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総合エネルギー調査会原子力部会報告について


1 はじめに

 昭和48年の石油危機を契機として、我が国のエネルギー供給の安定性について不安が持たれ、各界においてエネルギー問題が活発に議論されてきた。いうまでもなくエネルギーは、経済社会を支える最も基礎的な要素の一つであり、我々が豊かな社会を築き発展させてゆくためには、エネルギーを安定的に確保することが不可欠である。中でも原子力については経済性及び安定供給の面からみて、石油代替エネルギーとして極めて有力なものであり、欧米においても、原子力利用に力を注いでいる現状である。

 しかしながら、我が国の原子力利用は、立地問題をはじめとする多くの問題に直面しており、また、核燃料サイクル事業の確立推進も早急に行わなければならなくなっている。

 このような観点から、原子力部会(部会長松根宗一氏)において、これらの問題を議論することとし、原子力を産業として定着させ、推進するにはどうしたらよいか、その方策を明らかにするため、核燃料サイクルに関する問題を扱う、「核燃料小委員会」(委員長円城寺次郎氏)、原子力発電及び機器に関する問題を扱う「発電・機器小委員会」(委員長稲葉秀三氏)さらに、全体の基本政策や調整を行う「基本政策小委員会」(委員長有沢広巳氏)を設けて、昭和51年5月以来、鋭意審議を行ってきた。この結果、昭和51年12月21日、原子力部会へ各小委員会報告が提出されたもので、以下、報告の概要を紹介する。

2 原子力開発推進に関する考え方

 我が国は、エネルギー供給の大部分を石油に依存しているが、世界のエネルギー情勢を勘案すると、今後長期的なエネルギーの安定供給の観点から石油依存度を低下させて行く必要があり、石油に代替するエネルギーの主要な供給源として、我が国において原子力開発を早急に推進していくことが極めて重要である。しかしながら、昨今の我が国における原子力開発の実情をみると決して順調に進められているとは言い得ず、現状のままのすう勢を続けて行った場合には、我が国のエネルギー需給面に大きな支障を生じることになりかねない。このような観点から本部会としては、現在の原子力開発についてとくに緊急に対策を要すると考えられる以下の諸点について早急にその具体的対策の検討を行うため、その審議を行ってきた。

 すなわち、第1は、原子力開発に対するパブリック・アクセプタンスの確立である。

 とくに、我が国のおかれているエネルギー事情と原子力開発の位置づけについて、広く国民の理解を得るための方策の確立が要請されている。

 第2は、核燃料サイクル対策の確立である。

 とくに、ウラン鉱石の確保問題、再処理及び廃棄物問題については、緊急にその対策の着手が要請されている。

 第3は、新型炉の開発導入及び原子力機器産業の基盤強化である。

 第4は、核拡散防止等国際的な動きに対する我が国の方針の確立である。

 このような諸問題に対し、核燃料小委員会(委員長円城寺次郎氏)及び発電・機器小委員会(委員長稲葉秀三氏)において、鋭意審議を進めて来たところであるが、このほど審議結果の報告がとりまとめられた。原子力部会としても、これらの報告を了承するとともに、何よりもその具体化が最も肝要であるので、政府としてはすみやかにこれらの報告の内容の実現に努められたい。具体的対策の実施にあたっては官民関係者が一致協力して全力をあげて取り組むことが必要であると考える。

 なお、原子力開発に関する重要な問題のうち、将来の原子力開発の規模及び原子力の研究開発を含めた将来の資金問題の検討が残されているが、これについては、我が国の全体的なエネルギー需給の見通し及び原子力関係の研究開発の将来の展望等と密接に係り合う問題であるので、来年以降そうした問題についての関係方面の検討の推移をも勘案しながら基本政策小委員会(委員長有沢広巳氏)の場合において審議を行うこととしたい。

3 総合エネルギー調査会原子力部会核燃料小委員会報告骨子

(1)ウラン鉱石確保策

 海外探鉱、開発を促進するため、電力、非鉄、石油、商社等関係民間業界が結集して、「ウラン探鉱・開発推進協議会(仮称)」を設立し、探鉱プロジェクトの発掘、評価を行うとともに、その成果をふまえて、これらの関係民間業界による「中核的な探鉱・開発会社」の設立を含め対策を検討する。このような民間探鉱、開発に対し、国は動燃事業団、金属鉱業事業団を活用することにより強力なバックアップを行う。

(2)濃縮ウラン確保策

 安定供給確保の観点から①海外共同事業への参加を含め、海外からの供給先の多角化を進めるとともに、②国内濃縮工場の建設の方針を明確にし、国による研究開発の推進と、民間における体制の整備、すなわち、遠心機製造についての技術、人員、資金等の効率化のためのメーカー体制の一本化等を進める。

(3)核燃料加工

 技術力の向上を図るとともにジルコニウム地金等核燃料部品、素材等の国産化のため、核燃料加工事業の体質の強化を図る。また、廃棄物の共同処理、プルトニウムの加工等についての体制を整備する。

(4)再処理および関連事業

 電気事業を中心に、化学、電機等の民間業界による「会社」を設立して、第二再処理工場(5トン/日)を1980年代後半の運開を目途に建設を進めるものとする。この場合動燃事業団の第一工場の建設、運転における技術的蓄積が十分活用されるよう同事業団を含めた「協議会」の設立等関係各界の協力体制を確立する。また、再処理及び関連事業については、プルトニウムに係る盗難防護等の観点から「核燃料パーク」方式が望ましい。

 国は法令の整備、基準の制定、資金助成、安全性及び高レベル廃棄物の処理、処分の研究開発等の措置を進める。さらに、プルトニウムについては、その利用方策を明確にするとともに、盗難防護策を強力に進める。

(5)廃棄物処理、処分対策

 低レベル廃棄物については、「原子力環境整備センター」を中核にして試験的処分事業の実施等を進め民間における処理、処分対策の確立を図る。

 高レベル廃棄物については、ガラス固化、長期保管、永久貯蔵等の技術開発を国が進めるものとする。

4 総合エネルギー調査会原子力部会発電・機器小委員会報告骨子

(1)パブリック・アクセプタンスと原子力発電所の立地の推進
① パブリック・アクセプタンスの確立

 我が国のおかれているエネルギー事情と原子力開発の位置付けについて広く国民の理解を得るため、国の総力をあげた活動の展開、関係機関の連絡協議体制の確立、原子力行政懇談会意見に見られるような公開ヒヤリング等の推進を図り、全体として整合性のとれた広報活動を推進する。

② 軽水炉の安全性・信頼性の向上

○従来から進められている実証試験に加えて新たな試験に着手するなどその拡充を図る。

○改良標準化は、一部52年度計画の発電所に適用できるよう努めるとともに、更に検討を重ねて遅くとも55年頃にはいわゆる日本型軽水炉標準プラントの仕様を作成することを目標とする。

○国においては技術基準等の整備、民間においては技術情報の整備・交換を促進する。

また、原子力プラントのアフターサービス体制を整備する。

③ 地元住民の福祉向上等

 発電用施設の地元住民の福祉向上のため、電源三法の運用改善等を検討する。

④ 地下立地方式の推進

 立地選択の幅の拡大と、用地の効率的利用を図るため、地下立地方式の調査研究を推進する。

(2)新型炉の開発導入

 我が国における軽水炉-FBR路線を補完する炉として重水炉の開発導入の検討が重要な課題である。

 重水炉について、技術的、経済的問題も含め総合評価を早急に確立する必要がある。その際、国は、我が国に適した重水炉の概念を明確にするとともに、重水炉の安全基準の考え方の確立に努める。また、電気事業者等においては、重水炉実用化の具体的問題点の検討を行う。

(3)原子力機器産業の基盤強化

 軽水炉の定着化、新型炉の開発等のため、情報交換、研究開発等メーカー間の協力体制の整備を図り、企業基盤の強化、輸出の振興を図る。



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