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沸騰水型原子炉の配管割れに関する調査・検討について 昭和51年11月17日
原子力委員会
委員長 前田 正男 殿
原子炉安全技術専門部会
部会長 吹田 徳雄
沸騰水型原子炉の配管割れに関する調査・検討について 当専門部会における調査審議事項のうち、標記検討内容について別添のとおり結論を得たので報告する。 本報告は沸騰水型原子炉の配管における割れの原因と考えられている応力腐食割れ事象について調査・検討し、合わせてその低減対策、ならびに今後の研究課題についてとりまとめたものである。 (別添)
沸騰水型原子炉の配管割れに関する調査・検討報告書 昭和51年11月
原子炉安全技術専門部会
1 序論
近年原子力発電所が経験した故障あるいは原子炉停止に至った事象の中に、しばしば一次冷却材配管の応力腐食割れという原子炉の構造材料に係る事象の発生が認められる。これらの現象は一次冷却材圧力バウンダリの中において起っており、より大きい規模の故障に結びつく可能性のある性格のものとして注目される。 原子炉安全技術専門部会は、このような原子炉材料に係る問題を検討するため、昭和50年5月14日第2回部会において原子炉材料小委員会を発足させた。原子炉材料小委員会はその調査検討が望まれる沸騰水型原子炉(以下BWRという)の配管における割れ事象を主題として、その技術的検討ならびに安全性に係る問題の検討を行った。 同小委員会は、昭和50年9月2日の第1回会合以来十数次にわたる会合を重ね、国内におけるBWRの再循環系および炉心スプレイ系配管の割れ事象に関する調査ならびに海外における同種の事象例と研究課題の課査を行い、配管における割れの原因と考えられる応力腐食割れ現象の現状を確認するとともに今後の問題点を明らかにし、合わせて今後に要請される安全研究課題を明らかにした。 2 BWRの配管割れ
BWRの配管系の応力腐食割れは世界各国において、ドレスデン1号炉、オイスタークリーク1号炉、ナインマイルポイント1号炉、ラクロス、エルクリバー(以上米国)、ドデワード(オランダ)、タラプール1号炉(インド)、JPDR(日本)、等比較的初期の原子炉でも経験されているが、1974年9月米国のドレスデン2号炉の再循環系4インチバイパス配管に割れが発見されて以来、わが国においても福島1号、浜岡1号の原子炉の再循環系バイパス配管に微細な割れの存在することが確認された。その後再循環系バイパス配管だけではなく敦賀、福島1~3号の各炉において非常用冷却系の炉心スプレイ配管にも同様の微細な割れが見出され、配管における割れ事象が原子炉構造材料の普偏的な問題をはらむものであることが認識されるに至った。 配管における割れ事象は主としてBWRのステンレス鋼配管に発生しており、これら一連の割れには幾つか共通の背景のあることが認められる。すなわちこれら最近の事例はいずれもBWRの4~10インチ径の304型オーステナイト系ステンレス鋼配管の溶接などにより熱影響を受けた部分に集中しており、原子炉運転時の荷重条件下でかつ高温高圧水という環境下で起きた粒界における応力腐食割れであると考えられる。一方、同じ軽水炉でありながら加圧水型原子炉(以下PWRという)にはこれまで一次冷却水による同種の配管割れがほとんど経験されていない。 3 技術的検討
応力腐食割れは一般に応力、環境、材料の三要素がからみ合って起るものと考えられている。ここでの議論はオーステナイト系ステンレス鋼に発生した応力腐食割れに限定し、特に問題の発生したバイパス配管および炉心スプレイ配管の損傷に焦点を当てた。 1)応力
応力腐食割れは金属材料が特定の水質環境下で、ある程度以上の引張応力を受けているときに、ある期間を経て割れに至る現象である。応力腐食割れが生じるためには原則として、その材料の局部塑性歪を起こすような応力がなければならない。実際に原子炉の運転中に遭遇する応力水準は起動、停止および運転中の過渡状態による応力変動、溶接組立による残留応力、温度勾配による熱応力および切削研磨による表面応力など、あらゆる応力が運転荷重による応力に付加されたものとなり、配管系に局部的に高い引張応力状態を生じることがある。配管系にかかる応力状態は測定技術の困難性もあって十分詳細に把握することはむづかしいが、実際には溶接部の近傍でかなり大きな値になる場合のあることが認められている。 2)環境
軽水炉はBWR、PWRを問わず冷却材に軽水を使用しているが両者は冷却材の水質環境が異っているのに対応して応力腐食割れ発生事例も相違している。これまでのところPWRにおいては一次冷却水による応力腐食割れが報告されていないだけに、その相違点には注目する必要がある。 BWRでは炉心で発生した水蒸気が直接タービンを回す直接サイクル方式をとっているため、一次冷却材中に添加物を混入することは運転中の水質管理をよりむづかしくするので採用していないのが普通である。このため冷却材中の溶存酸素濃度が比較的高くなっていて、低流量域および停滞部に酸素濃度の不均一を生じる可能性がある。一方PWRでは一次冷却材側が常に液相の状態にあり、水素の加圧や添加物の使用によって溶存酸素濃度の低減とpH調整が可能となり、応力腐食割れが発生しにくい環境となっている。一般に材料の応力腐食割れは塩素イオンに敏感であるが高温高圧水中の応力腐食割れは塩素イオンが十分低くても0.2ppm程度の溶存酸素で起こる場合がある。同一材料、同一基準に準拠した配管の設計であってもBWRに応力腐食割れが起り易い原因はこの水質環境の相違にあると考えられる。 3)材料
これまで報告されている原子炉配管系の応力腐食割れは主としてオーステナイト系ステンレス鋼それも304型ステンレス鋼のように炭素量を0.08%以下に制限しており、炭化物を安定化していない18Cr-8Ni型ステンレス鋼の溶接熱影響部に発生している。 この材料は溶体化処理された状態では原子炉冷却材中の応力腐食割れはほとんど報告されていないのであるが溶接施工時に約450~760℃の範囲に加熱された部分が生じるとクロム炭化物が結晶粒界へ析出し粒界近傍のクロム含有量が低下するため一般に粒界腐食に対して敏感になると考えられ、またその他の不純物、特に燐の粒界偏析も粒界腐食の原因になると考えられる。 このように加熱が原因で組織変化が起り、粒界腐食をうけ易くなった状態を一般に鋭敏化したと称している。これまでに経験された原子炉における事例のほとんどが溶接部近傍の鋭敏化域に起っており、き裂の成長は結晶粒界で選択的に進行している。この鋭敏化と高温水中の応力腐食割れ感受性の間には何らかの相関が認められるものの、このような変化をもたらした要因とその具体的なかかわり方などの詳細はまだ明らかではない。 経験によれば、一般に炭素の含有量を固溶限以下に抑えた低炭素材や炭化物安定化材は鋭敏化されにくく、また応力腐食割れ感受性も低い。一方、ニッケルをはじめ炭素以外の合金成分の存在量や比率も鋭敏化に関係するほか、硫黄、硅素や燐などいくつかの不純物元素の含有量も腐食や割れの感受性を支配すると考えられている。 応力腐食割れ感受性は溶接条件によっても当然大きな支配をうける。溶接の熱影響に関連した効果として例えば304鋼管の場合割れの発生率と管径の明らかな相関が認められている。この効果は鋭敏化に類する熱劣化と溶接残留応力の管寸法依存性で説明されている。またステンレス鋼の応力腐食割れにとってフェライト相の混在、あるいはフェライト相自体が著るしく感受性の低い材質に相当することも良く知られている。 これらの経験的事実と応力腐食割れの発生と成長に関する基本的な知見とを総合するならば既存の実用材料の中では低炭素、炭化物安定化あるいは高純度などの特徴をそなえたオーステナイト系ステンレス鋼、高ニッケル、クロム耐食合金、オーステナイトフェライト二相合金、鋳造材、溶接オーバレイ、およびフェライト系材料などに抵抗性が期待できる。しかし材料の採用に当っては原子炉構造材料としての適合性を有する必要があり、当然、応力腐食割れに対する抵抗性のみで判断することはできない。 4 高温高圧水中の応力腐食割れ機構の考察
BWRのステンレス鋼管の応力腐食割れによる破損は一般の応力腐食割れにおけると同様に、割れ核の発生・成長を経て割れの進展により検知されるものと考えられる。高温高圧水環境下におけるステンレス鋼の応力腐食割れ機構に関しては電気化学的測定の困難さ、熱力学的データの不足もあってその詳細は十分明らかになったとはいえないが、おおよその機構は次のように理解される。 ステンレス鋼の応力腐食割れの過程はある大きさの割れに成長するまでの長い潜伏期間と、それ以後の割れ進展の比較的短い期間に大別される。微視的に見ると、この応力腐食割れの発生には最低限度の塑性歪を与えるような応力が必要である。最も一般に受入れられている被膜破壊説によれば塑性歪によって金属表面に形成された被膜が局部的に破壊されて粒界近傍に侵食が起こるとされている。侵食が十分深くなると、その底部の水質条件が材料にとって健全な保護膜を形成しにくい状態になるため、侵食と膜との破壊の繰返しが行われる。このような過程は鋭敏化した材料において形成された結晶粒界に沿うクロム欠乏域で進行しやすいため、割れは粒界を選択的に進むものと考えることができる。 なお粒界における応力腐食割れの機構に関しては、析出層近傍のクロム欠乏領域で優先腐食されるとか、析出物そのものが溶解するなどの諸説があり、また他の不純物の影響もあってまだ確定的でない。 割れの進退速度に関する正確な知見はまだ得られていないが、潜伏期にある微少欠陥がある大きさになると比較的急速に進展するようになり、おおよその進展速度は平均1ミル/日(25μ/日)のオーダーのものと推定されている。また溶存酸素の役割は水の電気化学的条件を変え、結晶粒界における割れの進展が起りやすい電位状態をもたらすことにあると考えられている。 5 安全確保への要求
BWRの配管系に用いられているオーステナイト系ステンレス鋼は靭性が高く本質的に脆性破壊を生じにくい材料である。しかし、たとえ延性材料であっても配管の内側から円周方向に沿って割れが拡がると、それが管壁を貫通する前でも不安定破壊条件に達して急速破断に至ることはないかとの疑問が残る。この点については、さらに実証的な試験研究を行う必要があるが、これまでの配管割れの事例では、すべて破断に至る前に局所的な漏洩または非破壊試験によって割れが検出されており、そのような形式の破断に至った例はない。 しかしながら小規模とはいえ、一次冷却材の漏洩は原子炉施設の安全性確保の観点から好ましい事象ではないので、供用期間中検査技術の向上、応力腐食割れの根本的な抑止等を含め原子炉施設の総合的な安全性を今後とも高めて行く必要がある。このため後述するような対策ならびに研究課題を積極的に推進することが望まれる。 6 応力腐食割れに対する対策
上に述べたように、原子炉冷却系配管における割れは、これまでBWRの安全運転にとり重大な障害となる前に検出されている。仮に割れや漏洩があっても、それが直ちに公衆の安全を脅かす恐れはないと考えられるが、原子力発電所の稼動率を向上させるためにはこのような事態は極力未然に取除きBWRの配管系の応力腐食割れを抑制するような対策を講じなければならない。 応力腐食割れはこれまでの事例から見て材料の局部における応力、水質、および材質の三要因が重畳した結果生じていると考えられるので抑止の立場からみると、そのうち少なくとも一つの要因を十分に除けば発生を防ぐことができ、さらにそれら三要因を抑制するならば、さらにその効果が大きい。したがって低減策としては個々の要因をいかに無視しうる程度にまで抑制できるかにかかっているといえる。 以下にこれら三要因ならびに二次的要因としての施工法、運転管理等について考察する。 1)応力と歪の大きさ
すでに述べたように応力腐食割れが発生するためには使用中に材料の局部に塑性歪を起させるような応力が作用していることが条件である。実際上、配管中の応力には設計荷重に加えて配管の製造、組立、配管合せの時に付加される応力および溶接残留応力ならびに運転時の熱応力と繰返し応力などの複雑な寄与があり、その測定技術の困難さもあって大きさを推定することは難かしい。したがって応力低減の方向としては局部の実応力がなるべく低くなるような施工法をとることを目標に、配管中の引張成分の応力水準を極力低減させる。例えば積極的に圧縮応力を残留させるなどの努力が必要である。 配管中の応力水準の低減策としては適正な配管合せ、溶接継手形状の改良、溶接工法の厳正な管理が有効と考えられる。しかしながら配管の応力を許容できる程度の低い水準まで確実に低減できるような方法についてはなお検討の必要があり、さらに低減化が確実になされているかどうかを確認する方法を確立することも必要である。 2)水質管理
これまでの運転経験によれば溶存酸素が鋭敏化ステンレス鋼応力腐食割れの主要な環境因子の一つとなっている。現在のBWRの設計では応力腐食割れ防止を目的とした酸素制御は特には考えられていない。BWRにおける一般的な水質管理の仕様は電気伝導度が1μ このために応力腐食割れの発生する恐れのある領域においては、起動前の十分な排気と脱酸素、冷却材流量の増大などの水質管理に関する検討が必要である。さらにBWRにおける冷却材への添加物による防食対策の可能性を検討することも必要であろう。 3)材料の選定
304ステンレス鋼は溶接方法を含めて改良の余地が多く残されている。一方、これに代る材料の選定には多くの可能性があるが、原子炉一次系材料であるだけに必ずしも簡単な問題ではない。経験によればフェライト数%以上を含むオーステナイト系ステンレス鋼すなわち、ステンレス鋼鋳造品、溶接金属、オーバーレイなどは応力腐食割れに対して抵抗性が強い。また粒界におけるクロム炭化物の形成によるクロム欠乏域の生成が、応力腐食割れの一つの要因になっていることから、304L、316Lのような低炭素ステンレス鋼、あるいは、347、321のような炭化物安定化ステンレス鋼が耐応力腐食割れ性に優れている。しかし、304L、316L鋼は割れ感受性が全くないわけではなく、また一般に強度が低いため配管の肉厚が厚くなるなどの不利な面を持っている。また、347、321鋼は海外においてPWRへの良好な適用結果が示されているが、BWRへの使用実績は少い。 一方炭素鋼は鋭敏化現象がなく、これまでの軽水炉における経験からも応力腐食割れを生じない材料として知られている。しかし炭素鋼はステンレス鋼に比べて耐食性に劣るため使用中の水腐食によるクラッドの発生を増大させることになり、水質管理に一層注意する必要がある。 以上述べたように現用の材料にはそれぞれ長所と短所があるので材料の選定に当っては、その使用条件、環境条件等を考慮し、原子炉構造材料としての適合性を総合的に評価しなければならない。 4)二次的要因
応力腐食割れに対する二次的要因としてはプラント水処理、強度設計、施工法および運転管理等が考えられる。施工法に関していえば溶接施工、組立据付による残留応力があり、具体的には溶接時の入熱量の制限、溶接鋼管の酸洗いの制限、冷間加工やグラインダ仕上げによる引張残留応力の発生の抑制といった点に注意を払う必要がある。 例えば配管内壁に大きな引張応力を生じさせない方法として内面冷却溶接工法が有効とされており、またショットピーニングが有効であるともいわれている。そのほか、水圧試験の水質管理、運転開始前の十分な排気作業、配管に必要以上に熱応力を生じさせない様な運転管理、さらにはバイパス管の排除といった設計、施工上の検討も行うなど、これら関連技術の連けいによって問題を解決することが重要である。特に応力腐食割れの起り易い部材については304ステンレス鋼の使用を避けて、加工前または接続した後で配管の内側をフェライトを含んだオーステナイト・ステンレス鋼の溶接金属で被覆する方法なども考えられる。 このように応力腐食割れの支配因子を踏まえた配慮を加えることによって2次的要因の側からも発生の可能性を低下させることができる。 5)割れの検出
原子炉冷却材圧力バウンダリとなる系統および機器は、その健全性を確認するために定期的な試験および検査ができるような設計であることが要求されている。 現在応力腐食割れ検出に用いられている非破壊試験法には肉眼試験、超音波探傷試験等があり、圧力バウンダリの割れ検出方法として応用されている。しかし、これらの方法は原子炉の停止中に行うものであり、原子炉の出力運転中の割れを検出する非破壊試験技術はまだ確立されていない。出力運転中の検出方法としては配管の貫通割れに対して漏洩検出装置が重要な役割をはたしており、これまでの配管における割れは、それが安全上問題となる大きさにまで進展する以前の段階で検出され、対策がとられている。 7 結論
わが国では現在6基のBWRが運転中であるが、このうち5基が応力腐食割れを経験している。 BWRの圧力バウンダリ内にある304ステンレス鋼配管は応力腐食割れに対して感受性があり、冷却材中の溶存酸素、残留応力、溶接近傍の母材の鋭敏化の程度によっては今後も応力腐食割れを生ずる可能性を残している。 これらの割れは配管内壁より発生し、外表面に向かって進展するが、原子炉の運転状態において配管断面の全面破断に至るような事態はこれまでの例からいっても考えにくく、定検中に超音波探傷その他の非破壊試験を実施することにより配管における割れを検知することが可能である。さらに運転中に管壁を貫通するような割れが生じる事があっても割れを通して冷却材の微少な漏洩が先行する可能性が高く、運転中の冷却材の漏洩を監視することにより割れの存在を検知できる。また割れの発生した配管を修理する暫定的な方法は用意されており、現実に適用されている。したがって応力腐食割れがたとえ発生してもこれまでの事例から見てそれが冷却材喪失事故のような大事故の引き金になるとは考えにくい。 しかし原子力発電所のより一層の安全性の向上と信頼性の確保を図るためには高温高圧水における応力腐食割れの機構と支配因子ならびに配管の破壊モードに対する十分な理解とそれを踏まえた対策ならびに研究が必要であり、次のような配管割れに関する短期的および長期的対策と安全研究の推進が望まれる。 1)短期的対策
基本的姿勢としては従来の技術でもって現在運転中のBWRのオーステナイト系ステンレス鋼配管の応力腐食割れを早期に検出しかつ発生頻度を低減させるような運転管理および補修技術を確立することである。このためには定検中の非破壊試験を強化するとともに運転中の漏洩検出限界を引下げ、かつ漏洩検出系によってできる限り漏洩源が確認できるようにすることが必要である。 運転上の措置としては冷却材圧力バウンダリに残留する空気量を極力少なくするよう起動時の排気を十分に行い、できるだけ早期に溶存酸素を低減して200℃以上では十分低い水準に保つ必要がある。また仕切弁(例えば再循環系バイパス配管の弁)を開にして、可能な限り枝配管中に滞留水あるいは低流速水を生じさせないようにする必要がある。さらにはバイパス配管の除去も考慮すべきである。 配管の新設、交換あるいは補修に際しては、鋭敏化ならびに溶接引張残留応力を極力低減するよう内面を冷却し溶接入熱を低く抑えるなど施工条件を留意するとともに、ステンレス鋼による内面肉盛溶接方法、割れ感受性の低い材料を選ぶ方法などを検討する必要がある。 供用期間中検査としては運転中の非破壊試験技術が確立しておらず原子炉停止時の肉眼試験、超音波探傷試験等に頼らざるをえない。これらの検査を活用することによって応力腐食割れを経験した4~10インチ径の中小配管のみならず、それ以上の大口径配管についても監視をさらに強化する必要がある。 2)長期的対策
BWR配管の応力腐食割れ対策としては上記のような既存炉の安全対策上の措置を講じつつ、その抜本的解決を図る長期的観点に立った対策を同時に検討する必要がある。これには後述するように応力腐食割れに関する広い分野にまたがった研究要素が多分にからみ、その成果の見返りに負うところが大きい。たとえば応力腐食割れの三要因についてそれぞれの基礎研究から応力腐食割れに及ぼす各要因の役割を解明し、それに基づいた応力腐食割れの防止対策の確立が期待される。また運転中においても応力腐食割れの発生と位置を的確に指摘しうる供用期間中検査技術の開発、耐応力腐食割れ性に優れた新材料または改良材料の開発、さらに水質管理、溶接加工等応力腐食割れに直接あるいは間接的に関連するあらゆる要素ならびに配管の破壊モードについて解明し、それらを総合的に検討して応力腐食割れに対する安全対策を確立することが望まれる。このためには総合的な研究体制を早急に整える必要がある。 3)今後の研究課題
応力腐食割れに関する研究は、すでに多方面にわたって実施されているが、これらは必ずしも原子炉施設を対象としたものばかりではない。高度の信頼性を要求される原子炉機器、配管に対しては製造条件、運転環境条件、および複雑な局部多軸応力条件ならびに繰返し荷重条件下での応力腐食割れに関する実験データの蓄積と、その総合的な評価が必要である。また実験室的な模規で行われる加速試験が実プラント条件の結果をどの程度近似し得るかについてさらに検討が必要であり、割れの進展過程の把握についても定量性の高い実験室的研究を行う一方、実規模配管等の大型試験体による実プラント条件を模擬した研究、配管破壊モードの研究ならびに実プラントによる必要データの測定が望まれる。 さらにこれらの研究に際して、応力腐食割れから見た原子炉施設の系統および機器の重要性に対応した研究を実施するとともに、原子炉の運転上の当面の対策として、供用期間中検査技術および漏洩検出技術の向上、ならびに運転条件の検討についても重要性が喚起された。 これらの研究成果を総合的に判断し、応力腐食割れ防止対策上最も効果的な支配因子を明らかにして軽水炉の安全性に関する指針及び基準に資することが必要であると考える。 したがってこれら課題に対処するためには今後以下のような軽水炉の応力腐食割れに関する安全研究が積極的に進められる必要があると考える。 1 応力腐食割れの発生と成長に及ぼす冶金的、力学的、化学的諸因子の影響の系統的な評価。
2 応力腐食割れによる配管構造の破壊モードの究明
3 局部応力の解析手法、繰返し荷重の影響等応力の解析評価に関する検討
4 水質管理(水中不純物、過渡時の水質遷移等)の検討
5 耐応力腐食割れ性材料の開発と現用材に対する代替材料の総合的評価
6 ステンレス鋼の溶接等施工法からの応力腐食割れ防止対策
7 運転中のオンライン・割れおよび漏洩の検出法の確立、ならびに供用期間中検査技術の向上
8 実プラント試験の実施
9 プラント安全性に及ぼす応力腐食割れの総合的評価
10 損傷部に対する処置方法
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