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資料3

核融合研究開発の推進について

平成4年5月18日
原子力委員会
核融合会議

まえがき

 世界の核融合研究開発は、この約20年間に炉心プラズマ技術及び炉工学技術の両分野において大きな進展を遂げている。今日までに、大型トカマク型装置であるTFTR(米国)、JET(EC)及びJT-60(日本原子力研究所)により、高いプラズマ性能が実現されており、その温度、密度及び閉じ込め時間は、核融合の実用化の前提となる臨界プラズマ条件の至近領域に到達している。また、超電導コイル、加熱・電流駆動装置等の炉工学技術の研究開発においても、広範な分野の先端技術、極限技術の結集により、著しい進展が図られている。

 一方、日本、米国、EC及びソ連(当時)の4極間の国際協力により、1988年から核融合炉の科学的・技術的な可能性を実証するための実験炉を開発することを目的として、国際熱核融合実験炉(ITER)の概念設計活動が実施された。本活動は、各国において得られた研究開発の成果の集大成にも大きく貢献し、1990年末に成功裡に終了した。これを受けて、本年から6年間にわたり、工学設計活動が実施される予定である。
 我が国の核融合研究開発の歴史を振り返ると、昭和50年7月、原子力委員会が策定した「第二段階核融合研究開発基本計画」の下で研究開発が進められてきた。以来約17年間にわたる各研究機関の精力的な努力の結果、JT-60により原子力委員会が定めた目標に到達するなど、第二段階計画の主要な目標がほぼ達成され、我が国の核融合研究開発は、新たな段階に移行するに十分な科学的・技術的基盤をほぼ確立したと判断される。

 今後の核融合の実用化を目指した研究開発においては、研究開発規模がますます拡大する傾向にあり、これに伴って開発リスク及び所要の人材及び資金の規模が、従来以上に大きなものとなることが予想される。これらを最小限にとどめつつ、効果的、効率的に研究開発を進めるためには、十分な科学的・技術的見通しに基づき、研究開発の目標を明確化することが必要である。また、我が国が国際社会に積極的に貢献を果たすことが要請されている今日、国際協力にも一層主体的に取り組むことが求められている。

 このように、核融合研究開発が大きな転換期を迎えていることを踏まえ、核融合会議では、平成3年9月、核融合研究開発基本問題検討分科会を設置し、長期的な観点から、今後の研究開発の基本的方向及びその進め方について検討を行ってきた。この報告書は、同分科会での調査審議に基づき、これまでに得られた主要な核融合研究開発の成果を総覧するとともに、今後の研究開発の基本的な進め方及び今後実施すべき研究開発の内容について核融合会議としてとりまとめたものである。本報告書が、我が国が積極的に核融合研究開発に取り組むに当たっての指針としての役割を果たすことを期待する。

第Ⅰ章 核融合研究開発の意義

 エネルギーは文明社会を維持し、発展させるための原動力となるものである。エネルギーの安定供給を確保することにより、人類は、経済を持続的に発展させ、豊かな国民生活を実現することが可能となる。近年、エネルギー需給は緩和基調で推移してきている。しかし、長期的にみると、世界のエネルギー需給は逼迫化に向かい、その結果として、エネルギー供給の不安定性の増大、エネルギー価格の上昇が懸念されている。
 このようなエネルギーを取り巻く環境の中で、脆弱なエネルギー供給構造を有する我が国にとって、エネルギーの安定供給を確保することは喫緊の課題である。

 核融合は、原理的に高い安全性を有すること、地球環境問題の原因となる物質を排出しないこと、豊富なエネルギー源となり得ることなど多くの長所を有しており、これが実用化された場合、世界のエネルギー問題の解決に大きく貢献するものと期待されている。
 昨今、我が国の国際社会における地位向上とともに、我が国の国際貢献が強く求められるようになってきている。特に基礎研究分野における貢献を求める声が高まってきている。世界の核融合研究開発の第一線に位置している我が国は、この研究開発を通じて国際社会に基礎研究分野での大きな貢献をなし得るものと考えられる。

1. エネルギー需給の長期的動向

 近年、世界のエネルギー需給は緩和基調で推移してきている。しかし、当面の需給緩和にもかかわらず、長期的には世界のエネルギー需給は再び逼迫化に向かう可能性が高いと考えられる。
 先ず、世界のエネルギー需要を見ると、経済成長や人口増加等によって緩やかに増加していくものと見込まれている。特に、発展途上国の需要の伸びは、先進国のそれを大きく上回るものと考えられる。ちなみに、世界及び発展途上国のエネルギー需要は、経済協力開発機構の予測によれば、それぞれ2005年には1989年時点の約1.5倍、約1.9倍程度に増加するとされている。

 エネルギーの供給面に目を転じると、現在一次エネルギー供給の約6割を占める石油については、現在の石油消費レベルが持続されるならば21世紀中葉までには供給能力の低下が不可避と予想されていること、今後の石油探査対象地域は技術的・経済的条件が劣る地域に移っていかざるを得ないこと、上記2点は石油の価格を上昇させる要因になると考えられること、非中東産油国の石油生産量の減少に伴い中東産油国への依存度上昇が予想されており、これが石油供給の不安定性を増加させることが懸念されることなどから、中長期的には供給制約等の問題が顕在化すると考えられている。

 天然ガスについては、石油に比し、未発見埋蔵量の比率が高いため、その可採埋蔵量については諸説があるが、やはり21世紀中葉には石油と同様に供給制約等の問題が顕在化する可能性が高いと考えられている。石炭は石油、天然ガスと比較すると資源量が多く数百年間の供給が可能と見込まれている。他方、近年化石エネルギーの大量消費による地球環境への影響に対する懸念が高まっている。このため、地球環境に配慮したエネルギー供給が強く求められており、この観点から化石エネルギーの大量消費に対する障害となる要因が次第に増大すると懸念されている。

 以上のように、エネルギーの需給は長期的には逼迫化に向かい、その結果としてエネルギー価格が上昇することが懸念される。このため、世界各国は、省エネルギーを促進するとともに、環境への負担の小さい、安価で豊富なエネルギー供給源の開発を進めるなど、エネルギーのベストミックスを目指した方策を講ずることが求められている。

 我が国は、一次エネルギーの約8割を輸入に依存している。また、主要なエネルギー源である石油は中東産油国にその多くを依存しており、その供給構造は極めて脆弱である。このため、エネルギーの有効利用をより一層進めるとともに、石油代替エネルギーの開発・導入を促進し、エネルギーの安定供給を確保することが我が国にとっては一層重要である。さらに、先進国の一員として、世界の将来のエネルギー源を開発し、もって人類のエネルギーの安定供給に貢献することが強く期待されるところである。
 核融合は、次節で述べるようにエネルギー源として、多くの特長を有しており、これが実用化された場合、世界のエネルギー問題の解決に大きく貢献することができるものと期待されている。

2. 核融合のエネルギー源としての特徴及び実現性

 核融合をエネルギー源として利用するための核融合炉は、原理上高い安全性を有しているとともに、地球環境問題の原因となる炭酸ガス等の物質を排出しないなどの優れた特長を有している。また、核融合炉に必要な燃料・材料資源は地球上に広く豊富に存在し、これを長期にわたり安定的に確保することが可能と見込まれる。また、核融合炉は、今後の研究開発等によりその経済性を一層高めることができ、他のエネルギー源と比較して十分な競争力を有するレベルに到達し得るものと期待されている。このように、核融合は、安全性、環境保全性、供給安定性等の観点を総合すると、極めて優れたエネルギー源になり得る豊かな可能性を有していると言える。

(1) 安全性
 核融合炉では、燃料を常時反応領域の外から供給しており、ある瞬間に反応領域に存在する燃料の総量は極めてわずかである。従って、万一異常が発生した場合においても、燃料の供給を停止することにより、核融合反応を速やかに停止することができる。しかも、制御が不可能となるような反応促進の機構(正のフィードバック)が存在しないことから、核融合炉は原理上高い固有の安全性を有していると言える。
 また、核融合炉で原・燃料として用いられる重水素とリチウムは、ともに非放射性物質であり、かつ、化学的毒性を持たない。また、核融合反応によって直接生成されるものは中性子及び非放射性のヘリウムのみである。中性子については、遮蔽を適切に行うことによって、従事者及び周辺公衆への放射線による影響を極めて小さいものとすることが可能である。

 核融合炉において使用又は発生するもののうち、中性子以外で放射線障害防止の観点から配慮を要するものは、中間生成物であるトリチウムと中性子による放射化生成物である。これらのうち、放射性物質であって、かつ、揮発性のものはトリチウム以外にはごくわずかな量しか存在しない。また中性子による放射化生成物は、そのほとんどが強固な構造材料中に閉じ込められ、移動・拡散が起こりにくい状態にあるのが特徴である。さらに、長寿命核種を含むものや高レベルの放射性廃棄物の生成につながる物質の発生もごくわずかである。従って、核融合炉において、トリチウム及び移動性の放射化生成物以外の放射性物質に起因する従事者及び周辺公衆への放射線の影響は極めて小さいものと評価されている。

 トリチウムは、トレーサー等に広く利用されており、比較的安全なアイソトープである。しかし、核融合炉内に保有されるトリチウムは、数kgの量と予想されている。このように、核融合炉では、扱う量が多量であるので、通常運転時、異常発生時のいかんを問わず、その漏洩・拡散を防止することが重要であり、このための十分な対策を講ずることが必要である。具体的には、核融合炉内のトリチウムの保有量を極力低減するとともに、多重・多分割格納等の対策を講じることにより、その漏洩・拡散のリスクを低減し、トリチウム使用に伴う放射線影響を小さいものとすることが可能であると考えられる。さらに、将来重水素・重水素、重水素・ヘリウム-3、水素-ほう素等の核融合反応を用いた核融合炉が実用化されれば、トリチウムについて考慮する必要性は重水素・三重水素を用いる場合に比べて格段に低下または皆無となる。

 また、中性子による放射化生成物のうち、わずかではあるが放射化ダスト、冷却材中の腐食生成物等の移動性のものが発生するので、その閉じ込め・捕集のための対策を講じることが必要である。さらに、低放射化材料の開発・導入を積極的に進めることにより、放射化レベルの低減を図るとともに、放射化レベルが極めて低い大型構造物についての合理的な処理・処分の方策を確立することも重要である。
 これらの対策を講じることにより、トリチウム、放射化生成物等についても、その放射線による影響を一層低減し、核融合炉の安全性を更に高めることが可能であると判断される。

 このように、核融合炉は高い固有の安全性を有している。トリチウム、放射化生成物等についても適切な対策を講じることにより、これらに起因する放射線影響を十分に低減することが可能であり、核融合炉は安全確保の観点から極めて優れたエネルギー源になると期待される。

(2) 環境保全性
 核融合炉は、原子力発電と同様、発電の過程において地球温暖化、酸性雨等の地球環境問題の原因物質と言われる二酸化炭素、窒素酸化物等を排出しないことから、地球環境の保護の面からも重要な役割を果たすと期待されている。今後、地球環境問題への関心が高まり、地球環境に及ぼす影響がより小さいエネルギー源を希求する世論がさらに高まるに伴い、核融合への期待が、ますます高まるものと考えられる。

(3) 燃料・材料の資源量及び供給安定性
 重水素・三重水素反応を用いた核融合炉の運転を行うためには、原・燃料である重水素及びリチウムを所要量だけ確保する必要がある。このうち重水素については、現状においても年間トンの桁の生産能力を有する重水製造設備が存在し、これにより核融合炉の運転に必要な重水素を供給することが可能である。また、リチウムについては、核融合炉が多数建設された場合に必要となる供給量を数百年程度の期間にわたり賄うために十分な埋蔵資源が確認されている。さらに重水素、リチウムは、いずれも海水中にほぼ無尽蔵(海水中濃度で、重水素33ppm、リチウム0.17ppm)に存在しており、これらを海水から抽出する技術を実用化することにより、核融合炉の運転に必要とされる量をほぼ恒久的に賄うに十分な供給量を確保することが司能となる。さらに、海水からの抽出の可能性は、原・燃料資源に偏在性がないという特長を意味していると言える。また、トリチウムについては、核融合炉への初期装荷量(数kg/基と見積もられている。)さえ確保されれば、トリチウムの増殖を可能とするブランケットに係る技術の確立により、以後のトリチウム供給を外部に依存することなく核融合炉の運転を継続することが可能となる。さらに将来、重水素・重水素反応を用いた核融合炉が実用化されれば、トリチウムの初期装荷も不要となり、ほぼ無尽蔵の燃料を利用することができることになる。

 一方、核融合炉の建設・運転には、超電導コイルの素材として使用されるニオブ、冷媒として使用されるヘリウム、ブランケットの中性子増倍材に使用されるベリリウム等の希少資源が必要とされる。このうち、ニオブ及びヘリウムについては需要量に対して十分な供給量を容易に確保することが可能と予測されている。ベリリウムについては、将来核融合炉が多数建設された場合、これによる需要量が、現時点における他の用途の総需要量を上回ると見込まれる。しかしながら、資源の有効利用や鉛等の他の中性子増倍材の導入により、今後のベリリウム需要を抑制することができるので、ベリリウムの供給が核融合炉を実現する上で障害となることはないと考えられる。

 このように核融合炉に必要な燃料・材料資源は、ごく一部の希少資源を除き豊富に存在し、さらに重水素及びリチウムの海水からの回収技術の実用化、ベリリウム等の希少資源の有効利用や代替等を進めることにより、これらの資源の長期にわたる安定な確保が可能と見込まれる。

(4) 経済性
 核融合炉の経済性については、今後実用化に至るまでの長期間にわたる着実な研究開発により、大幅な技術の進展が見込まれることから、現段階においてその詳細を評価することは困難である。しかしながら、日本原子力研究所(以下「原研」という。)において、最近の核融合研究開発の成果を基礎とし、実現性の高いと思われる技術内容を極力盛り込み、実用一号炉を想定した試算がなされている。その他、米国の実用炉を想定したARIESに関する試算等も実施されている。これらによれば、核融合炉の経済性は他の電力源のそれに比肩し得るレベルに到達できると見積もられている。また、核融合炉は、その発電原価に占める操業費、燃料費等の変動経費の割合が低いことから、設備利用率の高い基幹負荷(ベースロード)電力源として用いることが最も経済的に有利と考えられている。

 さらに、核融合炉の経済性は、以下のような改善・合理化を図ることにより、今後これを相当程度向上させ、将来エネルギー源として十分な競争力を有するレベルに到達し得るものと期待される。
 ・設計の合理化による建設費の低減
 ・装置の製作・建設に係る習熟効果、製造技術の進歩等による建設費の低減
 ・ブランケット技術の進歩等による原・燃料費の低減
 ・エネルギー増倍率の向上、大出力化等によるプラント・エネルギー効率の向上

3. 先端技術、極限技術の創出と他分野への波及効果

 核融合の研究開発は、1億K以上の高温プラズマを安定に閉じ込め、核融合反応エネルギーを取り出して発電、水素製造等の熱利用、さらに各種の中性子利用の実現を目指している。その実現のためには、炉心プラズマ技術の研究開発と炉工学技術のそれとが車の両輪となって、相互に発展を促しながら進歩する必要がある。その過程において、超電導磁石技術、高真空技術、耐熱・耐放射線材料技術、高出力粒子ビーム技術、高出力電磁波技術、大電力制御技術、高出力電子ビーム溶接技術等の広範な分野の先端技術、極限技術が大規模な核融合実験装置の建設・運転のために開発・投入されてきた。今後も次期装置である核融合実験炉の開発を目指して、従来を上回る技術が開発されようとしている。

 これらの先端技術の開発には、産・学・官の広い研究開発分野にわたる連携と協力が不可欠である。特に、産業界は、これまでにも核融合関連の研究開発に積極的に参加し、その最高度の技術の粋を結集するとともに、新たに開発された技術を他分野に広く波及させることに成功している。その結果として、核融合において開発された先端的あるいは極限的技術の多くは、核融合以外の幅広い技術分野に波及し応用されて、リニア・モーター・カーによる高速輸送、大電流イオン源あるいはプラズマ・プロセス技術を利用した半導体製造、フライホイール発電機等の大電力機器、真空容器等大型構造物製作、その他の分野の技術革新を誘起し加速してきた。
 今後とも、核融合の研究開発は、多くの分野の技術開発を先導する役割を果たしていくものと期待される。

4. 新しい学問分野の開拓と人材養成等

 核融合は人類がこれまでに実現できなかった高温のプラズマ状態を作り出し、そのふるまいを研究することにより、新しい学問の分野を開きつつある。例えば、磁場閉じ込め核融合研究開発においては、核融合プラズマは非線形物理学の研究対象の宝庫とされ、磁場とプラズマの相互作用の研究は、宇宙プラズマの挙動の理解にも貢献している。また、慣性閉じ込め核融合研究開発においては、電磁波とプラズマの相互作用が新しい物理研究の分野を産み出している。一方、炉工学においても、従来の工学体系にみられない複合環境下での材料・構造に関する研究や超電導現象・技術等の分野において著しい進展が見られ、これらの新しい工学分野の確立に貢献してきた。

 このように、核融合は、基礎研究の対象としても極めて魅力ある分野を提供することができる。このため、核融合は、エネルギー開発にとどまらず、新しい学問分野の発展に寄与しつつ、若く、優れた人材を数多く引き寄せ、その活躍の場を提供してきており、今後ともその役割が期待される。
 昨今、我が国の国際社会における地位向上とともに、我が国の国際貢献が強く求められるようになってきている。特に基礎研究分野での貢献を求める声が高まってきている。我が国は、核融合研究開発にその黎明期から積極的に取り組んできており、その研究開発の水準は世界のトップレベルに達している。その間に研究あるいは技術の基盤や経験、さらには優れた人材を培ってきた。この基盤等を活用した核融合分野における研究開発を通じ、国際社会に広く貢献し得るものと考えられる。

第Ⅱ章 核融合研究開発の現状

 世界の核融合研究開発は、この約20年間において、大きな進展を遂げた。いくつかの具体例を挙げると、大型のトカマク型装置であるTFTR(米国)、JET(EC)及びJT-60(原研)(以下、この3装置を総称して、「三大トカマク型装置」という。)によりプラズマの温度、密度及び閉じ込め時間が臨界プラズマ条件に近づくなど、高温かつ高密度のプラズマの生成・制御技術に大きな進展を見た。さらに、JT-60等による非誘導電流駆動の研究開発が進展し、定常炉心プラズマ実現へ向けての今後の研究開発を展望できるようになった。ヘリカル型、逆磁場ピンチ型、ミラー型等のトカマク型以外の磁場閉じ込め方式においても、プラズマ生成・制御技術の研究開発が進展し、プラズマ性能(温度、密度、閉じ込め時間等)の向上が見られた。これらの成果を踏まえ、我が国において大型ヘリカル装置の建設が開始された。また、慣性閉じ込め方式においても、爆縮の研究が進み、点火及び高利得プラズマの実現に向けての研究開発を展望できるようになった。また、プラズマ諸現象の理論及び計算機シミュレーションによる解明においても著しい成果を上げた。

 炉工学技術においても、超電導コイル、加熱・電流駆動装置等の研究開発に著しい進展が見られた。プラズマ対向機器及びブランケットの開発に不可欠な知見や構造材料の中性子照射損傷に関する体系的データが蓄積された。また、核融合炉の安全性及び経済性に関する硯究が開始され、核融合炉が高い社会的受容性を有し、他のエネルギー源と競合し得る可能性を有していることを確認する結果が出始めている。
 IAEAの後援の下に、日本、米国、EC及びソ連(当時)の4極が参加して行われた国際熱核融合実験炉(以下「ITER」という。)の概念設計、我が国が独自に行った核融合実験炉(以下「FER」という。)の概念設計等に、上記の炉心プラズマ技術及び炉工学技術に関する成果が活用され、核融合研究開発の次の段階において中核となる装置(以下「次期中核装置」という。)の概念が固まってきた。

 我が国の核融合研究開発は、臨界プラズマ条件の達成を主たる目標として、原子力委員会が昭和50年7月に策定した第二段階核融合研究開発基本計画(以下「第二段階計画」という。)の下で進められてきた。第二段階計画の炉心プラズマ技術に関する主な研究開発の目標は、温度が数千万Kから一億K程度、プラズマ密度と閉じ込め時間の積が(2~6)×1019m-3・秒程度のプラズマを実現することであった。

 第二段階計画の中核装置として原研にJT-60が建設され、同装置により温度が5000万K、密度1.7×1020m-3、密度と閉じ込め時間の積が2.3×1019m-3・秒の水素プラズマを実現し、原子力委員会が定めた目標を達成するなど十分な成果を上げた。さらに、JFT-2M(原研)等の他のトカマク型装置、電子技術総合研究所(以下「電総研」という。)の逆磁場ピンチ型装置、また、大学のトカマク型以外の装置を含む広範囲な実験装置により多様な研究開発が行われ、炉心プラズマ技術が進展した。炉工学技術についても、超電導コイル等の研究開発を始めとして、広範な分野での研究開発が進展した。
 このように、我が国は第二段階計画の目標を大略達成し、次段階の核融合研究開発を具体的に実施するに十分な科学的・技術的基盤をほぼ確立したと判断されている。

1. 炉心プラズマ技術の研究開発

1.1 トカマク型装置による炉心プラズマ技術の研究開発

(1) プラズマ閉じ込め
 三大トカマク型装置はトップ・データ取得をねらう研究開発を担ってきた。これだけでは不十分なプラズマ諸現象の物理的解明を行ういわば補完的な研究開発及び三大トカマク型装置等の中核装置に採り入れる前により小規模な実験で新規構想を確認するための先進的な研究開発が、中小型のトカマク型装置であるJFT-2M、DⅢ(日米協力により我が国も建設及び実験に参加)、ASDEX(EC)等により実施された。これら三大トカマク型装置による研究開発及び補完的・先進的研究開発の有機的連携により、炉心プラズマ技術に大幅な進展が見られた。特に、Hモード等の高性能閉じ込めモードが発見され、また、その発生機構の解明が実験的・理論的に進展した。その結果、三大トカマク型装置により得られるプラズマの温度、密度及び閉じ込め時間が第Ⅱ-1図に示すとおり、臨界プラズマ条件の至近領域に到達した。さらに、ITER等の次期中核装置において想定されているプラズマ性能を実現する上で有力と考えられているHモード・プラズマを長時間維持するためのプラズマ制御技術に関する知見が得られつつある。

 世界の4極が参加して行われたITERの概念設計活動の一環として、世界各国のトカマク型装置を用いて取得されたプラズマ閉じ込めに関するデータが集積・評価され、この結果を用いてトカマク型装置に関する新しいプラズマ閉じ込め比例則が構築された。これにより、次期中核装置のプラズマ性能を予測する確度が大幅に向上した。
 また、最近JETにおいて、磁場閉じ込め方式では世界で初めて重水素と三重水素を用いた燃焼実験が行われ、メガワット級の核融合出力が実際に得られた。

(2) ダイバータによる不純物制御
 ダイバータはJFT-2a(原研)にトカマク型装置として初めて導入され、不純物量の制御に有効であることが実証された。その後、このダイバ一夕は、JT-60等の大型のトカマク型装置に取り入れられ、Hモードの実現等プラズマ性能の向上に大きな役割を果たした。また、日米が協力して世界に先駆けて開発に着手し、DⅢにおいてその機能が検証されたオープン・ダイバータ方式は、JETにも導入され、高いプラズマ性能を得る原動力の一つになった。さらに、この方式はITERの概念設計にも採用された。

 JT-60のLモート・プラズマにおいて、高加熱入力下でのダイバータ板付近の放射損失(遠隔放射冷却)及びセパラトリックス掃引により、ダイバータ板への熱負荷を軽減できること、核融合炉での燃料である重水素及び三重水素の密度の低下を防ぐために必要なプラズマ内部からのヘリウム排出がダイバータにより有効に行われ得ることが各々実証された。
 次期中核装置のプラズマ性能を実現する上で有力と考えられているHモード・プラズマにおいて、ダイバータ板熱負荷並びに重水素及び三重水素の密度の制御を実現することが今後の重点課題である。

(3) 電流駆動
 ダイバータによる不純物制御技術の研究開発とともに、我が国がいち早く着手し、世界の研究開発を先導してきた分野として、電流駆動技術の研究開発が挙げられる。

第Ⅱ-1図:トカマク方式によるプラズマ性能の向上
第Ⅱ-1図:トカマク方式によるプラズマ性能の向上

 中小型トカマク型装置であるJFT-2(原研)、WT-2(京都大学)等により電流駆動技術が進展した。その後、JT-60により、低域混成波帯高周疲を用い2MAのプラズマ電流駆動が実現された。さらに、この方法による電流駆動効率の向上も図られ、その値はITERの設計下限値の70%に達した。(第Ⅱ-2図)。
 トカマク型装置の長時間運転を実証するため、TRIAM-1M(九州大学)、TORE-SUPRA(EC)等、超電導コイルを用いたトカマク型装置か建設された。TRIAM-1Mにおいては、低域混成波帯高周波を用いた電流駆動により1時間に及ぶ長時間のプラズマの生成・維持が実現されるに至った。

 プラズマ中に自然に流れる自発電流(ブートストラップ電流)を有効に利用することにより、プラズマ電流を効率よく駆動することができる。TFTRにより存在が確認された自発電流は、その後JET、JT-60によっても確認された。さらに、JT-60によりプラズマ電流の80%を自発電流が占めるプラズマが実現された。これらの成果は、トカマク型装置の高効率化につながるものである。
 このように、トカマク型装置を定常核融合炉へと発展させる上で不可欠な電流駆動技術の研究開発が大幅に進展した。

(4) 運転領域及びディスラプション制御
 JT-60により、村上係数と安全係数(q値)とで表わされる運転領域が拡大され、ITERの概念設計で想定されている標準運転領域に達した。また、DⅢ-Dにより11%のベータ値が達成されるとともに、PBX-M(米国)により高ベータ・プラズマを得るためのプラズマ制御法についての知見が得られた。

第Ⅱ-2図:電流駆動研究の進展
第Ⅱ-2図:電流駆動研究の進展

 JT-60により、プラズマ電流が3.2MA以下、安全係数が2、2以上の条件で行われた実験で、ディスラプションの発生原因と、ダイバータ板への入熱量が明らかにされた。また、DⅢ-Dにより、高ベータ領域でのディスラプションの発生条件が調べられた。
 ディスラプション発生の頻度を低減、あるいはこれを回避し、トカマク型装置の健全性を確保するため、多くのトカマク型装置によりディスラプション制御に関する研究開発が行われた。DITE(EC)、JFT-2M、TORIUT(東京大学)及び核融合科学研究所(以下「核科研」という。)のJIPP-TⅡUによる研究開発では、真空容器外に設置したコイルを用いて、また、WT-2による研究開発では高周波を用いて、各々ディスラプションの制御が可能であることが示された。

1.2 トカマク型以外の装置による炉心プラズマ技術の研究開発

(1) ヘリカル型装置
 ヘリオトロン-E(京都大学)により、プラズマ閉じ込め研究の進展が図られるとともに、誘導プラズマ電流を流さない状態でプラズマの生成・維持が実現したこと、大規模ディスラプションの発生がないことなどの成果を得た。W7-AS(EC)において、第一壁に黒鉛を用いて、プラズマ中の不純物を低減し、30ミリ秒の閉じ込め時間を得た。ATF(米国)において、プラズマ周辺部の不整磁場を修正することにより、同程度の閉じ込め時間を得た。
 CHS(核科研)によりへリカル型の小型化(アスペクト比5)への展望を開いた。CHS及びW7-A(EC)により、プラズマ中の電場がプラズマ性能に及ぼす影響について研究され、その成果はトカマク型装置におけるプラズマ閉じ込め研究の進展にも寄与した。
 プラズマ性能の向上及び定常運転の実証を目標として、核科研に、ヘリカル方式に超電導コイルを用いた大型ヘリカル装置LHDが建設されつつある。

(2) 逆磁場ピンチ型装置
 TPE-1RM15(電総研)により、電子温度1000万Kが得られるとともに、ベータ値10%が達成された。また、ZT-40(米国)及びHBTX(英国)によりイオン温度1200万Kが得られ、OHTE(米国)によりベータ値30%が達成された。MST(米国)により、閉じ込め時間1ミリ秒が実現された。REPUTE-1(東京大学)によりプラズマ表面の安全係数が1以下の運転の研究が行われ、プラズマ閉じ込めについての理解が進んだ。また、大型装置であるRFX(EC)が稼働を開始した。

(3) ミラー型装置
 タンデム・ミラー型装置であるGAMMA10(筑波大学)及びTMX-U(米国)によって、熱バリアを形成することで閉じ込め電位を効率的に高め、プラズマ性能を改善することに成功した。特に、GAMMA10において、最大1.7kVの閉じ込め電位が形成されるとともに、閉じ込め電位の向上に伴い閉じ込め時間が伸び、中央ミラー部の電子密度1.1×1019m-3、電子温度290万K、磁場と垂直方向のイオン温度6500万Kが達成された。

(4) コンパクト・トーラス型装置
 スフェロマック型装置では、S-1(米国)によるプラズマの圧縮、TS-3(東京大学)によるプラズマの重合、SPAC(旧名古屋大学プラズマ研究所)及びCTX(米国)によるプラズマの移動等の実験が行われるとともに、逆転磁界配位型装置では、PIACE-3(大阪大学)及びNUCTE-3(日本大学)によるプラズマの安定化等の実験が行われ、コンパクト・トーラス型装置におけるプラズマの制御に関する理解が進んだ。また、コンパクト・トーラス型装置で生成したリング状のプラズマをトカマク型装置におけるプラズマの燃料として高速で入射することが提案され、小規模の実験が行われている。

(5) 慣性閉じ込め装置
 激光ⅩⅡ(大阪大学)による爆縮実験において、レーザー光をペレットに均一に照射する技術、均質なペレットを製作する技術等が進展し、分子中の水素を重水素と三重水素で置換したポリエチレン製のペレットを用いて、初期固体密度の600倍(600g/cm3)のプラズマが実現された。この実験での密度と閉じ込め時間の積は1021m-3・秒に達した。NOVA(米国)及びOMEGA(米国)による爆縮実験において、密度と閉じ込め時間の積3×1020m-3・秒が達成された(第Ⅱ-3図)。これらの実験を通じて爆縮過程の理論と実験の比較が進み、高温・高密度の爆縮による点火プラズマを実現するための方法が確立されつつある。点火及び高利得プラズマの実現を目指し、NOVAの増力が決定された。

1.3 プラズマ制御・計測

 電子計算機の演算速度の向上により、ポロイダル磁場コイル電流を調節することによるプラズマ電流、プラズマの位置及び形状の帰還制御の高速化が進んだ。JT-60及びDⅢ-Dにおいて、セパラトリックス掃引によりダイバータ板への熱負荷を軽減できることが実証され、これらの成果はITERの概念設計に活用された。
 プラズマ計測技術では、多くの新しい計測法が開発され、プラズマ諸現象の解明に大きく寄与した。中性子照射環境下での計測法について検討が進むとともに、中性子、がンマ線による検出器等の特性の変化が調べられ、その結果はITERの概念設計に活用された。

1.4 理論研究

 理論研究及びこれらの成果を取り入れた計算機実験(シミュレーション)を通じて、プラズマ諸現象の理論的解明に著しい進展が見られた。

第Ⅱ-3図 慣性閉じ込め方式によるプラズマ性能の向上
第Ⅱ-3図 慣性閉じ込め方式によるプラズマ性能の向上

 プラズマ閉じ込めに関する研究については、プラズマ中の種々の不安定性やプラズマ周辺部の電場がプラズマ性能に与える影響についての解明が進んだ。
 プラズマの加熱及び核融合反応によって発生する高エネルギー・イオンの閉じ込めに関する研究が進展し、これらの結果に基づき、炉心プラズマにおける高エネルギー・アルファ粒子の閉じ込めを予測する研究が行われた。
 加熱・電流駆動に関する研究が進展し、これらの成果が効率の高い加熱・電流駆動法の開発に用いられた。
 ディスラプション発生機構の磁気流体理論に基づく解明が進展するとともに、ベータ値限界を理論的に予測し、更に向上させることが可能となりつつある。
 これらの研究の成果は、ITERの概念設計に活用された。

2. 炉工学技術の研究開発

(1) 装置システム解析
 ITER、FER等の概念設計の一環として、トカマク型装置の設計を行う各種のコードが開発され、プラズマ性能、真空容器内構造及びコイル・システム等が相互に整合性の取れた炉の規模及びその炉における最適な密度、温度及び燃焼時間等で規定される運転領域が短時間で得られるようになった。

第Ⅱ-4図:超伝導トロイダル磁場コイル開発の進展(白抜きの印は目標を示す)
第Ⅱ-4図:超伝導トロイダル磁場コイル開発の進展(白抜きの印は目標を示す)

(2) 超電導コイル
 トロイダル磁場コイルに関しては、国際協力で進められた大型コイル事業(LCT)及び我が国の国内計画として進められたクラスター試験計画(原研)により、超電導コイルを大型化・高磁界化する技術に大幅な進展が見られた(第Ⅱ-4図)。
 ポロイダル磁場コイルについては、このコイルの役割として要求されるパルス動作性能を実証するための実証ポロイダル・コイル(原研)が開発され、磁束密度を7Tまで1秒間で立ち上げるパルス動作性能が確認された。
 これらの超電導コイルの開発と並行して、TRIAM-1M、TORE-SUPRA等超電導コイルを用いたトカマク型装置が建設された。また、我が国では、大型ヘリカル装置用の超電導コイルの開発も進展している。

(3) プラズマ加熱
 中性粒子ビーム入射技術では、高効率化に不可欠な負イオン源の研究開発が進んだ。特に我が国において負イオン・ビームの大電流化、高エネルギー化及び長時間化に関する技術が進展した(第Ⅱ-5図)。さらに、負イオン源を利用した中性粒子ビーム入射装置をJT-60に導入し、高密度プラズマ領域での長時間放電を実現するための検討が進められた。
 高周波加熱技術では、10秒間にわたり大出力(2.1GHzで1.4MW)の高周波を発振できるクライストロンが我が国で開発され、また、短パルスながらITERで想定されている出力レベルのジャイロトロン(140GHzで約1MW)がソ連で開発されるなど、高周波源の高出力化が進展した。高周波スペクトルの制御が可能な低域混成波帯電流駆動用のアンテナ結合系が開発され、JT-60の実験に用いられた。

第Ⅱ-5図:負イオン源開発の進展
第Ⅱ-5図:負イオン源開発の進展

(4) プラズマ対向機器
 電子ビーム照射装置及び水素ビーム照射装置を利用して、高熱負荷機器の研究開発が進んだ。特に、我が国で開発されたダイバータの模擬試験体により、ITERの熱入力に関する設計条件上限(15MW/m2)の2/3の除熱が可能であることが実証された。また、ITERの第一壁(ダイバータを除く)への熱入力に関しては、最も厳しい設計条件(0.6MW/m2)の1/3の除熱が司能な第一壁構造体が我が国で開発された。
 内外において、黒鉛系材料やボロン等を添加した黒鉛系材料のプラズマ対向機器表面保護材料としての総合特性の評価研究がなされた。

(5) 燃料循環
 トリチウムの取扱い等に関する各種の試験を行う設備であるTSTA(米国)により、我が国で開発された燃料精製システムの性能試験が日米協力の下で実施された。また、ITERで想定されている重水素・三重水素混合ガス流量の約1/5の条件下で、上記の燃料精製システムを含む核融合炉燃料循環システム模擬ループの長期間連続運転がTSTAを利用して行われ、燃料循環に関する技術、トリチウム格納技術及びトリチウム施設の安全管理技術が進展した。また、大学等による研究開発において、トリチウム精製技術、同位体分離技術等に関する知見が蓄積された。

(6) ブランケット及び同構成材料
 米国及びECを中心に、固体増殖材方式ブランケットの構成材料(トリチウム増殖材、中性子増倍材、構造材)のインパイル試験が開始され、広範なデータが蓄積されつつある。また、国際協力であるBEATRIX計画により、固体増殖材の照射損傷に関する研究が進展した。我が国では、酸化リチウムのトリチウム生成特性に関する研究を進めた。ECでは、固体増殖材方式ブランケットに関して、小型のモックアップ試験が開始された。リチウム鉛方式に関してはEC等において、また、溶融塩方式に関してはECと米国において、データが蓄積されつつある。
 中性子工学の分野で核融合炉にも適用できる核データ・ライブラリーの整備が進み、遮蔽設計の精度が向上した。また、磁場中における液体金属の伝熱流動特性等に関するデータが取得された。

(7) 構造材料等
 日米協力の下で行われたHFIR/ORR(米国)及びFFTF/MOTA(米国)を利用した中性子照射実験を通じて、構造材料等に関する広範なデータが蓄積された。HFIR/ORRでは、316ステンレス鋼に関してITERで上限と予側されている30dpaまでの照射実験が完了し、50dpaの実験が現在進行中である。FFTF/MOTAでは、各種の構造材料、ダイバータ板材料及び絶縁材料の照射試験が実施された。

(8) 慣性閉じ込めドライバー
 米国及び我が国において、エネルギー変換効率が高く、繰り返し頻度が高いレーザーの開発を目指し、エキシマ・レーザー及びタイオード励起固体レーザーの高性能化に関する研究が進められている。
 イオン・ビーム装置としてはメガジュール級の軽イオン・ビーム装置PBFA(米国)が開発され、ビームの集束等に関する研究が行われている。また、高周波加速方式の重イオン・ビーム装置の開発が米国、ドイツを中心に進められている。

3. 安全性及び経済性の評価

 核融合炉に関する安全研究は、環境放射能安全研究、工学的安全研究及び安全評価研究に分けることができる。環境放射能安全研究に関しては、トリチウムの環境放出実験(カナダ)に我が国も参加し、環境モニタリングや環境影響評価等の安全評価上重要な知見が得られた。また、大学等において、トリチウムの生物影響等に関する研究が行われ、有用な知見が得られた。工学的安全研究及び安全評価研究に関しては、我が国において、核融合炉の安全確保に関する基本的考え方についての検討が開始され、安全性向上のための研究開発の方向付けが行われた。また、核融合炉の経済性について、定常核融合動力炉(原研)及びARIES(米国)の概念設計を通じて評価が行われた。

4. トカマク型核融合実験炉等の設計研究

 ITERの概念設計、我が国が独自に行ったFERの概念設計、ECで行われたITERと同規模の実験炉であるNETの概念設計等を通じて、次期中核装置の概念が構築された。また、ITERの概念設計活動を通じて、プラズマ物理及び炉工学に関するデータ・べースの整備が進んだ。その結果、次期中核装置のプラズマ性能を予測する精度が向上するとともに、既存の炉工学機器を次期中核装置の構成機器として大型化、あるいは高度化するための研究開発の方向が明らかになった。
 核融合動力炉の設計研究では、JT-60を中心とする炉心プラズマ技術の研究開発やITER概念設計の成果に基づいて定常核融合動力炉の概念設計が内外において実施され、核融合動力炉の開発に向けて実施すべき炉心プラズマ技術と炉工学技術の研究開発の方向が明らかにされた。

第Ⅲ章 核融合研究開発の基本的進め方

 我が国の核融合研究開発は、第Ⅱ章に述べたとおり、第二段階計画の目標を大略達成し、研究開発の新たな展開を図るための科学的・技術的基盤をほぼ確立するに至ったと言える。
 今後の核融合研究開発は、その規模が従来よりも更に拡大すると見込まれるため、その開発リスクと所要資源を最小限にとどめ、これを効果的、効率的に進めることが重要となる。この点について、核融合研究開発の歴史、予想される今後の展開を踏まえて検討した結果、段階的アプローチを採ることが適切であるとの判断に達した。段階の具体的設定については、その実現可能性、それに続く段階への基礎形成の必要性、実用炉に至るまでの全体としての経済性等を総合的に検討した。この検討の結果、今後の核融合研究開発の主要な段階として、(1)自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成、(2)定常炉心プラズマの実現及びプラント規模での発電の技術的実証並びに(3)発電プラントとしての経済性の実証の3段階を採ることが適当である。

 段階的な研究開発を進めるに当たっては、各段階の節目毎に、総合的な視野に立ったチェック・アンド・レビューを行うことが重要である。また、それぞれの段階毎に、不確実性が大きく、十分に目標達成の見通しを得ることが困難な課題及び研究開発に長期間を要する課題等に関して、適切な配慮を行うことが肝要である。
 次段階の中核装置としては、これまでに臨界プラズマ条件に最も近いプラズマ性能を実現しているトカマク型を採用することが適当である。さらに、その後の段階における閉じ込め方式の選択については、トカマク型以外の閉じ込め方式の発展の結果をも含めて総合的に評価し、将来その最終決定をなすべきである。

1. 段階的アプローチの考え方

 これまでの核融合の研究開発においては、プラズマ性能の向上を中心的な課題として、装置規模を順次拡大することによって段階的に進展が図られてきた。その結果、第Ⅱ章において述べたとおり、三大トカマク型装置によりプラズマ性能が臨界プラズマ条件に近づくなど、炉心プラズマ技術において大きな進展を遂げるとともに、炉工学技術の面でも超電導コイル、プラズマ加熱装置等の研究開発において、長足の進歩が見られた。これにより、我が国の核融合研究開発は、今や、次段階の核融合研究開発を具体的に実施するに十分な科学的・技術的基盤をほぼ確立するに至ったと言える。
 しかしながら、核融合をエネルギー源として実用化できるまでには、今後なお、解決すべき炉心プラズマ技術及び炉工学技術に関する課題が山積している。これらの課題を解決するには、様々な極限技術を結集し、未踏の技術分野を開拓していくことが必要である。しかも、自己点火条件の達成、定常炉心プラズマの実現等、今後予想されている重要課題の解決は、今までの中核装置以上に大型の装置による以外には、その実現の方策が無いと考えられている。

 これらの研究開発に要する人材と資金の規模は、過去のそれらと比校して、更に大きなものになると予想されている。このため、今後の研究開発は、これらの所要資源を最小限にとどめつつ、効果的、効率的に進められなければならない。
 以上のように、今後の核融合研究開発は、巨額の資金を要する大型装置がその中核になると考えられることから、段階的に進展を図っていくことが適当であると判断される。今後の核融合研究開発の推進シナリオを策定するに当たっては、この段階的アプローチを採用し、十分な科学的・技術的見通しに基づき、段階毎に達成すべき明確な目標を設定することにより、開発リスクの低減、効果的・効率的な実施等を担保する必要がある。この目標を実現するため、各段階毎に基本計画を策定し、その時代において実施すべき研究開発内容を明らかにすることが適当である。

2. 開発ステップ

 現在の第二段階から実証炉/実用炉に至る開発ステップ(段階)については、以下の諸点を総合的に検討し、判断すべきである。
1) 各段階の研究開発目標の設定については、目標とするプラズマ性能が前段階の知見から実現可能と判断されること。さらに、予想される炉工学技術の進歩により、所要装置の製作が可能と見込まれること。
2) また、予想される各段階の研究開発成果が、炉心プラズマ技術及び炉工学技術の諸課題に関し、更にその次の段階の研究開発への適切な基盤を与えるものであること。
3) 全体として最小限のコストで実現できるものであること。
4) 全体として最短期間で実現できるものであること。
5) 全体として最小限の開発リスクで実現できるものであること。
6) 各段階における炉心プラズマ技術、炉工学技術の各要素技術開発がバランスの取れたものであること。

 核融合研究開発においては、各段階の中核となる装置の果たす役割が大きく、上記の諸項目について検討する際にも、中核装置に付与すべきミッションに関するもののウェイトが大きい。このため、これからの検討は、中核装置を中心において進めることとする。
 実用炉に至る核融合の研究開発を展望した場合の最終的な段階は、核融合炉が他のエネルギー源と競合できる見通しを得ることである。このためには、それまでの成果を踏まえ、エネルギー発生プラントとして、十分な経済性を実証する段階が必要である(実証炉段階)。
 実証炉段階の前に必要と考えられる段階は、定常炉心プラズマを実現して、これから発生するエネルギーを炉外に取り出し、電気エネルギーに変換して利用することが技術的に可能であることをプラント規模で実証するものである(原型炉段階)。

 プラント規模での発電の技術的可能性を実証する原型炉段階への到達が、現状から中間ステップを経ずして直接に可能であるためには、次の2点が前提条件となる:
1) 高エネルギー増倍率の重水素・三重水素燃焼プラズマを定常に維持するための技術が確立されていること。
2) 所要装置を構成する機器等の製作技術が確立されており、これら機器等が高い信頼性を有すること。

 しかしながら、重水素・三重水素燃焼プラズマの実績は現時点ではほとんど無く、また未経験の炉工学技術の分野も多いことから、上記の2つの条件の何れも直ちに充足できる状況にあるとは言い難い。また・自己点火プラズマの実現や所要の炉工学技術の開発等を、大型装置を通して経験せずして発電の実証を目指すことはリスクが大き過ぎるなどの理由から、その前に少なくとも1つのステップを設定し、自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現を図り、併せて原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎を形成することが、原型炉の開発の段階に先立って不可欠であると考えられる(実験炉段階)。
 これらのミッションは、第二段階計画の成果、国際協力によるITERの概念設計の成果及び予想される炉工学技術の進歩等により、最小限の開発リスク、コスト及び期間で実現可能であり、更に次の原型炉段階の研究開発への適切な基盤を与えることができるものと判断される。

 以上の検討を踏まえると、今後の核融合研究開発は、基本的に以下の三段階を設定して展開することが妥当であると考えられる。
1) 実験炉段階:自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成
2) 原型炉段階:定常炉心プラズマの実現及びプラント規模での発電の技術的実証
3) 実証炉段階:発電プラントとしての経済性の実証

3. 実験炉段階のミッション

 実験炉段階のミッションは、重水素・三重水素燃焼プラズマによる自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成とすることが適当である。このミッションはITER、FER等の概念設計を通じて形成された実験炉の基本概念と軌を一にするものである。
 第Ⅱ章で述べたように、磁場閉じ込め方式の中ではトカマク型装置が、炉心プラズマ技術に関するデータを最も豊富に蓄積しており、また、プラズマ性能に関しても、現時点では各種閉じ込め方式の中で最も高いものを得ている。このため、実験炉段階のミッションを最も速やかに達成し得る閉じ込め方式はトカマク型と判断される。

 実験炉において自己点火条件を達成するためには、プラズマ性能の改善及び高エネルギー・アルファ粒子によるプラズマ加熱入力が全プラズマ加熱入力に占める比率の向上を実現する必要がある。
 また、長時間燃焼を実現するためには、高効率の電流駆動を実証するとともに、ダイバータ板への熱負荷軽減法及びヘリウム排出法を開発することが必要である。なお、実験炉では、将来の原型炉開発における定常炉心プラズマ実現への展望が得られる程度の長パルス運転を行うことが必要と考えられる。

 さらに、原型炉開発に必要な炉工学技術の基礎を形成するため、主要構成機器の大型化・高性能化を進めるとともに、高中性子負荷、高熱負荷等に耐え得る構成機器を開発するため、その機能及び健全性に関する総合的試験を行う必要がある。また、原型炉でプラント規模での発電の技術的実証を行うためには、実験炉にブランケット試験体を設置し、トリチウムの生成・回収試験、増殖材、増倍材及び構造材料の試験等の研究開発を行っておく必要があり、これを推進することとする。

4. 原型炉段階及び実証炉段階のミッション

 原型炉段階のミッションは、高いエネルギー増倍率の定常炉心プラズマを実現し、これから発生するエネルギーを取り出し、電気エネルギーに変換することが技術的に可能であることをプラント規模で実証することである。効率の良い発電の実証には、30程度以上のエネルギー増倍率を有する重水素・三重水素燃焼プラズマを定常に維持し、循環電力を低減することが必要である。定常炉心プラズマの維持のためには、プラズマからプラズマ対向機器への入熱量を低減する技術及びプラズマ対向機器の除熱能力を高める技術を確立することが必要であり、またプラント全体のエネルギー効率の向上にはプラント内の循環電力の低減を目指してプラズマ性能の一層の向上を図ることが必要である。また、炉工学技術における主要な課題は、原型炉で想定されている中性子照射に耐え得る材料の開発及び十分なトリチウム増殖性能を有する発電用ブランケットの実証等である。

 一方、実証炉段階においては、炉の稼働率、設備利用率を高め、あわせて核融合反応エネルギーを効率良く利用して、プラント全体の総合的なエネルギー効率を向上させ、さらに、エネルギー発生のためのプラントとして核融合炉システムが十分な経済性を有することを実証することを目標とする。

5. 段階的アプローチの採用に当たり配慮すべき事項

 段階的アプローチを最も効果的に進めていくためには、それぞれの段階毎に、不確定性が大きく、各段階毎の中核装置による研究開発のみでは十分に目標達成の見通しを得ることが困難な課題や、研究開発に長期間を要する課題に関しては、各段階毎の中核装置による研究開発のみに依存することなく、所要の研究開発を適切に展開することによって、目標達成の確実性を高めることが肝要である。また、新たな手法、概念等を導入してプラズマ性能の向上を始めとする炉心プラズマ技術の向上を図る先進的研究開発については、これらの概念等を中核装置に取り入れるに先立ち、所要の研究開発を実施することが合理的である。
 また、今後段階的に研究開発を推進するに当たっては、所要資源(経費及び人材)を効率的に利用しながら的確に目標を達成できるシナリオを選択するために、各段階の節目において、総合的な視野に立ったチェック・アンド・レビューを適宜行うことが肝要である。

6. 各種閉じ込め方式の位置づけ

 第3節で述べたように、次段階の中核装置である実験炉は、トカマク型を採用することが適当である。一方、現在最も高いプラズマ性能を実現しているのがトカマク型であることなどから、原型炉段階における研究開発については、トカマク型を基調とした検討を進めることが必要である。しかしながら、その他の磁場閉じ込め方式に関しても、今後の研究開発の成果によっては、トカマク型を上回る閉じ込めを実現する可能性を有している。したがって、トカマク型装置と並行してこれらの研究開発も進めることとし、その成果を踏まえて、所要の時点において各方式の比較を行い、最終的な原型炉の閉じ込め方式を選定するのが適当である。
 実証炉以降の閉じ込め方式の選択については、現状では不確定性が大きいことから、今後の議論に委ねるべきである。
 他方、磁場閉じ込め方式とは原理的に異なる慣性閉じ込め方式については、磁場閉じ込め方式とは全く異なった核融合炉への展望を開く可能性を有しており、今後ともこの方式による研究を進める。

7. 研究開発スケジュール

 核融合研究開発の段階が進展し、中核装置が大型化、複雑化するとともに、装置の設計、建設等に要する期間は長期化する傾向にある。例えば、JFT-2では設計開始(1969年)から運転開始まで約3年を要したのに対し、JT-60では、1975年に設計開始、1978年に製作開始、1985年に運転開始と全体で約10年を要している。実験炉においては、今後必要な設計、炉心プラズマ技術及び炉工学技術の研究開発並びに建設に要する期間を考慮すると、最も順調に進展した場合で2005年頃の運転開始が見込まれている。
 原型炉は、実験炉段階の研究開発等が順調に進展した場合、2020年代には運転開始が可能と見込まれている。このような研究開発の着実な実施により、核融合のエネルギー源としての実用化は、21世紀の中頃と予測されている。

8. 研究開発体制と国際協力

 我が国の核融合研究開発は、将来のエネルギー源の開発を目指して、原子力委員会の総合調整の下に進められている。具体的には、原子力委員会の下に設けられている核融合会議が核融合研究開発に関する計画の総合的推進、連絡調整等を図っている。今後とも、原子力委員会を中心として、産・学・官の緊密な連携を図りつつ、全体としてバランスの取れた研究開発体制を構築することにより、核融合研究開発を強力に推進することが重要である。
 大規模かつ長期的な研究開発の推進に当たっては、i)その担い手となるべき人材の確保と育成、及びii)強力な推進を可能とする産業界からの支持・支援の確保が不可欠である。
 i)については、大学あるいは各研究機関における研究開発の振興によって有能な人材を吸収し育成する必要がある。また、長期にわたって、優秀な人材の結集・育成、技術の継承等を図るためには、一定水準以上の研究開発規模を維持するとともに、次代を担う若手研究者にとって魅力のあるテーマを提供し続けることができるよう配慮することが必要である。

 一方、ii)については、我が国の場合、核融合研究開発の初期段階から有力企業が積極的な参加を通じて、研究開発の進展に多大の貢献をしてきており、このような我が国の活力ある研究推進体制は米・欧等の他の核融合先進国からも高い評価を得ているところである。核融合研究開発の一層の発展と、そこで生まれた革新的技術の広範な分野への波及を図るためにも、産・学・官が従来にも増して有機的に協力し得る研究体制の強化が重要である。
 また、今後の核融合研究開発においては、研究開発規模の拡大に伴い、開発リスク及び所要資源が増大する。これらの低減と研究開発の効率化を図るために、様々な分野において国際協力を積極的に推進することが重要である。基礎研究分野における我が国の積極的な国際貢献が要請されていることからも、我が国の研究開発ポテンシャルを有効に活用しつつ、主体的な国際協力推進が望まれているところである。その際、異なる文化的・社会的背景の下での協力を円滑に実施するため、外国人研究者の受け入れ環境を始めとする国際協力に必要な社会基盤の整備を図ることも重要である。なお、国際協力によって得られた研究開発の成果を国内に有効に還元させ、それを将来の利用に向け蓄積できるシステムの構築に十分留意する必要がある。

第Ⅳ章 第三段階核融合研究開発

 第三段階の研究開発は、自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を主たる目標として、所要の研究開発を行う。この研究開発の中核を担う装置としては、トカマク型の実験炉を開発することとする。
 さらに、実験炉による研究開発だけでは十分解明できない炉心プラズマ技術分野の課題を解明するための補完的な研究開発及び実験炉を含む各段階の中核装置に新技術等を取り入れる前に確認実証等を行うための先進的研究開発を行う。
 実験炉の開発に必要な主要構成機器の大型化・高性能化を図るとともに、原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を図るため、実験炉による試験等を含めた研究開発を進める。さらに、核融合炉の実用化のために必須の炉工学技術であって、その実現までに長期間の研究開発を必要とするため早期に開始する必要のあるものについて、その研究開発を進める。

 トカマク型以外の装置は、トカマク型装置による研究開発への貢献が期待されること、今後の研究開発の成果によっては、トカマク型を上回る閉じ込めを実現する司能性を有していること等から、ヘリカル型装置については、現在進められている大型ヘリカル装置の建設を着実に推進し、データの蓄積を図るとともに、逆磁場ピンチ型装置、ミラー型装置、コンパクト・トーラス型装置、慣性閉じ込め装置についても、引き続きその研究を進める。
 核融合炉は高い安全性を保有しているが、これを更に高めるための研究開発を進める。また、将来の核融合炉システムの具体的構想を固めるための設計研究を行う。

1. 炉心プラズマ技術

 研究開発の内容は、次のとおりとする。

1.1 トカマク型装置による自己点火条件及び長時間燃焼の実現を目指した研究開発

(1) 自己点火条件
 自己点火条件を達成するためには、プラズマ性能の一層の向上を図るとともに、高エネルギー・アルファ粒子によるプラズマ加熱入力が全プラズマ加熱入力に占める比率を高める必要がある。この比率の高いレベル(80%程度)に相当するエネルギー増倍率20程度を自己点火条件の具体的目標値とする。
 さらに、現在得られている高性能のプラズマ閉じ込め状態(例えばHモード)をより改善することにより、性能の良いプラズマを長時間維持する技術を確立する。同時に、核融合反応で生ずる高エネルギー・アルファ粒子がわずかな磁場の乱れやプラズマ中に生じる波動によって受ける影響に関する基礎的データ・ベースを確立することにより、高エネルギー・アルファ粒子の閉じ込め技術の改善を図る。

 自己点火条件を満たすプラズマを安定に維持するため、プラズマ中の種々の不安定性を制御する技術を確立する。また、ダイバータ板の熱負荷を低減し、ダイバータ板からプラズマ中への不純物の混入を抑制することが、自己点火条件の達成のためには不可欠である。さらに、核融合反応の結果生ずるヘリウムがプラズマ中に蓄積されるので、これを排出するための技術を確立する。
 なお、自己点火条件を満たすプラズマにおいては、プラズマの熱的な平衡に乱れが生ずることが懸念されており、これを制御する技術の確立も重要な課題である。

(2) 長時間燃焼
 長時間燃焼を実現するため、高効率電流駆動の実証、ダイバータ板への熱負荷軽減法及びヘリウム排出法の開発等により、原型炉で想定されている定常炉心プラズマへの見通しを得るために必要と考えられる長パルス運転(1000秒程度以上と想定)の実現とダイバータ板熱負荷の抑制(15MW/m2程度を上限と想定)を図る。また、ディスラプションの発生を回避するための技術を確立するとともに、その発生がプラズマ対向機器に及ぼす影響を明らかにする。
 電流躯動装置を用い、長パルス運転を行うとともに、プラズマ中の電流分布を最適化し、プラズマを安定に閉じ込めるための制御技術を確立する。実験炉で想定されているプラズマでは電流分布の変化に長い時間が必要であり、電流分布の変化の様子を知るためにも1000秒程度のパルス幅が必要となる。

 長時間燃焼を実現するために必要なもう一つの課題は、各種のプラズマ粒子の密度制御である。燃料である重水素や三重水素のイオン密度の制御も必要であるが、ダイバータ板の熱負荷を軽減することにより、ダイバータ板の構成物質が不純物としてプラズマ中に混入しないよう制御することが何より重要である。また、先に述べたヘリウムの排出技術の確立が長時間燃焼のためにも不可欠である。
 ディスラプションについては、実験炉の運転の初期段階において、それが発生しやすいプラズマ性能の領域や発生原因を特定し、かつ、ディスラプションを回避するための密度制御法や加熱・電流駆動装置利用法を確立しておくことが重要である。

1.2 その他の研究開発

(1) トカマク型装置
 実験炉の建設・運転に必要な炉心プラズマ技術の課題について、既存の設備を活用することによりその研究開発を進める。この主要課題は、低温ダイバータ・プラズマの実現、ディスラプションの制御技術の確立、Hモード閉じ込め制御法の確立、プラズマの生成・維持の条件(運転シナリオ)の最適化、アルファ粒子挙動の把握等である。
 これらと並行して、前述の補完的・先進的研究開発を進める。この主要課題は、プラズマ電流に占める自発電流の割合の高い高ベータ・プラズマの実現によるプラント内の循環電力の低減、遠隔放射冷却法及びセパラトリックス掃引法の併用によるダイバータ板への熱流束の抑制等である。

(2) ヘリカル型装置
 誘導プラズマ電流を用いず、外部コイルの作る磁場でプラズマを閉じ込める、大規模ディスラプションが発生していないなどの特徴を有するヘリカル型装置では、高い閉じ込め性能が実現されれば、エネルギー効率の高い定常運転が可能となる。我が国では世界最大規模のヘリカル装置計画が進められており、高いプラズマ性能と高ベータ値の実現を目指している。第三段階では、高性能閉じ込め状態の定常維持及び高ベータ値の達成に努め、ヘリカル型装置における閉じ込め比例則の信頼性を高める研究開発を進めることとする。

(3) 逆磁場ピンチ型装置
 逆磁場ピンチ型装置は、比較的低いトロイダル磁場でも強力な加熱が得られ、容易に高ベータ値のプラズマが生成できるという特徴を持つ。第三段階においては、プラズマ性能及び安定性の向上を図る研究開発を進めることとする。さらに、プラズマ電流の作る閉じ込め磁場を用いるトーラス・プラズマの安定性を系統的に研究することによりトカマク型装置の研究開発にも貢献することが可能である。

(4) ミラー型装置
 磁場閉じ込め装置として比較的単純な構造を持つミラー方式でも我が国は世界をリートする装置を有している。第三段階においては、本方式の本質的な研究課題である電位による開放端からのプラズマ損失制御の一層の向上を図る。また、ミラー方式に特有な開放端からの流失エネルギーを利用した直接発電を行う研究開発を進める。

(5) コンパクト・トーラス型装置
 コンパクト・トーラス方式はトカマク方式への超高速度燃料注入の可能性を持ち、比較的小規模実験装置により研究開発が可能である。第三段階においては、プラズマ性能及び安定性の向上を図る研究開発を進めることとする。

(6) 慣性閉じ込め装置
 慣性閉じ込め装置では、爆縮の最適化とドライバー出力の上昇によって、点火及び高利得プラズマの実現を目指した研究開発を進める。レーザーを用いた装置に代表される慣性閉じ込め装置の開発上の最も重要な課題は、ドライバーの開発である。さらに、システム全体のエネルギー収支を向上させ、慣性閉じ込め核融合の実現性獲得を図る。

2. 炉工学技術に関する研究開発

 実験炉の開発に必要な主要構成機器の大型化・高性能化を図るとともに、原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を図るため、実験炉による試験等を含めた研究開発を進める。さらに、核融合炉の実用化のために必須の炉工学技術であって、その実現までに長期間の研究開発を必要とするため早期に開始する必要のあるものについて、その研究開発を進める。特に、高中性子負荷、高熱負荷等の条件下にある構成機器の機能、寿命及び健全性の総合試験が最大の課題となる。
 ブランケット・モジュールを実験炉に導入し、核融合反応エネルギーの熱変換・取り出し及びトリチウム増殖の機能試験を実施する。また、核融合炉と類似の中性子環境の下での各種材料試験やニュートロニクス試験を行い、材料特性や中性子遮蔽等に関するデータの蓄積を行う。
 これらの試験、研究開発によって、原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を図る。

(1) 加熱・電流駆動
 実験炉の加熱・電流駆動の主要な装置と考えられている負イオン源を用いた中性粒子入射装置については、ビームの大電流化と高エネルギー化、動作時間の長時間化及び高効率化を進める。また、実験炉におけるプラズマ電流の立ち上げ補助、電流分布の制御、不安定性の制御等に有効な低域混成波帯加熱装置、電子サイクロトロン周波数帯加熱装置及びイオン・サイクロトロン周波数帯波加熱装置については、発振源の高周波数化、大出力化及び動作時間の長時間化を図るとともに、装置各部での高周波の損失を低減する高効率化に関する研究開発を行う。

(2) プラズマ対向機器
 実験炉で想定されている高熱負荷に耐えるプラズマ対向機器の開発を行う。また、実験炉においては、現在主に用いられている黒鉛系材料ばかりでなく、金属材料等の幅広い候補材料を開発・導入し、プラズマ対向機器の表面保護材料として使用した場合の機能試験を実施する。

(3) 超電導コイル
 実験炉建設に必要な超電導コイルのうち、トロイダル磁場コイルに関しては、大型化及び高磁界化に関する研究開発を行う。ポロイダル磁場コイルについては、大型化及び高磁界化に関する研究開発とともに、所要のパルス性能を有する超電導コイルの研究開発を行う。また、超電導コイル・システム全体を実験炉の構成機器として構造的、電磁気的及び熱的に安定に動作させる技術を確立することが必要である。
 なお、実験炉で使用する以上の高磁界を必要とする原型炉用の超電導コイルについては、開発に長期間を要するため、第三段階から研究開発を開始する。

(4) 炉構造、遠隔保守
 炉構造に関しては、大型構造物の製作技術の開発と高精度の加工技術の確立を図るとともに、遠隔操作による分解組立が容易な固定方法の開発を行う。真空容器を始めとする核融合炉の主要構成機器は、部分モデル試験、実規模モデル試験等を通して熱・機械特性等の総合性能の確認に努める。遠隔保守技術に関しては、要素技術及び要素技術を組み合わせたシステム技術の研究開発を進める。

(5) ブランケット、トリチウム燃料
 ブランケット技術の確立には、長期間を要するため、原型炉での本格的な実装を目指して第三段階からその開発を開始する必要がある。その中心となる課題は高いフルエンスの中性子照射等に耐えるブランケット材料の開発とトリチウム増殖比の向上である。このため、実験炉の中性子環境下でブランケットの照射・機能試験を行い、必要なデータベースの確立に努める。また、ブランケット・モジュールからの熱除去及びブランケット構造材の核発熱、放射化に関する試験を行う。なお、別途モックアップ試験等を通じて、実験炉の建設、運転に必要なトリチウム増殖・回収等の技術の確立を図るものとする。トリチウム燃料技術の開発においては、インベントリーの低減とともに、大量トリチウムの循環技術及び安全取扱い技術の確立が主要な研究開発課題である。
 初期装荷用あるいは補充用トリチウムの確保のために、トリチウム製造の研究開発を進める。

(6) 構造材料
 原型炉で予想される高いフルエンスの中性子照射に耐え得る構造材料の開発を目指して、構造材料の中性子による損傷や寿命に関する基礎データを得る。長期間を要するこれらの研究開発については、第三段階から開始する必要がある。さらに、低誘導放射化材料の開発を進め、装置の放射化を低減するなど安全性の一層の向上を図る。

(7) システム統合
 システム全体を把握し、各構成機器を一体となるよう統合し、プラントを構成させ、これを適切に機能させるための技術開発を行う。特に、複雑な構成機器を組み合わせ、統合するための高度の技術と経験を蓄積して、第四段階以降における合理的な核融合システムの実現の基礎を確立する。

(8) 慣性閉じ込め用ドライバー
 慣性閉じ込め装置開発上の最も重要な課題であるドライバーの開発に関しては、エネルギー変換効率及び繰り返し動作頻度の高い高出力ドライバーの研究開発を進める。

(9) 計測、制御機器
 高いフルエンスの中性子照射に耐え得る計測、制御機器の研究開発を行う。また、プラズマを制御するための大電力制御技術の研究開発を行う。

(10) ニュートロニクス
 核特性及び中性子遮蔽に関する基礎データを取得する。

3. 安全性に関する研究

 核融合炉は原理上からも高い安全性を保有しているが、この安全性を一層高めるため、以下の環境放射能安全研究、工学的安全研究及び安全評価研究を進めることとする。
(1) 環境放射能安全研究
 環境への影響を評価するに当たっては、被曝線量評価の基礎となるトリチウムや放射化生成物の挙動を明らかにすることが重要である。トリチウムの挙動に関しては、各機器内部でのトリチウムのインベントリーを評価するとともに、定常運転時、分解修理時、事故時におけるトリチウムの漏洩量を知るために、各機器・材料からのトリチウム拡散放出挙動の評価を実施する。また、トリチウム漏洩時の挙動特性の基礎となるデータを取得する。放射化生成物の挙動に関しては、放射化生成物の可動化プロセス(ダスト化、腐食及び酸化等)の評価を実施する。

(2) 工学的安全研究
 核融合炉を構成する各構成機器・設備に関して、事故の発生・拡大の防止及び事故の影響を緩和することを目的とした研究開発を行う。研究開発が必要な構成機器・システムは、プラズマ対向機器、ブランケット、真空容器、超電導コイル、燃料循環、格納系等である。特に放射化のレベルが高い、または、トリチウムのインベントリーが多い構成機器では、事故時の健全性の確保が必要である。また、第一壁及びブランケットの冷却系の冷却能力が喪失した場合でもこれらの装置等に過度の温度上昇を引き起こさないような冷却能力の維持に関する研究開発を行う。

(3) 安全評価研究
 各構成機器及び設備に対する炉工学技術上の対策に加えて、事故の影響を定量的に評価し、核融合炉全体の安全性を確保するため、事故解析手法等の総合的な安全性の評価手法の研究開発を実施する。併せて核融合炉の安全確保の在り方についての総合検討を進める。

4. 核融合炉システムの設計研究

 核融合動力炉を含む核融合炉システムの具体的構想を策定し、その設計研究を進める。

5. 研究開発の分担

 実験炉に係わる開発、試験及び研究については、日本原子力研究所が担当する。実験炉以外の開発研究は、大学、国立研究機関及び日本原子力研究所が相互の連携・協力により進める。
 なお、今後の研究開発において、産業界からの貢献が極めて重要であることにかんがみ、産業界の積極的参加が得られるよう十分配慮して研究開発を進めるものとする。

あとがき

 核融合会議は、本検討において、昭和50年7月に原子力委員会が策定した「第二段階核融合研究開発基本計画」に基づいて推進されてきた我が国の核融合研究開発が、その目標を大略達成し、次段階の研究開発を具体的に実施するに十分な科学的・技術的基盤をほぼ確立したことを明らかにした。さらに、今後の核融合の実用化を目指した研究開発の進め方について、長期的な観点から検討し、その方向性を示すとともに、特に次の第三段階において実施すべき研究開発の内容を摘出した。
 一方、今後の核融合研究開発を推進していくに当たっては、研究開発目標の達成度、研究開発を取り巻く国際情勢等、なお配慮を要する多くの留意点が存在し、原子力委員会核融合会議等において状況に応じ弾力的に判断・対処していくことが求められると予想される。このような場合においては、開発リスク、所要資源、開発スケジュール、得られる成果等の様々な観点から総合的な検討を行い、必要に応じ研究開発計画を見直していくことが肝要と思われる。
 このように柔軟性を確保しつつ、核融合研究開発を効率的、効果的に推進することにより、優れた特徴を有するエネルギー源としての核融合に寄せられる世論の期待に応えられるよう、一日も早く核融合炉による発電が現実のものとなり、人類のエネルギー問題の解決に貢献することを期待するものである。


参考資料 1.

核融合会議構成員(肩書きは平成4年5月18日現在)

 大山  彰 原子力委員長代理

 伊原 義徳 原子力委員
座長 宮島 龍興 原子力委員会参与(日米核融合調整委員会共同議長及び日・EC核融合協力調整委員会日本側代表)

 飯吉 厚夫 核融合科学研究所長

 石田 寛人 科学技術庁原子力局長

 石原 舜三 通商産業省工業技術院長

 内田岱二郎 日本真空技術株式会社常務取締役

 岡村 総吾 東京電機大学学長

 柴田 俊一 近畿大学原子力研究所長

 関口  忠 東京大学名誉教授

 苫米地 顕 (財)電力中央研究所研究顧問

 橋口 隆吉 東京大学名誉教授

 長谷川善一 文部省学術国際局長

 松平 寛通 放射線医学総合研究所長

 森   茂 (社)日本原子力産業会議相談役

 山中千代衛 姫路工業大学学長

 山本 賢三 (社)日本原子力産業会議常任相談役

 吉川 允二 日本原子力研究所理事


参考資料 2.

核融合研究開発基本問題検討分科会構成員(肩書きは平成4年5月18日現在)
主査 関口  忠 東京大学名誉教授

 荒井 利治 日立製作所常務取締役

 飯吉 厚夫 文部省核融合科学研究所長

 伊藤 智之 九州大学応用力学研究所附属強磁場プラズマ・材料実験施設長

 井上 信幸 東京大学工学部教授

 大引 得弘 京都大学ヘリオトロン核融合研究センター長

 玉野 輝男 筑波大学プラズマ研究センター長

 中井 貞雄 大阪大学レーザー核融合研究センター長

 藤家 洋一 東京工業大学原子炉工学研究所長

 宮  健三 東京大学工学部教授

 吉川 允二 日本原子力研究所理事


参考資料 3.

核融合研究開発に係る基本問題の検討について
平成3年9月19日
核融合会議

1. 趣旨

 昭和50年7月、原子力委員会は「臨界プラズマ条件の達成を目指した核融合炉心プラズマ技術の研究開発に重点を置いて進めること」を主たる内容とした「第二段階核融合研究開発基本計画」(以下「第二段階計画」という。)を策定した。以来16年が経過し、第二段階計画の主要目標が達成されたこと、我が国の核融合研究開発の状況が新たな展開期を迎えていることから、今後の研究開発を進めるに当たっての基本問題について検討が必要と思量される。
 本検討を行うため、核融合会議の下に、核融合研究開発基本問題検討分科会を設置する。

2. 必要性

(1) 世界の核融合研究開発は、JT-60、TFTR、JETの三大トカマク装置により臨界プラズマ条件の近傍領域に到達するなど、高温プラズマの閉じ込め技術及びその理論的解明において大きな進展を遂げた。また、超電導磁石、プラズマ加熱技術等の炉工学技術の分野においても著しい進展を見た。
(2) 最近では、国際熱核融合実験炉(ITER)工学設計活動(EDA)について、実質的合意がなされるなど、世界の核融合研究開発は新たな段階に入りつつあるといえる。
(3) また、所要資金等研究開発規模の拡大、国際協力のウエイトの増大、米国の磁気閉じ込め核融合におけるトカマク集中投資の傾向など、核融合研究開発を取り巻く環境は著しい変化を示している。
(4) 以上の状況に鑑み、昨今の諸情勢を踏まえ、今後の核融合研究開発を進めるに当たっての基本問題について検討を行う。本検討の結果は、今後の原子力開発利用長期計画の検討に資することとする。

3. 審議検討事項

 国内外の核融合研究開発の現状をレビューし、今後の研究開発の基本的方向及び研究開発の進め方について検討する。
 主要検討項目は以下のとおり。
(1) 核融合研究開発の位置づけ
(2) 次段階装置(実験炉)に関する研究開発
(3) 実験炉に続く装置の開発を目指した研究開発
(4) 安全性に関する研究開発
(5) 国際協力の推進と国内技術基盤の形成
(6) その他

4. 構成員等

(1) 本分科会は、学識経験者10名程度をもって構成する。
(2) 本分科会に主査を置く。核融合会議の座長が、本分科会構成員の中から主査を指名する。
(3) 本分科会は、必要に応じ、構成員以外の核融合会議委員及び検討事項に関連する分野の学識経験者の参加を得ることができるものとする。

5. その他

 本分科会は、本検討の結果を取りまとめた報告書が核融合会議により承認された時点をもって、廃止されるものとする。


(付録)

核融合研究開発の推進について

―用語解説―

アスペクト比 aspect ratio
 トーラス型装置において、プラズマの主半径(R)の副半径(a)に対する比(R/a)を言う。したがって、相対的に太いプラズマはアスペクト比が小さく、細いプラズマはアスペクト比が大きい。

アルファ(α)粒子 alpha particle
 核反応で発生するヘリウムの原子核(陽子2個と中性子2個からなる)を指す。重水素(D)と三重水素(T)の核融合反応(D-T反応、2D+3T→4He+n)では、3.5MeVのアルファ粒子が発生する。反応によって生じた大きなエネルギーを持つアルファ粒子を、特に高エネルギー・アルファ粒子と言う場合がある。プラズマ中のアルファ粒子は、電子及びイオンとの衝突によって徐々にそのエネルギーを失い、最終的にはイオン温度程度のエネルギーを持つだけとなる(熱化すると言う)。熱化したアルファ粒子は、ヘリウムイオン、または、単にヘリウムと言う。

アルファ(α)粒子加熱 alpha particle heating
 重水素(D)と三重水素(T)の核融合反応(D-T反応、2D+3T→4He+n)で発生するアルファ粒子は、大きいエネルギー(3.5MeV)を持っている。アルファ粒子は荷電粒子であるため磁場に閉じ込められ、衝突によってそのエネルギーを徐々にプラズマ中の電子とイオンに移す。その結果プラズマが加熱される。これをアルファ粒子加熱と言う。磁場を用いない慣性閉じ込め方式でも、プラズマの密度が非常に高いのでアルファ粒子加熱は有効と考えられている。

安全係数、q値 safety factor
 トーラス型の磁場閉じ込め装置においては、プラズマ中にポロイダル磁場(小周方向の磁場)とトロイダル磁場(大周方向の磁場)が存在し、トーラス・プラズマを囲む螺旋状の磁力線を作る。この磁力線が大周方向に一回転する毎に小周方向に角度θ(回転変換角度)だけ回るものとする。q=2π/θは、磁力線が小周方向に一回転する間に、大周方向に何回転するかを表す。q値が大きいほど安定の度合いが高まるので、これを安全係数と言う。q値が1より小さいと、プラズマを安定に閉じ込めることができない。安全係数とプラズマ電流は反比例関係にある。

イオン温度、電子温度 ion temperature、electron temperature
 通常の気体と同様に、熱平衡の状態にあるプラズマでは、イオンも電子も同じ温度を持つ。完全な熱平衡でなくても熱平衡に近い準熱平衡のプラズマ中において、イオン、電子の持つ平均エネルギーに比例する量としてイオン温度、電子温度を定めることができる。イオン同士、電子同士の間に比べてイオンと電子の間のエネルギーのやりとりに要する時間が長いので、イオン温度と電子温度は異なる場合が多い。なお温度を電子ボルト(eV)の単位で表すことがあり、1eVは温度11,600度に相当する。

イオン源 ion source
 イオン・ビームの発生等に必要なイオンを生成する装置である。イオン源には、アーク放電等で作られた種となるプラズマに外部から強い電場を加えて、電子を追い返し正電荷を持つイオンを引き出す正イオン源と、電子を抑制しながら負電荷を持つイオンを引き出す負イオン源とがある。核融合研究の分野では、中性粒子ビーム入射加熱装置用に大出力のイオン源が開発されており、イオン源で数10keVで引き出した正または負のイオンビームを更に100keV~1MeVのエネルギーにまで加速し、気体中を通して中性粒子ビームに変えた後、プラズマ中に入射する。

イオン密度 ion density
 プラズマ密度の項を参照。

イオン・サイクロトロン周波数帯(ICRF)加熱 ion cyclotron range of frequency heating
 磁場中の荷電粒子は、磁場の強さに固有の周波数で回転運動(ラーマー運動と呼ばれている。)している。イオンの回転周波数(イオン・サイクロトロン周波数)に近い周波数の電磁波をプラズマ中に入射し、このイオンの回転運動と共鳴させてイオンを加熱する方法をイオン・サイクロトロン周波数帯(ICRF)加熱と言う。条件によっては、イオンだけでなく電子を加熱することもできる。

インパイル試験 in-pile test
 軽水炉や高速増殖炉等の核分裂炉を用いて、放射線照射環境下における材料及び機器の特性の把握及び機能の実証を目的として行われる試験を言う。核分裂炉の炉心は燃料等のかたまり(パイル)であるので、このように言われている。

インベントリー inventory
 ある系内に含まれるある物質の総量を意味する。例えば、「ブランケット内のトリチウム・インベントリー」、「冷却系内の冷却水インベントリー」と言うように使用される。

Hモード H mode
 中性粒子ビームあるいは高周波を用いた加熱時に、プラズマ表面付近で急激に温度・密度が高くなる分布を示し、かつ、エネルギー閉じ込め時間がLモードの2倍程度に長くなる等の性質を有する改善された閉じ込め状態を言う。このような性質のプラズマは、トカマク型装置において実現しており、ダイバータを持つASDEX(ドイツ)で最初に発見された。Hモードでは高いプラズマ性能が実現されるが、その状態を長時間維持することが今のところ困難である。

NBI加熱 Neutral Beam Injection heating
 中性粒子ビーム入射加熱に同じ。中性粒子ビーム入射加熱の項を参照。

NBI電流駆動 NBI current drive
 プラズマ中に中性粒子ビームを入射し、電子とイオンに異なった大きさの駆動力を作用させてプラズマ中に電流を生じさせるもので、電磁誘導の原理を用いない非誘導電流駆動の一種である。

エネルギー閉じ込め時間 energy confinement time
 閉じ込め時間の項を参照。

Lモード L mode
 トカマク型装置におけるプラズマにおいて、ジュール加熱だけの場合のプラズマの閉じ込め時間は、アルカトール(Alcator)則で示されるように、プラズマ電流やジュール加熱入力に依存せず、電子密度やプラズマの規模によって決められる。このプラズマに第二段加熱を行うと、プラズマの閉じ込め時間は、概略、プラズマ電流に比例し全加熱入力の平方根に反比例する。このようなプラズマ閉じ込め状態をLモードと言い、Lモードの性質を持つプラズマをLモード・プラズマと言う。

遠隔放射冷却 remote radiative cooling
 ダイバータを有する装置において、ダイバータ板に向かって流れ出る熱の一部が、ダイバータ・プラズマからの放射により逃げて冷やされる現象を指す。この冷却効果により、ダイバータ板への熱負荷を低減することができる。主プラズマに直接影響を及ぼすことなく、プラズマの高温部から離れたダイバータ板の直前で熱を除去するので、遠隔放射冷却と呼ばれている。遠隔放射冷却法とは、この遠隔放射冷却現象を利用して、ダイバータ板への熱負荷を低減する方法。

遠隔放射冷却法
 遠隔放射冷却の項を参照。

オープン・ダイバータ方式
 ダイバータ方式には、プラズマから流れ出した粒子をセパラトリクス面に沿って小室(ダイバータ室)中のダイバータ板に導く方式と、小室を設けず真空容器保護板と同じ面に並べたダイバータ板に導く方式がある。前者をクローズド・ダイバータ(狭閉型ダイバータ)方式と言い、後者をオープン・ダイバータ(開放型ダイバータ)方式と言う。クローズド・ダイバータ方式は、ダイバータ室で発生した中性粒子が主プラズマ側へ逆流するのを抑制する効果を期待したものである。

核融合エネルギー増倍率 fusion energy multiplication factor
 Q値に同じ。Q値の項を参照。

核融合積 fusion product
 プラズマの密度、エネルギー閉じ込め時間、イオン温度の3つを掛け合わせた量のことで、閉じ込められたプラズマの総合的な性能を表わす指標の一つとして用いられる。

核融合反応 nuclear fusion reaction
 軽い原子核同士が融合して重い原子核がつくられる反応を言う。反応後の質量の合計は反応前のそれに比べわずかに減り(質量欠損と言う。)、質量の減少分に応じた反応エネルギーの放出がある。例えば、重水素(D)と三重水素(T)の反応(D-T反応)では、一回の反応当たり17.6MeVのエネルギーが発生する。また、太陽等の恒星の主たるエネルギー源は、水素の原子核(陽子)同志の核融合反応である。

核融合反応生成粒子 fusion product
 核融合反応の結果生じる中性子やアルファ粒子等を核融合反応生成粒子と言う。例えば、重水素と三重水素の反応ではアルファ粒子(3.52MeV)と中性子(14MeV)が発生し、重水素同志の反応では、3He0.82MeV)と中性子(2.45MeV)、あるいは、三重水素(1.01MeV)と陽子(3.03MeV)が発生する(括弧内は各粒子の持つエネルギーを示す。)。

核融合炉 nuclear fusion reactor
 核融合反応を起こさせ、それによって生じたエネルギー、中性子等を利用するための装置。発電に利用する場合、炉心プラズマの核融合反応で発生したエネルギーを周辺のブランケットの中で熱に換えて取り出し、あとは原子力発電や火力発電と同じくタービンを回して発電する。熱の取り出しには、水蒸気やヘリウム・ガスの利用が考えられている。また、ブランケット中にリチウムを含む物質を配置し、これと中性子との反応によって燃料の一つである三重水素の生産を行う。

稼働率 availability factor
 ある期間内に設備が稼働できる最大時間に対する実際の稼働時間の割合を言う。

壁負荷 wall loading
 プラズマから発生した粒子や電磁波のエネルギーがプラズマに面する壁に与える負荷。特に、プラズマから発生した中性子が第一壁等に入射した時の、単位面積当たりの中性子入力を中性子壁負荷と呼び、通常MW/m2の単位で表す。

慣性(閉じ込め)核融合 inertial (confinement) fusion
 プラズマ閉じ込めの項を参照。

帰還制御 feedback control
 自動制御システムにおいて、出力側の信号を入力側に戻し(帰還し)、入力信号に即した出力が得られるよう制御・修正する方法を言う。トカマク型の核融合装置においては、プラズマの位置・形状、プラズマ電流値等を検出し、これらが指示値どおりになるようにポロイダル磁場コイルの電流値を制御する方法等が採られている。

逆磁場ピンチ方式 Reverse Field Pinch(RFP)
 トーラス状プラズマを閉じ込める方式の一つ。逆磁場ピンチ型の装置では、トロイダル方向のプラズマ電流によってプラズマを生成・加熱しながらトロイダル磁場の方向を逆転させることにより、プラズマの内部と外部でトロイダル磁場の方向が逆転した磁場配位を形成し、プラズマを閉じ込める。比較的弱いトロイダル磁場で大きなプラズマ電流を流し得る点が特徴。ピンチの項を参照。

逆転磁場配位型装置
 コンパクト・トーラス型装置の項を参照。

Q値 Q value
 磁場閉じ込め方式においては、核融合反応による出力とそのプラズマ状態を維持するためにプラズマに直接供給される外部入力(例えば、プラズマ加熱・電流駆動用入力)の比(Q=出力/入力)を言う。
 慣性閉じ込め方式においては、燃料ペレットへのドライバー入力に対する核融合反応出力の比で示されるペレット利得をQ値と定義する。
 臨界プラズマ条件、自己点火条件、ペレット利得の項を参照。

クライストロン klystron
 高周波電場中に電子ビームを通すと、電子の加速と減速により、電子ビームに密度の濃淡が生ずる。この現象を利用して高周波の増幅や発振を行うのがクライストロンである。

クラスター試験計画 Cluster Test Program
 超電導トロイダル磁場コイルを大型化及び高磁場化することを目的として、昭和53年度から昭和60年度まで原研で進められた計画。

原子、分子データ atomic and molecular data
 原子、分子、イオン等の間の相互作用やこれらの粒子と電子や電磁波との相互作用に関するデータ。プラズマの制御及び特性の把握のために、これらのデータの収集に現在多大の努力が払われている。

高温プラズマ high temperature plasma
 水素等の気体は、温度が数万度以上で電離しプラズマ状態になる。重水素と三重水素を燃料とする核融合炉では、数億度のプラズマ温度が必要であるが、JT-60等の大型トカマク型装置では、プラズマの中心部で既にこのように極めて高温のプラズマを実現している。このような温度領域のプラズマを高温プラズマと言う。一方、トカマク型装置の第一壁に接する領域のプラズマは、第一壁の保護のため、数十万度以下の低温に保つことが望ましいとされている。この領域では、百万度といえども高温プラズマである。

高周波(RF)加熱 RF heating
 高周波の電磁波をプラズマに注入し、そのエネルギーを吸収させてプラズマを加熱する方法。電子レンジはこの加熱方法を用いたもの。用いる高周波数帯によって多くの方法がある。トカマク型装置の実験で使用されている主なものを低周波側から挙げると、イオン・サイクロトロン周波数帯(ICRF)加熱(数十~数百MHz)、低域混成波帯(LHRF)加熱(数~十GHz)、電子サイクロトロン周波数帯(ECRF)加熱(数十~百GHz以上)等がある。

高周波(RF)電流駆動 radio-frequency(RF) wave current drive
 低域混成(LH)波、電子サイクロトロン(EC)波、イオン・サイクロトロン(IC)波等の高周波の電磁波をプラズマに入射して、プラズマ中に電流を流す(駆動する)方法である。
 非誘導電流駆動の項を参照。

高ベータ・プラズマ high-beta plasma
 ベータ値の項を参照。

高密度プラズマ high density plasma
 プラズマ密度が高くなると、プラズマを構成する電子やイオンの粒子相互の衝突が頻繁になる。この衝突の起こる頻度が、プラズマ中の他の現象、例えば、プラズマ中の波動の周波数より十分大きくなると、粒子衝突に伴う現象が支配的になり、密度の高い効果が顕著になる。トーラス型の閉じ込め装置では、1立方センチ当たり数十兆個のプラズマでも高密度プラズマと言われる。一方、慣性閉じ込め型装置では、固体の密度をはるかに上回る高密度プラズマが生成される。
 プラズマ密度の項を参照。

高利得プラズマ high gain plasma
 慣性閉じ込め方式において、ペレット利得の大きいプラズマを言う。
 ペレット利得の項を参照。

交流損失 AC loss
 磁場の変動に伴い、超電導材料の磁化のヒステレシスや安定化導体を介した超電導細線間の電流によって発生する発熱損失を言う。このような交流損失によって安定な超電導状態が損なわれるので、交流損失を低減する超電導コイルの構造が必要とされる。

固体増殖材 solid breeding material
 トリチウム増殖のためにブランケットの中に充填されるもので、リチウムを含有する物質のうち、固体(主にセラミック)のものを言う。固体増殖材として,Li2O,Li4SiO4、Li2ZrO3、LiAlO2等のセラミックが考えられている。

コンパクト・トーラス compact torus
 コンパクト・トーラス型装置には、大別して逆転磁場配位型装置とスフェロマック型装置がある。前者は、ミラー型やカスプ型等の開放型装置のプラズマ中の磁場を反転させて閉じた磁力線を作ることによって、開放型磁場の中にドーナツ状のプラズマを形成し閉じ込める方式の装置である。この逆転磁場配位にトロイダル磁場を加えたものをスフェロマック型装置と言う。これらのコンパクト・トーラス型装置は、トカマク型装置のトロイダル磁場コイルのようなドーナツ状のプラズマと交差する外部コイルを必要としないため、構造がより単純になる特徴を持っている。

サイクロトロン周波数 cyclotron frequency
 磁場中では電子やイオンは磁力線に巻き付いて回転運動(サイクロトロン運動、ジャイロ運動あるいはラーマー運動と言う。)を行う。1秒あたりの回転数をサイクロトロン周波数と言い、これは、磁場の強さと荷電粒子の電荷数に比例し荷電粒子の質量に反比例する。サイクロトロン周波数は磁場中で運動する荷電粒子の最も基本的な周波数である。

三重水素 tritium
 トリチウムとも言う。水素の同位体で陽子1個と中性子2個から構成されている。重水素と三重水素を用いる核融合炉の燃料となる。天然の水100ccの中に50万個ほど含まれている。自然界の存在量は極めて少なく、核融合炉では、リチウムと核融合反応によって発生する中性子との核反応を利用して生産することが計画されている。

磁気軸 magnetic axis
 トーラス型装置においてプラズマを閉じ込めるために形成される磁気面は、同心曲面(トカマク型装置では、切り口の形状が円形あるいは楕円形のものが多い)を形成し、その中心はトーラスを一周する一本の磁力線となる。これを磁気軸と言う。多くの場合、磁気軸はプラズマの中心付近にある。
 磁気面の項を参照。

磁気面 magnetic surface
 トーラス・プラズマを閉じ込める磁場は、プラズマを取り囲む螺旋状の磁力線を形成することが必要である。このような磁力線の軌跡は、プラズマを取り囲む閉じた曲面を作る。この面を磁気面と言う。磁力線が、閉じた曲面、すなわち磁気面を作らない時、このような磁場は、トーラス状のプラズマを閉じ込めることは出来ない。

磁気リミタ magnetic limiter
 トーラス型装置において、プラズマ周辺の磁力線を変形させ、閉じた磁気面を形成する領域と閉じた磁気面が形成されない領域を作る。プラズマは閉じた磁気面の領域に閉じ込められる。閉じた磁気面を横切って流れ出たプラズマの粒子は、磁力線に沿って主プラズマから離れた位置に移動する。閉じ込め領域から離れた位置に、磁力線と交差するように第一壁を設置しておけば、このような粒子を、主プラズマから離れた位置で取り除いたり処理できる。これによって不純物の発生や主プラズマへの不純物の混入を少なくすることができる。このような機能を持った磁場を磁気リミタと言う。
 ダイバータの項を参照。

磁気流体的(MHD)不安定性 Magneto Hydro Dynamic instability
 磁場中のプラズマでは、プラズマの圧力が高まったり、閉じ込め磁場の強さが不均一であったり、あるいは磁場の形状が良くなかったりすると(例えば、磁力線がプラズマに向かって凹状)、プラズマ中で発生したわずかな振動が成長して、大規模な乱れとなる。これらの原因による振動の成長を磁気流体的(MHD)不安定性と言う。不安定性の原因はプラズマ圧力分布や磁場の不均一性あるいは曲率である。この不安定性は磁気面の大規模な変形を起こすためにプラズマ閉じ込めにとって最も危険である。MHD不安定性の研究は着実な成果を上げており、例えば、プラズマ圧力の限界等を正確に予測できるようになってきた。巨視的不安定性(macroscopic instability)と呼ぶこともある。

磁気流体(MHD)モデル Magneto Hydro Dynamic model
 プラズマを磁場と相互作用する流体として扱い、プラズマのふるまいを予測、解析するためのモデルを指す。MHDモデルとも言う。流体として扱うためにプラズマ粒子の運動に関する詳細な情報は失われているが、粒子モデル等に比べ複雑な系の解析が比較的容易である。このためプラズマの全体的な挙動を解析するうえで欠かせないモデルである。

自己点火条件 self-ignition condition
 プラズマへの外部からの入力なしに、核融合反応で生じたアルファ粒子の加熱でプラズマが維持され、核融合反応による出力が得られる条件、すなわち、Q値が無限大となる条件を言う。トカマク型装置におけるプラズマでは、プラズマ電流を駆動するためのエネルギー入力があるので、Q値は無限大にはならない。しかし、Q値が20程度であれば、アルファ粒子加熱の割合は全加熱入力の80%程度となり、主としてアルファ粒子加熱によってプラズマが加熱・維持される状態が実現されるので、広義の自己点火条件と言うことがある。
 Q値の項を参照。

実証ポロイダル・コイル計画 demonstration poloidal coil program
 トカマク型の実験炉では、超電導のポロイタル磁場コイルを使用することが計画されている。超電導ポロイダル磁場コイルの設計・製作技術の取得、大型のパルス・コイルの運転データの蓄積、超電導ポロイダル磁場コイルの性能と信頼性の実証等を目的として、昭和60年より原研で実施されている計画が、実証ポロイダル・コイル計画である。

自発電流 spontaneous current
 ブートストラップ電流に同じ。ブートストラップ電流の項を参照。

磁場閉じ込め magnetic confinement
 プラズマを構成するイオンと電子は、磁場中では基本的に磁力線に巻き付いて運動し、磁力線を横切っては動きにくい。また、磁場が相対的に弱いところにたまりこむ性質を有する。磁場中での荷電粒子のこのような振る舞いを利用したプラズマの閉じ込め方式を磁場閉じ込めと言う。トカマクで代表されるトーラス型装置では、閉じた磁力線によって、ドーナツ状のプラズマを閉じ込める。ミラー型装置のように磁力線が閉じていない場合には、両端の磁場を強くしてそこでイオンと電子を反射させ、中央部の弱い磁場領域にプラズマを閉じ込める。

ジャイロトロン gyrotron
 磁場中に電子ビームを打ち込むと、電子のサイクロトロン運動の回転方向に密度の濃淡が生ずる。ジャイロトロンは、これを利用して共振器内に、サイクロトロン周波数と同じ周波数の電磁波を放出させる発振管である。これまで、クライストロン等の電子管では不可能であった大電力でのミリ波の高効率発振が可能である。電子サイクロトロン周波数帯加熱に利用される。

重水素 deuterium
 記号2HまたはDで表す。水素の同位体でD-T反応核融合炉等の燃料として使用される。水素の原子核が陽子1個だけであるのに対し、重水素の原子核は陽子1個と中性子1個よりなっている。天然水の中の水素のうち0.014~0.015%の粒子数比で含まれている。

主半径,副半径(R,a) major radius, minor radius
 ドーナツ状のプラズマの大円方向の半径、すなわち、装置の中心からドーナツ状のプラズマの断面中心までの距離を主半径と言う。また、ドーナツ状のプラズマの小円方向の半径、すなわち、プラズマ断面の半径を副半径と言う。また、主半径と副半径の比をアスペクト比と言う。

主プラズマ main plasma
 ダイバータを有するプラズマでは、セパラトリクスで仕切られた閉じた磁気面の領域のプラズマを主プラズマと言う。固体リミタで境界の決められるプラズマでは、境界の外側に浸み出したプラズマと境界の内側のプラズマに分かれ、後者を主プラズマと言う。
 磁気リミタの項を参照。

ジュール加熱 joule heating
 プラズマ中に電流を流し、プラズマの電気抵抗による発熱(ジュール熱)効果を利用する加熱法。しかし、プラズマの電気抵抗は温度の上昇とともに小さくなり、その結果、加熱入力が減少するので、この加熱法だけでは核融合に必要な温度を実現することは困難である。さらに温度を高めるためには、別に外部からプラズマを加熱することが必要である。

ステラレータ stellarator
 ヘリカル型装置の項を参照。

スフェロマック型装置 spheromak device
 コンパクト・トーラス型装置の項を参照。

スフェロマック・プラズマの圧縮、移動、重合 compression, transfer, merging of spheromak plasmas
 スフェロマック装置で生成されたプラズマの主半径と副半径を、エネルギー閉じ込め時間に比べて充分短い時間内に磁場を強めて縮小することにより、プラズマを圧縮する。これにより、プラズマの温度を高めることができる。
 また、スフェロマック・プラズマの発生部と閉じ込め部が別々の装置では、発生部で生じたスフェロマックプラズマを閉じ込め部に移動させる技術が必要である。
 閉じ込め部をはさんで左右対称の位置に一つづつの発生部を持つ装置では、二つのスフェロマック・プラズマを閉じ込め部で合体させるプラズマ重合により,ベータ値の高い準静的なスフェロマック・プラズマを発生できる。

設備利用率 capacity factorまたはplant factor
 発電所において、ある期間定格出力で運転し続けたとした場合の発電電力量の総量に対するその期間実際に発生した電力量の総量の割合を指す。

セパラトリクス separatrix
 磁気リミタあるいはダイバータを持つトーラス状の閉じ込め磁場において、プラズマ内部の閉じた磁気面の領域と、閉じた磁気面を形成していない領域の境界面上に、ポロイダル磁場が零となる場所(ヌル点あるいはX点と言う)が存在する。このポロイダル磁場が零の所をとおる磁力線の作る曲面をセパラトリックス面、または、単にセパラトリックスと言う。
 磁気リミタ、ダイバータの項を参照。

セパラトリクス掃引 separatrix sweeping
 ダイバータ板への熱負荷をダイバータ板の広い面積に分散させるために、ダイバータ板の位置で磁場の強さを変化させ、ダイバータ板と交差するセパラトリクス面を周期的に掃引する方法を言う。

第一壁 first wall
 プラズマに直接面する壁の総称である。機能的に分類すると、リミタ、ダイバータ板、ブランケット壁等がある。狭義には、壁面が磁気面に平行な位置関係にあるブランケット壁を第一壁と呼ぶ。一般に第一壁はプラズマと直接接触し、大きな熱・粒子負荷を受ける。このため壁から不純物が発生し、これがプラズマに与える影響も無視できない。第一壁の設計は、除熱、不純物放出、燃料粒子の吸着・吸蔵、表面の損耗、熱疲労等を総合的に評価して行われる。

第二段加熱 additional heating
 トカマク型装置等ではプラズマ中の電流によるジュール加熱の効果がある。しかしこの加熱で到達できる温度には限界があるため、核融合反応に必要な高温を実現するには、他の加熱方法を併用する必要がある。このジュール加熱に併用して用いられる加熱を総称して第二段加熱あるいは追加熱と言い、主なものとして中性粒子ビーム入射加熱、高周波加熱がある。D-T反応が生じると、アルファ粒子による加熱がこれらに加わる。

ダイバータ divertor
 プラズマの周辺の磁力線の形状を工夫して、主プラズマの外に流出した荷電粒子が直接近くの壁に当たらないように中性化板(ダイバータ板)あるいは排気部(ポンプ)に導くようにした装置で、特にプラズマ中の不純物を減少させるのに効果がある。
 磁気リミタの項を参照。

ダイバータ板 divertor plate
 ダイバータの項を参照。

ダイバータ・プラズマ divertor plasma
 ダイバータを有する装置で、セパラトリクス面の外側の開いた磁力線により導かれたプラズマは、中性化板(ダイバータ板)の近傍に低温のプラズマとなって滞留する。これをダイバータ・プラズマと言う。中性粒子の有効な排気及びダイバータ板への熱負荷を軽減するうえで、高密度かつ低温のダイバータ・プラズマを形成することが重要である。
 ダイバータの項を参照。

タンデム・ミラー型装置 tandem mirror device
 単一ミラー型装置の両端からプラズマが流失するのを抑制するため、両側にさらに磁気ミラーを形成するようにしたものをタンデム・ミラー型装置と言い、両端のミラー部をプラグ・ミラー部と言う。プラズマは主に中央のミラー部に閉じ込められる。プラグ・ミラー部のプラズマの電子温度を高めて電位の高いプラズマを形成することにより、中央のミラー部から流失したプラズマを閉じ込める。中央ミラー部とプラグ・ミラー部の間で生じる電位の谷は、熱障壁(熱バリア)と呼ばれ、中央ミラー部からプラグ・ミラー部へ低温電子が流出するのを抑制する役割を持つ。
 ミラー型装置の項を参照。

中性粒子ビーム入射(NBI)加熱 Neutral Beam Injection heating
 エネルギーの高い中性粒子(原子)ビームをプラズマに入射し、そのエネルギーによってプラズマを加熱する方法。イオン源からイオンを引き出し、電場で加速した後、気体中を通過させて高エネルギーの中性粒子(原子)ビームをつくる。これにより、ビームを磁場と相互作用させずにプラズマに入射できる。プラズマ中では、中性粒子はプラズマ粒子との衝突で再びイオン化され、磁場に閉じ込められつつプラズマにエネルギーを与えて、プラズマを加熱する。

中性子照射損傷 neutron irradiation damage
 核融合炉構成材料に中性子が当たることによって引き起こされるスエリング、延性低下等の材料損傷。これらは、材料の原子が格子点からはじき出されること、あるいは(n,α)反応等によって材料中にヘリウム等のガスが生成されることによって起こされる。このうち、原子一個あたりの中性子による平均はじき出し数をdpa(displacement per atom)と言う。

超電導 superconductivity
 ある種の物質を冷却して温度を低下させた時、その電気抵抗が零に近くなる現象を言う。このような材料のコイル巻線を使った電磁石(超電導磁石)では、いったん磁場を発生した後は、電気抵抗が完全に零にならないことによる電流の損失を補う極めてわずかな電力と冷却に必要な電力で磁場を発生し、保持することができる。核融合のような大型の強力磁場を必要とする場合は、超電導が不可欠である。

低域混成波帯(LHRF)加熱 Lower Hybrid Range of Frequency heating
 磁力線をとりまく電子の回転(ラーマー回転)周波数はイオンの回転周波数に比べて極めて大きい。両者の中間の周波数の電磁波を入射し、この電磁波によって電子が受ける力による運動とイオンの回転運動が同期することによって励起される低域混成波によってプラズマを加熱する方法。密度によって電子加熱とイオン加熱に分かれる。トカマク型装置での有力な電流駆動法の一つとしても使用されている。

定常、定常化 steady state
 「核融合炉の定常運転」、「定常核融合炉」等の形で使用する時の「定常」は、人為的に停止させない限りプラズマが永久に持続することを言う。「定常化」については、究極的な目標を示す場合にのみ、「究極的な目標である定常化」等の形で使用し、それ以外は「長時間化」を用いる。

定常核融合炉 steady-state fusion reactor
 連続的に核融合反応を持続する核融合炉。これに対して、(繰り返して)ある一定の時間だけ反応を起こすものをパルス炉と言う。

ディスラプション disruption
 プラズマの密度やベータ値が増大して、ある限界領域に達すると、プラズマ内部の不安定性が急激に成長して、トーラス状プラズマを閉じ込める磁気面が壊され、プラズマのエネルギーが短時間のうちに失われる現象を言う。失われたプラズマのエネルギーは第一壁に流入して、瞬時に大きな熱負荷となって第一壁に損傷を与えることがある。なお、ディスラプションには、磁気面の破壊がプラズマ全体に及ぶ大規模ディスラプション(major disruption)と、それがプラズマの局部、例えば中心部分だけに留まる内部ディスラプション(internal disruption)あるいは小規模ディスラプション(minor disruption)とがある。また、トカマク型装置のようにプラズマ電流が存在している場合には、磁気面の破壊とプラズマのエネルギーの喪失に続いて、プラズマ電流が急激に消滅する現象が生じることがある。プラズマ電流の急激な消滅は、構造物に大きな電磁力を発生させるので、その回避法の開発が重要であり、また、装置を設計する上で十分な配慮が必要となる。

点火プラズマ ignition plasma
 慣性閉じ込め方式において、プラズマからのエネルギー損失とアルファ粒子加熱とが等しくなる条件を点火条件と言い、この条件を満たすプラズマを点火プラズマと言う。点火条件は、ペレット利得が0.6であることとほぼ一致する。
 ペレット利得の項を参照。

電子温度 electron temperature
 イオン温度の項を参照。

電子サイクロトロン周波数帯(ECRF)加熱 Electron Cyclotron Range of Frequency heating
 磁場中の荷電粒子は、磁場の強さに固有な周波数で回転運動(ラーマー運動と呼ばれている)している。電子の回転周波数(電子サイクロトロン周波数)に近い周波数の電磁波をプラズマに入射し、プラズマ中の電子を加熱する方法を電子サイクロトロン周波数帯(ECRF)加熱と言う。

電流駆動 current drive
 非誘導電流駆動の項を参照。

電流駆動効率 current drive efficiency
 電流駆動では、非誘導電流がプラズマ粒子との衝突によって受ける抵抗に釣合うだけの駆動パワーを与えて電流を維持する。この時、電流駆動積(電子密度×主半径×非誘導電流)を駆動パワーで割ったものを電流駆動効率(単位はA/Wm2)と定義する。
 非誘導電流駆動の項を参照。

トカマク tokamak
 軸対称なドーナツ状の磁場によるプラズマ閉じ込め方式の一つで、大周方向(トーラス方向)に沿ってプラズマに電流(プラズマ電流と呼ばれている。)を流し、それの作る磁場の作用でプラズマを閉じ込める。また、このプラズマ電流を安定に流すため、大周方向に強いトロイダル磁場を加える。ソ連で開発された方式であるが、1970年代以来この方式による装置(トカマク型装置)で活発な研究が世界各国で行われ、現在最も進んだ成果を上げている。

閉じ込め時間 confinement time
 磁場閉じ込めにおいてプラズマの粒子及びエネルギーが外部に失われていく時定数をそれぞれ粒子閉じ込め時間、エネルギー閉じ込め時間と言う。外部から粒子やエネルギーの補給がないとしたとき、プラズマ中の粒子数あるいはエネルギーが約1/3に減少する時間である。プラズマが持続する時間とは全く異なり、粒子保存特性あるいは保温特性を表すパラメータである。単に「閉じ込め時間」と言う場合は、エネルギー閉じ込め時間を指すものとする。
 なお、慣性閉じ込めにおいては、粒子やエネルギーの損失の時定数は燃料の飛散速度で決まるので、圧縮された燃料球の半径(rf)を燃料の飛散速度(Vs)で割って得られる程度の時間(t=rf/4Vs)反応が持続するものとして、これを閉じ込め時間としている。

閉じ込め電位 confinement potential
 タンデム・ミラー型装置の項を参照。

閉じ込め比例則 confinement scaling law
 プラズマの閉じ込め時間が、装置の諸元(主半径、副半径、トロイダル磁場等)やプラズマのパラメータ(密度、温度、プラズマ電流等)によってどう変わるかを表す経験式。閉じ込め時間を決めている原因を把握したり、装置規模を大型化した場合の閉じ込め時間を予測するためによく使われる。トカマク型装置におけるプラズマの閉じ込め比例則には、閉じ込め時間が主半径の2乗とプラズマ密度と副半径との積に比例すると言うAlcator-C(米国・マサチューセッツ工科大学の中型のトカマク型装置)比例則がある。また近年、LモードやHモードの比例則が作成された。特に、ITERの概念設計活動において、世界各国のトカマク型装置のプラズマ閉じ込めデータを持ち寄り、新しい閉じ込め比例則が作成され、ITER概念設計に使用された。

トーラス型装置 torus device
 トーラス磁場装置の項を参照。

トーラス磁場装置 torus magnetic confinement device
 プラズマは磁力線に沿っては動き易いが、それに垂直な方向には動きにくい。この特性を利用して、磁力線が閉じているドーナツ状の磁場をつくり、そこにドーナツ状のプラズマを閉じ込める装置を言う。トーラス型装置とも呼ばれている。トカマク型装置はその代表的なものである。

トリチウム tritium
 三重水素の項を参照。

トリチウム増殖材 tritium breeding material
 天然には極く微量しか存在しないトリチウムを核融合炉自身で生産するための材料。Liを含む材料であり、これから6Liの(n,α)、7Liの(n,n′,α)反応によってトリチウムを生産する。固体ではLi2O、LiAlO2等、液体ではLi、Li17Pb87等が候補材料である。

トリチウム増殖比 tritium breeding ratio
 重水素と三重水素を用いる核融合炉においては、燃料である三重水素(トリチウム)を炉内に装備したブランケットで生産することが燃料確保の点から必要である。1回の重水素と三重水素の反応当り、すなわち、1個のトリチウムの消費に対してブランケットで生産されるトリチウムの個数を言う。

トルサトロン torsatron
 ヘリカル型装置の項を参照。

トロイダル磁場 toroidal magnetic field
 トーラス型装置において、大周方向をトロイダル方向、小周方向をポロイダル方向と言い、それぞれの方向の磁場をトロイダル磁場、ポロイダル磁場と言う。またそれぞれの磁場を発生させるコイルをトロイダル磁場コイル、ポロイダル磁場コイルと言う。

トロイダル磁場コイル toroidal magnetic field coil
 卜ロイダル磁場の項を参照。

トロイダル方向 toroidal direction
 トーラスには、系の中心を回る大きな円周に沿った方向と環状部の周りの小周方向がある。前者をトロイダル方向と呼ぶ。

内部ディスラプション internal disruption
 ディスラプションの項を参照。

ニュートロニクス試験 neutronics test
 中性子(ニュートロン)が物質によって散乱、減速、吸収される過程を調べ、中性子遮蔽や核反応に関する基礎的データを集積するための試験。

熱障壁(熱バリア) thermal barrier
 タンデム・ミラー型装置の項を参照。

燃焼プラズマ burning plasma
 核融合反応(燃焼)を起こしているプラズマを言う。重水素と三重水素が反応しているプラズマを、D-T燃焼プラズマと言うこともある。

爆縮 pellet implosion
 慣性閉じ込め方式において、強力なレーザー光、高エネルギーで大粒子束のイオン・ビーム等を直径数mmの固体燃料(ペレット)に周囲から一様に入射すると、ペレットはまずその外縁部がエネルギーを吸収して加熱され、プラズマとなって膨張する。この膨張圧力によってペレットは中心に向かって圧縮される。これを直接照射型爆縮と言う。一方、間接照射型爆縮では、2重の球殼ペレットの隙間の空間に外殻球にあけたピンホールからレーザー光を入射する。内殼球は、直接照射型爆縮と同様にその表面がプラズマとなって膨張し、この膨張圧力によってペレットは中心に向かって圧縮される。さらに、外殻球の内面で発生したプラズマは、内側へ膨張し内殼の圧縮を促進する。

非誘導電流駆動 non-inductive current drive
 トカマク型装置等では、通常、電磁誘導の原理を用いてプラズマ中に電流を流す。この方法では長時間プラズマ電流を流し続けることはできない。そのため、高周波入射や中性粒子ビーム入射の方法を用いて、誘導方式によらずプラズマ電流を流すことが必要となる。高周波の場合は、電磁波の伝播方向に電子が加速されて電流が生じる。ビーム入射では、電子とイオンがビームイオンから大きさの異なる運動量が与えられて速度のずれができ、電流を発生する。このように、非誘導方式でプラズマ電流を流すことを非誘導電流駆動と言う。単に、電流駆動と言うことが多い。

ピンチ pinch
 パルス放電を利用して、急激に電界を誘起すると、放電が始まりプラズマを作る。流れる電流と周囲に生じた磁界との作用で発生する力(ローレンツ力)によってプラズマが急速に圧縮される作用(この作用をピンチと言う。)を利用して、高温・高密度プラズマが瞬時に形成される。ピンチ方式には、直線状の放電管の長さ方向(主軸方向)に電界をかけるZピンチ方式、主軸を周回する方向に電界をかけるθピンチ方式等がある。なお、広義には、磁場に沿って電流を流す方式を指すこともある。ピンチ方式では、ベータ値が高くなることが特徴であるが、圧力の高いプラズマを安定に閉じ込めることが課題である。
 逆磁場ピンチ方式の項を参照。

VHモード VH mode
 エネルギー閉じ込め時間がHモードのそれに比べ2倍程度(Lモードのそれに比べ4倍程度)改善される閉じ込め状態であり、DⅢ-Dにおいて壁をボロン化した後に初めて観測された。この閉じ込め状態は過渡的に得られたものであり、長時間にわたり安定に持続される閉じ込め状態であるかは、今のところ不明である。

副半径 minor radius
 主半径の項を参照。

不純物 impurity
 核融合反応の燃料(重水素・三重水素反応の場合、これら二つの元素)以外の元素であってプラズマに混入しているものを言う。プラズマに不純物が混入すると、プラズマの放射損失が増大して温度が低下する他、核融合反応を担う燃料粒子の密度も相対的に減少する。不純物の主要な発生要因は、プラズマと壁との相互作用に基づく吸着ガスの脱離、スパッタリング、蒸発等である。プラズマへの不純物の混入を抑制するため、壁材の改良や壁面の清浄化の他、ダイバータや磁気リミタの採用が成果を上げている。
 ダイバータ、磁気リミタの項を参照。

ブートストラップ電流 bootstrap current
 トカマク型装置のようなトーラス型装置におけるプラズマでは、副半径方向の密度勾配によって生ずる磁場を打ち消そうとする電流(反磁性電流と言う。)と捕捉粒子の相互作用によって、電磁誘導による電流とは別に外部から駆動すること無しに自然に流れる電流がある。この電流をブートストラップ電流と呼ぶ。これは誘導磁束の制限を受けないので、トカマク型核融合炉の電流駆動の手段として有効である。

プラズマ plasma
 温度の上昇とともに物質の状態は一般に固体、液体、気体と変化していく。さらに高温では、原子核のまわりを回っている電子がはぎ取られて、原子は正の電荷を持つイオンと負の電荷を持つ電子に分かれ、両者が高速で不規則に運動している状態となる。この状態をプラズマと言う。イオンと電子は電気的な力(クーロン力)で引き合うため、プラズマには全体として中性になろうとする性質がある。プラズマは自然界に広く存在するが、身近な例としては蛍光灯等の気体中の放電によって作られるプラズマがある。

プラズマ電流 plasma current
 トカマク型装置、逆磁場ピンチ型装置、コンパクト・トーラス型装置等において、ドーナツ状のプラズマを閉じ込めるためにその大周方向(トーラス方向)に沿ってプラズマ中に流す電流を言う。また、ブートストラップ電流のようにプラズマのベータ値の上昇に伴ってプラズマ中に自然に流れる電流もある。このブートストラップ電流は、トーラス型装置に共通に発生する。ここでは、電磁誘導の方式によって流すプラズマ電流を誘導プラズマ電流と言い、電磁誘導の方式によらずに流すプラズマ電流あるいはブートストラップ電流のように自然に流れる電流を非誘導プラズマ電流と言う。
 ブートストラップ電流、非誘導電流駆動の項を参照。

プラズマ閉じ込め plasma confinement
 物質を容器(例えば金属製容器)の壁に触れた状態でいくら加熱しても、核融合で必要な高温プラズマを作ることはできない。そのため、プラズマを壁から離して粒子や熱の損失を少なくすること、すなわちプラズマを閉じ込め、この高温プラズマを作ることが必要である。磁場の作用によってこれを実現する方法を磁場閉じ込めと言う。一方、固体の燃料に大きなエネルギーを瞬時に注入し、プラズマが飛散する前に温度を上げて核融合反応を起こさせる方法を慣性閉じ込めと言う。これらの方法により、実用炉に必要な数億度のプラズマを作ることができる。

プラズマ密度 plasma density
 ある微小部分に含まれている電子、イオンの個数とその部分の体積の比を、それぞれ電子密度、イオン密度と言う。イオン密度の測定方法が確立していないため、通常は、前者をプラズマ密度と言っている。原子番号が1の水素、重水素、三重水素等のプラズマでは、他の混入物がなければ電子密度とイオン密度は全体としては等しい。原子番号が2以上の元素がプラズマに含まれていると、イオン化によって1個の原子は1個のイオンと2個以上の電子に別れるので、イオン密度は電子密度より小さくなる。

ブランケット blanket
 核融合炉の構成機器の一つで、核融合反応で生じた中性子のエネルギーの熱エネルギーへの変換とその取出し、プラズマから出る放射線の遮蔽、リチウムと中性子との核反応を利用した燃料の一つである三重水素(トリチウム)の生産等を行う。

フルエンス fluence
 時間積分した中性子照射量で、単位はMWa/m2もしくはMWy/m2(aはannual、yはyearを意味する)。

ベータ(β)値 beta value
 磁場の圧力(磁場の強さの2乗に比例)に対するプラズマの圧力(プラズマの温度と密度の積に比例)の比、すなわちベータ値=プラズマ圧力/磁場圧力。ベータ値が高ければ、より弱い磁場で高温・高密度のプラズマを閉じ込めることができる、いわばプラズマ閉じ込めの効率を表す指標の一つである。高ベータ・プラズマとはベータ値が高いプラズマのこと。核融合炉では4~5%以上のベータ値が必要とされている。ベータ値はどこまでも上げられる訳ではなく、ある限界領域(ベータ値限界)に達すると、プラズマ内部の振動や不安定性が急激に成長し、ベータ値が飽和あるいは減少する。

ベータ値限界 beta limit
 ベータ値の項を参照。

ヘリオトロン Heliotron
 ヘリカル型装置の項を参照。

ヘリカル型装置 helical system device
 トカマク型装置のように電磁誘導の方式によるプラズマ電流を流さずに、外部のコイル(ヘリカル・コイル、モジュラー・コイル等)によって形成したドーナツ型の螺旋状閉じ込め磁場でプラズマを閉じ込める装置を言う。螺旋状磁場を作るのに、トロイダル磁場コイルとヘリカル・コイルを用い、ヘリカル・コイルの電流の方向を交互に逆方向に流すものをステラレータ、トロイダル磁場コイルを用いず、全てのヘリカル・コイルに同方向の電流を流すものをヘリオトロン又はトルサトロンと言う。ヘリカル・コイルのかわりにモジュラー・コイルを用いて螺旋状磁場を発生するものもある。また、リング・コイルに交差するトロイダル磁場コイルの中心を螺旋状に配置したものをヘリアックと言う。
 トカマクの項を参照。

ペレット入射 pellet injection
 プラズマへの燃料注入方式の1つで、長さと直径がともに数mmの固体燃料(ペレット)を高速で入射することを言う。

ペレット利得 pellet gain
 慣性閉じ込め方式においては、Q値は1回の爆縮で燃料に投入されるドライバー入力の総和に対する核融合出力の総和の比で定義され、これをペレット利得とも呼ぶ。ペレット利得の大きいプラズマは高利得プラズマと言われている。

放射損失 radiation loss
 高温プラズマからの熱損失の機構の一つで、プラズマからの光(電磁波)の形で失われる熱損失。この損失の原因としては、主に電子がイオンと衝突するときの制動運動によるもの(制動放射損失)、電子が磁場に沿って螺旋運動をするときの加速度によるもの(サイクロトロン放射)、プラズマ中に混入した不純物によるもの(不純物放射損失)等がある。このうち、不純物による損失は非常に大きくなりうるため、核融合炉開発の上で不純物混入防止の研究が重要となっている。

捕捉粒子 trapped particle
 トーラス状のプラズマは、螺旋状の磁力線によって閉じ込められる。この磁力線に沿って荷電粒子が運動する時、トーラスの外側に捕捉され、トーラスの内側の磁場の強い所を通過できない粒子がある。このような粒子を捕捉粒子と言う。

ポロイダル・コイル poloidal coil
 ポロイダル磁場コイルに同じ。

ポロイダル磁場 poloidal magnetic field
 トーラス型装置において、小周方向の磁場をポロイダル磁場と言う。

ポロイダル磁場コイル poloidal magnetic field coil
 トーラス型装置において、小周方向の磁場をポロイダル磁場と言い、この磁場を発生させるコイルをポロイダル磁場コイルと言う。ポロイダル・コイルとも呼ばれている。

ポロイダル断面 poloidal cross section
 磁気紬に垂直にプラズマを切って得られる断面。

ポロイダル・ベータ値poloidal beta value
 ベータ値を定義する式の分母にある磁場としてポロイダル磁場を使ったもの。プラズマの安定性に関して重要な意味を持つ。
 ベータ値、ポロイダル磁場の項を参照。

ミラー型装置 mirror device、mirror machine
 磁場閉じ込め方式の中で開放型装置と呼ばれる直線状の装置の一つ。2個の円形のコイルに同方向に電流を流すと、コイルの所で磁場が強く、コイルとコイルの中間で磁場が弱くなり、磁力線が2個のコイルの所で絞られた形の磁場ができる。ある速度を持った荷電粒子は磁力線に巻き付いて運動しながら磁場の強いところで反射され、2個のコイルの間に閉じ込められるので、このような閉じ込め方式は磁気鏡あるいは磁気ミラーと呼ばれる。このような原理によりプラズマを閉じ込める装置をミラー型装置と言う。ミラー型装置は、プラズマを閉じ込める真空容器の中で磁力線が閉じていないことから、開放型装置とも呼ばれている。
 タンデム・ミラー型装置の項を参照。

村上係数 Murakami parameter
 平均プラズマ密度(n)と大半径(R)の積をトロイダル磁場(BT)で割った量(nR/BT)を言う。この村上係数を横軸に、安全係数(q値)の逆数を縦軸に取り、トカマク型装置の運転領域を表した図をHugill図と言う。Hugill図上に示されるそれぞれの装置に固有のある運転領域の内側では、ディスラプションの発生の少ない運転ができる。また、プラズマ中の不純物量の低減あるいは加熱によるプラズマの高温化により、村上係数の大きなところに運転領域を拡大できる。

溶融塩増殖材 molten salt breeder
 トリチウム増殖のため、ブランケット内に充填されるリチウムを含有した物質のうち、リチウム溶融塩を言う。代表的な溶融塩としてはLiBeF3があるが、溶融塩方式は腐食が大きいため、技術的な困難が伴う。
 ブランケットの項を参照。

リチウム塩水溶液増殖材 aqueous lithium salt breeding material
 トリチウム増殖のため、ブランケット内に充填されるリチウムを含有した物質のうち、リチウム含有塩の水溶液を言う。この水溶液が増殖材であるとともに冷却材の役目も兼ねる。塩としてはLiOH、LiNO3等がある。
 ブランケットの項を参照。

リチウム鉛増殖材 lithium-lead breeding material
 トリチウム増殖のため、ブランケット内に充填されるリチウムを含有する物質のうち、リチウムと鉛の共晶体を言う。リチウム鉛は固体(特に冷却材温度が低い場合)としてそのまま用いる方式と、溶融して冷却材を兼ねて用いる方式がある。

リミタ limiter
 ドーナツ状のプラズマの断面の形状を規定するために、プラズマに接して置かれる黒鉛等の板を言う。高温のプラズマが当たるため、そこからの不純物発生やリミタ材の損耗が問題である。

臨界プラズマ条件 breakeven condition
 磁場閉じ込め方式においては、高温プラズマを発生するのに必要な外部入力とそのプラズマ中での核融合反応による出力が等しくなる条件、つまりQ値が1になる条件を言う。慣性閉じ込め方式においては、ペレット利得(慣性閉じ込め方式におけるQ値)が1になる条件を言う。
 Q値、ペレット利得の項を参照。

炉心プラズマ reactor-core plasma
 狭義には、実用核融合炉の中心部に閉じ込められ、核融合反応を起こしている高温・高密度プラズマを言う。ただし、「炉心プラズマ研究開発」等の形で使用される場合の「炉心プラズマ」は、上述のようなプラズマ条件に近く、核融合炉のプラズマに外挿が可能なデータを得られるようなプラズマを言う。

(略語説明)

Alcator C-Mod
 米国・マサチューセッツ工科大学で実験が開始された高いトロイダル磁束密度(10T)を持つトカマク型装置。

ARIES Advanced Reactor Inovation Evaluation Studiesの略
 米国で概念設計を進めている高いトロイダル磁束密度(13T)と高ブートストラップ電流を持つ定常実用炉(熱出力2000MW)。

ASDEX-U Axially Symmetrical Divertor EXperiment-Upgradeの略
 ドイツのマックスプランク・プラズマ物理研究所で運転中の中型のトカマク型装置。ダイバータを用いた不純物制御、密度制御について研究中。

ATF Advanced Toroidal Facilityの略
 米国オークリッジ国立研究所の中型ヘリカル型装置。ピッチ数12のトルサトロン磁場コイルを有する。1991年に運転を一時停止した。

BEATRIX-Ⅱ
 トリチウム増殖材である各種リチウム・セラミックスを米国の高速炉を使って照射試験する国際協力研究で、IEA協定の下で実施されている。

CHS Compact Helical Systemの略
 文部省核融合科学研究所で実験が行われている小型のヘリカル型装置。ピッチ数8のヘリオトロン/トルサトロン磁場コイルを有する。

CTX Compact Toroid Experimentの略
 米国ロスアラモス国立研究所のスフェロマック装置。1990年に運転停止。

DITE DIvertor Tokamak Experimentの略
 英国カラム研究所のダイバータ付き小型トカマク型装置。1989年に運転停止。

DⅢ DⅢ,DⅢ-Dは各々Doublet Ⅲ、Doublet Ⅲ-Dの略
 米国ジェネラル・アトミックス社のD形断面を持つ中型のトカマク型装置。DⅢ-DはDⅢを大型のD形断面に改造したもの。日米協力により、共同実験を実施中。

dpa displacement per atomの略
 中性子によって、材料中の原子1個につき格子点からはじき出される割合の平均値。実験炉のステンレス鋼構造材では1MWa/m2のフルエンスの条件で概略20dpa以下になると見積られている。

EC波/ECH Electron Cyclotron/Electron Cyclotron Heatingの略
 電子サイクロトロン周波数帯波/電子サイクロトロン周波数帯波による加熱。

FER Fusion Experimental Reactorの略
 原研が独自に設計を進めている核融合実験炉。

FFTF/MOTA Fast Flux Test Facility/Material Open Test Assemblyの略
 米国ハンフォード国立研究所の高速中性子束試験炉で、日本、米国、カナダ3国の協力により、ブランケット材料及び構造材料の照射試験が続けられている。

Foam Cryo
 極低温で固体となった燃料球を炭化水素(CH、CD)の薄膜で覆った爆縮用ペレット。

GAMMA10
 筑波大学で運転中のタンデム・ミラー型装置。中央ミラー部の長さは6m、全長約27m。

GEKKO(激光)-Ⅳ,-MⅡ,-ⅩⅡ
 大阪大学のガラス・レーザーを用いた慣性閉じ込め装置。ビーム数/全出力エネルギーはそれぞれ、4本/1kJ、2本/2kJ、12本/30kJである。GEKKO-ⅩⅡのみ運転中。

HBTX High Beta Toroidal Experimentの略
 英国カラム研究所の逆磁場ピンチ型装置。1991年に運転停止。

Heliotron E
 京都大学で実験が行われている中型のヘリカル型装置。ピッチ数19のヘリオトロン磁場コイルを有する。

HFIR/ORR High Flux Isotope Reactor/Oak Ridge Research Reactorの略
 米国オークリッジ国立研究所の2基の研究用原子炉。一部は日米協力協定による核融合材料照射試験に利用されている。

H/D/T Hydrogen/Deuterium/Tritium
 水素/重水素/三重水素で、いずれも水素の同位体。重水素の原子核は1個、三重水素の原子核は2個の中性子を含んでいる。

ICRF Ion Cyclotron Range of Frequencyの略
 イオン・サイクロトロン周波数帯。ICRF加熱は、この周波数帯の波を用いた加熱。

INTOR INternational TOkamak Reactorの略
 IAEAの下で日本、米国、EC、ソ連が参加して1979年~1987年に設計研究を行ったトカマク型核融合実験炉。

ITER Intenational Thermonuclear Experimental Reactorの略
 IAEAの後援の下で1988年から1990年の間、日本、米国、EC、ソ連の四極が共同して概念設計を行った国際熱核融合実験炉。概念設計に続いて、現在、次の段階である工学設計活動の開始に備えている。

JET Joint European Torusの略
 ECの大型のトカマク型装置で、英国に置かれている。日本のJT-60、米国のTFTRとあわせ三大トカマク型装置と呼ばれている。

JFT-2 JAERI Fusion Torus-2の略
 原研の中型のトカマク型装置で、改造後JFT-2Mと称している。

JFT-2a JAERI Fusion Torus-2aの略
 原研の小型装置で、世界最初のダイバータを持ったトカマク型装置。すでに運転を停止。

JFT-2M JAERI Fusion Torus-2Mの略
 JFT-2を非円形断面に改造したトカマク型装置。Hモードの研究等を行なっている。

JIPP T-Ⅱ Japan Institute of Plasma Physics Torus-Ⅱの略

JIPP T-ⅡU Japan Institute of Plasma Physics Torus-ⅡUpgradeの略
 核融合科学研究所の中型装置。トカマクとステラレータの両方の運転が可能。JIPP T-ⅡUはJIPP T-Ⅱを改造した装置。

JT-60 JAERI Tokamak-60の略

JT-60U JAERI Tokamak-60 Upgradeの略
 JT-60は、臨界プラズマ条件の達成を目指した研究を進めるという第二段階計画の中核装置として原研に建設された大型のトカマク型装置。米国のTFTR、ECのJETと合わせて三大トカマク型装置と呼ばれている。平成3年の改造後のJT-60(通称JT-60U)は、大きなプラズマ電流(ダイバータ配位で最大6MA)が流せるように装置性能を高めた。

LCT Large Coil Taskの略
 大型の超電導トロイダル磁場コイルの開発を目的に、IEAの下で進められた国際協力活動。この活動では、高さ6mの大型超電導トロイダル磁場コイルを米国が3個、日本、EC及びスイスが各1個製作し、米国オークリッジ国立研究所で各種の性能試験を行った。最大磁束密度8Tを達成。

LHART Large High Aspect Ratio Targetの略
 薄肉で直径の比較的大きなガラス球殻内に燃料ガスを注入し、効率良く圧縮できるように設計された爆縮用のペレット。

LH/LHCD Lower Hybrid/Lower Hybrid Current Driveの略
 低域混成波/低域混成波による電流駆動。

LHD Large Helical Deviceの略
 文部省核融合科学研究所で建設を開始した大型のヘリカル型装置。プラズマの主半径4m,副半径0.5~0.6mで、ピッチ数10の超電導のヘリオトロン磁場コイルを有する。

MST Madison Symmetric Torusの略
 米国ウイスコンシィン大学で運転中の逆磁場ピンチ型装置。

NB/NBI Neutral Beam/Nentral Beam Injectionの略
 中性粒子ビーム/中性粒子ビーム入射。第二段階加熱(追加熱とも言う。)法の一つ。

NET Next European Torusの略
 ECが独自に計画している核融合実験炉。

NOVA
 米国ローレンス・リバモア国立研究所の大出力ガラス・レーザーを用いた慣性閉じ込め装置。ビーム数が10本、出力パワーが100TW、全出力エネルギーが125kJ。

NOVETTE
 米国ローレンス・リバモア国立研究所の大出力ガラス・レーザーを用いた慣性閉じ込め装置。ビーム数が2本、全出力エネルギーが18kL。NOVAに改造された。

NUCTE Nihon University Compact Torus Experimentの略
 日本大学で運転中の逆磁場配位のコンパクト・トーラス型装置。

OHTE Ohmic Heating Toroidal Experimentの略
 米国ジェネラル・アトミックス社のヘリカル・コイルを持つ逆磁場ピンチ型装置。1988年に運転停止。

OMEGA
 米国ロチェスター大学のガラス・レーザーを用いた慣性閉じ込め装置。ビーム数が24本、出力パワーが15TW、全出力エネルギーが3kJ。

PBFA Particle Beam Fusion Assemblyの略
 米国サンディア国立研究所の低原子番号の粒子ビームを用いた慣性閉じ込め装置。

PBX-M Princeton Beta eXperiment-Modificationの略
 米国プリンストン・プラズマ物理研究所で運転中の中型の非円形断面を持つトカマク型装置。

PIACE-3 Plasma Injection And Compression Experiment-3の略
 大阪大学で運転中の逆磁場配位のコンパクト・トーラス型装置。

PLT Princeton Large Torusの略
 米国プリンストン・プラズマ物理研究所の中型のトカマク型装置。既に運転を中止。

Precision NOVA
 米国ローレンス・リバモア国立研究所の慣性閉じ込め装置であるNOVAを改良したもので、爆縮過程の詳細な解明を行うことを目的としている。

REPUTE-1 REversed field Pinch-University of Tokyo Experiment No.1の略
 東京大学で運転中の逆磁場ピンチ型装置。イオンの異常加熱を観測。

RFX Reversed Field pinch eXperimentの略
 イタリアのパドバ研究所で1991年に運転を始めた逆磁場ピンチ型装置。

S-1 Spheromak-1の略
 米国プリンストン・プラズマ物理研究所のスフェロマック型装置。すでに運転を停止。

SHIVA
 米国ローレンス・リバモア国立研究所のガラス・レーザーを用いた初期の慣性閉じ込め装置。1981年に運転を停止。

SSTR Steady State Tokamak Reactorの略
 原研が概念設計を進めている定常トカマク型核融合動力炉。主要パラメータは、主半径7m、副半径1.75m、プラズマ電流12MA、トロイダル磁場9T、正味電気出力100万kW。プラズマ電流の75%をブートストラップ電流が担うことが特徴。

TFTR Tokamak Fusion Test Reactorの略
 プリンストン・プラズマ物理研究所で運転中の大型のトカマク型装置。JT-60(日本)、JET(EC)とあわせて世界の三大トカマク型装置と呼ばれている。

TMX-U Tandem Mirror eXperiment-Upgradeの略
 米国ローレンス・リバモア国立研究所のタンデム・ミラー型装置。1987年に運転停止。

TORE SUPRA
 フランスのカダラッシュ研究所で運転中の超電導コイルを用いた準大型のトカマク型装置。

TORIUT TORI of University of Tokyoの略
 東京大学で運転中の小型トーラス実験装置。

TPE-2M、TPE-1RM、TPE-1RM15
 電子技術総合研究所の逆磁場ピンチ型装置。

TPL Tritium Process Laboratoryの略
 原研のトリチウム・プロセス研究施設。トリチウムの安全取扱い技術の開発を行っている。

TRIAM-1M Tokamak of Research Instituto for Applied Mechanics-first Modificationの略
 九州大学の超電導コイルを用いた小型のトカマク型装置。低域混成波を用いた電流駆動により、1時間の放電維持時間を実現。

TS-3 University of Tokyo Spheromak No.3の略
 東京大学で運転中のスフェロマク型装置。

TSTA Tritium Systems Test Assemblyの略
 米国ロスアラモス研究所のトリチウム・システムの大規模試験設備。日米協力により、燃料ガス精製システムの試験中

W7-A、W7-AS Wendelstein VⅡ-A,-ASの略
 ドイツのマックスプランク・プラズマ物理研究所で実験が行われている中型のヘリカル型装置。ピッチ数5のモジュラー形ステラレータ磁場コイルを有する。

WT-2、WT-3 Wave Tokamak No.2, Wave Tokamak No.3の略
 京都大学の小型のトカマク型装置。

ZT-40M Z-pinch Torus 40 Modificationの略
 米国ロスアラモス国立研究所の逆磁場ピンチ型装置。1991年に運転停止。

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