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東北電力株式会社女川原子力発電所の原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)について(答申) 53原委第542号
昭和53年9月29日
内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長
昭和53年7月17日付け53安(原規)第222号(昭和53年9月19日付け53安(原規)第288号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。 記 ① 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号および第3号については適合しているものと認める。 ② 上記許可の基準第4号については、原子炉安全専門委員会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。 (別添)
昭和53年9月21日
原子力委員会
委員長 熊谷太三郎殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄
東北電力株式会社女川原子力発電所の原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)に係る安全性について
当審査会は昭和53年7月18日付け53原委第420号(昭和53年9月19日付け53原委第537号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告する。 Ⅰ 審査結果 東北電力株式会社女川原子力発電所の原子炉設置変更(原子炉施設の変更)に関し、同社が提出した「女川原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(昭和53年7月13日付け申請及び昭和53年9月16日付け一部補正)」に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。 Ⅱ 変更内容 1 燃料集合体の変更
従来、原子炉の燃料として、7×7型燃料集合体を用いることとしていたが、8×8型燃料集合体を使用することに変更する。 2 熱的制限値の変更
炉心熱特性評価方法として、従来の最小限界熱流束比に代え最小限界出力比による熱的制限値、早期炉心1.23、平衡炉心末期1.28を採用する。 3 制御棒の自由落下速度等の変更
制御棒の自由落下速度を0.95m/s以下に変更する。(変更前は約1.5m/s)また、スクラム時の制御棒の90%挿入までに必要な平均時間を3.5秒以下に変更する。(変更前は約5.0秒)
4 制御棒価値ミニマイザによる制御棒価値制限値の変更
制御棒価値ミニマイザによって制御される制御棒最大価値を0.015Δkに変更する。(変更前は0.025Δk)
5 計測制御系統施設の変更
計測制御系統施設に中央制御室外原子炉停止装置を設置する。 6 原子炉格納施設の変更
原子炉格納施設に再結合方式による可燃性ガス濃度制御系を設置する。 7 非常用ガス処理系の変更
非常用ガス処理系の系統よう素除去効率を99%以上に変更する。(変更前は97%以上)
8 復水器冷却水排水口の位置の変更
復水器冷却水排水口の位置を敷地南東の海岸線から東南東の藤丸浜の沖合約260mの海底に変更する。 Ⅲ 審査内容 1 燃料集合体の変更
(1) 8×8型燃料集合体の構造
本燃料集合体の構造設計の詳細は、原子炉安全専門審査会が採択した「沸騰水型原子炉に用いられる8行8列型の燃料集合体について」(8×8型燃料検討報告書)に記載のものとほぼ同様である。 本原子炉に用いる燃料集合体の構造設計については、すでに8×8型燃料検討報告書において評価が行われているとおりであり、問題はない。 (2) 核熱水力特性
8×8型燃料集合体のみで構成される初期炉心から取替炉心までにおいて、原子炉の停止余裕、反応度係数、ピーキング係数等を評価し、核設計上問題ないことを確認した。 熱水力設計上の重要な特性値である燃料棒最大線出力密度は8×8型燃料集合体の採用によって、従来よりも大幅に低下しており、また最小限界出力比(MCPR)は過渡時に限界値を下回らないように通常運転時の制限値が確保されることを確認した。 (3) 安定性
8×8型燃料集合体で構成される炉心の安定性を評価するため、安定性上最も厳しくなる炉心寿命末期についてチャンネル水力学的安定性、炉心安定性、及びプラント安定性を検討し、本原子炉は十分な減衰特性を有していることを確認した。さらにキセノン空間振動についても、本原子炉の出力反応度係数が十分負の値であるので、空間振動は十分抑制されると判断する。 2 熱的制限値の変更
新しい炉心熱特性評価方法を採用することに伴い、熱水力特性及び過渡現象解析結果から熱的制限値の妥当性を検討した。 本原子炉の熱水力特性を原子炉安全専門審査会が採択した「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法について」(炉心熱設計検討報告書)に基づいて評価した結果、問題はないと判断する。 さらに通常運転時の熱的制限値を定めるため、過渡現象解析に基づきMCPRの変化(ΔMCPR)を評価し、最大のΔMCPRを生ずる過渡変化を確認した。その結果は後述の運転時の異常な過渡変化の解析に示すとおりであり、通常流転時のMCPR制限値を早期炉心については1.23、平衡炉心末期については1.28とすることにより、過渡変化時のMCPRは限界値1.06を下回らない。 3 制御棒の自由落下速度等の変更
本変更は、制御棒の自由落下速度として、従来用いられていた値1.5m/s以下を0.95m/s以下に変更しようとするものである。この値は、沸騰水型原子炉の制御棒装置を模擬した実験装置による結果に、安全余裕を加味したものである。 また、スクラム時の90%挿入に必要な平均時間3.5秒以下については、従来より詳細な評価に基づいたものであり、先行炉の実績からもその妥当性が確認されている。 したがって、これらの値を採用することは妥当であると判断する。 4 制御棒の価値ミニマイザによる制御棒価値制限値の変更
本変更は、制御棒落下事故を想定した場合に、炉心に与える影響を低減させるため、落下制御棒価値を0.015Δk以下に制限しようとするものである。 本原子炉の制御棒価値ミニマイザに内蔵される引抜手順に基づき、引抜き制御棒の価値を解析した結果から、最大制御棒価値は0.013Δkを下回ることを確認した。 また、制御棒価値ミニマイザによる制限値0.015Δkは、後述の制御棒落下事故の解析結果から妥当であると判断する。 5 計測制御系統施設の変更
本変更は、中央制御室において、何らかの原因で操作が困難な場合にも、原子炉をスクラム後の高温状態から低温状態に安全に導くことが可能なように中央制御室から十分離れた場所に中央制御室外原子炉が停止装置を設置するものである。 原子炉スクラム後、本装置盤上に設けられた切替スイッチを切替えることにより中央制御室制御盤へ行く信号回路、制御回路を切離し、中央制御室とは無関係に、一部の逃がし安全弁の制御、原子炉隔離時冷却系の制御並びに残留熱除去系の1系統の制御が可能である。 なお、本装置は誤操作防止等のため常時は施錠等の防護策を護ずることとしている。 以上のことから、本装置の設置は安全上妥当なものと判断する。 6 原子炉格納施設の変更
本変更は、冷却材喪失事故後における非常用冷却水の放射線分解をも考慮して、原子炉格納容器内に発生する可燃性ガスの濃度を余裕をもって制御するため、再結合方式による可燃性ガス濃度制御系を設置するものである。 本系統は、冷却材喪失事故が発生した場合に、原子炉格納容器内雰囲気中の水素ガス濃度を4vol%以下、または、酸素ガス濃度を5vol%以下に維持できるように設計される。 水素または酸素ガスの燃焼限界に関する各種の実験結果から、水素または酸素ガス濃度のいずれか一方が前述の制限値以下に維持されるなら、燃焼反応は生じないことが確認されている。 本系統の容量を定めるにあたっては、十分な安全余裕をもった前提条件が用いられている。すなわち、水の放射線吸収に対する水素ガス及び酸素ガスの発生割合としては、G(H2)=0.5(分子/100eV)及びG(O2)=0.25(分子/100eV)が用いられているが、この値は、水の放射線分解に関する各種実験結果からみて、十分な安全余裕をもったものである。また、ジルコニウム-水反応による水素ガスの発生量についても厳しい仮定が用いられている。 これらの条件を基に冷却材喪失事故後における原子炉格納容器内可燃性ガス濃度の時間変化を検討した結果、本系統の容量は妥当であり、原子炉格納容器内の可燃性ガス濃度を制限値以下に十分抑制できると判断する。 7 非常用ガス処理系の変更
非常用ガス処理系の系統よう素除去効率を99%以上に変更することは、冷却材喪失事故のように原子炉建家内の放射性物質濃度が高くなる事故時に、原子炉建家から外部に放出される放射性よう素の量を低減することを目的としてなされるものである。 上記よう素除去効率の変更は、非常用ガス処理系のよう素用チャコールフィルタのベッド厚さを約20cm(変更前約5cm)にすること、及びチャコールフィルタ入口において流入空気の相対湿度を70%以下(変更前80%以下)に低下させることによって行われる。 無機よう素及び有機よう素を用いて行われた種々の実験結果からみて、上記設計条件においてよう素除去効率99%を採用することは妥当である。 また、後述の術害評価においては非常用ガス処理系のよう素除去効率を余裕を見て95%としており、特に問題はないと判断する。 8 復水器冷却水排水口の位置の変更
復水器冷却水の取水口は、発電所前面に設ける防波堤内に位置し、排水口は東南東の藤丸浜の沖約260m、水深約10mの海底に設けられる。 本海底水中放流管は、管径約2.4m2条、長さ約260mであり、海底に沿って敷設される。 復水器冷却水は、循環水ポンプにより取水され、復水器を冷却した後、循環水管、放水路蓋渠、放水路トンネル、放水路水槽を経て放流管に入り、その先端から水中放流される。 循環水ポンプは、最大流量に対して全揚程約13mであり、冷却水は、十分海中に放流される。 9 原子炉施設周辺の一般公衆の被曝線量評価
今回の原子炉施設の変更に伴い、「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」等の指針に基づき、原子炉施設周辺の一般公衆の被曝線量評価を行った。 解析結果では、放出放射性希ガスからのγ線による全身被曝線量が最大となる地点は、排気筒から南東約790mの周辺監視区域境界であり、この地点における全身被曝線量は、液体廃棄物中の放射性物質の寄与を含めて、年間約1.0mremである。また、気体廃棄物中の放射性よう素に起因する甲状腺被曝線量が最大となる地点は、周辺監視区域境界外で排気筒の西南西約900mであり、その地点における年間被曝線量は、液体廃棄物中の放射性よう素の寄与分も含めて約1.6mrem(幼児)である。 以上の評価結果は、いずれも「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」に示される線量目標値を下回っている。 10 運転時の異常な過渡変化の解析
燃料設計の変更や新しい炉心熱特性評価方法の採用等によって、前提条件及び解析方法に変更があったので、運転時の異常な過渡変化時の再評価を行った。 運転時の異常な過渡変化時においても炉心は損傷に達する前に収束されることを判断するため、以下に示す項目を具体的な判断基準として解析の評価を行った。 (1) 燃料の健全性に対しては
(イ) MCPRが限界値(1.06)を下回らないこと。 (ロ) 燃料被覆管の円周方向平均塑性歪が1%に至らないこと。 (ハ) 急激な反応度増加をもたらすような過渡現象に対しては、燃料ペレットの最大保有エンタルピが許容設計限界値(内圧が問題となる場合は110cal/g・UO2、その他の場合は170cal/g・UO2)を超えないこと。 (2) 原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性に対しては、過渡最大圧力が最高使用圧力の1.1倍の圧力(92.8㎏/cm2g)を超えないこと。 解析においては、運転時の異常な過渡変化が生ずる可能性のある系を再循環系、給水系、主蒸気系・制御棒系及びその他の系に分類し、それぞれ過渡変化の結果がきびしくなる事象及び条件を選定して解析を行っている。 その結果は、種々の保守的な仮定をおいて解析しているにもかかわらず、本原子炉は沸騰水型原子炉が持つ自己制御性と種々の安全保護機能の動作とがあいまって、変更後も運転中に起こる異常な過渡変化を安定に制御し、炉心は損傷に達する前に収束させることを確認した。 すなわちMCPRは、通常運転時において、早期炉心用スクラム曲線が適用される期間にあっては、1.23以上、平衡炉心末期用スクラム曲線が適用される期間にあっては、1.28以上に維持されるため、最もきびしい過渡現象である早期炉心における給水加熱喪失時及び平衡炉心末期におけるタービン・トリップ(タービン・バイバス弁不動作)時でも限界値1.06を下回らない。 また、燃料の線出力密度が最もきびしくなる出力運転中の制御棒引抜時においても、線出力密度は57kW/m程度であり、燃料被覆管の円周方向平均塑性歪1%には至らない。 更に急激な反応度増加を伴う過渡現象として取り上げた起動時の制応棒引抜きの場合の燃料ペレット最大エンタルピは73cal/g・UO2であり、許容設計限界値110cal/g・UO2を下回っている。 従って、変更後のいかなる運転時の異常な過渡変化時においても、燃料の健全性は損なわれないものと判断する。 また、原子炉圧力は、早期炉心で最大となるタービン・トリップ(タービン・バイパス弁不動作)時に80.1㎏/cm2gであり平衡炉心末期のスクラム特性の劣化を考慮しても最大圧力は82.4㎏/cm2gに抑えられている。これらの数値は、最高使用圧力の1.1倍の圧力92.8㎏/cm2gを下回っており、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が保たれるものと判断する。 11 事故解析
今回、燃料集合体の変更とともに、解析方法及び前提条件にも各種の変更があったので、これらも含めて万一の事故を想定した場合について原子炉施設の安全性を確認するために解析結果について評価を行った。 (1) 制御棒落下事故
本解析を行うに際しての主要な入力値である制御棒落下速度は、落下速度リミッタにより制限される0.95m/sを用い、落下制御棒の印加反応度については、実際に予想されるよりもきびしい落下制御棒価値曲線と制御棒価値ミニマイザによる制限値である0.015Δkの反応度価値を用いている。これらは、いずれも従来よりも詳細な評価に基づいて変更されたものであり妥当である。 これらの条件に基づき、最大反応度価値を有する制御棒1本が炉心から落下する事故を想定して解析された結果から、燃料ペレット・エンタルピの最大値は187cal/g・UO2であり原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は十分維持されるものと判断する。 (2) 燃料取扱い事故
ここでは、燃料集合体が炉心上で最も高い位置から落下し、炉心内燃料集合体と非弾性衝突をすると想定した場合について解析している。この場合、水の抵抗によるエネルギ吸収は無視して落下エネルギ全量が衝突体及び被衝突体に吸収されるという苛酷な条件を仮定しても破損する燃料棒は135本であり環境に放出される放射能は少なく問題とならない。 (3) 冷却材喪失事故
冷却材喪失事故の解析にあたっては、原子炉安全専門審査会が採択した「軽水型動力炉のECCS評価モデル変更の検討結果報告書にもとづいて非常用炉心冷却設備の性能評価モデルが変更されている。燃料に対して最もきびしい影響を与える再循環系の最大口径配管1本の完全両端破断を想定した場合の解析結果は燃料被覆管最高温度は約1,008℃、燃料被覆管が局所的に酸化される厚さの最大値は燃料被覆管厚さの約0.7%である。また、水-ジルコニウム反応割合は全燃料被覆管のジルコニウムの約0.09%であり十分小さい。 したがって、これらの解析結果は「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」に示す基準、被覆管最高温度1,200℃及び局所的酸化量15%を下回るとともに、燃料棒の重大な損傷を防止でき、かつ、長期的な炉心冷却を確保することができると判断する。 なお、再循環系の最大口径配管1本の完全両端破断を想定した場合の非常用冷却水の放射線分解に伴う格納容器内の可燃性ガス濃度の変化について解析されている。この結果によれば、放射線分解による水素、酸素ガスの発生量を十分大きく見積って評価しても、可燃性ガス濃度制御系により格納容器内の水素、酸素ガス濃度は、燃焼限界以下に抑えられるので妥当なものと判断する。 (4) 主蒸気管破断事故
燃料集合体の変更により、主蒸気管破断事故時の炉心の熱的余裕は従来よりも増加している。 主蒸気管1本の瞬時完全破断を想定して解析を行った結果によればMCPRは事故期間を通じて限界値を下回ることはなく、燃料被覆管に損傷が生じるおそれはないものと判断する。 12 災害評価
非常用ガス処理系の変更に伴い「原子炉立地審査指針」に基づく重大事故及び仮想事故として冷却材喪失事故を想定し解析した結果について災害評価を行った。 解析に当たっては、「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」、「被曝計算に用いる放射線エネルギー等について」等の新しい指針等がとり入れられている。 解析結果によれば、冷却材喪失事故における大気中に放出される核分裂生成物の量は、重大事故において、よう素約1.23×102Ci(I-131等価量、以下同じ。)、希ガス約7.20×103Ci(γ線実効エネルギ0.5MeV換算値、以下同じ。)、仮想事故において、よう素約6.41×103Ci、希ガス約3.66×105Ciであって、敷地境界附近における一般公衆に対する最大被曝線量は、重大事故の場合、甲状腺(小児)に対し約0.51rem、全身に対しγ線約4.0mrem、仮想事故の場合、甲状腺(成人)に対し約6.6rem、全身に対しγ線約0.20remとなる。 以上の被曝線量は、いずれも「原子炉立地審査指針」に示された目やすとしての線量を十分下回るものである。 また、本変更に伴って国民遺伝線量を評価するため、仮想事故の際の全身被曝線量について解析結果を評価した。この解析の結果によれば、全身被曝線量の積算値は1,975年の人口に対し約8.9万人・rem2,020年の推定人口に対し約11.9万人・remである。 これらの値は「原子炉立地審査指針」に国民遺伝線量の見地から目やすとして示されている参考値を十分下回るものである。 Ⅳ 審査経過 本審査会は昭和53年7月21日第172回審査会において、審査を開始し、同年9月21日第174回審査会において審査を行い、本報告書を決定した。 |
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