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四国電力株式会社伊方発電所の原子炉の設置変更(2号炉増設)について(答申)


52原委第127号
昭和52年3月25日

内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長

 昭和50年6月10日付け50原第5188号(昭和52年1月27日付け52安(原規)第14号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。

 標記に係る変更の許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項で準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準に係る適合性に関する意見は次のとおりであり、各基準に適合しているものと認める。

核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に掲げる許可の基準の適合に関する意見

(平和利用)

1 この原子炉は、商業発電のために用いるものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的遂行)

2 この原子炉の設置は、「原子力開発利用長期計画」に定める方針にのっとっており、将来のエネルギー供給の安定を図るうえで十分な意義を有するものであると考えられるので、この原子炉の設置がわが国の原子力開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)

3 この原子炉の設置に要する資金は、自己資金、社債、日本開発銀行を含む国内金融機関からの借入れ等により調達する計画になっており、申請者の総合的経理能力および原子炉設置のための資金計画からみて、原子炉を設置するために必要な経理的基礎があるものと認める。

(技術的能力)

4 別添の原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり、この原子炉を設置し、かつ、その運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

(災害防止)
5 原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり、この原子炉の位置、構造および設備は、核原料物質、核燃料物質によって汚染された物または原子炉による災害の防止上支障がないものと認める。(別添参照)

(別添)

昭和52年2月23日
原子力委員会
委員長 宇野 宗佑 殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄
四国電力株式会社伊方発電所の原子炉の設置変更(2号炉増設)に係る安全性について

 当審査会は、昭和50年6月10日付け50原委第274号(昭和52年1月27日付け52原委第46号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査結果

 四国電力株式会社伊方発電所の原子炉の設置変更に関し、同社が提出した「伊方発電所原子炉設置変更許可申請書(2号炉増設)」(昭和50年5月30日付け申請、昭和52年1月20日付け一部補正)に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 審査方針

 当審査会は、次のような考え方及び方針のもとに審査を進めた。

1 審査にあたっては、本原子炉の通常運転時は勿論、地震、機器の故障及びその他の異常時においても、一般公衆及び従事者に対して放射線障害を与えず、かつ、万一の事故を想定した場合にも、一般公衆の安全が確保されるべきであることを基本方針とした。

2 審査を行うに際しては、原子力委員会がこれによるべきであると指示した「原子炉立地審査指針およびその適用に関する判断のめやすについて」(昭和39年5月)、「軽水炉についての安全設計に関する審査指針について」(昭和45年4月)及び「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針について」(昭和50年5月)への適合性を検討した。また、平常時の許容被曝線量及び放射性物質の放出管理については、「原子炉の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき、許容被曝線量等を定める件」(昭和35年9月科学技術庁告示第21号)に適合することのほか、原子力委員会が定めた「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について」(昭和50年5月)及び「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」(昭和51年9月)への適合性についても検討した。

 なお、原子力委員会原子炉安全技術専門部会の各小委員会で現在検討中の事項のうち、現時点で適用できる範囲については可能な限り審査に反映することとした。

3 審査を行うに際しては、四国電力株式会社伊方発電所原子炉設置変更許可申請書(2号炉増設)及び添付書類などに基づき、当該原子炉設置変更の許可段階における基本的設計方針が、安全上から見て妥当であるかどうかを検討した。この基本的設計方針は、今後の詳細設計、施工、検査及び運転の階段においても堅持されることが法令上前提となっているものである。

4 また、前述の審査方針に加えて、本変更が1号炉と基本的に同型同出力の原子炉を増設するものである点に鑑み、本原子炉の設置される場所の地質地盤、1号炉との周辺に対する平常時被曝の重畳効果、1号炉との設計上の相違点など、新しく考慮されるべき要因に重点を置いて審査を行うこととした。

 更に、先行炉における運転経験から重要と思われる事項について考慮するとともに、非常用炉心冷却系の性能評価については、別途にチェック計算の行える体制が整備されたのでこれを行うこととした。

Ⅲ 変更の内容

 四国電力株式会社伊方発電所の原子炉設置変更許可の申請に関し、四国電力株式会社が提出した原子炉設置変更許可申請書(2号炉増設)及び添付書類などによれば、この原子炉設置変更の概要は次のとおりである。

1 概要

 この変更は、愛媛県西宇和郡伊方町に所在する伊方発電所に既に建設を行っている1号炉に隣接して、同型同出力の濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却型(加圧水型)、熱出力約1,650MW(電気出力約566.5MW)の原子炉1基が2号炉として設置されるものである。

 本原子炉は、2ループの加圧水型原子炉であって、既に運転中の玄海原子力発電所1号炉並びに建設中の伊方発電所1号炉及び玄海原子力発電所2号炉と同型同熱出力のものである。

 伊方発電所は、愛媛県の西部にある佐田岬半島の基部の北側海岸にあり、伊予灘に面している。

 発電所の敷地面積は、約75万㎡であり、そのうち約16万㎡は標高約10mに造成され、原子炉格納施設、原子炉補助建家及びタービン建家などの主要構造物が設置される。

 2号炉の炉心の位置は、1号炉の炉心から南方向約109mの所であり、2炉号の原子炉本体の中心から発電所の敷地境界までの最短距離は、南南東方向で約630mである。

 本原子炉施設は、原子炉本体、原子炉冷却統施設、原子炉格納施設、核燃料物質の取扱施設及び貯蔵施設、計測制御系統施設、放射性廃棄物の廃棄施設、放射線管理施設などから構成される。

2 原子炉及び炉心

 原子炉及び炉心は、原子炉容器、燃料集合体、炉内構造物、制御棒クラスタ、制御棒クラスタ駆動装置などから構成される。

 炉心は121体の燃料集合体を円柱状に配列して構成される。初装荷炉心では、炉心を3領域に分け、3つの異った濃縮度のもつ(約2.3wt%、約3.0wt%、約3.4wt%)が採用され、取替炉心では、約3.3wt%の濃縮度のものが採用される。

2.1 燃料集合体

 燃料棒は、低濃縮二酸化ウラン焼結ペレットをジルカロイ-4被覆管に装入し、上部にステンレス鋼コイルバネを入れ両端にジルカロイ-4端栓を溶接した密封構造のもので、ヘリウムガスが加圧封入されている。

 燃料棒の主要寸法は、燃料棒外径約11㎜、燃料棒有効長さ約3.7m及び被覆管厚さ約0.6㎜である。

 燃料集合体を構成する燃料棒などの配列は、14行14列であるが、そのうち16本が制御棒クラスタ案内シンブル、1本が必要に応じて炉内計測に使用される炉内計装用案内シンブルであり、残り179本が燃料棒である。

2.2 炉内構造物

 燃料集合体を支持する炉内構造物は、大別して上部炉心支持構造物と下部炉心支持構造物から構成される。

 上部炉心支持構造物は、制御棒クラスタ案内管、上部炉心支持板、上部炉心支持柱、上部炉心板などから構成される。

 下部炉心支持構造物は、下部炉心板、下部炉心支持柱、下部炉心支持板、炉心槽、炉心バッフル板、熱遮蔽体などから構成される。

2.3 反応度制御設備

 反応度制御は、制御棒クラスタの操作及び化学体積制御設備を使用した1次冷却材中のほう素濃度調整の独立した2つの方法によって行われる。これらの制御方式に加えて、減速材温度係数を負にするためバーナブル・ポイズンが使用される。

 制御棒には、中性子吸収材である銀・インジウム・カドミウム合金を全長にわたって配置した制御棒と軸方向出力分布の調整ができるよう下方約1/4に中性子吸収材を配置し、上方約3/4に中性子吸収効果の小さい補強材を配置した出力分布調整用制御棒があり、同種の制御棒を16本束ねて制御棒クラスタを構成する。

 炉心内の燃料集合体のうち、制御棒クラスタは29体に挿入され、出力分布調整用制御棒クラスタは4体に挿入される。

 制御棒クラスタは、高温零出力から高温全出力にわたる出力の変化に伴う反応度変化を制御するもので、磁気ジャック式駆動装置により駆動され、原子炉スクラム時には自重により炉心に挿入される。

 化学体積制御設備は、1次冷却材中のほう素濃度調整により、低温から高温零出力までの1次冷却材温度変化に伴う反応度変化、キセノン、サマリウムなどによる反応度変化、燃料の燃焼による反応度変化などを制御する。

 バーナブル・ポイズンは、ほうけい酸ガラス管をステンレス鋼で被覆しクラスタ状に成形したもので、燃料集合体の制御棒クラスタ案内シンブルに挿入される。初装荷炉心のバーナブル・ポイズン棒の総数は、約700本で炉心全体に分布して配置される。また、取替炉心においても必要に応じて使用される。

3 1次冷却設備

 1次冷却設備は、原子炉容器、蒸気発生器、1次冷却材ポンプ、加圧器、1次冷却材配管及び弁類などから構成され、原子炉格納容器内に設置される。

3.1 原子炉容器

 原子炉容器は、上部及び底部が半球形のたて置円筒形で円筒部内径約3.3m、内のり全高約11.2m、最小肉厚約11㎝である。胴円筒部上部には1次冷却材出入口ノズル及びコア・デルージ・ノズル、上部鏡板部には制御棒クラスタ駆動装置用ノズル、更に下部鏡板部には炉内核計装用ノズルが設けられる。

 原子炉容器内には燃料、炉内構造物、制御棒クラスタなどが収容される。

 原子炉容器の本体は、低合金鋼及び低合金鍛鋼が用いられ、内面の1次冷却材と接触する部分はステンレス鋼で内張りされる。

 原子炉容器の設計圧力及び設計温度は、それぞれ175㎏/㎝2G及び343℃である。

3.2 蒸気発生器

 蒸気発生器は、胴部外径最大約4.5m、全高約21mのたて置U字管式の熱交換器であり、1次冷却材が出入する水室部と2次側水が出入する胴側からなる。胴側には外径約22.2㎜の伝熱管約3,380本及びドライヤなどが内蔵され、伝熱管内を1次冷却材が流れる。水室部には1次冷却材出入口ノズルが設けられ、胴側には給水ノズル及び蒸気出口ノズルなどが設けられる。

 蒸気発生器本体は、低合金鋼、低合金鍛鋼及び鋳鋼が使用され、伝熱管にはニッケル・クロム・鉄合金が使用される。また、水室はステンレス鋼が内張りされる。

 なお、蒸気発生器の2次側水は腐食防止のため適切な水質管理が行われ、更に2次側ブロー・ドレンは、放射線モニタで連続的に監視され、万一放射性物質が検出された場合には、ブローダウンを自動的に停止し、また系統の切替によってブローダウン・タンクのドレンは、放射性廃棄物廃棄施設に送られ処理される。

3.3 1次冷却材ポンプ

 1次冷却材ポンプは、漏洩制御軸封式たて置斜流型ポンプであり、その容量は約20,200m3/h/台である。

 1次冷却材ポンプは、十分な炉心冷却流量が確保できるように設計される。ポンプは直結された三相誘導電動機によって駆動され、電源が喪失した場合でも回転慣性モーメントにより過渡期間中に十分な流量が保たれるように設計される。

 更に、逆転防止装置を設け、ポンプ1台運転中でも他の停止中のポンプが逆回転しないように設計される。

3.4 加圧器

 加圧器は、たて置円筒上下半球鏡容器で、材料は低合金鋼を使用し内面はステンレス鋼で内張りされる。

 原子炉施設の通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時における1次冷却材の圧力変化を許容範囲内に制限するとともに、最高許容圧力を超えないよう、加圧器には電熱器、サージ管及びスプレイ配管、安全弁及び逃し弁などが設けられる。

3.5 配管及び弁類

 1次冷却材主配管にはステンレス鋼が使用され、接続部はすべて溶接によって接続される。

 この1次冷却材主配管のうち、通常運転中1次冷却材との温度差によって大きな熱応力が発生する可能性のある加圧器サージ管、化学体積制御設備からの充てん配管などの取付け部にはその熱応力を軽減するためサーマルスリーブが設けられる。

 1次冷却系に使用される弁のうち、1次冷却材に接する主要部分にはすべてステンレス鋼が使用される。

4 工学的安全施設

 工学的安全施設は、非常用炉心冷却設備、原子炉格納施設、原子炉格納容器スプレイ設備及びアニュラス空気再循環設備から構成される。

4.1 非常用炉心冷却設備

 非常用炉心冷却設備は、蓄圧注入系、高圧注入系及び低圧注入系の3つの系統から構成される。

 蓄圧注入系は、蓄圧タンク、配管及び弁から構成され、1次冷却系の圧力が蓄圧タンクの保持圧力(約50㎏/㎝2G)以下に低下すると逆止弁が開き、蓄圧タンク内のほう酸水を自動的に1次冷却材回路の低温側から炉心に注入する系統である。この系の作動は、逆止弁の自動開放によるため電源などの駆動源を必要としない。

 高圧注入系は、高圧注入ポンプ、ほう酸注入タンク、配管及び弁から構成され、非常用炉心冷却設備作動信号により、燃料取替用水タンクのほう酸水を1次冷却材低温側配管及びコア・デルージ・ノズルから炉心に注入する系統である。なお、1次冷却材低温側配管に注入する経路にはほう酸注入タンクが設けられ、注入初期に高濃度のほう酸水が注入されるようになっている。高圧注入ポンプは、非常用電源にも接続される。

 低圧注入系は、低圧注入ポンプ、余熱除去冷却器、配管及び弁から構成され、非常用炉心冷却設備作動信号により、燃料取替用水タンクのほう酸水をコア・デルージ・ノズルから炉心に注入する系統である。低圧注入ポンプは、非常用電源にも接続される。

 また、高圧注入ポンプ及び低圧注入ポンプには燃料取替用水タンクからほう酸水が供給されるが、燃料取替用水タンクの水位が低下すると原子炉格納容器サンプに切り換え、長期にわたり炉心冷却を継続するようになっている。

4.2 原子炉格納施設

 原子炉格納施設は、原子炉格納容器、外周コンクリート壁及びその付属設備から構成される。

 原子炉格納容器は、内径約33m、全高約67mの上部半球下部皿形鏡円筒型の炭素鋼製の容器である。

 原子炉格納容器の設計圧力及び設計温度は、それぞれ、2.45㎏/㎝2G及び141℃であり、漏洩率は常温空気設計圧力において、容器内容積の0.1%/d以下である。

 外周コンクリート壁は、原子炉格納容器より約3m大きい内径を持ち、円筒上部ドーム型の鉄筋コンクリート造であり、ドーム部厚さは約20~60㎝、円筒部厚さは約70~90㎝、また地上高さは約67mである。

 外周コンクリート壁円筒部と原子炉格納容器円筒部との間の下部にはアニュラス部という閉空間げ設けられる。

4.3 原子炉格納容器スプレイ設備

 原子炉格納容器スプレイ設備は、格納容器スプレイポンプ、格納容器スプレイ冷却器及びよう素除去薬品タンクなどから構成される。

 本設備は、格納容器スプレイ作動信号によって自動作動し、燃料取替用水タンクの水をよう素除去薬剤とともに、原子炉格納容器内にスプレイさせるものである。格納容器スプレイポンプは、非常用電源にも接続される。

 また、格納容器スプレイポンプには燃料取替用水タンクからほう酸水が供給されるが、燃料取替用水タンクの水位が低下すると、原子炉格納容器サンプに切り換え、長期にわたり原子炉格納容器内にスプレイするようになっている。

4.4 アニュラス空気再循環設備

 アニュラス空気再循環設備は、アニュラス排気ファン及びフィルタユニットなどから構成される。

 本設備は、非常用炉心冷却設備作動信号により自動作動し、アニュラス部の排気を行って負圧を達成し、その後、アニュラス部の空気を浄化再循環させるが、一部を負圧維持のため原子炉格納容器排気筒から放出させる。再循環ファンは、非常用電源にも接続される。

5 原子炉補助施設

 原子炉補助施設は、化学体積制御設備、余熱除去設備、原子炉補機冷却水設備、原子炉補機冷却海水設備、燃料取扱及び貯蔵設備、使用済燃料ピット水浄化冷却設備並びに試料採取設備から構成される。

5.1 化学体積制御設備

 化学体積制御設備は、体積制御タンク、充てんポンプ、再生熱交換器、脱塩塔、1次系薬品タンク、フィルタ、ほう酸タンク、配管及び弁などから構成される。

 本設備は、1次冷却設備中の冷却材保有量の保持、反応度制御のためのほう素濃度の調整、冷却材の浄化などのために設けられる。

5.2 余熱除去設備

 余熱除去設備は、余熱除去冷却器、余熱除去ポンプ、配管及び弁から構成される。

 本設備は、原子炉停止時に炉心の崩壊熱と顕熱を除去するなどのために設けられる。

 更に、運転中にあっては非常用炉心冷却設備の低圧注入系として待機状態におかれる。

5.3 原子炉補機冷却水設備

 原子炉補機冷却水設備は、原子炉補機冷却水ポンプ、原子炉補機冷却水冷却器、原子炉補機冷却水サージタンク及び配管から構成される。

 本設備は、余熱除去冷却器、格納容器スプレイ冷却器、使用済燃料ピット冷却器、1次冷却材ポンプ及び格納容器スプレイポンプなどの原子炉補機に冷却水を供給するために設けられる。

5.4 原子炉補機冷却海水設備

 原子炉補機冷却海水設備は、海水ポンプ、配管及び弁から構成される。

 本設備は、原子炉補機冷却水冷却器、ディーゼル発電機などを海水で冷却するために設けられる。

5.5 燃料取扱及び貯蔵設備

 燃料取扱及び貯蔵設備は、新燃料貯蔵庫、燃料取扱設備及び使用済燃料ピットから構成される。

 新燃料貯蔵庫の貯蔵容量は、1回取替分である1/3炉心相当数に余裕を持たせたものである。

 燃料取扱設備は、燃料取替クレーン、燃料移送装置、使用済燃料ピットクレーン、新燃料エレベータなどから構成される。

 使用済燃料ピットは、ステンレス鋼板で内張りされ、更に、漏洩を検知するために漏洩検知装置が設けられ、また水位警報装置が設けられる。

 使用済燃料ピットの貯蔵容量は、約11/3炉心分である。

5.6 使用済燃料ピット水浄化冷却設備

 使用済燃料から発生する崩壊熱の除去、ピット水の浄化及びピット水面に浮遊する不純物の除去を行うために使用済燃料ピット水浄化冷却設備が設けられる。

5.7 試料採取設備

 試料採取設備は、原子炉施設の主要各所から1次冷却材などの試料を採取し、化学的及び放射化学的性質を分析評価するために設けられる。

6 計測制御系統施設

 計測制御系統施設は、原子炉計装、プロセス計装、原子炉制御設備、原子炉保護設備、工学的安全施設作動設備及び中央制御室から構成される。

6.1 原子炉計装

 原子炉計装は、炉外核計装、炉内計装、停止余裕監視装置及び制御棒クラスタ位置指示計装から構成される。

 炉外核計装は、原子炉停止状態から定格出力の120%までの原子炉出力を監視するために設けられる。

 炉内計装は、燃料集合体の出口温度及び燃料集合体の軸方向中性子束を測定するために設けられる。

 停止余裕監視装置は、通常運転時の原子炉停止余裕を維持するため、制御棒クラスタ位置の挿入下限を監視するために設けられる。

 制御棒クラスタ位置指示計装は、各制御棒クラスタ位置及びバンク毎の位置を常に監視するために設けられる。

6.2 プロセス計装

 プロセス計装は、1次冷却系計装、化学体積制御系計装、主蒸気及び給水系計装、その他の計装から構成される。

 これらの計装は、プロセスの温度、圧力、流量、水位、電導度などを測定するために設けられる。

6.3 原子炉制御設備

 原子炉制御設備は、制御棒クラスタ制御系、ほう素濃度制御系、加圧器圧力制御系、加圧器水位制御系、給水制御系、主蒸気ダンプ制御系及び主蒸気逃し弁制御系から構成される。

 制御棒クラスタ制御系は、原子炉停止、原子炉出力制御及び出力分布調整のために設けられる。

 ほう素濃度制御系は、化学体積制御設備を使用して、1次冷却材のほう素濃度を調整するために設けられる。

 加圧器圧力制御系は、過度時の1次冷却系の圧力変化を制御するために設けられる。

 主蒸気ダンプ制御系は、蒸気発生器によって発生する蒸気をタービンをバイパスして直接復水器へダンプするために設けられ、定格負荷の約40%に相当する蒸気をバイパスする能力を持っている。

6.4 原子炉保護設備

 原子炉保護設備は、種々のパラメータを監視する2重ないし4重チヤンネルの検出器を含む計測回路と、それから入力を受信し、原子炉スクラム遮断器を自動的に開くための2重トレインの論理回路から構成される。

6.5 工学的安全施設作動設備

 工学的安全施設作動設備は、原子炉施設の主要なパラメータを監視する多量の計測回路と、それから信号を受けて工学的安全施設などを作動させる多重の論理回路から構成される。

6.6 中央制御室

 中央制御室は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時に必要な集中監視及び制御を行うために設けられる。

 なお、何らかの原因で中央制御室に接近できない場合に備えて、中央制御室外原子炉停止装置が設けられる。

7 電気施設

 発電所で発生した電力は、187KV送電線2ルート4回線で、約28㎞離れた大洲変電所に送電される。

 187KV送電線は、4回線同時事故を少なくするよう不平衡絶縁とされるが、4回線とも停電した場合に備えて予備の外部電源として、約16㎞離れた八幡浜変電所からの66KV送電線が設置されている。

 発電所内には、非常用電源としてディーゼル発電機及び蓄電池が設けられる。

 ディーゼル発電機は、外部電源が完全に喪失した場合に、発電所を安全に停止するために必要な電力を供給し、更に、工学的安全施設作動のための電力を供給するように設計される。

 ディーゼル発電機は、2台設けられ、おのおの非常用母線に接続され、それぞれ独立した部屋に設置される。

 蓄電池は、発電所の安全に必要な直流電源設備として2組設置され、それぞれ独立した部屋に設置される。

8 タービン及び付属設備

 タービン及び付属設備は、主蒸気系統、タービン、復水設備、給水設備などから構成される。

 タービンは、串型3車室4分流排気再熱再生式、回転数1,800rpmの発電機直結式で、定格出力は566.5MWである。

 タービンの負荷が急減した時に、余剰の蒸気を復水器へダンプするために主蒸気ダンプ系が設けられる。

 また、このほか、主蒸気逃し弁及び主蒸気安全弁が設けられる。

 給水設計は、主給水ポンプ、補助給水ポンプなどから構成される。

 蒸気発生器への通常の給水は、主給水ポンプ(50%容量3台、うち1台は予備)により行われるが、外部電源喪失などにより、これらのポンプが使用できない場合には、補助給水ポンプ(タービン駆動1台、電動機駆動2台)により給水される。

 復水器空気抽出器の排気は、排気管から大気中に放出されるが、放射線モニタで連続的に監視されるようになっている。万一、放射性物質が検出された場合は、弁の自動切替によりチャコール・フィルタを通して排気筒へ導かれる。

9 放射性廃棄物廃棄施設

 放射性廃棄物廃棄施設は、気体廃棄物処理設備、液体廃棄物処理設備及び固体廃棄物処理設備から構成される。

9.1 気体廃棄物処理設備

 気体廃棄物処理設備は、窒素廃ガス処理系統及び水素廃ガス処理系統から構成される。

 窒素廃ガス処理系統は、ガス圧縮装置、ガス減衰タンクなどから構成される。

 窒素廃ガス処理系統は、主として冷却材貯蔵タンクなどにシール用として充てんされている窒素ガス及び各機器からベントされる窒素系廃ガスを処理するために設けられる。

 窒素系廃ガスは、ガス圧縮装置で圧縮し、ガス減衰タンク(約15m3容量4基)に一時貯蔵し、原則として冷却材貯蔵タンクのカバーガスとして再使用されるが、放出する場合は、ガス減衰タンクに一定期間貯蔵して放射能を減衰させる。

 水素廃ガス処理系統は、水素廃ガス圧縮器、水素分離装置、水素廃ガス貯蔵タンクなどから構成される。

 水素廃ガス処理系統は、体積制御タンクから連続パージされた水素とともに抽出される冷却材中の放射性ガス(主に希ガス)を処理するために設けられる。

 水素廃ガスは、水素廃ガス圧縮機で圧縮され、水素分離装置(パラジウム合金膜水素分離方式)で放射性ガスと純水素とに分離される。分離された放射性ガスは、水素廃ガス貯蔵タンクに貯蔵される。

 なお、この水素廃ガス処理系統は2号炉で設置され、1号炉と共用される。

9.2 液体廃棄物処理設備

 液体廃棄物処理設備は、ほう酸回収系統、A廃液処理系統、B廃液処理系統及び洗浄排水処理系統から構成される。

 それぞれの系統は、蒸発器、脱塩塔などからなり、その処理水は、水質及び放射性物質の濃度を確認した後、再使用、再処理または所外放出が行われる。

 ほん酸回収系統は、冷却材貯蔵タンクに集められる1次冷却材中のほう素濃度を変更する際の抽出水、格納容器冷却材ドレン及び補助建家冷却材ドレンを処理するために設けられる。

 A廃液処理系統は、廃液貯蔵タンクAに集められる再使用可能な補助建家機器ドレンを処理するために設けられる。

 B廃液処理系統は、廃液貯蔵タンクBに集められる再使用不適当な補助建家機器ドレン(低水質)、床ドレン及び中和後の脱塩塔再生廃液を処理するために設けられる。

 洗浄排水処理系統は、洗浄排水タンクに集められる洗たく排水、手洗排水及びシャワー排水を処理するために設けられる。

 なお、この洗浄排水処理系統は2号炉で設置され、1号炉と共用される。

9.3 固体廃棄物処理設備

 固体廃棄物処理設備は、ドラム詰装置、使用済フィルタ取扱装置、ベイラ、使用済樹脂貯蔵タンク、固体廃棄物貯蔵庫などから構成される。

 ドラム詰装置は、固体廃棄物の発生量の減少を図るためにアスファルト固化方式が採用される。

 なお、本アスファルト固化方式ドラム詰装置と1号炉で設置されたセメント固化方式ドラム詰装置は、いずれも1、2号炉共用設備とし、濃縮液のドラム詰は原則として、1、2号炉ともアスファルト固化とする。

 使用済樹脂貯蔵タンクは、脱塩塔使用済樹脂を長期間貯蔵し、放射性物質を減衰させるために設けられる。

 固体廃棄物貯蔵庫は、固体廃棄物を詰めたドラム缶などを保管するためのものであり、本発電所に既に設置されているものが1、2号炉で共用される。

10 放射線管理施設

 放射線管理施設は、遮蔽設備、放射線管理関係設備及び放散線監視設備から構成される。

10.1 遮蔽設備

 遮蔽設備は、原子炉1次遮蔽、原子炉2次遮蔽、外周コンクリート壁、補助遮蔽、燃料取扱遮蔽などから構成される。

 これらの遮蔽は、原子炉容器、1次冷却設備、燃料取扱及び貯蔵設備、放射性廃棄物廃棄施設などからの放射線を遮蔽するために設けられる。

10.2 放射線管理関係設備

 放射線管理関係設備は、出入管理設備、汚染管理設備、試料分析関係施設、個人管理関係設備などから構成される。

 これらの諸設備は、本発電所に既に設置されているものが使用される。

10.3 放射線監視設備

 放射線監視設備は、プロセス・モニタリング設備、エリア・モニタリング設備、環境モニタリング設備及び放射線サーベイ設備から構成される。

 環境モニタリング設備及び放射線サーベイ設備は、本発電所に既に設置されているものが使用される。

 プロセス・モニタリング設備は、放出放射性廃棄物中または系統中の放射性物質の濃度を監視するための設備であり、放射性ガスの監視を行うガスモニタ、放射性塵埃の監視を行う塵埃モニタ、排気筒から放出される気体中に含まれる放射性よう素及びトリチウムを監視するためのよう素・トリチウムサンプラ並びに放射性液体廃棄物の監視を行う水モニタが設けられる。

 エリア・モニタリング設備は、建家内や室内などの空間線量率の監視を行うために設けられる。

11 発電所補所施設

 発電所補助施設は、給水処理設備、換気設備、空気圧縮設備、補助蒸気設備及び消火設備から構成される。

 給水処理設備は、海水淡水化装置などから構成され、発電所に必要な原水を補給するために設けられる。

 なお、給水処理設備は、本発電所に既に設置されているものが使用される。

 換気設備は、原子炉格納施設換気設備、原子炉補助建家換気設備及び中央制御室等換気設備から構成され、通常運転時及び事故時などに必要に応じて新鮮な空気を送るとともに、空気中の放射性物質を除去、低減するために設けられる。

 なお、中央制御室等換気設備は、本発電所に既に設置されているものが使用される。

 空気圧縮設備は、制御用空気圧縮設備及び所内用空気圧縮設備から構成され、それぞれ空気作動弁、制御器及び計器などに清浄で乾燥した空気を供給するため及び一般圧縮空気として必要機器に供給するために設けられる。

 なお、所内用空気圧縮設備は、本発電所に既に設置されているものが使用される。

 補助蒸気設備は、海水淡水化装置、タービングランド蒸気、廃液蒸発装置、屋外タンクの保温及び各建家の暖房用などに蒸気を供給するために設けられる。

 消火設備としては、水消火設備、炭酸ガス消火設備、泡消火設備及び可搬式消火器が設けられる。また、このほかに、火災感知設備が設けられる。

12 核熱設計及び動特性

 炉心の最大過剰増倍率は、初装荷炉心及び取替炉心で0.24Δk以下であるが、制御棒クラスタとほう素濃度調整による反応度制御能力は、最大反応度効果を持つ制御棒クラスタ1本が完全引抜位置に固着して挿入されない場合でも、0.25Δk以上にあるように設計される。

 炉心は、負の反応度フィードバック特性を持つように、すなわちドプラ係数が負であり、かつ減速材温度係数が出力運転中に正とならないように設計される。

 通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時において、燃料中心温度を二酸化ウランの融点未満とするため、定格出力時の最大線出力密度は49.1KW/m以下となるように出力分布が制御される。

 アキシャル・オフセット一定値制御が、熱流束熱水路係数を設計値以下におさえるために採用される。これは、通常運転時にアキシャル・オフセットを常時監視し、必要に応じて出力分布調整用制御棒クラスタまたはバンクD制御棒クラスタを操作して、アキシャル・オフセットを定められた範囲におさえる方式である。

 また、通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時において最小DNB比は1.30以上であるように設計される。

 キセノンによる出力分布の振動が考えられるのは軸方向のみである。その振動は、炉心寿命末期に発生する可能性があるが、ドプラ効果が振動の抑制に効果的に作用し、更に、出力分布調整用制御棒クラスタまたはバンクD制御棒クラスタを操作し、アキシャル・オフセットを定められた範囲内に保つことにより、出力分布の振動が避けられる。

 原子炉制御設備を含む原子炉系の応答は、外乱及び設計負荷変化に対し安定で、原子炉運転にとって重要な諸変数の変動も十分な減衰性をもって設定値に制御されるように設計される。

 負荷変化に対して具体的には、定格負荷の15%から100%の範囲内で±10%ステップ状負荷変化及び±5%/minのランプ状負荷変化並びに50%以下の急激な負荷減少に対して、原子炉はスクラムすることなく主要諸変数も許容範囲内におさまり、原子炉の安全運転を損なう状態を起こさないように設計される。

13 耐震設計

 原子炉施設は、原則として剛に設計され、原子炉格納施設などの主要な施設は、直接岩盤に支持される。

13.1 重要度分類

 すべての原子炉施設は、安全上の重要度からA、B及びCの3クラスに分類される。

 Aクラスに分類されるものは、原子炉冷却材圧力バウンダリや原子炉格納施設などのように、その機能喪失が原子炉事故を引き起こす可能性のある施設及び周辺公衆の災害を防止するために緊要な施設である。

 Bクラスに分類されるものは、原子炉補助建家、放射性廃棄物廃棄施設などのような高放射性物質に関係のある施設である。

 Cクラスに分類されるものは、AクラスまたはBクラス以外の施設である。

13.2 静的及び動的解析

 設計地震力を求める手法として静的及び動的解析が用いられるが、Aクラスについては静的、動的双方の解析を、Bクラスについては静的解析を原則とするが、必要な場合には機器及び配管類に対して動的解析を用いることとしている。また、Cクラスについては静的解析を行うこととしている。

 静的解析による設計地震力の決定においては、水平震度として建築基準法に基づく水平震度(以下、「水平震度」という。)が用いられる。ただし、地盤及び構造別による低減は考慮しているが、地域による低減は考慮されていない。また、鉛直震度として基礎底面における水平震度の1/2倍の値(以下、「鉛直震度」という。)が用いられる。

 静的解析の設計条件として、Aクラス、Bクラスについては、建物及び構築物に対して水平震度・鉛直震度ともそれぞれ「水平震度」、「鉛直震度」の3倍及び1.5倍の震度から求まる地震力が用いられ、機器及び配管類に対しては水平震度・鉛直震度ともそれぞれ「水平震度」、「鉛直震度」の3.6倍及び1.8倍の震度から求まる地震力が用いられる。Cクラスについては、建物及び構築物に対して「水平震度」による地震力が用いられ、機器及び配管類に対しては「水平震度」の1.2倍の震度から求まる地震力が用いられる。

 上述のAクラス、Bクラスいずれの場合も水平及び鉛直方向の地震力は同時に不利な方向に作用するものとしている。

 動的解析による設計地震力の決定においては、建物及び構築物に対して設計基礎応答曲線が、機器及び配管類に対して設計床応答曲線が用いられる。

 設計基礎応答曲線は、過去の地震に基づいて算定された敷地基盤における最大加速度(伊予灘、豊後水道及び宇和海に起こると予想されるマグニチュード7、深さ40㎞程度のタイプAの地震によるもの200Gal、安芸灘及び日向灘に起こると予想されるマグニチュード7.5、深さ20~40㎞程度のタイプBの地震によるもの80Gal)、地震の特性及び敷地基盤での振動特性をそなえた設計地震波をもとに設計上の配慮を加えて作成される。また、設計床応答曲線は設計地震波をもとに建物、構築物の振動特性及び設計上の配慮を加えて作成される。

 設計地震波は宇和島沖の地震(1968年)、日向灘地震(1968年)及び豊後水道の地震(1971年)に基づいたものである。

 Aクラスの建物及び構築物には、設計基礎応答曲線とそれらの振動特性より求まる水平地震力及び静的解析で用いる鉛直地震力が用いられる。

 Aクラスの機器及び配管類には、据付位置における設計床応答曲線とそれらの振動特性より求まる水平地震力及び静的解析で用いる鉛直地震力が用いられる。

 また、Bクラスの機器及び配管類で支持構造物の振動と共振のおそれのあるものは、据付位置における設計床応答曲線とそれらの振動特性より求まる水平地震力の1/2倍及び静的解析で用いる鉛直地震力が用いられる。

 設計にあたっては、上述の静的及び動的解析により求まるいずれの地震力をも下まわることのない地震力が用いられる。

 更に、Aクラスの機器のうち、安全対策上特に緊要な原子炉格納容器及び原子炉停止装置については、その安全上の重要性に鑑み一定の設計余裕を確保するため、設計基礎応答曲線または設計床応答曲線より求まる水平地震力の1.5倍の地震力及び静的解析で用いる鉛直地震力に対しても、それらの機能が保持されることが確認される。

 なお、原子炉主要施設に一定の大きさ以上の地震力が作用した場合に、原子炉を自動的に停止させるための地震感知器が原子炉保護設備の一つとして設置される。

14 放射線管理及び監視

 本発電所の放射線管理及び監視は、放射性廃棄物の放出管理、敷地内の放射線管理及び周辺地域の放射線監視により行われる。

14.1 放射性廃棄物の放出管理

 気体廃棄物は、放射能を減衰させるかまたはフィルタを通して原子炉補助建家排気筒及び原子炉格納容器排気筒から放出される。

 排気中の放射性物質の濃度は、それぞれの排気筒に設けられるガスモニタ及び塵埃モニタによって測定され、中央制御室に指示記録される。放射性物質の濃度が予め設定された値を超えたときには、中央制御室に警報を発し、適切な処置がなされるように運転員の注意を喚起することとなっている。また、排気筒から放出される気体中に含まれる放射性よう素及びトリチウムは、よう素・トリチウムサンプラによってサンプリングし、定期的に測定される。

 液体廃棄物は、前述の液体廃棄物処理設備で処理された後、復水器冷却水と混合希釈されて放出される。

 液体廃棄物の放出にあたっては、予めタンクでサンプリングし、液体廃棄物が復水器冷却水と混合希釈されて放出された場合に、放水口における放射性物質の濃度が許容濃度以下であることが確認される。

 放出液中の放射性物質の濃度は、復水器冷却水によって希釈される前に、排水配管に設置された排水モニタによって測定され中央制御室に指示記録される。放射性物質の濃度が予め設定された値を超えたときには、中央制御室に警報を発し、適切な処置がなされるように運転員の注意が喚起される。

 また、気体廃棄物及び液体廃棄物の放出に際しては、「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」に基づき、放出管理の目標値を定め、線量目標値を超えないように努めることになっている。

14.2 敷地内の放射線管理

 敷地内には、現行法令に基づく管理区域、保全区域及び周辺監視区域が設けられる。

 管理区域として、具体的には管理上の便宜も考慮して、原子炉格納施設内、原子炉補助建家内の大部分及び固体廃棄物貯蔵庫内などが設定されることになっている。

 管理区域は、外部放射線量に起因する放射線管理区域と、空気中もしくは水中の放射性物質の濃度または床などの表面の放射性物質の密度に起因する汚染管理区域に分けられ、更に、各区域は2種類程度に区分されて段階的な出入管理が行われることになっている。

 管理区域の空間線量率並びに空気中及び水中の放射性物質の濃度は、エリア・モニタリング設備及びプロセス・モニタリング設備によって連続的に監視されるほか、サーベイメータ、可搬型モニタまたはサンプリング測定により定期的に監視される。表面の放射性物質の密度は、サンプリング測定により定期的に監視される。

 管理区域の出入口には出入管理設備が設けられ、管理区域から退出する者、または、持ち出そうとする物品の表面の放射性物質の密度が許容表面密度を超えないように管理される。

 保全区域としては、原子炉補助建家内の管理区域以外の区域及びタービン建家内が設定されることになっている。

 周辺監視区域は、本変更によっても変わらない。また、周辺監視区域内の管理も変更されない。

14.3 周辺地域の放射線監視

 周辺地域の放射線監視は、本発電所で既に行われており、本変更によっても特に変わることはない。

Ⅳ 審査の内容

1 立地条件の評価

 本変更に伴い増設される原子炉は1号炉心から南方向約109mの場所に設置されるものである。

 原子炉主要施設付近の基礎岩盤については、申請時点までの文献調査、地表踏査、ボーリング調査及び試掘横坑による地下地質調査などにより、原子炉設置上問題ないと思われるものの、数本の破砕帯が確認されていた。また、地表及び試掘横坑内での弾性波探査、試掘横坑内のジャッキ試験及びボーリングコアを用いた室内岩石試験などによって、基礎岩盤の緑色片岩が原子炉主要施設の支持上十分な地耐力を有することが示されていた。

 本変更に係る審査の過程において、更に2号炉心部を含む場所付近に存在する破砕帯の性状及び地盤の安定性を確認するため、設置予定場所の一部開削による詳細な地質調査、最も顕著な破砕帯を地下へ追跡するためのボーリング調査及び原子炉施設の背後の法面の安定性を更に確認するために開削部での岩盤せん断試験などが実施された。

 これらの結果を総合すると、基礎岩盤に存在する破砕帯は、いずれも原子炉主要施設の設置上問題となるような規模のものではなく、将来活動するような性質のものでもないものと判断した。また、基礎岩盤は地震などによる地盤破壊や不等沈下を考慮する必要はなく、原子炉主要施設を支持するのに十分な地耐力を有しており、原子炉を設置する上で十分安全な地盤であると判断した。

 なお、1号炉審査の際の音波探査によれば、本発電所敷地の北側5~8㎞の伊予灘海域に佐田岬半島とほぼ平行に中央構造線の延長を示唆するともみられる記録が認められたが、それ以南の海域の記録は、きわめて安定していた。また、敷地近傍の地盤も安定しており、近い将来においても断層運動などの大きな地変が予想されるものではないと判断した。

 申請者において、その後、更に敷地前面に含む広範囲の海域の音波探査が追加実施されたので、その結果について審査した結果、前面海域の上記の場所においては、少なくとも最上位の堆積層の堆積以後の断層活動は認められないことが判明した。更に、申請者が1号炉設置許可以降行った微小地震観測結果についても念のため検討したが、その結果敷地周辺の震源分布状況から一定の面的配列の傾向を示す形で微小地震の分布は見られないことなどからみて、これまでの判断の妥当性が更に明らかになった。

 また、設計地震動の策定に用いる設計地震波としては、1号炉と同様、敷地周辺の地震の特性及び敷地基盤に及ぼす影響を考慮し想定した2種類の地震に対応するそれぞれ200及び80Galの最大加速度のものが選定されているが、この内容の判断についてはとくに1号炉の審査時点と変わることはない。

 淡水使用量は、1、2号炉合わせて平均1,500m3/dである。これは、既に設置されている容量1,000m3/dの海水淡水化装置2基により供給され、更に、余剰の淡水を敷地内の貯水タンクに貯水しておくことにしているので、発電所用水は確保できるものと判断する。

 なお、発電所敷地周辺の環境条件は1号炉審査時点と格別の変更はない。

2 原子炉施設の安全評価

2.1 準拠規格及び基準

 安全上重要な原子炉施設の設計、材料選定、製作及び検査は国内法規に基づく規格及び基準に基づいて行われる。

 また、このほか、国内の民間規格、基準及び諸外国の規格、基準を参考として取入れることとしている。これらの規格及び基準は安全上適切なものと認められているものであり、また、その適用方針についても妥当なものと判断する。

2.2 耐震設計

 原子炉施設の建物及び構築物並びに機器及び配管類は、安全上の要求から耐震設計上の重要度に応じA、B及びCクラスに分類されている。各クラスに分類される施設の内訳及び各クラスごとの解析手法及び設計条件は、いずれもその重要度に応じた合理的なものであり、安全上適切な耐震設計が実施し得るものである。

 この場合、設計地震波の最大加速度及び地震波形は、過去の地震及び敷地基盤の周波数特性などを考慮して定められること、解析に用いられる水平地震力と鉛直地震力は同時に不利な方向に作用させること及び静的または動的解析のいずれか大きい地震力を用いて設計されることなどは、いずれも適切な設計方針である。

 更に、Aクラスのうち原子炉施設として安全上特に緊要な施設については、耐震設計上特別に配慮され、その安全機能が保持されることが確認される。

 以上のことから、耐震設計は妥当であると判断する。

2.3 炉心設計
2.3.1 核設計

 本原子炉は、反応度制御に制御棒クラスタの操作方式と、1次冷却材中のほう素濃度調整方式を併用しており、1次冷却材中のほう素が減速材温度係数に対し、正の効果を持つので、制御棒だけで制御する原子炉にくらべて減速材温度係数(負)の絶対値は小さくなる。しかし、本原子炉では、炉心にバーナブル・ポイズンを採用して、過剰増倍率を下げ、ほう素濃度をおさえているので、炉心寿命初期においても、高温出力運転状態で減速材温度係数は負に保たれる。また、燃料のドプラ効果に基づく負の反応度効果により、反応度外乱に対して常に自己制御性を持っているので問題はない。

 最大価値を有する制御棒クラスタ1本が完全引抜位置に固着して挿入されない場合でも、常に原子炉を停止でき、かつ、その状態で反応度停止余裕は0.01Δk以上あるので妥当である。

 キセノンによる出力分布の空間振動は、炉心寿命末期で、軸方向振動が起こる可能性があるが、出力分布調整用制御棒クラスタまたはバンクD制御棒クラスタを操作して制御でき、プラントの安定性は確保されるので、問題はないと判断する。

2.3.2 熱水力設計

 熱水力設計において、燃料被覆管と1次冷却材との間で適切な熱伝達が行われるように、寸法、出力、流量分布、混合などについて局所的な分布も考慮して、炉心が設計される。

 通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時において、燃料ペレット中心溶融が起きないこと、及び最小DNB比が1.30以上であることを設計基準としている。燃料ペレットの中心最高温度の計算値は、定格出力時で約2,000℃であり、更に、後述のⅣ4に示すように、最もきびしい運転時の異常な過渡変化時である出力運転中制御棒クラスタ引抜きの場合にも約2,400℃であるので、燃焼につれて二酸化ウランの融点が低下する分を考えても、これよりも十分低いと判断する。また、最小DNB比は、通常運転時には約1.8であり、運転時の異常な過渡変化時でも1.30以上であるので、熱水力設計上の問題はないと判断する。

2.3.3 機械設計

 燃料棒は、使用温度での核分裂生成ガスなどによる内圧と冷却材による外圧との差などに基づく使用中の被覆の応力及び歪を制限することにより、この健全性を確保するように設計される。

 燃料棒上端と上部ノズル間及び燃料棒下端と下部ノズル間には、それぞれ約20㎜の間隔を設けるほか、燃料棒が軸方向に容易に伸びることができる構造とするなど曲りの発生率を低減する対策が施される。

 燃料集合体は、通常の輸送及び取扱中においても燃料棒の変形を制限するように設計される。

 炉内構造物は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、地震時及び1次冷却材喪失等の事故時に必要な強度及び機能を保持するよう設計される。

 以上のことから、機械設計は妥当であると判断する。

2.4 計測制御設計
2.4.1 中央制御室

 中央制御室は、万一の事故に際しても、中央制御室内の従事者に対して放射線被曝による障害の危険がないように配慮するとともに、従事者が中央制御室内にとどまり、事故対策に必要な各種の操作を行うことができるように設計される。

 中央制御室の換気系統は、事故時には外気との連絡口を遮断し、チャコール・フィルタを備えた閉回路循環方式として、従事者の内部被曝を防止するように設計される。

 また、中央制御室において火災が発生する可能性を極力少なくするよう、中央制御室内の主要ケーブル、制御盤などは、原則として不燃性、難燃性の材料が用いられる。

 中央制御室に何らかの原因で接近できない場合でも、原子炉を停止し、高温停止状態に維持できるように、中央制御室外原子炉停止装置が設置され、また必要に応じ原子炉を低温停止状態に導くこともできるよう設計される。

 以上のことから、中央制御室は所定の機能を果たす能力を有していると判断する。

2.4.2 原子炉停止系

 原子炉停止系の機能及び性能の妥当性に関しては、既にⅣ2.3で言及した。

 原子炉停止系として、制御棒クラスタ制御系と化学体積制御設備の原理の異なる2つの独立した系が設けられ、高温待機状態または高温出力運転状態の原子炉を高温未臨界の状態にすることができる。

 制御棒クラスタは、最大の反応度効果を有する制御棒クラスタ1本が完全引抜位置に固着して挿入されない場合でも停止余裕条件として最もきびしい高温零出力で少なくとも0.01ΔK以上の反応度停止余裕を持ち、その状態を維持できるように設計される。

 更に、化学体積制御設備によるほう酸注入により、低温状態でもこの反応度停止余裕を維持できるように設計される。

 また、原子炉停止系は、後述のⅣ4及びⅣ5に示すように、運転時の異常な過渡変化時及び事故時においても、安全保護系及び非常用炉心冷却系とあいまって、原子炉を未臨界にでき、かつ、それを維持できるように設計される。

 以上のことから、原子炉停止系はいかなる場合にも原子炉を安全に停止させる能力を有していると判断する。

2.4.3 安全保護系

 安全保護系は、十分に信頼性のある少なくとも2チャンネルの保護系から構成され、この系を構成する機器またはチャンネルの単一故障または使用状態からの単一の取り外しを行っても、保護機能を果たす多重性をもたせるように設計される。

 安全保護系を構成するチャンネルは、相互干渉が起こらないように可能な限り物理的、電気的独立性を持たせるように設計される。

 系全体としては、電源喪失、回路の断線などに対してフェイルセイフとなるように設計される。

 計測チャンネル及び論理回路トレイン(原子炉スクラム遮断器を含む)は、通常運転中にもすべての試験ができるように設計される。

 以上のことから、安全保護系は十分な信頼性を有していると判断する。

2.5 原子炉冷却材圧力バウンダリ

 原子炉冷却材圧力バウンダリとなる系及び機器は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び1次冷却材喪失等の事故時に必要な強度と機能を保持するように設計される。過渡的な圧力上昇による原子炉冷却材圧力バウンダリの破損を防止するため、加圧器に逃し弁及び安全弁が設けられる。

 原子炉冷却材圧力バウンダリのうちフェライト系鋼材を用いる系及び機器は、最低使用温度を脆性遷移温度より少なくとも33deg高くすることとしている。また、原子炉容器の母材及び溶接部などについては、試験片を熱遮蔽体と原子炉容器の間に挿入し、中性子照射による脆性遷移温度の変化など放射線損傷の程度を監視することとしている。

 原子炉冷却材圧力バウンダリとなる系及び機器は、製作時及び運転開始前の検査並びに供用期間中の計画的な検査によって、その健全性の維持について確認されることとなっている。

 原子炉冷却材圧力バウンダリからの漏洩の早期検知と漏洩量の監視のために、漏洩監視設備を設けることとしている。

 以上のことから、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は十分に維持されると判断する。

2.6 工学的安全施設
2.6.1 工学的安全施設全般

 非常用炉心冷却設備、原子炉格納容器、原子炉格納容器スプレイ設備、アニュラス空気再循環設備から構成される工学的安全施設は、動的機器の単一故障を仮定した場合でも、所定の安全機能を果たし得るように設計される。

 非常用炉心冷却設備のうち、低圧注入系は原子炉停止時に余熱を除去するために使われるが、通常運転中には非常用炉心冷却設備として、常に待機状態におかれるので安全上何ら支障はない。

 このほかの工学的安全施設は単独の機能を有しており、動的機器は共用されることはない。

 これらの工学的安全施設は、定期的にその系統の性能試験が行えるよう設計上の配慮がなされるので、安全上妥当な設計であると判断する。

2.6.2 非常用炉心冷却設備

 非常用炉心冷却設備は、蓄圧注入系、高圧注入系及び低圧注入系の3つの系統からなる。

 これらの系統は、多重性を有する設計とすることになっており、電源を必要とする系統については、外部電源のほかディーゼル発電機、蓄電池からなる非常用電源に接続されている。非常用炉心冷却設備の各系統の作動試験は、通常運転中においても定期的に行えるように設計される。

 このような非常用炉心冷却設備の構成により、いかなる寸法の配管破断による1次冷却材喪失事故時に、動的機器の単一故障及び外部電源喪失を仮定しても、燃料被覆の重大な損傷を防止することが可能である。

 このような非常用炉心冷却設備の機能及び性能は、後述の1次冷却材喪失事故の解析結果に示されるとおり「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」を満足しており、妥当なものであると判断する。

2.6.3 原子炉格納容器

 原子炉格納容器は、最も苛酷な1次冷却材主配管の破断による1次冷却材喪失事故を仮定した場合にも、事故後の最大想定エネルギ放出に起因する圧力及び温度に耐え、かつ、漏洩率が所定の値以下になるように設計される。

 原子炉格納容器の耐圧部の材料は、その脆性遷移温度が原子炉格納容器バウンダリの最低使用温度より少なくとも17deg低いものであることを確認したうえ使用されることになっている。

 事故時の閉鎖が要求される原子炉格納容器の貫通部のうち、通常運転時に流体が原子炉格納容器を出入する配管は、動的機器の単一故障を仮定しても確実に隔離操作が行えるよう、原則として隔離弁を原子炉格納容器内外に取りつけ、2重に閉鎖が可能なように設計される。

 その他、原子炉格納容器は全体漏洩率が所定の値以下になることを確認する試験及び貫通部の漏洩試験ができるようになっている。

 以上のことから、原子炉格納容器は、事故時に放射性物質の外部への放出を抑制する機能を有するものと判断する。

2.6.4 原子炉格納容器スプレイ設備

 原子炉格納容器スプレイ設備は、2系統を設け、独立性及び多重性を有する設計となっており、また、外部電源のほか非常用電源にも接続されている。

 この設備は、1次冷却材喪失事故時に動的機器の単一故障及び外部電源喪失を仮定しても、原子炉格納容器内の圧力及び温度を急速に低下させるように設計される。また、スプレイ水による原子炉格納容器内の放射性無機よう素の除去効果が等価半減期100秒以下となるように設計されることになっている。

 原子炉格納容器スプレイポンプの作動試験は、通常運転中にも定期的に行えるようになっている。

 以上のことから、原子炉格納容器スプレイ設備は原子炉格納容器内を除熱、減圧し、放射性無機よう素を除去する機能を有するものと判断する。

2.6.5 アニュラス空気再循環設備

 アニュラス空気再循環設備は、2系統設け、独立性及び多重性を有する設計となっており、また、外部電源のほか非常用電源にも接続されている。

 この設備は、1次冷却材喪失事故時に動的機器の単一故障及び外部電源喪失を仮定しても、アニュラス部の負圧を10分以内に達成させ、一方よう素用フィルタによる除去効率が95%以上(温度100℃、相対湿度80%)となるように設計される。

 この設備の作動試験は、通常運転中にも行えるようになっている。フィルタ差圧については、測定表示し、目詰りを監視できるように設計される。また、定期検査時によう素用フィルタのサンプルを取り出し、よう素吸着試験を行うことができるようになっている。

 以上のことから、アニュラス空気再循環設備は事故時に環境に放出される放射性物質を減少させる機能を有するものと判断する。

2.7 非常用電源設備

 非常用電源としては、ディーゼル発電機2台及び蓄電池2組が設置される。

 この設備は、1次冷却材喪失事故と外部電源喪失が同時に起こった場合を仮定しても、1台及び1組で原子炉を安全に停止するために必要な電力を供給し、更に工学的安全施設作動のための電力をも供給できる容量を有する。

 ディーゼル発電機及び蓄電池は、独立した部屋に収納されるほか、独立分離した非常用母線に接続される。

 ディーゼル発電機は通常運転中においても定期的にその性能試験が行えるように設計される。

 以上のことから、非常用電源設備は動的機器の単一故障を仮定しても、安全上重要かつ必須の設備が所定の機能を果たすに十分な電力を供給する有力を有するものと判断する。

2.8 核燃料貯蔵施設

 新燃料貯蔵庫の貯蔵ラックは、所定の位置以外には燃料集合体を挿入できない構造とされ、新燃料は乾燥状態で貯蔵されることになっている。

 新燃料貯蔵庫の貯蔵容量は、1回取替分である約1/3炉心相当数に余裕をもたせた容量となっている。

 新燃料貯蔵庫は、容量一杯の新燃料を貯蔵し、たとえ常温の純水で満たされたとしても実効増倍率は、0.90以下に保たれ、臨界に達することのないように設計される。

 使用済燃料ピット内の貯蔵ラックは、所定の位置以外には使用済燃料集合体を挿入できない構造とされ、使用済燃料はほう酸水中に貯蔵されることになっている。

 使用済燃料ピットの容量は、約11/3炉心分となっている。

 使用済燃料ピットは、たとえ容量一杯の新燃料を貯蔵し、常温の純水で満たされたとしても実効増倍率は、0.90以下に保たれ、臨界に達することのないように設計される。

 使用済燃料ピット水浄化冷却設備は、全貯蔵容量を貯蔵したとしても崩壊熱を十分除去できるように設計される。

 以上のことから、核燃料貯蔵施設は燃料を安全に貯蔵する能力を有していると判断する。

2.9 放射性廃棄物廃棄施設

 放射性廃棄物廃棄施設は、気体、液体、固体の放射性廃棄物に対してそれぞれの処理設備が設けられ、平常運転時において敷地周辺へ放出される放射性物質による被曝線量の評価値が、現行法令の定める許容被曝線量を十分に下まわり、また、「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」を満足している。

2.9.1 気体廃棄物処理設備

 窒素廃ガス処理系統のガス減衰タンクは、通常運転時に発生する窒素廃ガスを約45日間貯蔵できるように設計される。

 この設計は、後述のⅣ3に示すように、ガス減衰タンクの減衰期間を30日と仮定して、周辺監視区域外における被曝線量の評価値が十分許容線量を下まわり、また、上述の線量目標値を満足していることから妥当なものであると判断する。

 また、水素廃ガス処理系統は、気体廃棄物の放出をより少なくするために設けられるもので妥当なものである。

2.9.2 液体廃棄物処理設備

 ほう酸回収系統、A廃液処理系統及びB廃液処理系統の除染能力及び設備容量は廃液発生量を十分処理する能力を有しており、後述のⅣ3に示すように、液体廃棄物による被曝線量評価値が十分許容線量を下まわり、また、上述の線量目標値を満足していることから妥当なものであると判断する。

 また、洗浄排水処理系統は、液体廃棄物の放出をより少なくするために設けられるもので妥当なものである。

2.9.3 固体廃棄物処理設備

 ドラム詰装置は、アスファルト固化方式を採用して減容化を図り、操作のときの放射線被曝を少なくするため十分な遮蔽を行うとともに遠隔操作が可能なように設計される。

 固体廃棄物は、可能な限りドラム缶に詰め、固体廃棄物貯蔵庫に保管することになっている。

 固体廃棄物貯蔵庫は、数年分を貯蔵する能力があるが、必要に応じて増設を考慮することとなっている。

 以上のことから、この設備は妥当であると判断する。

 なお、固体廃棄物を最終的に処分する場合には、関係官庁の承認を受けることになっている。

2.10 放射線監視施設

 本発電所から発生する放射性気体廃棄物の放射線監視設備としては、ガス減衰タンクからの気体廃棄物、原子炉格納容器換気空気及び原子炉補助建家換気空気の放出時の放射性物質の濃度を監視するため、原子炉格納容器排気筒及び原子炉補助建家排気筒にガスモニタ、塵埃モニタ及びよう素・トリチウムサンプラが設けられる。

 また、放射性液体廃棄物の放射線監視設備としては、放出時の放射性物質の濃度を監視するため、復水器冷却水によって混合希釈される前の排水配管に排水モニタが設けられる。

 発電所敷地境界付近及び周辺の放射線監視設備としては、モニタリング・ステーション、モニタリング・ポスト、モニタリング・ポイントが既に設置されており、モニタリング・カーも既に配備されている。

 これらの設備により発電所から放出される放射性物質の濃度を測定し、発電所周辺へ放出される放射性物質の量を適切に監視できるものと判断する。

3 平常運転時における原子炉施設周辺の一般公衆の被曝線量評価

 原子炉施設の基本設計からみて、平常運転時における原子炉施設周辺の一般公衆の被曝線量が現行法令に定める周辺監視区域外の許容被曝線量を下まわることは勿論「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」(以下、「線量目標値に関する指針」という。)に適合していることを確認するため、申請者の行った被曝評価について「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」(以下、「評価指針」という。)に基づき、審査を行った。

3.1 放射性廃棄物の発生源
3.1.1 気体廃棄物の発生源

 気体廃棄物中の主な放射性物質は、1次冷却材中に含まれる核分裂生成物のうち放射性希ガス(以下、希ガスという。)及び放射性よう素(以下、よう素という。)である。

 これらの放射性物質の1次冷却材中の平均濃度は、炉心の1%相当の燃料被覆に欠陥があるものとし、1次冷却材保有量、浄化系の性能などを考慮して計算されている。この燃料被覆の欠陥率は先行炉の実績を参照して得られた値であるが、実績値を上まわっているので、きびしい評価となっていると考えられる。

 このほかにも1次冷却材中及び原子炉容器外周部の空気が、中性子照射を受けて生成する窒素16、窒素17、アルゴン41などがあるが、これらの放射化生成物は生成量が少ないこと、あるいは半減期が短いことなどのため、環境への放出量は極めて少ない。

 したがって、気体廃棄物中の放射性物質による被曝線量の評価は、1次冷却材中の希ガス及びよう素に着目して行われている。

 なお、水素廃ガス処理系統の効果はあるが、本評価では無視して計算されている。

(1)ガス減衰タンクから放出される希ガス及びよう素

 ガス減衰タンクに収集される気体廃棄物は、原子炉の運転制御に伴って抽出される1次冷却材(以下、1次冷却材抽出水という。)並びに格納容器冷却材ドレン及び補助建家冷却材ドレン(以下、1次系機器ドレンという。)を処理する過程で分離された気体、冷却材貯蔵タンクなどに1次冷却材抽出水及び1次系機器ドレンが流入する際に移行する窒素を主体とするカバーガスである。

 この場合、ガス減衰タンクに移行する希ガスの量は、ほう酸回収装置で処理される1次冷却材抽出水及び1次系機器ドレン並びに低温停止時における脱ガス操作中に1次冷却材にそれぞれ含まれるすべての希ガスがガス減衰タンクに収集される、という「評価指針」と同様の方法で計算されている。

 ガス減衰タンクに移行した希ガスは、すべてガス減衰タンクで30日間減衰されるものとして計算されているが、このガス減衰タンクの貯留能力は45日間であり、きびしい側に評価されている。この結果、ガス減衰タンクから放出される希ガスの量は年間約8,800Ci(γ線実効エネルギ約0.033MeV)である。

 なお、よう素についてはガス減衰タンクに移行する量も少なく、またガス減衰タンクでの減衰効果を考慮すると、よう素の環境への放出量は極めて少なくなるので計算上無視されている。

(2)原子炉停止時の原子炉格納容器換気及び原子炉格納容器減圧時の排気により放出される希ガス及びよう素

 原子炉停止時の原子炉格納容器換気及び原子炉格納容器減圧時の排気により放出される気体廃棄物中の放射性物質は、機器、弁などから原子炉格納容器内に漏洩した1次冷却材中に含まれる希ガス及びよう素である。

 この換気及び減圧時の排気により放出される希ガス及びよう素は、1次冷却材の漏洩率、漏洩冷却材に含まれる放射性物質が空気中に移行する割合及びフィルタ捕集効率については、「評価指針」と同様の仮定を用いており、停止時の換気回数、減圧時の排気量、原子炉格納容器内での減衰時間などを考慮して計算されている。このうち、換気回数は最近の運転実績を参照して年4回としている。この結果、希ガスの年間放出量は、原子炉停止時の原子炉格納容器換気の場合で約720Ci(γ線実効エネルギ約0.043MeV)、原子炉格納容器減圧時の排気の場合で約470Ci(γ線実効エネルギ約0.044MeV)であり、また、よう素の年間放出量は、原子炉停止時の原子炉格納容器換気の場合で約0.044Ci、原子炉格納容器減圧時の排気の場合で約0.68Ciである。

(3)原子炉補助建家換気により放出される希ガス及びよう素

 原子炉補助建家換気により放出される気体廃棄物中の放射性物質は、原子炉停止時の原子炉格納容器換気及び原子炉格納容器減圧時の排気の場合と同様に、原子炉補助建家内に漏洩した1次冷却材中に含まれる希ガス及びよう素である。

 この換気により放出される希ガス及びよう素は、1次冷却材の漏洩率、原子炉補助建家内に漏洩した1次冷却材に含まれる放射性物質が空気中に移行する割合については「評価指針」と同様の仮定を用い、原子炉補助建家内における減衰効果を無視して計算されている。この結果、希ガスの年間放出量は約5,400Ci(γ線実効エネルギ約0.083MeV)、よう素の年間放出量は約0.63Ciである。

(4)定期検査時に放出されるよう素

 定期検査時には、1次冷却材中に含まれているよう素のうちよう素131が機器の保修などに伴って放出されると考えられる。ここでは「評価指針」と同様に原子炉停止時の原子炉格納容器換気、原子炉格納容器減圧時の排気及び原子炉補助建家換気により放出されるよう素131の合算値の1/4が定期検査時に放出されるものとして計算されている。この結果、よう素131の年間放出量は約0.20Ciである。

3.1.2 液体廃棄物の発生源

 液体廃棄物中の主な放射性物質は、1次冷却材中に漏洩した核分裂生成物と1次冷却系の腐食生成物が中性子照射を受けて生成した放射化生成物である。

 液体廃棄物は、1次冷却材抽出水及び原子炉施設の機器、弁などから漏洩した機器ドレン、床ドレン、衣服などの洗浄に伴って発生する洗浄排水、薬品ドレンなどである。

 これらの液体廃棄物は、その性状に応じて分離回収された後、液体廃棄物処理設備で濾過、蒸発、脱塩などの処理が行われる。処理によって生成した処理水は、放射性物質の濃度及び水質により再使用、再処理または所外放出が行われる。

 環境に放出される液体廃棄物の量は、処理モード、処理設備の性能、処理水の再使用の割合、洗浄排水処理系統が1、2号炉で共用されていることなどを考慮して計算されている。この結果、液体廃棄物の放出量は1、2号炉合計で年間約5,200m3となり、そのなかに含まれる放射性物質の量は、トリチウムを除き、約0.5Ciである。また、トリチウムは約2,000Ci以下である。

 なお、洗浄排水処理系統の効果はあるが、本評価では無視して計算されている。

 液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量及び甲状腺被曝線量の評価を行う際には、液体廃棄物処理系統の運用の変動を考慮して、放射性物質の年間放出量は、1炉当りトリチウムを除き1Ci、トリチウムは1,000Ciという値をとっている。

3.2 全身被曝線量の評価
3.2.1 気体廃棄物中の希ガスによる全身被曝線量

 気体廃棄物中の希ガスによる全身被曝線量の評価は排気筒から拡散移動する放射性雲からのγ線による外部全身被曝線量を対象に行われている。

 評価にあたっては、Ⅳ3.1.1で述べた希ガスの年間放出量及びγ線の実効エネルギを基礎に敷地における1年間の気象観測の実測値及び風洞実験により補正した排気筒の有効高さなどを用い、かつ連続放出、間けつ放出の放出モードを考慮して「評価指針」と同様な方法により敷地外における希ガスのγ線による全身被曝線量を評価している。

 その結果、敷地外で希ガスからのγ線による全身被曝線量が最大となる地点は、2号炉心から南方向約690mの敷地境界であり、その地点における線量は年間約0.3mremである。

3.2.2 液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量

 液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量評価は、放射性物質が海産物を介して人体に摂取される場合の内部全身被曝線量を対象にして行われている。

 人体の放射性物質の摂取率は、海水中の放射性物質濃度、海産物の濃縮係数及び海産物摂取量などを考慮して、「評価指針」と同様な方法により計算されている。

 この場合、海水中の放射性物質濃度はⅣ3.1.2で述べた放射性物質の年間放出量、核種組成及び復水器冷却水の年間放出量をもとに放水口における濃度を用いている。

 その結果、液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量は年間約0.2mremである。

3.3 甲状腺被曝線量の評価

 甲状腺被曝線量の評価は、気体廃棄物中のよう素及び液体廃棄物中のよう素に着目し、これらが呼吸、葉菜及び海産物を介して成人、幼児及び乳児にそれぞれ摂取される場合の内部甲状腺被曝線量を対象にして行われている。

 人体のよう素摂取率は、空気中または海水中のよう素濃度、呼吸率、空気中のよう素が菜葉に移行する割合、海産物の濃縮係数及び食物摂取量などを考慮して「評価指針」と同様な方法により計算されている。

 この場合、放射性よう素の地上空気中濃度は、Ⅳ3.1.1で述べた放射性物質の年間放出量をもとにⅣ3.2.1で述べた気象条件及び放出条件を用いて求め、また、海水中のよう素濃度は、Ⅳ3.2.2で述べた放水口における濃度を用いている。

 甲状腺被曝線量の評価にあたっては、人体に摂取されたよう素が甲状腺に移行する割合は、摂取食物中に含まれる安定よう素の量によって変化することを考慮し、各被曝径路における安定よう素摂取量の大小に応じて評価が行われている。

 その結果、甲状腺被曝線量が最大となるのは、炉心から南方向約690mの敷地境界に居住し、その地点における葉菜を摂取し、かつ海藻類を除く海産物を摂取すると仮定した場合の幼児で、その線量は年間約6mremである。

3.4 1号原子炉施設に起因する全身被曝線量及び甲状腺被曝線量の評価

 1号原子炉施設に起因する全身被曝線量については、当該原子炉の設置許可申請書において、現行法令に定める「周辺監視区域外の許容被曝線量」に対する評価を実施しているが、その後「線量目標値に関する指針」及び「評価指針」が定められたことに鑑み、この際、上記の指針に基づき、2号原子炉施設と同様の評価が行われている。

 その結果は2号炉とほぼ同様の被曝線量となっている。

 なお、1号炉の設置許可申請書の評価と今回の「評価指針」に基づく評価の主要な相違点は、希ガスのγ線による被曝線量の評価において照射線量(R)から全身被曝線量(rem)への換算係数に0.7を採用したこと、風向が一方位内で一様に変動するとして濃度の平均化を行ったこと及び運転モードの相違による放出Ci数の減少なのである。

3.5 評価結果

 前述の評価に用いられた方法は、「評価指針」に示されたものと同様なものであり、また、「評価指針」に定められていない条件も、原子炉施設の設計、運転実績よりみてきびしいものが使用されている傾向にあると考えられる。

 1号炉及び2号炉に起因する敷地境界外の一般公衆の全身被曝線量及び甲状腺被曝線量の評価を行った結果、最大となる全身被曝線量の評価値は、希ガスによるもの年間約0.5mrem、液体廃棄物によるもの年間約0.2mrem、合計年間約0.7mrem、最大となる甲状腺被曝線量の評価値は年間約10mremである。

 したがって、「線量目標値に関する指針」に定める全身被曝線量の目標値を下まわっている。実際の運転時における諸種の変動要因、計算上省略されている諸要因を考慮しても、本原子炉施設は、「線量目標値に関する指針」を満足しているものと判断する。

 以上の評価において取り上げられていない線量として、原子炉施設からの直接線量及びスカイシャイン線量などがある。直接線量は、原子炉格納容器外側の外周コンクリート壁、建家のコンクリート壁などによって十分遮蔽され、スカイシャイン線量も、外周コンクリートの上部ドーム壁、建家の天井コンクリートなどによって低減され、またいずれも線源からの距離にともない急激に減少するので、一般公衆の被曝線量に寄与する地点は周辺監視区域近傍に限られる。

 したがって、これらによる線量などを考慮しても周辺監視区域外における被曝線量は、現行法令に定める周辺監視区域外の許容被曝線量をはるかに下まわっていると判断する。

4 運転時の異常な過渡変化の解析

 運転時の異常な過渡変化とは、原子炉の運転状態において、原子炉施設寿命期間中に予想される動的機器の単一故障または誤動作あるいは運転員の単一誤操作によって外乱が加えられた状態及びこれと類似の頻度で発生し、かつ原子炉施設を計画しない状態に至らす場合をいう。

 この場合において、燃料の許容損傷限界を超えないこと(最小DNB比が1.30以上であること及び燃料ペレットの中心溶融が起こらないこと)及び原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が損なわれないこと(設計圧力の1.1倍である192.5㎏/㎝2G以下に保持されること)が必要である。

 以下に、運転時の異常な過渡変化の解析条件及びその結果を示すが、いずれの場合でも上記の条件を満足しており原子炉施設の安全性は確保されるものと判断した。

 なお、1号炉時点に比べ、その後の知見により解析事象の増加及び解析方法などの改善を行った。

4.1 1次冷却系の故障などに起因する過渡変化

 1次冷却系の動的機器の単一故障または誤動作あるいは運転員の単一誤操作に起因する過渡変化としては、制御棒クラスタの引抜きあるいは落下及び不整合、ほう素の異常な希釈、1次冷却系停止回路誤起動に伴う冷水導入または1次冷却系の異常な減圧による反応度添加、出力分布の歪及び1次冷却材流量部分喪失による冷却能力の減少を想定した。

4.1.1 未臨界状態からの制御棒クラスタ引抜き制御棒制御系または制御棒駆動装置の誤動作などにより、制御棒クラスタが連続的に引き抜かれると、急速に中性子束が上昇する。

 解析では、起動時に最大反応度効果を有する2つの制御棒バンクが同時に最大速度で炉心から連続して引き抜かれた場合を上まわる8.6×10-4(ΔK/K)/Sで反応度が添加されたと仮定する。

 中性子束は約8.8秒後に出力領域中性子束高(低設定)原子炉スクラムの設定点に達し、原子炉は自動停止される。その間、中性子束の上昇は、負のドプラ係数による反応度帰還効果によって過大になる以前に抑えられる。

 その結果、熱流束の増加及び燃料温度の上昇は小さく、過渡期間中の最小DNB比は約1.55、燃料中心温度は最高約1,065℃、燃料ペレットの最大エンタルピは約79cal/g・UO2(初期保有エンタルピに断熱印加エンタルピを加えたもの)であり、燃料被覆の破損を引き起こすことはない。

 また、1次冷却材温度の上昇も少ないので、原子炉圧力の上昇も僅かであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性には影響を与えない。

4.1.2 出力運転中制御棒クラスタ引抜き

 Ⅳ4.1.1と同様な事態が定格出力運転中に生じた場合を想定する。

 解析では、反応度添加率として、最大の反応度効果を有する2つの制御棒バンクが同時に最大速度で引き抜かれる場合を上まわる8.6×10-4(ΔK/K)/Sと、引抜き速度が小さい場合として感度解析の結果最もきびしい最小DNB比を与える7.0×10-5(ΔK/K)/Sを仮定する。

 その結果、出力領域中性子束高(高設定)原子炉スクラム信号または1次冷却材可変温度高原子炉スクラム信号によって、それぞれ約1.6秒後及び約19秒後に原子炉は自動停止され、原子炉圧力及び1次冷却材平均温度の上昇は抑制される。過渡期間中の最小DNB比はそれぞれ約1.42及び約1.34であり、燃料中心温度はそれぞれ最高約2,245℃及び約2,400℃であるので、燃料被覆の損傷は起こらない。また、原子炉圧力は最大約158㎏/㎝2G及び約164㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が損なわれることはない。

4.1.3 制御棒クラスタ落下及び不整合

 制御棒クラスタ駆動装置またはその制御系などの故障によって制御棒クラスタが引抜き位置から炉心内に落下すると、局部的に原子炉出力が減少し出力分布が悪化する。

 解析では、定格出力運転中に、実際の制御棒クラスタ1本の最大反応度効果を上まわる反応度効果2.5×10-3Δk/kを有する制御棒クラスタ1本が落下すると仮定する。この場合、中性子束変化率高原子炉スクラム信号により原子炉は自動停止する。しかし、反応度効果が小さいと自動停止しない場合もあるので、この解析では自動停止せずに出力は制御棒制御系により定格出力に復帰すると仮定する。

 その結果、減少した原子炉出力は他の制御棒クラスタの自動引抜きによって補償され、過渡変化の生じる前の出力に復帰する。その間の最小DNB比は約1.33で燃料中心温度の上昇も小さく、燃料被覆の損傷は起こらない。原子炉圧力も最大約159㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が損なわれることはない。

また、制御棒クラスタ駆動装置、同駆動回路の故障により、バンク内の制御棒クラスタが不揃いに駆動された場合には、炉心出力分布が悪化する。

 解析では、原子炉が定格出力運転時にバンクD制御棒クラスタがバンク挿入限界にあり、内1本の制御棒クラスタが全引抜き位置にあるものと仮定する。その結果、最小DNB比は約1.31であり、燃料中心温度の上昇も小さく、燃料被覆の損傷は起こらない。

4.1.4 ほう素の異常な希釈

 化学体積制御設備の誤動作から純水が1次冷却材中に注入されると、炉心内のほう素濃度が下り反応度が添加される。

 解析では、1次冷却材中のほう素濃度を起動時においては2,000ppm、出力運転時においては1,600ppmとし、ほう素濃度を希釈する場合通常は充てんポンプ2台までしか運転しないが、ここでは充てんポンプ3台による最大流量42.9m3/hで純水を1次冷却材中に注入し希釈するものと仮定する。

 その結果、起動時の場合は、希釈が始まってから臨界に至るまでの間に運転員が中性子束高の警報により異常状態を検知し対策をとる時間が十分にある。

 出力運転時で、制御棒を手動制御している場合は、希釈により反応度が添加され、1次冷却材可変温度高原子炉スクラム信号により原子炉は自動停止される。この場合の反応度添加率はⅣ4.1.2の解析の範囲内にあることから、この過渡変化が問題になることはない。

 出力運転時で、制御棒が自動制御の場合は、希釈に伴う反応度添加を補償するため制御棒が挿入される。希釈が進むと制御棒が挿入限界に達し警報が発生するので、その後、更に希釈が進んだ場合、停止余裕を失うに至るまでの間に運転員が対策をとる時間は十分にある。

4.1.5 1次冷却材流量部分喪失

 原子炉出力運転中に、1次冷却材ポンプ1台が故障などにより停止すると、炉心の冷却能力が低下する。

 解析では、定格出力運転中に1次冷却材ポンプ2台のうち1台が停止し、流量がポンプの慣性によって徐々に減少して1次冷却材流量低原子炉スクラム信号により原子炉は自動停止されると仮定する。

 その結果、最小DNB比は約1.49であり、燃料被覆の損傷は起こらない。また、原子炉圧力は最大約159㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性も損なわれることはない。

4.1.6 1次冷却系停止回路誤起動に伴う冷水導入

 1次冷却材ポンプ1台で部分負荷運転を行っているときに他方の停止回路を起動した場合、停止回路を逆流していた低温の冷却水が急速に炉心へ導入され、負の減速材温度係数の効果により反応度が添加され、原子炉出力が上昇する。

 解析では、原子炉を定格の12%出力(1次冷却材ポンプ1台運転時の最高原子炉出力)で運転中に、停止している1次冷却材ポンプを誤起動し、停止回路中の流量は10秒で定格に達すると仮定する。

 その結果、熱流束は定格値の約25%にとどまるので、最小DNB比の低下及び燃料中心温度の上昇とも問題にはならず、燃料被覆の損傷は起こらない。また、原子炉圧力は最大約163㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が損なわれることはない。

4.1.7 1次冷却系の異常な減圧

 加圧器安全弁などが何らかの原因により全開し続けるとすると、1次冷却系の圧力は降下し、中性子束は減少する。自動運転の場合には、この中性子束の減少を補償するため制御棒が引き抜かれる。

 解析では、定格出力運転時に加圧器安全弁1個が定格容量の約140%で吹き出すものと仮定する。

 その結果、1次冷却材温度の低下による制御棒の自動引抜きにより出力は僅かに上昇するが、1次冷却材可変温度高原子炉スクラム信号により原子炉は自動停止される。この場合、最小DNB比は約1.42であり、また、原子炉出力は定格値の約104%にとどまるので燃料中心温度が二酸化ウランの融点に至ることはなく、燃料被覆の損傷は起こらない。また、原子炉圧力は降下するのみである。

4.2 2次系の故障及び電源喪失などに起因する過渡変化

 2次系の動的機器の単一故障または誤動作あるいは運転員の単一誤操作もしくは電源喪失などの施設全体に影響を与える原因による過渡変化として、蒸気流量過大、2次系の異常な減圧または蒸気発生器への過剰給水に伴う冷水導入による反応度添加及び蒸気発生器2次側給水設備の故障又は誤動作あるいは負荷喪失による熱除去能力の低下もしくは電源喪失による外乱を想定した。

4.2.1 蒸気流量過大に伴う冷水導入

 主蒸気ダンプ弁、蒸気加減弁、主蒸気逃し弁または主蒸気安全弁の誤動作などにより蒸気流量が過大になると、1次冷却材の温度が低下し反応度が添加される。また、タービンへの蒸気流量が過大になった場合には、制御棒制御系が自動運転であると、更に反応度が添加される。

 解析では、定格出力運転中に上記の弁のうちの1個が全開となった場合の蒸気流量増加を上まわる値として、蒸気流量が10%急増すると仮定する。

 その結果、減速材温度係数が最小(絶対値最大の負の値)の場合で制御棒制御系が自動運転であっても、最小DNB比は約1.45であり、また、原子炉出力は約110%にとどまるので、燃料中心温度が二酸化ウランの融点に至ることはなく、燃料被覆の損傷は起こらない。また、原子炉圧力は初期値を上まわることはない。

4.2.2 2次系の異常な減圧

 主蒸気ダンプ弁、主蒸気逃し弁または主蒸気安全弁のうちの1個が誤って全開し蒸気が放出されると、1次冷却材の温度が低下し反応度が添加されるので、停止余裕が失われ原子炉スクラム後再臨界となるおそれがある。

 解析では、保有エネルギが少なく除熱の影響が最もきびしい高温停止状態で、上記の弁のうち最大容量の主蒸気安全弁1個が全開したと仮定する。

 その結果、蒸気放出に伴い1次冷却材が冷却されると、炉心には温度低下により反応度が添加されるが、加圧器水位低信号及び原子炉圧力低信号の一致により高圧注入系が作動し高濃度のほう酸水が炉心に注入されるため、原子炉は未臨界に保たれるので、最小DNB比の低下及び燃料中心温度の上昇が問題となることはない。

4.2.3 蒸気発生器への過剰給水に伴う冷水導入

 蒸気発生器の給水制御弁の誤動作などによって給水が過剰になったとすると、1次冷却材の温度が低下し反応度が添加される。

 解析では、定格出力運転中に給水制御弁が全開したと仮定する。

 その結果、原子炉出力は上昇するが、原子炉保護系の動作によって原子炉は自動停止される。この過渡変化時の最大反応度添加率は約7.0×10-5(Δk/k)/sであり、これはⅣ4.1.2で解析している反応度添加率の範囲内にあるので、最小DNB比及び原子炉圧力は上記の解析結果よりきびしくなることはない。

4.2.4 蒸気発生器2次側給水設備の故障又は誤動作

 主給水ポンプまたは復水ポンプの電源喪失あるいは給水設備の誤動作などによって蒸気発生器への給水が停止すると、熱除去能力が低下し、1次冷却材温度及び圧力が上昇する。

 解析では、定格出力運転時に外部電源が喪失して、主給水ポンプ2台が停止し、同時に1次冷却材ポンプも停止すると仮定する。

 その結果、蒸気発生器水位が急減し、蒸気発生器水位異常低原子炉スクラム信号により原子炉は自動停止され、ディーゼル発電機によって電動補助給水ポンプが自動起動され水位は回復する。また、1次冷却材が自然循環することにより炉心の冷却は継続されるので、1次冷却材の熱膨張により加圧器が満水になることもない。また、原子炉圧力も最大約164㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は損なわれることはない。なお、原子炉は直ちに自動停止され、原子炉出力も上昇しないので燃料の健全性が損なわれることはない。

4.2.5 負荷喪失

 電力系統の擾乱、タービンまたは発電機の故障、タービン制御系統の誤動作などにより急激な負荷減少が生じる原子炉圧力が上昇する。

 解析では、定格出力運転時に外部負荷の完全喪失が起こると仮定する。この場合タービンはトリップするが、タービントリップ信号による原子炉の自動停止は起こらないものとし、かつ、主蒸気ダンプ弁及び主蒸気逃し弁は動作しないと仮定する。

 その結果、蒸気発生器2次側の圧力は上昇し、主蒸気安全弁が動作する。一方、1次冷却材温度及び圧力も上昇し、1次冷却材可変温度高原子炉スクラム信号または原子炉圧力高原子炉スクラム信号により原子炉は自動停止される。この場合、加圧器の圧力抑制効果が働くとすると最小DNB比は約1.55、また、原子炉圧力は最大約164㎏/㎝2Gである。また、同効果を無視すると最小DNB比は初期値を下まわることはなく、原子炉圧力は最大約180㎏/㎝2Gである。いずれの場合にも原子炉出力は上昇しないので、燃料中心温度が二酸化ウランの融点に至ることはなく、燃料及び原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が損われることはない。

4.2.6 電源喪失

 送電系統または所内電源設備の故障などにより外部電源が喪失すると原子炉施設の運転状態が乱される。

 電源喪失として、187kV送電線2ルート4回線及び66kV送電線のすべてが同時に故障した場合を考えても、外部電源喪失を仮定しているⅣ4.2.4の結果よりもきびしくなることはない。

5 事故解析

 ここでいう事故とは、運転時の異常な過渡変化を超える異常状態であって、現実に起こる可能性は極めて少ないが、万一発生した場合、その事故の拡大を防止し、発電所からの放射性物質の放出を抑制する目的で設けられている各種の安全防護施設の設計の妥当性を検討する目的で選択したものである。事故の想定にあたっては、機器の破損あるいは1次冷却材配管及びその他の配管の破断などを仮定した。

 なお、これらの事故は、以下の各項目でも述べるように、その発生の可能性が極めて小さくなるように十分な防止対策がとられているものである。

 以下に、事故状態の解析条件及びその結果を示すが、いずれの場合でも、原子炉施設の安全性は確保されるものと判断した。

 なお、事故についても、1号炉時点に比べ、その後の知見により解析事象の増加及び解析方法などの改善を行った。

5.1 1次冷却材流量喪失事故

 原子炉出力運転中に何らかの原因で、1次冷却材ポンプの2台停止が起きた場合、1次冷却材流量の完全喪失を引き起こし、炉心の冷却能力が低下する。

 事故の想定としては、電源喪失により1次冷却材ポンプが2台とも停止するものとする。

 事故解析にあたっては、次の前提条件を用いる。

(1)原子炉は、定格出力の102%で運転しているものとする。

(2)原子炉は、1次冷却材ポンプが停止し流量が低下した段階で発生する1次冷却材流量低原子炉スクラム信号で自動停止するものとする。

 解析の結果、原子炉圧力は約164㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は保たれ、また、最小DNB比は約1.33にとどまるので、炉心の冷却能力が失われることはない。

 この事故の発生を防止する対策として、次のものがあり、事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(1)1次冷却材ポンプ2台は、発電機側と送電線側のいずれからも受電可能な所内母線構成とされ、発電機側の電源が遮断されると、直ちに送電線側に切り替えられる。

(2)1次冷却材ポンプ2台の接続される母線は、単一母線故障で2台のポンプ喪失が起こらないよう分離される。

5.2 1次冷却材ポンプ軸固着事故

 原子炉出力運転中に何らかの原因で、1次冷却材ポンプ1台の軸固着が発生すると、1次冷却材流量が急減し、炉心の冷却能力が低下し、1次冷却材温度、燃料被覆温度及び原子炉圧力が上昇する。

 事故の想定としては、何らかの原因によりポンプ1台の回転軸が固着するものとする。

 事故解析にあたっては、次の前提条件を用いる。

(1)原子炉は、定格出力の102%で運転しているものとする。

(2)原子炉は、1次冷却材ポンプの回転軸が固着し流量が低下した段階で発生する1次冷却材流量低原子炉スクラム信号で自動停止するものとする。

(3)原子炉圧力の評価では、その初期値を定常運転時に最大圧力とし、原子炉圧力の低減効果をもつ加圧器スプレイ弁、加圧器逃し弁及び主蒸気ダンプ弁は動作しないものとする。

(4)過渡時には、燃料被覆温度が高くなるように、ギャップ熱伝達率を大きくとる。

 解析の結果、原子炉圧力は最大約186㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は保たれる。最小DNB比は1.30を下まわるが、燃料被覆温度は約1,100℃にとどまり、ジルコニウムと水との反応による酸化量も少ないので、炉心の冷却能力が失われることはない。

 この事故の発生を防止する対策として、次のものがあり、事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(1)1次冷却材ポンプは、長時間の運転に耐えるよう設計し、品質管理や運転保守を十分に行なうことにより、1次冷却材ポンプ故障の可能性が少なくなるよう配慮される。

(2)1次冷却材ポンプの異常を検知すると警報が出され、運転員のポンプ停止操作により軸固着が防がれる。

5.3 制御棒クラスタ抜け出し事故

 原子炉運転時に何らかの原因で、制御棒クラスタ駆動装置圧力ハウジングが破断した場合、制御棒クラスタは大きな圧力差のため短時間の内に炉心から抜け出し、急激な反応度添加ときびしい出力分布の歪をもたらし、燃料被覆の損傷の可能性があり、かつ、1次冷却材の喪失を伴う。

 事故の想定としては、原子炉臨界状態で破断したハウジング内の制御棒クラスタ1本が炉心から完全に抜け出すものとする。

 事故解析にあたっては、次の前提条件を用いる。

(1)原子炉は、炉心寿命初期及び炉心寿命末期に対し、各々全出力及び零出力状態で運転しているものとする。

(2)抜け出し制御棒クラスタの反応度効果は、完全挿入位から抜け出す場合のものとして評価する。

(3)原子炉は、零出力運転の場合、出力領域中性子束高(低設定)原子炉スクラム信号で、また、定格出力運転の場合は出力領域中性子束高(高設定)原子炉スクラム信号で自動停止するものとする。

 解析の結果、燃料被覆温度及び燃料中心温度の最大値は、それぞれ、約1,189℃及び約2,727℃であり、ジルコニウムと水との反応による酸化量も僅かである。燃料ペレットの最大エンタルピは約208cal/g・UO2(初期保有エンタルピに断熱印加エンタルピを加えたもの)であり、炉心の冷却能力を損なうような燃料の大破損は起こらない。

 また破損したハウジングから放出される1次冷却材量は、1次冷却材喪失事故に比べて少なく、スクラムによる制御棒挿入とあいまって、非常用炉心冷却系の作動により、炉心は未臨界状態に維持され、十分に冷却される。

 この事故の発生を防止する対策としては、次のものがあり、事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(1)制御棒クラスタ駆動装置圧力ハウジングは、各種の応力を考慮しきびしい条件を適用した設計、水圧試験による耐圧性の実証及び十分な強度と靭性を有するステンレス鋼の使用などにより、ハウジング破損の可能性が少なくなるよう配慮される。

(2)過渡状態での1次冷却系の過圧を防止するため、加圧器逃し弁及び加圧器安全弁などの設備が設けられる。

5.4 1次冷却材喪失事故

 何らかの原因で1次冷却系の配管の破損が生じると、1次冷却材が流出し炉心内の冷却材が喪失するので、対策を施さなければ、炉心冷却は不可能となり、燃料の大破損を生じることになる。このような事故に対処するため、原子炉には非常用炉心冷却系が設けられているが、その機能を評価するため、1次冷却材喪失事故を以下のように想定する。

 事故の想定としては、1次冷却材配管の完全両端破断から、小口径配管の破断までとする。

 事故解析にあたっては、昭和50年5月13日に原子力委員会が決定した「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」(以下、「ECCS安全評価指針」という。)に従い、次の前提条件を用いる。

(1)事故前の原子炉は、定格出力の102%で長時間運転しているものとし、炉心の保有エネルギ及び崩壊熱を計算する。

(2)外部電源は喪失するものとし、電源を必要とする非常用炉心冷却系の作動は、ディーゼル発電機の電力が供給されるまでの間遅延するものとする。

(3)ディーゼル発電機及び工学的安全施設について、解析結果がきびしくなるような動的機器の単一故障を仮定する。

 また、解析モデルについても、大破断及び小破断解析のいずれの場合も「ECCS安全評価指針」を満足するものを使用した。

破断口の位置、断面積及び放出係数などによって、原子炉水位及び原子炉圧力の低下の割合も変化するため、非常用炉心冷却系の作動状態が異なる。

 1次冷却材喪失事故時の炉心の健全性を確認するため、「ECCS安全評価指針」に基づき、燃料被覆温度、ジルコニウムと水との反応による酸化量及び長期間の炉心冷却能力について検討を行った。

 種々の解析の結果によれば、低温側1次冷却材配管の完全両端破断に対し放出係数0.4を想定した場合が、燃料被覆温度の上昇及びジルコニウムと水との反応による酸化量が最大となる。

 以下、この場合について、解析条件、経過及び結果を示す。

(1)低温側配管が完全両端破断すると、破断口から1次冷却材が急激に流出し、原子炉圧力が原子炉格納容器内の圧力に等しくなる約22秒後までブローダウンが持続する。

(2)外部電源喪失を仮定し、炉心に冷却材を注入する高圧及び低圧注入系は、ディーゼル発電機の起動によって事故発生の約31秒後に作動する。なお、蓄圧注入系は、原子炉圧力が蓄圧タンクの保持圧力を下まわる事故発生の約10秒後に作動するが、事故発生の約22秒後のダウンカマ部で注入水が落下できるようになる時点までに注入した水は、ブローダウン後の原子炉水位上昇には無効であると仮定する。

(3)動的機器の単一故障として、燃料被覆温度上昇の観点から最もきびしい、低圧注入ポンプ1台が働かない場合を仮定する。

(4)事故発生の約40秒後に、原子炉水位は炉心燃料の下端に達し、再冠水が始まる。再冠水開始後は、炉心で発生する蒸気とその蒸気に巻きこまれた水滴によって、炉心冷却が行われる。燃料被覆温度は、事故発生の約100秒後に最高値に達するが、約280秒後に被覆の最高温度を示す位置まで炉心水位が上昇し冠水するため、その後は急激に低下する。

(5)解析の結果、燃料被覆最高温度は約1,130℃であり、制限値1,200℃を下まわる。また、燃料被覆のジルコニウムと水との反応が最大になる点での酸化量は約5%で制限値15%を下まわり、全炉心平均の被覆のジルコニウムと水との反応による酸化量は0.3%以下であり十分小さい。このため燃料体は冷却可能なように形状が保持されるので、長期にわたる炉心の冷却は、再循環モードの確立によって確保される。

 なお、小破断の解析として、最もきびしい低温側配管口径約15㎝スプリット破断の解析結果は、燃料被覆最高温度約758℃であり、ジルコニウムと水との反応による酸化量も十分に小さい。

 また、別途に、上記の解析結果の妥当性を評価するため、WR-EMコード(米国原子力規制委員会作成の安全審査用解析コード・システム)を用いてチェック計算を実施した。このチェック計算も、上記の解析と同様に、「ECCS安全評価指針」に基づいて行った。その結果によれば、低温側1次冷却材配管の完全両端破断で放出係数0.4に対して、燃料被覆最高温度は約1,171℃、燃料被覆のジルコニウムと水との反応が最大になる点での酸化量は約7.2%である。

 以上により、「ECCS安全評価指針」を満足しており、事故後の炉心冷却は維持できるものと判断する。

 1次冷却材喪失事故時の原子炉格納容器の健全性については、原子炉格納容器内圧が最も高くなる蒸気発生器出口配管の破断を仮定し、構築物などによる吸熱を小さめに仮定して評価した結果、原子炉格納容器内圧の最大値は約2.57㎏/㎝2Gで、最大許容圧力2.72㎏/㎝2Gを下まわっており、原子炉格納容器の健全性は確保される。

 この事故の発生を防止する対策として、次のものがあり、事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(1)原子炉冷却材圧力バウンダリの機器及び配管は、各種の応力を考慮しきびしい条件を適用した設計、耐食性に優れたステンレス鋼などの使用、十分な品質管理及び1次冷却材の水質管理などにより、原子炉冷却材圧力バウンダリ破損の可能性が少なくなるよう配慮される。

(2)過渡状態での1次冷却系の過圧を防止するため、加圧器逃し弁及び加圧器安全弁などの設備が設けられる。

(3)1次冷却系の健全性を監視するため、供用期間中検査が行われるほか、1次冷却材の漏れを早期に検出するため、原子炉格納容器内に1次冷却材漏洩監視装置が設けられる。

5.5 蒸気発生器伝熱管破損事故

 何らかの原因で蒸気発生器伝熱管が破損した場合、1次冷却材が蒸気発生器2次側へ流出し、1次冷却系から放射性物質が外部に放出される可能性がある。

 事故の想定としては、原子炉出力運転中に、蒸気発生器の伝熱管1本が瞬時に完全破断を起こすものとする。

 事故解析にあたっては、次の前提条件を用いる。

(1)原子炉スクラム後、外部電源は喪失するものとし、主蒸気安全弁の作動によって、1次冷却系の除熱及び減圧が蒸気発生器を介して行われるものとする。

(2)1次冷却系及び2次系への注水は、それぞれ高圧注入ポンプ2台及び補助給水ポンプ3台中2台の作動によるものとする。

 この結果、原子炉は事故発生の約4分後に、原子炉圧力低原子炉スクラム信号で自動停止し、その後、1次冷却系の減圧及び2次系への1次冷却材流出により、原子炉圧力低信号及び加圧器水位低信号の一致によって、非常用炉心冷却系が作動し、ほう酸水が炉心に注入される。冷却及び減圧が進んで、破損蒸気発生器側の蒸気圧力が主蒸気安全弁の設定圧力以下になると、主蒸気隔離弁、主蒸気逃し弁及び給水弁を閉じることにより、事故発生後30分以内に破損蒸気発生器は隔離される。隔離されるまでの間に1次冷却系から2次系へ流出する1次冷却材量は、全保有水量の約26%(約32t)にとどまる。また、最小DNB比は約1.36であり、燃料被覆の損傷は起こらない。以上のことから、放射性物質の外部への放出は抑制される。

 また、破損蒸気発生器の隔離後は、健全側の蒸気発生器の主蒸気逃し弁を使用して1次冷却系の除熱及び減圧を継続し、事故を収拾させることができる。

 この事故の発生を防止する対策として、次のものがあり、瞬時の完全破断のような事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(1)蒸気発生器の伝熱管は、耐食性に優れ、延性に富んだニッケル・クロム・鉄合金を使用し、設計、製作及び検査の各段階で、蒸気発生器伝熱管破損の可能性が少なくなるよう配慮される。

(2)蒸気発生器伝熱管の腐食を小さくするため、適切な化学薬品の注入などにより使用する水の溶存酸素や塩素などの含有量を抑えるように、水質が管理される。

(3)過渡状態での1次冷却系の過圧を防止し、伝熱管に過大な差圧が生じないようにするため、加圧器逃し弁及び加圧器安全弁などの設備が設けられる。

(4)蒸気発生器ブローダウン水及び復水器空気抽出器排気の放射能レベルは常時監視されており、蒸気発生器伝熱管の漏洩は早期に検出できるので、適切な処置が講じられる。

5.6 主蒸気管破断事故

 何らかの原因で主蒸気管が破断すると、蒸気の流出によって、1次冷却材の温度及び圧力が低下するので反応度が添加され、原子炉スクラム後、再臨界となり出力上昇の可能性がある。

 事故の想定としては、高温停止状態にあるときに、主蒸気管の完全破断が流量測定用ノズル下流部分または蒸気発生器出口部分において生じるものとする。

 事故解析にあたっては、次の前提条件を用いる。

(1)炉心の反応度停止余裕は、原子炉スクラム時に最大の反応度効果をもつ制御棒クラスタ1本が完全引抜き位置に固着し挿入されないときの値とする。

(2)高濃度ほう酸水を注入する高圧注入ポンプ1台が働かないものと仮定する。

(3)主蒸気管の逆止弁の効果は無視し、主蒸気管の隔離は主蒸気隔離弁によって行われるものとする。

 解析の結果、蒸気発生器出口部分の破断の場合が放出蒸気流量が大きく、再臨界後の熱流束の最大値は定格値の約50%に達する。しかし、高圧注入系の作動により高濃度ほう酸水が注入されると、原子炉は未臨界になり、また、最小DNB比も約1.4で、原子炉圧力も上昇せず原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は保たれ、炉心の冷却能力が失われることはない。

 この事故の発生を防止する対策として、次のものがあり、事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(1)主蒸気管は、材料選定、設計、製作及び検査の各段階で、主蒸気管破損の可能性が少なくなるよう配慮される。

(2)過渡状態での主蒸気系の過圧を防止するため、主蒸気ダンプ系、主蒸気逃し弁及び主蒸気安全弁が設けられる。

5.7 燃料取替取扱事故

 燃料取替作業中に、何らかの原因によって取扱い中の燃料集合体が落下し燃料被覆が破損すると、核分裂生成物が放散する。

 事故の想定としては、取替作業中に使用済燃料が使用済燃料ピット内で落下するものとする。

 事故解析にあたっては、次の前提条件を用いる。

(1)燃料取替は、原子炉停止の100時間後に開始するものとする。

(2)落下した料燃集合体の全燃料棒の被覆が損傷するものとする。

(3)よう素は使用済燃料ピット水中にほとんど留まるが、希ガスは全量が放出されるものとする。

 解析の結果、原子炉補助建家内に放出される放射性物質の量は少ない。

 このような事故が発生した場合、使用済燃料ピット排気設備を起動して放射性物質は処理され、原子炉補助建家排気筒に導かれ、敷地外への影響は小さい。

 この事故の発生を防止する対策として、次のものがあり、事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(1)燃料用グリッパは駆動源の喪失に対してフェイルセイフな設計とし、更に燃料をつかんでいる間、グリッパが開かないように、機械的なインターロック装置が設けられる。

(2)燃料取扱設備は、設計、製作及び取扱い方法の確立にあたって、燃料取扱いの際に臨界の可能性がなく、作業員に過渡の被曝が起こる可能性がないよう考慮される。

5.8 廃棄物処理設備の破損事故

 廃棄物処理設備の一部が何らかの原因で破損すると、内蔵された放射性物質が設備外に放出されるおそれがある。

 しかし、液体廃棄物処理設備に破損や漏洩が生じても、流出物は原子炉補助建家のサンプに集めて回収するので、外部に放出されることはない。

 そこで、事故の想定としては、気体廃棄物が最も多く貯蔵されている水素廃ガス貯蔵タンク1基が破損するものとする。事故解析にあっては、7.5年間タンク1基に連続充てんし、その時点で破損すると仮定する。

 その結果、タンク中の希ガスは原子炉補助建家内に放出されるが、これは換気系によって原子炉補助建家排気筒に導かれ、敷地外への影響は小さい。

 廃棄物処理設備の事故発生を防止する対策として、次のものがあり、事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(1)廃棄物処理設備の配管、タンク、ポンプ類は、材料選定、設計、製作及び検査の各段階で、廃棄物処理設備の破損や漏洩の可能性が少なくなるよう配慮される。

(2)水素廃ガス貯蔵タンク及び減衰タンクのガス圧がタンクの設計圧力を下まわるように、それぞれのガス圧縮機の吐出圧力が決められる。

5.9 燃料集合体誤装荷事故

 何らかの原因で燃料集合体の誤装荷が行われ、原子炉が運転されると、出力分布が設計値からはずれる。

 事故の想定としては、予備燃料が計画と異なる燃料集合体位置に装荷される場合及び隣接した燃料集合体が交換される場合とする。

 その結果、いずれの場合においても零出力運転時の炉内核計装による出力分布測定で、誤装荷の影響が容易に確認でき、適切な措置をとることができる。

 この事故の発生を防止する対策として、次のものがあり、事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(1)燃料は、設計、製作及び検査の各段階で、1本の燃料棒または1本の燃料集合体に設計と異なる濃縮度の燃料ペレットまたは燃料棒が混入されないよう配慮される。

(2)燃料を装荷する際には、新燃料貯蔵庫または使用済燃料ピットから出す時、炉心に装荷する時及びすべての燃料集合体が炉心に装荷された時に各々の燃料集合体番号、炉心位置などが確認される。

6 災害評価

 本原子炉施設には、これまで述べたように種々の安全対策が講じられており、各種の事故を想定した解析においても、燃料被覆が大破損に至ることはなく、また、大量の放射性物質が外部に放出されることもないので、本原子炉施設の安全性は十分であると判断する。

 ここでは、本原子炉施設の立地条件の妥当性を評価するために、「原子炉立地審査指針」に基づき、重大事故及び仮想事故を想定して行った解析結果を示す。

 解析に用いられた仮定は妥当であり、その結果は「原子炉立地審査指針」に適合しているものと判断する。

 被曝線量の評価は、よう素による内部甲状腺被曝線量及び放射性雲による外部被曝線量を対象にして行った。更に1次冷却材喪失事故については原子炉格納容器内の核分裂生成物によるスカイシャイン線量及び直線線量についても評価を行った。

6.1 重大事故

 重大事故としては、Ⅳ5の事故解析の結果を参考として、放射性物質の放出の拡大の可能性のある1次冷却材喪失事故及び蒸気発生器伝熱管破損事故について、放射性物質の放出量を大きめに評価した場合を想定する。

6.1.1 1次冷却材喪失事故

 評価にあたっては、全燃料棒の被覆が損傷すると仮定する。

 これは、立地評価上の仮定として、十分にきびしい条件であると判断する。

 評価にあたっての前提条件は次のとおりである。

(1)原子炉は定格出力の102%で長時間運転を行っているものとし、核分裂生成物の炉内蓄積量の計算にあたっては、核分裂当たり195MeVのエネルギ発生があるとし、核分裂生成物の収率等は「被曝計算に用いる放射線エネルギー等について」(原子炉安全専門審査会決定、昭和51年1月)によるものとする。

(2)全燃料棒の被覆の損傷という前提に伴い炉心に蓄積されている核分裂生成物のうち、希ガス2%、よう素1%及び固体核分裂生成物0.02%が1次冷却材とともに原子炉格納容器内に放出されるものとする。

(3)よう素は90%を無機状、10%を有機状のものとし、無機状のよう素は壁面などに吸着されるものの割合を50%、原子炉格納容器スプレイによる無機よう素の除去効果は等価半減期100秒とする。

(4)原子炉格納容器からの希ガス及びよう素の漏洩率は、事故発生後24時間は0.3%/d、その後3日間は0.135%/dとする。

(5)原子炉格納容器からの漏洩は97%がアニュラス部に生じ、3%は原子炉格納容器のドーム部に生じるものとする。

(6)原子炉格納容器からアニュラス部に漏洩した気体は、アニュラス空気再循環設備で浄化され、再びアニュラス部へ戻されるがその一部は、アニュラス部の負圧維持のため原子炉格納容器排気筒から放出されるものとする。

(7)アニュラス空気再循環設備に設けられるよう素用フィルタのよう素除去効率は90%とする。なお、事故後アニュラス部の負圧達成時間は評価上10分間とし、この間はアニュラス空気再循環設備のフィルタの効果を無視し、アニュラス部に漏洩してきた気体は、そのまま外部へ放出されるものとする。

(8)原子炉格納容器及びアニュラス部に滞留している格分裂生成物の減衰は考慮する。

(9)大気中の拡散に用いる条件としては、縦の拡がりは大気安定度F型、横の拡がりは30°、有効拡散風速は2.5m/sとし、被曝評価は現地の地形を考慮して放出点と同一高度の風下軸上で行うものとする。

 上記の条件を用いて評価を行った結果、大気中に放出される核分裂生成物は、よう素約21Ci(よう素131等価、以下同じとする。)及び希ガス約3,900Ci(γ線エネルギ0.5MeV換算、以下同じとする。)である。

 敷地外において線量が最大となるのは、甲状腺被曝線量に対しては炉心から南南東方向約630mの敷地境界、外部γ線による全身被曝線量に対しては炉心から東南東方向約640mの敷地境界であり、それぞれの地点における線量は甲状腺(小児)に対して約2.5rem及び全身に対してγ線約0.11rem(β線約0.06rem)である。

6.1.2 蒸気発生器伝熱管破損事故

 評価にあたっては、1次冷却材中のよう素及び希ガスの濃度は炉心の1%相当の燃料被覆に損傷があるとした場合の最大濃度を仮定し、更に、1次冷却系の圧力低下に伴って損傷燃料からの追加放出があるものと仮定する。

 これは、立地評価上の仮定としては、十分にきびしい条件であると判断する。

 評価にあたっての前提条件は次のとおりである。

(1)事故前の1次冷却材中のよう素濃度は2.15μCi/㎝3、希ガス濃度は33.0μCi/㎝3とする。

(2)蒸気発生器伝熱管破損後の損傷燃料から1次冷却材中への追加放出源として、よう素は約8,000Ci、希ガスは約120,000Ciを仮定し、Ⅳ5.4の解析結果に基づく原子炉圧力の低下に伴って放出されるものとする。

(3)よう素は90%が無機状、10%が有機状であるとし、有機状のものは2次系に流出するまでの低減率を1/10とする。

(4)破損した蒸気発生器を隔離するまでの時間及びこの間の1次冷却材の2次系への流出水量は、Ⅳ5.4の解析結果からそれぞれ30分及び1次冷却系保有水量の30%とする。また、隔離後の2次系から大気への蒸気の漏洩率は、隔離時を10m3/dとし、その後1日間は2次系の圧力低下に依存するものとする。

(5)2次系へ流出した希ガス及び有機状よう素は、その全量が大気へ放出され、無機状よう素は気相への移行率を1/100とする。また、大気に放出されるまでの崩壊による減衰は考慮しない。

(6)大気中の拡散に用いる条件は、地上放散、縦の拡がりは大気安定度F型、横の拡がりは20°、有効拡散風速は2m/sとする。

 上記の条件を用いて評価を行った結果、大気中に放出される核分裂生成物は、よう素約18Ci及び希ガス約14,000Ciである。

 敷地外において線量が最大となるのは、炉心から南南東方向約630mの敷地境界であり、その地点における線量は、甲状腺(小児)に対して約12rem、及び全身に対してγ線約0.08rem(β線約0.7rem)である。

 上記、各重大事故時の線量は、いずれも「原子炉立地審査指針」にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150rem及び全身25remより十分小さい。

6.2 仮想事故

 仮想事故としては、重大事故としての1次冷却材喪失事故及び蒸気発生器伝熱管破損事故について安全防護施設との関連において災害拡大の潜在的可能性を考えて、放射性物質の放出量をより大きく仮想した場合を想定する。

6.2.1 1次冷却材喪失事故

 重大事故の場合と同じ事故について評価するものとするが、重大事故の評価と異なる条件は燃料から放出される核分裂生成物の量を炉内蓄積量に対して希ガスは100%、よう素は50%及び固体核分裂生成物は1%としたことである。

 評価の結果、大気中に放出される核分裂生成物は、よう素約1,100Ci及び希ガス約200,000Ciである。

 敷地外において線量が最大となるのは、甲状腺被曝線量に対しては炉心から南南東方向約630mの敷地境界、外部γ線による全身被曝線量に対しては炉心から東南東方向約640mの敷地境界であり、それぞれの地点における線量は、甲状腺(成人)に対して約32rem、全身に対してγ線約4.9rem(β線約3rem)である。

6.2.2 蒸気発生器伝熱管破損事故

 重大事故の場合と同じ事故について評価するものとするが、重大事故の評価と異なる条件は次のとおりである。

(1)重大事故では、蒸気発生器伝熱管破損後の損傷燃料から1次冷却材中へのよう素及び希ガスの追加放出量は、原子炉圧力の低下に伴って放出されると仮定していたが、仮想事故の場合には事故発生と同時に全量が1次冷却材中に放出されると仮定する。

(2)重大事故では、蒸気発生器隔離後の2次系からの大気への蒸気の漏洩は、2次系の圧力低下に依存し1日間漏洩するものと仮定したが、仮想事故の場合は10m3/dの割合で無限時間漏洩が続くものと仮定する。ただし、大気に放出されるまでのよう素の崩壊による減衰を考慮する。

(3)大気中の拡散に用いる条件は、蒸気発生器の隔離に要する30分までは重大事故の場合と同様とし、隔離後については無限時間漏洩を仮定しているため有効拡散風速は2.5m/s、横の拡がりは30°とする。

 評価の結果、大気中に放出される核分裂生成物は、よう素約78Ci、希ガス約38,000Ciである。

 敷地外において線量が最大となるのは、炉心から南南東方向約630mの敷地境界であり、その地点における線量は、甲状腺(成人)に対して約9.8rem、全身に対してγ線約0.3rem(β線約1rem)である。

 上記、各仮想事故時の線量は、それぞれ「原子炉立地審査指針」にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300rem及び全身25remより十分小さい。

6.3 国民遺伝線量の評価

 仮想事故時における全身被曝線量の積算値は、仮想事故として想定した1次冷却材喪失事故及び蒸気発生器伝熱管破損事故について、次の条件を用いて評価した結果、「原子炉立地審査指針」に国民遺伝線量の見地から、めやすとして示されている参考値200万man-remを十分下まわっている。

6.3.1 1次冷却材喪失事故

 評価にあたっての前提条件は、次のとおりである。

(1)大気に放出される核分裂生成物の量は、Ⅳ6.2.1の希ガス約200,000Ciとする。

(2)大気中の拡散に用いる条件は、地上放散、風速1.5m/s、縦の拡がりは大気安定度F型、横の拡がりは30°とする。

(3)拡散方向は、最も人口密度の高い方向とする。

(4)現時点での人口集計は、30㎞以内については関係市町村役場の資料により、また30㎞以遠については「住民基本台帳に基づく全国人口世帯数表」(自治省行政局編、昭和49年度版)に基づき、将来の人口は2020年における推定人口を用いる。

 以上の条件により評価した結果、希ガスによる全身被曝線量の積算値は、1974年の人口に対し約1.1×105man-rem、2020年の推定人口に対し約1.4×105man-remである。

6.3.2 蒸気発生器伝熱管破損事故

 評価にあたっての前提条件は次のとおりである。

(1)大気に放出される核分裂生成物の量は、Ⅳ6.2.2の希ガス約38,000Ciとする。

(2)大気中の拡散条件及び人口などについては、前述の1次冷却材喪失事故と同様とする。

 以上の条件により評価した結果、希ガスによる全身被曝線量の積算値は、1974年の人口に対し約2.0×104man-rem、2020年の推定人口に対し約2.7×104man-remである。

7 技術的能力

 申請者は、既に伊方発電所1号炉の建設の実績を有している。

 本原子炉施設の建設にあたっては約130名、また運転にあたっては、1号炉の運転要員約110名に30名程度増員して合計約140名の技術者で1、2号炉を運転することとしている。これらの技術者については、1号炉の建設及び運転に従事している者に加えて、更に、日本原子力研究所原子炉研修所による研修、㈱原子力発電訓練センターのシミュレータによる訓練、日本原子力発電株式会社東海研修所による研修等、社外諸機関を活用して養成訓練を行うほか、1号炉の運転等の実務を通じて社内での教育訓練を実施することとなっている。

 これらの点から、本原子炉施設を設置するために必要な技術的能力及び運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと判断する。

Ⅴ 審査経過

 本審査会は、昭和50年6月16日第138回審査会において次の委員からなる第121部会を設置した。

(審査委員)

弘田 実弥(部会長)日本原子力研究所
安藤 良夫
東京大学
石田 豊秀
日本原子力研究所
大崎 順彦
東京大学
坂上 治郎
お茶の水女子大学(現在同大学名誉教授)
中田 正也
運輸省船舶技術研究所
福富 博
東京工業大学
松野 久也
通商産業省地質調査所
三島 良績
東京大学
(調査委員)

石川 迪夫
日本原子力研究所
垣見 俊弘
通商産業省地質調査所
佐藤 裕
建設省国土地理院
高嶺 泰夫
日本原子力研究所
丹羽 義次
京都大学
福田 整司
動力炉・核燃料開発事業団
松田 時彦
東京大学
松本 元一
名古屋大学
森島 淳好
日本原子力研究所
吉川 宗治
京都大学

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行うこととし、昭和50年9月10日に第1回部会を開催し、審査方針を検討するとともに、主として施設を担当するAグループ、主として環境を担当するBグループ及び主として地質・地盤を担当するCグループを設け審査を開始した。

 以後部会及び審査会において審査を行ってきたが、昭和53年2月15日の部会において、部会報告書を決定し、本審査会は、これを受け昭和52年2月23日第156回審査会において本報告書を決定した。

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