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原子力の研究、開発及び利用に関する
長期計画について

平成6年6月24日
原子力委員会


  1.  原子力委員会は、昭和31年の長期計画策定以降、数次にわたる改定を行い、現在、昭和62年6月に決定した「原子力開発利用長期計画」に基づき、原子力の研究、開発及び利用の推進を図っている。
     近時、内外の情勢は大きく変化しており、これを踏まえ、21世紀を展望して、長期的、地球的視点に立って、新しい時代環境に適応した原子力開発利用に関する指針の大綱と基本的な施策の推進方策を内外に明らかにすることとした。
  2.  原子力委員会は、平成4年7月、原子力開発利用長期計画の改定を行うことを決定し、長期計画専門部会を設置して、国民一般からの意見募集等を含め、広く各界から意見を聴取するとともに海外の原子力関係者からの意見も求め、新しい長期計画について審議を進めてきた。
     同専門部会における審議結果を踏まえて、別添のとおり新たに「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」を決定する。
  3.  今後、我が国の原子力の研究、開発及び利用については、本長期計画に基づき、内外の情勢に的確に対応し、国民並びに諸外国の理解を得つつ、着実な推進を図っていくこととする。
     なお各分野の具体的な施策については、今後の進展及び諸情勢の変化に適切に対応していくため、適時、検討を行っていくこととする。
  4.  長期計画専門部会は、本日をもって廃止する。

原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画

平成6年6月24日
原子力委員会


序章
(原子力委員会と長期計画)
 我が国は、1950年代半ばに、原子力の研究、開発及び利用(以下「原子力開発利用」といいます。)に着手しました。その際、我が国の原子力開発利用の基本理念を構築するものとして、原子力基本法が定められました。この法律は、我が国の原子力開発利用を平和の目的に限定して行うことを第一に定めるとともに、この精神を具現化し、「原子力の研究、開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行し、原子力行政の民主的な運営を図るため」、原子力委員会を置くとしています。原子力基本法に定められた我が国の原子力の平和利用を担保することは、原子力委員会の重要な任務です。また、原子力基本法は「原子力委員会は、原子力の研究、開発及び利用に関する事項について企画し、審議し、及び決定する」と原子力委員会の任務を定めています。
 このように、原子力委員会の最も重要な任務は、我が国の原子力開発利用が平和の目的に限って計画的に遂行されるよう、必要な企画、審議、決定を行うことにあります。
 原子力委員会は、1956年に設置されると直ちに原子力の開発利用に関する長期的な計画を策定するための検討に入り、同年中に「原子力開発利用長期基本計画」を定めました。
 以来、おおむね5年毎に数次にわたる改定を続けてきましたが、この度、1987年6月に策定した「原子力開発利用長期計画」を改定し、ここに新しい長期計画を明らかにしました。
 原子力基本法が制定され、原子力委員会が発足した1956年から今日までの我が国の原子力開発利用の道のりを振り返ってみますと、必ずしも平坦なものではなかったものの、総じて言えば順調に進展してきたと考えています。
 現在、我が国の原子力発電は総発電電力量の約3割を供給しており、放射線及び放射性同位元素(RI)の利用(以下「放射線利用」といいます。)は、医療、農業、工業、環境保全、基礎研究など広範な分野を普及しているなど、原子力利用は我々の身の回りの生活に深く浸透しています。このような成果は、原子力開発利用に携わってきた数多くの民間、大学、政府関係研究開発機関、原子力施設立地自治体、国の関係者の継続的な努力、さらには、地域住民の理解と協力のたまものです。もちろん、これは何よりもまず国民の理解と協力に支えられてきており、その意味では、今後の原子力開発利用の進展もひとえに国民一人一人にかかっていると言えます。
 原子力開発利用の推進に当たっては、原子力技術の多くが巨大科学技術システムとして具体化されるという特徴を持ち、その研究開発の成果の発現までに長い年月、多額の資金さらには多数の人材を必要とすること、原子力は重要なエネルギー供給源としての役割を担うことからエネルギー政策上の必要性に見合った長期的安定的な発展を確保する必要があること、原子力開発利用は広範、多岐な分野にわたって展開されているということ、さらには、安全の確保や核不拡散の観点からの厳格な規制など国内的にも国際的にも配慮すべき点が多い分野でもあることなどから、国民の理解の下、原子力関係者が一定のコンセンサスの下に活動し、国全体として、効率性にも配慮しつつ、長期的、計画的にこれを進めていくことがとりわけ重要です。
 長期計画はまさにそのための指針であり、その目的は、原子力開発利用に関して、長期的視点に基づき基本的かつ総合的な指針と基本的施策の推進方策を明らかにし、我が国の原子力の平和利用を計画的かつ効果的に進めていくことにあります。

(長期計画改定の背景)
 前回の長期計画が策定された1987年以降の原子力開発利用をめぐる内外の情勢変化について、その主要なものを挙げると次のとおりです。

(1)冷戦構造の崩壊に伴う国際情勢の激変、流動化
 第二次世界大戦後の国際秩序を規定していた東西の冷戦構造が崩壊し、政治、経済、社会など様々な分野で新たな動きが起こっていますが、これは原子力の分野にも及んでいます。
 例えば、核兵器の大幅な削減が現実味を帯びるなど歓迎すべき状況が生まれつつある一方、これに伴い生じるプルトニウム等の核物質の取扱いが重要な課題になってきています。また北朝鮮、イラクの核開発疑惑を背景に、国際的な核兵器の拡散に対する懸念は一層高まりつつある状況です。加えて、旧ソ連・ロシアによる放射性廃棄物の日本海への海洋投棄が国民の不安を招いています。
 また、旧ソ連・中東欧の原子力発電所の実態が一層明らかになり、その安全性に対する懸念が以前にも増して高まっています。
 このような情勢の中で、我が国が国際社会の中でどのような役割を担っていくことが望ましいのかということについて考えていく必要があります。

(2)地球環境問題に対する意識の向上
 地球温暖化、酸性雨等の地球環境問題が近年急速に国際的な関心事となってきており、一昨年には「環境と開発に関する国連会議」が開かれ「アジェンダ21」がとりまとめられるなど、国際的に地球環境問題への取組の機運が高まっています。地球環境問題の背景には、大量の資源・エネルギー消費によって支えられている先進国の経済社会活動と開発途上国における人口増加等がともに環境を悪化させているという世界的な構造問題がありますが、環境と調和した人類の持続的発展が重要な課題になっている中、今後の原子力開発利用も地球環境問題の解決という観点を十分考慮することが必要になっています。

(3)世界のエネルギー需要の増大
 熱心な省エネルギー努力にもかかわらず我が国のエネルギー需要は、引き続き増加していくことが予想され、また、世界に目を向ければ、開発途上国を中心に急速にエネルギー需要が増大していくことが予想されます。そのような状況の中で我が国として、世界全体のエネルギー需給を考慮しつつ、自国のエネルギーの長期的な安定供給をいかに確保していくかが重要な課題になってきています。

(4)核燃料サイクル事業を始めとする我が国の原子力開発利用の進展
 我が国は、当初よりウラン資源の確保から放射性廃棄物の処分に至る核燃料サイクルの確立を原子力政策の基本としており、今や、青森県六ヶ所村において、ウラン濃縮と低レベル放射性廃棄物埋設の民間事業化が現実のものとなり、民間使用済燃料再処理工場も建設段階を迎えるに至っています。また、現行の日米原子力協定下において初のプルトニウムの国際輸送が実施され、高速増殖原型炉「もんじゅ」が臨界を達成するなど我が国の原子力開発利用は、おおむね着実に進展しており、このような状況を踏まえ、今後の政策展開を示すべき時期にきています。

(5)プルトニウム利用をめぐる内外の関心の高まり
 冷戦構造の崩壊に伴い新たな国際秩序が模索される中で、平和利用のプルトニウムも含め、プルトニウムの存在やその取扱いが、核兵器の拡散につながるとの懸念から国際的に大きな関心を呼ぶようになっています。また近年、欧米諸国にあっては、諸般の事情により原子力開発利用が概して停滞傾向にあるのに対し、我が国は比較的着実に核燃料リサイクル政策を展開してきています。このようなことを背景として、核兵器の拡散に対する懸念、プルトニウムの安全性への不安、プルトニウム利用の経済性への疑問などから、先のフランスからのプルトニウム輸送を契機として、国の内外から我が国のプルトニウム利用についての関心が過去に例を見ないほどに高まっています。このような状況については、これを正面から受け止めて、今後の我が国の原子力開発利用の在り方を示すことが重要です。

(6)原子力に対する夢や期待感の薄れと原子力施設の新規立地の停滞
 原子力は、その開発利用に着手した当初は、大きな期待を持って迎えられ、科学技術の最先端を行く分野として大きな夢を抱かれていました。多くの人々の積年の努力により、原子力の利用は現実のものとなり、国民生活に不可欠なものとなりましたが、その故か一般の国民が抱く原子力のイメージは大きく様変わりしつつあり、当初の先端的イメージが薄らいできています。
 また、このような状況の中、チェルノブイル原子力発電所の事故以降急速に内外に広がった安全性に対する不安感とあいまって、我が国の原子力施設の新規立地も困難になっています。
 このため、原子力が社会的に果たしている役割の重要性や科学としての原子力が本来持っている魅力を国民に伝えるとともに、原子力人材の確保、原子力の新しい方向を切り拓く先端的研究の強化、地域との共生を目指した立地などの対応が必要となっています。

(長期計画策定に当たっての配慮事項)
 今回の長期計画は、前述の長期計画の目的や改定の背景を十分踏まえて策定しましたが、この長期計画の枠組みと特に配慮した点は、次のとおりです。

(1)長期計画の見通し期間
 本長期計画は、21世紀を見据えて我が国が採るべき原子力開発利用の基本方針と具体的推進方策を明らかにするものです。
 個々の具体的な施策によって見通すべき期間には差があり、その点は柔軟に検討しましたが、本長期計画全体としては、おおむね2030年までの原子力開発利用の展開を念頭に置きつつ、2010年頃までの我が国の原子力開発利用について主に検討しました。

(2)長期計画の狙い
①国民に理解される長期計画
 今や、原子力は国民の生活や経済にも深く関わるようになっており、昨今の原子力に対する国民の関心の高まりなどに鑑みると、原子力開発利用は、国民の理解と協力なくしてその円滑な推進を図ることはできません。このため、長期計画は何よりもまず国民にその内容が理解されるものでなければならず、この長期計画においては、原子力開発利用に関する明確な理念と計画を国民に提示するよう努めました。

②国際的に理解される長期計画
 原子力開発利用は、国際性に富むものであり、我が国がその開発に着手した頃から国際情勢を踏まえた対応が絶えず要求されてきましたが、最近の原子力開発利用をめぐる環境変化等の中で、我が国が原子力開発利用を展開する上で諸外国の理解を得ることがますます重要になってきている一方、我が国の国際的影響力の高まりや原子力開発利用の進展を背景として、諸外国においても我が国の原子力開発利用に対する関心が高まっています。このため、今回の長期計画は、我が国の原子力開発利用に関する基本的立場を諸外国の人々に適確に伝えるものとなるよう努めました。

③原子力関係者の具体的指針となる長期計画
 長期計画の目的に鑑みれば、長期計画は、原子力開発利用に携わる人々の活動の指針となることが要求されることは当然であり、本長期計画においてもこれまで同様、柔軟性に配慮しつつも現実的かつできるだけ具体的な計画を示すよう努めました。
 なお、我が国の原子力開発利用は、その緒に就いた頃から官民を挙げて取り組むべきものとして推進されてきており、国の果たすべき役割には今後とも大きなものがありますが、開発利用の進展に伴い民間の担うべき役割が重要になってきているということを踏まえて、本長期計画は、民間活動の指針としての役割にも配慮しつつ策定しました。

(3)原子力開発利用を進める上での基本的な考え方の明示
 長期計画には、個々の具体的施策の推進計画を定めることが求められていることは言うまでもありませんが、本長期計画では、我が国の原子力開発利用に対する内外の関心の高まりに鑑み、
  • 地球社会にとって、また我が国にとって原子力開発利用はどのような意味を持つのか
  • 我が国は何故核燃料リサイクル政策を採るのか
  • 核兵器の不拡散と原子力の平和利用についてどのように考えるのか
  • どのような点に配慮しながら、プルトニウム利用などの原子力平和利用を進めていくのか
 など、我が国の原子力開発利用の基本理念を明らかにすることに力点を置きました。

(4)国民の声の反映
 本長期計画は、長期計画専門部会における審議結果を基に原子力委員会が決定したものですが、長期計画専門部会においては分野毎に5つの分科会、5つのワーキンググループを設けて専門家を中心に審議したほか、原子力以外の分野の有識者からなる長期計画懇談会を設けて幅広い視点から議論しました。
 さらに、国民各界各層から広く意見を聴くため、長期計画改定に関する意見募集を実施し、また「ご意見をきく会」を開催しましたが、これらを通じて表明された意見は、本長期計画の審議の貴重な参考となりました。
 また、海外の原子力関係者からの意見を聴く機会も設けて本長期計画策定の参考としました。
 なお、本長期計画は、各分科会において入念な審議を経てとりまとめられた分科会報告を十分踏まえて策定したものですが、それら分科会報告もまた、国民各界各層の貴重な意見を参考にしてとりまとめられています。
 21世紀の扉の前に立つ今、振り返ってみれば、米国シカゴ大学でエンリコ・フェルミらが世界最初の原子の火を灯してから約50年、原子力平和利用の道を開いたアイゼンハワー大統領によるアトムズ・フォア・ピース演説から約40年、日本原子力研究所の動力試験炉によって我が国が初めて原子力発電に成功してから約30年の歳月が流れました。
 一方、原子力の誕生以来、その歴史の半面を占めてきたのは軍事利用であり、また、それを背景に維持されてきた戦後の世界秩序が東西の冷戦構造でした。
 今、その冷戦構造は終焉を迎え、核兵器の大幅な削減が具体化しつつあります。国際政治、国際経済などあらゆる面から新たな世界秩序が模索されている中で、原子力の位置付けや意義のみが従来のままで何らの変化もないというわけにはいきません。原子力は、もはや狭い意味での原子力の世界だけに閉じ込もって議論されるべきものではなく、政治、経済、文化・文明、環境など広範な視点からこれを受けとめ、取り組む必要があります。
 我々は21世紀に対して期待感と不安感を併せ抱きながらその扉の前に立っていますが、扉の向こうに全人類が幸福に暮らせる地球社会を形成するために、原子力平和利用に与えられた役割は決して小さくはないと認識しています。
 将来に対する不透明感が払拭されない状況下にありますが、それだけに地球社会や我が国の将来をしっかり見据えつつ、長期的な視点、国際的な視点、国民とともにある原子力という視点に立って、来るべき21世紀に向けて我が国の原子力開発利用の果たすべき役割とその推進方策を明らかにすることが求められています。

第1章 21世紀の地球社会と原子力の果たす役割

1.直面する諸問題と21世紀地球社会への期待

 我が国は、戦後半世紀を経て経済大国と呼ばれるまでになりました。エネルギー消費も全世界の5.6%を占め、原子力発電を始めとする原子力開発利用についてもその規模、技術水準等において先進国の列に連なっています。今日、原子力発電は、世界の総発電電力量の約17%を占める重要なエネルギー供給源となっており、我が国としても、自国の将来のみならず地球社会の将来という視点で、原子力開発利用の意義を考える必要があります。
 本節では、原子力開発利用の意義を考えるために、まずグローバルな観点から留意すべき点として、人口問題、エネルギー問題、資源問題、地球環境問題等について将来を概観するとともに、21世紀地球社会への期待を述べます。

(1)世界人口の増加
 人類が21世紀に直面する最大の問題の一つは人口問題です。
 国連の統計によると、1990年の世界人口は約53億人です。17世紀半ばには約5億人であった世界人口は、19世紀初頭には10億人を超え、1950年には約25億人に達しています。その後の40年程度の極短い期間に人口は倍増しており、過去と比べると近年の人口の増加は驚異的なものであることがわかります。
 今後、2010年には約71億人、2025年には約85億人、そして21世紀半ばには地球人口100億人の時代が到来すると予測されています。
 また、1990年の開発途上国の人口は既に世界人口の4分の3以上を占めていますが、この割合は今後一層高まっていき、2025年には約83%に達すると予測されています。
 人口予測は、過去の実績から判断すると未来予測としては精度がかなり高いものであり、開発途上国を中心とした人口の爆発的増加により21世紀には地球人口100億人の時代が到来するということを認識しておく必要があります。

(2)エネルギー消費の増大
 現代文明は、エネルギーの大量消費によって支えられていると言っても過言ではありません。
 世界のエネルギー消費は、産業革命の起きた頃から増大を続けています。19世紀半ばには、1億トン(石油換算)程度だったものが、1990年には約80億トン(石油換算)となっています。前述のとおり、ここ40年間で世界人口は倍増していますが、この間世界のエネルギー消費は4倍以上になっており、一人当たりのエネルギー消費も倍増していることになります。エネルギー消費は、経済の発展状況、人々の生活の質等と密接な関係があり、第二次世界大戦後の大量生産と大量消費に依存する社会の到来とともに、エネルギー消費は急増しました。二度の石油危機により一時的にエネルギー消費の伸びは停滞しましたが、石油価格の低下等により再び消費量は増大し、現在もエネルギー消費の増大傾向が続いています。
 エネルギー消費には、地域差が大きく、例えば世界人口の約5%を占めるに過ぎない北米のみで全体の4分の1以上のエネルギーを消費しています。また、エネルギー消費の半分以上は、人口で6分の1弱を占めるに過ぎない先進国によって消費されており、一人当たり消費量で比較すると、先進国は、開発途上国の約9倍ものエネルギーを消費していることになります。
 国際エネルギー機関(IEA)によると、世界全体で、2010年には、1991年の約1.5倍のエネルギー消費が見込まれていますが、このうち先進国のエネルギー消費は、約1.3倍となるのに対し、開発途上国のそれは急激な人口増加や生活水準の向上等により約2.2倍となり、世界のエネルギー需要の約4割を占めると予測されています。開発途上国の人口増加は避けられず、また開発途上国の人々にも先進国の人々と同様に豊かで文化的な生活を営む権利があることは言うまでもありませんから、今後とも開発途上国を中心にエネルギー消費が大幅に伸びていくこととなり、省エネルギーやエネルギー利用の効率化への努力を続けるものの、21世紀は世界全体としては更に大量のエネルギーを必要とする時代となることは確実です。

(3)資源の制約
 現代社会は、石油文明と言われています。ガソリン、灯油はもちろんのこと、衣料品、日用品と身の回りは石油製品であふれており、石油なくしては日常生活が成り立たない状況です。
 IEAの統計によると1991年現在、世界のエネルギー消費の約39%を石油が賄い、石炭は約29%、天然ガスは約22%、水力は約2%をそれぞれ賄っています。原子力は年々増加してはいるものの、まだ7%程度です。つまり、エネルギー消費の約9割は石油を始めとした化石燃料に依存しているわけです。
 近年は、石油の生産量が多く、価格も実質価格では石油危機以前の水準になっていることから、石油は無尽蔵にあり、いつでも安価に必要な量が入手できるかのように思われがちですが、化石燃料は再生が不可能な限りある資源であり、いずれは必ず資源制約が顕在化するということを十分認識しておく必要があります。
 現在のエネルギー資源の可採年数(確認可採埋蔵量を年生産量で割ったもの)は、石油、天然ガス、ウラン(核燃料リサイクルをしない場合)は数十年、石炭は200年程度とされています。これは、単純に言えば現在の水準で消費を続けていくと、21世紀にはエネルギー資源の状況は危機的なものになる可能性があるということを意味し、さらに、前述のようにエネルギー消費が今後とも拡大していけば、利用可能なエネルギー資源の枯渇はさらに早まる恐れがあるということを意味しています。
 また、石油などにはエネルギー資源としての用途のほかに、身の回りに不可欠な品々の原料としての用途もあり、エネルギー資源としての消費を減らすことが、貴重な資源を将来に残していくこととなります。
 資源制約を考える場合には、我々の時代に資源が豊富にあるかどうかという観点で捉えることは、必ずしも適当ではありません。石油は、地球が何億年という歳月をかけて生んだ貴重な資源であり、このままでは人類はこれをたかだか200年程度の間に使い切ってしまうことになりかねません。たまたまこの恵まれた時代に生きる我々としては、できるだけ後世代にもその恩恵が及ぶよう大切に使うことが必要です。
 21世紀には、資源制約が顕在化し、人類の活動基盤を脅かすことが懸念されます。

(4)地球環境問題の深刻化
 近年、地球温暖化、酸性雨等の地球環境問題が内外の大きな関心を呼んでいます。
 このような議論の嚆矢となったのは、1972年にローマクラブにより発表された「成長の限界」ですが、以来、人類の活動がこのまま拡大していくと地球そのものの包容力が限界に達し、人類と地球の将来に深刻な危機をもたらすという可能性が認識されるようになりました。大気中の二酸化炭素等の温室効果ガス濃度の上昇による地球温暖化、酸性雨、オゾン層の破壊による紫外線の増加、砂漠化、森林破壊、海洋汚染、野性生物種の減少等地球環境問題は多岐にわたっていますが、とりわけ、地球温暖化問題は、その主要原因物質とされる二酸化炭素が人類の活動から不可避的に発生し、人類の生存基盤に深刻な影響を与えかねないため、その解決が強く望まれています。
 森林の伐採等も二酸化炭素濃度の増加を促進していますが、前述のように人口やエネルギー消費の増大に伴い、化石燃料の消費量が拡大してきたことが、二酸化炭素の俳出量の増加の大きな要因となっています。二酸化炭素濃度は、産業革命前には約280ppmでしたが、1990年には約353ppmになっており、近年は、毎年1.8ppmずつ増え続けています。また、現在の二酸化炭素の排出量は年間約60億トン(炭素換算)に達しています。将来の地球温暖化の予測は、不確実性が大きく困難な状況ですが、一つの試算として、国連環境計画と世界気象機関が共同で設置した「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が行ったものがあります。それによると、二酸化炭素等の排出などについて特段の方策を採らなければ、21世紀末までには約3℃平均気温が上昇するという予測が示されています。氷河時代においても、平均気温は現在より約5℃低かったに過ぎないとされていることを考慮すると、わずか100年間で3℃も気温が上昇するということは、脅威的な事態であり、人類の生存自体が脅かされることになりかねません。
 21世紀は、地球環境の変化により人類が生存基盤を脅かされかねない時代です。

(5)冷戦後の国際社会が直面する諸問題
 これまで概観してきた諸問題は、21世紀の地球社会を念頭に置いて、原子力開発利用を考えるという観点から取り上げたものですが、今日、原子力開発利用を適切に展開していくためには、狭い意味で原子力に関連する情勢を把握していくだけではなく、広く政治、経済なども含めた国際情勢にも十分配慮して対応していくことがとりわけ重要になってきています。
 このような国際情勢は、人口、エネルギー等のように統計的に長期予測を示すことは困難ですから、ここでは冷戦後の国際社会が直面する諸問題について、現状認識を中心に示すこととします。
 1991年のソ連の解体により、戦後の国際社会の枠組みを形成してきた米ソ両大国の対立を中心とした冷戦構造が崩壊し、国際社会は、大きな変革期を迎えています。米露協調の進展という国際環境の中で世界各地における地域紛争は解決に向けて動き出し、先進民主主義諸国では、一時、世界の将来に対する期待感が広がりました。しかし、これは長くは続きませんでした。今日では、ロシアの不安定な状況、兵器拡散問題、旧ユーゴスラビアにおける紛争の激化などに加え、先進国経済の低迷、依然として深刻な開発途上国問題など悲観的材料が目に付くようになっており、むしろ将来に対する不安感、不透明感は増大しています。
 米ソの二極構造が崩壊した結果、冷戦構造の下では表面化しなかった民族・部族対立や宗教的対立に根ざす新たな紛争が顕在化する危険性が高まっています。開発途上国問題は、イデオロギーを離れて対応することが可能となり、世界全体の平和と繁栄を確保していく上で不可欠の問題として本格的に取り組むことが必要になっていますが、先進国の財政困難を背景として、援助疲れや旧ソ連、中・東欧諸国への関心の傾斜も見られます。また、世界の政治経済は、相互依存の深化やグローバル化が進展し、多数国間の協調と協力がますます重要になっていく一方で、欧州、北米、アジア太平洋地域で見られるように地域協力の動きも活発化しており、特にアジア太平洋地域は急速な経済成長を続けている地域としても注目されています。地域協力は地理的、歴史的背景の下、それぞれの地域に適合する協力を進めていくものであり、その活動が世界全体に貢献することが期待されますが、そのためにもこのような地域協力は世界的なシステムと整合性を確保しつつ進められることが極めて重要です。
 冷戦の終結は、国際政治におけるイデオロギーの役割を低減させ、経済力、科学技術力の重要性を高めました。世界各地において民主化、市場経済化に向けた努力が進められていますが、必ずしもその成果は一様ではありません。このように国際社会は試行錯誤の中にありますが、これまでの努力の中でおぼろげながらも、21世紀の地球社会の行方が徐々に浮かび上がりつつあります。
 このような転換期においては、国際社会において、自由、民主主義、人権、市場経済といった基本的価値を共有する諸国が協力し、これら共通の価値に基づく平和と繁栄を築いていくことがまず重要と考えられます。また、世界経済の活力を維持・強化していくこと、特に、世界の平和と繁栄に主要な責任を持つ先進民主主義諸国の経済の持続的成長を確保することも重要です。
 米国も含めいかなる国も国際社会の抱えるこうした課題を一国で解決することはできません。日本、北米諸国、西欧諸国は、このような国際環境の中で、重要な責任と役割を持つようになってきています。これら諸国が、今日の国際社会の指導理念となっている基本的価値に基づき密接に協力することなくしては、転換期の世界が直面する諸問題に有効に対処することは困難になっています。

(6)21世紀地球社会への期待
 21世紀に向けて紛争のない安定した新たな国際社会が実現されることは、人々の願いです。今日多くの開発途上国にあっては人々が依然貧困に苦しんでおり、これらの開発途上国が困難を克服し、経済社会の開発に取り組むことは、世界の平和と繁栄に不可欠です。
 真の平和は、単に紛争がないということだけにとどまらず、自由、民主主義、人権といった価値を保障するものでなければなりません。これらの基本的価値が、地球上のより多くの人々によって共有されることが望まれますが、現実に人々が生きている世界は歴史、民族、宗教、自然、文化など背景が異なり自ずと多様な価値観が存在しています。21世紀社会においては、このような多様な価値観を包含しつつ、国際社会が協調して基本的価値に基づく世界の平和と繁栄を確固たるものにしていくことが期待されます。
 人口問題、貧困問題、エネルギー問題、環境問題等はそれぞれ密接に関連しており、人類は地球の限界を超えないよう配慮しつつ、これらを調和させながら持続可能な発展を遂げていかなければなりません。地球を慈しみ自然と共生して初めて人類は末永く生きながらえることが可能になります。そのためには、大量生産、大量消費、大量廃棄を前提とした20世紀型技術文明を克服し、人類の母なる地球を甘えの対象ではなく、いたわりの対象として認識することから出発する新たな価値観に立脚した、いわゆるリサイクル文明を創造していくという気持ちが大切です。
 これは、人々に価値観の変更やライフスタイルの変更を迫るということでもあります。自分のことのみならず隣人、他国の人々、さらには子孫のことにも思いを致すことが大切です。省エネルギーに努めることはもちろんのこと、資源の有限性を理解して各種エネルギーをその特質を活かしながら最大限有効に使うとともに、できるだけ地球に優しいエネルギー源を求めて研究開発を進めることが必要です。また、経済社会活動や日常生活の規範として環境負荷の低減に常に留意することが重要であり、廃棄物を減らすという考え方が大切です。21世紀は、思いやりのある環境調和型経済社会の形成に向かっていくことが期待されます。
 科学技術は、これまでも人類の歴史とともに発展してきましたが、資源問題、エネルギー問題、環境問題等が眼前に大きく立ちはだかるような状況において、これらの課題の解決に科学技術が果たすべき役割は従来にも増して大きくなってきており、この期待に沿うべくこれを発展させていくことが望まれます。
 原子力開発利用についても、こうした21世紀への期待に応えるという視点を見失うことなく、これを展開していくことが重要です。

2.原子力平和利用の役割

 前節では、現状から予測される21世紀の地球社会が直面する諸問題とそれらに対処していくための方向について言及しました。その上に立って、本節では、より望ましい21世紀を創造するために、グローバルな意味で原子力平和利用が果たし得る役割について考えます。もとより、原子力は地球社会全体を考える上での多様な要素の一つに過ぎませんが、これからの原子力を考えるに当たっては、原子力分野の出来事や状況を勘案するだけでは不十分であり、前節に述べたような状況を念頭に置きながら、大きく人類社会の発展とのかかわりという観点からも原子力を捉えてみることが重要です。実際、21世紀を見通す上でエネルギー問題の展開は極めて重要な要因であり、とりわけ原子力は、前節で述べたような諸問題に対処していく上で大いに貢献できる可能性を持つものですから、その進展の如何は21世紀の地球社会に大きな影響を与えるものと考えられます。

(1)豊かで潤いのある生活の実現
 人は皆、豊かで潤いのある生活を望み、その実現を追及する権利を持っています。そのような暮らしは、必ずしもエネルギーを大量に消費することによって実現するわけではありませんが、エネルギーは経済社会や日常生活を支える基盤ですから、一定量のエネルギーは安定的に供給していくことが必要であり、既に見てきたようにその量は地球規模で今後一層拡大していきます。
 現在、世界のエネルギー消費の9割以上を化石エネルギーに依存していますが、資源制約や環境制約などを考慮すれば、非化石エネルギーが今後一層大きな役割を果たしていくことが望まれます。
 太陽光、風力などの新エネルギーの開発に寄せられる期待は大きく、分散型エネルギーとして原子力などと共生することが期待されますから、将来のエネルギー供給に一定の役割を果たせるよう長期的観点からこれらの研究開発を進めていくことが重要です。しかし、新エネルギーは、エネルギー密度が低い、あるいは自然条件に左右されやすい、といった性質を内包しており、現在のところ、経済面、技術面等において解決すべき課題が多く残されています。このため、世界的に見た場合にはエネルギー供給源として実質的な役割を果たすには至っておらず、また近い将来において現実的な大規模なエネルギー源としての役割をこれらに期待することは困難です。
 このような中で、原子力は技術面、経済面等の基本課題を克服し、すでに現実の安定したエネルギー源としての地位を占めており、将来的にも大規模なエネルギー供給源として一層大きな役割を果たしていくことが期待できます。
 また、エネルギー利用と並ぶ原子力の重要な柱と言うべき放射線利用も生活に密着した多様な可能性があります。医療、農業、工業、生命科学、基礎研究などのほか、環境保全の分野においても研究開発、実用化が着実に進められています。
 原子力は、人間らしい生活基盤の維持・形成を保障するために不可欠なエネルギーという観点や放射線利用の観点から、既に生活に密着したものとなっていますが、豊かで潤いのある生活の実現のため、今後、その役割はさらに増大することが期待されます。

(2)地球環境と調和した人類社会の持続的発展
 現在のエネルギー供給の約9割が化石エネルギーであり、また人口やエネルギー消費が今後とも増加していくことは、既に見たとおりですが、需要に応じて安易に化石エネルギー資源を消費していくと、来世紀には資源制約が顕在化する可能性があります。原子力の導入は、この資源制約を緩和していくための一つの有効な方法です。とりわけ、核燃料リサイクルは、有限なウラン資源を飛躍的に有効利用でき、長期的には人類社会にとって重要な役割を担うことが期待できます。また、エネルギー資源には各々特徴がありますから、特徴を活かして使うことが大切であり、原子力で代替可能な用途には原子力を使い、貴重な化石エネルギー資源をより適切な用途に充当していくという考え方が大切です。
 石油を始めとする化石エネルギー資源は、入手しやすく、技術的にも使い勝手の良い資源ですが、人間活動に起因する二酸化炭素排出量の約8割は化石エネルギーの消費に伴うものと考えられ、また酸性雨の原因物質である硫黄酸化物、窒素酸化物の発生も化石エネルギーの消費によるところが大きいことなど地球環境への影響という観点からは大きな課題を抱えています。
 一方、原子力は、二酸化炭素、窒素酸化物等を発電の過程において排出せず、また、施設の建設や燃料生産過程等を含めても、他の発電方式に比べて圧倒的に二酸化炭素等の排出が少ない(我が国を例にとると二酸化炭素の排出量は石炭火力を100とした場合、石油火力の74、天然ガス火力の66に対し原子力は2という試算があります)という長所があり、原子力の導入は地球温暖化の防止などに有効です。
 また、ウランやプルトニウムは単位重量当たり石油の約200万倍ものエネルギーを持っていますが、このことは、原子力エネルギー、すなわち原子核の反応により発生するエネルギーが、化学反応によりエネルギーを発生する化石エネルギーに比べ、エネルギー源としての潜在的性能において本質的に優れていることを示しているのみならず、原子力によりエネルギーを取り出す際に発生する廃棄物の量が、他のエネルギー源で同じエネルギー量を取り出す場合に比べて圧倒的に少なくなるということにつながっています。我が国を例にとると原子力施設から発生する放射性廃棄物は国民一人当たり年間約85g(うち、高レベル放射性廃棄物は約3g)です。高レベル放射性廃棄物の処分については、環境への影響を懸念する向きもありますが、安全は十分に確保されることについて技術的な見通しが得られつつあります。
 このように、原子力は人類社会が地球環境と調和しながら、今後とも持続的な発展を遂げていくための有力な手段となることが期待されます。

(3)21世紀地球社会の条件整備への寄与
 21世紀の国際社会が安定化するための条件の一つは、経済社会を支える基盤となっているエネルギー資源が各国に行き渡ることです。資源の確保をめぐる国際紛争や国際的な摩擦、緊張がこれまでに幾度も生じたことは歴史が示すところです。経済力を背景に資源を購入するということは、自由な市場経済の下では正当な行為ではありますが、石油を始めとする便利で使い勝手の良い化石エネルギー資源を経済力を持つ国が独占し、開発途上国にそれらが行き渡らなくなるということは、国際社会の安定化を妨げる大きな要因になります。これを避けるためには、地球的視野でエネルギー源の選択肢をできるだけ多様化していくことが重要であり、原子力はその重要かつ現実的な柱です。また、原子力は準国産エネルギーとしての性格を持っているため、その導入国にとっては単なる選択肢の多様化以上にエネルギーセキュリティ上意味があります。原子力発電を導入するには一定の技術水準が不可欠であり、開発途上国の多くが直ちにこれを導入することは困難ですが、先進国が積極的に原子力を導入することによって化石エネルギー資源の需給が緩和されれば、開発途上国も必要な量の化石エネルギー資源が安価に入手できるようになります。また、原子力は現在は主として先進国のエネルギー源ですが、長期的にはより広く世界にとって重要なエネルギー源になる可能性があり、エネルギー資源をめぐる国際社会の安定化にも貢献するものと期待されます。
 地球環境間題は、将来の人類にとって重大な脅威となる可能性があるのみならず、これへの対応如何によっては先進国と開発途上国との対立を招く恐れもあります。このような中、先進国が原子力発電の導入により二酸化炭素等の排出を削減していくことは、開発途上国との関係においても望ましい対応策の一つであり、原子力は地球環境という観点からも国際社会の安定化に貢献します。
 このように、原子力は、先進国と開発途上国とが競合するエネルギーではなく、その導入の恩恵が導入国のみならず他の国々に及ぶエネルギーという特質を持っていますから、エネルギー資源問題、地球環境問題の解決に貢献しながら、国際社会の安定化に貢献できるエネルギーです。
 また、原子力技術は広範な科学領域に立脚し、各種の先端技術や極限技術などを総合する巨大なシステム技術としての特質を持ち、幅広くかつ高度な技術や知識を集大成するものと言うことができます。このため、原子力技術の向上を目指した研究開発を推進することは、原子力技術を構成する広範な科学技術の水準の向上に貢献し、原子力分野のみならず広範な科学技術分野において新たな知識や革新的技術を創出し、21世紀社会の基盤となる知的資産の形成に貢献していくことにつながります。
 冷戦終了後の国際社会が軍事重視から民生重視に移行するとすれば、原子力もまた、その民生利用(平和利用)の面で大きな役割を担っていくことが予想されます。現在、「冷戦の遺物としての核兵器」の解体に伴い発生する核物質の取扱いが国際的な重要課題となっていますが、この核物質が再び軍事目的に使われないようにすることが基本であり、その解決策としてこれらの核物質を原子力発電の燃料に使用するという考えもあります。これが実現することになれば原子力軍事利用の後始末に原子力平和利用技術が貢献するというこの時代の流れを象徴するかのような現象を見ることになります。原子力の歴史を顧みれば、冷戦構造下において、不幸なことに原子力は核兵器による抑止力として国際社会の秩序を維持するという側面を持っていましたが、21世紀には原子力は軍事のくびきを離れ、本来期待されるべき人類の福祉への貢献という平和利用分野で国際社会の安定、発展を支えていくことが切に望まれます。

第2章 我が国の原子力開発利用の在り方

1.我が国の原子力開発利用の日標

第1章においては、21世紀の地球社会を展望し原子力の役割を概観しましたが、本節では、それを踏まえつつ、我が国としていかなる目標を掲げて原子力開発利用を推進していくべきかということを示します。

(1)エネルギーの安定確保と国民生活の質の向上
 我が国が原子力開発利用を推進してきた最大の理由は、エネルギー資源を安定的に確保し、国民生活の水準向上に寄与するためです。
 既に我が国は十分に豊かな社会を実現しているという見方もあり、エネルギーの浪費は厳に慎むべきですが、国民の多くは省エネルギーを重視しつつも今後とも豊かで快適な生活を送ることを望んでおり、また、今後相当程度の省エネルギーに努めることを前提とした試算によっても、なお国内のエネルギー需要は、2010年度には1991年度の約1.2倍に増加する見通しです。また、1970年度には約26%であった電力化率(一次エネルギー総供給量に占める電力向け投入量の割合)は、1991年度に約40%に高まっており、エネルギーの中でも便利で安全な電力の消費量は、我が国が高度情報化時代に入っていくことともあいまって今後とも増大していくことが予想され、質の良い電力の安定した供給を維持していくことの重要性は一層高まっていきます。
 ところが、我が国のエネルギー供給構造は極めて脆弱です。エネルギーの輸入依存度は8割を超え(83.6%)、エネルギーの石油依存度は約6割(58.0%)に達し、その石油はほぼ全量(99.6%)を輸入(石炭や天然ガスもそれぞれ94.4%、96.0%を輸入)に依存しています。これは、米国(エネルギーの輸入依存度は16.4%)、ドイツ(同52.7%)、フランス(同51.7%)、英国(同1.3%)などの主要先進国に比べて極端に不安定なエネルギー供給構造と言えます。また、我が国は、アジアの島国であり、欧州に見られるように国境を越えて諸国が互いに電力を融通する仕組みの中にありません。
 原子力は、技術集約型エネルギーとしての特長などに着目すると準国産エネルギーと考えることができますから、我が国のエネルギー供給構造の脆弱性の克服に貢献する基軸エネルギーとして位置付けて、これを推進していくこととします。さらに、ウラン資源にも限りがあり、また我が国にはウラン資源はほとんど存在しないことを踏まえると、ウラン資源を最大限有効に利用するという考え方が重要であり、我が国においては、使用済燃料は再処理して、回収したプルトニウム、ウラン等を再び利用していくという核燃料リサイクルの推進を今後とも政策の基本とします。
 エネルギー政策は、資源、技術力など各々の国の国情によって差があることが当然であり、エネルギー資源に恵まれない我が国としては技術力を活かした方法でエネルギーを確保していくことが必要です。
 また、原子力は、電力供給の観点から日常生活に不可欠な役割を担っていることは言うまでもありませんが、放射線利用についても、医療、農業、工業、生命科学、基礎研究、環境保全など広範な分野で普及しています。今後、高齢化社会が本格的に到来するとされている中で、放射線を利用した環境条件の向上や重粒子線によるがん治療技術の研究開発にみられるような、質の高い健康維持など身の回りの生活を豊かなものとする上で一層その役割が大きくなると考えられます。
 このように、我が国の原子力開発利用は、まず第一にエネルギーの安定確保と国民生活の質の向上を目指すものです。

(2)人類社会の福祉の向上
 原子力開発利用を推進していくに当たっては、我が国は独り自国の短期的繁栄のみを目指すのではなく、常に人類社会への貢献という視点を持ちつつ、これに取り組むことが必要です。
 前述のとおり、先進国が原子力発電を導入することにより、化石エネルギーの廉価・安定供給の観点や二酸化炭素の排出低減など地球環境保全の観点で開発途上国も含め世界全体にその恩恵が及ぶことから、我が国が原子力開発利用を積極的に推進していくことは、それ自体が結果的に国際貢献になっていますが、これを受動的に捉えるのではなく、エネルギー資源を大量に消費する一方、豊かな経済力と高度の科学技術を併せ持つ我が国が、その経済力を単に資源の購入に用いることなく、それらを活かして原子力開発利用に取り組むことは、我が国の国際的な責務と考えられます。また、このことは、その恩恵が、単に現代の世代のみならず、我々の子孫にも及ぶことを考えれば、後世代に対する責務ともいうことができます。
 我が国は、原子力開発利用の推進を「地球温暖化防止行動計画」に組み込んでおり、今後とも地球環境保全という観点を重視しつつ原子力開発利用に取り組んでいきます。
 また、我が国が原子力開発利用に取り組むに当たっては、人類にとってのエネルギー供給の多様化を図るという姿勢が重要ですが、この観点からは、まず現在、原子力発電を行っている国が原子力発電システムの信頼性を一層向上させていくこと、さらにはそれを世界的に普及させていくことが重要です。一方、核燃料リサイクルについては、技術的・経済的能力、核不拡散の確保等を考慮すれば、短中期的にはこれに取り組むことのできる国は限られており、我が国としてもこれを世界に普及させていくことには十分慎重でなければなりませんが、これを必要とし、かつその能力を持つ我が国は、将来の人類のエネルギー供給源の選択肢を広げていくとの認識の下にこれに取り組んでいきます。我が国は科学技術先進国として、核燃料リサイクルを推進するとともに太陽光などの新エネルギーや核融合などの研究開発を推進し、エネルギー技術の共生、すなわち多様なエネルギー技術が互いに補完し合いながら使われていく人類社会の実現を目指していきます。
 進んだ科学技術を持ち、かつ経済的にも恵まれている我が国としては、原子力分野においても基礎的な研究の振興、積極的な国際協力等を進めていくことにより、いわば国際公共財ともいうべき成果を生みだし、これを国際社会に還元していくことが今後一層重要になっていきます。我が国は、原子力開発利用を通じて科学技術水準の向上など人類共通の利益を追求していくこととします。
 このように、我が国は、常に人類社会への貢献という視点を持ちつつ、原子力開発利用に取り組んでいきます。

2.原子力開発利用の大前提

 原子力基本法は「原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨」とすることを定めており、改めて言うまでもなく、我が国は原子力開発利用については、国民や国際社会の理解の下に、厳に平和利用に限り、安全の確保を大前提にこれを進めていきます。

(1)平和利用の堅持
 我が国が、核兵器を保有することは決してありません。
 広島、長崎という被爆体験を持つ我が国においては、被害の悲惨さは国民意識に深く浸透しており、核兵器の開発は全く考えられません。
 また、核兵器を保有することは、我が国をめぐる国際環境を不安定化させるだけであり、我が国の平和と繁栄の維持という国の目的に何の利益ももたらしません。
 我が国は、原子力基本法制定以来一貫して、民主・自主・公開の原則に則り、原子力開発利用を厳に平和目的に限って推進してきています。また、核兵器廃絶という国民の願いを込めるとともに原子力の平和利用を促進するため、「核兵器の不拡散に関する条約」(NPT)に加入しています。
 今後とも、原子力基本法の精神に則り、我が国の原子力開発利用を厳に平和目的に限り推進していくとともに、NPTを厳守し、世界の核不拡散体制の維持・強化に貢献していきます。また、原子力開発利用に関する国際協力に当たっても、この精神を貫いて具体的な国際協力に取り組んでいきます。
 昨今、一部の海外の論調等において、我が国が核兵器を開発するのではないかとの疑念が表明されています。我が国に対するこのような疑惑の表明は、唯一の被爆国として究極的には地球上からの一切の核兵器廃絶を願う国民の気持ちを踏みにじるものであり、日本国民にとってはおよそ信じられないことです。我が国は、国際社会から信頼される国として、自由貿易体制の中で、国際強調を基調として繁栄を享受していく道を選択していきます。核兵器開発により我が国にもたらされるものは、アジアを中心にした国際的緊張と反発、総合安全保障の喪失、国際的孤立とそれに伴う国内経済社会の破綻に過ぎません。しかしながら、海外にはこのような見方も存在するということについては十分認識して、誤解を解く努力を続けつつ、引き続き原子力の平和利用に取り組んでいきます。
 原子力委員会としても、国民の負託に応えるべく原子力平和利用の確保という責務を果たしていきます。

(2)安全の確保
 我が国においては、当初より、安全の確保なくしては、原子力開発利用の発展は有り得ないという観点から、何よりもまず安全の確保を重視して原子力開発利用に取り組んできており、この大前提は不変です。
 一般にあらゆる技術は危険性を含んでおり、人類はこれまでもその英知によりこれを克服してきました。原子力にも潜在的には危険性がありますが、現在までに培った知識や技術と安全優先の思想により、これを十分制御することができます。現に、我が国の原子力施設については、その安全は十分に確保されており、これまで周辺公衆に影響を及ぼすような放射性物質の放出を伴う事故は皆無です。その運転実績については、国際的にも高い評価を受けていますが、これに安住することなく今後とも厳重な安全規制、管理、防災対策を実施し、安全の確保に万全を期すとともに、原子力発電所の高経年化を踏まえた対策、シビアアクシデント対策などの安全対策や安全研究を一層充実させることにより、安全優先の高い意識を持った人間としっかりした技術基盤・組織体制などに支えられたより高度な「原子力安全文化」を築き上げていきます。
 安全の確保については、合理的で十分な安全水準の確保という観点、原子力人材の確保という観点、人に優しい原子力という観点を今後重視していきます。一方、安全水準の向上が必ずしも国民の安心感につながらないという実態も踏まえなければなりませんが、安全運転実績を地道に積み重ねることを基本に安心感の醸成に努めていきます。
 また、現在、旧ソ連・中東欧を中心とした地域における原子力の安全確保の緊要性が国際的にも認識されていますが、諸外国の安全確保の状況は、我が国の原子力開発利用にも影響を与えかねないとの観点も踏まえ、我が国としても国際的な原子力の安全確保に積極的に貢献していきます。

3.原子力開発利用の基本方針

 本節では、前述の目標、大前提の下で我が国が採るべき原子力開発利用の基本方針を明らかにします。

(1)原子力平和利用国家としての原子力政策の展開
 我が国は、原子力開発利用を平和目的に徹して推進してきた結果、今日の成果を享受するに至りました。今後とも、この姿勢を堅持するとともに、平和利用に徹してきた国にふさわしい原子力政策を展開していくことが重要です。このため、核不拡散についての国際的信頼の確保、平和利用を指向した技術開発、平和利用先進国にふさわしい国際対応、情報の公開・提供に取り組んでいきます。
 核不拡散についての国際的信頼を確保するため、NPT及びNPTに基づく国際原子力機関(IAEA)保障措置体制を原子力平和利用と核不拡散を両立させる枢要な国際的枠組みとして維持・強化するとともに、自発的な努力をしていくこととします。一方、自らも平和利用の強固な意思を改めて明確にするとともに、核兵器関連の技術を持たず制度的にも実態上も核兵器開発の可能性は全くないということを示していくことが重要です。
 平和利用を指向した技術開発については、保障措置や核物質防護関連の技術開発を進めるほか、アクチニド(ウラン、プルトニウムのみならずネプツニウム等の核燃料として利用できる長寿命の元素)のリサイクル技術の研究開発等を進めます。また、平和利用の原子力は、安全性、信頼性、経済性が全体としてバランス良く優れているものでなければなりませんから、長期的視点に立った研究開発を着実に進めながら全体としてバランスのとれた市場経済型の原子力を追求していくことが重要です。
 平和利用先進国にふさわしい国際対応については、平和目的に限った原子力利用の普遍化を図ること、各国の原子力開発利用の安全性の向上に貢献することを基本に、主体性を持って積極的に国際協力を進めていくこととします。このため、共通する目標を持つ諸国と協調していくとともに、先端的な研究施設の国際的な開放などを通じてこれまで培ってきた研究開発の成果を世界に積極的に発信していきます。
 原子力基本法は、平和利用に限り原子力開発利用を行うことを確保するということを主眼として、その成果を公開することを定めており、これまでも公開に努めてきたところではありますが、原子力平和利用と情報の公開は密接不可分ということを十分踏まえて、今後一層情報の公開に取り組んでいくこととします。また平和利用の原子力は国民生活に密接に関連しているということを踏まえ、国民の選択としての原子力政策を進めていくことを心がけることが重要です。このため、正しい情報や知識を的確に国民に伝え、国民の中に安心感が醸成されるよう可能な限り、情報の公表、情報の提供を促進するなど国民の理解と協力を得ていくための施策を充実していきます。

(2)整合性のある軽水炉原子力発電体系の確立
 今日、軽水炉による原子力発電は安全実績を積み重ねつつ総発電電力量の約3割を担うまでになっており、軽水炉は高い信頼性を持つ炉型として定着しています。一方、近年、天然ウランの需給は緩和基調で推移しており、この傾向は当面続くものと予測されること、高速増殖炉の実用化までには取り組むべき技術的な課題が残されていること、高速増殖炉の実用化以降も軽水炉との併用期間が続くと見込まれることなどから、今後とも相当長期にわたり、軽水炉が原子力発電の主流を担うこととなると予想されます。
 この軽水炉主流時代の長期化をにらんで、その安全性、信頼性を確保しつつ、経済性の一層の向上に向けて努力していく必要があります。特に、原子力発電所の高経年化を踏まえた安全対策、放射性廃棄物の処理処分対策、廃止措置対策などを充実させていくことが重要です。
 軽水炉原子力発電を安定的に継続していくためには、ウラン資源を安定的に確保していくとともに、ウラン濃縮、ウラン燃料加工などをその規模や時期などの観点で適切かつ合理的な形で進めていくことが重要です。
 また、原子力施設の立地の円滑化は重要な課題です。事業者が中心となって、立地の促進に向けて立地地域と原子力施設が共生できるよう積極的に取り組むことが必要ですが、関係省庁も一体となってこれを支援していくこととします。
 整合性のある原子力発電体系という観点から残された最も重要な課題は、放射性廃棄物の処理処分と原子力施設の廃止措置(以下「バックエンド対策」といいます。)を適切に実施するための方策を確立することであり、これは原子力による便益を享受している我々の世代の責務です。バックエンド対策は、多種多様な放射性廃棄物の特性を踏まえて合理的に実施することとし、安全確保を大前提に、国民の理解と協力の下、責任関係を明確化して計画的に推進していきます。とりわけ、高レベル放射性廃棄物の処分は重要な課題であり、処分の手順、スケジュール、関係各機関の責任と役割等を明確に示しつつ、円滑に実施していくことが必要です。

(3)将来を展望した核燃料リサイクルの着実な展開
 エネルギー資源に恵まれない我が国が、将来にわたりその経済社会活動を維持、発展させていくためには、将来を展望しながらエネルギーセキュリティの確保を図っていくことが不可欠です。化石エネルギー資源と同様にウラン資源も有限であり、軽水炉利用を中心としてこのまま推移すれば21世紀半ば頃にもウラン需給が逼迫することも否定できません。このため、使用済核燃料を再処理して、回収したプルトニウム、ウランなどを再び燃料として使用する核燃料リサイクルの実用化を目指して着実に研究開発を進めることによって、将来のエネルギーセキュリティの確保に備えます。核燃料リサイクルは、資源や環境を大切にし、また放射性廃棄物の処理処分を適切なものにするという観点からも有意義であり、将来を展望して着実に取り組んでいきます。
 具体的には、発電しながら消費した以上の核燃料を生成し、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高めることができる高速増殖炉を、相当期間にわたる軽水炉との併用期間を経て将来の原子力発電の主流とすることを基本とし、原型炉から実証炉へと研究開発の段階を歩みながら2030年頃までには実用化が可能になるよう高速増殖炉による核燃料リサイクルの技術体系の確立に向けて官民協力して継続的に着実に研究開発を進めていきます。また、将来の高速増殖炉時代に必要なプルトニウム利用に係る広範な技術体系の確立、長期的な核燃料リサイクルの総合的な経済性の向上等を図っていくという観点から、一定規模の核燃料リサイクルを実現することが重要であり、商業規模の再処理工場の建設、運転経験を蓄積するとともに既存の軽水炉と新型転換炉による核燃料リサイクルの実現を図っていきます。
 核燃料サイクルの経済性については、現時点においては軽水炉による混合酸化物(MOX)燃料の利用は、使用済燃料を直接処分する場合に比べてそのコストは若千高いと見込まれているものの、総発電コストから考えれば本質的な差はなく、長期的視点に立って、燃料仕様の共通化等により経済性の向上に努めていきます。また、高速増殖炉による核燃料サイクルについては、革新的技術を段階的に取り入れていくことなどにより軽水炉並みの経済性を達成できる見通しが得られています。
 また、核燃料リサイクルを進めるに当たっては、核拡散に係る国際的な疑念を生じないよう核物質管理に厳重を期すことはもとより、我が国において計画遂行に必要な量以上のプルトニウム、すなわち余剰のプルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ、合理的かつ整合性のある計画の下でその透明性の確保に努めていきます。

(4)原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
 原子力技術は、核分裂エネルギーを利用した原子力発電という形態がよく知られていますが、核融合エネルギー、高温ガス炉による熱供給、舶用動力、放射線利用など原子力技術の応用範囲は極めて広範であり、今後とも多様な展開を図っていきます。
 核融合エネルギーは、必要な燃料資源等が地球上に広く豊富に存在すること、原理的に高い安全性を持つことなど優れた特長を持ち、人類の恒久的なエネルギー源の一つになることが期待されています。我が国は、自らの研究開発ポテンシャルを有効に活用し、主体的な国際協力の推進を図りつつ、核融合の研究開発を積極的に進めていきます。
 放射線利用は、医療、農業、工業など広範な分野への展開を通じて国民生活や福祉の向上に大きく貢献するものであり、エネルギー利用と並ぶ原子力開発利用の重要な柱として推進していきます。とりわけ、医療、環境保全など生活者を重視した利用技術の普及促進を図るとともに、近年性能の向上が著しい加速器や研究用原子炉から発生する新しいビームを活用した先端的研究開発を推進していきます。
 科学技術の発展は、常に進取の精神から生まれます。将来に向けてより優れた科学技術を生み出すために、向上心を持ったたゆまぬ研究開発に取り組む姿勢が求められますが、原子力は科学としても産業技術としても挑戦していくに値する魅力ある分野です。とりわけ、多様化、高度化する原子力のニーズに適切に対応し、国民の福祉の一層の向上を図るという観点や国際公共財ともいうべき知的ストックの蓄積に我が国が貢献するという観点から、既存の原子力技術の高度化のみならず、新しい原子力技術の創出が必要です。このため、原理、現象に立ち返った基礎研究を積極的に進めていくこととします。また、既存の原子力技術にブレークスルーを引き起こす可能性のあるフロンティア領域や将来の新たな技術開発の進展を生み出す基盤を形成する可能性のある技術領域についての研究を重点的に進め、幅広い技術基盤の強化を図ることとします。

第3章我が国の原子力開発利用の将来計画

 本章では、前章の考え方の下で進められる我が国の原子力開発利用の将来計画を具体的に示しました。

1.核不拡散へ向けての国際的信頼の確立

(1)平和利用の堅持と国際的信頼の確立
 我が国は、今後とも原子力基本法に則り、厳に平和の目的に限り原子力開発利用を推進していきます。
 我が国は唯一の被爆国であり、究極的には地球上から一切の核兵器を廃絶していくことが国民の悲願です。原子力委員会としても、国民の負託に応えるべく原子力平和利用の確保という責務を果たしていきます。
 原子力平和利用の透明性は、核不拡散体制上の義務を厳格に果たすことによって確保されますが、一方で、変動の激しい国際状況の中でどれだけ国際的な信頼を得ているかということも重要となっています。
 したがって、我が国が、核燃料リサイクルを始めとする原子力開発利用を推進していくに当たっては、より広い視野から、安全保障や国際政治経済等の動向を十分踏まえて、核不拡散や原子力国際協力に係る政策を確立していくことなどを通じて、国際的な信頼を得ていくよう努力しなければなりません。

(2)NPT体制の維持・強化
 NPTの目標は、核兵器の拡散防止、原子力平和利用の推進及び軍縮の促進です。この条約が、原子力平和利用と核不拡散を両立させる枢要な国際的枠組みであり、原子力平和利用の円滑な推進のためには核不拡散体制の維持・強化が不可欠であることに鑑みれば、この条約の無期限延長支持は妥当と考えます。
 我が国は核兵器の究極的な廃絶を望んでおり、この条約の無期限延長が現在の核兵器国による核兵器の保有の恒久化を意味するものであってはなりません。未加入国の早期加入を促進して同条約の普遍性を高めるよう努めるとともに、全ての核兵器国に対してより一層の核軍縮を働きかけることが重要です。
 また、NPTに基づくIAEAの保障措置を、全ての原子力活動について受けている我が国は、このようなNPT締約非核兵器国の一員として、NPT体制の中で原子力平和利用の利益を最大限享受できることを自ら示していく必要があります。

(3)新たな核不拡散努力
 東西冷戦の終焉とともに米露の核軍縮の動きが進展する一方で、旧ソ連における核兵器等の管理の不安定化や不安定地域における核拡散の問題という新たな核拡散の懸念が増大しています。
 旧ソ連における核拡散の懸念については、核軍縮を安全かつ確実に進めることが重要です。特に、核兵器の解体から生じるプルトニウム等の核物質は、再び核兵器に利用されないことが基本であり、これらは厳重な国際的計量管理の下に置かれるべきです。これらの核物質については発生国が自らの問題として適切に対処していくべきですが、諸外国が強調してこの問題の長期的な解決方策を検討していくことも重要です。我が国としても核軍縮の促進と核兵器の拡散防止の観点から重要な意義を持つものと認識して、平和目的に限って原子力利用を推進するとの基本方針に立って、発生国が行うこれらの核物質の貯蔵等に貢献していきます。
 核拡散の懸念のある不安定地域に対しては、NPTへの加入とそれに基づく保障措置の厳格な義務の履行を求めます。我が国としては、不安定地域に対するIAEA保障措置が適切に適用されるよう努めるとともに、不安定地域において相互信頼を醸成するための努力が当事者間で自発的にとられることが重要であるということを踏まえつつ、このような地域の安定化に努力していきます。
 さらに、IAEA保障措置の強化・合理化、核物質防護等への対応、原子力資機材等の輸出規制の強化に積極的に取り組んでいきます。

(4)我が国の自発的な核不拡散努力
 プルトニウム輸送を契機として我が国の核燃料リサイクル計画に対して国際的な懸念が示されていますが、このような懸念を払拭し、国際的信頼を得ていくための基本は、NPT体制に基づくIAEA保障措置を厳格に受け、また二国間原子力協力協定等に基づいて核不拡散措置を厳格に履行しながら、原子力開発利用を進めていくことです。
 今後、我が国においては民間再処理工場を始めとする原子力施設の増加に伴い保障措置業務が大幅に増加していくことが予想されますが、このような観点から保障措置の信頼性を維持していくため、査察、核物質の分析、情報処理等が十分な信頼性を持って実施できるよう必要な体制を整備していきます。今後とも国と民間事業者は、現在の核不拡散に関する制度を厳格に遵守し、実績を重ねるとともに、その核不拡散努力について適切に広報していくこととします。
 さらに、我が国は、核燃料リサイクル計画を国際的信頼を得つつ実施していくために、NPT体制から要求される義務に加えて、以下に述べる政策を自発的にとっていきます。
 すなわち、余剰のプルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ、合理的かつ整合性のある計画の下でその透明性の確保に努めるとともに、核燃料リサイクル計画の透明性をより高めるための国際的な枠組みの具体的に向けて努力します。また、我が国と既に核燃料リサイクルに係る協力関係にある国以外の国との協力に関しては、関係国とも調整しつつ慎重に進めます。さらに、核不拡散関連の技術開発を積極的に進め、アクチニドのリサイクル技術の研究開発など核不拡散にも配慮した研究開発にも取り組んでいきます。

2.安全の確保

(1)安全確保対策の充実
 我が国の原子力施設等は、国、民間、研究開発機関等の関係者の不断の努力によりその安全性は高い水準で維持されており、国際的にも優れた安全実績を示していますが、これに安住することなく、今後とも厳重かつ合理的な安全規制、安全管理に取り組むことにより世界に誇れる「原子力安全文化」を築いていくこととします。
 具体的には、最新の科学技術的知見を各種基準等へ反映させるとともに、今後増加する高経年原子力施設の安全確保のために、長期的視野からの方策を含め、国内外の故障、トラブル等から得られた教訓や最新の科学技術的知見を踏まえた予防保全に一層努めていきます。さらに、ヒューマンエラーの可能性の一層の低減、人間工学的観点からの研究、基礎基盤に立ち返った革新的研究開発等を積極的に進めていきます。

(2)原子力防災対策の充実
 原子力施設から環境への放射性物質の大量放出という不測の事態に備えるための原子力防災対策については、災害対策基本法に基づき国、地方公共団体等が協力して必要な措置を講じているところです。
 万一の事態にも十分対応できるよう、またひいては地元住民に安心されるよう、今後とも、安全確保対策の充実を図るとともに地方公共団体が実施する原子力防災活動を支援する情報システムの整備、原子力防災に関する研修の充実強化等に努めます。
 また、原子力施設等に係る安全の確保、防災体制等について所要の対策を講じてきていることが国民に理解されることは原子力に対する安心感の醸成にもつながるとの認識から、原子力防災対策の現状についての理解の増進を図っていきます。

(3)安全研究の推進
 原子力施設等の安全を確保するための安全基準、指針等は、最新の科学技術的知見や運転経験の蓄積を踏まえ、原子力施設等の改良等に対応して整備していく必要があります。原子力施設等に関する安全研究については、その安全性を今後とも高い水準に維持していくため、軽水炉の高度化、核燃料サイクル事業の本格化等の原子力開発利用の拡大と多様化に対応して、原子炉施設、核燃料施設、放射性物質の輸送、原子力施設の耐震、原子力施設等の確率論的安全評価等の分野について、これを実施していきます。環境放射能に関する安全研究については、環境・線量研究、生物影響研究、特定核種の内部被ばく研究、安全評価研究の分野についてこれを実施し、また、放射性廃棄物処分に関する安全研究については、放射性廃棄物の処分計画に対応してこれを実施していくこととします。
 なお、これらの安全研究は、原子力安全委員会が定める各種の安全研究年次計画に沿って実施していきます。

(4)国際的な原子力安全の確保
 原子力開発利用に当たっては安全の確保が大前提であることやある国の原子力施設の事故等が他の国民の不安を招くことも見受けられることなどから、原子力安全の確保の問題は、国際的に共通する課題として各国が協力して取り組むことが重要になってきています。
 原子力安全の確保は、原子力活動を実施する者とその国が一義的な責任を持つべきものであることは言うまでもありません。しかし、我が国は、原子力発電所等の建設・運転に関して、豊富な経験があることから、世界における原子力安全の問題を敏感に受けとめ、その解決に積極的に協力し、安全性の向上に貢献していくことが重要です。
 具体的には、世界の原子力施設に係る故障やトラブル等の情報の収集、分析、評価等において、主導性を発揮し、国際機関を通じた協力や二国間の協力に参加して世界の原子力の安全性向上に向けて努力を続けていきます。また、安全研究や安全規制の充実の面においても引き続き積極的に国際協力を行っていきます。
 旧ソ連、中・東欧諸国における原子力安全の支援に関しては、今後とも二国間や多国間の枠組みを通じて、諸外国の実施する支援と調整しつつ、それぞれの国における経済状況、エネルギー事情等を十分勘案して、短期的な技術的改善等に係る措置を着実に進めるとともに、長期的視点から、安全確保体制の充実等に向けて、人材の派遣、研修機会の提供、規制関係情報の提供等を進めていきます。
 近隣アジア地域や開発途上国との協力に当たっても、安全確保に重点を置いて協力を進めていくこととします。これらの国においては、特に原子力安全規制体制の整備が急務となっています。このため、相手国の国情や計画に合わせて安全規制に従事する人材の養成、規制関係情報の提供等の協力に行っていきます。また、安全確保のために必要な研究基盤、技術基盤及び緊急時体制の整備にも積極的に協力していきます。
 現在、国際的な原子力施設の安全確保を目的として進められている「原子力安全条約」の策定作業については、我が国も積極的に取り組んできたところであり、実効性のある条約の早期成立のために引き続き努力していきます。

3.国内外の理解の増進と情報の公開

(1)国民の理解の増進と情報の公開
 原子力開発利用を円滑に進めていくためには、「国民とともにある原子力」でなければならず、そのためには、まず国、原子力事業者に対する国民の信頼感、安心感を得ることが重要です。
 信頼感、安心感の醸成には安全確保や核不拡散の実績を着実に積み重ねることが第一ですが、国民参加型の意見交換の場等を通じた国民が納得できる行政運営に努めることも重要です。また、行政は国民の支持の下に推進されるべきものですから、国民が判断する際の基礎となる情報を適時的確に提供していくよう努めることが重要です。
 情報の提供については、従来から努力してきたところですがなお不十分という声が国民の中にあります。
 その背景として、まず、公開情報が不当に制限されているという意識があることが考えられ、さらには、知りたい情報が公開されてはいるものの、情報へのアクセスが困難であったり、内容が難解であったりするため公開感が得られていないということが考えられます。前者については、公開を原則とします。もちろん、核物質防護、核不拡散、財産権の保護に関する情報など非公開とすべきものはありますが、都合の良い情報のみを選択的に提供しているとの非難を受けることのないよう一層配慮していくこととします。後者については、情報公開そのものというよりはむしろ広く情報提供という観点で捉え、情報ネットワークを活用した情報提供、「草の根」的な広報、体験型の広報など実効性のある事業を体系的に実施していくとともに、多様な組織との連携の促進等を通じて広報事業そのものの周知を図っていきます。また、情報提供という観点から報道機関の果たす役割は極めて重要ですから、報道関係者に対し、正確で客観的な情報を適時的確に提供するよう努めます。
 より多くの人々が原子力に対する客観的な判断力を持つようになることが期待されますが、将来を考えると青少年に対する原子力についての正確な知識の普及はとりわけ重要であり、このことは今後の原子力分野の人材の裾野を広げることにもつながります。その際、原子力のみを特殊な分野と捉えることなく科学技術、エネルギー、環境等との関連でバランスよく正確な知識を普及していくことが重要です。このような観点から、青少年の原子力に関する学習機会を確保・充実するため、研修施設の整備、科学館等における展示の充実や青少年にも分かりやすい資料の充実等に努めていきます。また、学校教育に原子力を取り上げることの重要性に鑑み、関係省庁の緊密な連携の下、現場のニーズに応じた教師の研修など具体的方策を拡充していきます。

(2)国際的な理解の増進
 近年、核不拡散や原子力の安全確保に関する関心が、国際的に高まっています。その中で、我が国の原子力開発利用を円滑に進めていくためには、世界の国々から理解と信頼を得ることが必要です。そのため、我が国の原子力開発利用の意義、計画の具体的内容について、合理性を確保することはもちろんのこと、我が国の原子力開発利用の推進が、世界のエネルギーの安定供給に寄与することや、我が国の原子力平和利用に関する技術が世界の原子力の安全性向上などに役立つことを示すことも国際的な理解の増進につながると考えられます。また、過去30年以上にわたって、厳しく平和利用に限るとともに核物質が核兵器に転用されないよう万全の措置を講じていること、安全を確保してきたことの実績を積極的に示していく努力が必要です。
 特に、我が国の核燃料リサイクルへの取組に対する理解を得るため、積極的な広報活動を行う必要があります。このため、核燃料リサイクルを推進する意義、計画の具体的内容、核不拡散努力等について説得力のある情報を各国との協議の場で提供して理解の促進を図っていくとともに、積極的に広く海外に情報を発言するような体制を確立していきます。また、核不拡散に配慮しながら、核燃料リサイクル関係施設への訪問や技術者との対話の機会を広く海外の関係者に提供し、実態に即した理解を得られるよう配慮します。

4.原子力発電の将来見通しと原子力施設の立地の促進

(1)原子力発電規模の見通し
 現時点における商業用原子力発電の設備容量は、3837.6万kWであり、総発電電力量の約3割(1992年度実績で28.2%)を賄っています。
 今後の原子力発電の開発規模については、2000年において約4560万kW、2010年において約7050万kWの設備容量を達成することを目標とします。また、電力供給における原子力発電の割合は今後とも着実に拡大し、商業用原子力発電の総発電電力量に占める割合は2000年において約33%、2010年において約42%を占めるものと見込まれます。
 さらに、長期的展望としては、2030年における原子力発電の設備容量は約1億kWに達することが期待されます。

(2)原子力施設の立地促進
 我が国の商業用原子力発電所の立地地点(サイト)は、現在17サイト(46基)であり、要対策重要電源として新規7サイトを含む12サイトが挙げられています。
 今後、上述の原子力発電容量を確保していくには、既存サイトでの増設に加えて新規サイトの確保が必要となりますが、原子力発電所の立地には計画から運転開始までのリードタイムが長期に及ぶことを考慮すると、早急に新規サイトの確保に向けて対策を充実させていくことが必要です。また、核燃料サイクル施設や核燃料サイクル確立のために必要な関連施設の立地対策も重要です。
 原子力施設の立地促進については、これまで国、地方公共団体、事業者等の積極的な立地促進活動等が一定の成果を挙げてきたものの、国民の意識の中から原子力に対する不信感、不安感が依然として払拭されていないことも一因となり、立地は年々困難になってきており、また、立地に伴う地域振興効果を期待する地元の声も、ますます多様化してきています。原子力施設の立地による波及効果を地域の長期的発展に結びつけることが重要ですが、その際、既存立地地点における地域の発展状況が、新規立地予定地点での理解を深める上で意義が大きいことにも留意する必要があります。原子力施設の立地促進の主体は事業者、地元の地域振興の主体は地元地方公共団体であることは言うまでもありませんが、国としても立地円滑化の観点から地元と原子力施設が共生できるよう、関係省庁が一体となって地元の地域振興に一層きめ細かな支援を進めていきます。また、立地地域において、マスメディアを通じた積極的な広報などの理解促進策を展開していくほか、用地取得の円滑化を図ります。また、中長期的観点から、第四紀層立地、海上立地、地下立地等の新規立地方式の研究や耐震設計高度化による立地技術の高度化に取り組んでいきます。

5.軽水炉体系による原子力発電

(1)軽水炉の高度化
 軽水炉は、世界で最も広く利用され、また我が国においても既に十分な実績を持った炉型であり、今後長期間にわたり我が国の原子力発電の主流を担うものと予想されます。
 軽水炉発電については、官民の協力により、安全性の一層の向上を図ることはもとより、これまでの安全実績を支えてきた高い品質を維持した上での経済性の向上に対しても不断の努力を続けることが望まれます。
 今後の技術開発に当たっては、一層の安全の確保に積極的に取り組むとともに、原子力産業全般における技術力の維持・向上、人材確保の動向等原子力発電を取り巻く情勢に的確に対応し、設計、運用の両面から技術の高度化を図っていくこととします。
 具体的には、故障やトラブル等の再発防止対策、さらには定期安全レビュー、高経年原子炉対策、シビアアクシデント対策等の総合的な予防安全対策等の一層の充実に努めつつ、システムの簡素化や操作の自動化等によるヒューマンファクターに係る対策、確率論的安全評価手法等最新の知見を活用した安全設計・安全評価、作業員の被ばく低減等を図るための自動化技術の高度化、さらに安全の確保を大前提とした運転管理の高度化に取り組んでいくとともに、プラント全運転期間中の効率的な運転・保守を行うための総合的な設備管理方策について検討していきます。
 また、長期的な視点を踏まえ、高燃焼度化燃料、MOX燃料への対応等を考慮した燃料・炉心機能の高度化、受動的安全性の概念等を取り入れた将来型軽水炉や中小型炉についての調査・研究等に取り組むこととします。

(2)ウラン資源の確保と利用
①天然ウランの確保
 天然ウランの累積所要量は、2000年、2010年、2030年において、それぞれ16万トンU程度、28万トンU程度、60万トンU程度と予想されます。経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)とIAEAの共同報告によると、1992年時点の我が国の需要量は世界の約13%を占めており、今後この割合は増加するものと予想されていますが、我が国の原子力開発利用の自主性、安定性を確保するという観点から、長期購入契約、自主的な探鉱活動、鉱山開発への経営参加等供給源の多様化に配慮し、天然ウラン資源の安定確保に努めていくこととします。
 自主的な探鉱活動については、動力炉・核燃料開発事業団による海外における調査探鉱を引き続き実施します。なお、民間においても必要に応じ探鉱活動を実施し、天然ウランを確保していくことが重要であり、国はこれに必要な助成を行っていきます。

②ウラン濃縮
 ウラン濃縮の年間役務所要量は、2000年、2010年、2030年において、それぞれ5000トンSWU/年程度、7000トンSWU/年程度、10000トンSWU/年程度と予想されます。2000年においては、OECD諸国の濃縮役務需要の約2割となり、その後もこの割合は増大するものと予想されます。ウラン濃縮役務については供給能力が世界的に過剰な現在の状況が2010年過ぎにおいてもある程度の期間続くものと推定されますが、濃縮ウランの安定供給や核燃料サイクル全体の自主性を確保するという観点から、経済性を考慮しつつ、国内におけるウラン濃縮の事業化を進めていくこととします。
 ウラン濃縮原型プラントは、順調な運転を継続し、初期の目的である国内民間濃縮事業の確立に活かされており、さらに現在の運転サイクル以降の運転についても、同プラントが国内民間濃縮事業の円滑な推進のための役割を担うとの観点から、その利用を検討していきます。
 国内民間濃縮事業については、我が国における濃縮事業の確立を目標として当面は2000年過ぎ頃の1500トンSWU/年規模による安定した操業の実現と経済性の向上に取り組むこととし、それ以降の国産化の展開に関しては、国際動向、経済性、技術の継承等を考慮しつつ具体的な事業規模と時期を検討することとします。なお、国産化の基盤であるウラン濃縮機器製造分野については、将来の事業展開にも円滑に対応できるよう技術力や機器生産能力の維持・向上を図っていくことが必要です。
 今後のウラン濃縮の経済性の向上のためには、適宜評価を行いながら新技術を適切に導入することが重要です。遠心分離法濃縮技術については、六ケ所濃縮工場に現在開発中の新素材高性能遠心機の導入を図るとともに、さらに2000年代前半の六ケ所濃縮工場への導入に向けて高度化した遠心機の開発を進めます。レーザー法濃縮技術については、原子法、分子法の研究開発を次の段階に進めるべきか否かを2000年頃までに判断します。また、化学法濃縮技術の今後の実用化については、ウラン濃縮の需要動向等を総合的に勘案して判断することとします。

③回収ウラン、劣化ウランの利用等
 回収ウランの利用については、再濃縮してリサイクルすることが適切です。国内においては、これまでの成果に基づき、ウラン濃縮原型プラント等を利用して実用規模による再濃縮計画に進めていくなど、転換、再濃縮、加工及び原子炉の利用に関し、将来の本格利用に備えて民間関係者と動力炉・核燃料開発事業団が共同して研究することとします。海外再処理委託からの回収ウランについては、海外で転換、再濃縮を行うべく電気事業者が本格利用に向けて準備を進めていくこととします。
 劣化ウランについては、将来の利用に備えて効率的な貯蔵方策や利用方策について検討していきます。

6.核燃料リサイクルの技術開発

(1)核燃料リサイクル計画の具体化
①MOX燃料利用
(イ)軽水炉による利用
 軽水炉によるMOX燃料の利用は、将来の高速増殖炉の実用化に向けた実用規模の核燃料リサイクルに必要な技術の確立、体制の整備等の観点から重要であり、エネルギー供給面で一定の役割を果たすことに留意しながら、これを計画的に進めていきます。
 現在の原子力発電所においても既に炉内でウランがプルトニウムに転換され、このプルトニウムの核分裂が、原子力発電から得られるエネルギーの約3分の1を担っています。軽水炉によるMOX燃料利用は、海外において多くの実績があり、我が国の少数体規模での実証計画において燃料のふるまい等について良好な結果が得られていることを踏まえると、現在の軽水炉でMOX燃料を利用することについては、特段の技術的問題はないと言えます。今後、我が国においては、燃料仕様の共通化等により一層の経済性の向上を目指していくことが重要です。
 軽水炉でのMOX燃料利用は、再処理施設の規模等を勘案し、高速増殖炉の実用化までの間、適切な規模で経済的に行っていく必要があります。具体的には、1990年代後半から加圧水型軽水炉(PWR)と沸騰水型軽水炉(BWR)それぞれ少数基において利用を開始し、2000年頃に10基程度、その後、2010年までには十数年程度の規模にまで計画的かつ弾力的に拡大することが適当です。

(ロ)新型転換炉による利用
 新型転換炉は、プルトニウム、回収ウラン等を柔軟かつ効率的に利用できるという特長を持つ原子炉として自主開発を進めてきており、新型転換炉による核燃料リサイクルを継続することによりMOX燃料の利用について国内外の理解と信頼を深めることは、将来の高速増殖炉による本格的なリサイクルを実現する上で重要です。原型炉「ふげん」については、核燃料リサイクル上の柔軟性を活かした技術の実証や新型転換炉の基盤技術の高度化を目指し、実証炉開発にも有効に活用するため運転を継続します。実証炉(電気出力約60万kW)については電源開発(株)が、青森県大間町に2000年代初頭の運転開始を目標に建設計画を進めていきます。その後の計画については、実証炉の建設の状況、実用化に向けての経済性の見通し、核燃料リサイクル体系全体の開発状況等を踏まえつつ対処するものとし、適切な時期に具体的に検討していく必要があります。

②使用済燃料再処理
 使用済燃料の年間発生量は、2000年、2010年、2030年において、それぞれ800~1000トン、1000~1500トン、1500~2300トンと予想されますが、我が国は、使用済燃料は再処理し、回収したプルトニウムやウランを利用することを基本としており、核燃料リサイクルの自主性を確実なものとするなどの観点から、再処理を国内で行うことを原則とします。なお、海外再処理委託については、国内外の諸情勢を総合的に勘案しつつ、慎重に対処することとします。
 東海再処理工場は、安定運転を進め、六ケ所再処理工場の操業開始まで再処理需要の一部を賄うとともに、同工場の操業開始以降は、軽水炉MOX使用済燃料、新型転換炉使用済燃料、高速増殖炉使用済燃料等の再処理のための技術開発の場としていきます。
 現在建設中の六ケ所再処理工場(年間処理能力800トン)については、2000年過ぎの操業開始を目指すこととし、その順調な建設、運転により商業規模での再処理技術の着実な定着を図っていきます。
 民間第二再処理工場は、核燃料リサイクルの本格化時代においての所要の核燃料の供給を担うものとして重要な意義を持っています。同工場は、六ケ所再処理工場の建設・運転経験や国内の今後の技術開発の成果を踏まえて設計・建設することを基本とし、軽水炉MOX燃料等も再処理が可能なものとするとともに優れた経済性を目指すこととします。その建設計画については、プルトニウムの需給動向、高速増殖炉の実用化の見通し、高速増殖炉使用済燃料再処理技術を含む今後の技術開発の進展等を総合的に勘案する必要があり、六ケ所再処理工場の計画等を考慮して、2010年頃に再処理能力、利用技術などについて方針を決定することとします。
 研究用原子炉等の使用済燃料については、再処理又は長期保管することとし、その具体的方策について関係機関で検討を進めていきます。

③使用済燃料の貯蔵・管理
 使用済燃料は、プルトニウムや未燃焼のウランを含む準国産の有用なエネルギー資源の一つと位置付けられることから、国内の再処理能力を上回るものについては、エネルギー資源の備蓄として、再処理するまでの間、適切に貯蔵・管理することとします。これらは、当面は発電所内で従来からの方法で貯蔵することを原則としますが、貯蔵の見通しを勘案して将来的な貯蔵の方法等についても検討を進めます。
 また、今後、軽水炉によるMOX燃料等の利用に伴って発生する使用済燃料についても、再処理するまでの間、発電所内で適切に貯蔵・管理します。

④MOX燃料加工
(イ)軽水炉用MOX燃料加工
 海外再処理により回収されるプルトニウムについては、基本的には欧州においてMOX燃料に加工し、1990年代後半から開始される我が国の軽水炉によるMOX燃料利用に使用することが適当であり、電気事業者は、この計画を実施するための検討、準備を進めることとします。その際、我が国と原子力協力協定を締結していない国が関係する場合には、国は、平和利用担保のために必要な措置を講じます。
 また、軽水炉によるMOX燃料利用計画と六ケ所再処理工場の操業を踏まえると、2000年過ぎには年間1000トン弱程度の規模の国内MOX燃料加工の事業化を図ることが必要です。このため、電気事業者が中心となって加工事業主体を早急に確定するとともに、動力炉・核燃料開発事業団からの円滑な技術移転を図るため、動力炉・核燃料開発事業団のMOX燃料加工施設の活用について、動力炉・核燃料開発事業団と民間関係者の間で早急に結論を得ることが重要です。なお、国は民間事業化のために必要な支援方策について検討します。

(ロ)新型転換炉用MOX燃料加工
 原型炉「ふげん」用MOX燃料加工については、動力炉・核燃料開発事業団において、MOX燃料加工施設の所要の設備整備を進めます。
 また、実証炉用MOX燃料については、新型転換炉用MOX燃料加工技術の実証を含め、同施設において燃料を加工できるよう、実証炉建設計画の進捗状況等も勘案しつつ、追加的な設備整備等について関係者で検討していくこととします。

⑤MOX燃料等の返還輸送
 1992年度に実施された「あかつき丸」によるプルトニウム返還輸送は、輸送が日米原子力協定等の規定等に従って、確実かつ安全に実施できることを実証しました。今後のMOX燃料等の返還輸送については、電気事業者等関係者において実施体制を検討していくこととします。また、返還輸送については、国際的な理解と協力を得ていく必要があり、輸送の安全性、必要性等に係る情報提供や広報活動を適切に実施していくこととします。
(2)将来の核燃料リサイクル体系の確立に向けた技術の開発
①高速増殖炉技術の開発
(イ)高速増殖炉開発の長期的な進め方
 高速増殖炉は、発電しながら消費した以上の核燃料を生成することができる原子炉であり、軽水炉などに比べてウラン資源の利用効率を飛躍的に高めることができることから、将来的に核燃料リサイクル体系の中核として位置付けられるものです。エネルギー資源に乏しい我が国としては、高速増殖炉を相当期間にわたる軽水炉との併用期間を経て将来の原子力発電の主流にしていくべきものとして、その開発を計画的かつ着実に進めていくこととします。高速増殖炉は核燃料をリサイクルしてはじめてその真価が発揮されるものであり、再処理、MOX燃料加工等の燃料サイクル技術と整合性のとれた開発を進め、総合的な核燃料リサイクル技術体系の確立を目指していきます。
 また、軽水炉と経済性において競合し得る高速増殖炉の開発を目標に置き、そこに至る具体的な過程に柔軟性を持たせつつできるだけ明確にし、それぞれの段階における開発目標を段階的に達成していくこととします。
 高速増殖炉の開発は、国を中心とした原型炉「もんじゅ」までの開発成果に基づいて電気事業者がこれに続く実証炉を建設し、発電プラント技術の習熟、性能の向上、経済性の確立を図っていく段階に入りつつありますが、今後は電気事業者が進める実証炉の開発と国を中心とした高速増殖炉固有の技術の研究開発を両輪として官民連携の下、開発を進め、安全性、信頼性はもとより、経済性のさらなる向上を図っていくこととします。
 動力炉・核燃料開発事業団は、高速増殖炉の実用化までを見通し、長期的に継続して主体的な研究開発を実施し、高速増殖炉固有の技術体系を確立していくこととし、技術開発の中核的役割を果たしていくものとします。
 今後、実用化までに建設される2基の実証炉において革新的技術、大出力化に必要な技術などを実証することにより軽水炉並みの建設費を達成していくこととします。また、革新的技術の開発状況はもとより、円滑な技術の継承等も勘案しつつ、適切な間隔で実証炉1号炉、これに続く実証炉2号炉の建設を進め、燃料サイクル技術の開発と整合性をとりつつ2030年頃までには実用化が可能となるよう高速増殖炉の技術体系の確立を目指していきます。
 なお、高速増殖炉の開発過程における核燃料の増殖については、その性能の確認は行いますが、プルトニウムの需給動向、国際情勢等の観点から弾力的に考えていくこととします。
 また、高速増殖炉の開発に当たっては、その成果が国際公共財的な役割を発揮できるよう国際的に協調して進めることが透明性の向上のためにも重要であり、欧米諸国の研究者の参画を求めつつ、開かれた体制の下、「常陽」、「もんじゅ」等の積極的活用を図っていきます。

(ロ)実証炉1号炉を中心とする当面の開発の進め方
 高速実験炉「常陽」については、照射性能を向上させ、引き続き高速増殖炉の実用化のための燃料・材料開発用照射炉として活用していきます。
 原型炉「もんじゅ」については、性能試験を着実に進め、1995年末の本格運転を目指しますが、その後も高速増殖炉技術を確立するための試験データを取得するとともに原型炉としての運転実績を積み重ね、その安全性、信頼性等を実証していきます。さらに、炉心性能等の向上を図り、得られる成果を実証炉以降の高速増殖炉開発に反映していきます。
 実証炉1号炉は、電気出力約66万kWとし、ループ型炉の技術を発展させたトップエントリ方式ループ型炉を採用するとともに、経済性を向上し実用化を展望できる新たな革新的技術を積極的に取り入れることとします。同炉は、これらの開発の見通しや原型炉「もんじゅ」の運転実績の反映等を考慮して、2000年代初頭に着工することを目標に計画を進めることとし、電気事業者は、必要な技術開発を進めるとともに、その着工に向けての所要の準備を進めるものとします。

②再処理技術及び燃料加工技術の開発
(イ)使用済燃料の再処理技術
 高速増殖炉の使用済燃料は、プルトニウムの含有量が多いこと、軽水炉等に比べ燃焼度が高くなることなどから、これらに対応した再処理技術を確立することが必要であり、今後とも動力炉・核燃料開発事業団を中心に実用化に向けて研究開発を進めていくこととします。
 動力炉・核燃料開発事業団は、再処理のプロセス・エンジニアリングの確立を図るため、工学規模のリサイクル機器試験施設(RETF)を2000年過ぎの運転開始を目標に建設し、このRETF等を活用して必要な研究開発を行い、2000年代の早い時期に現行の湿式法に基づく再処理技術の確立を目指すこととします。
 さらにRETFと将来の実用プラントをつなぐ試験プラントについては、今後得られる新たな技術や先進的核燃料リサイクル技術の研究開発の成果も踏まえることとし、2010年代半ば頃の運転開始を目標に、その建設計画を具体化していきます。

(ロ〕MOX燃料加工技術
 実証炉1号炉用MOX燃料の加工については、動力炉・核燃料開発事業団の燃料加工施設を有効に活用することとし、必要な施設等の整備を図っていきます。また、原型炉「もんじゅ」用の次世代高性能燃料と実証炉1号炉用の初装荷燃料の加工を通じて、高速増殖炉用燃料加工技術の高度化、経済性の向上を図り、実用化への見通しを得ていくこととします。

③先進的核燃料リサイクル技術の研究開発
 原子力開発利用に当たっては、安全性、信頼性、経済性等の向上のみならず環境への負荷の低減、核不拡散性への配慮など将来の社会の多様なニーズに対応できる技術の可能性を追求し,技術の選択の幅を広げていくことが重要です。
 このため、我が国が実用化を目指している現行のリサイクルシステムの他に高速増殖炉技術をべースにした新たなリサイクルシステムとして、窒化物燃料、金属燃料等の新型燃料によるリサイクルやアクチニドのリサイクルを行う先進的な核燃料リサイクル技術について長期的な研究開発に取り組んでいきます。
 これらの技術は未だ初期的な研究段階にあることから、今後長期にわたりその可能性を追求するための研究開発が必要であり、当面は、動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力研究所等において必要な試験施設・設備の整備を進めるとともに、試験炉の必要性についても検討していきます。
 なお、今後の具体的展開については、原子力委員会の核燃料リサイクル専門部会において早急に検討を進めることとします。

(3)核燃料リサイクル計画の透明性の向上
 我が国は、核燃料リサイクルを推進するに当たって、余剰のプルトニウムを持たないとの原則の下、プルトニウム利用計画を具体的に明らかにし、その透明性を高めていくこととしています。
 我が国の今後のプルトニウム需給見通しについては、計画の進捗状況によって変わり得るものですが、現時点での各々の計画の見通しに沿って試算をすれば次のとおりになります。なお、プルトニウム量は核分裂性プルトニウム量です。

<国内再処理によって回収されるプルトニウム>
 我が国の国内再処理によって回収されるプルトニウムの需給見通しに関しては、六ケ所再処理工場が操業を開始する以前について、動力炉・核燃料開発事業団が所有する高速増殖原型炉「もんじゅ」等の研究開発用に約0.6トン/年の需要に対し、東海再処理工場で回収されるプルトニウム量は約0.4トン/年で、単年毎に見れば、国内的には需要が供給を上回る状態が続くことになります。なお、1990年代末までの累積需給については、東海再処理工場からのプルトニウムと既に海外から返還されているプルトニウムを合わせた約4トンが、高速増殖原型炉「もんじゅ」等の研究開発用に使用されます。
 六ケ所再処理工場が本格的に操業される2000年代後半の段階においては、動力炉・核燃料開発事業団が所有する高速増殖原型炉「もんじゅ」等の研究開発用などの約0.8トン/年の需要に、高速増殖実証炉の約0.7トン/年、新型転換実証炉の約0.5トン/年及び軽水炉によるMOX燃料利用の約3トン/年が加わり、合計で約5トン/年の需要となり、供給は六ケ所再処理工場からの約4.8トン/年及び研究開発を中心とする東海再処理工場から約0.2トン/年の合計約5トン/年となります。なお、2000年から2010年の間に国内で回収されるプルトニウムは、六ケ所再処理工場と東海再処理工場をあわせて約35~45トンとなり、これは、高速増殖炉、新型転換炉等の研究開発用に約15~20トン及び軽水炉MOX燃料用に約20~25トンが使用されます。

<海外再処理によって回収されるプルトニウム>
 我が国の電気事業者と英仏の再処理事業者の再処理契約によって、2010年頃までにはプルトニウムが順次回収されるとともに、我が国の核燃料リサイクル計画に沿って、その全量が順次返還され使用されます。既契約の使用済燃料から推算すると、回収されるプルトニウムは累積量で約30トンと見込まれますが、これらは、基本的には、海外において軽水炉MOX燃料に加工された後、我が国に返還輸送して軽水炉で利用されることとなります。なお、六ケ所再処理工場が本格的に運転を開始する以前において、高速増殖炉、新型転換炉等の研究開発用の国内のプルトニウムが若干不足することが予想されます。この場合には、海外再処理によって回収されるプルトニウムのうち、数トン程度は研究開発用に用いられることとなります。
 実際の核燃料リサイクル計画を円滑に進めるに当たっては適切なランニングストックは必要ですが、以上のように、我が国の今後の核燃料リサイクル計画に基づくプルトニウムの需給はバランスしており、余剰のプルトニウムは持たないとの原則に沿ったものとなっています。
 我が国としては、今後ともこの原則を厳守していることを内外に示していきます。

7.バックエンド対策

(1)放射性廃棄物の処理処分
①放射性廃棄物処理処分に係る基本的考え方
 放射性廃棄物は、放射能レベルの高低、含まれる放射性物質の種類等により多種多様です。このため、この多様性を十分踏まえた適切な区分管理と、区分に応じた合理的な処理処分を行うとともに、資源の有効利用の観点から再利用についての検討も進めることとし、これらに必要な研究開発を着実に進めるほか、規制除外・規制免除についても国際動向を踏まえ適切に対処することとします。また、低レベル放射性廃棄物も含め放射性廃棄物の海洋投棄については、社会的、政治的な情勢等を勘案してこれを行わないこととします。なお、将来、これらの情勢が大きく変化した場合は再検討も考慮することとします。
 事業活動等に伴って生じた放射性廃棄物の処理処分の責任については、各事業者等が自らの責任において処理処分することを基本とし、処分の責任を有する者は、その具体的実施計画を整備し、処分費用を負担するなど、処分を適切かつ確実に行う責務を果たすこととします。国は、処分方策を総合的に策定し、また、処分の安全性の確認を行うとともに、処分の責任を長期的に担保するために必要な法制度等を整備するなど、最終的に安全が確保されるよう、所要の措置を講ずる責任があります。

②発電所廃棄物の処理処分
 原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物(発電所廃棄物)については、電気事業者等原子炉設置者に、直接の廃棄物発生者として当該廃棄物の処分を適切かつ確実に行う責任があります。当該廃棄物のうち、放射能レベルの比較的低いものについては浅地中処分を進め、放射能レベルの比較的高いものについては、その発生の実態、関連する研究開発の進展状況等を考慮しながら、合理的な処理処分が安全に行われるよう引き続き検討を進めていくこととします。

③サイクル廃棄物の処理処分
 再処理施設や燃料加工施設などの核燃料サイクル関連施設から発生する放射性廃棄物(以下「サイクル廃棄物」といいます。)は、再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物、再処理施設やMOX燃料加工施設から発生する超ウラン(TRU)核種を含む放射性廃棄物、ウラン燃料加工施設やウラン濃縮施設から発生するウラン廃棄物に大別されます。

(イ)高レベル放射性廃棄物の処理処分
 高いレベル放射性廃棄物は、安定な形態に固化した後、30年間から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後、地下の深い地層中に処分すること(以下「地層処分」といいます。)を基本的な方針とします。高レベル放射性廃棄物の処分方策を進めていくに当たっては、国は、処分が適切かつ確実に行われることに対して責任を負うとともに、処分の円滑な推進のために必要な施策を策定します。また、動力炉・核燃料開発事業団は、当面、研究開発や地質環境調査の着実な推進を図ります。電気事業者は、処分に必要な資金の確保のみならず、研究開発の段階においても、高レベル放射性廃棄物の発生に密接に関連する者としての責任を十分踏まえた役割を果たすこととします。
 処分事業の実施主体については、処分場の建設スケジュールを考慮し、2000年を目安にその設立を図っていくことが適当であり、高レベル放射性廃棄物対策推進協議会(国、電気事業者及び動力炉・核燃料開発事業団により構成される)の下に設けられた高レベル事業推進準備会において、実施主体の在り方についての検討やその設立に向けた準備を進めていきます。
 地層処分については概ね以下の手順で進めることとします。

 1)実施主体は、地層処分の候補地として適切と思われる地点について予備的に調査を行い、処分予定地を選定し、国は、立地の円滑化を図る観点から必要な措置を講ずるため、その選定の結果を確認します。ただし、その地点を処分予定地とするに当たって、実施主体は地元にその趣旨を十分に説明し、その了承を得ておくものとします。

 2)次に実施主体は、実際の処分地としての適性を判断するため、処分予定地において地下施設による所要のサイト特性調査と処分技術の実証を行います。

 3)実施主体は処分地として適当と判断すれば、処分場の設計を行い、処分に係る事業の申請を行いますが、国は、処分に係る事業を許可するに当たり、必要な法制度等の整備を図るとともに安全審査を行います。
 処分場の建設・操業の計画は、処分場建設に至るまでに要する期間や再処理計画の進展などの今後の原子力開発利用の状況等を総合的に判断して、2030年代から遅くとも2040年代半ばまでの操業開始を目途とします。
 処分に必要な資金の確保については、処分費用の範囲、処分費用の概算、資金確保の方法などの具体的検討を進め、早急に合理的な費用の見積りを行うこととします。
 地層処分の研究開発は、国の重要プロジェクトとして、動力炉・核燃料開発事業団を中核推進機関として関係機関が協力して進めていくこととします。研究開発は、当面、対象とすべき地質環境を幅広く想定し、地層処分を行うシステムの性能評価研究、処分技術の研究開発、地質環境条件の調査研究等の各分野において引き続き進めるほか、地層処分研究開発の基盤となる深部地質環境の科学的研究を着実に進めることとします。
 深地層の研究施設は、深地層の環境条件として考慮されるべき特性等の正確な把握や地層処分を行うシステムの性能を評価するモデルの信頼性向上等地層処分研究に共通の研究基盤となる施設であり、我が国における深地層についての学術的研究にも寄与できる総合的な研究の場として整備していくことが重要です。また、このように施設は、我が国の地質の特性等を考慮して複数の設置が望まれます。さらに深地層の研究施設の計画は、研究開発の成果、特に深部地質環境の科学的研究の成果を基盤として進めることが重要であり、その計画は処分場の計画とは明確に区別して進めていきます。
 動力炉・核燃料開発事業団が北海道幌延町で計画している貯蔵工学センターについては、地元及び北海道の理解と協力を得てその推進を図っていきます。
 研究開発においては、国民の理解を得ていくためにもその進捗状況や成果を適切な時期に取りまとめ、研究開発の到達度を明確にしていくこととします。このため、動力炉・核燃料開発事業団は、2000年前までに予定している研究開発の成果の取りまとめを行い、これを公表するとともに、国はその報告を受け、我が国における地層処分の技術的信頼性等を評価します。
 なお、高いレベル放射性廃棄物の資源化と処分に伴う環境への負荷の低減の観点から将来の技術として注目されている核種分離・消滅処理技術に係る研究開発については、当面、日本原子力研究所、動力・核燃料開発事業団等が協力して基礎的な研究開発を計画的に推進することとし、1990年代後半を目途に各技術を評価し、それ以降の進め方について検討していくこととします。

(ロ)TRU核種を含む廃棄物の処理処分
 TRU核種を含む放射性廃棄物については、廃棄物を直接的に発生する再処理事業者やMOX燃料加工事業者と、その発生に密接に関連する原子力発電を行う電気事業者が、当該廃棄物の帰属や処分に関する責任を当事者間において明確にします。その結果を踏まえ、処分の責任を有する者は、実施スケジュール、実施体制、資金の確保等について検討を進めることとします。また、その処分については、約1ギガベクレル/トンの値を廃棄物に含まれる全アルファ核種の一応の区分目安値(以下「区分目安値」といいます。)として設定し、これより全アルファ核種の放射能濃度が低いものと高いものに区分します。アルファ核種の放射能濃度が区分目安値よりも低く、かつベータ・ガンマ核種の放射能濃度も比較的低いものについては、浅地中処分が可能と考えられるため、その具体化を図ることとします。アルファ核種の放射能濃度が区分目安値よりも高く、浅地中処分以外の地下埋設処分が適切と考えられるものについては、高レベル放射性廃棄物処分方策との整合性を図りつつ、民間再処理事業等が本格化する時期を考慮し、1990年代末を目途に具体的な処分概念の見通しが得られるよう技術的検討を進めることとします。処分の責任を有する者は、その検討結果等を総合的に勘案し、処分方策の具体化を検討することとします。
 動力炉・核燃料開発事業団は、日本原子力研究所の協力を得て、処分技術の研究開発を進めることとします。また、電気事業者等はTRU核種を含む放射性廃棄物の発生に関する自らの責任を十分踏まえた役割を果たすことが必要です。

(ハ)ウラン廃棄物の処理処分
 ウラン廃棄物については、廃棄物を直接的に発生するウラン転換・成型加工事業者や濃縮事業者と、その発生に密接に関連する原子力発電を行う電気事業者が、当該廃棄物の帰属や処分に関する責任を当事者間において明確にします。その結果を踏まえ、処分の責任を有する者は、実施スケジュール、実施体制、資金確保等について検討を進めることとします。ウラン濃度が比較的低い大部分の廃棄物については、段階管理(放射能の減衰に応じて、保安のための措置を段階的に変更する管理方法)を伴わない簡易な方法による浅地中処分を行うことが可能と考えられ、今後、具体的な方法の検討を行った上で、基準の整備等を図っていくこととします。

④RI廃棄物及び研究所等廃棄物の処理区分
 放射性同位元素等の使用施設等から発生する放射性廃棄物(RI廃棄物)の処分については、日本原子力研究所と廃棄業者としてRI使用者等からRI廃棄物を譲渡され自ら保管廃棄している(社)日本アイソトープ協会等の主要な責任主体が協力して、実施スケジュール、実施体制、資金確保等について、早急に検討を始めることとします。国は、海洋投棄に替えて地中埋設を実施に移すための基本方針を策定し、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」等関係法令の改正など、制度面での整備を行うなど、処分が適切かつ確実に実施されるよう措置することとします。処分については、比較的半減期の短いべータ・ガンマ核種が主要核種である廃棄物のうち、放射能レベルの比較的低いものは浅地中処分又は簡易な方法による浅地中処分を行うものとします。さらに、半減期が極めて短い核種のみを含むものについては、段階管理を伴わない簡易な方法による浅地中処分を行うこととします。今後、これらの具体的な方法を検討した上で、基準の整備等を図っていくこととします。アルファ核種のような長半減期核種が主要核種であるものについては、TRU核種を含む廃棄物及びウラン廃棄物を参考に処分を検討することとします。
 研究所等廃棄物は、直接の廃棄物発生者である日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団等の主要な機関が協力して、実施スケジュール、実施体制、資金の確保等について、早急に検討を進めることとします。

⑤返還廃棄物への対応
 海外再処理に伴い返還される予定の高レベル放射性廃棄物や低レベル放射性廃棄物は、円滑に返還が行われるよう、電気事業者が中心となって所要の措置を講ずることとします。これらの返還廃棄物は、管理施設において適切な期間貯蔵した後、処分地として適当な場所に処分しますが、いずれも国内において発生する同様な廃棄物に対する処分方策との整合性を図りつつ、処分のための諸準備を進めていくこととします。
 また、返還廃棄物の国際輸送については国際的な理解と協力を得ていく必要があり、輸送の安全性等に係る情報の提供や広報活動を適切に実施していくこととします。

(2)原子力施設の廃止措置
 原子力施設の廃止措置は、原子力施設設置者の責任の下、安全確保を大前提として、地域社会との協調を図りつつ進めることが重要であり、このために必要な技術開発を進めていきます。商業用発電炉の廃止措置については、原子炉の運転終了後できるだけ早い時期に解体撤去することを原則とし、解体撤去後の敷地利用については、地域社会との協調を図りつつ、原子力発電所用地として、引き続き有効に利用することとします。
 解体技術開発等については、日本原子力研究所の動力試験炉及び再処理特別研究棟を対象として、実際の商業用発電炉等の廃止措置において活用し得る解体技術等の開発や実地試験を継続して行います。また、国は、商業用発電炉の解体撤去に必要な既存技術の確証試験を引き続き実施します。
 原子力施設の廃止措置により発生する放射性廃棄物の処理処分については、原子力施設設置者に、直接の廃棄物発生者として実施計画を整備し処分費用を負担するなど、処理処分を適切かつ確実に行う責任があります。

8.原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化

(1)基礎研究と基盤技術開発
①基礎研究
 原子力技術はなお多くの可能性を秘めており、原理・現象に立ち返った研究は、現在の技術の改良をもたらすのみならず、未知の新技術を生み出し、現在の原子力技術を大きく変えていくものと期待されます。その夢に挑戦し、新たな可能性の探索・実現を図っていくためには、基礎研究の充実強化が不可欠です。その際、原子力分野における基礎研究の成果は、原子力分野のみならず他の科学技術分野に影響を与え、科学技術全体の進歩に大きく貢献することに留意し、異分野交流、幅のある目標設定等を行い、基礎研究の柔軟な推進を図っていきます。
 また、基礎研究は、基本的には研究者個人の自由な発想を尊重しつつ幅広い分野において進められるべきものですが、今後重点的に推進されるべき研究分野としては、例えば、原子核・原子科学に関する研究、TRUや未知の超重元素に関する研究、各種ビームの発生と利用に関する研究を挙げることができます。また、このほか、物理・化学分野・医学・ライフサイエンス分野、環境科学分野、燃料・材料その他の工学的分野等、原子力を支える科学技術について基礎研究を進めます。

②基盤技術開発
 我が国は、原子力技術の先進国として、既存の原子力技術にブレークスルーを引き起こし、基礎研究とプロジェクト開発とを結びつける基礎技術開発に積極的に取り組む必要があります。とりわけ、原子力技術に対するニーズの一層の多様化や高度化に対応するとともに、技術シーズの探索、体系的な研究開発の積み重ね等により、将来の新しい原子力技術体系を意識的に構築していくため、大きな技術革新を引き起こし、ひいては科学技術全般への波及効果が期待される原子力のフロンティア領域を重視していきます。このような基盤技術開発の当面の対象として、放射線生物影響分野、ビーム利用分野、原子力用材料技術分野、ソフト系科学技術分野及び計算科学技術分野について重点的に研究開発を行うべき領域を設定し、放射光施設やスーパーコンピュータ等の先端的な研究設備・機器を用いつつ、広範な科学技術分野のポテンシャルを結集して研究開発を進めていきます。なお、ソフト系科学技術においては、原子力技術と人間社会との関係の重要性を踏まえ、社会科学や人文科学の知見の蓄積を含め幅広い調査研究に取り組んでいきます。

(2)原子力エネルギーの生産と原子力利用分野の拡大に関する研究開発
 原子力によるエネルギーの効果的な生産・利用を進める革新的な技術の研究開発については、安全確保はもちろんのこと、安全性の向上、エネルギー生産、燃料生産、放射性廃棄物の消滅に配慮するとともに、環境負荷の低減、核不拡散への対応、経済性等の現実的に対応すべき諸点を加えた総合的な観点から、これに取り組んでいきます。また、原子力研究の高度化を含め、利用分野の拡大についても積極的に取り組んでいきます。

①新しい概念の原子力システムに関する研究開発受動的安全性を高めた原子炉は、静的手段の積極的採用により、システムの簡素化、信頼性、安全性、経済性の向上等の可能性を有しており、特に中小型の受動的安全炉については、大容量の電力や動力源を必要としない地域において利用される司能性も期待されることから、その研究開発を進めていきます。
 また、プルトニウムをほぼ完全に燃焼させてそのまま廃棄物とすることを目指す軽水炉やエネルギーを取り出しながら実質的なプルトニウムの炉内貯蔵を目指す軽水炉等の可能性について基礎的研究を進めます。さらに、優れた経済性や安全性を持つ高速増殖炉の開発を目指して、種々の新型燃料や冷却材の可能性について基礎的研究を進めます。
 これら新しい概念の原子炉の実現に当たって必要となる炉工学技術や設計研究を総合的、効率的に行うための知的情報処理技術を活用した設計・実験システムの研究開発を進めます。
 再処理技術に関しては、アクチニドの回収に関する研究、湿式法における新しい抽出剤の研究、高温化学法などの新しい技術に関する研究等を進めます。また、新しい再処理法に適した燃料の研究や原子炉と燃料サイクル施設の一体化を含めた総合的なシステムに関する検討を進めます。
 核種分離・消滅処理については、湿式・乾式の核種分離に関する研究や原子炉、大強度陽子加速器等を用いて長寿命核種を短寿命化・非放射化する消滅処理法の研究を進めます。また、このために必要となるTRUの核データ等の整備、充実を図ります。

②高温工学試験研究
 高温工学試験研究については、高温の熱を発生することによって多様な利用の可能性が期待されるため、高温ガス炉技術の基盤の確立、高度化及び高温工学に関する先端的基礎研究を進めます。そのための中核的施設として建設中の高温工学試験研究炉(HTTR)については、1998年頃の臨界を目指した建設を着実に進めるとともに、HTTRを活用した研究開発の計画的な進展を図ることが重要です。

③原子力船研究開発
 原子力は将来の船舶の動力源として有力な選択肢となる可能性があり、原子力船研究開発については、日本原子力研究所において、原子力船「むつ」の解役工事を安全かつ確実に進めるとともに、「むつ」によって得られた成果等を内外の新たな知見と合わせて蓄積・整備しつつ、舶用炉の改良研究を推進します。また、船舶技術研究所においても基礎研究を引き続き実施することとします。

(3)放射線に関する研究開発
①放射線利用に関する研究開発
 放射線利用に関する研究開発については、医療分野等におけるRI利用技術、加速器を用いたビーム発生・利用技術及び研究用原子炉を用いた中性子照射・利用技術に関する研究開発を進めていきます。特に、加速器を用いた新しいビームは、原子核・素粒子研究、物質科学等の基礎研究、工業、農業、医療、環境保全等幅広い分野の研究開発にとって重要です。このため、次世代の大型放射光施設(SPring-8)の整備を引き続き推進し、その利用を図るとともに、イオンビームを用いたがんの照射治療、材料開発等に関する研究開発、大強度の陽子ビーム・陽電子ビーム、大強度かつ多種類のRIビーム等の発生施設の整備を目指した技術開発を進めます。また、研究用原子炉については、冷中性子による先端的研究等に対応するための高性能新型研究用原子炉の技術検討を進めます。

②放射線の生物・環境影響に関する研究開発
 一般公衆の生活環境に係るすべての放射線源について、そのレベル、特性及び挙動に関する研究に取り組んでいきます。すなわち、日本の風土と日本人の特性に配慮した被ばく線量の総合的評価に関する研究等を進めます。なお、基盤技術開発として、人体に対する低線量放射線の影響を明らかにするための研究開発に総合的に取り組んでいきます。さらに、宇宙環境等への人類の活動領域の拡大に対応した各種放射線の生物影響に関する研究を進めます。

③放射線利用技術の普及・拡大
 農林水産分野における品種改良、害虫防除、食品照射、医療分野における陽電子断層撮影などの高度診断、がんの放射線治療、工業分野における計測・検査、医療器具の滅菌、材料の品質改良等の既に実用化段階に達している放射線利用技術の一層の普及促進を図っていくとともに放射線利用分野の国際協力を積極的に進めていきます。また、放射線による排煙・排水処理、放射線を用いた汚染物質の分離機能を持つ材料の創製、放射性物質を利用した環境中での物質挙動の解明等地球環境保全を図るための技術の実用化に向けた研究開発を進めます。

(4)核融合研究開発
 核融合は、必要な燃料資源等が地球上に広く豊富に存在すること、原理的に高い安全性を持つことなど優れた特徴があり、実用化された場合には、21世紀の世界のエネルギー問題の解決に大きく貢献することができるものと期待されています。
 これまで、トカマク型の臨界プラズマ試験装置(JT-60)による研究開発を通じて炉心プラズマ技術、炉工学技術等について著しい進展が見られています。今後は、自己点火条件の達成、長時間燃焼の実現、原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎を形成することを主要な目標に研究開発を進めていきます。
 このための実験炉の開発は、我が国の核融合開発にとって不可欠なものであり、JT-60に続いてトカマク型の実験炉の開発を進めます。現在、そのような実験炉の開発を目指して国際熱核融合実験炉(ITER)計画の工学設計活動が行われており、これに主体的に参加します。また、実験炉による研究開発だけでは十分解明できない課題を解明するための補完的な研究開発、新技術に関する先進的な研究開発、核融合炉の主要構成機器の大型化・高性能化を図る炉工学技術の研究開発、核融合炉の安全性に関する研究開発等を進めます。
 今後、研究開発規模の拡大に伴って、研究開発のリスク、所要の資金及び人材が増大することから、これらの低減や研究開発の効率化を図るとともに、原子力技術先進国である我が国として積極的に国際貢献していくため、ITER計画を含め、主体的な国際協力を幅広く推進していきます。さらに、核融合材料の開発に必要な高エネルギー中性子照射施設の設計についても国際協力を進めていきます。
 ITERに係る研究開発については、日本原子力研究所が中心となり、ITER以外の研究開発については、日本原子力研究所、大学、国立試験研究機関等が連携・協力しつつ進めていくこととします。特に、大学、国立試験研究機関等においてはヘリカル型など各種の磁場閉じ込め方式、これらとは原理的に異なる慣性閉じ込め方式及び炉工学技術について、その基礎的な研究開発を進め、併せて人材の養成に努めることが期待されます。なお、今後の研究開発においては産業界の積極的参加が得られるよう配慮することが重要です。
 以上のような総合的な核融合研究開発の実施に当たり、今後とも原子力委員会核融合会議による国内の連絡・調整を踏まえて、国際協力を考慮しつつ、日本原子力研究所、大学、国立試験研究機関等の間の整合性に留意し、相互の連携・協力により、研究開発を推進することとします。

9.国際協力の推進

(1)国際協力の基本的考え方
①政策対話の必要性
 原子力開発利用をめぐる国際情勢から今後の展開を見通すと、核不拡散と平和利用の両立、冷戦の終結に伴う新たな協力関係の構築、核兵器の削減に伴う非核化への協力、NPTの延長問題への取組など技術協力という観点からだけでは適切に対応できない課題や国際的に強調して取り組むべき課題が山積しています。これらに適切に対応していくためには、従来にも増して二国間、多国間の政策対話を進めることが重要です。このため、既存の定期的な協議等の活発化を図るとともに、我が国による国際会合開催の積極的提唱、海外での会合への積極的な参加等、あらゆる機会を通じて関心国の政策立案者やオピニオンリーダーとの意志疎通を図っていきます。

②積極的国際協力の必要性
 我が国は技術開発に傾注する努力において、今や国際的に主要な地位を占めてきており、従来以上に確固たる主体性を持って積極的に国際協力を進めていく必要があります。
 核燃料リサイクルの意義については既に述べましたが、長期的な視点に立って、核燃料リサイクルに取り組むことは、将来、我が国が原子力分野の技術先進国として重要な役割を果たしていくという観点からも重要であり、持続的に技術開発を進めていきます。その際、先進諸国の開発成果の有効活用の観点、社会的な理解促進の観点、機微技術の移転に慎重に対応する観点から、この分野において長年にわたり研究開発を進め相当な技術蓄積を有する先進諸国と協調して進めることが重要です。このため、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」等の核燃料リサイクル関連の大型研究開発施設を経験国との国際共同研究施設として活用すること、技術情報の交換を活発にすること、技術を蓄積している先進諸国の研究者の参加を得て各国に蓄積された知見を効果的に活用することなどに重点を置くこととします。また、核不拡散に取り組む我が国の姿勢がより明確になるよう、アクチニドリサイクル技術も含め先進的リサイクル技術の研究開発に関する国際協力を積極的に進めていきます。
 高レベル放射性廃棄物の処理処分等のバックエンド対策のように国際的なコンセンサス形成に向け、各国に共通する技術課題の解決が必要な分野や、多額の資金、研究者、技術者の結集が必要な核融合研究開発や放射線の高度利用のような先端分野においても、引き続き国際的な取組を進めていきます。その際、国際協力をより積極的、効果的に進めるため、内外の優れた研究開発施設の活用を図っていきます。
 さらに、原子力分野の基盤技術開発について、他分野への技術の波及効果を発揮し得る国際協力を展開するとともに、これまで培ってきた原子力分野での幅広い技術開発、基礎研究の成果についても、世界のエネルギー問題、地球環境問題の解決への貢献のため、世界に発信し活用していく積極的姿勢をもって国際協力を進めていきます。

(2)近隣アジア地域及び開発途上国との協力
①近隣アジア地域との協力の重要性
 近隣アジア地域は、今後、飛躍的な経済発展が予想される地域であり、この地域の発展は世界の繁栄に大きく貢献していくものと考えられます。我が国はこの地域と歴史的にも地理的にも密接な関係を持っており、原子力分野についても我が国への期待は大きく、我が国としてはこれまでの技術的蓄積や経験を踏まえ、地域内の共通課題に取り組むとともに、個別の要請にもきめ細かに対応していくことが必要です。

②国情に応じた長期的継続的な協力及び基盤整備に係る協力
 近隣アジア地域及び開発途上国との協力にあたっては、長期的な展望にたち制度・技術の両面から継続的な取組が不可欠です。各国の政策立案者等との政策対話を行い、必要に応じてエネルギー政策全般にも検討の範囲を広げて共に検討し、各国の要請、実情を的確に把握し、国情に応じた協力を実施する必要があります。このような協力を実施していくにあたり、既存の二国間、多国間及び地域の協力の枠組みを効率的に組み合わせていくとともに、安全確保、核不拡散、研究支援に係る制度的な強力体制を検討していくことが重要です。
 また、各国が自立的に原子力分野での実績を積んでいくようになるためには、その国の技術向上等に係る自助努力を支援し、中長期的に研究開発能力の向上を図ることが重要と考えます。このため、研究基盤や技術基盤の整備に関して重点的に取り組むこととし、研究用原子炉利用、放射線利用等の基礎的な研究分野を中心に、既存の研究交流制度を拡充していきます。一方、原子力は裾野の広い技術であることから基礎科学、産業技術等の向上や人材の養成等が図られることが必要です。

③原子力資機材等の供給への取組
 近隣アジア地域及び開発途上国との国際協力の進展に伴い、従来からの人材交流・情報交換を中心とした協力に加えて、今後は原子力資機材等の我が国からの供給が活発になると考えられますが、我が国の原子力産業の現状、相手国の要請、他の供給国との連携・協力等を踏まえ、我が国全体として総合的な取組の必要性について検討することが重要です。国は、民間協力の進展に合わせた二国間原子力協力協定の締結等必要な環境整備を図ります。一方、民間においては、原子力発電に係る経験、知見をもとに運転管理者等の養成・訓練等に貢献し、また、計画策定、立地調査、原子力に対する理解の増進等の建設・運転等に至る準備的な活動等に対して貢献していくことが期待されます。

④安全確保と核不拡散への配慮
 原子力開発利用に当たっては安全の確保が大前提であること、またある国の原子力施設の事故等は他国の国民の不安を招く恐れがあり、各国の原子力開発利用に影響を与えかねないことなどから、近隣アジア地域や開発途上国との協力に当たっても各国に共通する問題として安全の確保に重点を置いた協力が重要です。このため相手国の国情、規制体制の整備計画に沿って、人材養成、規制関係情報の提供等を行い、また、安全確保に係る研究、技術基盤の整備等の協力を進め、原子力安全文化の醸成を促していくこととします。原子力資機材等の供給を伴う協力にあたっては、NPT等国際的な核不拡散体制下の義務等を遵守していく必要がありますが、我が国が核不拡散の観点から十分な対応をとるとともに、人材交流を通じて経験等を移転し被供給国における保障措置、核物質防護体制の整備・強化に対しても協力していき、相互に核不拡散に関する意識の向上を図る努力をしていくことが重要です。

(3)国際機関への貢献
 IAEA,OECD/NEA等の原子力に関する国際機関の活動に対しては、原子力平和利用に関する国際的な共通課題の解決、国際的なコンセンサスの形成、効率的な国際協力計画の推進等の観点から、今後とも主体的に貢献していきます。また、冷戦終了後の新たな国際秩序が模索される中で、国際機関が、安全の確保、原子力平和利用の推進及び核不拡散体制の強化の面で最大限その機能を発揮できるよう我が国としても努力していきます。
 このため、国際機関への派遣員数の増加、主要ポストへの計画的派遣に努めるとともに、我が国に関連の深い重要テーマに関する活動に対して応分の資金拠出を行っていきます。

(4)国内環境の整備
 国際協力を効果的に実施して行くためには、国際情勢に即応して柔軟な対応を図ることが必要です。このため、共通する方向性を関係機関が共有できるよう原子力委員会の主導の下、関係機関の間の意志疎通・調整を十分に図り、連携を強化していきます。
 また、国際協力の実施機関においては、研究交流を円滑に実施していくため、宿舎の整備、実施にあたる組織の整備・強化を図ることが期待されます。さらに、研究開発施設を国際的に開放していくことにより、開かれた研究開発体制を確立するため、組織、人材、運営の面で一層の国際対応能力の充実を図ります。

10.原子力開発利用の推進基盤の強化

(1)原子力人材
①原子力に関係する人材問題への対応
 若者の科学技術離れ、生産年齢人口の減少等の傾向の中で、原子力開発利用の安全確保の一層の充実や関連する先端的技術開発の着実な推進を図っていくためには、その担い手となる優秀な人材の養成と確保にたゆまず努力することが不可欠です。
 このため、原子力関係研究者、技術者等については、大学等を人材養成の中核機関として、原子力発電所等の技術者、技能者については、民間が所要の措置を講じることにより、その養成と確保を引き続き計画的に推進することが望まれます。
 国においては、これらの活動の支援に努めるとともに、政府関係研究開発機関における人材の養成と確保に加え、多様な研修活動を推進していきます。

②人材の養成と確保
 原子力に関係する人材の養成と確保が円滑に行われるためには、多くの人が原子力を職業としてやりがいのあるものと捉え、またその将来性について理解するようになることが望まれます。このため、原子力に対するイメージの向上を図るとともに、原子力の幅広い可能性に挑戦し、若い人に夢と希望を与えるような原子力研究開発を展開することが重要です。
 とりわけ、多くの若者が原子力に対して客観的な判断力を持つことが大切であり、このことはひいては今後の人材の裾野の拡大につながることにもなります。このため、青少年の原子力に関する学習機会の確保等青少年期における正しい原子力知識の普及活動を充実・強化していきます。
 なお、学校教育においては、学習指導要領に基づき、原子力を含むエネルギーに関して児童・生徒の発達段階に応じ、適切に指導することとされています。この学習指導要領の趣旨を踏まえ、各学校において原子力を含むエネルギーに関する教育の一層の充実が望まれます。
 また、大学等の研究者や学生が政府関係研究開発機関の研究設備・機器を利用する機会の拡大、強化を図るなど人材養成面における関係機関の連携の推進を図ります。
 原子力の研修は、政府関係研究開発機関等において、多様な目的で広範囲に実施されており、今後、研修に対する様々なニーズに柔軟に対応しつつ、その充実を図っていきます。その際、我が国の原子力関係研修が全体として効率的かつ整合性のとれたシステムとなるよう、研修機関の連携を進め、総合的な研修体制の整備を図ることが重要です。
 一方、原子力研究開発の国際化が進展する中、原子力平和利用先進国として、諸外国の研究者、技術者等の積極的な受入を図るとともに、我が国として必要な国際的人材を養成するため、人材養成プログラムの強化等に取り組んでいきます。

(2)資金
 長期計画に基づき原子力開発利用が進められた場合の所要資金については、施策の具体化にあたり、さらに検討を要する部分が多くあり、また、今後の諸情勢の推移により大きく左右されますが、現時点で試算した1994年度から2010年度までの所要資金の大略の見込みを集計すると約9兆9千億円となります。この内訳は、新型炉開発その他原子力発電関係約3兆6干億円、核燃料サイクル関係約2兆2千億円、核融合及び放射線利用約1兆7干億円、その他基礎研究等(研究開発機関の運営費を含む。)約2兆4千億円となっています。なお、この他現時点での大略の見通しとして民間が独自に行う研究開発に必要な経費は約2兆円、軽水炉原子力発電所及び商業用核燃料サイクル施設建設に必要な経費は約10兆円と試算されています。
 資金の確保にあたっては、多様な手段を用いることによりその確実な確保を図っていくとともに、また限られた資金の重点的、効率的、効果的な活用を図る必要があります。また軽水炉の高度化・建設、核燃料サイクルの事業化等の進展に伴い、原子力開発利用における民間が担うべき役割が大きくなっていることなどを踏まえて、個々の計画の開発段階を十分に考慮し、国と民間のそれぞれの役割分担に対応した適切な資金分担を図る必要があります。さらに、計画の推進にあたっては、適切な時期に各研究開発課題について厳正な評価を行い、計画内容の見直しを弾力的に行うことにより資金の効率化に努めることにします。

(3)研究開発の推進体制と研究基盤の高度化
①研究開発機関の役割分担
 原子力の研究開発は、幅広い分野について基礎から応用段階まで計画的、総合的に進めていくことが重要であり、民間、国、大学等の各研究開発機関が適切な役割分担の下にそれぞれの能力や特長を十分に活用し、発展させていくことが必要です。

(イ)民間の役割
 軽水炉技術や事業化段階にある核燃料サイクル技術について、信頼性の向上、技術の高度化等に関する技術開発を積極的に実施していくことが期待されます。

(ロ)政府関係研究開発機関の役割
 動力炉・核燃料開発事業団は、高速増殖炉、新型転換炉を含めた核燃料サイクル各般に関連する開発及びこれに必要な研究を推進し、その発展、実用化を期すことを基本的な役割としています。今後とも国のプロジェクトとして高速増殖炉等の開発、使用済核燃料再処理技術の開発、高レベル放射性廃棄物の処分の研究開発等を推進するとともに、実用化を見通した高速増殖炉固有の研究開発・先進的リサイクル技術に関する研究開発等を行っていきます。さらに、事業化が具体化しつつある技術課題に対しては民間との密接な連携、協力の下に技術移転、技術協力を進めるとともに軽水炉用MOX燃料の利用に対する技術的支援等行い、将来の核燃料サイクルの実用化に向けた技術開発センターとして諸活動を進めていきます。
 日本原子力研究所は、原子力の開発に関する研究等を総合的かつ効率的に行い、原子力の研究、開発及び利用の促進に寄与することを基本的な役割としています。今後とも原子力の新たな可能性の探求と多様なニーズに対応するため、原子力全般を支える基礎的研究、基盤的研究及び安全研究の一層の推進に努めるとともに、高温工学試験研究、原子力船研究開発等新たな概念の原子炉等の研究開発、放射線利用研究、核融合研究開発等を推進します。また、研究者・技術者の養成、RI等の生産・頒布、共同利用施設の整備、多様な研究協力等を行い、我が国の原子力分野における中核的な総合研究機関として諸活動を進めていきます。

(ハ)その他の国の関係機関、国立試験研究機関、大学等においてはそれぞれの機関の目的に応じ、適切かつ計画的な推進を図っていきます。
 特に放射線医学総合研究所においては、放射線の生物影響、放射線障害の防止、放射線の医学利用等の中核的研究機関としての役割を担っていきます。また、理化学研究所は、物理・化学等の基礎的研究分野での優れた研究ポテンシャルを活かした適時適切な役割を果たしていくことが重要です。
 大学においては、学術研究機関として、我が国の学問的基盤の確保と水準の向上を図りつつ、研究開発の進展等に対応できる教育研究機関としての機能強化が期待されます。

②研究基盤の高度化
 先端的研究開発分野では研究の進展が速く、研究用の設備・機器等の使用年数は著しく短縮化する傾向にあります。そこで、研究レベルの維持、向上のため、既存の研究設備・機器の維持、更新等を適切に進めます。国としては、特に、研究用原子炉、大型加速器等の民間等では整備の困難な大型で先端的な設備・機器の整備やこれらを共同利用施設として産学官の幅広い分野の研究者が利用できるような体制の整備について検討していきます。
 原子力の先端的研究開発分野における研究活動を活性化し、その創造性を高めていくため、研究課題の性格や特徴に応じ、研究者の流動化を促進するための方策の拡充、国内外の研究者が同一課題について同一機関に一定期間結集し、集中的に研究を行うことができるシステムの構築など研究システムの充実に努めます。また、研究者の研究能力を十分に発揮させるための研究支援業務の見直し・強化、事務的な業務の簡素化等を進めます。
 研究開発を効果的、効率的に推進していくためには適正な研究評価が必要です。研究評価にあたっては、新しい芽を育てる観点からの評価と円滑な研究開発を進めるという観点からの評価とがありますが、研究開発の性格や段階に応じて両方の観点を組み合わせた適切な研究評価を行っていく必要があります。その際、研究開発課題についての評価のみならず、人材、設備・機器、資金等の研究資源の効率的、効果的な配分及び適切な研究開発体制の構築等の総合的な観点からの研究評価を国の内外や多様な分野からの意見に留意しつつ行い、将来の研究テーマの設定、研究資源の配分等に反映させていきます。
 また、原子力研究開発において大きな役割を担っている日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、放射線医学総合研究所及び理化学研究所においては、優れた人材、研究設備・機器、充実した研究支援体制等を有する中核的な研究機能(センター・オブ・エクセレンス)の育成・整備に努め、世界に誇れる優れた研究成果を上げることが期待されます。国としては、優れた研究能力を有する研究機関に対し、資金の重点的な配分を行う等適切な支援を行っていきます。
 一方、国内外の原子力分野の科学技術情報は著しく増加しているため、これらの情報の収集、処理及び迅速な提供のための研究情報ネットワークの整備拡充によって、研究機関間の相互連携を緊密化し、有機的な情報流通体制の確立を目指していきます。
 さらに、加速器を用いた放射線利用技術等の研究開発の全国的な進展等に対応するため、研究開発施設等の地方への展開も望まれます。

③研究開発機関間の連携強化
 限られた研究資源によって多種多様化する研究開発を円滑かつ効率的に推進するためには、政府関係研究開発機関、民間、大学等の密接な協力が極めて重要であり、原子力分野のみならず幅広い分野の研究者や研究開発機関間の連携を一層緊密なものにする必要があります。このため、共同研究等による研究者の交流を進めるとともに、適切なテーマ毎に種々の分野の研究者で構成する研究会の設置等の拡充を図っていきます。
 原子力研究開発を進めていくために必要となる先端的な研究設備・機器については、共同利用を推進し、効果的、効率的な利用を図っていきます。研究開発機関に既に設置されている研究設備・機器のうち共同利用が可能なものについては、運営の弾力化により自ら実施する研究開発に支障のない範囲で利用機会の積極的な提供を進めることとします。今後、多分野の研究者の利用が期待できる先端的な研究設備・機器については、関係研究機関、関係省庁が適切な役割分担のもとに共同で設置することについて検討していくこととします。さらに、研究施設の共同設置及び共同利用は、国際間においても積極的に進められるべきであり、我が国の施設の外国への開放や外国にある先端的研究施設の利用のための国際共同研究の積極的な推進が必要です。
 特に、政府関係研究開発機関と大学等との連携にあたっては、共同利用、共同研究等により、政府関係研究開発機関の保有する大型かつ高度な研究設備・機器を大学等における研究、教育の場へ提供しつつ、研究交流を深めることが重要です。このため、双方において、共同研究や研究設備・機器の共同利用を調整・促進するための体制の整備等の適切な措置を講じる必要があります。

11.原子力産業の展開

 原子力産業は、原子力機器、役務等を供給する原子力供給産業と電気事業者に分けられます。原子力供給産業には原子炉、機器等を供給する原子力機器供給産業、ウラン濃縮、燃料加工、再処理等を行う核燃料サイクル産業、保守等を行う原子力ソフト・サービス産業等があり、多種多様な企業群により構成されています。
 原子力産業は、総合的な装置産業という性格も有しており、原子力開発利用の進展はこれら広範な企業群を維持、活性化させることとなり、ひいては国民経済や雇用にも好影響を及ぼすことが期待されます。また、原子力発電は発電コストに占める機器設備等に要する割合が大きいため内需誘発効果が高いという面もあります。
 現在、原子力発電の経済性は化石燃料による発電と比べて同等以上ですが、原油価格の低迷、円高等により、差は狭まっており、今後、一層の経済性の向上が求められています。また、同時に安全性・信頼性の一層の向上も要求されています。
 このような状況の下で、原子力供給産業は調和のとれた複合産業として、これまでの技術力・開発力を維持向上させるとともに、産業として成熟・自立していくことが望まれます。
 原子力供給産業は、今後の原子力開発利用を支える重要な担い手として、
  • 原子力技術の改良・高度化
  • 信頼性の高い機器、燃料及び役務の供給
  • 技術の共通化等を通じた経済性の向上
  • 市場の国際化、国際競争力の向上
  • 核燃料サイクル、高速増殖炉等の今後の展開に向けた技術的基盤の強化
 等を図っていくことが期待されています。このため、原子力供給産業自らが今後とも高い意欲を持って研究開発に取り組むことが重要です。また、原子力供給産業の需要は電気事業者の設備投資、研究開発投資に負うところが大きいことから、電気事業者は長期的視点に立ち、適切かつ計画的にこれを行うことが期待されている等その役割は極めて大きいものです。一方、政府関係研究開発機関は、民間との共同研究の推進等技術開発における連携を図り、人材の交流・移籍、施設の活用、データベースの整備及び提供等を通じて技術力の向上に寄与していくことが重要です。
 さらに、原子力産業が研究開発意欲を向上させ、その研究開発活動が円滑に進むよう環境整備を図ることも重要です。

①技術的基盤の維持向上
 軽水炉分野については既に産業として定着していることから、今後、安全性・信頼性・経済性の一層の向上の要請に応えるなど軽水炉主流時代の長期化に向けた諸課題に対応していく必要がありますが、これらについては原子力供給産業が長期的視点に立ち、電気事業者との連携を図りつつ、技術開発を積極的に進めることが重要であり、必要に応じてその技術の実用化に際して国が適切な支援等を検討することも必要です。
 核燃料サイクル産業のうちウラン濃縮、再処理等については、事業化が具体的に進展しているところであり、これまで開発を進めてきた動力炉・核燃料開発事業団から事業主体への技術移転を円滑に進め、事業主体の技術力の向上を図ることが重要です。また、国際競争力をも有する自立型の産業への展開に向けて技術的基盤を強化していく必要があり、関係機関が協力して、それぞれの特長を活かしつつ長期的視点に立って研究開発を進めていく必要があります。

②国際的展開
 国際協力については、原子力先進国としての我が国の国際貢献の視点及び長期的視点に立って、核不拡散の確保を前提としつつ、国は開発途上国におけるニーズの把握、協力の進展に応じた二国間原子力協力協定の締結等により、原子力平和利用の協力の基盤を整備するとともに、相手国のニーズ、レベルに応じた研究交流、原子力発電に係る協力等を進めていくことが重要です。
 我が国の原子力機器供給産業は、プラントの信頼性・安全性等の点で優れた技術力を有しており、これまでも十分な実績を挙げてきています。また、これらを背景に海外から原子力機器供給について期待が高まっています。今後、国際展開を図り、我が国の優れた技術力を積極的に示すことによって、我が国の原子力開発に対する海外の理解も深まることが期待されます。このため、相手国の国情等を勘案し、安全性と核不拡散の確保の観点を十分に踏まえた協力の在り方について検討していくことが必要です。その際、国は、原子力機器供給産業の国際競争力の強化等、国際展開に必要な措置を講じていくことが重要です。

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