとしての信頼性や核燃料の増殖性を含む技術基盤の確立を目標とした開発のステップとして重要なものである。また、このような開発段階においては、軽水炉燃料の再処理によって得られるプルトニウムを積極的にその燃料として活用するものであり、核燃料の増殖については、その性能の確認は行うが、プルトニウムの需給動向等を考慮して弾力的に考えるものとする。 (国際的に開かれた開発体制と透明性の確保) ⑩原型炉「もんじゅ」等の我が国の研究開発については、より透明性の高い開発を進める観点から国際的に開かれた体制の下で、高速増殖炉開発を進めてきた先進各国の研究者の参加も得つつ進める。 ⑫以上のような基本的考え方の下、非核兵器保有国として、核不拡散と両立し得る原子力の平和利用システムを構築し、我が国のみならず世界のエネルギー問題という国際的課題に積極的に取り組み寄与していく。 2.開発の現状と実証炉についての技術評価 ウランをプルトニウムに転換し核燃料として利用していくことは、ウラン資源の長期的な有効利用の観点から、原子力開発の初期より関心がもたれてきたところであり、その中核となる高速増殖炉について欧米各国を中心に早くから積極的な取り組みがなされ、すでに相当な技術が蓄積されている。我が国においては、1956年の原子力開発利用長期基本計画において早くも高速増殖炉開発の必要性が示され、1966年動力炉開発懇談会において具体的な高速増殖炉開発の進め方が示されたのを経て、1967年に動力炉・核燃料開発事業団が設立され、以来本格的に我が国の自主技術による高速増殖炉の開発が進められてきた。 (1)実験炉「常陽」 実験炉「常陽」は、1977年4月に我が国最初の高速増殖炉として初臨界を達成し、各種性能試験、特性試験を行いつつ、熱出力を5万kW、7.5万kWと段階的に上げて、自主開発による高速増殖炉の建設・運転技術や性能などを確認した。 1982年からは、ブランケット燃料を取り外し増殖炉心から照射用炉心(MK-II炉心、熱出力10万kW)に改造し、原型炉「もんじゅ」及び実証炉用燃料・材料開発のための照射試験を展開するとともに、国際協力に基づく仏国製被覆管を用いた燃料、大学からの要請による新素材等の照射試験にも活用されている。また、高速増殖炉技術の高度化を目指して、炉心特性、自然循環による崩壊熱除去性能、燃料限界線出力等の把握及びこれらの解析コードの開発が進められてきている。 さらに高速増殖炉の実用化のために不可欠である高燃焼度燃料開発(目標値15万~20万MWd/t)やマイナーアクチニド燃料技術開発等に向け、照射技術の高度化、照射炉心の高性能化を図るため、1997年度を目標に炉心高度化改造計画(MK-III計画)が進展しつつある。 (2)原型炉「もんじゅ」 原型炉「もんじゅ」は、実験炉「常陽」までの成果を受け、1985年10月に建設を開始し、1991年4月に機器を据え付けが完了した。引き続き同年5月より機器、系統の機能を確認する総合機能試験を開始し、機器・設備が総合的に充分機能することを確認した。これまでの間「もんじゅ」の配管、燃料製造装置の不具合の対策等などにより当初予定の時期より多少遅れたものの、炉心燃料の装荷を含む臨界試験を慎重に進め、1994年4月に初臨界を達成したところであり、今後、炉物理試験、核加熱試験、出力試験等を行う計画である。これらの試験においては、「もんじゅ」自身の運転、性能確認に必要なデータの取得とともにさらに将来の高速増殖炉研究開発に必要な試験として出力分布測定試験、反応度価値測定試験等の実施を計画している。このような一連の試験を経て「もんじゅ」は1995年末にも本格的な運転に入ることとなる。 原型炉「もんじゅ」は、第一に高速増殖炉技術及び燃料技術並びに保障措置、核物質防護、燃料輸送等プルトニウム利用の技術体系を原型炉段階で確認する役割を有するものであり、臨界、炉心及びプラント特性の確認を行い全出力を達成する。その後は運転実績を重ねつつ、炉心の増殖性能の確認など原型炉としての性能、安全性、信頼性を実証していくものとする。これらは高速増殖炉に対する理解の促進の観点からも極めて重要である。 次の段階として、高速増殖炉の経済性向上等のために炉心の高性能化等技術の一層の高度化を図り、実証炉に反映させる役割を担う観点から「もんじゅ」を積極的に活用することが重要である。具体的には、中空ペレットの採用による燃料の高性能化や高速増殖炉が充分な経済性を有するために必要な15万MWd/t以上の高燃焼度化を目指した燃料の開発、プルトニウム需給に柔軟に対応した炉心・ブランケットの組み合わせによる性能の確認、アクチニド燃料も含め新型燃料の集合体規模の技術実証等への活用についても検討していくものとする。 これまで、仏国原子力庁、英国原子力公社、独国原子力研究所及び米国エネルギー省からの技術者が試験の解析、評価を通して「もんじゅ」の試運転・初臨界に参画しており、このような国際交流を活発化すること等により、「もんじゅ」を国際的に開かれた体制の下で高速増殖炉開発における国際的な中核センターのひとつとしての役割を果たしていくことを通じ、高速増殖炉技術開発で国際的に寄与していくことも重要である。 (3)要素的研究開発等 動力炉・核燃料開発事業団をはじめとして関係各機関は、実証炉を含め広く高速増殖炉技術の確立に向けた研究開発を実施してきている。 特に動力炉・核燃料開発事業団は、炉物理研究開発については日米共同の大型高速炉炉物理実験の総合的評価に基づき大型炉用の核設計のデータベースの整備を進めている。 構造・材料の研究開発については、新しい高速増殖炉構造用材料及び蒸気発生器用材料の適用性評価、データ整備を行うとともに、破壊力学計算コードの高度化、構造物強度評価技術の高度化等に向けて開発を進めている。 燃料研究開発については、実証炉用被覆管材料候補材とされている改良オーステナイト鋼を開発し、「常陽」における照射試験で優良な特性を確認している。さらに、「常陽」における燃料の各種照射試験、燃料挙動解析コードの改良、燃料・材料データベースの拡充・整備等を進めている。 動力炉・核燃料開発事業団においてはシステム評価研究として「常陽」、「もんじゅ」で開発された技術基盤と、これまでの建設・運転経験に基づく高度化技術を取り入れた実用化プラントの概念を構築し、実用化に必要な開発課題の摘出が行われた。このプラント概念は冷却剤が原子力容器頂部から流出入する点等、電気事業者が実証炉1号炉として決定したいわゆるトップエントリ方式ループ型炉と共通点が多く、動力炉・核燃料開発事業団と日本原子力発電(株)との間で検討評価がなされ、その成果は電気事業者の設計研究に適切に反映された。 動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所等の関係機関は、より合理的な安全設計基準の確立に向けたデータの整備及びこれに必要な安全研究を進め、プラント異常時の熱流動挙動の解明、炉心損傷時の挙動に関する研究等を進めるとともに、大型炉を対象とした確率論的安全評価研究を行っている。 これらの研究開発については、動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力発電(株)、日本原子力研究所及び(財)電力中央研究所が1986年7月に発足させた「高速増殖炉開発運営委員会」において協議、調整が行われ、進められている。 また、動力炉・核燃料開発事業団と日本原子力発電(株)は1989年3月に「高速増殖実証炉の研究開発に関する技術協力基本協定」を締結し、技術情報の相互提供、技術者の相互派遣、共同研究の実施、実証炉設計研究、実用化展望についての評価検討が行われている。 (4)経済性に関する検討 高速増殖炉の経済性については、原型炉「もんじゅ」における設計、建設経験を生かした設計検討の結果、実証炉以降段階において大幅な経済性向上が見込まれる。しかしながら、現段階ではなお軽水炉より割高であるので、高速増殖炉の経済性向上及び軽水炉と同様に信頼性の高い発電炉とするために必要な技術について、1992年度に動力炉・核燃料開発事業団と日本原子力発電(株)が共同して検討を行っている。具体的には、 ①経済性については、大型電磁ポンプの採用による機器構造の集合・合理化等、免震技術の採用による燃料取扱系等の機器の合理化による建設コストの低減を図るとともに、燃料の高燃焼度化により燃料サイクルコストの低減を図る。②安全性については、多数基の商業用大型高速増殖炉が運転される実用化時期を想定し、高い安全性を目指すこととして炉心の特性改良、受動的機器システムの活用など高い信頼性を有する安全設備の開発を図る、③信頼性、運転性、保守、補修性については、軽水炉等における技術の開発、進歩を取り入れていくとともに、実証炉等の建設、運転、保守経験の積み重ねによる向上を図る、とされている。 このような考え方に基づき、革新技術を取り入れた実用炉の経済性を評価し、今後の技術開発の方向性を探るため、実用炉のプラントイメージが作成されている。その結果、
以上のように、これらの技術を開発し導入することにより、高速増殖炉が軽水炉と十分競合できる発電プラントとなり得るとの検討結果が得られている。 このように高速増殖炉の建設コストは、技術依存性が高く今後の技術開発によって大幅な低減が可能であり、現在の時点でその実現の可能性が十分有ると考えられる技術のみでも、それが実現した場合には実用炉の経済性は軽水炉並みとなると考えられる。また、燃料サイクルコストについては、軽水炉と比較してウランの利用効率が高く数倍の燃焼度が期待でき、熱出力当たりのコストにおいて基本的な優位性を有するという特長を技術開発によって活かしていくことにより、今後さらなる経済性の向上が期待できる。 (5)実証炉の炉型選定とその評価 (実証炉の炉型選定等開発の現状) 実証炉計画の主体である電気事業者は、電気事業連合会内に「高速増殖炉対策会議」を設けるとともに、1985年に日本原子力発電(株)をその実施主体と決定し、基本仕様の選定等建設に向けての諸準備を行ってきたところである。 電気事業者は、革新技術の摘出、プラント概念の構築の後に基本仕様を定めるとの具体的手順に沿って、1989年度まではプラント仕様、特に炉型の候補概念の絞り込みを行うための設計研究を行い、欧州で実証炉として建設されてきたタンク型炉と比較検討しつつ、国内で長年にわたって実績を積んできたループ型炉の発展型として、頂部流出入配管で一次系主要機器を連結することにより一次系配管の大幅な短尺化を図ったいわゆるトップエントリ方式ループ型炉を実証炉の有力な炉型として検討した。 1990、1991年度にはこのトップエントリ方式ループ型炉の技術的成立性の確認のため電気出力約60万キロワット、3ループプラントを対象として実証炉予備的概念設計研究を実施するとともに、ナトリウムを水で模擬した流動特性試験等を行った。また並行して実用炉に繋げ得る実証炉を見極めるための実用化展望の評価研究を実施し、安全性・経済性等の達成目標を選定し、このために有望な革新技術及びその革新技術を組み合わせたプラントイメージを構築した。安全性については軽水炉と同等の水準を目指すこととし、経済性についても炉の建設費と燃料サイクル部門での所要の経済性向上を達成すれば発電原価で軽水炉と同等になるものと評価した。 1992年度には実証炉予備的概念設計研究の成果と動力炉・核燃料開発事業団のシステム評価研究の成果の比較、検討を行うとともに、基本仕様選定に向けての実証炉プラント概念設計研究を実施した。 1993年度は引き続き実証炉プラント概念設計研究を実施し、実証炉として具体的に免震等の各種革新技術を取り入れた設計についての検討を行い、この成果に基づいてトップエントリ方式ループ型炉の選定等基本仕様を固めたところである。 同炉型について経済性を検討したところ、この方式による電気出力100万kW級プラントの建設コストは同規模軽水炉の約1.5倍程度、電気出力を130万kW程度に増大し、さらに機器合体などの革新技術を採用すれば、同規模軽水炉並みの建設費になる見通しを得ている。今後、免震等を含め設計の最適化を図ることとしている。 電気事業者は以上の実証炉のプラント構築に係る研究開発の他、将来の実用化に向けた革新技術等要素技術の研究開発、安全性、設計方針等の確立のため研究開発等を行っている。 (炉型選定等に対する評価) 本専門部会においては、前述のような電気事業者の炉型選定等のための研究開発の成果を踏まえて、これまで報告されてきた実証炉1号炉の基本仕様について基礎調査分科会に技術的な評価を指示し、同分科会は、主要基本仕様等の妥当性を①技術的成立性、②炉型の妥当性、③研究開発計画の妥当性、の3つの観点から検討した。 実証炉は、発電プラントとして妥当な安全性、信頼性を有するとともに原型炉「もんじゅ」の設計、建設、運転経験及び並行して行われてきた内外の関連研究開発成果を踏まえ、実用化までの見通しを得るために建設される開発段階の炉であることから、今後に期待される技術進歩を取り入れることにより実用段階において軽水炉と競合し得る経済性を実現できる技術内容を有する炉であることが重要である。 基礎調査分科会での検討を踏まえ、この観点から見ると、電気事業者の行っているトップエントリ方式ループ型炉の選定を含む実証炉計画は、以下に示すように適切であると判断できるものである。 ①炉型の技術的成立性 電気事業者が選定したトップエントリ方式ループ型炉は、主要な一次系機器をそれぞれ自由液面を有するナトリウム容器に入れ、原子炉容器を含むそれぞれの容器間を、両端を各容器の頂点プラグから貫入させた逆U字型冷却材配管で連結することにより一次系配管長を大幅に短縮し、物量の削減を効果的に実現しようとするものである。 この方式の成立性は、一次系冷却材経路の伝熱流動特性、この経路を実現する構造物の構造健全性によるが、電気事業者は、これについて解析や水でナトリウムを模擬した試験を行い、この方式の技術的成立性について見通しを得るとともに、この方式に基づいて熱出力約160万kW(電気出力約66万kW)の発電プラントの概略設計を行い、建設費が電気出力100万kWのプラントに換算して軽水炉の約1.5倍程度となる見通しを得るとともに、発電プラントとして妥当な安全性、信頼性、保全性を有するプラントの設計が可能であることを確認している。これらの結果に加えて、動力炉・核燃料開発事業団において進められている燃料等に関する研究開発の見通しをも勘案すれば、このプラント概念は技術的には成立する見通しがあると判断される。 ②選定された炉型の妥当性 電気事業者は、この炉型とタンク型の比較検討を行い、さらに、この炉型を踏まえた実用炉のイメージを構築し、動力炉・核燃料開発事業団と共同してこの炉型を基礎に実用化を追求する上で重要な研究開発課題の摘出を行うとともに、実用化を大きく前進させる革新技術を示しており、この炉型を基盤とした実用化の展望を与えている。これらの結果を検討すると、
よって、この炉型の選択は、高速増殖炉の実用化を着実に進める観点及び高速増殖炉に関する技術の選択肢を広げつつこの実用化を目指すという国際社会の共同作業に参加、寄与できる観点から適切であるといえる。 ③研究開発計画の観点からの妥当性 国は、本専門部会の報告書「高速増殖炉研究開発計画の進め方(昭和63年8月)」に基づき動力炉・核燃料開発事業団等を中心機関として高速増殖炉の研究開発計画を進めてきている。この炉型選定を踏まえて電気事業者が提出した高速増殖炉研究開発に関する国への要望のうち、基礎・基盤研究及び安全規制・基準整備に関するものは、国のこの高速増殖炉研究開発計画に包含されており、また、この要望に含まれている実証炉を実現するために必要な大型施設を用いた試験は、同報告書で実証炉計画の進展に対応しつつ順次検討していくとされている分類に属するものであるが、その内容は概ね安全性、信頼性の高いプラントを実現するために重要なものと判断される。また、日本原子力発電(株)が動力炉・核燃料開発事業団と共同でとりまとめたこの炉型の実証炉を基盤に実用化を目指す技術開発構想は、実用化を大きく前進させる革新技術群を示しているが、これは、費用の観点からも過大な内容とは言えず、この炉型を基盤とした実用化にビジョンを与えている。したがって、この炉型の選定は、これまでの研究開発計画と整合性を持ち、さらに今後実証炉1号炉の実現、さらには実用化に至るまでに必要な研究開発計画も官民の努力により実施可能な範囲にあり適切なものと判断される。 3.高速増殖炉技術開発の進め方 高速増殖炉技術体系の確立には、今後なお長期にわたる開発努力と多大な投資が必要であり、実用化を見通して明確な開発計画に基づき着実に開発を推進する必要がある。しかしながら、その推進に当たっては、原子力を巡る諸情勢、環境負荷低減への要請、技術開発の進展状況、プルトニウム需給事情等に柔軟に対応していくことが重要である。したがって、実用化を目指して、経済性向上を図ることを基本に進め、同時に、高速増殖炉開発の幅を広げながら、柔軟かつ着実に、炉と燃料サイクルの整合性がとれたトータルシステムの技術体系の確立を目指す姿勢が重要である。高速増殖炉の実用化のためには、実証炉1号炉の建設主体である日本原子力発電(株)を中心とした電気事業者はもとより、これまで高速増殖炉開発で中心的役割を果たしてきた国も、引き続き積極的な役割を果たすことが必要である。実証炉以降の段階においては、電気事業者の進める実証炉計画と動力炉・核燃料開発事業団の進める研究開発とを両輪として開発を進めることが必要である。 (1)実用化へ向けた実証炉開発の進め方 実証炉1号炉の開発は、実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」の設計・建設・運転を通じ我が国にこれまで蓄積されてきた自主技術の上に立脚して、研究開発を進めながら実用化を見通していく実用化移行段階の第一歩であり、経済性向上等に必要な革新技術と大出力化技術等の必要な技術の実証を行うものである。 高速増殖炉の実用化に向けては、将来ウラン価格が上昇すれば高速増殖炉の経済性向上に対する要求が緩和されるが、当面のウラン需給が緩和基調で推移していることを踏まえ、ウラン価格の上昇を考慮せずとも軽水炉と経済性において競合し得る高速増殖炉を実現することを目標として、積極的に革新技術を取り入れつつ開発を進めていくことが必要であり、以下のような進め方に沿って、今後2基の実証炉において革新技術を段階的に取り入れて実証し、実用に供しうる技術の蓄積を図っていくことにより、実用化の技術基盤が確立するものと考えられる。 すなわち、今後の研究開発の進展にもよるが、実証炉1号炉では、①高温・高燃焼度化に必要な構造・被覆管材料、②安全裕度向上に重要な新型炉停止系及び崩壊熱除去系、③安全裕度向上に効果のある中空ペレット、④マニピュレータ式燃料交換機等の簡素化技術、⑤将来、経済性の向上に対し期待するところが大きい免震技術についても水平免震技術等、各種の革新技術の取り入れ等が検討されており、これらの積極的な取り組みが期待される。 さらにこれに続く実証炉2号炉については、現時点ではまだ具体化されていないが、燃料の高燃焼度化、機器のコンパクト化・高性能化、建屋の縮小を図るとともに、実証炉1号炉に引き続き免震技術とあわせた炉上部構造の抜本的な簡素化、電磁ポンプを利用した機器の集合・合体等の革新技術の取り入れが検討されている。 これら革新技術の研究開発は、長期的な展望のもとに、飛躍的な性能向上の達成が実現できるよう様々な創意工夫を試みながら、戦略的に推進することが肝要である。 実証炉1号炉は、今後の革新技術の開発スケジュール、原型炉「もんじゅ」の運転実績の反映等を考慮し、2000年代初頭の着工を目標に計画を進めることとし、日本原子力発電(株)は、必要な技術開発を進めるとともに、着工へ向けて所要の準備を進めるものとする。 その後は、燃料サイクル技術との整合性をとりつつ革新技術等必要な研究開発を計画的かつ着実に積み重ね、技術の継承の重要性、メーカーの技術力の維持・向上等を勘案しつつ、適切な間隔で実証炉1号炉に続く2号炉を建設することとし、2030年頃までの技術体系の確立に向けて、実証炉1号炉の成果、革新技術の開発成果、再処理試験プラントの進展状況等を踏まえ、技術体系の全体的な姿が明確になってくると考えられる2010年代には実証炉2号炉の計画の具体化を図ることとする。 現在緩和基調にあるウラン需給も来世紀半ば頃には逼迫するとの見込みもあり、その場合、原子力発電プラントのライフサイクルを考慮しウラン資源が逼迫する相当前から高速増殖炉を原子力発電体系の中に導入する必要があること、2基の実証炉及びリサイクル機器試験施設(RETF)、試験プラント等燃料サイクル技術を着実に開発していくことにより、炉と燃料サイクルのトータルシステムとしての技術確立が十分可能であること等を踏まえ、高速増殖炉燃料サイクル技術との整合性をとりつつ、2030年頃までには実用化が可能となるよう、高速増殖炉の技術体系の確立を目指していくこととする。このような開発ステップを踏むことにより、その後の高速増殖炉の本格的な導入に備えることができるものと考えられる。 なお、開発途上にある実証炉における核燃料の増殖については、その性能の確認は行うが、長期的なプラント運用において、プルトニウムの需給動向、国際情勢等の観点から弾力的に考えていくこととする。 (2)高速増殖炉技術の研究開発の進め方 我が国の高速増殖炉の研究開発は、本専門部会報告書「高速増殖炉研究開発の進め方(昭和63年8月)」に沿って、動力炉・核燃料開発事業団をはじめとする関係機関が進めてきている。実証炉以降の段階においては、実証炉の設計・建設・運転と研究開発とを両輪として高速増殖炉の開発を進めることが重要であり、動力炉・核燃料開発事業団をはじめとする関係機関の連携協力、技術移転を図りながら進める必要がある。 電気事業者(日本原子力発電(株))は、これまでにも増して取り組みを強化するとともに、実証炉建設に向けた諸準備を進めつつ、実証炉1号炉の基本設計に向けた研究開発とともに、大型化、高性能化に伴う設計高度化、熱流動現象の把握及び材料データの整備等、構造設計と耐震設計の調和を図った設計合理化、保守・補修の自動化、実用化へ向けた革新技術等経済性向上のため研究開発等を引き続き進めるものとする。 動力炉・核燃料開発事業団は、高速増殖炉固有の技術体系を確立するための研究開発を今後とも主体的に分担し、2030年頃の実用化までを見通し、長期的に継続して課題と目標を提示しつつ、実施していくものとする。 具体的には、実用化を展望しプラントの安全性、信頼性、経済性の向上に重点をおいて、安全性の研究、炉心・燃料の開発、高温構造システムに係る伝熱・流動、構造健全性・材料の研究等が重要である。また、「もんじゅ」の試験・運転データに基づくプラント技術の総合評価及び高度化を図る。動力炉・核燃料開発事業団はこれら高速増殖炉の技術の研究開発を進めるに当たって研究開発課題の選定並びに成果について、原子力委員会等に報告し、広くレビューを受けつつ着実に研究開発を進めていくこととする。また、その成果が適切に実証炉計画にも反映されていくよう日本原子力発電(株)及び動力炉・核燃料開発事業団がより密接な連携協力に努めていくものとする。 実証炉1号炉の建設までには、新しいシステム・構造概念の採用に当たってのナトリウム中での技術的成立性や安全性、信頼性に関する研究開発及び機器の性能試験、確証的試験並びに機器の地震時の健全性の確認のための試験が必要となる。 その際、動力炉・核燃料開発事業団を中心に蓄積、整備してきた技術・施設を有効に活用することが肝要であり、特に、ナトリウム技術については動力炉・核燃料開発事業団が整備してきたナトリウム試験施設を最大限に活用し、一層の技術発展とその成果の集積を図るとともに、その効率的な運用を図っていく必要がある。 またトップエントリ方式や免震設計等実証炉1号炉への新たな技術の取り入れ等に伴い、高速増殖炉に関するより合理的な安全設計基準を早期に確立することが重要であることから、関係機関が、その確立に向けたデータの整備及びそれに必要な安全研究等を進めるとともに、国においては、革新技術の取り入れ等に関する研究開発の進展状況も考慮に入れつつ新たな基準策定のための検討を早急に進め、将来の安全審査に適切に対応できるようにする必要がある。 これら実証炉1号炉の建設及び高速増殖炉の実用化へ向けた研究開発を着実かつ効率的に進める観点から、実証炉計画の進展、「もんじゅ」の運転経験の 蓄積、研究開発の進展に即して、本専門部会が1988年に示した研究開発課題及びその進め方を今後早急に見直すこととする。また、関係当事者間で実証炉の具体化に向けて必要な調整を行っていくこととする。 4.燃料サイクル技術の開発 高速増殖炉は、使用済燃料の再処理によって取り出される核燃料のリサイクルを行うことによってその真価が発揮されるものであり、炉の開発と整合性をとって燃料加工、再処理等の燃料サイクルの開発を進める必要がある。今後は高速増殖炉と燃料サイクルをトータルシステムとして開発を進め、一層の経済性向上を図っていくことが重要である。高速増殖炉開発が、原型炉「もんじゅ」が臨界を迎えたばかりの現時点においては、燃料の製造規模、再処理需要もそれほど大きくないこと、また、燃料加工技術、再処理技術そのものが開発途上にあり、高プルトニウム含有率及び高燃焼度という固有の技術開発課題があることなど開発リスクが大きいこと、さらには国際的にもプルトニウムの平和利用を推進するにあたり適切な核不拡散対応が求められ、より核不拡散性に留意した燃料サイクル技術の開発なども重要となっていること等を踏まえ、当面は引き続き国が中心となってその実用化に向けた研究開発を行っていくこととする。(1)燃料再処理技術 再処理技術については、軽水炉燃料再処理で実績のある現行の湿式法をべースに、動力炉・核燃料開発事業団が1975年頃より研究開発に着手し、燃料集合体の構造や高プルトニウム含有率及び高燃焼度といった高速増殖炉燃料の種々の特徴に基づいて、燃料集合体解体技術、高度な臨海管理への対応、効率的な燃料溶解や不溶解残渣除去技術及び耐放射線性に優れた溶媒抽出技術等の課題の解決を図ってきた。 このような再処理技術については、米国、英国、仏国等で早くから基礎的な研究が実施されてきているところであり、動力炉・核燃料開発事業団は実験炉「常陽」の使用済燃料を用いてピン単位規模のホット基礎試験などを行うとともに、米国との共同研究などを通じて高速増殖炉燃料の再処理技術の成立性を確認してきた。 再処理技術の実用化のためには安全性、信頼性はもとより経済性の向上が重要であり、より一層の技術の高度化が必要である。再処理技術については、我が国においてこれまで技術開発が順調に進捗し、実用化が最も早期に期待できる現行の湿式法を基盤技術として、他の新技術・新概念の採用の可能性も考慮しつつ技術の高度化を図っていくことが適切であると考えられる。 このため、動力炉・核燃料開発事業団では、再処理技術のプロセス・エンジニアリングの確立を図り、ホット工学規模での確証試験を行うRETFを東海再処理工場に付設して建設し、2000年過ぎから「もんじゅ」、「常陽」の使用済燃料を試験体としてプロセス及び新型機器についての性能を実証し、将来の再処理施設の設計・運転に必要な工学データの蓄積を図るとともに、さらに長期的視点から新たな可能性を有する再処理技術の開発課題にも積極的に取り組んでいくこととする。これらを通じて現行の湿式法による高速増殖炉混合酸化物燃料の再処理技術の開発は、基盤技術として2000年代の早い時期に確立することを目標として進めることとする。 さらに実用化に向けては、RETF等で実現性の確認される技術に加えて、プロセスの一層の短縮化、廃棄物発生量のより一層の低減、工程機器のより一層の小型化、高性能化、遠隔セル内の機器配置の合理化及びそれに伴うセルの小型化、AI・エキスパートシステム等の先進的技術による自動化、建物全体についての免震設計などの技術的課題に取り組み、より一層の高度化を進めることが重要である。これらの要素技術の開発とともに高速増殖炉との整合性のとれたトータルのシステムとして最適化を図り実用化を見通す規模での技術実証が必要と考えられる。このため、後述の先進的リサイクル技術など今後得られる新たな技術開発成果にも柔軟に対応しつつ、RETFと将来の実用プラントを繋ぐ試験プラントにおいて、前述の高度化技術により経済性、信頼性の向上を図って、再処理プラントをシステムとして開発していくことが必要であると考えられる。 この試験プラントについては、高速増殖炉の開発と整合性を図りつつ再処理プラントの実証的施設として建設することとし、RETFを通じて技術の蓄積を図ってきた動力炉・核燃料開発事業団が主体となって、原型炉「もんじゅ」、実証炉等の開発段階の高速増殖炉からの使用済燃料を処理し、リサイクルを実証することも念頭に2010年代半ば頃の運転開始を目標に計画を具体化していくこととする。 さらに、燃料再処理によって出てくる高レベル放射性廃棄物については、マイナーアクチニドの量が軽水炉のそれよりも多いという特徴を十分踏まえ、現行軽水炉再処理によって生じるガラス固化体の品質レベルを維持することを目標に処理技術等の開発を進めるものとする。 (2)混合酸化物燃料の加工技術 混合酸化物(MOX)燃料を取り扱うには、プルトニウムを設備内で確実かつ安全に取り扱う技術が必要であり、また、軽水炉燃料の加工施設より注意深い臨海管理や保障措置、核物質防護対応が必要となる。このため、製造、検査工程の高度化、設備・機器の小型化・高速処理化、遠隔操作技術の高度化等の技術を確立するとともに経済性の向上を図っていく必要がある。 MOX燃料加工技術については、動力炉・核燃料開発事業団においてこれまでに実施してきた技術開発、新型転換炉「ふげん」、実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」用燃料加工を通じて、すでに30年にも及ぶ技術開発、経験を蓄積してきたところである。 さらにペレット製造技術、加工・組立工程及び品質管理工程の自動化技術及び保障措置技術の高度化等の開発が進められてきており、すでにこれらを通じて基本的な技術は確立している。 今後はこれらに加えて、さらなる経済性、信頼性及び安全牲向上が重要であり、このため製造設備のコンパクト化、高速処理化に加え、直接製粒製法による工程の簡略化、保守・工程管理技術の高度化を図ることにより燃料製造技術の革新を図ることが必要になっている。 実証炉1号炉のMOX燃料加工については、動力炉・核燃料開発事業団の燃料加工施設を活用することとし、実証炉1号炉の建設着工時期と施設整備のためのリードタイムを考慮して、施設の一部拡張及び設備の更新、増強に着手し、原型炉「もんじゅ」の次世代の取替燃料と実証炉1号炉の初装荷燃料の加工を通じて、高速増殖炉用MOX燃料加工技術の高度化を図り、経済性を向上し、実用化への見通しを得ることとする。 その際、当該施設で加工する燃料の仕様は、「もんじゅ」の取替燃料と実証炉燃料の仕様を近づけつつ燃料製造技術の着実な高度化を図っていくことが重要であり、設備共用による製造コスト低減にも有効であるとの観点から、関係者間で検討していくものとする。また、施設の増強、更新は実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」用燃料の加工を継続しつつ実施することとなるため、廃棄物の保管施設の準備等所要の措置を講じ、実証炉1号炉の初装荷燃料の製造の開始に備える必要がある。 5.先進的リサイクル技術の研究開発 高速増殖炉とその燃料サイクル技術開発の推進に当たっては、経済性の一層の向上など将来のエネルギー供給の要請に十分応えるべく着実に進めていくとともに、高速増殖炉の持つ特徴を活かし、核不拡散性への配慮、環境への負荷の軽減など国内外の多様なニーズに対応できるよう、技術選択の幅を広げつつ高度化を図っていくことが重要である。すなわち、高速増殖炉は、その核的特性から、再処理において不純物を必ずしも高い分離効率で除去する必要はない。そのため、再処理の経済性や我が国の核不拡散性への配慮を対外的により明確にできる先進的な核燃料リサイクルシステムを構築し得るポテンシャルを有している。このようなリサイクルシステムは、国際的理解を得る観点からも重要である。また、燃料に含まれるマイナーアクチニドを高速増殖炉の硬い中性子スペクトルの下で燃焼できるため、リサイクルシステム内にとどめおくことにより、環境への負荷を軽減し得る可能性がある。 一方、これらの技術を採用した場合、放射線レベルの高い燃料を加工することが必要となるので、遠隔、遮へい下での作業が不可欠であり、燃料もまた遠隔加工に適した形態とすることが望まれる。このため、再処理技術、燃料加工技術、炉心燃料技術等に係る研究開発を整合性をもって進める必要がある。 これらの先進的なリサイクル技術の研究開発は、現在のところ研究の緒についたばかりでもあることから、今後、国が中心となって取り組んでいく必要があり、当面、動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力研究所などの機関において積極的に行うこととし、既設のリサイクル関連研究施設や原子炉施設を有効に活用するとともに、必要な試験施設の整備を図るとともに試験炉の必要性についても検討を行い、計画的に進めていくこととする。 (1)新型燃料リサイクル技術 我が国が実用化を目指している現行のMOX燃料と湿式法による再処理の他に、新たな燃料リサイクルシステムを構築しうる候補として、窒化物燃料、金属燃料等の新型燃料と、金属燃料に相応する乾式再処理、成形加工の新技術が、また、MOX燃料に対しても共抽出等の新技術とともにナトリウム以外の冷却材、小型炉、優れた固有の安全性を有する炉等の概念が提唱されている。 これらの技術は、現行のMOX燃料とその燃料サイクルの開発状況に比べれば、未だ初期的な研究段階にあるが、将来的に発展のポテンシャルを有しており、今後の技術的選択の幅を広げる観点から、その技術的可能性を見極めつつ研究開発を長期的に進めていく必要がある。 これらの技術のうち、窒化物燃料は、高線出力化による発電コストの低減と高い安全性を追及した炉心設計が期待できるという優れた特性を有している。また、窒素同位体分離コスト低減、再処理プロセス等の課題はあるものの、MOX燃料で開発された燃料サイクル技術を活用できる利点を有している。 金属燃料一乾式再処理については、燃料サイクル技術の特性から低除染であり、また、炉と一体型のシステムを構成することも可能という特質を有しており、米国において、これまで相当の基礎的研究成果を蓄積してきている。 MOX燃料の共抽出等の技術は、ウラン、プルトニウムとあわせてマイナーアクチニドも同時に回収できる技術として再処理の経済性向上に資するものと期待されており、新しい抽出剤の開発などが進められてきている。 (2)アクチニドリサイクル技術 高速増殖炉にあっては、長半減期核種であるマイナーアクチニドをサイクルの中に保持し、燃料として利用することで、放射性廃棄物の処理処分の一層の適正化を図り、環境への負荷をさらに軽減し得る可能性がある。このアクチニドリサイクル技術は、基礎的な研究の段階にあり、実用化には相当の研究開発を要するものであり、群分離・消滅処理(オメガ計画)の技術蓄積も踏まえながら、その技術の研究開発を着実に進めて行くことが重要である。 近年、この様な研究は仏国においても取り組みがなされており、国際協力により効率的な研究開発が期待される。 |
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