前頁 | 目次 | 次頁 |
資料 第35回IAEA総会政府代表演説 平成3年9月16日
科学技術庁長官
原子力委員会委員長
山東昭子
(冒頭挨拶)
議長
私は、貴方が第35回国際原子力機関総会の議長に選出されたことに対し、心から御祝い申し上げます。貴方の豊富な経験と卓越した指導力によって、本総会が実り多きものとなり、原子力の平和利用及び核の不拡散に関する国際協力の一層の促進に大きく寄与するものと信じております。
(新加盟国)
また、ただいま新たに国際原子力機関の加盟国となったリトアニア共和国、ラトビア共和国、エストニア共和国、およびイエメン共和国の4カ国に、心より歓迎の意を表明いたしたいと思います。
(国際原子力機関の役割)
原子力平和利用をとりまく最近の情勢を背景に、核不拡散と原子力の安全性向上の面からも国際原子力機関の果たす役割が一層重要になりつつあるものと我が国は考えます。
(保障措置の整備・強化)
最初に、核不拡散における国際原子力機関の役割が新たな局面を迎えようとしている点についてお話ししたいと思います。
湾岸危機後、国連・安全保障理事会のイラク停戦決議687に従って実施された国際原子力機関による現地査察を通じ、核不拡散条約の締結国であるイラクが、本機関との包括的保障措置協定を締結しながら、同協定に違反して、核兵器製造にもつながりかねない活動を秘密裡に行っていたことが明らかとなりました。イラクのこのような行為は、核不拡散体制の基礎をも揺るがしかねず、保障措置協定を誠実に遵守し、原子力の平和利用を推進している世界の国々の信頼を裏切るものでございます。我が国は、今般明らかとなったイラクのNPTに基づく保障措置協定違反は、国際社会において厳しく非難されるべきであると考えます。
今回の遺憾な事例を通じ、新しい国際情勢における核不拡散問題の重要性を一層強く認識するとともに、5月の国連軍縮京都会議において、海部総理も主張したとおり、国際原子力機関の保障措置制度の有効性・信頼性を更に高めてゆく必要があると思います。我が国としては保障措置の効果的、且つ効率的な実施を確保するための整備・強化に国際的に取り組むことが重要であると考えますが、その具体的方策として、以下のことを提案致します。
第一に、特別査察の活用を図ることを検討する等、未申告施設における核物質に対し国際原子力機関の査察を及ぼす方策と手続きを明確にすることであります。この観点から、事務局長の主導による、最近の積極的検討の姿勢を高く評価致します。
第二に、実質ゼロ成長予算原則の下での限られた本機関の資源を最大限に活用することであります。このため、それぞれの国の原子力活動の透明性等を勘案しつつ過去の保障措置実施の実績を評価した上で、査察資源の再配分を考えることにより保障措置の柔軟な運用を図るべきであると考えます。また、効果的、効率的な保障措置を実施するため技術開発等に積極的に取り組み、その実用化を促進してゆくことが必要です。
(核不拡散体制の強化)
議長
我が国は、原子力開発の当初より厳に平和目的に限ってその推進を図っており、核不拡散に対して最大限の関心と努力を払って参りました。
最近において核不拡散体制の一層の強化の観点から、いくつかの重要な進展が見られることは歓迎すべきことでございます。特に、南アフリカ共和国及びアフリカのフロント・ライン諸国が核不拡散条約を締結したことは、極めて有意義な進展であると考えます。さらに、核兵器国で未締結国であったフランス及び中国についても、フランスがその締結を原則的に決定しましたが、中国についても、先般8月に海部総理が訪中した際に、李鵬首相から締結の原則決定が表明されました。両国の締結が実現すれば5つの核兵器国がすべてNPTの締結国となることから、このような動きは核不拡散体制の普遍性を高める上で、画期的な意義を有するものとして心から歓迎いたします。また、ブラジル、アルゼンティン両国の共通原子力政策に関する共同宣言も両国の国際原子力機関による包括的保障措置の受け入れ、及びトラテロルコ条約加盟に向けての政治的環境を醸成するものであり、核不拡散体制強化にとって大きな意義を有するものと認識されます。
この観点から我が国としては、核兵器国であると否とを問わず、核不拡散条約未締結国においては、同条約の早期締結を行うよう引き続き希望するものであります。
核不拡散体制の信頼性を維持していく観点からは、NPTの締結国であり、しかも有意の原子力活動を行っていながら、同条約に規定された保障措置協定の締結義務を完全に履行していない国が存在することは、誠に遺憾なことといわざるを得ません。この明白な義務の不履行は、締結国間の相互信頼関係を阻害するものであるとともに、かくも多数の国が締結しているNPTの権威の失墜につながりかねない問題であり、我が国として関係国が早急かつ無条件に包括的保障措置協定を締結し、完全に履行することを求めます。
また、我が国では、原子力関連資機材の輸出に当たって、包括的保障措置が適用されていることなどを許可の条件としており、関係国も同様の措置を講ずることを強く求めるものでございます。
核兵器保有国の平和目的の原子力活動に対する保障措置の適用については、国際原子力機関の資源の許す範囲で漸次適用範囲を拡大して行くことが核不拡散体制の普遍性を高めることにつながるものと考えます。
1995年には、NPT延長会議が開催されます。我が国はその重要性が再認識されているNPTの普遍化・機能強化を図った上で、95年の会議においては同条約を来たるべき21世紀に引渡すことを決定すべきであると考えております。
我が国としては、今後とも、核不拡散を担保する健全な国際的枠組みの維持・強化のため、原子力平和利用の厳格な推進者としての主体性をもって核不拡散対応を図っていくこととしております。
(安全性向上等のための協力強化)
次に安全性向上等のための協力強化については、御承知の様に、世界各国に諸々の影響を及ぼしたチェルノブイリ原子力発電所事故の教訓を踏まえて、世界各国の協力の下に安全性を確保していくことの重要性が再認識されております。中・東欧諸国等の原子力発電所の安全性については国際的に懸念が表明されており、先般のロンドン・サミットにおいてもその安全評価及び対策が、緊急の課題となっていることが共通の認識とされましたが、国際原子力機関が直ちにこの課題に取り組んできたことを高く評価したいと思います。
また、一方、開発途上国においては、ラジオアイソトープ、放射線利用の活発化はもとより、今後予測される大幅なエネルギー需要の増加に伴い原子力発電を推進する動きも見られており、我が国としても積極的に協力を行っていくこととしております。
その際、安全面でも実績を有する国際原子力機関を通じた協力活動が重要な役割を果たすものと考えます。我が国としても原子力発電の安全性・信頼性に関しては長年の優れた実績もあり、今後とも官民一体となって専門家派遣、研修員受入れ等の人的貢献をはじめ出来る限りの国際協力を積極的に推進して参ります。
(原子力平和利用の推進と国民の支持確保)
議長
最後に、私は次のことを訴えたいと思います。
今日、原子力は、私たちの身近な生活において、ラジオアイソトープ、放射線利用やエネルギー利用の形で、農工業、医療、発電等の多種多様な分野で、豊かな生活を支える重要な役割を果たして来ております。例えば核医学の進歩は、多くの癌患者の尊い生命を救っておりますし、農薬を使わない害虫駆除の技術は
安心できる農業生産につながります。この関連で、国際原子力機関の研究・アイソトープ分野の活動は、高く評価されるものと考えており、我が国としても引続き、出来る限りの支援を行っていく所存でございます。
我々の子孫に美しい地球環境を残して行くことは、現代に生きる我々の重要な使命です。先般のロンドンサミットにおいても、「原子力発電は温室効果ガスの排出削減に貢献する。」とされており、地球環境問題の解決に重要な役割を果たすものと評価されました。
今や原子力発電は、世界の総発電量の約17パーセントの電力を供給するに至っており、我が国においても、その開発利用を積極的に推進していく方針でございます。特に、原子力を長期にわたり経済的かつ安定的なエネルギー源とするため、再処理施設計画の推進、高速増殖炉「もんじゅ」の建設等核燃料のリサイクル計画を推進しております。
さらに、人類の恒久的エネルギー源を確保するため、核融合の研究開発を着実に進めていく必要があります。特に1988年から国際原子力機関の支援の下で、日本、米国、EC、ソ連の4極が推進している国際熱核融合実験炉計画は極めて画期的な国際協力であり、我が国としては、まもなく開始される工学設計活動が成功裡に進められるよう、主体的かつ積極的に取り組んで参ります。
こうした原子力の開発利用を円滑に進めていく上で、一般の理解と協力を得ていくことが極めて重要でございます。このためには、各国各々の努力のみならず、国際原子力機関を中心とした協力が効果的であり、原子力に関するパブリック・アクセプタンスの面でも本機関の果たしてきた役割は極めて大きいと考え、これを積極的に支持いたしております。
(結び)
国際原子力機関は、創設以来、今日まで憲章に規定された崇高な目的をめざし核不拡散に貢献しつつ、原子力の平和利用を推進する国際機関として、その使命を遺憾なく発揮して参りました。
議長
今や、核不拡散体制、特に保障措置の整備・強化に関し、本機関の真価が問われようとしております。このような新たな挑戦に当たっては、加盟国の連携・協調の下に、本機関の重要な使命を達成すべく技術協力、安全性向上等とともに保障措置の整備・強化について、加盟国の一員として、更に一層積極的に貢献していくことをお約束して私の演説を終わります。ありがとうございました。
|
前頁 | 目次 | 次頁 |