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日豪原子力協定の改正


調査国際協力課

Ⅰ 経緯

 日豪間では昭和47年7月に現行の日豪原子力協定を締結し、これに基づき豪州産ウランの輸入が行われてきた。しかるところ、昭和49年5月に行われたインドの核実験を契機として核拡散を防止するための規制を強化しようとする気運が国際的に高まり、昭和49年12月及び昭和52年12月にはカナダのウラン輸出政策、昭和52年4月には米国カーター大統領の核不拡散政策が発表された。このような動向の中でウラン資源国である豪州では昭和52年5月フレーザー首相がウラン輸出に際し核拡散防止のための規制を強化する政策(新保障措置政策)を発表した。この政策の骨子は次の通りである。

1. 豪州産ウランの輸入国は、
(1) 非核兵器国の場合は、NPT加盟国であること

(2) 核兵器国の場合は、豪州産ウランにIAEAの保障措置を適用し軍事目的及び核爆発目的に用いないことを保証することが必要である。

2. 今後締結される契約に基づき豪州からウランを供給するに当たっては、豪州と輸入先国との間で次の要件を満たす二国間協定が締結されていることを条件とする。

(ⅰ) 輸入先国において現在適用されている保障措置が適用されなくなった場合でも、輸入先国に存在する核物質に対し引き続き保障措置の適用が確保されること。

(ⅱ) 豪州から供給された核物質の第三国移転については、豪州政府による事前の同意を必要とすること。

(ⅲ) 豪州から供給されたウランを20%を超えて濃縮する場合は豪州政府による事前の同意を必要とすること。

(ⅳ) 豪州から供給された核物質を再処理する場合は、豪州政府による事前の同意を必要とすること。

(ⅴ) 輸入先国から核物質防護(physicial security)に関する保証を得ること。

 豪州政府は、この政策の具体化のため、同年11月、我が国を含む関係10数カ国に対しモデル協定案を提示し協定改正交渉、締結交渉の開始を申し入れた。日豪間では昭和53年3月に協定改正交渉の開始が合意され、同年8月に第1回交渉が行われた。その後昭和54年7月までにさらに2回の交渉が行われたが、その後は国際核燃料サイクル評価(INFCE)における諸検討結果を反映させるために一年余にわたり交渉が中断された。

 INFCE後は昭和55年8月に交渉が再開され、再処理、第三国移転に関し、INFCEの結果を考慮しつつ、長期的かつ予見可能な規制の方法について検討が始められた。この点に関し、豪州では同年11月ストリート外相が再処理の規制を長期的かつ予見可能なものとする政策を発表し、これを受け同年12月、我が国に対し具体的スキームの提案があった。以後はこのスキーム(長期的包括的事前同意方式)を条約中にとりこんでいくことが焦点となり以前に比べ頻繁に協議が行われたが、長期的包括的事前同意方式を二国間の合意文書に表現するのは我が国のみならず豪州にとっても初めてのことであり、正確な表現を期すための検討に時間を要した。

 このように精力的な協議がつづけられた結果、本年1月改正協定のテキストがまとまり同19日豪州キャンベラにおいて在豪州日本国大使館田島公使と豪州外務省カーティス首席次官補との間で仮署名が行われた。その後日本側で日本語正文の作成を行い、本年3月5日閣議の承認を経て、在豪州黒田大使と豪州ストリート外相との間で改正協定テキスト(和文及び英文)に正式署名が行われた。その後日本国内の批准手続として、改正協定は同12日の閣議において承認のため国会に提出することが決定され即日衆議院に送付された。

Ⅱ 改正協定の内容

1. 構成

 今回の協定改正は、日加協定の改正において行われた改正議定書による既存協定の条項の追加・削除とは異なり、新たな協定を作成する方式となった。

 改正協定は前文、本文11ケ条、並びに附属書A、B及びCから成っているほか、協定署名と同時に、3つの交換公文、合意された議事録及び討議の記録が作成されており、我が国がこれまで締結してきた他の原子力協定に比べ複雑な構成となっているが、これは主として長期的包括的事前同意方式を盛込んだことによるものである。

2. 主要な改正点

 今回の改正は、途中に国際核燃料サイクル評価をはさんだこともあり、交渉に3年余を要したが、結果的に世界の核不拡散に協力しつつ原子力平和利用の計画的推進に支障をきたさない形でとりまとめられたものと考えている。

 主要な改正点は、次の諸点である。

(1) 協定の対象として核物質及び設備の他に新たに資材(重水、黒鉛)及び機微な技術(再処理、濃縮、重水生産に関する設計図、運転マニュアル等の有形の技術資料であって、核拡散防止の観点から規制が必要なもの。)を加えることとした。

(2) 核物質に関する事前同意の対象として「第三国移転」の他に新たに「再処理」及び「20%を超える濃縮」を加え、このうち「第三国移転」及び「再処理」については長期的包括的事前同意方式により長期的かつ予見可能な規制を行うこととなった。(次節3参照)

(3) ロンドン協議指針を適用して得られるのと同様の防護の状態をもたらす基準(我が国については原子力委員会核物質防護専門部会報告書)に沿って核物質防護措置を講ずることとした。

(4) 核兵器その他の軍事目的への利用の他いわゆる平和目的の核爆発装置への利用も明示的に禁止することにした。

(5) 協定の適用、解釈から生ずる紛争の解決のための仲裁裁定の規定を設けた。

3. 長期的包括的事前同意方式の概要

 我が国の核燃料サイクルの内で行われる豪産核物質の第三国移転及び再処理は、日豪間の協定または豪州と第三国との間の協定の対象となるものである。例えば、①豪産ウランを米国で濃縮した後に我が国に移転するには豪米協定に基づく第三国移転の規制が適用される。②我が国の原子炉で発生した豪産ウランを用いた使用済燃料を東海再処理施設または将来第二再処理工場において再処理するには日豪協定に基づく再処理の規制が適用される。③②と同様の使用済燃料を委託再処理のため英仏に移転するには、日豪協定に基づく第三国移転の規制が適用され、移転された燃料を英仏で再処理し回収されたプルトニウムを我が国に返還するには、それぞれ豪ユーラトム協定に基づく再処理及び第三国移転の規制が適用される。

 長期的包括的事前同意はこれらの再処理、移転に対し、一定の条件の下で長期間にわたる包括的な同意を与え、ケースバイケースの事前同意に由来する不確実性を除去しようとするものである。

(1)長期的包括的事前同意の対象

 下のリストに掲げる施設間で行われる豪州産核物質の移転であって、日豪協定または豪州と関係国との間の協定に基づく規制の対象となるもの及び下のリストに掲げる原子炉で発生した豪州産核物質を含む使用済燃料の同リストに掲げる再処理施設における再処理が長期的包括的事前同意の対象となる。

1 六弗化ウランヘの転換施設
 1.1 エルドラード原子力会社
ポート・ホープ工場(カナダ)
 1.2 アライド・コーポレーション
メトロポリス工場(米国)
 1.3 カーマギー原子力会社
セコイア工場(米国)
 1.4 イギリス核燃料会社(BNFL)
スプリングフィールズ工場(英国)
 1.5 金属ウラン及び六弗化ウラン転換会社(COMURHEX)
ピエールラット工場(フランス)
 1.6 金属ウラン及び六弗化ウラン転換会社(COMURHEX)
マルヴェシ工場(フランス)
 1.7 動力炉・核燃料開発事業団
人形峠工場

2 濃縮施設
 2.1 アメリカ合衆国エネルギー省
パデューカ工場(米国)
 2.2 アメリカ合衆国エネルギー省
ポーツマス工場(米国)
 2.3 アメリカ合衆国エネルギー省
オーク・リッジ工場(米国)
 2.4 ユーロディフ
トリカスタン工場(フランス)
 2.5 動力炉・核燃料開発事業団
人形峠工場

3 二酸化ウランヘの転換施設
 3.1 ジェネラル・エレクトリック・コンパニー
ウィルミントン工場(米国)
 3.2 三菱原子燃料株式会社
東海工場
 3.3 日本核燃料コンバージョン株式会社
東海工場

4 燃料加工施設
 4.1 LWR用燃料の加工施設
  4.1.1 日本ニュクリア・フュエル株式会社
横須賀工場
  4.1.2 三菱原子燃料株式会社 東海工場
  4.1.3 原子燃料工業株式会社 熊取工場
  4.1.4 原子燃料工業株式会社 東海工場
 4.2 ATR用燃料の加工施設
  4.2.1 動力炉・核燃料開発事業団 東海工場
  4.2.2 原子燃料工業株式会社 東海工場
 4.3 FBR用燃料の加工施設
  4.3.1 動力炉・核燃料開発事業団 東海工場
  4.3.2 原子燃料工業株式会社 東海工場
 4.4 LWR用混合酸化物燃料の加工施設
  4.4.1 動力炉・核燃料開発事業団 東海工場

5 ANMの使用施設
5.1 LWR
(a) 運転中のLWR





(許可電気出力
(メガワット))
(運転開始年)
5.1.1 日本原子力発電株式会社東海第二発電所
BWR1,1001978
5.1.2 日本原子力発電株式会社敦賀発電所(1)BWR3571970
5.1.3 東京電力株式会社福島第一原子力発電所(1)BWR460 1971
5.1.4 東京電力株式会社福島第一原子力発電所(2)BWR784 1974
5.1.5 東京電力株式会社福島第一原子力発電所(3)BWR784 1976
5.1.6 東京電力株式会社福島第一原子力発電所(4)BWR784 1978
5.1.7 東京電力株式会社福島第一原子力発電所(5)BWR784 1978
5.1.8 東京電力株式会社福島第一原子力発電所(6)BWR1,100 1979
5.1.9 中部電力株式会社浜岡原子力発電所(1)BWR540 1976
5.1.10 中部電力株式会社浜岡原子力発電所(2)BWR840 1978
5.1.11 関西電力株式会社美浜発電所(1)PWR340 1970
5.1.12 関西電力株式会社美浜発電所〈2〉PWR500 1972
5.1.13 関西電力株式会社美浜発電所(3)PWR826 1976
5.1.14 関西電力株式会社高浜発電所(1)PWR826 1974
5.1.15 関西電力株式会社高浜発電所(2)PWR826 1975
5.1.16 関西電力株式会社大飯発電所(1)PWR1,175 1979
5.1.17 関西電力株式会社大飯発電所(2)PWR1,175 1979
5.1.18 中国電力株式会社島根原子力発電所(1)BWR460 1974
5.1.19 四国電力株式会社伊方発電所(1)PWR566 1977
5.1.20 九州電力株式会社玄海原子力発電所(1)PWR559 1975
5.1.21 九州電力株式会社玄海原子力発電所(2)PWR559 1981

(b) 建設中のLWR





(許可電気出力
(メガワット))
(着工年)
5.1.22 東北電力株式会社女川原子力発電所
BWR 524 1971
5.1.23 東京電力株式会社福島第二原子力発電所(1)BWR 1,100 1975
5.1.24 東京電力株式会社福島第二原子力発電所(2)BWR 1,100 1979
5.1.25 東京電力株式会社福島第二原子力発電所(3)BWR 1,100 1980
5.1.26 東京電力株式会社福島第二原子力発電所(4)BWR 1,100 1980
5.1.27 東京電力株式会社柏崎・刈羽原子力発電所(1)BWR 1,100 1978
5.1.28 関西電力株式会社高浜発電所(3)PWR 870 1980
5.1.29 関西電力株式会社高浜発電所(4)PWR 870 1980
5.1.30 四国電力株式会社伊方発電所(2)PWR 566 1977
5.1.31 九州電力株式会社川内原子力発電所(1)PWR 890 1978
5.1.32 九州電力株式会社川内原子力発電所(2)PWR 890 1981

(c) 計画中のLWR





(許可電気出力
(メガワット))
5.1.33 日本原子力発電株式会社敦賀発電所(2)BWR1,160
5.1.34 東北電力株式会社巻原原子力発電所
BWR825
5.1.35 中部電力株式会社浜岡原子力発電所(3)BWR1,100
5.1.36 東京電力株式会社柏崎・刈羽原子力発電所(2)BWR1,100
5.1.37 東京電力株式会社柏崎・刈羽原子力発電所(5)BWR1,100
5.1.38 中国電力株式会社島根原子力発電所(2)BWR820

注 括弧内の数字は、原子炉番号である。

5.2 ATR
(a) 運転中のATR


(許可電気出力
(メガワット))
(運転開始年)
5.2.1 動力炉・核燃料開発事業団 「ふげん」 重水減速軽水冷却 165
(b) 建設中のATR
  なし
(c) 計画中のATR
  なし
5.3 FBR
(a) 運転中のFBR
  なし
(b) 建設中のFBR
  なし
(c) 計画中のFBR


(許可電気出力
(メガワット))
5.3.1 動力炉・核燃料開発事業団 「もんじゅ」 ナトリウム冷却 280
6 再処理施設
(a) 運転中の施設
6.1 イギリス核燃料会社(BNFL) ウインズケール工場(英国)
6.2 核物質会社(COGEMA) ラ・アーグ工場(フランス)
6.3 動力炉・核燃料開発事業団 東海工場
(b) 建設中の施設
  なし
(c) 計画中の施設
 6.4 日本原燃サービス株式会社 立地点未定
7 分離されたプルトニウムの貯蔵施設
  なし
8 開発実証計画

 日本国の今後の原子力計画を推進するための次に掲げる開発実証計画においてANMが利用される。

8.1 プルトニウムのLWRにおける再利用についての開発実証計画

(許可電気出力
(メガワット))
(計画準備開始年)
8.1.1 関西電力株式会社 美浜発電所 (1) PWR 340 1972

注 括弧内の数字は、原子炉番号である。

8.2 FBRについての開発実証計画

(許可熱出力
(メガワット))
(運転開始年)
8.2.1 動力炉・核燃料開発事業団 「常陽」 ナトリウム冷却 100 1977
8.3 高速炉の使用済燃料の再処理についての開発実証計画

(年間最大処理量)(運転開始年)
8.3.1 動力炉・核燃料開発事業団 高レベル放射性物質研究施設(CPF) 使用済燃料で7.2kg(プルトニウムで0.6kg) 1982
8.4 民間船舶用推進装置についての開発実証計画

(許可熱出力
(メガワット))
(運転開始年)
8.4.1 日本原子力船研究開発事業団 「むつ」 PWR361974
(2) 長期的包括的事前同意の条件
① 再処理については、
 イ 再処理にIAEAの保障措置が適用されること、及び
 ロ 回収されたプルトニウムを上のリストに掲げる施設で用いること
② 施設間の移転については、
 移転先の施設を削除することに関し豪側が協議を求めていないこと。(下記(3)②参照)
(3) リストの施設の追加削除

 リストの施設の追加、削除については次のように取決められている。

① 施設の追加

 すでにリストに掲げられているものと同類の施設は日本側から通報するだけで追加できる。それ以外の施設の追加(異なる技術を用いた施設の追加等)は日豪間で協議をし合意の上行う。

② 施設の削除

 日本側が削除したい施設は通報するだけで削除できる。第三国の施設について豪州側が削除を申し出た場合(当該施設に適用される保障措置が根本的に変化した場合及び当該施設の存在する第三国が豪州との間の協定に違反し豪州が当該第三国への核物資等の移転を停止している場合に限られる。)には、協議をし合意の上で削除する。


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