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放射性廃棄物対策専門部会報告書
「高レベル放射性廃棄物対策について」

1992年8月28日
原子力委員会
放射性廃棄物対策専門部会

1. まえがき

 高レベル放射性廃棄物の処分は、核燃料サイクルを確立する上で重要な課題であり、その確立なくして原子力の開発利用の円滑な推進はあり得ないものである。しかしながら、高レベル放射性廃棄物の処分に対する安全性への懸念等が一部にあり、また、処分対策に対する国民の理解が十分に得られていないので、高レベル放射性廃棄物処分対策は円滑に進んでいるとは言い難い状況にある。

 これまで、高レベル放射性廃棄物の処分方策としては、「有効な地層の選定」(第1段階)の成果を踏まえ、「処分予定地の選定」(第2段階)、「処分予定地における処分技術の実証」(第3段階)及び「処分施設の建設・操業・閉鎖」(第4段階)という4段階の手順で進めることとされており、上記第2段階においては、地層処分技術の確立を目指した研究開発等を実施し、その最終目標たる処分予定地の選定を行うこととされている。しかし、この第2段階の進め方が必ずしも国民の間に周知されていなかったため、あたかも研究開発等の結果が処分予定地の選定プロセスに直接的に結び付くかのような印象を与え、本来は処分予定地の選定プロセスとは直接的な関連性のない研究開発等を阻害する要因の一つとなっていたことは否めない。さらに、処分の進め方に関する具体的なビジョンも必ずしも明確にはなっていなかったため、核燃料サイクルの確立のみならず、原子力発電の円滑な推進にも影響を及ぼしかねない状況になっていた。

 このため、当専門部会としては、処分の進め方と研究開発等の進め方を併行したものとして整理することとともに、高レベル放射性廃棄物処分の進め方に関する具体的なビジョン、特に処分対策全体の手順及びスケジュール、関係各機関の責任と役割等を明確に示し、処分対策全般に対する透明性を図ることが、国民の理解と協力を確保する途であり、ひいては処分対策の円滑な推進につながるとの認識から、これらを中心として昨年7月より鋭意検討審議を重ねてきた。今般、その検討結果を取りまとめたので報告する。
 当専門部会としては、今後、本報告に基づき、高レベル放射性廃棄物処分の円滑な推進に向けた努力を官民がその役割分担に基づき有機的な連携を図って強力に進められることを切望する。

2. 現状認識

 高レベル放射性廃棄物の処理処分対策の適切な推進は、原子力の開発利用を進める上で最も重要な課題となっている。高レベル放射性廃棄物の処分については、国民の間にその安全性に対する懸念等が一部にあり、安全性に関する研究を行うための地下における研究施設の立地も円滑に進み難い状況にある。さらに、海外においても、高レベル放射性廃棄物の処分対策については、難しい状況に直面している例が多い。
 我が国として、このような状況を打開し、処分対策を円滑に進めて行くため、今後の高レベル放射性廃棄物の処分の進め方をできるだけ明らかにし、広く国民の理解と協力を求めて行くことは、喫緊の課題である。

3. 基本的考え方

 高レベル放射性廃棄物の処分の基本方策としては、関係各機関の役割を明確化し、研究開発等を着実に実施しその進展状況を国民に周知するとともに、処分対策全体の手順及びスケジュールを具体的に示すことが肝要である。
 今後、国民の理解と協力を得て、処分対策を円滑に進めるためには、特に以下の点に留意する必要がある。
 ① 長期に渡り研究開発等を要することとなるので、知見の得られた段階ごとに、国がその妥当性について判断を示すこと
 ② 処分に係る地元との長期に渡る信頼関係が重要なので、段階の節目において地元の意向が反映されることを具体的に示すこと

4. 地層処分の進め方

 高レベル放射性廃棄物の処分対策を円滑に進めていくためには、官民一体でその推進を図っていくことが不可欠であり、その際、官民の役割分担を明確にすること、実施主体等の設立時期と形態等について時宜を得て的確に判断すること及び処分手順を明示することが肝要である。

(1) 官民の役割分担
 高レベル放射性廃棄物対策は、国、電気事業者、動力炉・核燃料開発事業団(以下、「動燃事業団」という。)等関係機関の適切な役割分担の下に進めていくことが不可欠である。
 国は、処分が適切かつ確実に行われることに対して責任を負うとともに、処分の円滑な推進のための所要の施策の策定が求められる。動燃事業団は、当面、研究開発及び地質環境調査の着実な推進を図ることが求められているところであり、また、電気事業者は、処分費用の確保のみならず、研究開発の段階においても、高レベル放射性廃棄物の発生者としての責任を十分踏まえた役割が求められる。

 官民の協力については、高レベル放射性廃棄物処分対策に係る当面の具体的な推進方策の検討、所要の連絡調整等を行う高レベル放射性廃棄物対策推進協議会が、既に、国、電気事業者、動燃事業団の三者により組織されている。三者はこの場を活用し、国民の理解と協力を得るために行うべき具体的諸対策を、着実かつ積極的に推進していく必要があり、処分対策に関し本格的な取組を開始すべき時期に来ている。

(2) 実施主体の設立時期と形態等
 処分事業の実施主体の形態の明確化及びその決定は、処分予定地選定の具体的作業の本格的第一歩である。
 実施主体の形態については、その永続性の担保、発生者責任、研究開発成果の活用等を考慮しつつ、実効性があり、かつ国民に信頼される実施主体が具体的にどのようなものかを念頭において、引き続き検討する必要があるが、取りあえず以下の点を指摘できる。すなわち、実施主体には、組織の永続性、技術能力、立地能力等が求められ、特に永続性については、特殊法人形態のほか、その他民間組織形態であっても、必要な場合にはその永続性の担保につき、国の責任を明確化する等の措置が求められる。

 現在は、地層処分の研究開発等を着実に進めるとともに、高レベル放射性廃棄物の地層処分に対する国民の理解を醸成していく時期であり、実施主体については、処分場の建設スケジュールを考慮し、2000年を目安に、研究開発等の進展状況や諸般の情勢等を総合的に勘案し、その設立を図っていくことが適当と考えられる。

(3) 準備のための組織
 高レベル放射性廃棄物対策推進協議会においては、実施主体の組織形態等の検討を速やかに行い、準備のための組織をできる限り早期に発足させることが望ましい。

(4) 地層処分の手順
 実施主体は、国民の理解を得て処分を実施していくことになるが、その手順を示せば概ね以下のようなものである。
 ① 実施主体は、地層処分の候補地として適切と思われる地点について予備的に調査を行い、処分予定地を選定する。国が選定の結果を確認し、その地点を処分予定地とするに当たっては、実施主体は地元にその趣旨を十分に説明し、その了承を得ておくものとする。
 ② 実施主体は、実際の処分地としての適性を判断するため、処分予定地において、所要の地下施設によるサイト特性調査及び処分技術の実証を行う。
 ③ 実施主体は、処分場の設計を行い、処分に係る事業の申請を行うこととなるが、国は、処分に係る事業を許可するに当たり、所要の安全審査を行う。処分場の建設・操業の計画は、処分場建設に至るまでに要する期間、我が国の今後の再処理計画等原子力開発の状況等から総合的に判断して、2030年代から遅くとも2040年代半ばまでの操業開始を目途とする。

5. 費用の確保

 費用の確保は、世代間の負担の公平の原則から、早期に開始する必要がある。処分費用については、現在の技術と処分場のモデルに基づき、処分費用の範囲、概算、確保方策など、費用の確保の考え方に係る検討が進められている。今後は、早急に合理的な費用の見積りを行い、それに基づいて費用の確保の具体化を図るべき段階に来ている。費用の確保は、処分の実施への国及び関係者の姿勢を明確にするとともに、処分の必要性に対する国民の認識を深めることに寄与すると考えられる。

6. 処分場の管理

 高レベル放射性廃棄物の地層処分は、処分システムの健全性を維持する責任を将来世代に特に依存することなく、高レベル放射性廃棄物を安全に処分することを基本としたものであり、国際的には閉鎖後の安全性については制度的な管理等に依存してはならないものとされている。一方、高レベル放射性廃棄物が処分によって人の管理下から離れることに対する国民の不安は、小さくないものとも考えられる。従って、閉鎖後の監視、記録の維持等の制度的な管理の考え方を導入することは、我が国においては、国民の理解を得る上で有力な考え方の一つである。このため、技術的観点を踏まえつつ、制度的な管理の意義、内容、期間の考え方等について引き続き検討を行うことが必要である。

7. 研究開発等の進め方

(1) 研究開発の評価
 研究開発の進展は、処分実施の基礎となるものであり、国民の理解を得る上でも極めて重要である。このため、関係各機関による研究開発の進展状況及び成果を適切な時期に取りまとめることにより、研究開発の到達度を明確にして、国民のコンセンサス形成に寄与する必要がある。

 ① 動燃事業団が本年作成する研究開発の第一次取りまとめについては、現段階における研究開発の進展状況および成果を明らかにし、その結果につき国に報告することが必要である。
 ② 動燃事業団が2000年前までに予定している第二次取りまとめについては、人工バリアの定量化、地質環境調査手法・機器の開発がほぼ終了する計画であるので、その評価は重要である。国は、評価のための委員会を設け、その評価を行うものとする。評価のための委員会は、安全確保に関する基本的な考え方、技術的知見及びそれまでの地質環境調査の結果等を踏まえて、我が国における地層処分の技術的信頼性等を評価することとする。

(2) 深地層の研究施設の役割
 動燃事業団では、これまで国内における既存坑道を利用した試験や、海外の地下研究施設を利用して、地層に係る研究等を進めてきている。
 深地層の研究施設は、深地層の環境条件として考慮されるべき諸特性等の正確な把握、安全評価モデルの信頼性向上・確証等を行うとともに、深地層についての学術的知見の向上を図るためのものであり、深地層に係る総合的な研究の場として重要である。
 本施設の計画は、処分場の計画と明確に区別して進めるものとし、我が国の地質の特性等を考慮して、複数の設置が望ましい。

(3) 地質環境調査
 動燃事業団は、地域を特定することなく、広い範囲を対象に、地質構造、火山、断層の分布、岩石の透水係数、地下水組成等を調査し、我が国の地質環境データ・ベースの構築を進めている。今後、深地層の性状について具体的知見を得るために、深地層試錐のデータが重要と判断されるので、関係者の協力により、その促進を図ることが望ましい。

8. アクチニド等除去・消滅

 アクチニド等除去・消滅については、これにより高レベル放射性廃棄物の地層処分の必要性に影響を与えるものではないが、長寿命核種を適切に除去することによって、高レベル放射性廃棄物の放射能レベルを下げるとともに、その放射能レベルの継続期間を短縮する可能性があること、あわせて除去した核種を燃料資源として利用し得ること等の長期的観点から、その実用性を見極めるため、研究開発を積極的に進める必要がある。

9. 地域との共生等

 処分予定地については、各種調査の期間が長期に渡る上、処分場の建設・操業期間は、更に長期に及ぶという特殊性があるので、その実情に即した地域振興に関し、制度の改善等を含め、その在り方について検討を行うことが望ましい。
 深地層の研究施設については、研究推進上の重要性に鑑み、地域振興のための制度を検討することが必要である。また、地下空間の有効利用の見地から、地下空間の多目的利用等についても検討することが望ましい。

10. 国際協力の推進

 高レベル放射性廃棄物対策は、原子力開発利用を進める国々の共通の課題であり、海外においても積極的な取組が行われつつあることから、研究開発等の効率的推進、コンセンサスの形成等、広い観点に立って、国際協力、国際協調を進めるべきである。

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