前頁 | 目次 | 次頁 |
今後の原子力船研究開発のあり方について 昭和59年1月24日
原子力委員会
当委員会は、去る11月29日当委員会あて提出された原子力船懇談会報告書を基に、今後の我が国の原子力船研究開発のあり方について慎重に審議を重ねた結果、今後の我が国の原子力船研究開発のあり方を次のように定めることとする。 1. 原子力船研究開発の必要性
原子力船の実用化の時期は、今日では21世紀に入ってからとみられるが、原子力船はその舶用炉技術の向上によって、化石燃料による在来船では困難と見込まれる商船の高速化、長期運航等の実現の可能性があり、また、海運分野のエネルギー供給の多様化にも貢献することが期待される。従って、長い目で我が国の将来を考える時、原子力船に関する技術を保有しておくことは、重要なことであると考える。このような見地から我が国としては、今後、財政事情等を考慮しつつ、原子力船研究開発を段階的、着実に進め、今世紀中を目途に、その後の実用化に適切に対応し得る程度にまで原子力船の技術、知見、経験等の蓄積を図っておくべきであると考える。 2. 原子力船研究開発の進め方
(1) 原子力船「むつ」の実験・運航
国産技術によって設計、建造された「むつ」は、遺憾ながら未だその所期の目的を達していないが、その開発を継続し、海上における実験・運航による諸データを得ることは、我が国の原子力船研究開発にとって極めて重要であり、1に述べた原子力船の技術等の蓄積のための最も有力な手段であると考える。 今後の「むつ」開発の進め方としては、「むつ」が10年近くにわたり原子炉を稼動させていないこともあり、試験を再開し、長期的に実験・運航を進めていくにあたっては、慎重な試験計画の下で、十分な点検、整備を図る必要があり、技術的に万全の体制で臨むことが重要である。その上で試験の実施は安全性に配慮しながら、段階的に進めていくことが必要である。 また、「むつ」の開発を継続するためには、昭和49年以来の懸案である定係港の確保が必要である。このため、政府において青森県むつ市関根浜地区に新定係港を建設するための準備が進められているが、過去の経緯を考慮すれば、関根浜新定係港の建設は、誠にやむを得ないものと考える。 新定係港建設に当たって当面最も重要なことは、今後の「むつ」の出力上昇試験、実験航海、最終的な廃船に至るまでの内容等、同港において計画されている「むつ」の全体的活動を具体的に早期に地元関係者に説明し、将来、原子力船の定係港としての機能が十分に発揮できるよう、基本的な理解と合意を得ておくことである。なお、新定係港については、極力経費の節減に努めるとともに、地元の物流の推移等を踏まえ、可能な限り多目的に利用することを検討することが望ましい。 一方、「むつ」は関根浜新定係港の供用開始までの間大湊港に停泊することとされているが、大湊港停泊期間中においても、経費の効率的使用に留意しつつ、でき得る限り「むつ」開発の成果を挙げるよう努力すべきである。 (2) 舶用炉の改良研究
舶用炉の経済性、信頼性等の向上を目指して行う舶用炉の改良研究は将来の原子力船研究開発にとって重要であり、今後着実に進めていくべきである。また、同研究は、「むつ」の成果が得られなければ本格的には進められないものであり、この点に十分留意しつつ研究を進めることが肝要である。 (参考)
下記の事項についての原子力委員会における検討内容は以下のとおりである。 1. 原子力船「むつ」開発の必要性
(原子力船の実用化の見通し)
① 原子力船の実用化時期は最近における国際的な石油需給の緩和等により、更に遠のいたとみられるが、中長期的には石油需給が逼迫の傾向にあることから、石油価格は1990年代には上昇する可能性が高いとの見方が一般的であり、このような石油価格の上昇傾向が続けば、舶用炉プラントコストの低減化のための一層の努力と相まって、21世紀の初頭には原子力船の実用化のための経済環境が整うものと考えられる。 従って、海洋国家、貿易国家である我が国が、将来の原子力船の実用化時期に適切に対処し得るようその技術を保有しておくことは、将来の我が国の安定的発展を図る上で重要なことであると考える。 (原子力船「むつ」開発の意義)
② 原子力船の技術を保有するに当たってどのように研究開発を進めていくかについては、欧米先進国においては、実際に原子力船を建造、運航し、それらの成果の上に立って次の段階の舶用炉の設計を終了するに至っていること、実船による海上での種々の運航データの活用なくして実用化につながる舶用炉の改良研究は進展し得ないこと等から、国産技術で設計、建造され、既に修理を完了し、実験再開が可能な状態にある原子力船「むつ」の開発を継続することが必要であると考える。 (「むつ」廃船論に関する検討)
③ 一部に「むつ」の原子炉は旧式化しており、実験をしても意味がないのではないかとの指摘があるが、「むつ」の原子炉は船舶用原子炉の基本型である加圧水型軽水炉であり、既に長崎県佐世保港において、最新の知見に基づき、原子炉部分の遮蔽改修、安全性総点検・補修工事も終了しており、また、維持管理も適切に行われているので、実験を再開することにより十分有益なデータが得られるものと判断される。 一方、「むつ」を廃船とし、技術導入や陸上での振動台による模擬実験により代替すべしとの考えがあるが、技術導入や情報購入によっては真の技術が身につくかは疑問であり、また、陸上での振動台による模擬実験については、海上での振動、動揺、衝撃、負荷変動等を模擬し得る三次元振動台を開発、製作し、その振動台上で原子炉の運転実験を行うことは、内外の技術の実態からみて、事実上不可能である。 (結論)
④ 原子力船技術のように実用化までに長年月を要する技術の開発を行い、これを自らのものとして定着化させるためには、やはり基礎的段階から実船による実験運航等を含め、自主的に、一貫した研究開発を行う必要がある。 また、今後の「むつ」の開発については、現下の厳しい財政事情に鑑み、極力経費の節減に努める等効率的な推進に留意すべきである。 2. 関根浜新定係港の建設の必要性
(関根浜新定係港選定までの経緯)
① 「むつ」が昭和49年に放射線漏れを起こして以来の最大の懸案は定係港の確保である。 この問題については、昭和55年8月、科学技術庁が「むつ」の新定係港として大湊港を再母港化することについて青森側関係者(県、むつ市及び青森県漁連)に協力要請したが、地元の同意を得られず、その話し合いの過程でむつ市関根浜地区に新定係港を建設することが合意され、昭和57年8月、青森側関係者との間で「原子力船「むつ」の新定係港建設及び大湊港への入港等に関する協定書」(以下、「五者協定」という。)が締結された。 (大湊港再母港化論に関する検討)
② 一部に議論のある大湊港の再母港化については、技術的見地からは可能であると考えられるが、①のような国と地元との経緯を考慮すれば、現実問題として必要な試験を実施し、廃船まで行い得る母港とすることについて、地元の同意が得られる見通しは殆どないものと考えられる。 従って、関根浜新定係港を建設することは、これまでの経緯からみて、誠にやむを得ないものと考える。 なお、付言すれば、五者協定の当事者たる国が、自ら協定を履行しないということになれば、地元に、政府に対する不信感を醸成する可能性があり、このことが原子力開発利用全体に対し大きな悪影響を及ぼすことが懸念される。 3. 「むつ」廃船の実行可能性
① 「むつ」の廃船の実行可能性については、「むつ」がこれまでのところ殆ど運転されていないため、内蔵放射能量も少なく、現時点で廃船にすることは、技術的には大きな困難性はないものと考えられる。 ② しかしながら、「むつ」は、佐世保港では核封印による修理、現在の大湊港では原子炉凍結状態での停泊というような、厳しい制約条件が付された事情からみて、現状で国内において、廃船のためだけに「むつ」を受け入れてくれる場所を確保できる見通しは殆どないものと考えられる。 既に修理の完了した「むつ」については、今後諸試験、実験運航を行い、その後関根浜新定係港において廃船とすることによって、諸試験から廃船に至るまでの一貫したデータを取得することが、将来の原子力船研究開発にとって最も有効であると考える。 |
前頁 | 目次 | 次頁 |