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東京電力株式会社福島第一原子力発電所の原子炉の設置変更(1号、2号、3号、4号、5号及び6号原子炉施設の変更)について(答申) 52原委第341号
昭和52年6月7日
内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長
昭和52年2月22日付け52安(原規)第60号(昭和52年5月18日付け52安(原規)第165号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。 記 ① 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質、及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号及び第3号については適合しているものと認める。 ② 上記許可の基準第4号については、原子炉安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。 (別添)
昭和52年5月20日
原子力委員会
委員長 宇野 宗佑 殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄
東京電力株式会社福島第一原子力発電所の原子炉の設置変更(1号、2号、3号、4号、5号及び6号原子炉施設の変更)に係る安全性について
当審査会は、昭和52年2月22日付け、52原委第118号(昭和52年5月18日付け、52原委第324号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告する。 Ⅰ 審査結果 東京電力株式会社福島第一原子力発電所の原子炉の設置変更(1号、2号、3号、4号、5号及び6号原子炉施設の変更)に関し、同社が提出した「福島第一原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(昭和52年2月8日付け、申請及び昭和52年5月12日付け、一部補正)」に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。 Ⅱ 変更内容 1 取替燃料集合体の変更(4号及び5号原子炉)
従来、4号及び5号原子炉において初装荷燃料及び取替燃料として7×7型燃料集合体を用いるとしていたが、取替燃料については、8×8型燃料集合体を使用するように変更する。 2 熱的制限値の変更(1号、2号、3号、4号及び5号原子炉)
新しい炉心熱特性評価方法を採用することに伴い、熱的制限値を変更する。 (1)最小限界出力比
(i)1号原子炉
7×7型燃料集合体 1.26
8×8型燃料集合体 1.29
(ii)2号、3号、4号及び5号原子炉
イ 第3サイクル末期までの期間、及び第4サイクル以降の各サイクルについて、サイクル初期から、サイクル末期よりさかのぼって炉心平均燃焼度で1,000MWd/t手前までの期間(早期炉心)
7×7型燃料集合体 1.22
8×8型燃料集合体 1.23
ロ 上記以外の期間(平衡炉心末期)
7×7型燃料集合体 1.24
8×8型燃料集合体 1.28
3 固体廃棄物貯蔵設備の使用方法及び貯蔵能力の変更(1号、2号、3号、4号、5号及び6号原子炉)
(1)高放射性固体廃棄物貯蔵設備(プール式サイトバンカー)を1基新設する。この貯蔵設備は、1号、2号、3号、4号、5号及び6号原子炉と共用し、貯蔵能力を約5年分にする。 (2)地下使用済樹脂貯蔵タンク及び地下廃スラッジ貯蔵タンクをそれぞれ1基増設する。これらの貯蔵タンクは、1号及び2号原子炉と共用し、貯蔵能力をそれぞれ約10年分に変更する。(変更前は、それぞれ約5年分)
4 使用済燃料プールの貯蔵能力の変更(1号、2号及び3号原子炉)
1号、2号及び3号原子炉の使用済燃料プールの貯蔵能力を約225%炉心分に変更する。(変更前は、いずれも約150%炉心分)
Ⅲ 審査内容 1 取替燃料集合体の変更
4号および5号原子炉において取替燃料として8×8型燃料集合体を採用することに伴い、以下の検討を行った。 (1)8×8型燃料集合体の構造
本燃料集合体は、初装荷燃料として用いられる7×7型燃料集合体と混用できるように構造設計がなされているものである。その詳細は、原子炉安全専門審査会が昭和49年12月25日に採択した「沸騰水型原子炉に用いられる8行8列型の燃料集合体について」(8×8型燃料検討報告書)に記載のものとほぼ同様である。 本原子炉に用いる8×8型燃料集合体の構造設計については、すでに同検討報告書において評価が行われているとおりであり、問題はない。 (2)核熱水力特性
7×7型燃料集合体で構成される炉心に通常の取替計画に従って8×8型燃料集合体を装荷していく過程で生ずる混在炉心及び8×8型燃料集合体のみから構成される平衡炉心において、局所ピーキング係数等に相違はあるが燃料集合体の無限増倍率、反応度係数等は従来の7×7型燃料集合体の場合と有意な差が生じないことを確認した。 また、最大過剰増倍率の変更については、十分な反応度制御能力があることを確認しており、妥当なものと判断する。 熱水力特性上の重要な特性値であるMCPRは、過渡時に限界値を下まわらないように、通常運転時の制限値が確保されることを確認した。 (3)安定性
炉心の安定性に影響を及ぼす因子としての核熱水力特性は、7×7型及び8×8型いずれの燃料集合体を使用した場合でも大差がなく、熱水力特性のうち炉心圧力損失及び燃料伝熱時定数は多少異なるが、8×8型燃料集合体の諸特性値は、燃焼等に基づく7×7型燃料集合体の諸特性値の変動幅のなかに入っているか、あるいは有意な差がない。また、混在炉心及び平衡炉心について、チャンネル水力学的安定性及び炉心安定性の解析を行った結果からいずれの場合においても特に問題となることはなく、さらにプラント安定性についても外乱を与えて解析した結果は十分な安定性を有している。 したがって、これらの安定性は混在炉心、平衡炉心のいずれにおいても問題となることはなく、かつ、キセノン空間振動についても本原子炉が有する出力係数は十分負の値であり、空間振動を抑制することが可能であると判断する。 (4)事故解析
今回、取替燃料の変更と共に解析方法及び前提条件にも各種の変更があったので、これらも含めて万一の事故を想定した場合について原子炉施設の安全性を確認するために評価を行った。 (イ)制御棒落下事故
本解析を行うに際しての主要な入力値は、制御棒の落下速度及び落下制御棒の印加反応度である。本解析は従来と相違した次の値を採用している。 制御棒落下速度は落下速度リミッタによる0.95m/sを用いる。落下制御棒の印加反応度については、実際に予想されるよりも保守的な落下制御棒価値曲線と制御棒価値ミニマイザによる制限値である0.013Δkの反応度価値を用いる。その他にもスクラム制御棒の炉心挿入速度、局所ピーキング係数等に変更はあるが、これらは、いずれも従来より詳細な解析及び評価の結果に基づいて変更されたものであり妥当である。 これらの条件に基づき、最大反応度価値を有する制御棒1本が炉心から落下する事故を想定して解析した結果から、一次冷却材圧力バウンダリの健全性は十分維持されると判断する。 (ロ)冷却材喪失事故
冷却材喪失事故時の炉心冷却については、昭和50年5月13日に原子力委員会が決定した「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」に基づいて評価を行った。8×8型燃料集合体は燃料棒の最高線出力密度が7×7型燃料集合体より大幅に低下していることから熱的余裕が大きく、冷却材喪失事故時の炉心冷却に関する安全余裕は十分確保される。 すなわち、燃料に対して最も厳しい結果を与える再循環系の最大口径配管1本の完全両端破断を想定した場合について解析した結果によれば、燃料被覆管最高温度は、7×7型燃料集合体が存在する期間では約1,183℃及び全炉心が8×8型燃料集合体となった場合は約1,082℃であり、また燃料被覆管が局所的に酸化される部分の最大値は、それぞれ被覆管厚さの約8%と約2%である。 したがって、これらの解析結果は制限値である被覆管最高温度1,200℃及び局所的酸化量15%を下まわると共に、燃料の大破損を防止でき、かつ、長期的な炉心冷却を確保することができると判断する。 (ハ)主蒸気管破断事故
冷却材喪失事故の場合と同様、主蒸気管破断事故時にも8×8型燃料集合体は7×7型燃料集合体の場合と比較して熱的余裕が増加している。 主蒸気管1本の瞬時完全破断を想定して解析を行った結果によれば7×7型燃料集合体、8×8型燃料集合体のいずれについてもMCPRは事故期間を通じて限界値を下まわることはなく、燃料被覆管に損傷が生じる恐れはないと判断する。 2 熱的制限値の変更
新しい炉心熱特性評価方法を採用することに伴い、熱水力特性及び過渡現象解析結果の検討を行って熱的制限値の妥当性を確認した。 (1)熱水力特性
本変更は、新しい炉心熱特性評価方法を採用することに伴うものであるが、この手法の詳細は、原子炉安全専門審査会が昭和51年2月16日に採択した「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法について」(炉心熱設計検討報告書)に記載のとおりである。 本原子炉の熱水力特性を同検討報告書に基づいて評価した結果、問題はないと判断する。 (2)過渡現象解析
通常運転時の熱的制限値を定めるため過渡現象解析に基づき最小限界出力比(以下MCPRという)の変化(以下ΔMCPRという)を評価し、最大のΔMCPRを生ずる過渡変化を確認した。 この解析の詳細は、原子炉安全専門審査会が昭和52年2月23日に上記検討報告書の追補として採択した「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法の適用について」に記載のとおりである。 (イ)1号原子炉
本原子炉において最大のΔMCPRを生ずる過渡変化は発電機負荷しゃ断(バイパス弁不動作)でありΔMCPRは7×7型燃料集合体については0.20、8×8型燃料集合体については0.23である。したがって通常運転時のMCPR制限値をそれぞれ1.26及び1.29とすることにより、過渡変化時のMCPRは限界値1.06を下まわらない。 (ロ)2、3、4、5号原子炉
本原子炉において最大のΔMCPRを生ずる過渡変化は、早期炉心については給水加熱喪失、また平衡炉心末期についてはタービントリップ(バイパス弁不動作)でありΔMCPRはそれぞれ7×7型燃料集合体については0.16及び0.18、8×8型燃料集合体については0.17及び0.22である。したがって通常運転時のMCPR制限値をそれぞれ7×7型燃料集合体については1.22及び1.24、8×8型燃料集体合については1.23及び1.28とすることにより、過渡変化時のMCPRは限界値1.06を下まわらない。 また解析前提条件の変更に伴い原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性についても確認した。 その結果、原子炉圧力が最大となるのはタービントリップ(バイパス弁不動作)であり、早期炉心での最大圧力は約80.9㎏/㎝2g、また平衡炉心末期での最大圧力は約83.7㎏/㎝2gである。これらの値は設計圧力の1.1倍の圧力(92.8㎏/㎝2g)を下まわっており、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は維持される。 3 固体廃棄物貯蔵設備の使用方法及び貯蔵能力の変更
(1)高放射性固体廃棄物貯蔵設備
本貯蔵設備の建物は、4号原子炉の南南西方向約180mの地点に建設される。この建物内には、貯蔵プール(全容積約4,300m3)、貯蔵プール水処理系、移送容器置場などが設けられる。 本貯蔵設備の貯蔵プールは、1号、2号、3号、4号、5号及び6号原子炉から発生する高放射性固体廃棄物の約5年分を貯蔵することができる能力を有している。貯蔵される高放射性固体廃棄物は、使用済制御棒、チャンネルボックスなどであるが、貯蔵プール深さを約11mにして遮蔽効果を高めている。また、貯蔵プール内壁には、ステンレス鋼板がライニングされ、万一ライニングの損傷が生じても漏洩を検知することができるようになっている。 (2)地下使用済樹脂貯蔵タンク及び地下廃スラッジ貯蔵タンクの増設
本貯蔵タンクは1,2号原子炉の既設共用貯蔵タンク室に隣接してそれぞれの貯蔵室を建設し、貯蔵タンクをそれぞれ1基増設する。 地下使用済樹脂貯蔵タンク及び地下廃スラッジ貯蔵タンクは、それぞれ約200m3及び約500m3の容量を有し、ステンレス鋼で製作される。これらの貯蔵タンクは、1号及び2号原子炉と共用し、既設貯蔵タンクと合せて、発生推定量の10年分を貯蔵することができる能力を有している。 なお、貯蔵された使用済樹脂及び廃スラッジは、必要に応じて固化剤と混合し、ドラム缶に詰め、固体廃棄物貯蔵庫に保管される。 以上のことから、本固体廃棄物貯蔵設備の使用方法及び貯蔵能力については特に問題がないものと判断する。 4 使用済燃料プールの貯蔵能力の変更
本変更は、従来からの使用済燃料プールの基本的な設計方針を変えない範囲で1号、2号及び3号原子炉の使用済燃料プールの貯蔵能力を約225%炉心分に増加するものである。 この貯蔵能力増加に伴う未臨界性は、仮に新燃料を装荷したとしても十分に保たれる。また、使用済燃料プール水は、既設の冷却系により十分冷却される能力を有している。 以上のことから本変更は、問題がないものと判断する。 Ⅳ 審査経過 本審査会は、昭和52年2月23日第156回審査会において、審査を開始し、同年5月20日第159回審査会において審査を行い、本報告書を決定した。 |
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