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核燃料サイクル問題懇談会とりまとめ


昭和52年10月
原子力委員会
核燃料サイクル問題懇談会

まえがき

1 エネルギー需要の増大にともなって原子力発電への依存度は急速に高まりつつあり、これを支える基盤の整備が望まれているが、特に、原子力発電システムとして整合性のとれた核燃料サイクルを、可能な限り自主性をもって確立する必要がある。

 本懇談会は、核燃料サイクル確立のための方策として、原子力開発利用長期計画に示されている諸点をはじめ、核燃料サイクルに関する重要事項について、石油危機以降の情勢変化と原子力発電の進展に対応する見直しを行うため、関係産業界等の意見及び各方面における検討の成果等も参考にしつつ審議を行い、この結果を昭和51年9月、「第1次中間とりまとめ」として明らかにした。

2 その後、核兵器の拡散防止を目的として、米国における原子力政策の転換、カナダ等ウラン輸出国の規制権強化の要求等、我が国の核燃料政策に重大な影響を及ぼす動きが相次いでいる。

 特に、本年4月に発表された再処理、プルトニウムリサイクルを期限を定めずに延期するとの米国の原子力政策は、ダウンストリームの早期確立を目指す我が国の核燃料政策に重大な影響を及ぼす恐れを生じた。

3 しかし、数次に及ぶ米日間の交渉によって、原子力平和利用と核不拡散とを両立させることは可能であるとするが我が国の基本的立場は貫かれ、ダウンストリームの要となる我が国での再処理が実現することとなったことは、我が国核燃料政策を大きく前進させたと評価できる。我が国としては、この成果をもとにさらに核燃料サイクルの確立のための方策を推進させていくことが必要である。

4 このように、我が国の基本的立場が貫かれた結果、核燃料サイクル確立のための方策として、「第1次中間とりまとめ」として明らかにした諸点は、基本的にこれを変更する必要はなく、国際的動向への対応及び継続して検討を進めた事項をも加えて、国民及び民間において講ずべき具体策は本文に述べるとおりである。

5 なお、これらの提言を具体化するにあたって必要となる巨額の資金については、その確保のための特段の措置が必要とされる。

 このため長期的な視点に立っての、原子力利用の基本計画を策定し、これに基づいて、原子力開発の重要性と所要資金の確保についての国民的合意を求めることが望ましい。

核燃料サイクル問題懇談会構成員(五十音順)

原子力委員
座長石原 周夫 海外経済協力基金総裁

芦原 義重 関西電力株式会社会長

一本松珠 日本原子力発電株式会社相談役


 日本原子力産業会議副会長

正親 見一 電気事業連合会副会長

清成   動力炉・核燃料開発事業団理事長

駒井健一郎 核物質管理センター会長

左合 正雄 東京都立大学名誉教授

高島 洋一 東京工業大学教授

田中直治郎 東京電力株式会社相談役

玉置 敬三1) 日本電機工業会会長

田宮 茂文 濃縮・再処理準備会顧問

長谷川周重 経済団体連合会副会長

平塚 保明 金属鉱業事業団理事長

藤波 恒雄 原子力工学試験センター理事長


 電力中央研究所常務理事

松根 宗一 経済団体連合会エネルギー対策委員会委員長

三島 良績 東京大学教授

宗像 英二 日本原子力研究所理事長

両角 良彦 電源開発株式会社総裁

山田太三郎 元原子力委員

山本 寛 東京大学名誉教授

吉山 博吉2) 日本電機工業会会長

大川 美雄 外務省国際連合局長

井上 力3) 通商産業省資源エネルギー庁長官官房審議官

武田 康4) 通商産業省資源エネルギー庁長官官房審議官

中村 四郎5) 運輸省大臣官房審議官

真島 健6) 運輸省大臣官房審議官

伊原 義徳7) 科学技術庁原子力安全局長

牧村 信之8) 科学技術庁原子力安全局長

山野 正登 科学技術庁原子力局長

1)昭和51年5月18日から
2)5月18日まで
3)7月27日まで
4)7月27日から
5)6月2日まで
6)6月2日から
7)昭和52年7月1日まで
8)7月1日から

会合開催状況
第1回 昭和51年 4月13日
第2回  5月25日
第3回  7月2日
第4回  8月24日
第5回  9月28日
第6回 昭和52年 9月12日
第7回  10月13日

Ⅰ 国際的動向への対応

1 我が国の原子力発電は、天然ウラン及び濃縮役務の全面的な海外依存をはじめとして、原料供給の面でも、技術的にも、外国との深いかかわり合いの上に成り立っており、このため、最近における核拡散防止を目的とした一連の国際動向は、我が国の核燃料サイクルに対し、各種の制約要因となっている。

2 すなわち、動燃再処理施設の運転に関する日米交渉は、このほどようやく合意に達し、再処理の操業が開始されたが、カナダ、オーストラリア等ウラン資源国の政策による供給不安の問題は、未だ解決を見るに至らず、また使用済燃料の再処理の委託についても、国際動向が不確定要因となっている。このように、核燃料サイクルの各分野は、国際政情の動向によって、今後も少なからず影響を受ける可能性があるものと考えられる。

3 一方、核保有の潜在的能力を持つ国が増加することに対処して、核拡散を防止しつつ原子力の平和利用を推進する方途を検討するために、国際核燃料サイクル評価(INFCE)が近く発足する予定であり、我が国の核燃料サイクルの影響を与えている各種の問題の解決は、発展途上国を含めた多数国間協議の場に移されることとなった。

4 このような国際情勢に対処し、エネルギーの安定供給をはかるために原子力の開発利用を推進するという方針を貫き、NPT第4条において保証された非核兵器国の権利を確固たるものとするために、我が国の基本的立場、すなわち、原子力の平和利用と核拡散の防止とは両立し得るとの考え方について積極的に諸外国の理解と協力を得ることが必要である。

5 特に、INFCEには積極的に参加する必要があり、この検討に対しては、我が国の技術開発の成果、経験の提供等を通じて協力するとともに、核燃料サイクルを確立することによって、原子力発電の円滑な推進を図るとの、我が国の立場が反映されるよう努めることが肝要である。

6 そのほか、保障措置、核物質防護対策の強化及び核拡散防止のための技術開発、制度的検討を通じて、原子力平和利用と核拡散防止との両立をめざす国際的努力に協力していくこととする。

7 これらの国際協力と平行して他方では、自らの手による資源の探鉱・開発、技術の開発等を進め、また国産化、供給源の多様化等により、我が国の核燃料サイクルの自主性の向上に努めることが必要である。

Ⅱ 核燃料サイクル確立のための方策

1 天然ウランの確保

 ウラン資源は特定地域に偏在しており、かつ、国際大資本による寡占化の傾向がみられるうえ、市場の売手市場化、一部ウラン資源国の輸出政策の影響等も加わって供給の不安定と価値の高騰が現実の問題となっている。

 このため、ウラン資源の長期にわたる安定供給の確保を図る観点から、海外ウランの長期購入契約を引続き促進するとともに、長期的には世界における利用可能なウラン資源量の増大に寄与しつつ安定供給を確保するという考えに立って開発輸入の比率を高めていくこととし、年間所要量の1/3程度を海外自主開発によって確保することを目標とする。また、供給源の多様化を進めるとともに、供給の不安定に備えるため備蓄を行う。

 このため、
(1)国は、

イ ウラン資源国との経済協力を推進して友好関係を強化するとともに、ウランの安定供給が確保されるような国際的な全意を得るよう努める。

ロ 動燃事業団による先駆的な海外調査探鉱を一層強化拡充する。なお、動燃事業団の行う調査探鉱活動の成果の民間への円滑な引きつぎを期するため、両者の間の連絡協議を推進し、人材の交流、情報の交換を行う。

ハ 民間企業による海外探鉱開発に対し、金属鉱業事業団の成功払い融資等の助成制度の強化を図る。

ニ 低品位ウラン鉱の利用のための技術開発を推進する。

(2)民間は、

イ 鉱山業界等において、電力業界と協議しつつ海外での探鉱開発を強力に推進する。

ロ 電力業界においては、鉱山業界等が行う海外開発に協力するとともに、我が国企業が開発に成功したプロジェクトについて生産品の引取りを行う。

 ハ ウランの確保、探鉱開発の実施につき、探鉱開発関係企業及び電力会社が連絡協議を進め、必要に応じ協力して具体的事業を実施する。

(3)ウラン備蓄の具体的進め方について官民共同で検討を進める。

2 濃縮ウランの確保

 自由世界で唯一の濃縮役務供給国であるアメリカの現有3工場の供給能力は、1980年代前半に限界に達するものと見込まれるため第4工場の計画が進行中であり、また欧州各国は、濃縮技術の開発及び工場の建設計画を独自に進めている。

 自由世界の中で濃縮需要の大きい我が国としても、濃縮ウランの安定供給を図るため、将来は国産工場を建設し、新規需要の大部分を国内で賄うことを目標として技術開発を強力に進めることとする。また、供給の不安定等の事態に備えるための濃縮ウランの備蓄を行うこととし、具体的方法についての検討を進める。さらに、ウラン資源国との協力等の観点からの国際共同事業についての調査を進める。

 このため、
(1)国は、

イ 動燃事業団を中心に国のプロジェクトとして進められてきた遠心分離法によるウラン濃縮技術開発を引き続き推進することとし、昭和52年度から次の段階であるパイロットプラントの建設を進め、国産技術の確立を図る。

ロ パイロットプラントに引き続き、実証プラント、実用プラントに至る計画を策定する。

(2)民間は、

イ 遠心機の製造体制を整備する。

ロ 将来の事業化にあたっての事業主体等について検討する。

(3)濃縮ウラン備蓄の具体的進め方について、官民共同で検討を進める。

3 再処理体制の確立

 使用済燃料をできるだけ速やかに再処理して回収したウラン及びプルトニウムを再び核燃料として利用することは、ウラン資源に乏しい我が国として必要不可欠であるので、国内における再処理体制を確立していくこととし、第2再処理工場の建設・運転は、電力業界を中心とする民間が主体となって行う方針の下に、その建設の準備を進める。

 このため、

(1)電力業界、関連産業界及び関係政府機関から成る連絡協議の場を設け、動燃事業団再処理工場の成果の活用、採用技術の選定、用地・資金の確保等第2再処理工場建設のための具体策について検討する。

(2)国は、

イ 動燃事業団再処理工場の運転を通じて我が国の再処理技術の確立に努めるとともに混合抽出法の研究を含む再処理技術の改良、大型化等の研究開発を進め、また、放射能放出低減化技術、化学的転換技術、高レベル放射性廃棄物処理処分技術等の関連技術の開発を進める。

ロ 関系法規、各種基準等の整備、用地取得等に対する協力、建設資金に対する低利融資等所要の対策を検討する。

(3)民間は、

イ 電力業界を中心とし、その他関連する産業界を加えて、再処理事業の主体となる組織を設立し、再処理事業について所要の準備を進める。

ロ 第2再処理工場の建設計画を進める当たっては、同一敷地内にプルトニウム燃料の加工、高レベル放射性廃棄物処理等の施設を併設する、いわゆる核燃料パークの採用を考慮する。

ハ 再処理技術に関しては、動燃事業団等によって得られた経験と、研究開発の成果を活用するとともに、海外からの技術導入も含めた検討が必要であるが、当該再処理事業に関連する産業界は協力して技術基盤の涵養に努める。

ニ 第2再処理工場稼動までの措置としては海外委託により対処する。

4 プルトニウムの利用

 プルトニウムの利用は、高速増殖炉において最大限にその利点を発揮するが、高速増殖炉が実用化される前においても、プルトニウムを熱中性子炉にリサイクルすることにより、ウランの有効利用を図ることが考えられる。このため新型転換炉においてプルトニウム利用の実証を行うとともに、軽水炉へのプルトニウムリサイクルについても実証試験を進める。

 このため、
(1)国は、

イ プルトニウムの利用技術の研究開発を進めるとともに、新型転換炉の原型炉の建設・運転等を通じ、プルトニウム利用のための実証試験を行う。

ロ プルトニウム利用に伴う生物学的及び環境上の安全性についての研究を進めるとともに、環境への影響評価等を行う。

ハ 動燃事業団においてプルトニウム燃料加工施設の実用規模へのスケールアップのための研究開発を進める。

ニ プルトニウム利用に伴う核物質防護と保障措置について研究開発を進めるとともに、所要の法制面の整備を行う。

ホ プルトニウム燃料の熱中性子炉利用の実証試験を行う。

(2)民間は、

イ プルトニウム燃料の熱中性子炉での利用につき、実証試験計画を推進する。

ロ プルトニウム燃料加工の事業化につき、調査検討を進める。

5 放射性廃棄物の処理処分

 低レベルの放射性廃棄物については、陸地処分、海洋処分に関して早期にその処分の体系を確立させることとし、その処理処分は原則として民間において実施することとするが、本格的処分の体制については、試験的海洋処分等の結果を踏まえて検討する。

 高レベル放射性廃棄物については、出来るだけ早期に処理処分の方法を確立することを目標として国が中心となって技術開発を進めることとする。なお、処分等に要する経費は使用済燃料の発生者が負担することを原則とするが、処分(永久的な処分及びこれに代わる貯蔵)については国が責任をもつ方向で具体的方策について検討する。

 このため、
(1)国は、

イ 国民の理解と協力を得つつ、国際的な協調の下に、環境への影響評価、計画の作成等を行い、低レベル放射性廃棄物の試験的海洋処分等を実施する。

ロ 低レベル放射性廃棄物の処分に関して必要な法規の整備、基準の作成、安全評価等に関する研究開発を推進する。

ハ 高レベル放射性廃棄物の固化処理、貯蔵、地層処分等に関する研究開発推進体制を整備し、計画的に研究開発を進める。

ニ 技術開発に関する国際協力プロジェクトに参加する。

(2)民間は、

イ (財)原子力環境整備センターを中心として国と一体となり、試験的海洋処分等に係る所要の業務を進める。

ロ 放射性廃棄物の発生量の低減化、高度の減容濃縮等を推進する。

ハ 加工施設等からの低レベル放射性廃棄物の共同処理体制の整備を図る。

6 使用済燃料の輸送体制

 使用済燃料の輸送の本格化に備え、キャスク、輸送船等の輸送手段、設備の増強を行い、安全輸送体制の整備、強化を図る必要がある。

 なお、海外再処理委託に伴う海外への輸送体制についても整備を図る必要がある。

 このため、
(1)国は、

イ 核燃料安全専門審査会、核物質防護専門部会等の検討結果を踏まえ、輸送の安全確保及び防護措置に関する諸制度の一層の整備を図る。

ロ 使用済燃料の輸送につき、国民の理解と協力を得るための諸施策を行う。

(2)民間は、

イ 発電用原子炉から発生する使用済燃料の輸送体制の強化を図る。

ロ キャスク、輸送船等の輸送手段の安全性向上に必要な技術開発を行うとともに、専用港湾、陸上施設等の輸送の安全確保に必要な施設の整備を進める。

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