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時の話題 IEA国際カンファレンス「地球環境問題解決 平成3年11月15日
原子力調査室
1. 平成3年11月6日(水)〜8日(金)にかけて国立京都国際会館において、上記カンファレンスが、国際エネルギー機関(IEA)、通商産業省、科学技術庁、新エネルギー・産業技術総合研究開発機構(NEDO)及び(財)地球環境産業技術研究機構(RITE)により開催された。 2. カンファレンスには、26カ国及び5国際機関から、エネルギー政策担当者や科学者等300名を越える参加者が参加し、オープニング・プレナリー・セッション、6つのワークショップ及びクロージング・プレナリー・セッションにおいて、地球環境問題を解決するために技術の果たすべき役割について活発な討議がなされた。 全体を通しての結論としては、地球環境問題を解決するための具体策として規制手段、経済措置等が検討されているが、長期的にみて最も効果が期待されるのは「技術」であると強調された。さらに革新的な技術開発の推進はもとより、その成果の全世界的な普及のために、各国政府、公的機関等が積極的に行動すべきであり、特に、民間組織における取り細みの活発化は地球環境問題解決のキーファクターであると位置づけた。このためには、国際協力が必要であり、相手国のニーズを考慮した技術移転が重要であるとともに、技術情報・研究者交流の活発化が技術開発の効率的推進及び国際的な普及には極めて有効な方策である、と指摘された。
(1) オープニング・プレナリー・セッション
議長は向坊隆原子力委員長代理が務められた。基調講演の中で、J.H.フェリターIEA事務局長は、地球環境問題とエネルギーに関するIEAの取り組みを紹介し、温暖化問題解決のためには、途上国への技術移転を行うとともに、長期的視点で技術開発に取り組み、社会経済システムを変える必要があると指摘し、鈴木英夫通産省立地公害局長は、日本が提唱している「地球再生計画」に沿って、解決には技術革新が必要で、そのための国際協力、研究交流等の課題を図るべきと述べた。
次に、林政義原子力委員会委員・NEDO理事長、F・クリルスキーRITE顧問他、14名の各国・国際機関代表からステートメントがあり、主な意見は以下の通りであった。
・問題の解決には、技術開発に加え、炭素税等の経済的措置の導入、社会・経済システムの変更、技術の普及が必要。
・国際的な技術移転の推進には、移転のメカニズムのあり方、移転障害除去の方策について検討が必要。また、現地ニーズを踏まえた適正な技術移転が必要。
・技術開発及び移転に際して民間企業の果たす役割は大きく、民間企業に対し、政府の支援も必要。
・技術開発に当たっては、人文・社会学的アプローチも重要。
(2) ワークショップ
以下の6つのワークショップが開かれた。
A:省エネルギーと効率化
B:次世代化石燃料技術
C:先進的再生可能エネルギー源
D:先進的原子力技術
E:革新的地球環境技術
F:エネルギー技術戦略とシナリオ
この中で、ワークショップDは、原子力エネルギーの利用に関するセッションで、核分裂炉の安全利用と長期的課題としての核融合炉に関する議論が中心であった。発表者は、ノーデ氏(CEA)、クラーク氏(バッテル社)の他、動燃、原研など、日本からの参加が多く、主な意見・提案は以下の通りであった。
・原子炉はCO2、SO2、NOxを排出しない。
・通常運転で原子力発電所から放出される放射性物質は、Kr、Xe、トリチウム等であり、石炭火力発電所からはPb−210、Po−210、Ra−226及びRn−222である。これによる平均被ばく量は、石炭火力で約0.004−0.06mSv/y、原子力発電所で約0.001−0.02mSv/yとなる。
・原子炉は発電のみならず、水素製造、海水脱塩、地域暖房、石炭ガス化等、全ての分野において応用できる。
・既に原子力発電は、世界の電力の約17%と大きく貢献している。フランス、スウェーデン等、原子力発電の占める割合が高い国は、単位GNP当たりのCO2排出量が小さい。
・原子力発電は資本投資のコストは高いものの、欧州、日本、米国東海岸等では、石炭火力に比して安価である。
・今後の原子炉の開発方向は、既存炉の発展型及びパッシブセイフティーの新型モジュラー炉の2つとなる。新型原子炉の商業化には、さらに技術開発が必要である。
・高速増殖炉技術については、フランスとソ連では発電用実証炉が運転されている。高速増殖炉技術が必要となるのは2015年頃。
・地下における放射性物質の長期間蓄積の問題は原則的にはアクチニド及び長半減期核種の変換により、解決可能であり、さらに研究開発を進めていく必要がある。
・核融合の研究開発は、磁気閉じ込めと慣性閉じ込めの2方向で進んでおり、2005年までには科学的実証(D−Tプラズマ自己点火)が可能である。いずれの方法も大規模な装置が必要なため、例えばトカマク型実証炉は国際協力によりITERを建設する計画である。
・最初の商業用核融合炉は2030年から2040年以降となる。
・核融合炉は核分裂炉に比して、放射能が少なく、シビアアクシデントがない。しかし、トリチウムの放出量を低く抑えるため、閉じ込め用の障壁がいくつか必要となる。
・核拡散問題については、以下のステートメントが提起された。
最も多くCO2を排出している米国、ソ連、中国の3カ国は、いずれも軍事大国であるが、これらの国々でさらに原子力を利用する場合には、核拡散は大きな問題ではなくなる。
地球温暖化問題の解決には、エネルギーパーク(水素製造を国家間で共同運営)構想、さらに、国際燃料サイクルセンター、Puの国際的貯蔵及び国際的な燃料輸送を目的としてIAEAによる枠組み作りが望まれる。
(3) クロージング・プレナリー・セッション
議長は近藤次郎日本学術会議会長が務められた。各ワークショップの要約の紹介後、自由討議が行われ、3日間の議論の総括として、地球環境問題を解決するための基本的考え方、解決の方向性及びそのための国際協力のあり方を示した議長サマリーが採択された。
以上
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