前頁 |目次 |次頁

時の話題

欧米の原子力に係る研究開発の
動向調査報告書(要約)

昭和62年3月
原子力委員会欧米原子力研究開発調査団



 本調査団は、原子力開発利用長期計画の改定にあたり、欧米各国の原子力関連研究所及び政府関連機関を訪問し、基礎・基盤研究を中心とする原子力研究開発の課題、体制、資金・人員国際協力等の現状及び動向に関する調査を行った。主な調査結果は、以下のとおりである。

米国における調査結果

1 DOEの有する研究所には単一目的のものと多目的のものがあり、それがエネルギー研究所と国防関係研究所に分類される。エネルギー研究所は、
a)エネルギー技術に係わる応用研究と開発、及びそれを支える基礎研究の支援

b)物理学、生命科学、環境科学の基礎研究、ならびに必要な研究施設の整備と産学への共用、を使命としており、原子炉研究開発のみならず、化石エネルギー研究あるいは環境問題などエネルギー問題全体を広くカバーしている総合研究所である。その運営形態は政府所有の施設を民間や大学連合が運営する方式(GOCO方式)となっている。
2 DOEの国立研究所関係予算はエネルギー研究関係(物理、核融合、生物、エネルギー科学等)は一定、国防関係は増大、原子力、化石エネルギー、省エネ、再生可能エネルギー技術は減少傾向にある。

 これは資源の賦存量の大きさもさることながら、1)エネルギー供給の緩和傾向、2)民生分野における政府の役割の縮小方針、3)財政均衡法の成立という理由によるところも大きい。

3 この情勢の中で各国立研究の現状と将来に対する記載は以下のようである。
1)5~10年以内にエネルギー問題は再び高い優先順位を有するようになる

2)経済社会の発展に科学技術の振興が必須である

3)民間が有することのできない、大きなブレークスルーをもたらす基盤となる大型研究施設のニーズが増大する

4)エネルギー利用にともなう環境の変化を予測しその質を維持することは、引続き重要な国家目標であり続ける

5)米国企業の国際競争力を維持するには米国の得意とする先端技術分野の研究開発の強化が必要である

6)国家安全保障の観点から検証技術の進歩を図り、一方いかなる新兵器の登場にも驚かないですむように多方面にわたる探策研究の継続的展開が必要である。
4 各研究所の主な研究分野は
1)原子力エネルギー利用の現状維持のための研究(NRCの支援、放射性廃棄物の管理に係わる研究に重点)、2)次世代用原子炉の研究開発(新型炉等)3)核融合炉の研究開発、4)非核エネルギーの利用効率ならびに環境適合性の向上のための研究開発、5)高エネルギー物理、核物理、先端材料、先端プロセス、計算機科学、計測技術等のエネルギー技術の基盤を形成する諸科学の研究、6)気象及び遺伝子への影響を含む環境と生命の科学の研究、7)エネルギー貯蔵技術、粒子加速器の高性能化と応用など国防関連の探索研究、などであり、一般にいわゆる基礎研究、探索研究あるいは開発研究という段階に力が入れられているなど、長期的観点に立ち普遍性のある課題に挑戦している。

5 各研究所はMultiprogram研究所という名の示すようにこれらの分野の様々の研究プロジェクトを50程度のプログラムにまとめて運営している。組織の運営には多数のプログラムを有する先端研究開発組織運営の標準方式とされるマトリックスマネジメントが採用されている。

6 各研究所の運営経費と人員は合計3.2B$、45,000人で、そのうち、エネルギー関連の5研究所の合計は、902M$、約16,000人である(FY1986推定値)。各研究所は毎年DOEに5年計画を提出するが、この中にいくつかの新しい設備等の要求(イニシャチブ)を計上し、競争的にこれを実現している。

 研究所の将来はこの新規要求の実現にかかわっているので、各研究所は優れた提案ができるよう契約研究費の1~2%をexploratory research fundとして所内からの提案による予備的研究に投資している。従って国全体の研究計画も、そうした現場における予備的研究に基づく提案によって構成されており、研究所の主体性が強い。

7 各研究所は大型研究施設をusers facilitiesとして産学の利用に供している。計測系を整備した材料研究施設も積梅的に公開されている。これらの利用については、アカデミックな観点から優先順位を定め、成果の公表を条件に無料にしている。成果を私したい場合にはコストを支払うことになる。利用者の平均30~50%が外部からの利用でその80%が大学である。

8 先端技術の研究という面では我が国で言及されているものはすべていずれかの研究所或いは研究所群で研究されており、将来に競争力を維持すべき分野としては生物工学、電子工学、コンピュータソフト/ハードエネルギー、新素材、交通、農林業技術があげられている。なお、国防研究については各種の極端条件下における部品の特性データの入手と耐性の確保向上、高集積度の追求、ならびにこれらを実施していくシステムエンジニアリング能力、こうした環境条件の用意という面も含めて民生技術よりかなり先行している。

9 これらの研究所に産業界が研究を委託する例はEPRIによる以外はないようである。研究開発プログラムのうちの一部のプロジェクトが民間に委託される場合があってもそれは政府と当該民間の契約になる。また他省庁からの研究の受託については合わせて20%を超えないことという不文律があるようである。産業界への技術移転については研究結果の公表、人を介してのノウハウの移転、そして特許の利用というオーソドックスな方法が採用されており、その方向で促進の努力がなされつつあるようである。

10 国際化という点では、所長、部長が米国市民でない場合もあるほどに、我が国と比べてはるかに進んでいる。

西欧における調査結果

1 西欧班は、英・仏・西独の三カ国において4機関5研究所を訪問し、調査、討論を行った。原子力研究開発については、各国とも、原子力の平和利用を推進するために将来にわたって重要であると位置付け、これまでに培われた研究開発ポテンシャルを原子力分野のみならず非原子力分野をも含めて幅広く維持・活用しようとしており、各研究所の人員、予算も今後安定的に推移すると見られている。

2 今後の原子力研究開発の動向としては、軽水炉の高度化、高速増殖炉、高温ガス炉、再処理及び廃棄物処理処分、核融合等の研究開発が挙げられた。この内高速増殖炉については、仏国の実証炉Super Phenixが当調査団の帰国直後に全出力運転に達し、西独の原型炉のSNRもほぼ建設を完了して運転許可を待っている他、高温ガス炉についても、西独の原型炉THTRが全出力運転に達し1987年初頭からの商業運転を予定している等、いずれも開発の新段階に向おうとしている。核融合については、ECの共同プロジェクトJETが最近長時間のプラズマ閉込めに成功し、世界的注目を集める成果をあげている。

3 これらの大型プロジェクトに並んで、各国とも基礎・基盤研究を重視し、プロジェクトを特定しない横断的な研究開発を強化することによって、将来への新しい展開に備えようとする傾向が見られた。
4 英国のUKAEAでは、長期的な研究を安定して行うため、研究開発資金の一定割合を基礎・基盤研究にあてる方式をとっており、材料、環境、伝熱、レーザー、コンピュータ応用等の比較的応用目的の明確な研究に力を入れている。

5 仏国のCEAにおいては、短期的には応用に結びつかない基礎研究をも先端技術を生み出す力として重視し、総予算の約30%をこれにあてている。具体的な分野としては、素粒子物理、材料・物性物理、核物理、核融合、生体科学などがあり、加速器等を用いた大型の基礎研究も盛んに行われている。

6 西独における原子力研究所は、設頂目的からもその活動は原子力分野に限定されず幅広く学際的な研究を行ってきたが、最近とくに、原子力技術の蓄積をもとに、エレクトロニクス、ロボティクス、材料、環境などの分野へ展開を図ろうとしている。

7 原子力研究機関と産業界との関係については、各国の歴史、企業の規模・ポテンシャルを反映し、国ごとに異った形態をとってはいるが、いずれも、原子力分野において研究・技術ポテンシャルを蓄積し、それを幅広い分野に活用しようとしている。UKAEAでは、原子力開発の進展と技術力の蓄積に伴い、非原子力分野における研究をも実施すると共に、商業契約に基づく民間への技術協力を行っている。CEAでは、原子力分野での蓄積を利用しうる分野について、産業界との共同研究を含め、エレクトロニクス、バイオテクノロジー、ロボティクス、新素材等の分野で工業化のための応用研究を進めている。西独では、国家プロジェクトは、当初から産官の協議のもとに産業界との協力のもとに実施し、その成果を共有することによって円滑な相互の技術移転を図っている。

8 この他、大学との関係も一般に緊密で、教授・研究者の交流、若手学生研究生の受入れによる研究の活性化を行う他、契約による共同研究、施設の共同運営なども行われている。国際的にもJETのような国際プロジェクトによる協力を進めると共に、多数の客員研究員の交流を行い、研究の活性化を図っている。

(参考)

  1 調査団構成

米国調査団
第1班  向坊  隆  原子力委員会委員長代理
 内藤 奎爾  名古屋大学工学部教授
 今村  努  科学技術庁原子力局原子力調査室長
 丸岡 邦男  科学技術庁原子力局原子力調査室
 平野 正敦  動力炉・核燃料開発事業団企画部調査役
 武田  崇  日本原子力研究所ワシントン事務所長(現地合流)
第2班  近藤 駿介  東京大学工学部教授
 平岡 徹  日本原子力研究所企画室調査役
 八巻 秀雄  ㈱日立製作所研究開発部副技師長
 竹下 寿英  ㈱テクノバ調査研究部長

西欧調査団
 田畑 米穂  東京大学工学部教授
 藤家 洋一  東京工業大学原子炉工学研究所教授
 東 邦夫  京都大学工学部教授
 田中 正躬  科学技術庁原子力局技術振興課長
 依田 眞一  科学技術庁原子力局原子力調査室
 笹尾 信之  動力炉・核燃料開発事業団東海事業所技術開発部長
 河村  洋  日本原子力研究所企画室調査役
 滝下 敬章  電気事業連合会原子力部副部長

  2 日 程
米国調査団
 期 間(昭和61年11月23日~11月30日)

  第1班
11月23日(日) 成田発、ニューヨーク着
11月24日(月) ブルックヘブン国立研究所訪問 ニューヨーク発、ワシントン着
11月25日(火) 全米工学アカデミー表敬訪問 国立科学財団(NSF)訪問 エネルギー省(DOE)訪問
11月26日(水) ワシントン発、シカゴ着 アルゴンヌ国立研究所訪問
11月27日(木) シカゴ発、サンフランシスコ着
11月28日(金) 調査団打合せ
11月29日(土) サンフランシスコ発
11月30日(日) 成田着

  第2班
11月23日(日) 成田発、アルパカーキー着
11月24日(月) サンディア国立研究所訪問 アルバカーキー発、ノックスビル着
11月25日(火) オークリッジ国立研究所訪問 ノックスビル発、シカゴ着
    (11月26日(水)以降第1班に合流)

西欧調査団
 期間(昭和61年11月18日~11月29日)
11月18日(火) 成田発
11月19日(水) ロンドン着
11月20日(木) カラム研究所訪問
ハウエル研究所訪問
11月21日(金) エネルギー省訪問
英国原子力公社訪問
11月22日(土) ロンドン発、パリ着
11月23日(日)
11月24日(月) C.E.A.訪問
サクレー研究所訪問
11月25日(火) パリ発、カールスルーエ着
11月26日(水) カールスルーエ研究所訪問
ボン着
11月27日(木) ユーリッヒ研究所訪問
B.M.F.T.訪問
11月28日(金) ボン発
11月29日(土) 成田着


前頁 |目次 |次頁