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資料 昭和62年度原子力開発利用基本計画 昭和62年3月 我が国が原子力研究開発を開始してから30年余の歳月が経過し、その間、幅広い分野で原子力の研究開発利用が着実な進歩を遂げている。昭和61年においては我が国の総発電電力量の約3割が原子力発電により賄われるに至っており、安定した運転実績と世界的にも高い水準の信頼性を有する原子力発電は、今や国民生活及び産業活動に必要不可欠なエネルギー源として定着してきている。 このような状況の中で、昨年4月にソ連のチェルノブイル原子力発電所で発生した事故は、原子力の研究開発利用の推進に当たっては、安全の確保が大前提であることを改めて認識させるものであった。国としては、この事故を警鐘として受け止め、今後国内外の事故・故障等の教訓をも踏まえつつ、一層の安全確保に努めていくことが必要であり、安全研究の強力な推進を始めとする安全確保対策の積極的な推進を図るとともに、万一の事態に備えた防災体制の整備充実に努めることが重要である。 一方、昨今の原油価格の下落、円高の進行等が相まって、石油火力発電による発電原価は低下しており、このため、石油代替エネルギーの開発・導入の意義が低下するのではないかとの懸念が出されている。 しかしながら、中長期的には、石油需給は再び逼迫(ひっぱく)することが予想されており、社会経済の基盤であるエネルギーの対外依存度が主要先進国に比して依然として高い我が国としては、エネルギー供給構造の脆弱(ぜいじゃく)性克服のため、原子力を石油代替エネルギーの中核として、万全の安全確保のもと、その利用を積極的に進め、エネルギー安定供給の確保を図ることが極めて重要である。原子力発電のこのような特長を最大限に生かすためには、自主的な核燃料サイクルの早期確立が必要であり、現在青森県六ヶ所村において進められている商業用核燃料サイクル事業について、円滑な事業化が図られるよう諸施策を講ずるとともに、プルトニウムの有効利用を目指した新型動力炉の開発に一層の努力を払っていくことが必要である。 また、将来のエネルギー源として期待される核融合の研究開発、原子力船の研究開発等も計画に従い、着実に推進していく必要がある。さらに、原子力のエネルギー利用と並んで放射線利用についても、これまで国民生活の向上に大きく貢献しているところであるが、今後一層の利用分野の拡大及び利用技術の高度化を図っていく必要がある。 さらに、過去30年余に及ぶ研究開発努力により培ってきた我が国の原子力技術は、非常に広範囲な領域の技術体系に立脚しているのみならず、種々の先端技術から構成されており、高度な総合的技術体系としての性格を有している。今後、長期的観点から原子力技術の高度化を図るとともに、研究開発能力を維持・向上させてゆくためには、画期的な新技術を創出する可能性のある分野について基礎的段階から積極的に研究開発を進めていくことが重要である。 一方、国際的には、我が国の原子力利用は厳に平和目的に限るとの立場を堅持し、世界の核不拡散体制の確立に積極的に貢献していくとともに、より効果的な保障措置体制の整備等を図る必要がある。また、経済大国かつ技術先進国である我が国に対し、エネルギー問題の解決、世界の科学技術水準の向上等への貢献を求める国際的な要請が高まっており、今後先進国との協力をさらに強化していくとともに、研究交流等を通じ、開発途上国に対する協力を積極的に展開することが重要である。 このような原子力の研究開発利用をめぐる各般にわたる動向を踏まえ、以下に示す具体的施策を講じ、原子力の研究開発利用の総合的かつ計画的な推進を図るものとする。 なお、現在原子力開発利用長期計画の改訂作業が進められているところであり、同計画が策定された後はこれも踏まえて原子力の研究開発利用を一層積極的に推進していく必要がある。 1 安全確保対策の強化 原子力の研究開発利用を進めるに当たっては、これまでも厳重な規制と管理を実施し、安全の確保に万全を期してきたところであるが、昭和61年4月にソ連チェルノブイル原子力発電所で起きた事故は、原子力の安全確保の重要性を改めて認識させた。 この事故を警鐘として受け止め、内外の事故・故障の教訓も踏まえ、原子力の安全確保対策を更に充実し、安全性の一層の向上を図っていく必要がある。更に、原子力発電の進推、高速増殖炉原型炉の建設、新型転換炉実証炉の建設計画、再処理工場等核燃料サイクル施設の建設計画及び放射性廃棄物処理処分対策の進推、放射性物質の輸送の増大及び多様化等、今後における原子力研究開発利用の進展に対応していく必要がある。 (1)原子力安全規制行政の充実 原子力の安全確保のための規制については、行政庁において法令に基づき、厳正な安全規制を行っているが、今後とも、安全審査、運転管理監督体制等のより一層の充実・強化を図る。また、ソ連チェルノブイル原子力発電所の事故を踏まえ、内外の事故・故障に関する分析、評価の充実・強化を図るとともに、原子力先進国間の安全委員会レベルの協議、海外の専門家の参加する原子力安全に係るシンポジウムの開催等安全確保に関する国際協力の充実・強化を図る。更に、原子力委員会及び原子力安全委員会が決定した放射性廃棄物の処分に関する基本的な考え方に沿って、放射性廃棄物に関する安全規制を行うために関係法令の整備を引き続き行う。 原子力安全委員会においては、行政庁の行った設置許可等に係る安全審査についてダブルチェックを行うほか、設置許可等の後の各段階においても必要に応じ審議し、行政庁の行う安全規制の統一的評価を行い、原子力の安全確保に万全を期する。 原子力安全委員会の調査・審議に当たっては、原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会の調査・審議において、独自の安全解析を行うなど審査機能等の充実を図り、客観性・合理性の確保に努める。また、行政庁の行った原子力発電所等主要原子力施設設置許可等に係る審査についてダブルチェックを行う際には当該施設の安全性に関し、公開ヒアリング等を実施する。 安全規制に必要な各種安全審査指針、基準については、発電用原子炉、核燃料施設等に関し、原子炉立地審査指針、発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針、発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針等の見直しを引き続き行うとともに、低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分における安全規制上重要な各種基準値の設定等放射性廃棄物の処理処分に関する安全指針、基準等の整備を引き続き行う。また、これらの指針、基準の検討等に反映させるため、チェルノブイル原子力発電所事故を踏まえ、内外の事故・故障の分析、評価の充実・強化を図る。 放射性物質の輸送の増大、多様化に対処し、輸送の安全確保を図るため、放射性物質の輸送の安全評価等のための調査検討を進めるとともに、国際原子力機関(IAEA)放射性物質安全輸送規則の改訂に伴い、同規則に準拠している国内法令の見直しのための検討、プルトニウムの航空輸送に関する安全基準の検討を行う。 さらに、IAEAにおける原子炉の安全基準作成に関する検討、放射線防護の諸指針作成に関する検討及び放射性物質の安全輸送に関する検討並びに経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)における原子力施設安全規制国際協力事業への参加及び米国、フランス等との間で安全規制の情報交換の一層の充実に努め、我が国の安全審査指針、基準等の整備等安全規制の充実に資する。 なお、原子力全般に係る安全問題について海外の専門家の参加するシンポジウムを開催することとする。 また、放射性同位元素等の利用の拡大に対処して、より一層の安全確保に努める。 国際放射線防護委員会(ICRP)の新勧告の国内制度への取り入れについては、放射線審議会が昨年7月に意見具申を行ったところであるが、この意見具申を踏まえて所要の措置を講じる。 (2)安全研究の推進 安全規制の裏付けとなる科学技術的知見を蓄積し、各種安全審査指針・基準等の一層の整備・充実及び原子力施設の安全性の向上に資するため、軽水炉、新型炉、再処理施設等原子力施設の工学的安全研究、放射線障害防止に関する研究等の環境放射能安全研究及び放射性廃棄物安全研究を推進する。 ① 工学的安全研究(3)防災対策の充実・強化 原子力施設の万一の緊急時における防災対策を推進するため、引き続き緊急時連絡網、緊急時環境放射能監視体制、緊急医療体制及び防災活動資機材の整備を一層進める。また、緊急時迅速放射能影響予測システムの整備、緊急技術助言組織による助言の迅速・適確化等のためのシステムの整備、防災対策に係る知識の普及等防災対策の充実・強化を図る。 (4)環境放射能調査の充実・強化 ソ連チェルノブイル原子力発電所事故を踏まえ、原子力発電施設等の周辺における環境放射能の適確かつ広範な監視体制を整備・充実するとともに、放射性降下物の影響を調査し、国民の健康と安全を確保するため、環境放射能調査の充実を図る。 (5)原子力事業従事者の被ばく管理対策の充実 原子力事業従事者の被ばく管理については、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律、労働安全衛生法等に基づき、今後ともその徹底を図る。さらに、定期検査等における従事者の被ばく線量の低減化対策の充実を図る。 (6)核燃料サイクルの確立、新型炉の開発等に当たっての安全確保 使用済燃料の再処理等核燃料サイクルの確立、原子炉の廃止措置に関する技術開発の推進、高速増殖炉及び新型転換炉の開発、核融合の研究開発等の進展に即応して、必要な安全審査指針・基準等の検討及び安全性に関する研究開発を進める。 2 原子力発電の推進 近年、原子力発電の必要性及び安全性についての国民の認識は高まってはきているものの、立地地域における合意形成は必ずしも容易なことではなく、地域の固有事情を踏まえ、よりきめ細かい推進方策を総合的に展開し、合意形成の促進に努め、原子力発電を推進する必要がある。 また、現在の発電炉の主流を占める軽水炉の信頼性等の向上を図るため、技術の高度化等を推進する必要がある。以上の見地から次の施策を講じる。 (1)原子力発電所等の立地の促進 ① 広報活動等の推進(2)軽水炉技術の高度化等の推進 現在、建設、運転が進められている軽水炉について、信頼性、稼動率の向上、保守点検作業の効率化、作業員の被ばく低減化等の観点から、自主技術を基本として、技術の高度化を図り日本型軽水炉を確立するための調査を行うとともに、原子力発電検査技術の開発及び原子力発電施設の補修作業等を行うロボットの開発を行い、また、民間における原子力発電支援システムの開発の助成を行う。 また、軽水炉の安全性・信頼性を実証するため、大型再冠水効果実証試験、配管信頼性実証試験、耐震信頼性実証試験、原子力発電施設安全性実証解析等を実施する。さらに、作業員の被ばく低減化のための技術開発を行うとともに、高性能燃料確証試験、高機能炉心に関する技術調査、高燃焼度燃料確証試験をその実用化のため引き続き実施する。さらに、軽水炉の長寿命化及び稼働率向上のための技術開発、原子力発電所内における使用済燃料貯蔵対策の調査等を実施し、その実用化の促進を図るとともに、次世代の軽水炉に適用しうる高度安全システムの調査、実用原子力発電所のヒューマンファクター関連技術開発を実施する。 このほか、実用発電用原子炉の廃止の時期に備えて日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)をモデルとして解体実施試験を行うなど原子炉の解体の技術開発を推進する。また、実用発電用原子炉の廃止措置に使用される設備について確証試験を行うとともに、同措置に伴って生ずる放射性廃棄物の処理処分方策に係る調査を行う。また、原子力発電所の新立地技術として高耐震構造立地技術の確証試験を実施する。 3 核燃料サイクルの確立 我が国の自主的核燃料サイクルを早期に確立するため、海外ウラン調査探鉱活動の推進、ウラン濃縮国産化対策の推進、国内再処理事業の確立のための施策の推進、放射性廃棄物の処理処分対策の推進等を行う。 (1)ウラン資源確保策の推進 動力炉・核燃料開発事業団によるオーストラリア、カナダ、ニジェール等における単独または諸外国の機関と共同で行う海外ウラン調査探鉱活動を重点的に実施するとともに、成果の得られたプロジェクトについては、民間への引き継ぎ方策の具体化を図る。また、金属鉱業事業団の出融資制度等により、民間企業による海外ウラン探鉱開発活動を助成する。国内探鉱については、動力炉・核燃料開発事業団で、東濃地区の謡坂鉱床の精密試錘等を行う。 また、ウラン資源開発に関連した研究開発として、動力炉・核燃料開発事業団において、ウラン鉱石から六フッ化ウランまでの製錬転換技術開発のための製錬・転換パイロットプラントについて、昭和62年度中にその成果を取りまとめる。さらに、転換の事業化に関する調査を行う。 動力炉・核燃料開発事業団において、低濃度ウランの回収技術に関する研究を行う。また、金属鉱業事業において、海水ウラン回収技術確証調査を引き続き行う。 (2)ウラン濃縮国産化対策の推進 遠心分離法によるウラン濃縮の国産化を図るため、動力炉・核燃料開発事業団においてウラン濃縮パイロットプラントの運転試験を継続するとともに、官民協力の下に、岡山県の人形峠事業所内に建設を進めているウラン濃縮原型プラントについては、施設の建設を継続して行い、一部運転を開始する。また、在来材料遠心分離機の信頼性試験、新素材高性能遠心分離機の研究開発等を民間との共同研究により進める。 さらに、民間によるウラン濃縮商用プラントの建設計画を推進するほか、ウラン濃縮の事業化に関する調査を行い、また劣化ウランの再転換貯蔵システム技術の確証調査に着手するとともに、民間で行うウラン濃縮遠心分離機製造技術の確立及び耐振動衝撃システム開発に対して助成を行う。 また、有望な将来技術として期待されているレーザー法ウラン濃縮の技術開発については、早期に技術的見通しを得るよう、積極的に進推することとし、原子レーザー法に関しては、データベースの整備を行うとともに、民間が研究組合方式で行う機器開発に対する助成を行い、分子レーザー法に関しては、理化学研究所において原理実証試験を行う。さらに、化学法ウラン濃縮技術については、民間企業によるシステム開発に対して引き続き助成を行う。 (3)使用済燃料の再処理並びにプルトニウム及び回収 ウランの利用の推進 ① 再処理技術の実証と確立を図るため、動力炉・核燃料開発事業団において、東海再処理工場及びプルトニウム転換施設の操業を行うとともに、高放射性固体廃棄物貯蔵庫の増設等所要の施設整備を行う。(4)放射性廃棄物の処理処分対策の推進 低レベル放射性廃棄物については、原子力発電の進展に伴い、今後発生量の増大が予想されているところであり、その適正な処理処分のための技術開発を推進するとともに、発生から処理処分に至る効率的な全体システムの確立に資する調査等を進める。 処分のうち陸地処分については、引き続き日本原子力研究所における放射性核種の地表面移行試験、環境シミュレーション試験等の安全評価に関する試験研究を推進するとともに、処分技術に関する調査研究等を進める。また、民間による低レベル放射性廃棄物最終貯蔵施設の建設計画を推進するとともに、安全性実証試験を継続する。また、最終貯蔵技術の開発として新型容器、新型固化体等の開発及び放射性廃棄物処分の安全解析コードの整備を進める。さらに、濃度上限値を上回る低レベル放射性廃棄物の処分技術の開発等に着手する。 海洋処分については、関係諸国の懸念を無視して強行はしないとの方針の下に、慎重に対処する。 極低レベル廃棄物については、合理的処分に係る安全性実証試験を進めるとともに、原子力施設の解体等から発生する廃棄物等を用いた再利用技術開発に着手する。 高レベル放射性廃棄物の処理処分の研究開発は、動力炉・核燃料開発事業団を中心に進める。動力炉・核燃料開発事業団においては、ガラス固化処理の関連技術開発及び固化プラントの建設を行うとともに、貯蔵プラント、深地層試験場等の概念設計等を進めるほか、貯蔵工学センターに係る調査により得られたデータの解析・評価を行うとともに、同センター計画についての地元の理解を深めるための広報活動を行う。 さらに、地層処分に関し、地層に関する調査研究、人工バリア、天然バリア、地層処分システム、サイト特性調査技術等に関する研究開発、処分予定地の選定に資するための広域調査等を進める。日本原子力研究所においては、処理処分に関する安全性評価試験等を引き続き実施する。また、国立試験研究機関等においても、処理処分に関する基礎的調査研究を実施する。さらに、国際協力の分野においては、日豪協力によるシンロック固化処理の研究及び日加協力による地層処分の研究等を進めるほか、日豪協力によるウラン鉱床を用いた天然バリアの隔離機能等の評価研究に着手する。 さらに、動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所において高レベル放射性廃液の群分離、長寿命核種の消滅処理等の技術開発を推進する。 また、アルファ放射性廃棄物の処理処分に関する調査を行うとともに、動力炉・核燃料開発事業団において、プルトニウム廃棄物処理施設の建設を完了し、運転を開始する。 TRU廃棄物の処理処分については、動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所において、固化技術の開発を進めるとともに、天然バリア中における核種移行に関する研究等の処分技術の開発を行う。 使用済燃料の海外再処理委託に伴う返還廃棄物に関しては、その技術仕様についての検討を行うとともに、我が国への受入れが円滑に行えるよう、受入れ・貯蔵システムに関する開発調査、受入れ検査機器の開発及び仕様承認に関する調査を行うほか、動力炉・核燃料開発事業団において固化体物性、耐震性等の試験を行う。さらに、放射性廃棄物輸送容器等の安全性実証試験を行う。 4 新型動力炉の開発 核燃料の有効利用を目指す新型動力炉である高速増殖炉及び新型転換炉の開発を推進する。 (1)高速増殖炉 高速増殖炉の開発については、動力炉・核燃料開発事業団において、実験炉「常陽」について熱出力10万kWの照射用炉心での定格運転を行い燃料、材料の照射試験を実施する。同原型炉「もんじゅ」については、昭和67年度臨界を目途として、敷地造成工事等の準備工事及び建物の建設工事を進めるほか、機器の設計・製作・据付を行うとともに、機器システム、燃料、材料、安全性等の研究開発を進める。また、同実証炉の開発については電気事業者及び動力炉・核燃料開発事業団等が相互に連絡・調整を取りながらメーカーの協力を得て進める。更に、同実証炉の大型構造設計に関する技術確証試験に着手する。 (2)新型転換炉 新型転換炉原型炉「ふげん」については、連続運転を実施して、実証炉設計等へ反映するための運転経験及びデータの蓄積と評価を進めるほか、供用期間中検査装置の開発等の運転に関連する研究開発を進める。 同実証炉については、昭和71年度運開を目途に建設、運転の実施主体である電源開発株式会社において、用地取得等を進め、動力炉・核燃料開発事業団においては、プルトニウム燃料の改良・加工に関連する研究開発を進める。 また、同実証炉の安全解析コードの整備を進めるとともに建設、運転に必要な技術確証試験等に着手する。 (3)その他 動力炉・核燃料開発事業団において高速増殖炉「常陽」及び新型転換炉「ふげん」に使用するプルトニウム燃料の開発のため、引き続き、プルトニウム燃料製造施設の操業を行う。また、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の燃料を製造する高速増殖炉燃料製造技術開発施設の建設を進めるとともに、試運転を行う。さらに、新型転換炉実証炉の燃料を製造する新型転換炉実証炉燃料製造技術開発施設の建設を進める。 また、新型動力炉原型炉の各種機器・機材等の寿命信頼性等に関する実証試験及び安全性に関する実証解析等を進める。 5 核融合の研究 核融合については、大学における各種研究の進展を総合的に考慮し、国際協力の推進にも留意しつつ、日本原子力研究所におけるトカマク方式による大規模な研究開発、国立試験研究機関による研究等を計画的に推進する。 日本原子力研究所においては、昭和62年末の臨界プラズマ条件達成を目指して臨界プラズマ試験装置(JT-60)の加熱実験を行う。 また、高性能トカマク開発試験装置(JFT-2M)による非円形断面トーラスプラズマの研究を行うとともに、プラズマ加熱の研究開発、核融合炉心工学技術の研究開発、超電導磁石技術をはじめとする炉工学技術の研究開発等を進める。 特に、核融合燃料であるトリチウムについては、トリチウムプロセス研究棟の整備等を行うとともに、大量トリチウム取扱技術等の研究開発を進める。 電子技術総合研究所においては、高ベータ・プラズマの研究のため逆磁場ピンチ型核融合装置(TPE-1RM・15)による実験等を進める。また、金属材料技術研究所及び名古屋工業技術試験所においては、材料の基礎的研究を行う。 さらに、米国のダブレット-IIIを使った共同実験、核融合材料の共同照射研究、トリチウムの大量取扱技術の取得を目指したトリチウムシステムの試験施設(TSTA)計画等の日米間の共同研究等の二国間協力並びに、IAEAの国際次期トカマク炉(INTOR)計画、国際エネルギー機関(IEA)の大型超電導磁石計画(LCT計画)及び米国のTFTR、欧州共同体(EC)のJETと我が国のJT-60の間での大型トカマク装置の研究協力等の多国間協力を推進するとともに、新たにECとの研究協力を開始するなど国際協力を展開し、我が国の核融合研究開発の効率的推進に資することとする。 6 原子力船の研究開発 日本原子力研究所において、原子力船「むつ」の維持、管理を行うとともに、関根浜地区における新定係港の建設を引き続き進める。また、将来の舶用炉の開発のための研究についても引き続き行うものとする。 また、船舶技術研究所においても、原子力船に関する基礎的研究等を進める。 7 放射線利用の推進 放射線利用については、医療分野における各種疾病の診断、サイクロトロンによるがん治療等に関する研究、工業分野における放射線化学の研究開発、農林水産分野における放射線育種の研究等を推進する。 このため、放射線医学総合研究所において、サイクロトロンを用いて速中性子線及び陽子線によるがん治療研究を引き続き進めるとともに、がん治療成績の著しい向上が期待される重粒子線の医学利用に関する調査研究を実施し、重粒子線がん治療装置の詳細設計及び製作等を推進する。また、ポジトロン核種による診断に関する研究開発等、短寿命ラジオ・アイソトープの生産・利用の技術開発を推進する。 また、国立衛生試験所、国立病院等においても、放射性医薬品に関する研究、がん治療研究等を推進する。 日本原子力研究所においては、放射線化学関係の研究、ラジオ・アイソトープの生産及び利用を推進するとともに、種々のイオン粒子線を重照射することにより、耐放射線極限材料、機能材料、ライフサイエンス等の分野において画期的な新材料の開発、新技術の創出に寄与できる放射線高度利用研究において、イオン照射設備の整備等に着手する。 さらに、理化学研究所において、重イオン科学研究等を進めるとともに、国立試験研究機関においては、電子技術総合研究所における放射線標準に関する研究、国立病院等における放射性同位元素を用いた疾病の診断に関する研究、農林水産省各試験場における放射線による品種改良、トレーサー利用による生理生態研究等を行うほか、国立衛生試験所における食品照射に関する研究等を実施するなど、放射線利用に関する研究を推進する。 さらに、鹿児島県奄美諸島及び沖縄県下の諸島における放射線照射によるウリミバエ防除事業に対して必要な助成を行う。 8 原子力開発利用の基盤強化 (1)先端的・基盤的研究等の推進 我が国独自の原子力技術の高度化と新たな技術革新を図るため、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、理化学研究所等において、新たに先端レーザー技術、知的機能を有する原子力プラント管理システム、材料の設計・創出技術及び高レベル放射性廃棄物の有効利用技術に関する研究に着手する。 日本原子力研究所においては、高温ガス炉技術基盤の確立及びその高度化並びに高温に関する基礎研究のための研究施設である高温工学試験研究炉について、設計研究に着手するとともに、大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)等を活用して、高温炉の関連研究を行う。また、汎用研究炉(JRR-3)の改造を進めるとともに材料試験炉等による各種燃料・材料の照射試験を引き続き実施する。 さらに、タンデム型重イオン加速器の一層の性能向上を図るとともに、材料の照射損傷、核データ等の研究等を行う。高転換軽水炉については、炉物理・熱水力の研究を行い、炉の概念について検討を行う。理化学研究所においては、重イオン科学用加速器の前段加速器である線型加速器を用いて重イオンに関する各種研究を引き続き進めるとともに、重イオン科学用加速器の後段加速器であるリングサイクロトロンの周辺設備の建設を進め、一部実験を行う。 このほか、国立試験研究機関においても、核融合、安全研究、放射線利用等の分野で基礎研究を実施する。 (2)科学技術者等の養成訓練 原子力関係科学技術者の養成訓練については、大学に期待するほか、海外に留学生として派遣し、その資質向上に努める。また、日本原子力研究所のラジオアイソトープ・原子炉研修所及び放射線医学総合研究所において養成訓練を引き続き実施する。 また、引き続き、原子力発電所等の運転員の長期養成計画、資格制度等の運用により運転員の資質向上を図る。 9 国際協力の推進 (1)多国間協議としては、核不拡散を担保しつつ原子力資材等の供給を円滑に行うための協議等が、IAEAを中心として進められており、我が国としても他の原子力先進国と協調を図りつつ、積極的にこれに参加していく。また、二国間協議としては、日米間で、再処理等に関する包括的な同意の仕組みを導入した新たな協力協定の締結に必要な作業が進められており、今後可及的速やかに署名すべく努力する。また、日中間においては、昭和61年7月に発効した日中原子力協力協定の下、今後、協力の一層の拡充を図る。 (2)また、原子炉の安全研究協力、核融合、新型動力炉の開発、高温炉の研究開発等の各分野において、欧米先進国との二国間協力及びIAEA、OECD/NEA等を通じた多国間協力を進める。 (3)開発途上国との関係については、IAEA技術協力計画及び「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練に関する地域協力協定」(RCA)に基づくRI放射線利用分野の協力等を進めるほか、各国との原子力関係要人及び研究者の交流の促進の強化等を進めるとともに、昭和62年度より新たに開発途上国原子力関係管理者の研修を開始するなど核不拡散に配慮しつつ、これら諸国との関係強化を図る。 10 保証措置及び核物質防護対策の強化 (1)保障措置 核兵器の不拡散に関する条約(NPT)に基づく保障措置のより有効な実施を図るため、核物質に関する情報処理、査察、試料の分析等の国内保障措置業務を一層充実強化するとともに、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、核物質管理センター等において、保障措置技術の改良に関する研究開発を積極的に推進するほか、対IAEA保障措置支援計画(JASPAS)の推進を始めとするIAEA等との国際共同研究計画への参加や、米国、西ドイツ等との保障措置技術開発のための協力を積極的に推進することを通じ、より効果的、効率的な保障措置体制の確立を図る。また、民間再処理施設の建設の円滑化に資するため、IAEAにおける大型再処理施設保障措置適用性評価に関する検討に対し、必要な支援を行う。 このほか、最近の国際動向を踏まえ、核物質等の新たな国籍別管理システムの開発に着手する。 (2)核物質防護 核物質防護については、原子力発電所、日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団の施設を始めとする各種原子力施設における防護措置及び輸送に係る防護措置の一層の充実を図るとともに、関連調査研究等を行う。さらに、核物質防護条約の発効等核物質防護に関する国際的な動向にも留意しつつ、関係法令に関する検討を行うなど国内核物質防護体制の一層の整備・充実を進める。 |
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