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資料4

第三段階核融合研究開発基本計画等

平成4年6月
科学技術庁
原子力局

核融合研究開発の推進について

平成4年6月9日
原子力委員会

 エネルギーは、文明社会を維持し、発展させるための原動力となるものであり、その安定供給を確保するため、人類は長期的展望のもとに、新たな供給源について技術開発を進めていく必要がある。
 核融合は、必要な燃料・材料資源が地球上に広く豊富に存在すること、原理的には高い安全性を有し、発電の過程において地球温暖化、酸性雨等の地球環境問題の原因と考えられる物質を排出しないことなど、供給安定性、安全性及び環境保全性の観点から優れた特徴を有している。したがって、その実用化に向けて今後とも不断の研究開発の努力を続けていかなければならない。

 世界の核融合研究開発は、この約20年間に三大トカマク型装置によりプラズマの温度、密度及び閉じ込め時間が臨界プラズマ条件に近づくなど、高温・高密度プラズマの生成・制御技術において大きな進展を遂げた。炉工学技術の分野でも、超電導コイル、加熱・電流駆動装置等の研究開発において著しい進展が見られた。また、日本、米国、EC、ソ連(当時)の4極が参加して行われた国際熱核融合実験炉(ITER)の概念設計等に上記の炉心プラズマ技術及び炉工学技術に関する成果が活用され、次の段階の核融合研究開発の中核となるべき装置の概念が形成された。

 我が国の核融合研究開発は、過去約17年間、当委員会が昭和50年7月に策定した第二段階核融合研究開発基本計画(以下「第二段階計画」という。)の下で進められてきた。第二段階計画の主要な目標を達成するため、日本原子力研究所に臨界プラズマ試験装置JT-60が建設された。昭和62年に、同装置により第二段階計画に定められたプラズマ性能の目標が達成されたのを始め、大学等の広範囲な実験装置により多様な研究開発が行われ、炉心プラズマ技術において著しい進展が見られた。さらに、炉工学技術についても、超電導コイル等の研究開発を始めとして、広範な分野での研究開発が進展した。

 これらの成果を踏まえると、我が国の核融合研究開発は第二段階計画の目標を大略達成し、次段階たる第三段階の核融合研究開発を具体的に実施するに十分な科学的・技術的基盤をほぼ確立したと判断される。また、当委員会の核融合会議の下に平成3年9月に設置された「核融合研究開発基本問題検討分科会」がその審議内容を取りまとめて本年5月に核融合会議に提出し、承認された報告書の趣旨に沿って当委員会が検討した結果、第三段階の研究開発を平成4年度から、以下の長期的展望及び方針に基づき推進するものとする。

1. 第二段階の研究開発の成果を踏まえ、当委員会としては、来世紀半ば以降のエネルギー供給に貢献することを目指し、それに至るまでの研究開発目標を段階的に設定し、これを実現するための研究開発を計画的に推進すべきであると考える。
 なお、これらの研究開発は長期にわたり、かつ、未踏の技術的課題を多く含むため、研究開発目標の達成度、研究開発を取り巻く内外の情勢等を十分に考慮しつつ、総合的な視野に立ったチェック・アンド・レビューを適宜行いつつ、弾力的に進めるものとする。

2. 第三段階の研究開発においては、第二段階と比べて研究開発に要する人材と資金の規模が、更に大きなものになると予想され、その重要性にかんがみ、別に定める「第三段階核融合研究開発基本計画」に基づき積極的にその推進を図るものとする。

3. 今後の研究開発の実施に当たっては、産・学・官の有機的な連携の一層の強化を図り、総合的・計画的に研究開発を推進するためのバランスのとれた体制を構築することが肝要である。当委員会としては、引き続き核融合会議が、研究開発に関する計画の総合的推進、連絡調整等を行っていくことが適当と考える。

4. 第三段階の研究開発の実施に当たっては、その担い手となるべき優秀な人材の確保・養成を図ることができるよう適切な配慮が必要である。他方、研究開発規模の拡大に伴い、研究開発のリスク、所要の資金及び人材が増大することから、これらの低減及び研究開発の効率化を図るために、国際協力に幅広く取り組むことが重要である。特に、基礎研究分野における我が国の積極的な国際貢献が要請されている今日、我が国の研究開発ポテンシャルを有効に活用しつつ、主体的な国際協力の推進が望まれる。その際、国内研究基盤の涵養に努めるとともに、国際協力に必要な社会基盤の整備、研究開発の成果の国内への還元等に留意することも重要である。



第三段階核融合研究開発基本計画

平成4年6月9日
原子力委員会

 第三段階の核融合研究開発は、次に示す基本計画に基づき実施するものとする。

1. 研究開発の目標

 第三段階の研究開発は、自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を主要な目標として実施する。これを達成するための研究開発の中核を担う装置として、トカマク型の実験炉を開発する。これらの研究開発により、第四段階以降の研究開発に十分な見通しを得ることを目標とする。

2. 研究開発の内容

 上記1.に示した研究開発の目標を達成するために実施すべき具体的な研究開発の内容は、次のとおりとする。
(1) 炉心プラズマ技術
 炉心プラズマ技術に関して、以下の研究開発を行う。
 1) トカマク型の実験炉による自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現を目指した研究開発
 (ⅰ) 自己点火条件
 自己点火条件(エネルギー増倍率が20程度)を達成することを目指し、高性能プラズマの閉じ込めの改善、全プラズマ加熱入力に占める高エネルギー・アルファ粒子による加熱入力の比率の向上等に関する研究開発を行う。
 (ⅱ) 長時間燃焼
 定常炉心プラズマへの見通しを得るために必要と考えられる長パルス運転(1000秒程度以上)を実現することを目指し、高効率電流駆動法、ダイバータ板への熱負荷軽減法、ヘリウム排出法、ディスラプション回避法等に関する研究開発を行う。

 2) その他の研究開発
 (ⅰ) トカマク型装置
 実験炉による研究開発だけでは十分解明できない炉心プラズマ技術分野の課題を解明するための補完的な研究開発及び実験炉を含む各段階の中核装置に新技術等を取り入れる前に確認・実証等を行うための先進的研究開発を行う。
 (ⅱ) トカマク型以外の装置
 トカマク型以外の装置は、今後の研究開発の成果によってはトカマク型を上回る閉じ込めを実現する可能性を有していること、トカマク型装置による研究開発への貢献が期待されること等から、これらの研究開発を進める。ヘリカル型装置については、大型装置による計画を着実に推進し、高性能閉じ込め状態の定常維持及び高ベータ値の達成に努め、ヘリカル型装置における閉じ込め比例則の信頼性を高める研究開発を進める。また、逆磁場ピンチ型装置、ミラー型装置、コンパクト・トーラス型装置及び慣性閉じ込め装置についても引き続きその研究を進める。

(2) 炉工学技術
 実験炉の開発に必要な主要構成機器の大型化・高性能化を図るとともに、原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を図るため、実験炉による試験等を含めた研究開発を進める。さらに、核融合炉の実用化のために必須の炉工学技術であって、その実現までに長期間の研究開発を必要とするため早期に開始する必要のあるものについて、その研究開発を進める。
 このため、大型・高磁界の超電導コイル、遠隔保守技術とその適用が可能な炉構造機器、高熱負荷に耐える高い除熱性能を有するプラズマ対向機器、大出力・長時間動作の加熱・電流駆動装置、トリチウムの製造・増殖・取扱い技術、ブランケット技術等の研究開発を進めつつ、これらの装置・機器の統合・集約化の技術を確立する。また、高いフルエンスの中性子照射に耐える構造材料、ブランケット材料、計測・制御機器及び低放射化材料の開発を進めるとともに、中性子照射による材料特性等のデータの蓄積を行う。
 慣性閉じ込めの技術については、高いエネルギー変換効率と繰り返し動作頻度を持つ高出力ドライバーを開発する。

(3) 安全性に関する研究
 核融合炉の安全性の向上に資する観点から、トリチウム等の放射性物質の炉内外における挙動の把握、機器・設備の工学的安全性、核融合炉の安全性評価手法等の研究開発を進める。

(4) 核融合炉システムの設計研究
 核融合動力炉を含む核融合炉システムの具体的構想を策定し、その設計研究を進める。

3. 研究開発の分担

 実験炉に係わる開発、試験及び研究については、日本原子力研究所が担当する。実験炉以外の研究開発は、大学、国立研究機関及び日本原子力研究所が相互の連携・協力により進める。これらに当たっては、産業界の積極的参加が得られるよう十分配慮して研究開発を進める。

4. 研究開発の期間

 第三段階の研究開発は、平成4年度から開始し、実験炉による研究開発が終了し、かつ、次期中核装置と考えられる原型炉による研究開発が開始される段階、又は第四段階核融合研究開発基本計画の策定が行われた段階のいずれか早い時点において完了するものとする。

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