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東京電力株式会社福島第一原子力発電所の原子炉の設置変更(2号及び3号原子炉施設の変更)について(答申) 51原委第109号
昭和51年2月3日
内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長
昭和50年10月14日付け50原第8643号(昭和51年1月22日付け51原第530号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。 記
① 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号及び第3号については適合しているものと認める。 ② 上記許可の基準第4号については、原子炉安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。 (別添)
昭和51年1月23日
原子力委員会
委員長 佐々木義武 殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄
東京電力株式会社福島第一原子力発電所の原子炉の設置変更(2号及び3号原子炉施設の変更)に係る安全性について
当審査会は、昭和50年10月14日付け50原委第514号(昭和51年1月22日付け51原委第103号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告する。 Ⅰ 審査結果
東京電力株式会社福島第一原子力発電所の原子炉の設置変更(2号及び3号原子炉施設の変更)に関し、同社が提出した「福島第一原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(昭和50年10月8日付け申請、昭和51年1月12日付け一部補正)」に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。 Ⅱ 変更内容
1. 取替燃料集合体の変更
従来、本原子炉においては、初装荷燃料として7×7型燃料集合体を用いていたが、今後、取替燃料については、8×8型燃料集合体を使用することに変更する。 2. 熱的制限値等の変更
8×8型燃料集合体の導入に伴い、燃料の健全性を確保するための熱的制限値等のうち、最小限界熱流束比(以下MCHFRという)には変更はないが、燃料最高線出力密度及び燃料集合体の最高燃焼度に関して8×8型燃料集合体の値を追加する。
また、主要な核的制限値のひとつである最大過剰増倍率を第1回燃料取替以降の炉心について0.13Δk(変更前約0.15Δk)以下に変更する。 3. 制御棒の自由落下速度の変更
制御棒の自由落下速度を0.95m/s(変更前は約1.5m/s)以下に変更する。 4. 制御棒価値ミニマイザによる制御棒価値制限値の変更
制御棒価値ミニマイザによって抑制される制御棒の最大価値を0.013Δk(変更前は0.025Δk)以下に変更する。 Ⅲ 審査内容
1. 8×8型燃料集合体の構造
本燃料集合体は従来から用いられている7×7型燃料集合体と混用できるように構造設計がなされているものであり、その詳細は原子炉安全専門審査会が昭和49年12月25日に採択した「沸騰水型原子炉に用いられる8行8列型の燃料集合体について」(以下8×8型燃料検討報告書という)に記載のものとほぼ同様である。 本原子炉に用いる8×8型燃料集合体の構造設計については、すでに8×8型燃料検討報告書において評価が行われている通りであり、新たに問題はない。 2. 核特性
7×7型燃料集合体で構成される炉心に通常の装荷方式に従って8×8型燃料集合体を装荷して行く過程で生ずる混在炉心及び8×8型燃料集合体のみから構成される平衡炉心において、局所ピーキング係数等に相違はあるが、燃料集合体の無限増倍率、反応度係数等は従来の7×7型燃料集合体の場合の特性と有意な差が生じないことを確認した。 また、最大過剰増倍率の変更は、十分な反応度制御能力があることを確認しており、妥当なものと判断する。 3. 熱水力特性
核特性の検討の場合と同様に混在炉心及び平衡炉心の熱水力特性について検討を行った。熱水力特性上の重要な特性値であるMCHFRは、通常運転時に1.9以上が確保されることを確認した。 また、当該炉心の圧力損失は若干増大するが、炉心定格流量は十分確保でき、特に問題はないと判断する。 4. 制御棒の自由落下速度
本変更は、制御棒の自由落下速度として、従来から用いられていた値1.5m/s以下を0.95m/s以下に変更しようとするものである。この値は、沸騰水型原子炉の制御棒装置を模擬した実験装置による結果に基づくもので、より実際に即し、かつ安全余裕をもった値であるので妥当である。 5. 制御棒価値ミニマイザによる制御棒価値制限値
本変更は、制御棒落下事故を想定した場合に、炉心に与える影響を低減させるため、落下制御棒の反応度価値の制限値を0.013Δk以下にしようとするものである。本原子炉の制御棒価値ミニマイザに内蔵されている引抜き手順に基づき、実際に想定される炉心状態において、最大制御棒価値は0.010Δkを下まわることを確認した。 また、制御棒価値ミニマイザで抑制する制御棒の最大反応度価値0.013Δkは、後述の過渡現象及び事故解析の制御棒落下事故で述べるように妥当である。 6. 安定性
炉心の安定性に影響を及ぼす因子としての核特性及び熱水力特性は7×7型及び8×8型いずれの燃料集合体を使用した場合でも大差がなく、熱水力特性のうち炉心圧力損失及び燃料伝熱時定数は多少異なるが、8×8型燃料集合体の諸特性値は燃焼等に基づく7×7型燃料集合体の諸特性値の変動幅のなかに入っているか、あるいは有意な差がない。また混在炉心及び平衡炉心について、チャンネル水力学的安定性及び炉心安定性の検討を行った結果、いずれの場合においても特に問題となることはなく、さらにプラント安定性についても外乱を与えて解析した結果は十分な減衰特性を持っている。したがって、これらの安定性は混在炉心及び平衡炉心のいずれにおいても問題となることはなく、かつ、キセノン空間振動についても本原子炉の有する出力系数は十分負の値であり、空間振動を抑制することが可能であると判断する。 なお、混在炉心については、前述の検討結果から、安定性が損われる恐れはないと判断されるが、念のため、最初に8×8型燃料集合体を装荷した炉心において、安定性と密接な関係を有する炉心動特性試験を実施し、7×7型燃料集合体炉心で得られる測定結果との比較において、炉心の安定性に影響を与えるような顕著な変化が生じないことを確認することになっている。 7. 過渡現象及び事故解析
(1) 過渡現象解析
本解析では、種々の異常な過渡状態を想定して、燃料被覆管の損傷限界(MCHFR=1.0及び円周方向平均1%塑性歪)に至らないこと、及び原子炉冷却材圧力バウンダリの圧力が最高使用圧力の1.1倍(92.8㎏/㎝2G)を超えないことを確認した。 8×8型燃料集合体の導入による定数変更は7×7型燃料集合体の場合と比較してピーキング係数を除き核・熱・水力特性に大きな相違を与えない。 また、解析方法、前提条件は現時点における適切な知見に基づき、従来にくらべて若干変更しているが、いかなる場合でも前述の2つの条件を十分満足している。すなわち、燃料被覆管の損傷限界に対して最も厳しくなる過渡変化は、再循環ポンプ1台の軸固着であり、7×7型燃料集合体炉心と8×8型燃料集合体炉心の場合について解析した結果MCHFRはそれぞれ1.1及び1.2以上を維持し、燃料被覆管の損傷は生じない。 また、原子炉圧力に対して最も厳しくなる過渡変化はタービントリップバイパス弁不動作であり、7×7型と8×8型燃料集合体炉心の場合、原子炉圧力の最高値はいずれも約80.0㎏/㎝2Gである。 なお、混在炉心の場合も核・熱・水力特性の差が小さいことから問題はないと判断する。 (2) 事故解析
今回、取替燃料の変更と共に解析方法及び前提条件にも各種の変更があったので、これらも含めて万一の事故を想定した場合について原子炉施設の安全性を確認するため再解析を行った。 i) 制御棒落下事故
本解析を行うに際しての主要な入力値は制御棒の落下速度及び落下制御棒の印加反応度である。本解析では、従来と相違して次の値を採用している。 制御棒落下速度は前述した制御棒の自由落下速度0.95m/sである。落下制御棒の印加反応度については、実際に予想されるよりも保守的な落下制御棒価値曲線と制御棒価値ミニマイザによる制限値である0.013Δkの反応度価値を用いている。その他にもスクラム制御棒の全反応度価値及び局所ピーキング係数等解析に当っての入力値に変更はあるが、これらはいずれも従来より詳細な解析及び評価の結果に基づいて変更されたものであり、妥当である。 これらの条件に基づき、最大反応度価値を有する制御棒1本が炉心から落下する事故を想定して解析した結果、一次冷却材圧力バウンダリの健全性は十分維持されることを確認した。 ii) 冷却材喪失事故
冷却材喪失事故時の炉心冷却については、昭和50年5月13日原子力委員会が決定した「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の完全評価指針」に基づいて評価を行った。8×8型燃料集合体における燃料棒の最高線出力密度が7×7型燃料集合体より大幅に低下していることから、8×8型燃料集合体は7×7型燃料集合体と比較して熱的余裕が大きく、冷却材喪失事故時の炉心冷却に関する安全余裕は7×7型燃料集合体よりも大きい。 すなわち、燃料に対して最も厳しい結果を与える再循環系の最大口径配管1本の安全両端破断を想定した場合について解析した結果によれば、燃料被覆管最高温度は7×7型燃料集合体炉心で約1,183℃及び8×8型燃料集合体炉心で約1,082℃であり、また、燃料被覆管の局所的に酸化される部分の最大値はそれぞれ被覆管厚さの約8%と約2%である。 したがって、これらの解析結果は制限値である被覆管最高温度1,200℃以下及び局所的酸化量15%以下を満足すると共に、燃料の大破損を防止でき、かつ、長期的な炉心冷却を確保することができると判断する。 なお、混在炉心の場合でも、核・熱・水力特性上有意な差がないことから事故後の炉心冷却に支障をきたすような事態は起らないと判断する。 iii) 主蒸気管破断事故
冷却材喪失事故の場合と同様主蒸気管破断事故時にも8×8型燃料集合体は7×7型燃料集合体の場合と比較して熱的余裕が増加している。 主蒸気管1本の瞬時完全破断を想定して解析を行った結果によれば、7×7型燃料集合体炉心と8×8型燃料集合体炉心のいずれについてもMCHFRは事故期間を通じて1.0以下となることはなく、燃料被覆管に損傷が生じる恐れはないことを確認した。 なお、混在炉心の場合でも核・熱・水力特性上有意な差がないことから問題はないと判断する。 Ⅳ 審査経過
本審査会は、昭和50年10月15日第141回審査会において審査を開始し、同年11月19日第142回審査会、同年12月12日第143回審査会、及び昭和51年1月23日第144回審査会において審査を行い、本報告書を決定した。 | ||||||||||||||||
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