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IAEA原子力経験国際会議について


原子力局
調査国際協力課

 原子力経験国際会議はIAEA設立25周年を契機に、原子力平和利用30年の開発の歴史を振り返り、今後の原子力開発利用の方向性を探ることを目的に、昭和57年9月13日からオーストリア国ウィーン(宮殿)で開催され、9月17日、エクランド前IAEA事務局長の基調報告をもって閉会した。その概要は次の通りである。

1. 参加国・機関及び参加者数

 本会議参加者は最終的に61ヶ国、18国際機関等から1,000人を超える数となった(その他報道関係者200人弱)。この内、参加者の多かった国は、仏、米、西独、日、英、ソ連、イタリア、スウェーデン、フィンランド、加等である。国際機関としては、UN、WHO、NEA、IEA、ICRP、ISO、CEC、アラブリーグ、OPEC、ラ米エネルギー機関等の機関の参加があった。

2. 会議の構成と主題

 (1) 会議は11の全体セッション、17の技術セッションが3会場で同時に開催される形で進行し、これらセッションの中でパネル討論会が7回行われた。

 (2) 討議主題としては、各国の原子力発電の経験と計画、発電コスト、ウラン資源、濃縮・加工、使用済燃料の貯蔵・輸送・再処理等、工学的安全性、被曝評価・廃棄物処理処分の環境安全性、保障措置、安全規制、国際協力などがとりあげられた。

3. 会議における討議事項の主要点は次の通りであった。

 (1) 原子力発電は世界のエネルギーのほぼ10%を占めるまでになり、「産業」としての一分野を築くようになった。しかしこの数値はIAEAによる10年前の見通しを下回っている。

 (2) 1981年における主要国の発電量の中で、原子力発電の占める割合は、仏40%、スウェーデン36%、ベルギー22%、日本17%、西独15%、米12%となっており、仏は、1990年には60〜70%に及ぶとの見通しが明らかにされた。

 (3) 原子力発電に関する経験は運用に供された原子炉が250基、延べ、3,000原子炉・年(平均運転期間12年)に達し、原子力発電は火力発電と十分競争できる段階となっている。しかし、一方では安全性の向上のための設備費は増大している。

 (4) 原子力発電にはいくつかの問題、即ち、世界経済の沈滞と建設費が膨大化していることとその高騰(技術的高度な点による)がみられるが、他面、他のエネルギーも同様にコストの上昇がみられる。更に、原子炉の安全性と廃棄物の処分に対する不安、更には核拡散に対する懸念も原子力の発展の上で克服しなければならない課題である。

 (5) 原子力発電の推進について、カナダより、CANDU炉の特長が強調され、他方、ソ連より発電炉の標準化が報告された。更に高速炉の重要性が強調されるとともに、8基の実証炉の建設が報告された。

 (6) 工学的安全性に関連し、TMI−2についてのパネル討論会が設けられ、ソース・ターム(特にヨウ素放出量の推定)の重要性が指摘された。確率的安全評価により、原子炉設計の弱点を明確にさせ、その結果を設計に反映させることが指摘された。安全性の向上のためには、設計の標準化が重要であるとの指摘があった。

 また、工学的安全性の確保と共に、運転員の資質向上の重要性が強調された。

 (7) 国際原子力異常時報告システム(PRIS)の構想がIAEAから報告され、更に隣接諸国間援助の必要性と現状報告があった。

 (8) ウラン供給(濃縮ウランを含む)については、これまでの探査・開発努力と市場停滞(予想を下回ること)に鑑み、需要を上回る状況にあることが報告された。なお、ウラン濃縮技術の開発としては、遠心分離技術開発が大きな発展を示したこと、化学濃縮法(仏CHEMEX)等の開発が順調に行われていることが報告されていた。

 (9) 使用済燃料管理については、バックエンドとしての再処理、即ち貯蔵・輸送・再処理で重要な経験が得られていることが報告されている。この内、貯蔵については、湿式貯蔵が事業所の中で大半をしめていること、事業者は増大する貯蔵のニーズに備え、貯蔵能力の増強を求められていること、今世紀末までには、技術開発が進み乾式貯蔵も運用に供されるであろうことが指摘されている。輸送については、その必要性から、輸送産業が育成されていることとともに、国際的なフレームワーク(輸送規制)に基づき輸送が行われていることが指摘されている。

 再処理そのものについては、ピューレックス法が確立されてきていること、再処理の環境へのインパクトは無視できるが、パブリックアクセプタンスの取得に心がける必要があると指摘されている。

 (10) 廃棄物の処理処分の内、低・中レベル廃棄物については廃棄物処理の技術が工業的規模で確立されていること、減容性の向上についての日本、スウェーデン、フランス等の報告等に関し、討議が行われ、一方、処分については、スウェーデンの深海底基盤中の処分場に関する報告が行われるとともに、地中処分における安全評価に関し、安全評価の重要性が指摘されている。

 (11) また、高レベル廃棄物の処理については、仏国における固化システムの工業規模での整備及びプロセスの輸出について関心が向けられた。また、これらの処分については、各国とも研究段階にあるといわれており、特に処分場立地計画、研究開発、安全評価等につき報告が行われている。

 (12) 環境問題については、核燃料管理の向上により、環境放出方策(放出放射能の低減等)が我が国より報告され注目をあびていた。環境放出放射能の低下に努めてきた国としては、カナダ、西独、ソ連、英国等の6ヶ国の名前があげられている。

 (13) 保障措置については、IAEAの置かれている資金的制約の下では、査察活動は保障措置上機微な施設に重点を置いていくことになろうことや現在SAGSIにおいて、保障措置戦略の有効性の確保と新しい戦略の検討が行われていることが指摘されるとともに、国家計量管理システムをベースにしたIAEA保障措置制度は国際協力という形で、より有効な保障措置を実施することとなるとの日本の論文が関心をもってとりあげられた。

 (14) 国際協力については、1975年に発効した西独・ブラジル間の協力協定がブラジルの原子力開発利用に与えた効果について参加者の関心が向けられていた。

 (15) 将来(2,000年前半)における世界のエネルギー需要に対し、エネルギー供給は原子力をぬきにしては考えられないこと、しかしながらこのためには、経済性のあるかつ安全性の高い技術を確立する必要がありあわせて廃棄物処分と廃施設(廃炉)対策の解決を図ることが必要であることが指摘された。


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