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ウラン濃縮技術評価検討幹事会報告


昭和51年12月
原子力委員会
核燃料サイクル問題懇談会
ウラン濃縮技術評価検討幹事会

まえがき

 我が国における原子力発電の進展に伴い、濃縮ウランの需要は今後著しく増大する見通しであり、その安定供給の確保が核燃料政策上の重要課題となっている。現在、我が国は、濃縮ウランの供給を全面的に海外に依存しているが、核燃料サイクルの確立のためには、将来国産濃縮工場の建設を進め、濃縮ウランの国産化を図る必要がある。ウラン濃縮技術は各国において国家機密として取扱われているため、技術導入の期待できない分野であり、濃縮ウランの国産化を図るためには、我が国独自に技術開発を進める必要がある。

 我が国がウラン濃縮技術を保有することは、将来増大する濃縮ウランの需要の一部を海外からの供給に依存する場合において、その際の条件を有利にする可能性があり、また、資源保有国との協力等においても有効な役割を果たすことが期待される。

 ウラン濃縮技術としては、ガス拡散法、遠心分離法等種々あるが、欧米において最初に実用化されたのはガス拡散法である。他方、遠心分離法は、ガス拡散法に比べて、(イ)電力消費量が少ない、(ロ)比較的小規模でも経済性が損なわれない、(ハ)需要の増加に合わせた濃縮工場の段階的増設が可能である、等の利点を有しており、今後の研究開発によって、1980年代後半には、ガス拡散法よりも経済的に有利になるとみられている。このため、世界的にも遠心分離法の研究開発が積極的に進められており、英国、西ドイツ及びオランダの三国グループでは、パイロットプラントの運転を行うとともに、実証プラントの建設に着手している。また、ガス拡散法による実用濃縮工場を有している米国においても、将来は遠心分離法に進むことを見越して研究開発を進めており、パイロットプラントの建設を行うとともに、実用工場の計画も進めている。

 以上の諸点から、原子力委員会が、昭和47年、遠心分離法を特に我が国に適した濃縮技術と判断し、その研究開発を原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)として取り上げ、ウラン濃縮技術開発基本計画(昭和47年10月)に基づきこれまで推進してきたことは、適切であったと言えよう。

 我が国における遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発は、昭和48年度から国のプロジェクトとして取り上げられて以来、学界、産業界等の協力のもとに、動力炉・核燃料開発事業団を中心として精力的に進められてきており、昭和50年度までに約250億円が投ぜられた。その結果、遠心機の開発、カスケード試験等を経て、現在、次の段階であるパイロットプラントによる総合試験に進む開発段階に至っている。

 当幹事会は、前記基本計画に基づき、これまでの研究開発の成果、パイロットプラントの具体的計画等について技術的評価検討を加えるとともに、国際競争力のある実用工場の建設の見通しについて検討を行い、パイロットプラント建設の妥当性について判断した。

 なお、パイロットプラント以降の進め方についても当幹事会としての提言をとりまとめた。

1 研究開発の成果の評価

 パイロットプラントに進むにあたって、現在までに得られた主な研究開発の成果を評価すれば、次のとおりである。

(1)遠心機開発

 遠心機の重要な要素である軸受けについては、非接触型の軸受けが開発され、遠心機の経済性及び安定性が高まり、回転胴については、高強度材料の開発によって高周速に耐える回転胴が得られている。

 また、遠心機の単純化、標準化のための研究、分離性能向上のための研究等により、遠心機の部品点数を大幅に減少させるとともに、かなりの分離性能を有する遠心機が開発された。更に、上記遠心機の開発における経験を生かしつつ、高周速化、長胴化、ガスの供給・抜出し方法の改良等により、上記遠心機よりも格段にすぐれた高性能機が開発されている。

 この高性能機は、分離性能においてヨーロッパの水準に匹敵するものであり、パイロットプラント用遠心機として十分使用しうる遠心機であると認められる。

(2)安全工学研究

 遠心機の地震等に対する安全性を確認するため、破壊試験、振動試験等が行われ、十分な成果が得られている。

(3)関連技術開発

 遠心機駆動用電源、コールドトラップ等、遠心機以外のプラント機器の開発が進められ、この結果、パイロットプラントに必要な関連技術は十分な水準に達したものと認められる。

(4)カスケード試験

 アイディアルアカケードによる第1次カスケード試験及びステップカスケードによる第2次カスケード試験により、ウラン濃縮プラントの基礎となるカスケードシステムの諸特性(濃縮特性、負荷変動特性等)が把握され、パイロットプラントの設計に必要なデータが得られている。

(5)寿命試験

 これまでの寿命予察試験及びカスケード試験により相当な遠心機運転実績が得られている。今後、更に、大規模かつ長時間にわたる運転経験を積む必要があるが、軸受けの改良、その他最近における遠心機の寿命を高めるための種々の研究開発の進展等から判断すれば、所期の長寿命が期待される。

2 パイロットプラント計画の評価

 パイロットプラントを建設・運転する目的は、(イ)実用に近い台数でカスケードを組んだ際の遠心機の性能とプラントの運転条件を確認し、(ロ)相当な台数の遠心機を長時間にわたって運転することによって、遠心機及びプラントの信頼性に関しより精度の高いデータを得るとともに、(ハ)遠心機の製造に関しては、従来の小規模生産の段階から数歩進んだ規模の生産を経験することによって、大量生産への移行の見通しを得ることにあると考えられる。

 従って、パイロットプラントとしては、これらの目的を達成するために必要かつ十分な規模が望まれるが、その際、特に次の諸点を考慮する必要がある。

① カスケードは少なくとも3%程度の濃縮ウランが、実用に近いカスケード効率で連続的に得られるような遠心機台数をもって構成すること。

② 真空破壊による連鎖的な遠心機破壊を防止するため、パイロットプラントをいくつかの隔離単位に分割するとともに、実用工場に必要な運転条件を確認するため数カスケードを並列させること。

③ 短期間に、統計的に高い信頼度をもって遠心機の寿命が推定できるような規模であること。

④ 遠心機の工業的生産をある程度の規模と期間にわたって継続的に経験することができるような規模及び計画であること。

⑤ 建設途中における技術進歩を反映させることができるような計画であること。

 当幹事会は、以上に述べたパイロットプラントに求められる技術的要件に基づき、動力炉・核燃料開発事業団によるパイロットプラントの具体的計画を評価した結果、規模として約50トンswu/年程度のプラントを前期、後期に分けて建設するという計画はおおむね妥当であると判断する。

 なお、後期の建設にあたっては、前期分の建設・運転で得られた経験と遠心機の性能向上のための研究開発等の成果を十分取り入れるとともに、遠心機の量産体制、その他の実用工場への円滑な移行策及び諸外国の動向をも勘案しながら進めることが望ましい。

3 国際競争力の見通し

 濃縮コストは主に遠心機の分離性能、寿命及び製造価格によって決定される。1で述べたように、これまでの研究開発によって、高い分離性能を有する遠心機が開発されており、寿命についても所期の長寿命が期待できる。また、製造価格については、これまで量産に適した加工方法、検査技術等の研究開発が行われており、材料の歩留り向上及び品質保証技術を含めた本格的な量産技術の開発等、今後の課題として残されているものもあるが、工業製品としての遠心機の性格、我が国の工業力等を勘案すれば、遠心機製造価格の大幅な引き下げは十分可能であると考えられる。このように、既に高い分離性能が得られており、遠心機の長寿命が期待でき、また、遠心機製造価格の大幅な引き下げが可能であるので、将来は濃縮コストの大幅な低下が可能であると考えられる。

 一方、濃縮役務価格は国際的に従来の政策的価格から濃縮コストに基づいた市場価格に移行する傾向にあり、年々上昇している。今後もこの上昇傾向は継続すると思われるので、将来我が国が国際競争力のある実用工場を建設・運転することが期待できる。

4 結論

 1で述べたように、これまでの研究開発によってパイロットプラントに進むに足る技術的基盤が確立されたと判断され、また、2で述べたように、動力炉・核燃料開発事業団のパイロットプラント計画はおおむね妥当であると判断され、更に3で述べたように国際競争力のある実用工場が建設しうる見通しが得られていると判断される。

 従って、当幹事会は、昭和52年度から動力炉・核燃料開発事業団において、パイロットプラントの建設に着手することは適当であると考える。

 なお、将来の世界的な遠心機の性能向上に対処するため、遠心機の高性能化の研究開発も引き続き行う必要があると考えられる。

5 パイロットプラント以降の進め方

 ウラン濃縮技術の実用化にあたり、パイロットプラントから直ちに実用工場を建設することは、経済性のリスクが大きいので、本格的実用工場の建設に先立って、実用工場の十分の一程度の実証プラント、又は、実用工場の第一ユニットを建設し、経済性を確認して実用化を進めることが必要であろう。

 その後、実用工場を建設する時期については、我が国のウラン濃縮の需要のほか、米国における濃縮計画、各種国際濃縮事業の見通し及び核燃料サイクルをめぐる国際動向を踏まえつつ検討する必要があるが、昭和60年代の初めには実用工場を稼動させることは可能であると考えられる。

 実証プラント及び実用工場の建設、運転等、その進め方については、ウラン濃縮の特殊性とその国家的・国際的意義に留意しつつ今後慎重な検討を要するところであるが、パイロットプラントを含め技術開発にあたって来た動力炉・核燃料開発事業団のほか、ウラン濃縮の需要者である電力業界、遠心機メーカー等の協力が必要であると考えられる。

 また、我が国において、ウラン濃縮が事業として成り立つための誘因は、必ずしも十分とは考えられないので、ウラン濃縮の安定確保という国家的要請をも考慮のうえ、実用工場が軌道に乗るまでの間、過渡的措置として、国が強力な助成措置を講ずることが不可欠であると考える。

ウラン濃縮技術評価検討幹事会構成員(順不同)
座長藤波恒雄 電力中央研究所常務理事

植村益次 東京大学宇宙航空研究所教授

内田元亨 技術評論家

高島洋一 東京工業大学教授

田宮茂文 濃縮・再処理準備会顧問

山本幸助 通商産業省資源エネルギー庁原子力産業課長

田中久泰 科学技術庁原子力局核燃料課長

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