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動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センターの原子炉の設置変更(高速実験炉原子炉施設の変更)について(答申)


53原委第489号
昭和53年9月19日

内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長

 昭和52年9月13日付け52安(原規)第263号(昭和53年7月20日付け53安(原規)第227号及び昭和53年8月21日付け53安(原規)第274号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。

(1) 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号および第3号については適合しているものと認める。

(2) 上記許可の基準第4号については、原子炉安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。


別添

昭和53年8月23日
原子力委員会
   委員長 熊谷太三郎殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄

動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センターの原子炉の設置変更(高速実験炉原子炉施設の変更)に係る安全性について

 当審査会は、昭和52年9月13日付け52原委第545号(昭和53年7月20日付け53原委第432号及び昭和53年8月21日付け53原委第485号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告する。

Ⅰ 審査結果

 動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センターの原子炉の設置変更(高速実験炉原子炉施設の変更)に関し、同事業団が提出した「原子炉設置変更許可申請書」(昭和52年9月2日付け申請、昭和53年7月14日付け及び昭和53年8月21日付け一部補正)に基づき、審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更の内容

 本原子炉の設置変更に関し、動力炉・核燃料開発事業団が提出した原子炉設置変更許可申請書及び同添付書類に基づく申請の概要は、次のとおりである。

 1 概要

 本申請は、大洗工学センターに設置されている高速実験炉原子炉施設を下記のように変更するものである。

(1) 高速実験炉を高速炉用燃料材料の開発に必要な照射試験に使用するため、主として燃料集合体、制御棒等の炉心構成要素等を変更して炉心を構成し(以下「照射用炉心」という。)、熱出力を100MWにする。

(2) また、照射用炉心に移行するまでの間、現在の炉心(以下(増殖炉心」という。)の炉心性能の向上をはかるため、熱出力を75MWにする。

 ただし、これに伴う設備上の変更はない。

 2. 照射用炉心(熱出力100MW)

2.1 原子炉本体の構造及び設備

 本設置変更における原子炉本体の構造及び設備に係る内容は、次のとおりである。

(1) 炉心

 (i) 構造

 照射用炉心は、六角形の燃料集合体及び制御棒を蜂の巣状に配列した構造で半径方向及び軸方向ともに反射体によって囲まれる。

炉心高さ55cm
炉心等価直径 約73cm

 (ii) 燃料体の最大そう入量
燃料集合体の個数 67
特殊燃料集合体の個数
A型
B型
C型
プルトニウム量 約220
ウラン量約60㎏(ウラン235)

 ただし、燃料集合体の個数及びプルトニウム、ウランの炉心そう入量は、炉心燃料集合体及び特殊燃料集合体の合計である。

 (iii) 主要な核的制限値
最大過剰反応度 0.055ΔK/K

 (iv) 主要な熱的制限値
燃料最高温度 約2,710℃
冷却材最高温度 約880℃

(2) 燃料体

 (i) 燃料材の種類
  (イ) 炉心燃料
種類 ウラン-プルトニウム混合酸化物焼結ペレット
 約30w/o
プルトニウム同位体組成比 原子炉級
ウラン濃縮度約12w/o

  (ロ) 特殊燃料
種類 ウラン-プルトニウム混合酸化物焼結ペレット
 約30w/o以下
プルトニウム同位体組成比 原子炉級
ウラン濃縮度 特殊燃料要素Ⅰ型 約41w/o以下
特殊燃料要素Ⅱ型 約35w/o以下

 (ii) 被覆材の種類
オーステナイト系ステンレス鋼

 (iii) 燃料要素の構造

 照射用炉心の燃料要素は、円筒形のステンレス鋼管に燃料ペレットをそう入し、両端を密封した構造で、炉心燃料要素と特殊燃料要素の2種類あり、特殊燃料要素には、寸法及び組成の異なるⅠ型及びⅡ型がある。

 (iv) 燃料集合体の構造

 照射用炉心の燃料集合体は、燃料要素をステンレス鋼製の六角形ラッパーチューブに納めたもので、炉心燃料集合体と特殊燃料集合体がある。炉心燃料集合体は、炉心燃料要素を正三角形状に配置し、六角形ラッパーチューブに納めたものである。

 特殊燃料集合体には、燃料要素の配列方法の異なるA型、B型及びC型の3種類がある。

  ① A型特殊燃料集合体

 特殊燃料要素を集合体の中央部に配置してステンレス鋼製の六角形二重管に納め、その周囲に炉心燃料要素を正三角形状に配置し、全体をステンレス鋼製の六角形ラッパーチューブに納めたものである。

  ② B型特殊燃料集合体

 特殊燃料要素を等間隔におかれた6個のカートリッジ型二重管コンパートメントに納め、これを集合体中央部に設けられるステンレス鋼製のタイロッドとともにステンレス鋼製の六角形ラッパーチューブに納めたものである。

  ③ C型特殊燃料集合体

 特殊燃料要素をステンレス鋼製の六角形管に納め、これを更にステンレス鋼製の六角形ラッパーチューブに納めたものである。

 (v) 最高燃焼度
炉心燃料要素 平均 約50,000MWD/T
特殊燃料要素 平均 約130,000MWD/T

(3) 反射材の種類

 (i) 反射体
外形 炉心燃料集合体に同じ
材質 ステンレス鋼

 (ii) 材料照射用反射体
外形 炉心燃料集合体と同じ
材質 ステンレス鋼及び原子炉構成部品用材料

2.2 原子炉冷却系統施設

 1次冷却設備における冷却材の運転条件のうち、原子炉容器出口冷却材温度を約500℃及び原子炉容器入口圧力を約5㎏/cm2g以下とする。

 2次冷却設備における冷却材の運転条件のうち、ホットレグ、コールドレグ温度をそれぞれ約470℃、約340℃とする。

2.3 計測制御系統施設

 本炉心の制御設備において、全ての制御棒はスクラム機能と反応度調節機能を有する。

(1) 制御材の個数及び構造

 (i) 構造

 制御棒は、中性子吸収材を充填したステンレス鋼製制御棒要素7本をクラスターとしてステンレス鋼製の円筒管に納めたもので、要素上部にベント機構を有している。

 (ii) 制御棒個数 6

 (iii) 吸収材の種類 炭化ほう素

 (iv) 吸収材の有効長さ 約65cm

(2) 制御材駆動設備

 照射用炉心の制御棒駆動機構は、全て増殖炉心における安全棒駆動機構に統一される。

(3) 反応度制御能力 0.09ΔK/K以上

(4) 反応度付加率最大 0.00015ΔK/K/sec

 3. 増殖炉心(熱出力75MW)

3.1 原子炉本体の構造

 本設置変更における原子炉本体の構造に係る内容は、次のとおりである。

(1) 炉心構成における主要寸法のうち、炉心等価直径を約80cmとする。

(変更前は約79cm)

(2) 燃料体の最大そう入量を次のとおりとする。

 (i) 炉心燃料体
炉心燃料集合体個数 82(変更前は79)
プルトニウム量 約166㎏(変更前は約170㎏)
炉心燃料部ウラン量 約177㎏(ウラン235)(変更前は約180㎏)
軸方向ブランケット燃料部
ウラン量 約1.2t(劣化ウラン)(変更前は約1.3t(劣化ウラン))

 (ii) 半径方向ブランケット燃料体
半径方向ブランケット燃料
集合体個数 176(変更前は179)
半径方向ブランケット燃料部
ウラン量 約6.2t(劣化ウラン)(変更前は約7t(劣化ウラン))

(3) 燃料体最高燃焼度を炉心燃料要素平均で約42,000MWD/Tとする。(変更前は約25,000MWD/T)

 3.2 原子炉冷却系統施設

 1次冷却設備における冷却材の運転条件のうち、原子炉容器出口冷却材温度を約470℃とする。(変更前は約435℃)
 2次冷却設備における冷却材の運転条件のうち、ホットレグ、コールドレグ温度をそれぞれ約450℃、約350℃とする。(変更前はそれぞれ約420℃及び約355℃)

Ⅲ 審査内容

 本変更は、高速実験炉を高速炉用燃料材料の開発に必要な照射試験に使用するため、主として、燃料集合体、制御棒等の炉心構成要素等の変更により照射用炉心として熱出力を100MWにし、また照射用炉心に移行するまでの間、現在の増殖炉心の炉心性能の向上をはかるため、熱出力を75MWにするものである。

 したがって、本変更の審査にあたっては、照射用炉心(熱出力100MW)への変更及び増殖炉心(熱出力75MW)への変更について、それぞれ検討した。

 本変更に伴い、原子炉施設の安全評価(炉心設計、燃料設計等)、原子炉施設周辺の一般公衆の被曝線量評価、各種事故の検討及び災害評価について検討した結果は次のとおりである。

 1 原子炉施設の安全評価

1.1 炉心設計

 1.1.1 核設計

(1) 照射用炉心

 炉心の核設計においては、下記の条件を満足することが必要である。

 ① 反応度制御系は、最大過剰反応度を適切に制御でき、かつ、最大の反応度価値を有する制御棒1本が完全に引抜かれた状態であっても、常に臨界未満に維持できること。

 ② すべての運転範囲で、急速な固有の負の反応度フィードバック特性を有する設計であること。

 本炉心の過剰反応度は、原子炉温度の上昇に伴う燃料、冷却材、構造材等の熱膨張並びにドップラ効果に基づく負の反応度変化、燃焼に伴う反応度減少、特殊燃料集合体及び材料照射用反射体の装荷に伴う反応度変化を補償するように設計されており、反応度の制御は、炭化ほう素を吸収体とする制御棒により行われる。

 最大過剰反応度は、通常到達するとは考えられない炉心温度100℃の状態において0.055ΔK/K以下であり、制御棒の反応度価値は0.09ΔK/K以上であるので、最大過剰反応度を適切に制御できる。また、最大の反応度価値を有する制御棒1本が完全に引抜かれた状態における実効増倍率は、炉心温度100℃の状態において0.99未満であり、原子炉の停止余裕が確保され、原子炉を臨界未満に維持できる。

 本炉心の急速な固有の負の反応度フィードバック特性としては、ドップラ効果があり、燃料、冷却材、構造材等の熱膨張に基づく固有の負の反応度フィードバック特性とあいまって、反応度外乱に対して自己制御性をもっている。

 これらの主要な設計値については、出力分布、ナトリウムボイド効果を含めて、高速臨界実験装置(FCA)、SEFOR及びZPR-Ⅲ/51におけるモックアップ実験の解析を行い、計算値に対する補正因子及びその不確かさ巾を評価して設定している。また、変更前の増殖炉心の臨界試験、制御棒反応度価値測定試験等の結果を参考にして設計手法の妥当性を確認した。

 なお、炉心設計においては、特殊燃料集合体等の装荷に伴う反応度特性及び出力分布等の変化は、最も厳しい炉心構成においても核設計で定めている範囲を超えないことを確認した。

 以上のことから、本炉心の核設計は妥当なものと判断する。

(2) 増殖炉心

 本炉心の核設計は、変更前の増殖炉心の核設計と同様に行われている。

 最大過剰反応度は、通常到達するとは考えられない炉心温度100℃の状態において0.045ΔK/K以下であり、制御棒の反応度価値は0.08ΔK/K以上であるので、最大過剰反応度を適切に制御できる。また、最大の反応度価値を抗狂る制御棒1本が完全に引抜かれた状態における実効増倍率は、炉心温度100℃の状態において0.99未満であり、原子炉の停止余裕が確保され、原子炉を臨界未満に維持できる。

 本炉心の急速な固有の負の反応度フィードバック特性としては、ドップラ効果等照射用炉心と同様の固有の負の反応度フィードバック特性を有しており、反応度外乱に対して自己制御性をもっている。

 なお、これらの主要な設計値については、FCAにおける実験解析結果並びに変更前の増殖炉心の臨界量、制御棒反応度価値、過剰反応度、温度係数、出力分布、出力係数等の試験結果により、その妥当性を確認した。

 以上のことから、本炉心の核設計は妥当なものと判断する。

 1.1.2 熱設計

(1) 照射用炉心

 炉心の熱設計は、核分裂生成物の放出を伴うような被覆管の破損を生じないよう、燃料の健全性を確保するものでなければならない。

 そのため、熱的制限値として燃料最高温度2,710℃、冷却材最高温度880℃を設定している。これらの熱的制限値は、変更前の増殖炉心と同じ考え方で定めたものであるが、燃料最高温度については、プルトニウム混合比の変化を考慮している。

 これらの熱的制限値は、海底の実験結果等から判断して妥当なものである。

 本炉心の熱設計では、上記熱的制限値に対して次の設計基準を設けている。

 ① 炉心燃料及び特殊燃料の燃料最高温度は、108%過出力時において、それぞれ2,650℃及び2,680℃を超えないこと。

 ② 炉心燃料及び特殊燃料の被覆管最高温度は、通常運転時において、それぞれ650℃及び700℃を超えないこと。

 燃料最高温度に関する設計基準は、燃料温度に関する熱的制限値2,710℃に対して安全余裕を考慮して定めたものである。

 被覆管最高温度に関する設計基準は、燃料要素の機械設計における主要な制限因子が核分裂生成ガスの蓄積に伴う被覆管の内圧クリープであることを考慮して定めたものである。なお、この設計基準にしたがえば、冷却材温度は過渡的な高温状態においても熱的制限値880℃を超えることはない。

 解析結果によれば、炉心燃料及び特殊燃料(要素Ⅰ型及び要素Ⅱ型)の燃料最高温度は、108%過出力時においてそれぞれ約2,640℃及び2680℃、通常運転時においてそれぞれ約2,500℃及び2,540℃である。また、炉心燃料及び特殊燃料(要素Ⅰ型及び要素Ⅱ型)の被覆管最高温度は、通常運転時においてそれぞれ650℃及び700℃である。

 熱設計手法、設計定数及び工学的安全係数については、増殖炉心用燃料の海外高速炉における照射試験結果、冷却材混合効果試験結果、各炉心構成要素に関する流動試験の結果等を検討し、それらの妥当性を確認した。

 以上のことから、本炉心の熱設計は妥当なものと判断する。

(2) 増殖炉心

 本炉心の熱的制限値及び設計基準は、変更前と変らない。設計基準として、燃料最高温度及び被覆管最高温度について、それぞれ2,650℃及び650℃を超えないこととしている。

 冷却材混合効果等をとり入れて解析を行った結果によれば、燃料最高温度は、108%過出力時において約2,490℃、通常運転時においては約2,330℃であり、被覆管最高温度は、通常運転時において約630℃である。

 熱設計手法、設計定数及び工学的安全係数については、増殖炉心用燃料の海外高速炉における照射試験結果、冷却材混合効果試験結果、各炉心構成要素に関する流動試験及び炉内モックアップ流動試験結果を検討し、また、変更前の増殖炉心の炉内流量分布試験結果と設計値との対比を行い、それらの妥当性を確認した。

 以上のことから、本炉心の熱設計は妥当なものと判断する。

 1.1.3 動特性

(1) 照射用炉心

 本原子炉は、主冷却系の冷却材ナトリウムの循環周期が長く、また、系の熱容量が大きいために、熱系の変動が原子炉に与える影響は非常に緩慢であり、プラント全体として各種外乱に対する温度変化はゆっくりしたものである。

 本原子炉の安定性については、反応度10φのステップ変化及び主冷却器空気流量のステップ変化を外乱として解析しており、その結果、十分な減衰特性を有していることを確認した。

 以上のことから、本原子炉は十分な安定性を有しているものと判断する。

(2) 増殖炉心

 増殖炉心の動特性については、照射用炉心と同様の解析が行われており、その結果、十分な安定性を有しているものと判断する。

1.2 燃料設計

(1) 照射用炉心

 炉心燃料及び特殊燃料は、原子炉内における使用期間中を通じ、その健全性を失うことがなく、炉心の性能を十分に発揮しうる必要があり、さらに使用材料、使用温度、圧力条件、照射効果等を考慮した設計である必要がある。

 炉心燃料の機械設計においては、被覆管等の構成部品にステンレス鋼を用い、また、燃料最高温度、被覆管の応力及び歪を制限している。

 機械的荷重が原因で生じる被覆管の歪は寿命末期で0.5%以下であり、被覆管のクリープ寿命分数和は、1.0より十分小さい。また、被覆管にかかる1次膜応力はSUS316ステンレス鋼の許容応力を十分に下回っており、各種の応力サイクルによる累積疲労は、設計疲労寿命を十分に下回っている。

 燃料の密度変化、核分裂生成ガスの放出、被覆管のスエリング、クリープ等については、増殖炉心用燃料の海外高速炉にお枝る照射試験結果を参考にして設計にとり入れている。また、燃料集合体の耐久性については、高温ナトリウム中の耐久試験の結果から問題ないことを確認した。

 特殊燃料の機械設計においては、炉心燃料と同様の設計方針を適用するとともに、設計に用いられる温度(焼料ペレット、被覆管及び冷却材の各部の温度)及び応力の評価方法、設計定数等は海外高速炉における照射実績に基づいて定められており、妥当なものであることを確認した。

 特殊燃料要素型Ⅰ型及びⅡ型の被覆管にかかる1次膜応力は、SUS316相当ステンレス鋼の許容応力を十分に下回っており、被覆管のクリープ寿命分数和は、1.0より十分小さい。機械的荷重が原因で生ずる被覆管の歪は、寿命末期で十分小さく、各種の応力サイクルによる累積疲労は、設計疲労寿命を十分に下回っている。

 以上のことから、本炉心の燃料設計は妥当なものと判断する。

(2) 増殖炉心

 炉心燃料の機械設計については、照射用炉心の炉心燃料の場合と同様に検討が行われている。また、増殖炉心用燃料の海外高速炉における照射試験結果及び高温ナトリウム中の耐久試験結果により、燃料の健全性が維持できるものであることを確認した。

 以上のことから、本炉心の燃料設計は妥当なものと判断する。

1.3 計測制御系

 1.3.1 安全保護系

 照射用炉心及び増殖炉心において、原子炉の運転条件の変更に伴い、原子炉容器出口冷却材温度のスクラム設定値が変更されるが、安全保護系で要求されるスクラム条件を満足しており、プラントの安全が確保されるので問題ないと判断する。

 1.3.2 原子炉停止系及び反応度制御系

 照射用炉心の原子炉停止及び反応度制御は、6本の制御棒により行われる。全ての制御棒は、高温から低温までの温度変化、燃料の燃焼等によって生じる反応度変化を適切に調整できるとともに、緊急時には電磁石の励磁を切り、重力とバネ力により、0.8秒以内に制御棒反応度価値の90%を挿入できるようになっている。

 制御棒は、Ⅲ.1.1.1核設計で述べたように十分な停止能力を有し、臨界未満を維持できる。また、制御棒要素の内圧上昇を防ぎ、使用期間を長くするため、反応生成ガスの放出機能をもつベント機構を設けるが、信頼性、耐久性等に関する諸試験結果より問題ないことを確認した。

 増殖炉心における原子炉停止系及び反応度制御系については、設備の変更はなく、Ⅲ.1.1.1核設計で述べたように十分な能力を有しており、問題のないことを確認した。

 以上のことから、原子炉停止系及び反応度制御系の設計は妥当なものと判断する。

1.4 原子炉容器及び冷却系
 照射用炉心における原子炉容器及び1次主冷却系の運転温度は約500℃、運転圧力は約5㎏/cm2g以下に変更されるが、いずれも1次主冷却系の設計条件である設計温度550℃、設計圧力7.2㎏/cm2gを十分に下回っている

 2次主冷却系の運転温度は、主冷却器伝熱管を含むホットレグ、コールドレグについてそれぞれ約470℃約340℃に変更されるが、主冷却器伝熱管を含む2次主冷却系のホットレグ、コールドレグ設計温度520℃、400℃を十分に下回っている。

 2次主冷却系の運転温度に関する変更については、ナトリウム環境下での材料強度に関する確性試験の結果、照射用炉心での運転条件下においても、十分な材料強度を有することを確認した。

 増殖炉心における原子炉容器及び1次主冷却系の運転温度は約470℃に変更されるが、1次主冷却系の設計条件である設計温度550℃を十分に下回っている。

 2次主冷却系の運転温度は、主冷却器伝熱管を含むホットレグ、コールドレグについてそれぞれ約450℃、約350℃に変更されるが、主冷却器伝熱管を含む2次主冷却系のホットレグ、コールドレグ設計温度520℃400℃を十分に下回っている。

 以上のことから、これらの運転圧力及び運転温度の変更は問題ないと判断する。

1.5 使用済燃料貯蔵設備

 使用済燃料貯蔵設備は、照射用炉心の炉心燃料集合体及び特殊燃料集合体の核分裂性物質の内蔵量、燃焼度等を検討した結果、熱除去及び未臨界性に問題ないと判断する。

 増殖炉心については、燃料集合体の核分裂性物質の内蔵量は変更前と同じであり、また、焼燃度が照射用炉心における条件を下回っている。

 以上のことから、使用済燃料貯蔵設備において、これらの使用済燃料集合体を貯蔵しても問題ないと判断する。

 2 原子炉施設周辺の一般公衆の被曝線量評価

 本変更に伴い、平常運転時に放出される放射性物質による一般公衆の被曝線量評価について検討した。

 気体廃棄物中の放射性物質については、アルゴン-41等の放射化生成物の放出量は無視できる程度であるので、燃料に欠陥が生じた場合に発生する放射性希ガス(以下、希ガスという。)及び放射性よう素(以下、よう素という。)に着目して評価している。

 この場合、希ガス及びよう素の年間放出量は、炉心燃料の2%の燃料に微少欠陥があるものとし、1次アルゴンガス系から廃ガス貯留タンクに移行する時間、廃ガス貯留タンクでの減衰時間等を考慮して計算されている。

 また、排気筒から放出される希ガス及びよう素の大気拡散については、1年間の気象観測データを用い、「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」(以下「気象指針」という。)を参考として解析している。

 環境中に放出された放射性物質による被曝線量については、「発電用軽水型原子炉施設の線量目標値に対する評価指針」を参考として、周辺監視区域外の最大となる場所の被曝線量が計算されている。

(1) 照射用炉心

 照射用炉心の場合の気体廃棄物の年間放出量は、希ガスについては3.1×104Ci(γ線実効エネルギ0.045MeV、以下同様)、よう素-131については4.7×10-2Ciである。

 液体廃棄物の年間放出量は、変更前の値である1×10-2Ci(トリチウムを除く)、トリチウムについては5×10-2Ciが用いられている。

 以上の放出量をもとに計算した結果、希ガスのγ線による全身被曝線量と液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量との合算値は、年間約0.12mremであり、よう素-131による甲状腺被曝線量(幼児)は、液体廃棄物中のよう素の寄与を含め年間約0.09mremである。

(2) 増殖炉心

 増殖炉心の場合の気体廃棄物の年間放出量は、希ガスについては2.5×104Ci、よう素-131については3.6×10-2Ciである。

 液体廃棄物の年間放出量は、照射用炉心と同様の値が用いられている。

 以上の放出量をもとに計算した結果、希ガスのγ線による全身被曝線量との液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量との合算値は年間約0.10mremであり、よう素-131による甲状腺被曝線量(幼児)については、液体廃棄物中のよう素の寄与を含め年間約0.08mremである。

 なお、直接線量及びスカイシャイン線量については、照射用炉心、増殖炉心ともに人の居住の可能性のある敷地外で年間5mRより十分小さい。

 以上のことから、一般公衆の被曝線量は、現行法令に定める許容被曝線量(年間500mrem)を十分に下回っているものと判断する。

 3 各種事故の検討

 原子炉施設の変更に伴う事故解析結果について見直しを行った。

 本検討における事故時の安全基準として、熱的制限値を考慮した保守的な基準値を用いている。すなわち、
 (i) 燃料中心温度については、炉心燃料(照射用炉心及び増殖炉心)、特殊燃料に対してそれぞれ2,650℃、2,680℃
 (ii) 冷却材最高温度については、880℃

を設定し、各種事故時において、これらの値を超えないこととしている。

 各種事故のうち、燃料温度、冷却材温度及び放射性物質の放出量の観点から選定した代表的な事故事象は次のとおりである。

(1) 照射用炉心

 燃料温度、冷却材温度及び放射性物質の放出量に関する事故としては、それぞれ、1次冷却材流量急上昇事故、1次冷却系ポンプ出力喪失事故、原子炉サービス系の破損事故及び原子炉停止中における1次冷却系破損事故がある。

 ① 1次冷却材流量の急上昇事故

 定格出力運転中、1次系ポンプの出力が増大し、ナトリウム流量が増加した場合、冷却材の温度が下がり反応度が加わるが、原子炉は約32秒でスクラムする。その結果、炉心燃料及び特殊訴料の燃料最高温度はそれぞれ約2,630℃、約2,670℃であり、それぞれの安全基準値の燃料最高温度2,650℃、2,680℃を超えることはない。なお、冷却材は初期温度以上にはならない。

 ② 1次冷却系ポンプ出力喪失事故

 1回路のポンプが軸固着すると炉心流量は2秒後に定格の約50%まで急減する。その後は他の1回路のポンプ慣性により炉心流量は徐々に減少する。この時の冷却材最高温度は、炉心燃料及び特殊燃料についてそれぞれ約780℃、約870℃であり、安全基準値の冷却材最高温度880℃を超えることはない。なお、炉心燃料及び特殊燃料の燃料最高温度は、初期温度以上にはならない。

 ③ 原子炉サービス系の破損事故及び原子炉停止中における1次冷却系破損事故

 希ガスの放出量については、原子炉サービス系の破損事故(炉容器上部の1次アルゴンガス系配管の破損)の場合で約9.2×102Ci(γ線エネルギ0.5MeV換算、以上同様)、よう素については、原子炉停止中における1次冷却系破損事故の場合で、約7.3×10-1Ci(I-131換算、以下同様)であり、これによる被曝線量は十分小さい。

(2) 増殖炉心

 燃料温度、冷却材温度及び放射性物質の放出量に関する事故としては、それぞれ、主冷却器空気流量の急上昇事故、1次冷却系ポンプ出力喪失事故、原子炉サービス系の破損事故及び原子炉停止中における1次冷却系破損事故がある。

 主冷却器空気流量の急上昇事故時の燃料最高温度は約2,480℃となるが、安全基準値の燃料最高温度2,650℃を超えない。

 1次冷却系ポンプ出力喪失事故においては、1回路のポンプの軸固着の場合が最も厳しいが、この時の冷却材最高温度は約750℃であるので、安全基準値の冷却材最高温度880℃を超えることはない。

 希ガスの放出量については、原子炉サービス系の破損事故の場合で約7.8×102Ci、よう素については、原子炉停止中における1次冷却系破損事故の場合で、約5.5×10-1Ciであり、これによる被曝線量は十分小さい。

 4 災害評価

 原子炉施設の変更に伴う災害評価について見直しを行った。

 4.1 照射用炉心

(1) 重大事故

 重大事故としては、変更前と同様に、放射性物質の外部放出が最大になる可能性を持つ事故として、燃料集合体1体が破損して廃ガス貯留タンクに移行した放射性物質が、廃ガス貯留タンクの破損により外部に放出される事故を想定している。

 重大事故の解析条件のうち、主要な変更点は、次のとおりである。

 ① 原子炉出力の上昇によって核分裂生成物の炉内内蔵量が増大したこと。

 ② ナトリウムループを用いた炉内実験等に基づき、ナトリウム冷却材中よう素のカバーガス系に移行する割合を評価したこと。

 以上の解析条件の変更を考慮して解析した結果では、廃ガス貯留タンクから放出される放射性物質の量は、希ガス約1.4×104Ci(γ線エネルギ0.5MeV換算、以下同様)、よう素約1.1×10-1Ci(I-131換算、以下同様)である。

 大気放出に伴う被曝線量の計算は、上記の放出量をもとに「気象指針」を参考とし、1年間の気象観測データを用いて算出した相対濃度x/Q(地上放出に対して8.1×10-5sec/m3、排気筒放出に対して2.7×10-6sec/m3)、及び相対線量D/Q(地上放出に対して3.9×10-6rem/(MeV・Ci)、排気筒放出に対して1.2×10-6rem/(MeV・Ci))を用いて行われている。

 その結果、敷地外の最大となる場所において、被曝線量は、全身に対して約0.01rem、小児甲状腺に対して約0.01remである。

(2) 仮想事故

 仮想事故としては、変更前と同様、炉心溶融再臨界事故によって炉心燃料中の放射性物質が格納容器内に放出される事故を想定している。

 仮想事故の解析条件のうち、主要な変更点は、原子炉出力、炉心部の組成等の変更に伴って核分裂生成物及びプルトニウムの炉内内蔵量が増大したことである。

 解析条件の変更を考慮して解析した結果では、大気中に放出される放射性物質の量は、希ガス約1.2×105Ci、よう素約6.3×102Ci、プルトニウム約3.5×10-2Ciである。

 大気放出に伴う被曝線量の計算は、重大事故の場合と同様に「気象指針」を参考とし、1年間の気象観測データを用いて算出した相対濃度x/Q(地上放出に対して6.6×10-5sec/m3、排気筒放出に対して2.3×10-6sec/m3)及び相対線量D/Q(地上放出に対して3.2×10-6rem/(MeV・Ci)、排気筒放出に対して1.1×10-6rem/(MeV・Ci))を用いて行われている。

 その結果、敷地外の最大となる場所において、被曝線量は全身に対して約0.076rem、成人甲状腺に対して約0.73remである。また、プルトニウムによる被曝線量は、肺臓に対して約2.2mrad、骨に対して約0.3mrad、肝臓に対して約1mradである。

 また、国民遺伝線量の見地からみた全身被曝線量の積算値は、1975年の人口に対して約3.1万人・rem、2020年の推定人口に対して約4.0万人・remである。

 4.2 増殖炉心

(1) 重大事故

 重大事故の解析条件における変更点は、照射用炉心の場合と同じである。

 その結果、廃ガス貯留タンクから放出される放射性物質の量は、希ガス約1.1×104Ci、よう素約8.6×10-2Ciである。

 大気放出に伴う被曝線量の計算についても照射用炉心と同様に行われており、その結果は、全身に対して約0.0082rem、小児甲状腺に対して約0.0078remである。

(2) 仮想事故

 仮想事故の解析条件における変更点は、照射用炉心の場合と同じである。

 その解析結果によると、大気中に放出される放射性物質の量は、希ガス約1.0×105Ci、よう素約4.8×102Ci、プルトニウム約3.0×10-2Ciである。

 大気放出に伴う被曝線量の計算についても照射用炉心と同様に行われており、その結果は、全身に対して約0.066rem、成人甲状腺に対して約0.55remである。

 また、プルトニウムによる被曝線量は、肺臓に対して約1.9mrad、骨に対して約0.2mrad、肝臓に対して約0.8mradである。国民遺伝線量の見地からみた全身被曝線量の積算値は、1975年の人口に対して約2.7万人・remである。

 以上より、照射用炉心及び増殖炉心における重大事故時及び仮想事故時の全身被曝線量、甲状腺被曝線量等は、「原子炉立地審査指針を適用する際に必要な判断のめやす」及び「プルトニウムに関するめやす線量について」に示されるめやす線量を十分下回っている。

Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和52年9月19日第163回審査会において、次の委員からなる第130部会を設置した。


(審査委員)
弘田 実弥(部会長) 日本原子力研究所
秋山 守 東京大学
木村 啓造 金属材料技術研究所
武谷 清昭 日本原子力研究所
西脇 一郎 宇都宮大学
浜田 達二 理化学研究所
渡辺 博信 電力中央研究所
(調査委員)
石川 迪夫 日本原子力研究所
大久保忠恒 上智大学
佐藤 一男 日本原子力研究所
藤家 洋一 大阪大学
吉田 芳和 日本原子力研究所

同部会は、昭和52年10月6日に第1回部会を開催し、審査を開始した。以後、部会及び審査会において審査を行ってきたが、昭和53年8月21日の部会において、部会報告書を決定し、本審査会は、これを受け、昭和53年8月23日第173回審査会において本報告書を決定した。


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